全自動不良品

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1:匿名さん:2011/06/05(日) 21:22

三人称小説の不得手さを克服するためにも、以前書いていた古いものを添削しつつ投下していこうと思います。
それへでは始まり始まり。


とある時代、とある大陸、とある国に広がる荒野の果て。砂塵が舞い、乾いた風が吹きすさぶ中に、小さな町が海を背にして居を構えている。
かつて大陸各地で起きた内紛によって、住処や家族を失った者達が自然と寄り添うように集まり、そうして長い年月を掛けて生まれたのがこの町だった。

町ゆく人々はみな一様に瞳をギラギラと輝かせている。日々を生きるために、奪い、奪われ、殺し、殺され。秩序や道徳、倫理。そういったものに平気で唾を吐きかけ、土足で踏みにじる。
誇りなんてものは誰も彼も、ハナから持ち合わせてはいない。右を向けば銃声が鳴り、左を向けば頭に風穴を開けた死体が転がるような町だ。
過酷な荒野を生きて、そして死んでいく人々。彼らは今日もその本能の赴くまま、その血が命ずるままに我を振舞う。


――町の中央。砂に塗れ、塵風に削がれてボロボロになった看板をぶら下げた酒場には、昼夜問わずならず者どもが集まる。
喧嘩や殺し合いが日常的に行われるこの店の内装は、見るものの不安を煽るような貧相な外見に似合わず、しっかりと頑丈に造られている。

髭を生やした屈強な体つきの店主が、酒を手に丸テーブルを囲む男どもに目を光らせながら、カウンターに立ってグラスを磨いていた。その店主に、小太りの男がヘラヘラと笑いながら話しかける。

「よう、マスター。久しぶりだな。景気はどうだい?」
「……それなりってところさ、ミゲル。いま、俺の目の前で笑ってやがるクソヤロウが、しこたま溜めたツケさえ払ってくれりゃあ文句のつけようもないね」

店主の射抜くような視線が、ミゲルと呼ばれた男に突き刺さる。どうやらツケを大量に滞納しているらしい。
しかし男はそんなものなど何処吹く風。変わらずヘラヘラとした調子で酒を注文し、ヒビの入ったグラスに注がれた酒を一息で飲み下した。カウンターの上に空になったグラスを叩きつける。

「ふう。――神よ、日々の恵みに感謝します――ってな。もしこの世から酒がなくなっちまったら、俺ァ、一日でくたばっちまう自信があるね」
「そんときゃツケ払ってからくたばりやがれ。金もねえくせに毎度々々、たかりにきやがって」
「ひひっ、安心しろよ。もうじきでけェ金が入ってくる。そんときゃツケなんて綺麗さっぱり清算して、堂々と酒を頼んでやるよ」

2:全自動不良品:2011/06/05(日) 21:45

間違えてスレタイに名前を入れてしまった。なんだか色んな意味で素敵なことになってるのでこのまま続投したいと思います。


並びの悪い歯を見せて、男――ミゲルは下卑た笑いを浮かべる。しかし、同じような口上を耳が腐るほど聞かされてきた店主は、そんなミゲルの言葉にもロクに耳も貸さずに黙ってグラスを磨いている。

「まあ聞けよオイ。最近、よく町で人死にが起きてるだろ?」
「それがどうした。ここじゃあ別に珍しいことでもないだろ」

別段、この町で人が死ぬのはそれほど珍しいことではない。その短い導火線に火がつけば、呼吸をするように銃を手に取る輩が蔓延る町だ。
誰かの命の火が吹いて消されたところで、何も変わらずに町は生き続ける。
歯車は回り続ける。

「その通りさ。だが、それが余所者が引き起こしたってんなら……話は別だ」

しかし、その歯車の歯に小石が投じられた。
この町に不穏な空気を撒き散らしている”小石”によって散らされた命は二桁に登っている。その全てが全身をバラバラにされていることから、同一犯によるものと考えられている。

たとえ秩序や道徳や倫理は無くとも、この町にはれっきとしたルールがある。

出る杭は、打たれるのだ。打たれなければならない。この、ひどく不安定でいて、そして絶妙なバランスの上で成り立っている砂城のような世界が生き続けるには、”日常”を脅かす輩に鉄槌を下さねばならない。
さもなくば、この町は瞬く間に砂に還ってしまうだろう。
そのことをこの町の人間は、遺伝子レベルで本能に刻み込んでいる。

「まあ、やり過ぎたんだわな、そいつは。役所の人間を一人殺っちまって、完全に目をつけられちまった。役所の連中、大層な懸賞金をかけてよ。しかもデッドオアアライブ(生死問わず)で、だぜ」
「まあ、身内には甘い奴らだからな。……で? まさか、その切り裂きジャックの真似事したイカレポンチをとっちめられる算段がついた。とでも言いてえのか?」

店主のねめつけるような視線に、ミゲルはまたも下卑た笑いを返す。

3:全自動不良品:2011/06/06(月) 22:29

「ご名答、だよ。命からがら生き残ったやつが一人だけいたのさ。知ってることを全て吐かせてから海に沈めてやったがな」
「ふん。その特徴ってのは?」
「……ツケを返して欲しけりゃ、誰にも言うんじゃねえぞ――」

――陽が完全に沈んだ頃、酒に塗れた男が海辺で催していると、視界の端を闇夜の中でもはっきりとそれとわかる銀色が奔る。その次の瞬間には音も無く手首を切り落とされた。
男は悲鳴を上げながら町中へと駆け込み、なんとか一命を取り留める。そして、自分を襲った者のハッキリとした特徴をこう告げた。宵闇の中でも目を惹かれるほどの金色の髪――

「……金髪ねえ。この町にゃあ、腐るほどいるんじゃねえか?」

それまでミゲルの回想を黙って聞いていた店主が、蛇口を捻りながら口を挟んだ。

「それもそうだ。だが、風に靡くほどの長髪となりゃあ話は別だ。一発でわかるだろうよ。借金が増えちまったが、腕利きの奴らを何人も雇った。あとは宝探し、さ」

それからミゲルは、懸賞金を手にしたときの金の使い方を店主に向かって語ってやる。普段なら真面目に聞き入れることはないが、今回は少し信憑性が出てきたのか耳を傾ける程度はしてやった。
そのときだった。酒場に満ちる喧騒が揺らいだのは。
喧騒の揺らぎを察したミゲルが酒場の入り口に目を向けると、荒野の枯れた風を切り裂くような麗しい金色の髪を靡かせながら、長身のシスターが酒場の中へと足を踏み入れていた。思わずミゲルはギョっと目を見開く。
一瞬、町を騒がせている余所者のことが頭を掠めた。。
しかしそれはありえない。これまでの犠牲者の死体はすべて全身をバラバラにされている。あんな細腕では腕一本切り落とすことさえ不可能だろう。

紛らわしい髪をしやがって――男はそう、内心で毒吐いた。

「なんだよ、ありゃあ? いつからここはコスプレバーになったんだよ」
「そういやあ、お前は最近ここに来てなかったから知らないんだな。ほんの少し前からこの町に訪れててな。なんでも――」
「――運命の方を、探していますの」

海を断ち割るような、ハッキリと通る声。
店主の声を遮ったシスターは、ブーツの踵をコツコツと踏み鳴らしながらカウンターに向かって一直線に歩いていく。周囲から向けられる奇異の視線など気にもとめていないようだ。
一礼をしてから男の隣に腰掛け、店主に向かって「ワインを」と微笑む。

「運命の方、だぁ?」

シスターが己の隣に座るまでの一部始終をただ唖然として眺めていただけのミゲルが、我に返った途端にハッと鼻で笑う。

4:全自動不良品:2011/06/08(水) 02:02

「ええ。……半年ほど前でしょうか。夢の中に聖母さまが降り立ってきて、こう仰られました」

ワインの注がれたグラスを店主から受け取ったシスターは、一口含んで少しの間を置いてから言葉を続ける。

「――あなたにとっての運命の人がこの町にいる、と」
「ひっひひ! それじゃあ何か。あんたはその聖母さまの仰るとおりに運命の方とやらを追い求めて、教会飛び出してきた家出娘ってわけだ」
「その通りです」

ミゲルの虚仮にするような視線も意に介さず、シスターはニコリと笑顔を返した。

「それで少し前からこの町に居座らせていただいているのですが、中々見つからずに困っているところでして。今ではこのマスターさんとも顔なじみですわ」

シスターは面食らっているミゲルに構わず話を続けると、頬に手を当てて困ったようにため息をもらす。

「なあ、シスターさんよ。こいつはどうなんだい? その運命の方とやらにふさわしいか?」

店主がミゲルを指差す。するとシスターは、目を細めて品定めをするかのような視線を男に向ける。暫くしてからぱっと顔を上げて微笑んだ。

「神の恵みをたらふく詰め込んだふくよかなお腹をしてらっしゃいますが、私の好みではありませんね」

そのキッパリとした物言いに、店中が一瞬で静まり返った。それからすぐに、一気に笑いの渦が巻き起こる。
店中の客から指をさされて笑いものにされたミゲルがカウンターに拳を叩きつけて、顔を真っ赤にしてシスターに食って掛かった。

「おい、度胸あるじゃねえかアマ。股に二つ目の穴ブチ空けられたくなけりゃあ、今すぐ俺の前から失せろ。わかったか?」
「あら。あらあらあら? でも、先に失礼な口をきいたのはそちらですよ?」

ミゲルの剣幕に圧されたシスターが、苦笑を滲ませながら後ずさる。しかし、完全に頭に血の昇ったミゲルにはそんな正論などもうどうでもいい。今すぐ目の前のシスターを痛い目に合わせてやらねば気がすまない。

周囲で勝手に盛り上がっている客から飛び交う野次に背中を押され、ミゲルはとうとうシスターの襟首を掴んでねじくりあげた。まさに一触即発。
しかし、ミゲルがそれ以上の行為に及ぶことはなかった。その怒りに紅潮した顔に、どこからか手袋が飛んできたからだ。
地面に落ちた手袋に視線を落としてから、ミゲルは血走った目を手袋の主に向けた。

「ようよう、女相手に絡んでんじゃねえよ。みっともねえな。おうちに帰ってピザでも食ってろ、デブ」

店内の端、野次馬が作る人垣から離れた位置にあるテーブルに、煤けた金髪を後ろで一つに纏めた一人の男が腰掛けていた。火に油を注ぐような売り文句とは裏腹に、愉快そうな笑みを浮かべている。明らかにこの状況を楽しんでいる顔だ。
男が席を立ってカウンターへ向かって歩きだすと、野次馬の海が波を引くように二つに裂けていく。

5:全自動不良品:2011/07/20(水) 22:42

人垣が二つに分かたれたことによってできた道を、金髪の男が悠然と踏破する。そしてミゲルとシスターの間に割って入ると、ミゲルの腕を引っ掴んでねじあげた。痛烈なまでの握力に、ミゲルの顔が歪む。

「おたくみたいなのがいるとな、酒が不味くなるんだわ」
「……んだとお」

男の挑発的なくちぶりに、ミゲルの眉がぴくりと跳ね上がる。

「こんな町だ。喧嘩でも、殺しあいでも、好きにやりゃあいいさ。でもなあ、」

男の視線がミゲルから外れる。その先には、困惑した様子で事態を見守るシスターの姿。

「女相手にさあ、ムキになってからんでんじゃあねえよ」
「冗長だぞ、クソガキ。つまりなにが言いてえ」
「あれ? おたくも知らないわけじゃないだろ、手袋を投げつける意味」

たいへん心外そうな表情をした男が、周囲を取り囲むように並ぶ野次馬どもにぐるりと視線を向けた。
そして、告げる。

「……まだわかんねえか? “得物を取りな。おれと勝負だ”って言ってんだよ」

手袋を投げつける意味。それは、決闘を申し込む合図。
男の不敵な笑みの奥でぎらつく眼光が、ミゲルをそれまでかろうじて繋げていた理性の鎖をあっけなく砕いてしまった。

「……上等だ、クソガキ」

6:全自動不良品:2011/07/20(水) 23:09

まるで怒りに荒れ狂い、磨耗して擦り切れてしまったかのように平坦なミゲルの声が鈍く響く。しかし金髪の男は一歩も退かずに、更に強い力でミゲルの腕を握った。

「ガンマンだろう。早撃ちで勝負といこうじゃないか」

ギャラリーのいる手前、断ることもできずにあっさりとミゲルは男の提案を呑んだ。




金髪の男が身に纏う、ボロボロのコートの裾が西風にふわりと翻る。
砂塵を巻き上げる風に吹かれ、周囲を取り囲むようにしている野次馬の視線の中心で、二人の男が距離を置いて向かい合っていた。
一人は、銃を手に。
そしてもう一人は――

「ふざけてんのか、てめえッ!」

ミゲルが、対面で構えている金髪の男に向かって叫ぶ。さもありなん。何故なら、金髪の男が手にした得物は――鞘に収められた反身の剣。
東の国の言葉で言うところの、”刀”だったからだ。

「大真面目だよ、ばかやろう」

金髪の男が、笑みを崩さずに愉快そうな声音で答えた。

「女ァ!」
「はいっ?」

ミゲルの怒号が空に響く。突然呼びつけられ、野次馬に混じって二人の行く末を見物していたシスターの体が跳ね上がった。

「てめえが合図しろ! それと、逃げるんじゃねえぞ。このガキをぶっ殺したら、次はてめえだ!」
「ええ、そんな、ひどいじゃないですか」
「うるせえ! 今すぐドタマぶち抜かれてえか!?」
「ひどい……でも、えっと、合図って言われても」
「落ち着けよ、ほら」

泣きそうな顔でキョロキョロとしていたシスターの手のひらに、隣にいた店主が一枚のコインを握らせる。
驚いたようにシスターが顔を上げると、店主は親指を歯を見せて笑って見せた。

「早撃ち勝負つったら、コイントスしかないだろ」

店主に言葉で促されるまま頷いて、シスターは親指の上にコインを乗せる。そして、自分を庇ってくれた(?)金髪の男に一瞥をくれてから、祈るようにを目を閉じてコインを弾いた。
金属音と共に空に跳ねるコイン。
ミゲルは腰に提げたホルスターに納めた銃に手を添え。
金髪の男は腰を落として斜に構え、今にも駆け出さんと重心を前に集めている。
常識で考えるなら、誰もが結果を見るまでもなく勝敗を思い浮かべられる。二人の間に佇む距離はおよそ八メートル。そう、あくまでも常識で考えるなら、銃が勝つのが当たり前だ。
だが――

7:全自動不良品:2011/07/20(水) 23:34

「死ねやァ!!」

罵声と共に轟音が響いた。
野次馬がみな一様に固唾を呑んで見守る中でコインが地面に落ちるその直前、ミゲルが銃を抜いてなんの躊躇も無くその引き金を引いたのだ。
その場にいた誰もが完全に虚を突かれた――引金を引いたミゲル本人と、それに合い迎う金髪の男以外は。


その凶弾が男を捉えることは無かった。地面を舐めるような低姿勢で駆け出す男の頭上を掠めたのみだ。ミゲルの舌打ちは、男の地打つ踏み込みの音にかき消された。
この時点で既に、二人の距離は半分にまで詰まっていた。

「どうせマグレだろうがあッ!」

ミゲルが叫びながら再び銃を構えて、迫り来る男の頭に銃口を向ける。引金に指を掛けて力を込めた瞬間、男の姿が横へとブレた。

「おッ、」

驚く暇も無い。
ミゲルが引金を引くのと、男が向かって左に倒れこむようにしてを傾かせたのはほぼ同時だった。二発目の銃弾も、男の残影を貫くのみだ。
三発目を撃とうと、再三引金に指をかける。しかし――
二度も引金を引けるチャンスがあったからといって、三度目が許されるとは限らない。

ミゲルが指に力を込めるよりも先に、男が最後の一歩を、地面を踏み割らん勢いで踏み出した。そして左腰に構えた鞘口から、銀色に閃く刃が逆袈裟に打ち抜かれる。

「――――」
「よう、ガンマン。コインが落ちる直前を狙うたあ、おたくも早漏だねえ」

声が、すぐ間近から聞こえる。
銃身を男の一刀のもとにまっ二つに断たれ、返す刃でその切っ先を喉元に突きつけられているのだ。ミゲルは声を発することも出来ずに、ただ息を荒げることしかできない。

「でも、まあ、当たらなければ意味はないけどな」

男は呆れ気味に笑いながら言葉を重ねる。

「ほうら、約束だ。今すぐ、尻尾を巻いて、おうちに帰んな」

8:不良品:2011/07/23(土) 20:43

「――ありがとうございます、本当に助かりました。……ええと、」
「ん、ああ。ジュードって呼んでくれ。あんたは?」
「私はビィといいます」

酒場がいつもの喧騒を取り戻したころ、金髪の男とシスターはそれぞれ名乗りあった。並んでカウンター席に座り、ショットグラスを掲げて打ち鳴らす。

「大した腕だな、にいさん」

彼ら二人の前でカウンターに立ってグラスを磨いていた店主が、興奮気味に鼻を鳴らした。ツケを滞納していて、その上いけすかないミゲルが痛い目をみたのが面白くてしょうがないようだ。

「よせやい、照れるぜマスター」
「はっは、そう謙遜するこたぁねえ。聞いたかよ、ミゲルの野郎の捨てぜりふ」
「“今日のところはこれで勘弁してやる。だがてめえの顔は覚えた、次に会ったときは覚悟しておけ。わかったか、クソガキ”……でしたか」シスター――ビィが指折り数えながら、ミゲルが逃げ帰る間際に残したせりふを反芻する。
「よくもまあお約束みたいなせりふが咄嗟にあんだけ浮かぶもんだよ、なあおい」
「まったくだね」

ジュードと店主が顔を見合わせて笑いあった。ビィも口に手を当てて、控えめにではあるが笑みを浮かべている。

「しかし、ねえさんも災難だったね。わざわざ遠いところから運命の人を探しにやってきて、あんな野郎に絡まれるとは」
「いえ、これも聖母さまがお与えになられた試練なのでしょう。この程度でめげてはいられませんわ」
「泣かせるねえ。よし、今日の酒は俺のおごりだ」
「よろしいのですか?」
「構うこたあねえ。好きなだけ飲みな」

目を丸くするビィに、店主が次の酒を注ぐ。それを見たビィは、「主よ、この素晴らしい出逢いに感謝します」と胸の前で十字を切った。

9:不良品:2011/07/25(月) 23:04

「運命の人ってのは、さっき言ってたあれかい?」

ジュードが興味津々な顔で訊ねる。

「ええ。聖母様の思し召しです」

「なあ、ねえさん。このにいさんはどうだい。背もたけえし、顔も悪くねえ、なにより腕っぷしも立つ。良い物件だと思うぜ」

店主がジュードの空になったグラスに次の酒を注ぎながら、冗談混じりに訊いた。「顔も“悪くねえ”とは心外だね。こんなにもハンサムなのに」ジュードが肩を竦めておどけた調子で口を挟む。
それから暫く続く、店主とジュードの芝居めいたやり取りを可笑しそうに眺めていたビィが、笑いを収めてジュードにすっと顔を寄せた。そして、先にミゲルにしてみせたように、目を細めて値踏みするようにジュードをねめつける。

「ユーモアもありますし、ほんとに悪くないかもしれませんね。考えてしまいますわ」

うっとりした様子で頬に手を当てて、ビィは猫なで声で呟く。

「はっは。こんな美人さんに言い寄られるなんてな。わざわざこんな町まで来た甲斐もあったってもんだ」
「んん? にいさんもよそから来たのかい」店主が目を丸くする。

「……内紛で家をなくしちまってね。いくあてもなく彷徨ってたところに、この町の噂が聞こえてきたのさ」

「ふうん。それでこんなところまではるばる流れてきたってわけかい。だが、この町はよそ者にはちいとばかしきついぜ」

「そうかい? 確かにおっかないところだが……」

ジュードはそこまで言って一度言葉を区切り、手にしたグラスを一気に空にした。これみよがしに空のグラスを店主に見せ付けて、にいと口を吊り上げた。

「酒が美味い。おれにとっちゃあ、それだけでこれ以上ないくらいにいい町に思えるよ」

元々住んでたところも治安の悪さでは負けてなかったしな。そう付け足して、苦笑を滲ませたジュードが酒を催促しようと顔をあげると、満面の笑みを浮かべた店主とばっちりと目が合う。

「……なんだい?」

「……気に入ったよ、にいさん。あんたの酒も今日は奢りだ。ねえさんと一緒に、好きなだけ飲んでくれ、なっ」

興奮気味に声を荒げる店主の爛と無邪気に輝く瞳が、ジュードと店主の話に聞き入っていたビィに向けられる。
隣で自分と同じように、店主の突然の態度の変化にきょとんとしていたジュードと顔を見合わせる。そして互いに吹き出して、どちらからともなくグラスを掲げた。

「それじゃあ遠慮なくいただくとするよ。……主よ、この素敵な出逢いに――」

「感謝します」

異口同音にそう呟き、二人はグラスをかちんと打ち鳴らした。


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