二日間の繰り返し

葉っぱ天国 > 小説 > スレ一覧 [書き込む] Twitter シェアする? ▼下へ
1:咲:2012/01/28(土) 09:36 ID:KaE

ボカロのカゲロウデイズを元に小説を書きたいと思います。

出てくるのは…これ、日和好きの方なら分かるのか…?
増田さんとMASUDAさんです。

日和を知らない方でも楽しめるよう、頑張るぞ!w

曲を知ってても、ネタ晴らしはやめてくださいね。
知らない方は聴いちゃうと、もしかしたらネタバレかも。

2:咲:2012/01/28(土) 09:51 ID:KaE

登場人物

〜増田こうすけ〜

ギャグマンガ日和を生み出した漫画家。

そのギャグは爆笑できるものから、ゆるく笑えるもの
ツッコミがいなくて自身でツッコめるものまで、様々。

寝ている時が幸せで、睡眠時間は8時間くらいという健康的な数字。
時々は昼寝もする。
だが、〆が近ければ多少は減ってしまう。

猫好きで実家でも、ミーちゃんという猫を飼っている。
撫でると噛むらしい。




〜フォーエバーハンターMASUDA〜

本名は増田こうすけ。

増田こうすけが自分を元にしたキャラとして、6巻の最後に書いた者。

動物に好かれていて、強くて、英語が上手いらしい。
また、カッコいい薬局で買い物をしたりもするらしい。(ドラッグストア『地中海の夕暮れ』が良い例)

いつの間にか、もう1人の自分として共同生活をしていたが、こうすけはもう気にしないらしい。
自分が描いたキャラクターでも、共に生活できてしまうのだから、人間の適応力ってすばらしい。

ただ、同じ名前なのでお互いの呼び方は
「こうすけ」と「MASUDA」にしている。

3:咲:2012/01/28(土) 10:39 ID:KaE

8月15日

世間では終戦記念日と言われる日だが、特に何をするでもない。
まぁ平和を愛する者としては、戦争が二度と起こりませんようにっていう思いは湧いてくる。

時計の針は、まもなく12時半に差しかかろうとしていた。
コーヒーを飲みながら、窓の外をボンヤリ眺める。

「今日は天気良いな…。」

こうすけは、と言うと。
〆明けで寝不足気味らしい、ソファーで夢の中だ。

その時

「どうして…っ!
何がいけないんだよぉ…っ、ぐすっ…」

突然、泣き出したこうすけにギョッとした。
どうやら悪夢に魘されているらしい。

「大丈夫か、こうすけ?」

細い体を抱き起こし、声をかける。
泣きじゃくりながら目を開けるこうすけ。

「もう1回…
…あ…MASUDA……。」

どんな夢を見ていたのやら。
俺は手の甲で慌てて涙を拭っている、こうすけの頭を撫でた。

「怖い夢を見てたのか?
こうすけ、ずいぶん魘されてたぞ?」

「ん、大丈夫…心配させてごめんね。
今日って8月15日?」

「ああ。」

こうすけはそう、と呟いて、それから哀しげな微笑みをみせた。
どうして? 終戦記念日だから?
ま、それはともかくとして。

「天気良いし、外に出ないか?
昼ご飯もかねてさ。」

「うん、そうだね。」

体にかかっていた薄いタオルをどけて、ソファーから降りるこうすけ。
夏とはいえ、素足に床は冷たそうだ。

カバンに財布を入れて、肩にかける。
その軽さから言って、本当に必要な物しか入れていない自分に少し苦笑いする。

「じゃあ、行こうか。」

「ああ。」

全てはここから始まった。

4:咲:2012/02/03(金) 00:22 ID:KaE

コンビニで弁当を買って、近くの公園に入る。
小さいが、木のテーブルと椅子があるため、食事を取るには良いところだ。

ビニール袋から自分が買った天むすを出す。
すると、天むすは2つ出てきた。

そのうちの1つを手に取るこうすけ。

「考えることは同じだな。」

「本当だよね。」

顔を見合わせて笑い合う。
天むすを頬張りながら、ボンヤリと時計を眺めていた。

あれからそんなに時間は経っていないな。
この公園、近いからなぁ。

「あっ、可愛い!」

こうすけの声でハッと我に返る。
斜め下に向けられている彼の視線を辿ると、そこには1匹の黒猫がいた。

「よしよし。」

優しく猫を撫でるこうすけ。
猫は気持ち良さそうに目を細めていた。

「こうすけは猫好きだもんな。」

「うん、目が丸くてフワフワしてて…すっごく可愛い。
君だって好きだろう? 俺なんだから。」

「ああ、もちろん。」

昼ご飯を食べ終わり。
病気になりそうなほど眩しい日差しの中、することもないから君と駄弁っていた。

「暑いな…。」

「そうだね。
プール入れるし、アイスが美味しいけど…でもまぁ夏は嫌いかな。」

あれ?
俺は季節では、夏は好きだけどな?

同一である俺らの意見が合わないことは、初めてだった。

まぁ、ほんの気紛れでそう言ったんだろう。
それなら一時的に意見の違いがあっても、おかしくはない。

「あっ…!」

さっきまで大人しく撫でられていた猫。
気持ち良さそうだったのだが、何を思ってか、こうすけの手から逃げ出した。

「待って!」

素早く離れていく黒い塊を、追いかけるこうすけ。
大人なのに無邪気なことで。

「転ぶなよー。」

笑いながら彼を見ていた俺だった。
だが、突如、その表情が強張るのが分かった。


このままだと、猫が飛び込むであろう交差点。
青信号はチカチカと点滅して、赤に変わった。

こうすけ…ちゃんと信号見てる……?

「こうすけ、赤!!」

椅子から勢いよく立ち上がる。
そのまま、こうすけの後を全速力で追いかけるが、当然追いつけはしない。

こうすけは俺の言葉が聞こえていないのか、そのまま走って横断歩道へ飛び込んだ。

「こうすけっ!!」

次の瞬間、こうすけが視界から消えた。
バッと通ったトラックが君を轢きずっていく。

「こうす…け……?」

凄まじいブレーキ音と、ギィギィという嫌な音が脳裏を木霊した。

狂いそうなほど赤い血飛沫の色。
微かに残る、君の香り。

「うぐっ…!?」

喉元に辛いものが込み上げてきて、俺は口を抑えたままへたり込んだ。
捨てられた人形のように、少し離れた場所に横たわっているこうすけ。

人々のざわめきと悲鳴が、周りの空気を満たす。

俺を生み出してくれた左手。
その左手は赤黒い血に塗れ、ピクリとも動かなかった。

「こうすけっ! こうすけぇえっ!」

這うように彼の元へ行き、抱き起こす。
ぬるっという感触が手の平に伝わる。

誰が呼んだのか、救急車が来て、救急隊員の人が駆け寄ってきた。
隊員の人はこうすけの手首に触れ、少しの間全身を見つめていたが、その動きはすぐに止まった。
仲間の人に首を横に振り、現状を伝える。

どんどん冷たくなっていく、こうすけの体。


嘘みたいな現実に。
フッと横切った夏特有の熱風。

「嘘じゃないぞ。」

陽炎がそう嗤っていた。


清々しい水色の空の下。
掻き回すような蝉の音を遠くで聞きながら、俺の意識は暗幕を引くように途切れていった。

5:咲:2012/02/04(土) 11:00 ID:KaE

カチ、カチ…

遠くで微かに聞こえる音。
これは…時計の秒針?

「えっ!?」

布団を跳ね退け、飛び起きる。
白い光に目が眩んだ。

そこはいつもと変わらない部屋の中。
見慣れたベッドの上に、自分はいた。

「ゆ、夢…?」

冷や汗をいっぱいかいている。
あんな夢を見れば当然だ。
こうすけがトラックに轢かれて死ぬ夢なんて。

「今は何時だ?」

窓の外は真っ暗。
時計は8月14日の午前12時過ぎくらいを指す。

夢だよな?
現実だったら洒落にならない。
念の為こうすけを見ておこうと、俺は階段を下りていった。

「あれ、MASUDA?
どうしたの? トイレ?」

こうすけは下でテレビを見ていた。
いつもどおりの声と笑顔。

良かった良かった。
やっぱり夢だ。

「いや、何でもない。
こうすけが轢かれたような気がしていたが、別にそんなことはなかった。」

「何の話!?」

それからテレビを消して、こうすけも立ち上がった。
どうやら彼ももう寝るようだ。

「まぁ、何もないなら良いけど…
俺はもう寝るよ、MASUDAも寝よう?」

「ああ。」

一緒に2階に上がり、布団に入った。
隣の温もりに俺は安心し、再び眠りについた。

6:水瀬 茉莉:2012/02/04(土) 11:11 ID:6Yw


上手ですね〜

続きが楽しみです♪

7:咲:2012/02/04(土) 12:16 ID:KaE

わっ、ありがとうございます!
コメントしていただき、本当に嬉しいです^^

続きも頑張ります!

8:咲:2012/02/05(日) 01:48 ID:KaE

それから朝が来て。
俺らはいつものように、仕事を始めた。

「ギャグマンガ描いてると、あんまり
フワフワした感じのトーンって使わないなぁ。」

「あー、分かるぞそれ。
恋の話とかで使うような、柔らかい感じのやつだろう?」

「そう、それ。」

同じ漫画家という職業なので、話も合う。
いや、職業以前に、そもそも俺らは同一だからだろうか。

「もうお昼かぁ…
MASUDA、ご飯食べに行かない?」

「そうだな。
俺もちょうど、区切りがついたところだ。」


白い日差しの中を肩を並べて歩く。
今日も暑いな。

コンビニで昼食を買った。
俺らのことだ。
ビニール袋に入っているのは、きっと同じものなんだろうな。

少し歩くと、公園が見えてくる。

「ここで食べようか。」

あれ、この流れ…

そこで忘れかけてた、数時間前の記憶が脳裏を巡った。

あの夢だ。
そういえば、昨日のあの夢でもこうやって、こうすけと公園に…。

昨日の夢…か。
当然、嫌な気持ちしか残っていなかった。

「MASUDA、どうしたの?」

その声にパッと下を見れば、こうすけは猫を撫でていた。

これには思わず、ギョッとした。
それは夢に出てきたのと瓜二つな、闇のように黒い猫。

まさか…まさかな。
でも……

俺はこうすけの腕を掴んで、立たせた。

「…今日はもう帰ろう。」

「え…」

こうすけが返事をするより先に、俺がグイッと腕を引いた。
首を傾げ、俺に着いてくるこうすけ。
猫は不機嫌そうに、俺とこうすけを交互に見ていた。


さっさとあの黒猫と、交差点から離れたい。
そうすれば気も軽くなるだろう。

「MASUDA…何か怒ってる?
ごめん、俺悪いことしちゃったかな?」

もう帰ろうという言葉を最後に、さっきからずっと無言で腕を引いていた俺。
こう思われても仕方ない。

「いや、怒ってないよ。
ごめんな、こうすけ。 不安にさせちゃったな。」

俺は微笑んで、こうすけの頭を撫でた。
そんな俺に安心したのだろう、こうすけも笑顔になった。


そうだよな。
俺の思い過ごしだよな。

夢と同じことが起こるなんて。
あの黒猫だって、たまたま似たのがそこにいただけだろう。

こんな心配するのもバカらしいよな。


そう自分に言い聞かせて、笑った。
と同時に俺らは、狭い道から広い道へと抜けた。

ザワザワと複数の人たちの声が聞こえてくる。
見ると、周りの人はみんな、上を見上げて口を開けていた。

「…?」

俺もつられて、上を見る。

瞬間、凄まじい打撃音が隣で響いた。
状況が理解できないままの頭で見た世界。
隣のこうすけが崩れるように倒れ込む姿が、まるでスローモーションのように見えた。

落下してきた鉄柱が、君を貫いて突き刺さる。

最初に聴こえてきたのは、劈く悲鳴。
それと、どこかの家に吊るしてあるのだろうか、風鈴の音も聴いたような気がする。

真っ赤な血だまりが広がって、俺の足元まで来た。

「こ…っ、こうすけぇえっ!!」

こうすけに駆け寄った瞬間、俺の横を熱風がすれ違っていった。
熱でゆらりと歪む空気が確かにこう言っていた。

『夢じゃないぞ』

動かなくなったこうすけと、彼を抱いて泣きじゃくる俺を。
陽炎は嗤って見ていた。

「嘘だっ! 夢だ、こんなの!
トラックの時は夢だったじゃないか! これだって…っ!」

酸素に触れ、黒くなっていく赤。
鼻を突く鉄の臭いが、嘘でも夢でもないことを語っていた。

ああ、また視界が眩んでいく。
暗幕を降ろすように、ゆっくりと。


そんな中で、何故こう思ったのかは分からないが。

君の横顔は笑っているような気がした。

9:咲:2012/02/06(月) 00:23 ID:KaE

意識の暗幕が上がる。
目を覚ました俺の顔をこうすけが覗き込む。

「大丈夫、MASUDA?
何か魘されてたよ?」

夢…?
また…夢……!?

「あ…こう、すけ…?
い、生きてるよな?」

「あっはは!
何言ってんのさ、当たり前じゃん!」

声を上げて笑うこうすけ。
うん、確かに生きている。
どこか痛そうな素振りなどは、特に見せない。

外は明るい。
時計を見ると、午前12時過ぎくらいを指していた。

「今日って何日?」

「8月15日だよ。
昼寝って気持ちいいよね。」

なるほど、俺は昼寝をしていたのか。
だけどそんな記憶はなかった。


さっきの、夢。
落下してきた鉄柱に貫かれたこうすけ。

いや、でもトラックに撥ねられたのがその前にあったから…
あれは夢から覚めた夢だった?


「今度こそ、現実か…?
夢じゃないよな?」

こうすけが俺の頬を抓る。
結構、容赦なくやってくれた。
鈍い痛みを頬に感じる。

「こうすけさん、もう結構です。
この痛み、現実です。」

俺の口調に、吹き出すこうすけ。
その笑いにつられて、俺も笑う。

うん、そうだよな。
これが現実だ。
トラックに轢かれてなければ、鉄柱にだって刺さっていない。

こうすけはちゃんと生きている。

10:咲:2012/02/07(火) 00:41 ID:KaE

でもさぁ…何か変だよな。
あんなに形的に成り立っていて、血の臭いまで全てがリアルだった夢。
本当に夢だったんだろうかと、まだ心のどこかで疑ってしまう。

2回連続だったというのもあるかもしれないが。

「昼ご飯…今日は家で食べよう。
俺1人で買ってくるから、こうすけは家で待ってろ。」

夢と現実の区別がついていないわけではない。
だが、あの2回の夢の惨劇はどちらも外で起こっていた。
それで、あまりこうすけを家の外に出したくなかった。

「俺も行くよ。」

「あっ、いや…俺1人で行く。
近場だから、すぐ済むし…な?」

自分を一緒に連れて行きたがらない俺に、こうすけは首を傾げていた。
だが、とりあえず納得してくれたようだ。


コンビニで昼食を買い、家に帰る。
こうすけと一緒の時は喋りながら、自然にゆっくり歩くためか、いつもより早く家に着いた気がする。

家に着くと、こうすけは門のところにいた。
誰かと話している。
知らない人だが、どうやらお客さんのようだ。

「あ、おかえり。」

俺に気づいたこうすけが、軽く手を振った。
すれ違うその人に、俺は軽く会釈をした。
だが、相手からは何の反応も返ってこなかった。

気づかなかったのかな?

そんなことを考えた時、こうすけが突然俺にもたれ掛かってきた。
少しよろけながら、体を支える。

「どうした?」

その時、自分の服にベットリとついた赤いものに、俺はギョッとした。
こうすけを支えた瞬間、俺の体が血塗られた。

「こう…すけ…?」

その場に倒れ込むこうすけ。
知らない客の手には、鋭く光るナイフが握られていた。

これも夢か…?

狂った殺人鬼は大声で嗤い出した。

「あははははっ!
誰でもいいから刺してみたかったんだ! 嘘じゃないぞ? あはははは!」

嘘じゃ…ない……!?


ナイフが刺さった腹部からの出血が酷い。
抱き起こしたこうすけの体は、どんどん冷たくなっていった。


どうしてだ?
何で、何で? 何でだよ!?

夢なのか?
夢じゃないのか?

トラックは? 鉄柱は?
夢だった? そうだよ、あれは夢だったんだ!

じゃあこれは!?


頭が回らず、血の気が引いていく俺の前で
こうすけの表情はさっきのように、どこか穏やかだった。


…さっき?
さっきっていつだっけ…?

ああ、夢の中の話か……

11:咲:2012/02/11(土) 09:49 ID:KaE

ハッと我に返った場所は、ベッドの上だった。
枕元の時計は午前12時過ぎくらいを指す。
隣ではこうすけが寝ている。

また…夢……!?

俺は首を横に振った。

そんなはずはない。
だって、これで4回目じゃないか。

トラック、鉄柱、通り魔…そして今回。

おかしい。
何かが確実におかしい。


最初は8月15日だった。
次が確か前日の14日。
通り魔の時は15日…今は14日。

これだけ夢が重なって、時間に共通点があるというのはおかしくないか?

いや、そもそも。
夢であれば、それは所詮夢であるのだから、どこかでフッと覚めるはずなんだ。

悪夢をこんなに長い時間、見ていることがあるのか?

それに14日の12時過ぎの時は、いつもすぐに寝ていた。
気がつくとその日付のままの朝が来ている。

夢の中で眠って、夢の中の朝が来ても、俺は目を覚ましていないことになる。
そんなこと、ありえるのだろうか?


でも…夢じゃなかったら何なんだ?
夢を否定したら、俺は自分の今いる場所をどう説明したらいいんだ?

全てが現実?

それはおかしい。
だってそうしたら、こうすけはトラックの時にもう、死んでいるじゃないか。
どうして次の鉄柱の時には、生きていて一緒に歩けるんだよ。

一部が現実で、一部が夢?

適当に分けて、トラックと通り魔が現実とする。
それもおかしい。
どの場面でも、最終的にこうすけは死んでいた。
死んだ現実の後に、生きている瞬間はどうやったって重ねられないだろう。


夢でも現実でもなければ、何を否定したらいいんだよ。

まるでこれは、二日間の繰り返し…

「繰り返し…?」

フッと過ぎった、その考え。

これだけありえない状況が起こっているんだ。
もう、それしか決断は出せなかった。


俺はこうすけと8月15日と、8月14日を繰り返している―――

12:咲:2012/02/12(日) 11:46 ID:KaE

どうして…?
本当にそんなことがあるのか?

映画とかでよくある話だ。
だがそれは、あくまで人が考えた絵空事であって、到底現実に起こるものではない。

だけど、俺は確かに何度も同じ日を繰り返している。
そしてそれは、こうすけが死ぬたびに戻されている。

隣でスヤスヤと眠っているこうすけを見つめる。


俺たちはこれからどうなるんだ?
まさか、永遠に夏が終わらないのか?

頭を過ぎったそんな考えに、ゾッとする。

落ち着け…そんなはずはない。
きっとこの繰り返しを終わらせる方法はあるはずだ。

キーワードは3つ。
8月15日、8月14日、そして陽炎。

陽炎は1つの世界が終わるごとに現れていた。
言う言葉は『嘘じゃないぞ』と『夢じゃないぞ』

とは言っても、陽炎は本来形のない気体のはず。
もしかしたら俺の幻聴なのかもしれない。
でもまぁ、気になるところの1つだ。
加えておいても良いだろう。

何度も危ない道を避けたが、そのたびにこうすけは死んでいる。
結末はいつも同じだった。

ようは、こうすけが死ぬという運命を避ければ良いんだ。

13:咲:2012/02/18(土) 11:07 ID:KaE

朝が来た。
こうすけがあくびをしながら、気だるそうに起き上がる。

俺は咄嗟に、こうすけの肩を掴んでこちらを向かせた。

「ふぇっ!?
どうしたの、MASUDA?」

待ち伏せていたかのような俺に、驚いているこうすけ。
俺はこうすけの目を見つめて言った。

「今日、絶対に家から出るな。
チャイムが鳴っても、出ちゃダメ。」

「え…ど、どうして…?」

こうすけは繰り返しのことを知らないのであろう。
だが、話して信じてもらえる話だろうか。
夢は所詮夢だ、と笑われそうだ。
同一である俺自身が、さっきまでそう思っていたのだから。

「どうしても。 …いいな?」

こうすけは不思議そうな顔をしていたが、俺が真剣に頼んだからであろう。
その要求を受け入れてくれた。


さっきの世界で、俺が考えてたこと。
こうすけを外に出さない。

あれを中途半端に実行したため、こうすけは助からなかった。

訪ね人を装った通り魔に、刺し殺されてしまった。

なら、あの考えを本格的な計画に変える。
あらかじめ、こうすけに絶対に外に出ないように言う。
本人が意識して出ないでくれれば、それだけでさっきとは違う。

そうすれば、外からの危険は降りかからない。

トラックに轢かれることも、鉄柱が落ちてくることもない。
直接、応対しなければあの通り魔もきっと避けられる。

今度こそ…今度こそは……!

14:咲:2012/02/21(火) 00:17 ID:KaE

ふとテレビから顔を上げてみると、こうすけがいない。
トイレか?と思っていると、窓から見える庭に、こうすけの姿を見つけた。

新聞を取りに行っているようだ。

1分も掛からないことだ。
だけど、今はその秒単位の外出が危ないんだ。

俺は外に飛び出し、こうすけの腕をグイッと引いた。
家の中まで連れ込み、ドアを閉めたところで初めてホッとできる。

「MASUDA…」

俺はこうすけの頬を張り飛ばした。
よろけて、その場にへたり込むこうすけ。

「あ…」

後悔したが、もう遅い。
叩いた手の平が痺れるように痛い。

初めて君を叩いた。

叩かれたこうすけは俺以上にショックなはずだ。
頬を抑え、泣き出してしまった。

「な、何で…? 何で叩かれるの…っ?
新聞取りに行くだけでもダメなのっ…!? 俺…何か悪いことした?」

違う…
こうすけが悪いんじゃない…

「俺はMASUDAのこと、同一の自分だと同時に
大事な家族だと思ってるのに…君は俺のこと、嫌いなの?」

嫌いじゃないよ。
好きだよ、大好きだよ。

俺もこうすけが大事だよ。


俺まで涙があふれてきた。
床に膝を付き、こうすけを引き寄せる。

「分かってくれよ…こうすけ、分かってくれよ…!
俺はこうすけが大好きで、大事なんだよ…!」

本当にどうしてこんなことになってしまったのか。
大事な家族を、どうして引っ叩いてまで縛りつけておくことになったのか。

全ては最初の8月15日から始まった。

何で俺らがこんな目に遭うんだ?

神様に罰当てられるような、悪いことをいつしたって言うんだ?


互いを抱きしめ合って、俺らはただ泣き続けた。

15:咲:2012/02/29(水) 00:43 ID:KaE


こうすけは、泣き疲れて眠ってしまった。
ソファーにグッタリと沈み込む体。
まだ少し赤い頬が痛々しい。

「ごめんな…」

目に掛かりそうになっている前髪を、指でそっと撫でるように払う。
返事の代わりに静かな寝息が聞こえてくる。

こうすけ、さっき新聞取りに行こうとしてたな。
俺が外に出る分には、差し支えないはず。
代わりに取っておいてあげよう。

外に出て、新聞を取った時。

家の中から、ここにかけての空気に歪みがかかっているのに気づいた。

「っ…!?」

思わず口と鼻を抑える。

卵が腐ったような臭いだった。
何だよこれ……硫黄臭?

いつか理科の実験で嗅いだことのある臭いだが、度が全く違う。
それ以上の強烈な臭いに、体が苦しくなってくる。

「離れて!」

近所の人に腕を引かれ、家から離れた。

「あなた、大丈夫!?」

息の荒い俺の背中をさすってくれるおばさん。
隣の家の人で、よく果物などのお裾分けをすれたりする。

「誰か救急車!
あの家、毒ガスが充満してます!」

ど、毒ガス…?

そうだ、確かに硫黄臭は有毒だった。
尋常でないあの臭いはまさに毒ガス。

「こっ…こうすけっ!」

まだ家の中にはこうすけがいる。
毒された空気の中で、まだ眠っているのか、あるいは気を失っているかもしれない。

家に駆け出そうとするも、さっき吸い込んでしまった毒で体が重い。
目眩がして、崩れるようにへたり込んでしまう。

「ダメですよ、動いちゃ!
救急車がもうすぐ来ますから、その時にこうすけさんも…!」

おばさんの声、だんだん遠くなっていく。

この感覚…俺は気を失うのか?
でも、1つの世界の終わりを示すものではないはずだ。

こうすけは死んでいない。
ああ、でもあのままだと、こうすけは…




ハッと目が覚める。
そこは自分の家ではなかった。

白い天井に白い壁。
ピッピッと一定のリズムを刻む機械の音。

「気がつきましたか?」

若いナース服を着た女性が顔を覗き込む。

そうか、ここは病院か。
俺、あの後気を失って…

…あの後?

俺は布団から飛び起きた。
瞬間、腕で抑えられる。

「まだ安静にしてなきゃダメです!」

看護婦さんの声を無視して、俺は問い詰めた。

「こ、こうすけっ…! こうすけは!?」

看護婦さんの顔は一気に暗くなった。

「残念ですが…病院に着いた直後に亡くなりました。
あれだけ大量の毒素を吸ってしまっては…」

嘘だろ…?
助からなかった、のか…!?

窓の外で熱風が空気を歪ませる。
陽炎だということをボンヤリ認識する。

『嘘じゃないぞ』

もう聞き飽きたよ、その言葉は。

でも…こうすけが死ぬのなんて、何度経験したって耐えられない。
慣れることなんて、絶対にないんだ。

俺はこうすけが大切なんだ。

「先生、患者の状態が良くありません!」

「意識が不安定だな…鎮痛剤を!」

腕に鋭い痛みが走る。
注射を打たれたらしい。

即効性の物なのだろうか、眠気が襲ってきた。

きっとこれは、1つの世界の終わりを示す暗幕。
じゃあ俺はまた繰り返すのか?


なぁ…誰でもいい、教えてくれよ。
俺は一体、どうすればいいんだ?

16:咲:2012/03/03(土) 16:24 ID:bPc

何度世界が眩んでも。
陽炎が嗤って、奪い去る。

トラック、鉄柱、通り魔、誰かが投げ込んだ毒薬…

繰り返して何十年?


繰り返しに気づき始めたのは、何十年前?
何十年か前の今日、もしくは昨日。
俺が思ったこと。

映画や本でよくあるような、絵空事。

そう、本当にこれはそんな感じ。
ありがちな話じゃないか。
そういう場合、映画や本のパターンだとどうなるんだろう?

頭が回ってないのかな。
パターン例は思い出せないが、俺の中でもう答えは出ていた。


こんなよくある話なら、結末はきっと1つだけ。


俺は今、こうすけと一緒に公園にいる。
こうすけは黒猫を撫でて、嬉しそうだ。

すぐ近くには、全ての起点となったあの交差点が見える。


さぁ、繰り返した夏の日を終わらせよう。

17:咲:2012/03/09(金) 02:42 ID:bPc

こうすけの腕から黒猫が逃げ出す。
パッと立ち上がり、それを追いかけるこうすけ。

あの時のように、見ているだけなんてことはしない。

俺も後を追いかけて走っていく。
あの交差点の信号はチカチカと点滅を始めていた。

「待って!」

公園を駆け抜け、一直線に横断歩道に飛び出していくこうすけ。
信号は赤に変わったというのに。
何十年も繰り返してるのに、進歩がないなぁ。

フッと笑い、俺は勢いよくこうすけの腕を引いた。

「えっ…!?」

後ろに引かれるこうすけの体。
同時に俺の体は前に勢いよく飛び出していく。

瞬間、トラックにぶち当たる。

凄まじい打撃が体に走って倒れる。
地面に叩きつけられるまでの秒と言える時間に、痛みが何度も全身を貫いた。


これでいい…

これで運命は変わる…
もうこうすけは、死ななくて済むんだ。

こうすけにどうかハッピーエンドを。
何度も繰り返した、悲しすぎる夏の日を終えてほしい。
そして、その日々の向こう側にあるものを、こうすけには見てほしい。


いつか見たような、真っ赤な血飛沫の色。

その中に君の瞳を見つける。
信じられないと言った表情の、怯えて凍りついた目。
あの時の俺も、こんな顔してたかな。

軋み、地面に落ちていく自分の体。

全てが乱反射する。


泣きながら俺に駆け寄ってくるこうすけ。

「MASUDA!
死なないで、MASUDAぁあっ!」

ごめんな、怖かったろう。
でも、もうこうすけは解放されたよ。

君はこの先の世界で、何を見るんだろうね?
葉が鮮やかに色付く秋も、雪の降り積もる冬も、桜の舞い散る春も、きっと美しいよ。

できることなら…
一緒に…見たかった、なぁ……


ああ、どうか泣かないで。
そんなに悲しそうな顔をしないで。

非力で頼りなくて、何度も君につらい思いをさせてしまった。
時には君をこの手で傷つけたこともあった。

こうすけは、こんな俺でも一緒にいたいと言ってくれるのかい?

ありがとうな。
俺がこうすけを家族だと思ってくれていたように、こうすけも俺を家族だと思ってくれていたんだな。

俺はもう一緒にはいられないけど。
1つ心配するとしたら、君が誰かと笑い合える人になれるかだな。
俺がいなくても、そういう人になってくれよ。


俺の真上で、空気が歪むのが見える。
陽炎のお出ましか。

どことなく不満げで、文句ありげな陽炎に、口角が上がる。

「ざまぁみろよ。」

陽炎は俺の言葉を聞いたかのように、少し間を置いた後、スッと消えてしまった。
空気に歪みが消えて、心地よい風が吹く。

こうすけの俺を呼ぶ声。
野次馬たちのざわめき。
それらが、だんだん遠くなっていく。

もう、眠ってしまおう。
こんなに幸せな眠りにつけるのは、きっと何十年ぶり。

おやすみなさい―――


だんだん闇に呑まれていく世界に、俺は一瞬
こうすけの背後の空気が歪むのを見た気がした。


実によくある、夏の日のこと。
そんな何かがここで終わった。

18:咲:2012/03/16(金) 00:33 ID:bPc

目を覚ました、8月14日のベッドの上。
時計は午前12時過ぎを指す。

さっきの記憶を脳裏に呼び起こす。
自分を庇って、トラックの前に飛び出してしまった片割れ。
轢きずって、壊して、無慈悲に奪っていく。

おまえは俺の大切な人を何度でも奪っていく。
そうだろう、さっきから見ている陽炎よ。

『嘘じゃないぞ。』

ああ、知っているさ。
嘘なんかじゃない。 夢でもない。

おまえがしてきたことを、嘘や夢で片づけられてたまるか。

「…またダメだったよ……。」

猫を抱きかかえる。
君の重さもずっと変わらないな。

だけどもう、絶対に負けない。
今度こそ打ち勝ってやる。


隣で眠っている、大切な人。
もう1人の自分であり、そして俺の家族だ。

今はただ眠っていて。

朝が来れば、俺たちはまた繰り返すよ。

でもきっとそれも、今日で終わるから。
今度こそ終わらせてみせるから。
そして君には、繰り返した夏の日の向こうにあるものを見てほしい。
俺は一緒にはいられないけど、心の奥のどこかで感じてほしい。

もうすぐ終わるよ。

「そうだろう? MASUDA……。」




君が助からないと、夏は終われない―――

19:咲:2012/03/16(金) 11:18 ID:bPc

ここで、この物語はおしまい。

ところで僕が誰だか分かるかい?
ずっと君と同じように、あの2人を見ていたよ。
外からか中からかの違いはあるけどね。

そう、陽炎だよ。

この世の時間は大きく分けて3つ。
過去と今と未来なんだ。

時間と言えば、君たちの生きている時も時間だね。
生まれることと死ぬこと。
その間の時間を人生と言うことは知っているね?

過去は何度振り返っても、戻らない。
死んだ人が蘇るなんてこともない。

1人の人が死んだら、その人は二度と生き返らないよ。


じゃあ、あの2人はどうして二日間を繰り返すのかな?

時間のループなんて絵空事だ、なんて言ってたけど。
僕に言わせてもらえば、ありえないことはもっと前から始まっていたはずだよ。

増田こうすけとフォーエバーハンタ−MASUDA。
この2人の関係をもう一度、整理して考えてごらん?

MASUDAはこうすけが、理想の自分として描いたキャラクター。

つまり実在しないんだ。

実在しない者がどうして今まで、一緒に生きていられたの?
まずありえない点はここからだけど、この際それは置いておこう。
重要なのはここからだからね。

全く同じ人が1人もいない、この世界。
1つの同じ世界の中で、あの2人は同一の関係にあるんだよ。


人が1人死んだら、その人の存在はこの世から消える。

あの日、全ての事が始まった8月15日。
増田こうすけは不幸な事故に遭い、この世を去った。

だけど、同一人物であるMASUDAは生きている。

同じ自分が2つの個体に分けられて。

1人が死んでも1人は生きている。


この辺からすでに、世界の秩序が歪んでいたんじゃないかなぁ。


だからあの時…

いや、これ以上はやめておこう。


彼らがどうすれば救われるのか。
それは、君たちが考えるといいよ。


それじゃあ、皆様。
さようなら。


書き込む 最新10 サイトマップ