COSMOS SERVANT

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1:ミングル:2009/11/20(金) 16:53

こんにちは!
創作板の「皆で小説書こう!」というスレからやってまいりました。
そのスレを見ていただければわかってもらえると思うんですが、
結構いろんな人の思いが詰まった小説で・・・
やっと執筆に入れると思うと、涙ものですねぇ・・・

詳しくは、創作板のスレと併設している「まとめなブログ」を見ていただければ
大体わかっていただけると思います。
そちらを見ていただいてから小説を読めば、何倍も面白く・・・なったらいいな。
ゆくゆくはスピンオフ等で皆さんの協力もいただくことになるかもしれませんので
どうか末長いお付き合いを・・・
よろしくお願いいたします。

では、COSMOS SERVANT本編スタートです。

2:ミングル:2009/11/21(土) 12:53

「全ての生命は、この星のための捧げものである」旧・サーヴァント教全書、第一文
「全ての生命と共に、星もまた生きている」新・サーヴァント教全書、第一文

やぁやぁ、よく来てくれたね。あぁごめんね、散らかってて。まぁ座って座って。
 手紙は読んでくれたよね?そうそう、君にはこれから、オーディタウンに行ってもらうんだ。
この国、マナ・ロートの第4魔法学校がある町さ。
 宗教革命から200以上経った今でも、あそこにはその資料が多く残ってるからいい勉強に・・・
おいおい、もう準備するのかい?
少しくらい話でも聞いて行きなよ。はい、紅茶もいれてるから。

 で、どこまで話したっけ?あぁそうだそうだ。一つ質問してもいいかな?
君は、自分が星によって生かされてると思う?
それとも、ただ君の人生の舞台がこの星だっただけかい?
 難しすぎる質問かな?
もともと正解がない質問だからね。そんなに考えることもないよ、今さらね。

でもこれが、この質問が、世界を巻き込む宗教革命につながったわけだ。
人の命を命とも思わず、星に忠を尽くし過ぎた旧教の考えは確かに正しいとは言えなかった。
ただ100%間違いかと言われるとそうでないかもしれない。
 私たちが飲む水も、踏む土も、見上げる空も星の私物だと言える。そうだろ?
だから、新教にも旧教の考えの一部が根付いているんだ。
旧教の良い所も悪い所も見境なしに切り捨ててしまわずにむしろ、そこからも学ぶべきものを吸収する。
革命軍の優れた所はそこだったんだ。

 おっとすまない。話が長くなったね。学者の性ってヤツかな。
そろそろ準備してオーディタウンに向かってくれ。首都からは遠いからね。
長旅は嫌いそうだけど、頑張るんだよ。

 あ、そうそう。オーディには僕の実家があるんだ。家族もいるしね。
僕によく似た娘も。もし会ったら、よろしく言っといてくれ。
 じゃあ、僕は研究に戻るよ。
いつになるか分からないけど、次に会った時はまた紅茶でもしよう。
旅の幸運を祈るよ。

3:撫子:2009/11/21(土) 22:54

続きが読みたいなー★
面白くなりそう!!

楽しみにしてまーす♪♪

4:ミングル ◆SMBU:2009/11/30(月) 22:36

 今日が出発の日か。
 よかったよ、間に合って。もう当分会えないかと思ってた。
 今日が最後だね。
 お兄ちゃんにはお別れをちゃんと言ったかい?
 照れくさくて言えないんだろうけど悲しんでるだろうよ。
 
 道中は暇だろうから、この本を貸してあげよう。
 本は好きだったよね?よかったよかった。また帰ってきたら返してくれ。
 宗教革命の直後に出された本だ。あんまり有名じゃないけどね。
 考えさせられる事も多いと思う。
 君が生きる意味とか、ね。
 旧教の時代には星のために生きていれば良かったから、そんな考えはなかったんだ。
 どうだい?考え付くかい?じゃあ次に会うまでの宿題だ。ゆっくり考えておいで。
 
 さぁ、馬車もお待ちだ。
 気を付けて行っておいで。
 あ、僕の実家?そんなに気になってたのかい?
 小さな教会、とだけ言っておこうかな。
 僕によく似た娘がいるから簡単に見つかると思う。
 娘の年?君が14才だから・・・えっといくつかファイの方が年上だね。
 あぁ、そうそう。ファイっていうんだ。
 楽しみにしておいてごらん。
 
 向こうで困ったら君のお兄ちゃんの名前か僕の名前をだすんだよ。
 お兄ちゃんの方が全然いいかな・・・
 あぁ、僕のフルネーム?
 ラヴィオリ・パネトーネ。魔堂院・歴史局の局長、ね。         
 

5:ミングル ◆SMBU:2009/12/12(土) 22:53

プロローグ
マナ・ロートに来た皆さんへ。

これは僕だけのお話じゃなくて、みんなのお話です。

 何においても主役というのは大事だと思います。
 たくさんの人たちがいる、この世界では誰もが主役になろうと立ち回
っています。自分の周りの狭い世の中で精いっぱい目立とうと振舞って
います。でも今日は主役になれても、明日は主役を取られたりいい役を
取れなかったり・・・
 その時時によって「主役」は時計の針のようにクルクル回っているの
です。
 僕の所に針が回ってきたら僕がその日の主役。針が過ぎていってしま
えば、主役の座はゆずって付合せのサラダや食後のデザートとして振舞
わなければなりません。
 
 そういう意味で、これは主役がクルクル変わっていくお話です。
 読者のみなさまは、主役の水際立った華やかさと、脇役たちの出すク
セのある妙味を、両方ともよぉく味わってください。
 では僕は全校集会があるので失礼しますね。
                  マナ・ロート国立・魔法学校パレット第四校舎代表
                    グラニット・ギュールズ・リーテ

・・・・・・あぁ・・・・緊張したぁ・・・・・

6:ルナリア ◆E2Ts:2009/12/19(土) 23:35

 ここ、魔導院には不思議な部活がある。
 部室はどこの部よりも広いのだが、位置的に隅に追いやられているせいでひとけが無い。
 実際、この部活はもともと人気が無かった。
 というのも、この魔導院には『住民課』という課があり、そこではマナ・ロートにすむ住民の依頼を受けている。
 住民課自体は魔導院を卒業した魔法使いなどで構成されている職なのだが…どういうわけだか近年になって依頼が殺到し、住民課だけでは処理できなくなった。
 そこで設けられたのが、『住民課補助』という部活。
 補助というだけあってたいそれた事業はせず、大抵は雑用。
 「魔法万時(まほうよろず)部」という名前もつけられたが、何千人もいるこの魔導院で万時部に入ったのは、たった五人だった。

 そんな雑用係りの魔法万時部では、いくつか依頼が来ていた。
 依頼書をさばく役は、副部長のトキ・マウルブロン。
 彼は普段無口なので、託された役に愚痴をこぼしたことは無い。でも心の底では面倒だなとか思っているかもしれない。
 依頼書そのものは意外と簡略に書いてあるが、依頼が来ない日もあれば一日に十件以上来ることがある。今日は依頼が多い日だった。そんな依頼書に目を通すことに、面倒を感じないとは言いきれない。
 二十分くらいして、トキは一通り依頼書に目を通した。
 疲れたと言う感じに革張りのソファに体を預ける。高級な革張りだったということに気づいてあわてて身を起こす。
 このソファは部長のイチホが持ってきたもので、初めてこれをもってきた(正確には持ってこさせた)とき部室は騒然。だが部長は
「遠慮せず座ってね。どうせぬす…もらったものなのよ!」
 異端な存在でもある天狗のイチホは、ちまたでは泥棒やら撲殺やらの悪い噂が立っている。しかし、部員はそれを責めたこともないし、もはや何を持ってきても慣れてしまっている。
 だが、やはり革張りの高級なソファというのは、どうも心が落ち着かない。
 しかたなく、さっきまで依頼書を読んでいた席に戻る。依頼書のうち四枚は、同じ内容だったことを思い出す。
「リオンが適任だな」
 こうして、魔法万時部の部活動が始まっていく。

7:ルナリア ◆E2Ts:2009/12/20(日) 11:01

>>6
 依頼内容は『村の不作をどうにかしてくれ』
 場所は魔導院の南東に位置するアズライルだった。
「はぁー、遠い」
 部員として派遣されたリオン・セベリアはため息を吐きつつ、トキに渡されたアズライルの情報に目を通す。
『アズライルは農作物の村として有名な町だ。町の中心部にいくつか川が流れているのだが、源流は北で、魔導院からは東にあるルナの森からだ。
 森の中心であるルナの樹には、毎日のようにルナの森育ちの者が波動を注ぐ。その波動がまれに水に溶け出し、下流に当たるアズライルの農作物の肥料となっていた。
 そのため、土はいつも肥え、水はきれいで農作物を作るにあたって困ることなど何一つ無かった。
 だが、この三週間ほど作物の実りが悪いらしい。土は肥えず水も心なしかにごり始めている。この調査と解決が、今回の部活動だ』
「知ってるんだけどなぁ。僕」
 トキの作る情報書は読みやすいしわかりやすい。しかし、知識人のリオンにとってはあまり意味が無かった。
 それどころか、リオンは人脈により既に先週からアズライルの作物の育ちの悪さについて知っていた。もちろん依頼でもないので動く気も無かったが。
「まぁ今回は依頼だしねえ」
 ひとり呟くリオン。アズライルまでの道のりは、まだまだある。

8:ルナリア ◆E2Ts:2010/01/03(日) 11:18

「よく来てくれたね、草魔法使いさん!」
>>7
「あら、魔堂院の人?期待しているわよ」
 アズライルの町に着くたび、歓喜の声が寄せられた。歓喜の声は珍しくないのだが、たいして顔も知られてないのに即座に声をかけられるのは、やはり草魔法使いの特徴でもあるポケットのたくさんついた服が目立つのかもしれない。
 草魔法使いは基本的に『種』を使って魔法を使う。だから種を蓄えるポケットは必須なのだ。
「やあ、久しぶり。情報屋さん」
 リオンはアズライルにいる知り合いの情報屋を訪ねた。
 何か依頼があるたび、リオンは町の情報屋を訪ねる。ただ、情報屋といっても組織だったり個人だったりと町によってさまざま。
 アズライルには周囲の家になじむ小さな小屋が一つ。そこに住むリオンと同世代の少年が、アズライルにいる情報屋だった。
 情報屋の住む小屋の扉を開け、あいさつをする。
「やぁ、情報屋」
「屋とかいうなよ、リオン。別に経営してるわけじゃないんだ」
「でも君ほど情報をくれる人はいないよ。ありがとう」
「相変わらずリオンは礼儀正しいな。まぁいい、今日は依頼ついでに魔堂院の情報をくれるんだろ?」
「まぁね」
 こうしてリオンは情報の対価に情報を交わす。
 リオンは知識人でもある一方、情報に敏感だ。それゆえ、万時部に入ったとも言われてる。
「―――情報をありがとうなリオン。次は依頼遂行か?」
「うん。まぁそれが部活動だしね」
 そう言ってリオンは情報屋がいる小屋を出ようと扉に手をかける。しかし何かをふと思い出し、情報屋のほうに振り向いて聞く。
「今日はトナッシュいるかい?」
「トナ…ああ、鍛冶屋やってる気の強い女か。いつも通り鍛冶屋にいるはずだ」
「ありがとう」
「ん、寄るのか?」
「いや、今日はいいよ。じゃあね」
 改めてリオンは扉に手をかけ、外にでた。向かう先は、依頼者のところ。

9:ルナリア ◆E2Ts:2010/01/04(月) 16:42

>>8
 リオンは依頼者に出会って、依頼者の畑でだいたいの作物を活気づけた。
 トキの情報書どおり不作の異変はアズライル全域ではなく、一部の畑のみだったのが幸いした。リオン一人でアズライルのすべての畑を回れるほどアズライルは小さな村でもない。
 そして一通りの畑の作物を活気付けたあと、原因となる場所へと向かう。
 原因自体はリオンでなくてもわかることだった。
 水が悪ければ、土も痩せ作物の成長が悪くなる。そして水はルナの森の波動が溶け出して畑の養分となっているはずだから、その養分が失われているということになる。
 となると、ルナの森かその途中の川に何かあるということになる。
 もしルナの森に異変があるとするならば、養分そのものが失われているハズ。でも一部の畑にしか異変が無かったので、養分は部分的に失われているだけ。
 結論として、ルナの森とアズライルの中間にある川に『何か』があるということになる。
「魔力を吸うような何かか…僕一人で大丈夫かな」
 アズライルに流れる川沿いを上りながら、そうつぶやくリオン。
 魔力が失われるということは、何かが魔力を吸っているという可能性が高かった。吸うモノは人間とかモンスターとか何かの亜種とかなんでもいるのだが、それを魔堂院のいち生徒であるリオン一人が処理するというのは、ちょっとした難題だ。
 とはいえ、基本的にそんな難題を生徒にやらせるほど住民課はずさんでもない。あくまで依頼書に目を通した上で補助である万時部に依頼を回すため、だいたいは今回の『何か』の存在まで把握し、考慮したうえで依頼を回す。
 ただ、まれに住民課でも想像できなかった厄介な依頼が来ることはあった。しかしそれも三ヶ月前の依頼「私の犬を探してください」の犬が異常に強かったという一軒だけである。
「大丈夫」
 リオンがそのことを再認識していると、リオンの考えどおりの『何か』の影が見えた。
 遠目でよくわからないが、かすかに動いている。
 というか、食事している。
「人、か」
 川を上ってきたときと変わらない速度で『何か』にリオンは近づく。ただ、警戒はしておき腰のポケットから一つだけ種を取り出しておく。
 リオンが持つ草魔法は、主に魔法による儀式を行った『種』を使う。リオンがポケットから取り出した種は、強力なツタを出して相手の動きを封じるものだ。
 そして、『何か』である人影に近づいていくと、それはリオンに気づいたようで、食事をする手を止めた。

10:ミングル ◆SMBU:2010/01/05(火) 12:58

お久しぶりです!読者のみなさん、お楽しみいただいているでしょうか?
今からルナリアsの小説と同時進行で別のお話を書きます。時間の系列が分かりにくくなると思いますが、二つともお楽しみください。
リオン君にアズライルからの依頼が来る少し前の話です。

 全校集会の朝、グラニットはいつもよりずっと早く学校に来ていた。というより、いつもの自分からすると明らかに早すぎとも思えた。
「まだ誰も来てないんじゃないかなぁ」眠たい眼をこすりながら、普段は歩かない廊下を小走りで進む。窓から漏れるクリーム色の朝日がグラニットの赤い髪、廊下の青いカーペットや壁の細かい装飾を包み込むように照らす、暖かい朝だった。
 今回の全校集会では、環境委員が集会場の準備を担当していた。部活と両立できるか不安になりながらも興味があった環境委員になった彼は、初仕事である今日の全校集会の準備に張り切っていた。
 いつもでは考えられない時間に起き、通学路を走りながら朝食を食べた。そこまで自分の環境委員としての初仕事に気合を入れてきたのだが・・・

 集会場の扉が開けられていた。「あれ、もう誰か来てるの?」中を覗き込むと荘厳な集会場が現れた。
 ただでさえ吸い込まれそうに巨大な集会場だったが、規則正しく並んだおびただしい数の椅子や、教員席の横に置かれた水瓶、その中に生けられた立派な花がより一層その雰囲気をつよめていた。
「えぇ?これ卒業式?」普通の全校集会とは思えない手の行き届いた準備にグラニットはしばらく言葉を失った。
「あ、おはよ。環境委員の子?もうすぐ終わるから教室行っといていいよ。ありがと」と横から声をかけられた
 環境委員長ファイ・パネトーネだった。
 数千人の全校生徒の中で知らない者はいない「生徒会執行部」の一員であり、パレット第四校舎の「三大マドンナ」の一角を担うほどの容姿をもつ彼女。
 彼女自身はマドンナの肩書を謙遜しつづける性格だったが、その流れるような金色の髪や磨かれたように輝く瞳は誰が見てもマドンナに相応しい。
 教会の娘という事もあってか正に天使と見紛う姿、しかし背丈の低い彼女からは子供のような愛嬌もあった。
 常にその身から光を発しているような神々しさと同時に少女らしい可憐さも持ち合わせていた。
 間近で見るのはこれで三回目だったが、その気品のある様相の前では初対面のように緊張してしまう。

11:ミングル ◆SMBU:2010/01/10(日) 12:10

「え、もう終わっちゃったんですか?」相当早くに学校に学校に来たつもりだったのでグラニットは驚いた。
 いや、確かに早く来たのだ。いつもより二刻も早く家を出た。もっともいつもは遅刻ギリギリに来るのではあったが。
 「あとちょっとかな。いいよ、私たちで終わらせとくよ?」そう答えた委員長の額には、よく見ると汗が光っていた。
 集会場を見渡せば、環境委員の生徒達が何十人もいた。おそらく自分以外の全ての委員が集まっていたのだろう。非常に申し訳ない気持ちになった。本来なら全員の前で謝るべきなのかな、とグラニットは考えた。しかし、それと同時に環境委員に入ってよかったとも思った。こんなに早くに学校に来て委員そろって集会場の準備が出来る環境委員が何故か誇らしく思えた。自分が唯一の遅刻である、という事も忘れて環境委員である事が光栄だった。

「あと何が残ってるんですか?」最後は僕の仕事です、という言葉を付け足そうとしたが流石にこじつけ臭いと思ったのでやめておいた。
 「ううん……あ、演台が出てないかな」額の汗をハンカチで丁寧に拭いながら答える委員長を見ると、また申し訳ない気持ちがこみあげてきた。委員長が遅刻してきた自分を責めないので、余計に使命感が強くなった。
 「じゃ、それだけでも任せてください!」「あぁ、待って待って!」走りだそうとしたグラニットを委員長はとめた。「男の子もいるんだし、あれ重たいから女の子に任せるわけには……」
 そこまで委員長が言いかけたところでグラニットは大きな咳払いをした。「んっ!んっ!んん」不思議そうな顔をした委員長を見て言葉を続ける。「えっと、見えないかもしれないですけど……僕、男ですよ?」
 「え…?あれっ嘘?」
 「昔から何回かそういう事ありましたけどね……」
 「いやっそういうつもりじゃなかったんだけど、あの」
 目を丸くして弁解する委員長よりも、たしかにグラニットの背は少しだけ低かった。

12:ミングル ◆SMBU:2010/01/21(木) 18:26

「……へぇ、そんな早くから?」「あれ椅子だけでも一刻くらいかかりますよねぇ」
 結局、他の委員に協力してもらい演台を出したグラニットは教室ではなく万時部の部室に来ていた。今日は授業があるわけではないので鞄を置いておくだけの場所としては部室の方が集会場にも近く都合がいい。……という事だけが理由ではなく副部長のトキがいるだろうと思っていたから、というのが一番だ。
 面倒見がよく、寛容なトキはグラニットが最も慕う先輩の一人と言って間違いない。誰から見ても覇気をほとんど感じないような目をしており、無気力な第一印象を与える人物だったが、あらゆる局面で頼りになるという事をグラニットは彼との付き合いの中で知っていた。

「俺も環境委員入ればよかったな」「そうですよぉ、トキさんもくればよかったのに」「……ん?……まぁ次は考えとくな」
 軽いノリで言ったつもりだったが、本気で残念がっているグラニットを見てトキは少し口元がゆるむ。
「お前、コーヒー飲む?」「あ、飲みます飲みます。甘くしてくださいね」「オッケ、甘く、な」
 まだ新しいエスプレッソマシンでコーヒーを淹れているトキの表情はいつになく真剣だ。これを部長のイチホが部室に持ち込んだ時、トキは珍しくどこから持ってきたか尋ねなかった。知り合いの喫茶店からもらってきたらしいが、そんな事に興味はない、と言わんばかりに子供のような目でただ機械を見つめていたのをグラニットは覚えている。トキのコーヒー好きを知っていたイチホも普段は毛の先ほどの光も宿らないトキの目が輝いていた事には驚いたようだ。

「にしても、それはそれは信頼されてる人なんだな。環境委員長ってのは」「いい人ですよ、優しいし。けどね……ぁ、……やっぱいいです」「やっぱいいのかよ」
 女に間違われた事は言わない事にしておいた。言うのも恥ずかしいからだ。
「んで、こんぐらいでい?」「あ、もうちょっと砂糖入れてください」「これ以上入れたらもうエスプレッソでもなんでもないだろ……」
 たっぷりの砂糖とミルクによってすっかり子供好みの味に仕上がっていくのを、グラニットは満足そうに眺めている。

「そうか、お前また女に間違われたな?」「!!……いいや?別にグラニット‘君’て言われましたけど?」「当たってんな。髪切ったら?長いって、やっぱ」「ちがっ、間違われてないですって!」
 炎を思わせるグラニットの束ねた髪は確かにほどくとかなりの長さになりそうだ。加えてこの国立魔法学校‘パレット’ではシャツとブレザーは制服として指定の物があったが、それ以外は決められていない。男子も女子もそれぞれ思い思いのコーディネイトをある程度許されていた。つまり女子にスカートの着用義務がないのだ。
 それがグラニットの不満でもあった。
「……もう、女の子はスカート履いてよ……」
 

13:ルナリア ◆E2Ts:2010/01/22(金) 12:26

>>9
「なんだい?」
 リオンが『何か』との距離が二メートルほどになったとき、あぐらをかいていたそれは発言した。
 改めてその『何か』を確認すると、髪はボサボサ服はボロボロ、先ほどまで食していたと思われるものは食用の草。
 明らかに浮浪者のたぐいだとリオンは思った。
「いきなりで失礼します。質問してもいいでしょうか」
「言わなくてもわかるさ。『魔力を吸い取っているものを知らないか』だろう」
「ご明察の通りです」
 浮浪者は少しだけ黙って、逆に質問した。
「その前に一つ聞こう。捕らえるのか?その魔力吸いを」
「いいえ、解決が僕の仕事です。仮に原因があなただったとしても、退いてくれれば捕らえもしません」
「へぇ…」
 リオンにはこの浮浪者が原因だと気づいていた。
 おおよそここで生活しており、魔力供給に川を使ったのだろう。
「まぁ、大体は君の考えている通りだ。俺はここで数日間生活をしていた。その際魔力も吸った」
「そうですか、では…」
 リオンが言い切らないうちに、浮浪者は着ていた服の袖をまくった。すると、魔法を使う者が持つ紋章ともいえるアザが見えた。
 だがそのアザはリオンの知っているアザとはいろいろと形状が違った。
 火魔法なら火魔法用のアザ、草魔法なら草魔法のアザがある。だが、浮浪者の見せたアザはそれのどれにも似ていなかった。
「この特殊なアザはある魔法を使うためのものだが、異常に魔力を食うのさ。それで、たまたま見つけたこの川を利用させてもらった」
「あなた…何者なんですか?」
 そのアザを見た途端、リオンのなかにある一つの欲がかきたてられた。知らないものが存在する、それだけでリオンには十分だった。
 無論、知らない物を持つ者という存在は、一言で済ませられる。
「旅人、だな」
 リオンはその存在に心惹かれた。
 旅人の存在を知らなかったわけではない。だが、知らないアザを所有し、自分が知らないことをたくさん知っていると思われるその存在が目の前にいる。
 知識欲に関して人一倍なリオンにとって、もはや依頼などどうでも良くなってきていた。
「教えて下さい!そのアザは、なんていう魔法なんですか?」
 リオンの知識欲による豹変ぶりに、旅人は一瞬不審な顔をする。だが、アザについて聞かれるのも慣れっこなのか、すぐに答えた。
「教えない」
「なぜ?なぜなんですか?」
「なぜって…」
 ここまで食いつくのも珍しいと旅人は思った。
 奇妙な話だが、リオン本人にはこれくらい知識を追い求める事が普通だと思っている。だから食い下がる事は一切しない。
 だが旅人にもアザについて話せない事情があり、リオンの関心をそらすように、アズライルの方を向いて右――つまり西方の――グランツ砂漠のほうを指差し、こう言った。
「俺は向こうの広大な砂漠を超えてやってきた。砂漠を越えると海があり、それすらも渡ってきた。魔法使いの少年、お前が俺に興味を持つなら、俺が来た道をたどってみろ」
 リオンは旅人が指差した方向をじっと見ていた。
 そのまなざしは、きらきらと輝いていた。

14:ルナリア ◆E2Ts:2010/01/22(金) 13:19

>>14
「ただいま。今さっき終わりました」
 リオンが万時部の部室に戻ったときには、既に日が暮れ始めていた。
 依頼を遂行したらトキに報告するのがいつものことなので、リオンはアズライルまで遠い道のりを来たにもかかわらず、また引き返し、魔堂院にある万時部まで戻らなければならなかった。
 無論、そんな長い距離を馬車が通らないはずもない。だから馬車で行けば一時間とかからないのだが、馬車はお金がかかるため、今回はオミットしていた。
「お帰り」
「トキ先輩、今回のは遠出すぎますよ」
 もともと無口なトキ。必要なことは必ず言うが、あまり依頼遂行についての詮索はしない。
 そのおかげか、口さえつぐんでおけば依頼中に何の寄り道をしたとこでとがめられる事はない。要するに自由奔放だった。
「だがお前が適任だったさ。アズライルに行く手間が省けたろう」
「…皮肉ですね」
「そうか?」
 だが事実だった。近日中にアズライルの情報屋に会わなければいけなかったので、物はついでと言う感じだった。
 それに、引き受けたのはリオン自身なので、あまり責めることも出来ない。
「だいたいリオン。お前、今回大きな『収穫』をしてきただろう」
「…相変わらず、トキ先輩の勘は鋭いですね」
「妙な気は起こすなよ?」
「わかっていますよ。僕だって一応は草魔法使いの代表として魔堂院に通っています。卒業するまで、何も出来ませんよ」
 逆に言えば卒業したら何をするのか解らないのだが、そこまでトキは聞かなかった。
「そうか」
 トキは自分が座っている革張りのソファから席を立ち、事務処理用の机においてあった書類をリオンに渡す。
「報告書はお前が書いとけ。俺はもう帰る」
 報告書とは、依頼を遂行した際に『遂行しました』ということを伝達・証明するための紙。
 普段はトキが書くのだが、なぜか今回はリオンに渡された。
「…わかりました」
 面倒だが、別に書くのは嫌いじゃない。そう思いつつ、トキが部室を出たあと、リオンは報告書に今日のことを簡潔に書いた。

"作物の不作は川の魔力切れによるもので、原因はアズライルとルナの森の中間に住み着いた旅人によるもの。
 話し合いの結果、退去させることに成功…

 そこまで書いて、リオンは再び旅人の言った事を思い出した。
 砂漠を越えると海があり、その海の向こうには自分の知らない大陸がある…卒業したら、必ず旅にでよう。
 そう考え、リオンは報告書に最後の一言を足した。

 …そして、旅人の存在は、世界の広さを証明する"

15:ミングル ◆SMBU:2010/02/14(日) 18:13

>>12
砂漠に注がれるまばゆい陽光がオアシスの湖に反射する。跳ね返った光は散り散りになってオアシスの町の風景に溶けていく。
 砂塵を含んだ風が躍る砂漠地帯。昼夜の温度差が激しい砂漠では、これから月に変わって太陽が砂上を支配する時間がやってきた。
 そんなオアシスの町、デシュリアには朝から鉄と鉄とがぶつかりあう金属音が響いていた。不規則に発される鋭い音に町の人々は毎朝起こされるのだが、それを迷惑がる者はいない。
「あ、今日もやってるやってる」
「相変わらず仲がいいねぇ」
 小気味良い金属音はこの町においては新たな一日の到来を告げる小鳥の声のような役割を果たすのだ。
 
その音は、毎朝のように棒術の稽古に励む親子の高速の攻防によって生み出される。
 張り詰めて引き締まった容姿の娘の方は腰を低くして構え、近付けば押し潰されそうな闘気を、長く滑らかな腕に、脚に、柔らかい黒髪の先にまでみなぎらせている。棒をまっすぐに構えた姿からは、凛とした美しさの奥にある、群れの頭に戦いを挑むトラのような気迫がひしひしと伝わってくるようだ。
 一方で父の方は、対照的に棒立ちのまま体全体の力を排し、棒にも手を添えているだけで強く握っていない。風に溶け込むように空虚である。しかし隙だらけというふうにも見えない。何もせずに立っているだけのようにも見えるが、娘から絶えず放たれる闘気をしなやかに受け入れ、受け流しているようだ。
若く活力にあふれる娘と壮年で気質の丸くなった父との戦い方の差は構えにもよく表れている。

16:ミングル ◆SMBU:2010/02/17(水) 23:07

 「ふっ!」
娘が鋭く息を吹きだし、雷光の如く父との距離を詰め、大きく踏み込んで渾身の力を込めて棒を突き出す。常人ならばかわすどころか反応する事も出来ようもない速度のその切っ先を、父は最小限の動きで冷静に横にはじいた。棒の軌道を大きく変えられよろめく娘だが、そのまま踏みとどまって、息をつく間も与えず棒を大きく横になぐ。しかし切っ先は空を切るだけ。体制を低くして棒の一撃をかわした父は、娘の方に滑るように一歩踏み出し彼女の腹を穿つように突き上げた。
 口を“あ”の形に開けたまま、娘の体は地面に崩れ落ちる。地に落ちる美しい小鳥のようにあっけなく倒れる様を見て父は眉をしかめた。しかしすぐに娘は立ちあがる。挑発するような不敵な笑みを浮かべて。

「出来るようになったな」そう言って父は少し口を釣り上げた。娘の成長を誇るように少しだけ。
「今朝はこんなところにしておこう。でないと学校に……」父はみなまで言い終えず、風を貫くような一撃を体をひねってかわす。
「学校に遅れるぞ?」そう言いながらも父はまた棒を構えなおす。娘の眼光は未だ切り裂くような殺気を宿らせていた。
「勝ち逃げとか、どうかと思……」娘の黒髪がふわっ―――とゆれる。次の瞬間―――

「ふっ!」娘は腰の位置にあった棒を一気に頭上まで大きく振り上げた。風を切る轟音がその稲妻のような速さを物語っているが、それでもまだ父の体をとらえることは叶わない。

その後も高速の攻防は続いた。次々と金属質な快音が生み出される。
矢継ぎ早に突き出され、ぶつかりあう棒。娘の風の如く速く、直線的な棒術と、父の風の如く流麗で流れるような棒術が音を立ててしのぎを削った。

「イッちゃぁん!何時だと思ってんの!」
稽古を終わらせたのは町中に響き渡りそうな大声。親子は手を止めて、はつらつとした声の方へ振り返る。褐色の肌の女性が小走りにこちらへ走って来ていた。

17:ミングル ◆SMBU:2010/02/26(金) 20:20

 その長く黒い髪は無造作に後ろで一つに束ねただけ。砂塵の風に構いなくなぶらせている。年は娘よりも少し上だろうか。涼しげな蒼の服を着ているが、走りながら揺れる肩が右だけ露わになっていた。走ってくる途中で、はだけたという風ではなく、灼熱の砂漠を生きてきたこの町の人々の民族衣装のようだ。

「何時ぃ!?」
イッちゃんと呼ばれたのは娘の方だろうか。こちらも町の全員に聞かれてしまうような声で聞き返す。
「遅れるよ!」褐色の肌の女性は、答える代りに短く言った。
引き締まった目尻や柔らかで流れるような黒髪。容姿は娘とよく似通っている。が、娘より幾分も大人の雰囲気を纏っていた。加えて、娘の肌は透き通るように白く、女性の肌は若い船乗りのように日に焼けている。その点では、二人の違いは明確だった。

「ご飯置いてるから。それ食べて早く行くんだよ?」
息も落ち着かぬまま、女性は娘に言い聞かせる。言い終えた後、娘の額をピン、と人指し指で弾いた。
「んっもう、分かった」
次は娘が小走りで走り出す。長い稽古の後なので、その足取りは重々しかった。

18:ミングル ◆SMBU:2010/02/26(金) 20:22

「稽古はいいけど、もっと早く終わってくれない?」眉間にシワを寄せて、女性は娘の父に不満をぶつける。
「今日はイチホの方から続けようと言っ……」
「断ってください」
言葉を遮られた父はバツが悪そうに下を向いて頭を掻いた。顔を上げると、すでに遠くまで走っていた娘が、こちらに向かって何か叫んでいる。

「母さぁん、朝ご飯何ぃ!?」
「早くしなさい!」
イチホという娘の姉にも見えるほど若々しい母がもう一度、彼女を急かした。
 しばらくして娘の姿は黄土色の町に消えていった。せわしないその背中を見送った二人は同時に小さくため息をつく。

19:ミングル ◆SMBU:2010/02/26(金) 20:23

「……どっちに似たんだかなぁ」
「顔は私よね、耳以外」
「なら、いい女になってくれるな」
「ふふっ」
幾年かの歳月を寄り添って歩んできた夫婦の、心地よい沈黙が広がる。二人は目こそ合わせないものの、同じ思いに浸っていた。若い力、イチホへの期待に。

「性格は若い時のあなたにそっくり。負けず嫌いで、強引で」
「……“コタロウ”の血は、継いでほしくないんだが……」
父はかつての自分と未来のイチホを重ね合わせ、もう一度ため息をついた。

砂漠の空には、ひたすらに眩しい太陽と、塗り重ねたように蒼い天だけがある。
「じゃあ、ご飯食べようか」妻がそう言うと二人は歩きだした。

20:ミングル ◆SMBU:2010/04/01(木) 22:44

お楽しみいただいているでしょうか?
COSMOS SERVANT。
今のところ、完成されたお話というのはルナリアsが書かれた分だけなのですが
これから僕も一つお話を書かせていただきます。
今まで僕が書いてたのは……置いといて(笑
これから、始めて書くつもりでやりますので
皆様も知らん顔で通り過ぎるもよし、ちょっとだけ立ち読みしていくもよし
レジに持っていってやっぱりやめとくもよし、図書カードでのお買い上げもよし、です。
初対面の小説と上手い事付き合って下さいませ。
もちろん読んで下さる方が一番ありがたいんですが……

これから書くのは、「全校集会編」という事で、まぁ導入編でしょうか。
 安定が築かれつつある世界で、新時代を担う若者たちを描くファンタジー……
という肩書でお送りするポップな「全校集会編」。
構成力がないのにオムニバス形式にしてしまって、
分かりにくい所も多々ありますが、できるだけ分かりやすく頑張ります!
あ、興味を持っていただければ創作板のスレやまとめなブログにも来てくださいね。
「皆で小説書こう!」スレの>>154にブログのURLがありますので。
ではポップな「全校集会編」スタートです。

21:ミングル ◆SMBU:2010/04/01(木) 22:55

「ううん……張り切っちゃったなぁ……」
 うつらうつらの眼で見る早朝の街並みは眩しすぎる。クリーム色の朝日が茶色いレンガに当たって、グラニットの眼を突き刺してくる。
 今朝は早く起きすぎた。環境委員としての全校集会での仕事を意識しすぎた。いつもでは考えられない程早くに家を出てきたのだが、気持ちだけが先走ってしまっている。彼の小柄な体の方は気持ちに引きずられたままで、朝陽に照らされた通学路を歩かされているだけだ。
 はっきりしない意識の中で、グラニットはなんとなしに髪を触ってみた。
 「あれ?ゴムないぞ……」
 家からある程度離れたところで、自分の髪を結っていない事に気付いた。女性的なほど長くしなやかな赤髪が、洗いざらしのように垂れ下げられている。首の後ろの毛先の感触が急にくすぐったく感じられるようになってきた。
 「えっと、帰ろうかな……。学校でゴム借りちゃおうかな……」朝の明るい街並みに立ち止まった。
 
彼の火の赤色をした長髪と赤い瞳は、いわば「名家の証」。様々な文化圏をまたぐマナ・ロートにおいても極めて珍しい色だ。そして、彼が“グラニット・ギュールズ・リーテ”である事を表す色でもある。
 
「保健室にあるかな……。仕事が終わったら借りに行こうか……」気抜けで未だに舌が思うように回らないまま、もう一度学校へ歩き始めた。時々鳥の鳴き声の聞こえる晴れやかな朝だったが、グラニットの意識はぼんやり鈍ったままだ。

22:ミングル ◆SMBU:2010/04/05(月) 19:19

「打ちのめしてやる……」
イチホは目の前の相手の耳に届かぬように小さく、ゆっくり口にした。大人びた切れ長の目に決然とした意思を宿し、表情を凛々しく引き締める。
 
 マナ・ロートの西部、広大な砂漠地帯の集落デシュリア。十数年前に“移民問題”で大陸中で話題になったこの集落はオアシスを取り囲むように栄えている。
建ち並ぶ民家より少し離れた、石畳の広場にイチホは立っていた。暖色のレンガで敷き詰められた広場には彼女のほかにもう一つ、男の姿がある。二人は睨み合う虎のように一定の距離を保ちながら、向かい合っていた。

「ぶん殴らなきゃ、ぶん殴られる……」
朝日がじりじりと砂漠を温め始める朝、イチホは呪文のように口にする。
右側の前髪をなで上げた。闘争心を固めながら、殺気を込めて目の前の相手を睨みつける。浅く腰を落とし、両手に棒を構えた。指の先まで緊張感と闘気を張り巡らせる。握った棒にいつもより早い心臓の鼓動が伝わっているのが分かった。

対してイチホが睨みつける男の方はただ、彼女と同じ棒を持って立っているだけだ。体全体から力や殺気を排したように、まっすぐ突っ立っている。イチホの眼には、繰り出される殺気を涼しい顔でいなしているように映った。
戦う気があるのか?こっちは、こんなに全力で戦おうとしているのに―――
イチホは唇を薄く噛んだ。
ある種の怒りが彼女の胸を満たしていく。

「ふっ!!」
先に動き出したのは、もちろんイチホの方だ。
石畳を蹴りつけ、風の速さで男との距離を詰める。そのままの勢いで大きく踏み込み、怒りを込めて棒を男に突き出した。
 イチホが駆けだすまで、男は構えもとらず戦う心づもりも出来ていないように見えた。しかし冷静に、突き出された棒を横にはじいた。激しい金属音が砂漠に響く。その音が、繰り出された突きがどれほど凄まじいものかを物語っている。
 棒をはじかれ、大きく体勢を崩したイチホだったが踏みとどまり、棒を勢いよく横になぐ。息つく間も与えぬつもりだったが、男は素早く後ろに退いてそれをかわしていた。

さっきまで互いの息遣いが感じ取れるほど切迫した二人の距離は、一瞬にして長い棒が届かないほどに離されている。イチホにとって、その距離は物理的な位置関係だけを示すものではなかった。
 こんなに遠いものか。こんなに敵わないものか。たった二回、棒を振るっただけだったが、イチホは実力の差を痛感した。しかし、彼女の中で膨れ上がるのは諦観ではない。

「打ちのめしてやるっ!!」
より膨れ上がった反骨心が言葉となって空気を震わせた。激しい感情を腕から棒へ乗せる。頭の上で大きく棒を回し、両手に力を込めて構えなおした。男は先のように突っ立ったままで、向こうから仕掛けてくる気配はなさそうだ。
心身が完全に立ち直っていないまま、イチホはただ男を打ちのめさんと突っ込んだ。
 
しかし、煮えたぎる感情に突き動かされた棒の切っ先は、またしても男によって叩き落とされた。しかも今度は、大きな隙をつくってしまったイチホの肩をめがけ、男の持つ棒が風を切る轟音と共に振り下ろされる。
 
イチホの中で何かの糸が切れた感覚が広がる。
 ―――しまった。やられた。

23:ミングル ◆SMBU:2010/04/08(木) 21:28

 「大丈夫だってば、学校まで行くだけでしょ?」
 「しかし、一人で歩くなんてお嬢さ…… 」
 付き人のユーディはまだ何か言いたげだったが、リルは背伸びして背の高い彼の口の前に人差し指を突き出した。人差し指を見つめ少し寄り目になったユーディを諭すようにリルは言った。
 「人通り多い道歩くから」
 「……野良犬が出たら?」
 リルはユーディの心配性に半分呆れながら、小さい唇をとがらせて答える。
 「おっきい声出すんでしょ?」
 「知らない人には?」
 「付いてかないし、話しかけない」
 これで最後だぞ、と目で訴えてもユーディの強い口調は変わらなかった。使命感が強く頼りにもなる彼だが、裏を返せば自分をなかなか自由にしてくれないという事だ。決して“お嬢様”と呼ばれるような生まれではないリルにとって、そろそろ一人になりたい時間もある。そういう年頃だと自分でも自覚し始めている。家で気付いてくれないのはユーディだけだ。
 「学校では?」
 「大丈夫だもん、みんないるもん」
 予想はしていたが切りがないと思い、リルはユーディに背を向けた。灰色の真新しいスカートが広がり、花を逆さにしたようなシルエットがレンガの大通りに映る。
 後ろからユーディの引き止める声が聞こえるが、行ってきます、と出来るだけはつらつと言い残して急ぎ足で駆けだした。

24:ミングル ◆SMBU:2010/04/20(火) 22:37

 「帰っとけばよかったなぁ……」
 視界のかすんだ中で、グラニットは見慣れた校舎にたどり着いた。彼の家から学校までそれほど遠い訳ではないが、目が冴えていない彼にとってはかなりの距離を歩いたような気がした。
 校舎の石造りの真っ白な壁が、まだ薄い水色の空を背景にして建っていた。視界の大半を支配するほどに巨大な姿には、大陸で一番の学び舎の一つと呼ばれるだけの荘厳な雰囲気がある。
 白く大きな壁面は、早朝の日差しを輝くように反射する。グラニットはほとんど目を開けられないまま、玄関までの階段を昇っていく。いつ階段から転げ落ちてしまってもおかしくないような、おぼつかない足取りだった。
 「あ……、トキさん」
 階段を上った先で、先輩のトキ・マウルブロンの後ろ姿を見つけた。片手で黒い短髪を掴みながら、花壇に敷き詰められた紫色の花に丁寧に水を遣っているようだった。
 
「おっはようございます」
 先程までのうわ言とは比べ物にならない無邪気で明るい声で、トキの背中に挨拶をした。ゆっくりと振り返ったトキは手を小さく挙げる動作だけを返してきた。
 それだけの、そっけないような挨拶だったがグラニットは心身が軽くなり、自然な笑みがこぼれる。トキを見つけてから、眠気のもやが晴れたように意識がすっきりと晴れていた。
 トキは一人っ子のグラニットが兄のように慕う、二つ上の先輩だ。昼夜に関わらず覇気のない、濁った目をしている。しかし、それを除けば誠実さを感じさせる短髪や整った眉、鼻筋、となかなかの好青年である。
 「何してるんですか?」
 「んあ?水遣り」
 トキの口調はどこか牧歌的で、水遣りというのも彼のイメージに似合っている。大らかであらゆる事で世話を焼いてくれる、そんなトキにグラニットは誰より懐いていた。
 「キレイですねぇ。トキさん、なんて花なんですか?」
 「……リオンに聞こうな。そういうのは」
 「知らないで水遣りしてるんですか?」
 「こういうのが出来りゃあいいの、俺は」
 トキはじょうろを指した。
 出来れば、トキが水を遣っている横でずっと話がしていたかった。今から、全校集会の準備をすることを思うと、目覚めたばかりの頭に憂鬱が顔を覗かせる。しかし、それだとこんなに早起きをした意味もなくなってしまう。せっかく重たいまぶたを持ち上げてきたのだ。

 「トキさん、部室の鍵ありますか?」
 「ん。ソファの上にイチホのゴムあったから髪の毛まとめとけよ。ってか切れよ」
 トキがポケットから鍵を取り出し、グラニットに放り投げた。
 「あわったった」
 突然放り投げられた鍵を、グラニットが危なっかしい手つきで受け取った。
 「でもトキさん、いいんですか?イチホ先輩の使っちゃって……」
 「あいつもゴムくらい何とも言わないだろ」
 「そうかな。ありがとうございます」
 グラニットは生徒玄関に駆けだした。赤い髪をしなやかになびかせ、足取りは校門に入るまでよりずっと軽かった。

25:ミングル ◆SMBU:2010/04/23(金) 18:43

 男はイチホに当たる寸前で棒を止め、かわりに額をからかうように小突いた。

 「つっ」思わずこぼしてしまったイチホの顔を覗き込んで、男は笑った。薄くしわがたたまれた彼の笑顔をイチホは睨みつける。
 「本気でやってんの?」男の顔を睨みつけ不満をたっぷりこめて、強い調子でイチホは問いかけた。
 「やってるさ」
 「じゃあ、最後まで本気でやって。そっちが叩かないなら、ホントに打ちのめすつもりでやってるアタシが悪いみたいじゃんか」
 早口で不満をぶちまけたが、男は笑顔のままだ。意地になってもう一度何かを言おうとしたが、それ以上の言葉が出てこない。
 「父さんと対等になったらな」迷っているうちに、先に父が応えを返してきた。思案をくじかれた。
 口調といい、表情といい、あからさまに挑発してきている。とどめにもう一度イチホの眼を見て鼻で笑った後、父は背を向けて歩き出した。
 
 「ふざけんな!!」父の背中に、今言える最大の罵声を浴びせる。
 小さくなるその姿を睨みつけながら、それでも心の中でイチホは少し喜んでいた。

 自分が女だからと言って見下してくる男は、いままで何人もいた。教師だったり、クラスメイトだったり、見知らぬ人だったり。その度に怒りに燃えたイチホは、幼少のころから徹底的に反抗した。幾度かそういう輩を打ちのめした記憶もある。
 女として生まれた事に負い目を感じなければならないのか。言葉にすればそういう内容だが、正体不明のこの怒りを言葉にするのにはかなりの時間がかかった。
 しかし今、父は自分に父と同等の実力を要求してくれた。男女関係なく、だ。
 期待された以上、要求された以上、それに応えなくてはならない。イチホは追うべき目標を再確認し、胸を躍らせた。

 「イッちゃぁん!」
 そんな思案を遮る、澄んだ声が響いた。名前を呼ばれたイチホが振り返ると、黄色い砂の上に女性の姿が見えた。


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