極道 〜生きる為に〜

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1:エルガ ◆hueM:2012/05/22(火) 08:19 ID:dUc

俺の両親は俺が幼い時から早くに亡くなった。
どうやら、事故で亡くなったようだ。

俺には3つ下の弟が居る。この時、俺達には2人で生きる術がなかった。
俺に力がないばかりにこんな事になってしまった。

御子柴;この世界わなァ!そんな甘かねぇんだよ!

目の前には刃物を持ち弟の血の着いた服を着て襲ってくる叔父が居た。

…なぜ、こうなったのだろう。

幼き日に俺達は親戚の元に預けられた。
それがそもそもの間違いなのだ。…親戚はいわば「極道」だった。
俺達の叔父「御子柴 源内」
極道の元締めでかなりの金持ちだ。俺達もその影響で15,6歳の時にこの世界に入った。
…否、入るほか生きる方法がなかった。


ーーーーー数年前ーーーーー

和昭;叔父さん、おはようございます。

御子柴;おう、坊主。兄貴は隣の部屋だ。起こして来い。飯だ。

和昭;はい。叔父さん。

叔父は俺達を虐待する訳でもなく、育児放棄も見られなかった。
故に俺達は直ぐに叔父に懐いた。
そんなある日、俺達は目撃したのだ。
叔父が買い物の最中に酒瓶を万引きする一部始終を。ソレも1本2本ではない。
叔父は後ろから見ていた俺達に気付くと、早々に買い物を切り上げ帰った。

数日後

御子柴;おい!武文!酒持って来い。

武文;叔父さん、お酒もうないよ?

御子柴;何、簡単な話よ。この間見せてやったようにすれば良い。

あの万引きの一部始終は俺達が居るのを知ってわざとやったものなのだ。
俺はこの時、叔父さんに呆れていた。
しかし、言う通りにしなければソレこそ虐待の素になり兼ねない
俺達には従うしかなかった。

こうして俺達の極道への入り口が開いたのだ。

2:エルガ ◆hueM:2012/05/22(火) 08:41 ID:dUc

俺達兄弟が極道として一端に動けるようになった頃
叔父は悩んでいた。
隣町の極道相手にシマを許すわけには行かないと
方々に駆けずり回った為に金を予想以上に使っていたのだ。

御子柴;このままじゃうちの組もお仕舞いかねぇ。

阿形;あの兄弟を利用してはどうです?ダンナ。

「阿形 宗一」…叔父の右腕だ。

御子柴;利用っつっても駆け出しのお坊ちゃまに出来る仕事なんざ…

阿形;相手の方にモグリをさせてはどうです?

御子柴;成る程な。よし。2人を呼べ。

阿形;分かりました。

俺達の仕事は簡単だった。
昔の俺達のように……「棄てられた動物」のように
相手のお偉いさんに拾って貰うだけだった。

上手くすれば相手の金目の物をせびるだけせびって逃げる。
のが目的だった。

相手の所には俺だけが居た。
そう、此処で俺が不祥事を起こし
クライアントに扮した和昭が組にイチャモンをつける。
そこで金で示談成立をさせるよう叔父の指示だった。

事は上手くいった。
危うく俺もボコボコにされる所で冷や冷やとしたが
相手のお偉いさんも新人1人のミスを
寛大な眼で見てくれた。

その翌日、俺達はその組からは綺麗さっぱり姿をくらまし
逃げる事に成功した。
しかし
和昭だけは納得の行かない顔付きで俺達は叔父さんの家に帰った。

3:エルガ ◆hueM:2012/05/22(火) 22:12 ID:dUc

その日、和昭はとうとう俺に胸の内の心境を話し出した。

和昭;兄貴、俺、もう足洗いたいよ。…まともに生きたいよ。

武文;何言ってんだ。今まで誰のお陰で生きて来れたんだ?恩知らずとか言われるぞ?

和昭;叔父さんには悪いと思う!だけど俺達だってもう大人なんだぜ?

武文;我が侭ばかり言うな!後少しで成人できる。そうすれば自由なんだから!

和昭;分かってねぇ…!分かってねぇよ!兄ちゃんはよぉ!

和昭の涙を俺は久しぶりにみた。
ガキの頃、一度だけ和昭が大号泣した事がある…
叔父の家で俺達を迎え入れる準備をする間、俺達は施設に預けられて居たが
ある日、俺と和昭は別々の施設に別れる事になったのだ。

その時、和昭はとうとう泣いた。
無口で無愛想で何時もむすっとしているような弟が
初めて兄の前で「離れたくない」と泣き出した。
ソレもそのはずだ
訳も知らず両親は目の前から消え、挙句は兄まで取り上げられそうになったのだ。
和昭からすれば唯一の支えが武文だったのかも知れない。
彼の涙はそれ以来見る事はなかった。

武文;か、和昭!

彼は部屋から出て行ってしまった。
俺としても弟の真っ当な気持ちを踏み躙るつもりはないのだ。
ただ、彼にも少し「我慢」を覚えて欲しかっただけなのだ。
兄として教育の手を差し伸べたつもりが逆効果だったようだ。

和昭;俺は別に…兄貴を恨んじゃいない。叔父さんしか頼れなかったのも分かる。
だけど、何時までも子供じゃない。兄弟2人手を取って真っ当に生きたかっただけなのに!

和昭の苛立ちは蓄積される一方なのだ。
彼は頑固で言いたい事を言わない
故に爆発した時が怖いが、今まで眼を背けていたのは俺の方かも知れない。

俺はこの事を叔父に相談した。
叔父は直ぐには怒らなかった。

源内;和昭にも「正義の心」ってのがあるんだ。…確かに、アイツのその心じゃ此処は生き辛い場所よ。
お前がちゃんと面倒見るならアイツの言うように好きに生きてみれば良い。
その為の準備は俺がしといてやる。だから、もう一度、話し合って来い。

叔父のその言葉を聞き、俺は心底安堵した。
ドラマや映画ではこんな事を切り出せば「落とし前」をつけるハメになる。
それが内心怖かった。
だが、その言葉をきっかけに俺達兄弟の2人だけの生活が始まった。

4:エルガ ◆hueM:2012/05/25(金) 17:56 ID:dUc

和昭とマンションで暮らし始め数ヶ月。
彼は気付いていない。この生活に違和感がある事を。

事が発覚したのは数週間前。
買い物帰りの俺達を尾行する奴が2人。
後になって詳細を掴んだ。俺達2人が詐欺で金を騙し取ったあの極道の下っ端だ。

恐らく俺達が何者なのか、知ってしまったのだろう。
直ぐにでも襲われるかと思って居たがコレがまた恐怖を煽るように中々手を出さない。

武文;もしもし。叔父さん?

源内;どないしたんやね。急に。

武文;実はよォ…。

俺は直ぐに叔父にこの事を報告した。
それから今日のこの日まで叔父は俺達に危害が加えられないようにとボディガードとは言わないが
右腕である阿形をマンションによこした。

阿形;坊ちゃん。あの男共が例の?

阿形は窓から双眼鏡で男達の動向を見つめる。

武文;何とかならんかねぇ。おっちゃん。

和昭;おちおち買い物にも行けないよ。コレじゃあ。

阿形;今、動くのはマズイですねぇ…。あいつ等を消せば坊ちゃん達がどうなるか…。

阿形は極道からの報復を気にし手は打たずしばらくは動かなかった。
しかし、この日和昭が息を切らせて帰ってきた。

和昭;兄貴!

武文;どうしたんだ?騒々しいじゃん。

和昭;阿形のおっちゃんが連中に茶封筒渡してるの見た!アレ、多分金だ!!

武文;示談でも持ちかけたのかな…。おっちゃんらしいじゃん。

この時、俺は阿形の行動が単なる「防衛策」にしか映らなかった。
阿形のこの行動の真意も知らずに……。

5:エルガ ◆hueM:2012/05/25(金) 20:27 ID:dUc

阿形の行為…その真意は
俺達の売身にあった。
俺達はその日、複数の男達に囲まれ危機にあった。

阿形の裏切りは即ち、叔父の裏切りに当たる。

そうだ。今思えば叔父は急激に余所余所しい態度で俺達に接するようになった。
和昭の心境を話したあの日から…。

阿形;お坊ちゃん達には申し訳ないが…消えてもらうとする。

武文;お、おっちゃん!どういう事だよ!

阿形;お前等が居たせいで俺は右腕止まり。挙句そっちのボーヤは足を洗いたいと来た。

彼の言い分はこうだ
俺達の存在がなければ阿形はもうじき別の組を任される算段にあった。
しかし、俺達の登場によりその状況は一変。
叔父は俺達に組を任せようと考え出したのだ。しかし、和昭の考えを聞いた叔父は
「自分の駒として使えないなら切り捨てるべきだ」と考えたのだ。

和昭;お、俺が…俺達がおっちゃんの邪魔をしたとでも言うのか!

阿形;黙れ!坊主!一度この道に踏み込んだからにはなぁ、死ぬまでシャバじゃ通用しねーんだよ!

武文;そりゃないぜ、おっちゃん。何とか叔父さんと話し合おうって!

阿形;源内さんも了解の下だ。悪いがそりゃ出来ねぇ相談だな。

武文;じ、じゃあせめて叔父さんに直談判くらいさせてくれよ…!

阿形;源内さんが考えを変えるとでも?笑わせるなよ?小僧。

もはや、阿形には話し合いで解決できる予知などなかった。
案の定、俺達は複数人掛かりでボコボコにされた。

其処に交番勤務の警官が来てようやく助かったのだ。

阿形;運が良いなぁ、クソガキ共。…まぁ、次はねぇと思え。

俺達は病院送り
警官からは事情聴取の嵐
病院に居ると言うのに休まる事がない
だが、俺はまだ良い。
和昭の方が重症だった。肋を2本と右足を骨折。意識不明の重体ときた。

やけに俺達に関心を向ける警官が1人居た…。

尾高 誠二
中年始めくらいの年齢で頬には縫った後がある
一昔前の熱血警官を思わせる風貌だった。

誠二;君等は…極道の幹部だったのか?

武文;違う。…両親が亡くなって叔父に預けられていただけだ。

誠二;その叔父が極道の素締めだった?

武文;弟の意向で足を洗って生活し始めた所だ。もう少しで成人だったし。まともに生きようってな。

誠二;その落とし前にリンチか…。

この時、誠二との出会いが後の俺達の生活を大きく左右する事を、俺はまだ知らない。

6:エルガ ◆hueM:2012/05/26(土) 20:42 ID:dUc

誠二との出会いから半年。
俺達は隠れるようにして住居を転々としていた。
「次はない」あの言葉がウソとは到底思えない。
幸い、数ヶ月前に和昭も無事、意識を取り戻し今は俺と一緒に居る。

あの一件から誠二がちょくちょく連絡をよこすようになった。
いや、彼にとってもそうせざるを得ない秘密がある。

俺達が生まれる数年前の話しだ。
誠二自身もいわば「極道の端くれ」だったのだ。

やはり足を洗うのには相当の苦労があったらしい。
しかし、いざ自分が警官になってしまうとそういったしがらみもあっさり無くなったという。

そう。彼は「追われる側」でなく「追う側」になったのだ。

和昭;兄貴、何時までもこうしちゃ居られねぇぜ?

武文;わーってるよ。でも、今はコレが精一杯だ。

現に俺達2人の稼ぎではコレが限界なのだ。

和昭;叔父さん、本当に俺達の事消そうってのかな・・・。

武文;うんや。本気なら入院中も関係なく来るだろ。遊んでんだよ…叔父さんはよ。

最後の一言は年頃の弟には少し酷なセリフだったかも知れない。
和昭は俯き言葉を発さなくなった。


一方、源内邸では。
阿形が鬼の形相で部下を怒鳴っていた。

阿形;テメェら!子鼠1匹に何手間取ってんだ!?やる気あんのか?あぁ!!

源内;…。

阿形;良く聞け、テメェら。源内さんが黙ってる内に鼠の一匹とっ捕まえて来い!
失敗した奴は源内さんの前で首括れ!!

部下;…オッス!!!


源内邸を騒がせていた騒動。それは
部下の1人が組の金を持って逃げ出した事から始まった。
その部下は翌朝近場の湖で水死体として名が挙がった。
その部下の体には複数の打撲痕があった事からニュースでも大々的に「殺人」だ。と狼煙があがった。

もはや、この組には半殺しにしたちっぽけな兄弟など映っては居なかった。

7:エルガ ◆hueM:2012/05/28(月) 22:05 ID:dUc

それから数日、俺達は平穏な生活を送っていた…はずだった。
ただ1人、俺達の存在に眼を光らせていた男が居る。…源内だ。

阿形やその他諸々の人間は金を持って逃げた「鼠」を追っていたのに。

武文;もしもし。…叔父さん…。

源内;おう、小僧。久しぶりだな。

武文;何なんだよ…今更。

源内;お前達2人に「最後の仕事」をして欲しくてな。

武文;俺達に関わらないでくれよ。

源内;まァ、そう言うな。コレさえ受けてくれれば阿形にも撤廃の指示を出すが…。

武文;…話だけは…聞くよ。

源内の言う「最後の仕事」それは「鼠の捜索」だった。
大方、鼠を引っさげた猫を一網打尽にしたいが為の理屈だろう。
この仕事を引き受ければまず間違いなく帰ってくる事は出来ないだろう。

数日後、俺は源内邸を訪れて居た。
和昭には秘密で源内との仕事の話をしに。

武文;本当に最後ですか?

源内;何なら、一筆書いても良いぜ?小僧。

武文;「鼠」の事は何処まで探ってるんです?

源内;詳しい事は阿形から聞け。…おい!

阿形;源内さん。お呼びで?

源内;例の一件。話してやれ。

阿形;分かりました。

「鼠」は複数犯ではなく1人である事。
そして、その犯人は前回俺達が金をぼったくった組の仕業だった。
一方では源内と徒党を組み俺達兄弟を追って居たが
次第に、源内への報復も兼ねて組から逃げた男に金を持って来るように指示していた。
しかし、その最中、同組の下っ端が金を横取りし蒸発したらしい。

そうして、話を聞き終え俺も「鼠」捜索に撃って出たのだ。

8:エルガ ◆hueM:2012/05/29(火) 11:32 ID:dUc

鼠の捜索は難航し和昭にも幾度となくバレそうにもなった。
しかし、俺には心当たりがあった。

鼠が隠れるのは巣穴
そう、つまりヤツは「帰郷」しているかもしれない
大概の人間は国外にでも逃げるだろうが
それはかえって足が付き易い。隠れるのなら田舎が適している
自分が田舎の事を話さなければ誰にも知られる事はないのだから。

案の定、そのことに気付いてから鼠の発見は直ぐだった。
…コレで、真っ当に生きられる。コレで兄弟の夢が叶う。

俺は帰り道の駅のホームで和昭とばったり会った。
和昭は全てを知っていた。

和昭;叔父さんが兄貴だけに連絡をよこす訳がないだろう。

武文;『っち、あのジジィ余計な真似しやがって』

和昭;そんな事で関わりを断つわけないだろう!?どうせまた良い様に使われる!

武文;そ、その時は…その時の流れってもんが…

和昭;なんで断らなかった?

武文;…。

勝手に、何処かで叔父に使われる事を今までの養育への恩返しだと思い込んでいた。
和昭に叱咤された今、俺はその事を忘れていた。
叱咤されたからこそ、その身勝手な言い分が脳裏に滲み出て来た。

次の瞬間、横で鈍い音がした。
冷凍マグロの解体ショーを行うように「ザクッ」っと鈍く尖った音が…。

武文;っな…!

和昭;あ、あん…ちゃん

和昭は膝から倒れ込み後ろから姿を見せたのは源内だった。
ヤツの手には太く長い折り畳みのナイフが握られそのナイフには血が付いていた。

武文;か、和昭!おい、和昭!

和昭;だ、だから言ったじゃないか…あんちゃん。関係が断たれる事なんてないんだよ!

武文;すまねぇ…。俺が悪かったよ、和昭。眼ェ開けよ!和昭!

和昭;真っ当になんて…生きられなかったんだ。所詮、夢だった。

武文;お前が諦めてどうするんだよ。言いだしっぺが逃げんじゃねぇよ!

俺は源内を睨んだ。

御子柴;この世界はなァ!そんな甘かねぇんだよ!

9:エルガ ◆hueM:2012/06/11(月) 22:30 ID:dUc

1年後…。

俺は和昭の一回忌を彼の墓の前で悲しみに浸っていた。

武文;よぉ…和昭よ。俺、お前の前で泣いた事ねぇよな。だけどよ。今だけ、今だけ許してくれ。

皮肉にも叔父を逮捕したのは誠二だった。


武文が墓から去ろうと振り返った先には誠二が花を持ち立っていた。

武文;せ、誠二さん。

誠二;何、気にしないでくれ。今の言葉は聞かなかった事にするし、その涙も…。

武文;…。

誠二;1年…流れるのはこうもあっけないものなのか。


皮肉は続き、俺も交番勤務ではあるが警官として働いていた。
和昭の残した言葉「真っ当に生きる」を胸に秘め
俺は日夜人の為に働いている

今までの人生から考えれば180度違う人生に
俺は正直に「怖かった」

誠二;どうだい?仕事は。

武文;あの日、未熟だった俺は死にました。

誠二;?

武文;今日と言う日はただ「和昭の墓参り」というだけでなくあの日の自分への追悼なのですよ。

誠二;追悼…ねぇ。

武文;誠二さんには感謝してます。俺達兄弟の夢です

誠二;夢?

武文;真っ当に生きる。…その先にある物を…見せてもらった気がします

和昭が刺され俺までもが襲われた時
をの間に割って入って来たのが誠二だった。

御子柴;サツが家庭事情に首突っ込むんじゃねぇよ!退け!

誠二;よぉ…。あの御子柴一家の頭目が随分と必死じゃねぇかよ。

御子柴;そりゃそうだ。教育の一環だからなぁ。

誠二;生憎、まともに生きようとするこの子達はもう教育なんていらねぇよ。
おい、連れてけ!

警官;はい。

全てを終え誠二はタバコで一服する。

誠二;俺も弟君の墓参り。しても良いかよ?坊主。

武文;勿論ですよ。誠二さん



よぉ、和昭よ。
…あんちゃん、頑張るからよ。
真っ当に生きるからよ…。心配しないでくれよな。

〜END〜


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