執事さまはご主人様!

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1:きなこ ◆Cb.I:2012/07/20(金) 01:19 ID:ubU

執事に恋しちゃいけないなんて、一体誰が決めたんですか?

2:きなこ ◆Cb.I:2012/07/20(金) 01:24 ID:/UM

「篠原、三時のお茶には最高級のダージリンをお願いね。ああ、それと。苺のたくさん乗ったタルトも食べたいの」

「かしこまりました、雪菜お嬢様」

 窓から見える大きな庭園。真ん中には噴水が虹を作っている。
 それを見つめるのはパニエの入ったドレスを着た少女。
 そしてその隣りには、黒い服を着た“執事”

 漫画の様な悲現実的な世界も、この少女にとっては当たり前の日常である。

 何を隠そう、彼女は大財閥の跡取り娘。幼い頃から何の不自由も無く暮らしてきたのである。

「ふふ、甘くて美味しい」

 呑気にタルトを頬張る少女に、ついさっきまでは心配事などは無縁のものだった。

“ついさっきまで”は。

3:きなこ ◆Cb.I:2012/07/20(金) 01:27 ID:Pc.

「お父様、お話とは何でしょう?」

「雪菜……すまない!」

 雪菜は唖然とした。話があると呼び出され、部屋に入った矢先に突然の平謝りだった。

「ななな、何を謝っておりますの?」

 慌てて父親に駆け寄ると、父親は申し訳なさそうに口を開いた。


「財政破綻したんだ……それで、借金取りに追われてしまって…」

 訳の分からない単語を羅列させられ、雪菜の頭は混乱していた。
 だが、父親の顔色を見るからにただ事では無いことだけ分かる。



「だから…雪菜、お前を売ることになったんだ……」

4:きなこ ◆Cb.I:2012/07/20(金) 01:31 ID:t3g

「う、売るって……!?」

 雪菜の言葉と同時に、父親がパチンと指を鳴らす。すると、何処からか黒服に身を包んだ男達が現れ、雪菜を羽交い締めにする。

「な、何するのよ!」
「騒ぐな!お前は今日から…俺達の商売道具だ!」

(助けて!)

 雪菜は混乱しきっていた。父親の自分への行動、裏切り、恐怖。

(助けて、助けて助けて助けて……!)

 男が抵抗する雪菜の鼻にハンカチをあてがうと、雪菜はくたりと身体から力が抜け、パタリと倒れてしまった。


「助けて、ゆうや−……」

 意識を失う直前、絶望の中で叫んだ彼女のかすれた声は、誰に届いたのだろう。

5:レモン:2012/07/20(金) 21:21 ID:/46

おもしろいです!!
早く続きがよみたいよぉー!!

6:きなこ ◆Cb.I:2012/07/21(土) 21:43 ID:VRE

>>5
ありがとうございます(*´`*)!
早く続きを書けるよう、頑張ります!!
------------
「ん……?」

「よォ、起きたか嬢ちゃん」

 男に声を掛けられ、目覚めた場所はふかふかのベッドではなく駐車場と言うことに気付く。薄暗くて埃っぽい。
 そして、手足を縛られている事にも気付いた。

「どうして私を縛っているの!?」
「別に手荒な真似はしねえよ。
……そうだな、嬢ちゃん人身売買って知ってるか?」

(じ、人身売買だなんて、十分手荒な真似じゃない!)

 肌に食い込む縄が痛い。これから何が起こるのかと思うと恐怖で涙が出てくる。

「チッ、ピーピー泣くんじゃねえ!」
 泣いたら買って貰えなくなるだろ!と男が恐ろしい形相で手を振り上げる。

(やだ、助けて……!)

 きゅ、と眼を瞑る。

「…あ、あれ……?」

 しかし、雪菜は何も痛みを感じなかった。不思議に思っていると、雪菜には聞き慣れた、凛々しくも優しい声がした。




「助けに参りました、お嬢様」

7:きなこ ◆Cb.I:2012/07/21(土) 22:55 ID:Pc.

「篠原!」

 “篠原”と呼ばれた青年は、男の手をパシ、と掴んだ。すると、次第に男は顔を歪め始め、よろよろと威勢を失っていった。

「お怪我はありませんか、お嬢様」
「え、ええ……」

 少年は雪菜の元へ行き、シュルリと縄をほどく。雪菜の白い肌には、赤い痕が付いていた。

「なんだ手前!人の商売に手ェ出しやがって!」
「やっちまえ!」

 男の仲間達が青年へと襲い掛かる。二、四、六、八……全部で十人近く居る。
 そんな男達にビクリともせず、青年は冷たく言った。

「私のお嬢様に手を出した罪は、重いですよ?」

8:きなこ ◆Cb.I:2012/07/21(土) 23:32 ID:wnw

 気付けば、もう周りには男達は居なかった。最後にバタバタと逃げてゆく足音が聞こえた気もする。

「ああ、篠原−…」「さて、頂いた給料分の仕事は終わりました」

 雪菜を遮るかの様に篠原が立ち上がる。何をするのかと思えば、そのまま静かに去って行こうとするではないか。

「待ちなさい!しゅ、主人である私を置いて帰るって、どういう事なの!?」

 篠原の執事服の袖をぎゅっと掴むと、フンと鼻で笑われた。

「…私はもう貴方の執事では無いんですよ」

9:きなこ ◆Cb.I:2012/07/21(土) 23:48 ID:/UM

「え……?」

「貴方の家は財政破綻した、それで私への給料も払えなくなった。だから終わりです。
執事だって職業ですから」

 雪菜は硬直した。自分はこれからどうすれば良いのだろう。きっと家には戻れないだろう。

「し、篠原は…これからどうするの?」

「私は別の家に仕えます」

 もしかしたらこの冷酷とも言える執事無しの生活が考えられなかったのかもしれない。とにかく、雪菜は叫んでいた。


「私を、貴方のもとで働かせて!」

10:きなこ ◆Cb.I:2012/07/22(日) 00:14 ID:y6.

 突然の申し出に驚いたのか、篠原は二、三回目をパチパチさせた。

「……本気ですか?」

 雪菜は頭がぐるぐるしたが、もう後戻りは出来ないと思った。

「本気よ」

 返事を聞くと、篠原はクスリと笑みを浮かべる。なんとなくムカつく、と雪菜は思ったが声には出さない。

「……じゃあ、着いて来いよ」

 そう言うと、篠原の雰囲気が変わった。
 凛々しくも優しい声は、挑戦的な声へと。顔立ちはまるで悪戯をする子供の様。

 絶対に“執事”を連想させる人物では無くなっていた。


「あ、そうだ。俺のもとで働くんだったら……

今日から俺、お前の主人だからな」

11:きなこ ◆Cb.I:2012/07/22(日) 22:07 ID:gO6

「自分で言ったのも悪いけど……意味が分からない!」

 小さな部屋の中で雪菜は呟く。事の発端は一時間前の出来事だった。


『ちょ、主人ってどういうこと!?』

『俺のもとで働くって事は、俺の部下になるってことだろ。つまりそういう事だよ。

あ、それと。主人じゃなくて、ご主人様って言いな。可愛くない』

 篠原の一歩後ろを雪菜が急ぎ足で付いて行く。いつも篠原は自分の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれるから、彼がこんなにも早足だなんて知らなかった。
 そうして一軒の大きな屋敷へと着いた。
(私の家の半分くらいかしら)
 なんて、もう戻らない幸福への嫌味を思ってみたりした。

『此処はどこなの?』

『知りたいか?

 此処は召使い養成塾。今日からお前はここの生徒だ』

12:レモン:2012/07/23(月) 16:02 ID:/46

おおー!!おもしろくなってきたー!!

13:あすリン ◆O8jI:2012/07/23(月) 16:40 ID:6f.

こんにちは。。いきなりすみません!えっと、スゴイ面白いです!
続きが気になりますw
これからも読みます!

14:きなこ ◆Cb.I:2012/07/23(月) 21:11 ID:Pg.

>>12
わー!また来てくれたんですか(^^)♪
ありがとうございます!
頑張りますo(`^´*)!!

>>13
こんにちは!
わわわ、ありがとうございます><!
グダグダですがお付き合い下さいませ(^^)笑

15:きなこ ◆Cb.I:2012/07/23(月) 21:43 ID:qWY

『生徒!?』

『あ、因みに俺が塾長だからな。ご主人様兼先生って、ありがたいだろ?』

 箱入りお嬢様は何にも知らないからなァ?と耳元で囁かれ、その挑発的な態度に雪菜のこめかみは激しく青筋を立てる。

『まあ落ち着けって、血の気の多い奴だな。
そうだ、準備があるから少し待っててくれ』

 そう言って篠原は雪菜を小さな部屋へと押し込み、今に至る。

 白いカーテンの靡く窓際には、淡いピンクの花が飾られている。
 質素だが殺風景ではない、この小さな部屋の家主であろう塾長が、あのクソ生意気(元)執事だと云う事にムカつく。

「何が箱入りお嬢様よ!そんなの打破してやるわよ!」

 私は、誰もが認める完璧な召使いになってやる!雪菜は変に燃え上がった。

「それはそれは、先が楽しみですね!」

 すると、ガチャリと扉が開き、誰か入ってきた。

16:きなこ ◆Cb.I:2012/07/24(火) 00:19 ID:/UM

「だ、誰!?」

「あ、初めまして!あたしは楠木日和と言います!」

 パッチリとした黒い目に、ハニーブラウンのおさげを靡かせ、丈の長いメイド服を着ている少女が、黒い大きな鞄を抱えて歩いてきた。

 …後ろに、背後霊を連れて。

「あ、あの…その後ろの方は…?」

「あ、忘れてました!あたしの弟です!ほら日向、挨拶して!」

 どうやら背後霊と思ったのは、日和の弟、日向という名前のれっきとした人間らしい。
 日和より少し色素の強い、ハネっ気の強い髪は伸びっぱなしの様で、片目が隠れた状態だ。

 もっさりしてるなぁ、なんて雪菜は思った。

「……」

 日和の後ろに隠れる日向。と言っても、明らかに日向の身長の方が高いので隠れた事にはなっていないが。

「あ…わ、私は廻崎雪菜と言います。よろしくね」

 日向の沈黙に耐えられなくなった雪菜が、精一杯笑顔を作って挨拶をすると、日和と日向の顔色が変わった。

「めぐり…ざき…!?」

17:きなこ ◆Cb.I:2012/07/24(火) 19:53 ID:/UM

 楠木姉弟は雪菜をまじまじと見つめる。まるで、珍しい宝の地図を見つめる様に。
 日和が恐る恐る口を開いた。

「廻崎財閥、ですよね?」

「そうよ。…今は財閥じゃないけど」

 雪菜の返答を聞いた途端、日和はやったー!と大きく飛び上がった。まるで、宝箱を見つけたかの様に。
 そんな日和の後ろで、日向がクスリと笑う。

「塾長が一年も仕えたという奇跡のお嬢様、廻崎……!
まさか、この目で見れるだなんて…あたし感激です!」

「き、奇跡のお嬢様って!?」

18:きなこ ◆Cb.I:2012/07/24(火) 20:14 ID:wnw

 私が奇跡!?雪菜は驚いた。と、同時にとりわけ特徴も何も無い自分が「奇跡」だなんて呼ばれている事に少しくすぐったい感情を覚えた。

「塾長は、仕える家を直ぐにコロコロと変えてしまうんです。“お暇を頂戴します”って。
だから、一年も続いた廻崎様は素晴らしいのですよ!」

「は、はあ……」

 なんて無責任な執事なのだろう。

「でも、どうして私なんかが続いたのかしら…?」

 疑問だ。さっきの態度を見ると、篠原が雪菜に心からの敬意があるとは思えない。雑用もやらせていたから、堪る事もあっただろう。

 それなのに、どうして


「はいはい、無駄なお喋りはその辺で終わりだ」

19:きなこ ◆Cb.I:2012/07/25(水) 22:33 ID:pYE

(げ、篠原!…じゃなかった、ご主人様)

 何時から居たのか、篠原が手をパンパンと叩き、雪菜と楠木姉弟の間に入って来た。

「あ、塾長!」

「よ、日和。コイツに説明はもう済んだか?」

 篠原がコイツ、と雪菜を指差すと、日和は「あっ」と思い出したかの様に口に手を当てた。
 後ろで日向が不機嫌そうに何かボソボソと言っている。


「それでは、前置きはこのくらいにして。この塾の説明をします。雪菜さん、しっかり聞いていて下さいね!」

20:♪雪菜♪:2012/07/25(水) 23:48 ID:pcM

小説おもしろいです!

自分と同じ名前で、なんか嬉しいですW

続き楽しみにしてます♪
 

21:きなこ ◆Cb.I:2012/07/26(木) 19:59 ID:tzs

>>20
ありがとうございます!!

あ…確かに同じ名前でしたねw

頑張ります!!
雪菜さんの小説も楽しみにしております(*´∪`*)★

22:きなこ ◆Cb.I:2012/07/26(木) 22:18 ID:y6.

 日和が鞄を開けて、中から黒い服を取り出す。チラチラと白いフリルも見え隠れしている。

「これが今日から貴方の制服、メイド服です!」

 日和はバサッとメイド服を広げると、黒を主体とした短いワンピース状の衣服が姿を見せた。

「こ、これを明日から着るの……!?」

 雪菜はギョッとした。スカートの中のパニエはともかく、エプロンには大量のフリルが付いている。
 何より、スカートが日和のと比べとても短い。太股がやっと隠れるくらいである。

(これ、所謂“萌え系”とか云う類のじゃないかしら……)

「あ、あの……日和のと随分と丈が違う気がするのだけど…」

 雪菜が恐る恐る訊ねると、篠原がにやりと口角を上げた。

「そりゃ、お前の為にわざわざ特注したんだからさ」

23:きなこ  ◆Cb.I:2012/07/27(金) 19:58 ID:gO6

(な、なんて嫌がらせよ……!?)
 雪菜は唖然とする。自分の今までの服装は、もっと淑やかだった筈だ。

「はいはい、説明を続けますよ。
 これから雪菜さんにはこの塾で召使いとしてのたしなみを、しっかりと勉強してもらいます。
 起床時間は5時、就寝時間は11時です。朝は早いですが頑張って下さいね!」

 すると日和は、鞄からゴソゴソと何か取り出して雪菜に差し出した。

24:レモン:2012/07/28(土) 11:47 ID:/46

ちょーーーーー!!
おもしろい!!
こうゆうのちょーーー好き!!
続き楽しみ〜!!

25:きなこ ◆Cb.I:2012/07/28(土) 20:05 ID:NkE

>>24
わーーー!!
ありがとうございますーーー(*´∇`*)笑

26:きなこ ◆Cb.I:2012/07/28(土) 22:22 ID:gO6

 手渡されたそれは、淡い青色で薔薇の形をしている。ブローチだろうか。

「綺麗…これは?」

「このブローチは、いわゆる生徒証みたいなものです!」

「生徒証……あれ、どうして貴方のと色が違うの?」

 確かに、日和の胸には桃色の薔薇が咲いている。雪菜が不思議そうに尋ねると、後ろでボソボソと何か聞こえた。

「お前と姉貴を一緒にするな…………」

 日向だ。日和の袖をぎゅっと握り、ギロリと雪菜を睨んでいる。

「あーあーあ。日向を怒らせちまったな。箱入りお嬢様よォ?
 このブローチは階級、つまりクラスを表すんだ。
 で、お前の青色の薔薇は一番下なわけ」

 今度は日和の代わりの様に、篠原が悪態を付きつつ説明を始めた。
 

27:きなこ ◆Cb.I:2012/07/28(土) 22:35 ID:gO6

 階級は六段階あり、進級試験に受かると薔薇の色が変わるらしい。
 そして、最上級の赤い薔薇のブローチになった時、「完璧な存在」となったであろう生徒は、この塾を卒業するらしい。

「ふふ、さっさと赤い薔薇に進級して完璧な召使いになってやるわよ!箱入りお嬢様なんて言わせないんだからね!」

「威勢良いな、箱入りお嬢様。でもお前が付けてる青の薔薇の花言葉って『不可能』なんだよな〜」

「なんですってー!」

 雪菜と篠原のやり取りを見て、日和がクスクスと楽しそうに笑う。これから楽しそうになりそうですね、なんて呟いて。
 

28:きなこ ◆Cb.I:2012/07/28(土) 22:49 ID:gO6

「ま、頑張れや」

 へらりと笑って篠原が雪菜の頭をポンポンと叩いた。

「ひゃ……な、何するのよ!」

「活を入れてやったんだよ、活を」

「余計なお世話かしらっ!」

 驚いたり怒ったり、くるくると表情を変える雪菜にさらにちょっかいを掛ける篠原。もう彼は完全に遊んでいるのだろう。
 ギャースカとまるで子供の様に言い合いをする篠原と雪菜に、日和は微笑む。

「ね、この二人、なんだか良い感じだね。日向君」

「姉貴がそういうなら俺も良い感じなんだと思う……

だけど…掟は絶対だから……」

 夕焼けの光が窓からそそぎ、ピンクの花を照らす。ふわりと入ってきた風は冷たかった。

29:きなこ ◆Cb.I:2012/07/28(土) 23:17 ID:gO6

「…それではブローチの事も言いましたし、後は慣れてくれば分かると思います!
 因みに今日から此処が貴方の部屋です。それではごきげんよう!」

 さ、日向君行くよ!と日和は黒い鞄を抱えて部屋を去っていった。引っ付く様に日向が付いていく。
 二人が居なくなった事で、少し部屋が静まる。

(改めてコイツと二人っきりになると……気まずい…!)

 風の音が五月蝿すぎるくらいの静寂。ふわあ、と篠原は欠伸をしている。

雪菜には聞きたいことが沢山あった。
 どうして私を助けてくれたのか、どうして自分は一年も持った「奇跡のお嬢様」なのか。

 「ねえ、あの時どうして私を助けたの?」

 沈黙を突然断ち切った雪菜に、篠原は少し驚く。が、質問の内容を把握するとニヤニヤと面白そうな笑みを浮かべた。

「知りたいか?」

「うん、とっても」

 そうだなー…と篠原は人差し指を口元に当てて考える素振りをしてから、簡潔にこう言った。

「俺がアンタの執事だったから、かな」

 
 

30:きなこ ◆Cb.I:2012/07/29(日) 10:30 ID:BlI

「え……でも、私の元に助けに行かなくたって給料分の仕事は終わった筈じゃない?」

 雪菜の処へ助けに行かなくたって仕事はあった筈だ。何より父親が阻止するのではないか。

「…分かってねェな。これだから箱入りお嬢様は。
とにかく、今日はゆっくり休め。明日からの過酷な勉強に耐える為にな!」

 じゃあな、と手をヒラヒラ振って篠原は部屋を出ていった。消化不良で取り残される雪菜。

「な、なんなのよ……」

 一人悪態を付くが勿論返事はあらず、ひゅうひゅうと風の鳴る音だけが聞こえた。

「とりあえず…もう寝よう」

 篠原の思惑通りに動くのは少し悔しかったが、誘拐されたり何だったりと色々な事があって疲れていたのは事実だった。

 部屋の隅にペタンコのベッドがあった。
 「なんでもっとフワフワじゃないのよー!」と文句を言う事も忘れ、雪菜は倒れ込んだ。




「本当、箱入りお嬢様は何も分かってねェよ。

あの時、俺の名前を呼んだ癖に……」

31:琴乃 ◆qZls:2012/07/29(日) 12:45 ID:vZ6

うわあ、すごい続き気になるー><
書くの大変だと思うけど、ガンバってください!応援します!
これからも続き読みます!!

32:♪雪菜♪:2012/07/29(日) 14:13 ID:27s

篠原のキャラやばい!

超〜好きです(*^v^*)/

続きがんばってください!!

応援してます♪

33:きなこ ◆Cb.I:2012/07/29(日) 15:08 ID:R3c

>>31
ありがとうございます!!
わー(*´`*)
読み続けてくれる方の事を考えて、大変なのも忘れちゃうぐらい頑張っちゃいますよー!!笑

>>32
篠原君が好きですか〜(*^▽^*)
ありがとうございます!!
頑張ります♪

34:きなこ ◆Cb.I:2012/07/29(日) 17:09 ID:HBQ

 −次の日。窓から入ってくる光と、小鳥の囀り…そして。

「はいはいはーい!朝ですよ!遅れちゃダメですよー!」

 フライパンにお玉をガンガンと叩きつける日和の大声で雪菜は目を覚ました。後ろにはやっぱり背後霊、もとい日向が居る。

「ん……も、もう朝?」

「そうですよ!さあ早く着替えて!…あ、あたし達は外で待ってますから!」

 コシコシと雪菜は目を擦る。日の光が眩しくてよく見えない。
 やっとの事で手探りで携帯を探し、時刻を見ると、「4:50」の数字。


 雪菜が焦って必死に着替えたのは言うまでもない。

35:きなこ ◆Cb.I:2012/07/29(日) 17:15 ID:j66

「う…ま、間に合った…おはよう!日和、日向」

 時刻は4時55分。
 部屋の扉をバンッと開けて雪菜が出てくる。本当に服だけ着替えたので、髪の毛もまだボサボサだ。


「見苦しい……」

「こら日向君。失礼な事は言わないの!

あ…でも雪菜さん、まだ顔も洗ってない様ですし…

そうだ!あと五分ありますし、少し顔を洗いましょう!髪はあたしが結ってあげるので!」

 提案するや否や、日和は雪菜の手を引いて女子トイレに向かう。流石に日向は着いてこなかった。

36:きなこ ◆Cb.I:2012/07/29(日) 17:47 ID:bmg

「さ、手短に歯磨きとかすませちゃって下さい!あたしが髪結ってるんで!」
「わ、分かった……」

 そう言うと、日和は何処からか櫛を取りだし、雪菜の髪を解き始める。柔らかな手つきが心地好い。「気にせずすませて下さい!」と日和が言うので、雪菜は顔を洗い始めた。

 ばしゃりと水を浴びると、頭が冴えてきた。そして、良く考えると昨日風呂も食事もしていない事に気付いた。

「さあ、出来ました!」

 日和の声と共に腹の虫が鳴いた。

37:きなこ ◆Cb.I:2012/07/30(月) 22:43 ID:gO6


 それから、走って走ってひたすら走った。日和に結ってもらったポニーテールが揺れる。
 大きな扉の前まで来ると、日和はバンッとその扉を開けた。

「ま…間に合いました!」
 
 日和が安堵の表情で大きく息を吸い込んだ。つられて雪菜も深呼吸する。
 息を吸って、それから吐いて。目を開けると大勢の人が此方を見つめていた。

「あの子が廻崎財閥の娘だって」「へえ…あの奇跡の、でも案外普通の子よね」
「入塾初日から遅刻ギリギリって大丈夫なのかしら……」

 ザワザワとヒソヒソ声が聞こえる。雪菜はバツが悪そうに目を逸らす。
 こういう雰囲気は苦手だ。まるで自分を異国のものかの様に扱い、普通という幸せから除外しようとする静かな声。

「それでは、あたし達も席に着きましょう!ええと、日向君は何処かな…」

「ええ!?私まだ朝ごはんを食べてないのに!?」

 雪菜は愕然とした。走ったせいもあり空腹も限界だった。

「問答無用です!食事の管理は自分で行うものですよ!」

 日和の全うとしか言えない意見に反論は出来ないが、なんとなく納得出来ない雪菜だった。
 が、「あ、日向くーん!今行くね!」という自分を手を引いて弟の元へ駆け寄る日和には何も言えなかった。

38:きなこ ◆Cb.I:2012/07/31(火) 21:52 ID:IWo

 やがて、ザワザワとしていた教室が静まってきた。
 雪菜は隣りにいる楠木姉弟をちらりと見る。基本的に何も喋らない日向はともかく、日和まで黙って分厚い本とノートを広げている。

「あ、あの……」「シッ!もうすぐ授業ですよ!」

 しどろもどろに話しかけると、日和は厳しい口調で口元に人指し指を当てた。

 一体、何が起こるというのだろうか。

「…皆さんおはようございます。欠席者はいませんね?それでは授業を始めましょう」

 すると、ガチャリと扉の開く音が聞こえ、入ってきたのは…−

「しの……ご、ご主人様!」

39:きなこ ◆Cb.I:2012/07/31(火) 23:10 ID:R3c

「あっ……」

 雪菜はハッとした。シーンとしたこの雰囲気を壊してしまった事で、再び教室中の視線が雪菜に集まる。
 穴があったら入りたい、雪菜は心からそう思い俯いてしまった。

 そんな雪菜を見て、ニヤリと口角を上げる男が一人。

「さーて……今大声を出した彼女は、新入生の廻崎雪菜さんです。廻崎さん、自己紹介して貰えますか?」

 篠原は執事だった時の様な優しい口振りで、雪菜を前へ来る様に言う。
 久しぶりの口調に少しドキッとするものの、直ぐに雪菜は「これ絶対恥かかせる為だわ…」と思い、キッと篠原を睨む。

(良いわ!見てなさい篠原…じゃない、ご主人様!)

 雪菜は淑やかな足取りで前に出ると、ふわりと短いスカートを持ち上げ一礼した。それから深呼吸。

40:きなこ ◆Cb.I:2012/07/31(火) 23:23 ID:KAg


「この子…箱入りかと思ってたけど案外礼儀あるんじゃない?」「あの短いメイド服であんなに綺麗なお辞儀が出来るなんて…」


 周囲がざわつく。どうやら好印象だったらしい。雪菜は心の中でガッツポーズをした。

 ここまでは良かった。全て順調だった筈だ。

(な…なんて挨拶すれば良いのかしら…)

 雪菜は社交的な挨拶を知らない。まして召使い養成塾という気品が必要な場面での挨拶など習ってもない。
 いつも「大人になったら自然と身に付くわよ」なんて言っていた自分を殴りたくなった。

「…………」

「廻崎さん、どうしたのですか?」

 黙りこくり、ついに俯いてしまった雪菜に、篠原は心配する様に顔を覗き込む。
 また嫌味を言われるのだろうか…雪菜はきゅっと目を瞑る。


 しかし、彼が雪菜に小さく囁いた言葉は意外なものだった。


「落ち着いて、深呼吸をして下さいませ」


 その言葉、口調、声色。全てが“執事の篠原”だった、懐かしさと安心感で雪菜の心は次第に落ち着いて来た。

41:きなこ ◆Cb.I:2012/07/31(火) 23:34 ID:sno

 もう言葉が分からなくても大丈夫、雪菜はにこりと微笑むと、自己紹介を始めた。

「初めまして、廻崎雪菜です。

皆知ってると思うけど、私の家今凄く貧乏なの。笑っちゃうでしょ?元財閥なのに。

だから、此処で一人前の召使いになって、いっぱい働いて…もう一度幸せを掴もうと思う。

あ、趣味はゲームとお茶よ。

皆仲良くしてね!それではごきげんよう」


 ワーッと拍手が起こった。

「雪菜ちゃん全然お嬢様っぽくないけど、オレなんか応援するよ!」「私も!気品無いけど!」


 ざわめく教室の中で、雪菜は次第に笑顔になっていた。


「全く……ごきげんようの使い方、間違ってます。これだから雪菜お嬢様は」

 篠原の呟きは、きっとかき消されて聞こえなかっただろう。

42:あすリン ◆O8jI:2012/08/04(土) 12:01 ID:6f.

面白い展開になってきましたね〜〜〜www
続き気になります〜ww

43:きなこ ◆Cb.I:2012/08/04(土) 21:10 ID:ikA

>>42
ありがとうございます(*´∇`*)
私も書いててワクワクしちゃいます♪笑

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「つ……疲れた」

 一日目の授業が終わった。
 風呂と洗顔と(幸いにも日和達が親切に貸してくれるそうなのだ)その他諸々を済ませると、雪菜はベッドに倒れ込んだ。

 本当に過酷…というか、足が痺れた。
 ほとんど一日中机に向かい、ノートを広げ篠原の講義を受ける。授業は至って真剣であり、講義の声とペンを走らせる音しか聞こえない。
 そこに「召使い」を感じさせられた。


 しかし、昼食だけは暖かみが感じられた。

『お弁当って…そんなの持ってきてないわよ……』

 雪菜は昼食を忘れてしまった。買いにいく様な金も無い。

 唯でさえ朝食も抜きだったのに、これは過酷過ぎるだろう。そう絶望する雪菜に、すらりと箸が伸びてきた。

『雪菜ちゃん、俺の卵焼きあげるよ。失敗作だけど』『私もウインナーあげる!』

 クラスメイトが少しずつおかずを置いてくれた。
 勿論お腹が満たされる量では無いが、雪菜はその優しさに感動した。


「良い人達だな……」

 ベッドでごろりと寝返りをうつ。瞳をそっと閉じるとすうっと睡魔が襲ってくる。が、その睡魔は勢いよくドアを開ける音で吹き飛んでしまった。


「箱入りお嬢様、一日目の授業はどうだったかな?」

44:オーバー ◆UA3.:2012/08/04(土) 22:45 ID:tg.

文才力凄い…!
今後の展開が楽しみです!
頑張って下さいね!

45:きなこ ◆Cb.I:2012/08/05(日) 09:05 ID:R3c

>>44
わー!!兄さんありがとうございます(*´∇`*)

頑張りますぜー!

46:きなこ ◆Cb.I:2012/08/06(月) 11:10 ID:qWY

「篠原!なんで此処に……」

 ドアにもたれ掛かっていたのは心底面白いかの様に薄笑いを浮かべる篠原だった。

「なんでって、お前のご主人様として世話されに来てやったんだよ。
あ、今ご主人様って言わなかったな…?」

(あ、)

 雪菜は突然篠原が来た事で篠原に言われた事を忘れていた。それに、授業をする篠原は余りにも執事の篠原だったから……少し混乱してしまったのかもしれない。

 しかし、疑問がある。

「ねえ…どうしてあんたをご主人様なんか言わないといけないの?」

47:きなこ ◆Cb.I:2012/08/06(月) 11:23 ID:sno

 雪菜の問いかけに、篠原はフッと鼻で笑った。なんでそんな当たり前の事を、そう言っている様だった。

「学費」

「え?」

「お前学費払えないだろ?だからその分カラダで払って貰うんだよ」

「変な言い方しないでよ…」

 納得した様なしていない様な。雪菜は首を傾げた。
 召使いに起用するならもっと優れた人材を雇えば良いのではないか。
 そもそも「篠原の召使い」で無くても、こんなだだっ広い屋敷(塾、と篠原達は言うが)なら庭師や掃除婦なんかがあった筈だ。

 その旨を篠原に訊ねると、馬鹿にした様な笑みを浮かべられた。なんとなくムカついた雪菜はそれ以上は聞かなかった。


「バーカ、お前が傍に居てくれたらそれで良いんだよ。箱入りお嬢様」

 なんて、篠原が小さく言ったのを雪菜は知らない。

48:きなこ ◆Cb.I:2012/08/06(月) 21:41 ID:qb6

 雪菜が「で……具体的に、私はご主人様に何をするの?」と聞くと、篠原は呆れた様に溜め息を吐いた。

「お前聞こえてなかったのかよ……」

「へ?」

 意味が分からない、と言った様な負抜けた雪菜の返事に、篠原は諦めた様にもう一度溜め息を吐いた。
 そして、

「きゃ……何するのっ!?」

「何って、どうせお前何も出来ないだろ。だから俺と一緒に寝て、ご主人様を守るくらい当たり前だろ…?」

 ぼふ、と雪菜の居るベッドの中へ潜り込んできた。


「ぎゃーーー!」

「煩いなぁ、別に変な事なんかしねーよ…
じゃ、明日早いからおやすみ」

49:きなこ ◆Cb.I:2012/08/07(火) 22:09 ID:HBQ

(寝れない……)

 時刻は深夜だろうか。
 雪菜はベッドに横たわっている。真っ暗な部屋、窓辺には花、そして……隣りには何事も無いかの様に、自称ご主人様の元執事が寝ている。

(こいつ……隣りに異性が居るのにどうしてこう平然と寝られるのかしらッ!)
 自分とは逆に規則正しい寝息を立てる篠原を見て、そのデリカシーの無さに雪菜はムカついた様な、少し残念な様な。

(あー…本当ムカつく程完璧よね、コイツ)

 篠原をまじまじと見つめる。
 地毛かどうか分からない綺麗な金髪。閉じられた瞼。睫毛は意外と長い。

 その容姿は、普通の女の子が見たら絶対恋をしてしまいそうで−…。

(って、こんな性悪に恋なんかしないんだから!)


 そうして、夜は過ぎて行くのだった。

50:きなこ ◆Cb.I:2012/08/09(木) 00:25 ID:gO6

「ん……もう朝なの?」

 木漏れ日に窓ガラスが反射した光、小鳥の囀り。昨日とさして変わらない寝起きだが、今日は日和による制裁…もとい朝の目覚ましコールは無かった。
 少し良い朝を迎えた、なんて思ったり。
 なんやかんや雪菜も寝てしまったのだ。まるで自分までデリカシーの無い様な気がして、雪菜がガシガシと頭を掻いた。

「あれ……?」

 ふと隣を見ると、決してやましい意味では無いが昨夜一緒に寝ていた筈の篠原の姿は無かった。
 彼の寝ていた部分のシーツには、皺しか寄っていなかった。

(冷たい……)

 そんな前に篠原は出て行ったのだろうか。自分より早く起きたというのだろうか。
 今、何時だろうか。

「あー!!遅刻しちゃう!!」

 ドタバタと騒がしく、雪菜の一日は始まった。

51:きなこ ◆Cb.I:2012/08/09(木) 01:49 ID:VRE

あんまり気にならないけど誤字。

雪菜がガシガシと頭を掻いた。 →雪菜はガシガシと頭を掻いた。

52:きなこ ◆Cb.I:2012/08/10(金) 00:57 ID:R3c

「間に合った……」

「おはようございます。いやぁ…朝から元気ですね!」

 教室に行くと楠木姉弟が既に座っていて、駆け足で雪菜はその隣りへと行った。椅子に座ると緊張が融けた様に足から力が抜ける。

 ぎゅるるるる〜……

「あ……いや、今のは、その…!」

(ばかー!!緊張が融けたからといってここまで融けて良いわけではないのよ!)

 雪菜は自分の腹に腹を立てた。決して日本語が可笑しいわけでは無い。

 朝から何も食べていなかった。否食べる物が無かった。
 普段は朝起きると既に朝食が用意してある。だからこそ、今の現状は雪菜にとって厳しいものだった。


「うふふ、雪菜さんお腹空いてるんですか?」

「いや…その……うん。食べる物が無いのよね」

 ええ!と日和が目を見開いた。

「じゃあ雪菜さん、朝から何も食べてないんですか!?」

「朝だけじゃないわ…今日のお昼も抜き。流石に毎日おかずを貰うなんて出来ないもの」

 シュンと項垂れる雪菜。裕福という幸福が改めて見に染みたその時、

「んな事ねーよ。箱入りお嬢様!」

53:心音:2012/08/10(金) 07:45 ID:p7I

わーい♪♪姐さんが小説書いてたの発見したww
とっても面白いねn♪
頑張ってー!!

54:きなこ ◆H.KU:2012/08/12(日) 15:01 ID:qb6

>>53
!!?
心音に見つかっちったwww
ありがとうー(*´∇`*)

55:きなこ ◆Cb.I:2012/08/12(日) 15:45 ID:KAg

「しの……ご主人様!」

 力強く扉が開かれる音がして、昨日同じベッドで寝た篠原が此方へ歩いてくる。お喋りに華を咲かせ道を塞いでいる生徒に「ごめんね」なんて言って優しく道を開けさせ、夢菜の元へと着くと、ずいっと小さなかばんを差し出した。

「え……何?これ」

「何って、弁当だよ弁当。お前どうせ何もねえんだろ?」

「う、でも……」

「でもじゃねえよ。主人の命令は絶対だぜ!」

 半ば強引にかばんを雪菜に押し付けると、篠原は雪菜の元から去ってゆき、何事も無かったかの様に授業を始めた。

(何よ……あ、でも助かったし良いや)

 隣りでくす、と日和が笑う。

「いやぁ、奇跡のお嬢様は本当だったね。日向君!」

「姉貴がそう言うならそうと思う……」

56:きなこ ◆Cb.I:2012/08/12(日) 16:10 ID:qb6

「うわ……」

 そしてお昼休み。戸惑いつつも弁当箱を開けた雪菜は目を見開いた。見せて見せて、と一緒にお弁当を食べる日和が覗いてくる。そして日和もまた、雪菜同様目を見開いた。

「そ、素朴……いや質素?とにかく地味ですね!」
「姉貴……段々と悪化していってるよ」

「あ、そうかな!?ごめんなさい……」

 日和のフォローにならないフォロー通り、元お嬢様の雪菜にとってお弁当は質素なものだった。

(ごぼうとちくわの炊き物に……白米だけ!?)

 四角い弁当箱は茶色と白のみで彩られている。普段フレンチやイタリアンを好んで昼食に取っていた雪菜は、炊き物などほとんど食べた事が無かった。むしろ考えた事すら無かっただろう。

57:きなこ ◆Cb.I:2012/08/12(日) 19:18 ID:KAg

「あ、でも味は美味しいかもしれませんよ!それにお腹に入れば皆一緒です!」

「……わがまま女、姉貴みたいに可愛くなれないぞ」

 楠木双子の弁解(一部、挑発の気もするが)もある。それに何よりお腹が空いていたので、雪菜は渋々ちくわを口に運ぶ。
 物事を進める為には代償が必要なのだ。雪菜が売り飛ばされた様に。から多少の我慢も問われるだろう。

(あ……うん。素朴だ)

 甘過ぎず、かと言って辛いわけでもない。全く新鮮な味だが、人は何処かこの味に懐かしいという感情を抱き寄せるのだろう。不思議とそれは雪菜も同じだった。

「あ」

 気が付くと、弁当箱は空になっていた。それと反対に、雪菜のお腹は膨れていた。

(……まあまあ、美味しかったかも)
 なんて思ってみたり。

 弁当箱を終うと昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。

58:きなこ ◆H.KU:2012/08/13(月) 00:45 ID:rew

 その日の夜。

「よっ、箱入りお嬢様!俺からのランチはどうだったかな?」

 就寝の準備を終えた雪菜の元へ当然の様に篠原がやって来た。半分呆れた様にベッドの端に寄れば、遠慮無く入って来る。本当にデリカシーの無い奴だ。

「どうって……普段食べるものと違って随分と質素だったわ」

「へ、素直じゃねえ奴」

 篠原がからかう様に笑う。何の計らいも見えない、屈託の無い笑顔。雪菜の心臓は不覚にもとくん、と音を鳴らした。

(私がお嬢様だった頃の貴方は、何よりも私に従順で。作るランチも豪華で、笑顔も淑やかて。でも今の篠原は真逆ね)

 本当に真逆だ。でも真逆の筈なのに、嫌悪感をあまり感じない自分も居た。


「ま、まあ……ありがとう、とは言っておくんだから」

 小さな声で呟く様に言うと、おやすみ!と雪菜は慌てて布団を篠原から奪い取り、寝てしまった。聞こえていたらどうしよう、きっとまた馬鹿にするに違いない!そもそも私は何を考えているの!色々な事が頭を駆け巡り、それが治まった時には雪菜は既に夢の中。



「……そういうトコ、可愛かったりするんだよな。このバカお嬢様が」

59:きなこ ◆Cb.I:2012/08/14(火) 17:03 ID:HBQ

「今日の午後は社会見学です。本物の召使いが仕えるお屋敷から沢山の事を学びましょう」

 次の日。昨日と同じく質素な弁当を食べ終わった雪菜の教室の元へ、篠原がにこりと笑いながら入ってきた。
 その瞬間にクラスから歓声が涌く。ただでお茶菓子が貰えるだの、ふかふかのソファに座れるだの、案外このクラスの脳は庶民染みているのだろうか。

「元お嬢様にお屋敷見学だなんて、あんまりだわ」

「あはは、確かに雪菜さんって前までお屋敷に住んでいましたもんね」


 拗ねた様に雪菜が悪態を付く。もしかしたら過去の幸福を思い出して辛くなる事が怖かったのかもしれない。

 しかし、現実はもっと辛く厳しく、雪菜を抉るものだった。


「見学させて頂くのは柳財閥のお屋敷です。皆さんくれぐれも失礼の無いように!」

 お茶菓子が無くなるかもしれませんよ!と篠原が冗談めかしに言うと、笑いが溢れた。

60:きなこ ◆H.KU:2012/08/15(水) 17:58 ID:NkE

 だけど、クラスの雰囲気とは対照的に、雪菜は冷や汗をかいていた。財閥の柳だなんて、あの柳しか居ない。

「それに、柳財閥の跡取りである俊也様は皆様と同年代で……かなりの美少年だそうですよ!」

 女子の黄色い歓声、男子の嫉妬のブーイング。周りの音が全て遠く感じる。

(ヤナギ シュンヤ……)

 忘れる筈も無い。柳俊也は雪菜の小さい頃から知っている、所謂幼馴染みという奴で。

 そして何よりも。

「さて、そろそろ行きましょう。皆さん二列に並んで下さい。ほら早く動く!」

61:きなこ ◆Cb.I:2012/08/16(木) 16:37 ID:NkE

 はぁ、と溜め息を吐くと前に並んでいる日和が不思議そうに首を傾げ、雪菜の方へ顔を向けた。

「さっきからどうしたんですか、溜め息ばかりついて……」

 そう聞かれても答える事は出来ない。答えたくないと言うよりも思い出したくない。雪菜にとってこれから行く屋敷は地獄の様なものだった。

「着きました」

 今は教師である篠原の声が聞こえ、目の前を見る。

(やっぱり苦手……)

 漆黒の屋根に、暗い色の煉瓦。所謂洋館という奴だ。雪菜は昔から、この如何にも英国の幽霊が出そうな雰囲気が苦手だった。
 しかし、もっと苦手なのはそこに住む住人。


「初めまして、柳俊也です」

 にっこりと微笑み雪菜達の元へと現れた少年は、ちらりと列の端を見ると目を輝かせ。

「雪菜ちゃん!」

 ぼふ、と雪菜に抱き着いた。

62:あすリン ◆O8jI:2012/08/25(土) 11:59 ID:6f.

美少年wいいねw皆カッコよくていいな〜(>ω<)
面白い!

63:きなこ ◆H.KU:2012/09/07(金) 23:33 ID:Whc

>>62
ありがとうございます(*´`*)

美少年は私の願望です(笑)
現実で素敵な出会いも何も無いので…←

そして…全然更新してなくてすいません!!


---------

「しゅ、俊也……」

「久しぶり!逢いたかったよ雪菜ちゃん!元気だった?僕の事覚えてた?昔と変わらず可愛いね!」

 やっぱり苦手!雪菜は俊也のマシンガントークにぐったりとうなだれた。

 雪菜はちらりと篠原を見た。どうして彼に目が言ったのかは自分でもよく分からないが、心の内で何か助けを求めていたのかもしれない。しかし彼は雪菜と目が合うと何事も無かった様に目線を剃らした。


(この意思悪執事!)


「あの……二人の関係って?」

 ざわめき始める周りの面々。当たり前だろう。目の前で男女が抱擁を交わしたのだから。(交わした、と言うより一方的だが)


 そんな質問に俊也はにこりと笑って言った。




「僕はね、雪菜ちゃんの初恋の相手!」

64:きなこ ◆H.KU:2012/09/08(土) 21:59 ID:ubU

「は……初恋の相手!?」


 穴が在ったら入りたいとはこういう時に使うのだろう。雪菜は戸惑いや恥ずかしさで爆発しそうだ。

「皆さん、今日は廻崎さんの恋愛話を聞くために来たのではありません!私語は慎み、しっかりと社会見学に励む事!」

 しかし、流れを変えるかの様に篠原が指揮を取ってくれたお陰で、雪菜は俊也から身を引き剥がす事が出来た。ちぇ、と残念そうに口を尖らせる俊也。この時ばかりは篠原に感謝した。


 もう一度雪菜はちらりと篠原を見た。今日の夜に礼でも言うべきかしら、なんて考えながら。

65:琴乃 ◆qZls:2012/09/09(日) 12:17 ID:8vc

お久しぶりです(*´▽`*)
いつも更新楽しみにしてます♪
頑張ってくださいね

あの…一つよろしいでしょうか?
>>63
(この意思悪執事!)ってところ、
(この意地悪執事!)の間違いじゃないですか?
間違ってたらすみません;

66:きなこ ◆H.KU:2012/09/09(日) 13:21 ID:QvQ

>>65

ありがとうございます!!
頑張ります(*´`*)♪

Σ…わー!!本当だ!
すいません!誤字でした…;
見つけてくださりありがとうございます!!;

67:きなこ ◆H.KU:2012/09/14(金) 00:28 ID:OMY

「それでは皆さん、釘を刺す様ですが失礼の無い様に!」

 そうして雪菜達は柳邸の中へと入った。

(此処……やっぱり苦手!)

 玄関には何を意味するのか、訝しげな黒い銅像が狛犬の様に置かれている。応接間へと続く長い廊下には漆黒のカーペット。なんというか、召使い達も暗く見える始末だ。雪菜は昔からこの雰囲気が怖くて仕方なかった。


「雪菜ちゃん、まだこの像怖い?大丈夫、昔みたいに泣いちゃったら僕が守ってあげるよ!」

「う、うるさい!」

 くす、と笑い俊也が列の最後尾で歩く雪菜に話し掛ける。恥ずかしい昔話をされて雪菜は俊也を張っ倒したくなったが無論そんな事は出来ない。

「そこ、私語は慎む!」

 そこへ篠原の小言が飛んでくる。私何も悪くないじゃないと言いたくなるが、この場合またも篠原に救われたと言って良いだろう。


 すると、おもむろに俊也が口を開いた。不機嫌そうな、それでいて何か楽しんでいる様な声。


「あの執事さん、雪菜ちゃんばっかり怒るね?」

68:きなこ ◆H.KU:2012/09/14(金) 00:43 ID:BlI

「そ、そう……?」

「そうだよ、雪菜ちゃん雪菜ちゃんって!」

 雪菜ちゃんとは呼んで無いけどね、と付け足すと俊也は雪菜の先を行った。案内が必要にでもなったのだろうか。

(確かにさっきは怒られたけど……篠原に私は助けられてるんだよね)

 怒るに怒れない、そんな感情が渦を巻いた。



 大分歩くと、ようやく広い大きな部屋へとたどり着いた。この廊下の長さも雪菜が柳邸を苦手な理由の一つである。


「さ、長旅御苦労様って処かな。このソファに腰掛けて下さい!」

 俊也が促す先には、二人掛けのソファが生徒分用意されていた。つまり二人一組で座るという体育の授業を連想させる地獄なのだ。雪菜は日和をちらりと見れば、日向にぎろりと睨まれた。


(独りになっちゃった……)

 他の生徒が一組になる中、ぽつんと雪菜は立っていた。こういう場は苦手なのだ。
 きゅ、と目を瞑ったその時。


「お前は俺と座れ」

 後ろから声がするかと思うと、腕を引っ張られぼすんと雪菜はソファに座り込んだ。


「し…ご主人様!」

「よ、ぼっちお嬢様」

 小さな声で悪態を吐く篠原。その態度に文句を言いつつも、安堵している雪菜が居た。


 そして、それを唖然と見つめる人物もひとり。



「雪菜ちゃん……あの執事さんとあんなに仲良いんだ……

雪菜ちゃんは僕のなのに」

69:きなこ ◆H.KU:2012/09/15(土) 21:25 ID:pYE


「いや〜、楽しかったですね!色んな発見がありましたし!」

「色んな発見ってね……」

 その日の夕方。社会見学も無事に終わり、雪菜は日和達の部屋で夕食をご馳走になっていた。テーブルの上には黄色いオムライス。時間が無かったので粗食ですが、と日和は言ったが何処が粗食なのか分からない。


「雪菜さんと柳さんって、どんな関係なんですか?」

「ただの幼馴染み!それ以下でもそれ以上でも無いわ」


「でも、初恋って柳さんは……」

 思わず雪菜は口の中のオムライスを吹き出しそうになった。ゴホゴホと噎せる。日和はわたわたと心配して水を差し出し、日向はうわ汚ねぇと呟いた。


「と、と、とにかくご馳走様!それじゃまた明日!」

 雪菜は急いでオムライスを口に掻き込み、楠姉弟の部屋を飛び出した。





「行っちゃいましたね」

「そうだな……」

 日向は姉のオムライスを夢中で頬張る。雪菜さんみたいに噎せたら大変だからゆっくり食べてね、と日和が彼の背中を擦れば、日向は柔らかな笑みを浮かべた。


「姉貴のオムライスはやっぱり美味しいね」

 それに応えるかの様に日和も微笑むと、片付けをしにキッチンへと消えて行った。





「……俺でごめん、日和」


 辺りも暗くなり、星が見えてきた。空に双子座は瞬いているのだろうか。

70:きなこ ◆H.KU:2012/09/16(日) 09:04 ID:sno

「ご主人様……?」

 一方その頃、部屋に戻った雪菜は困惑していた。篠原が来ないのだ。

(おかしいなぁ……)

 そう思いつつベッドに寝転がる。独りで眠るベッドは広くて冷たくて。

(こういう時、独りになりたくないんだけどな)

 昔の記憶が脳内を満たし、自分を飲み込んでしまう様で。


「ゆうや……」

 一人の名前を呼ぶと一粒の涙が零れ、雪菜は眠りに堕ちた。

71:ココナッツ:2012/09/16(日) 16:22 ID:ICw

やばいです!!

あたしこれ大好きです!!!
めっちゃ応援してまーーーす(`∇´)ノ~~~

がんばって!!

72:きなこ ◆H.KU:2012/09/16(日) 21:00 ID:Zow

>>71
ありがとうございます(*´∇`*)!!

応援嬉しくって、私もやばいです!!

頑張ります(*^▽^*)

73:匿名さん:2012/09/16(日) 21:25 ID:oLc

ふふ

74:きなこ ◆H.KU:2012/09/16(日) 21:52 ID:R3c

>>73
なんですかその朗らかな微笑みはΣ(*´`*)

---------
「転校してきた、柳俊也です。よろしくね」

 次の日、何時もの様に優雅とは言えない朝を向かえ教室に入った雪菜は唖然とした。あの俊也が居るのだ、此処に。


「なんで俊也が此処に!?」

「なんでって、僕も召使いの勉強したいから」

 あと雪菜ちゃんに逢いたいから、と俊也は言葉にハートを乗せる様に、口許に人差し指を立てウインクした。


「そんなの駄目よ!これは遊びじゃないんだからね!?」

 慌てて雪菜は俊也を説得させ、なんとか帰らせようとする。が、俊也はにこりと笑うと自分の胸元のブローチを指差した。雪菜と同じ青い薔薇、つまり彼はもう入学手続きを終えたのだ。



「遊び、な訳ないじゃん」

75:心音 ◆g58U:2012/09/17(月) 07:41 ID:Ai.

俊也かっこいいィィィイイ!!!!←←
姐さん、大好きでs((黙

76:きなこ ◆H.KU:2012/09/17(月) 09:58 ID:tzs

>>75
なんで俊也君かっこいい言いながら私に告白すんのwwwww

ありがとう〜(*^▽^*)♪

77:心音 ◆g58U:2012/09/18(火) 07:03 ID:Ai.

私は報われない男の子が大好きなのれすよ( •ω •″)
か、勘違いしないでよね!likeだからね、like!!←
>姐さん

78:きなこ ◆H.KU:2012/09/19(水) 17:45 ID:rew

>>77
しゅ、俊也がまだ報われない系男子と確定したわけでは無いんだからね!!←

なんじゃらほいwww
---------

 昼休み、雪菜はどうにか俊也を撒いて裏庭へと逃げた。そしてそのままその場へぺたんと座り込む。力が抜けた様だ。全速力で逃げたので呼吸も荒い。

 俊也はなんでも飲み込みが早く、授業中も全て理解しているかの様ににこにこしていた。そういう処が余計にムカつく。負け惜しみとは解っているのだが。


「お腹すいたなぁ……」

 とりあえず呼吸を整えようと深呼吸、からの第一声がこれだった。

 昨日から篠原には会っていない。勿論朝も。つまり今日はお弁当抜きなのだ。


「篠原の馬鹿……」



「誰が馬鹿だって?あと篠原じゃなくご主人様な」

79:きなこ ◆H.KU:2012/09/19(水) 18:10 ID:j66

 後ろから声がした。それも今まさに小言を衝いた相手が。

「ぎゃあ!?」

「そんな可愛くない声出すなよ」

「う、五月蝿いわね……」

 いつもの様に悪態をつきつつも、雪菜は自分がほっとしているのを感じていた。


「……で、何か用」

 こんな気持ちの時にも愛想悪く言ってしまう自分をもどかしく思いつつも、雪菜は篠原に尋ねた。すると、「ん」と篠原が箱をつき出してきた。


「何の用って、弁当渡しに来ただけ」

 じゃーな、と篠原が手を振り去ろうとする。


「……こ、此処に居て」


 だけど、いつの間にか雪菜は、篠原の袖口を掴んでいた。

80:ココナッツ:2012/09/19(水) 21:04 ID:ICw

おお!!

いい感じになってきたーー!!

81:きなこ ◆H.KU:2012/09/19(水) 21:59 ID:qWY

>>80
ですね〜(*^▽^*)笑

もっといい感じな展開に持っていきたい…!!←

82:きなこ ◆H.KU:2012/09/20(木) 22:40 ID:BI.


 驚いた様に目を見開く篠原を見て、ハッと雪菜は我に返った。急に恥ずかしさが込み上げる。

(わ、私何言ってるの!?)


「ご、ごめん……なんでも無い、お弁当ありが−−……」

 慌てて手を離し、篠原から距離を置こうと立ち上がると、急に抱き締められた。

「きゃっ……ちょ、篠原!?」

「…………」

 篠原は何も喋らない。だけど彼と触れ合う肌はじわじわと熱く溶けてしまいそうで。
 雪菜はそっと篠原の身体に腕を回した。





「俺は教師だ。不公平は出来ない」

「分かってるよ、何をいきなり」


 だけどさ、と篠原は続けた。雪菜と自分自身に言い聞かせる様に。



「俺、あいつには負けねぇから」

83:きなこ ◆H.KU:2012/09/22(土) 00:15 ID:OMY

――な、ゆきな……

(あ、誰か私を呼んでいる……)

――――雪菜、

(優しくて懐かしい声……この声は、)



「廻崎雪菜!起きなさい!」

 気が付けば目の前には仁王立ちした篠原。思わず落ちる冷たい汗。どうやら授業中寝てしまっていたらしい。

「ふふ、眠った雪菜ちゃんも可愛かったよ!」

 後ろで俊也の声がする。不幸な事に彼は雪菜の後ろの席なのだ。
 はいはい、と軽く受け流すと、雪菜は授業を再開する篠原に目を向けた。真剣な表情の篠原。彼の綺麗な黒い瞳を、雪菜は吸い寄せられる様に見つめていた。

(あいつが、変な事言うから)

 昼休みの宣戦布告。抱き締められた箇所はまだ熱い。
 あの時から、ずっと心臓が痛い。脈を打つ速さが異常に速い。まさか、まさかだ。


(私、もしかして篠原の事……)

 そんな事を考えていると、また小言が飛んできた。

84:ココナッツ:2012/09/22(土) 23:21 ID:ICw

ヤバイ!!

篠原さんめっちゃかっこええ♪( ´▽`)

きなこさん天才ーー(^O^)

85:きなこ ◆H.KU:2012/09/23(日) 11:28 ID:pYE

>>84
ありがとうございます(*^▽^*)♪
篠原はどこまでもかっこよくしていきたいですww

ΣΣ天才!?そんな事無いですよ(;´д`)

86:きなこ ◆H.KU:2012/09/23(日) 19:44 ID:/UM

「うわ」

「うわって何だよ」

 その夜、篠原は何事も無かった様にベッドの上に居た。昼間の抱擁や、昨日来なかった事を彼は何も気にしていないのだろうか。

 はあ、と溜め息を吐き雪菜はベッドへと入る。もう半ば篠原と寝る事は慣れていた。

 そう、慣れていたから。

「なんで昨日来なかったのよ……」

 だからこそ、昨日の夜は増して心細かったのだ。

「寂しかった?」

「寂しくなんか無いわよ!だ、だからなんで来なかったって聞いてんの!
……寂しかったんだからね!?」


 八つ当たり、自暴自棄。そのどちらも篠原へとぶつけ、雪菜は布団に潜り込んだ。

「あは、今から理由言おうと思ったのにもう寝るのか?」

 くす、と悪戯っぽく笑う篠原への返答及び悪態は無く、代わりに寝息が聞こえた。



「全く……寂しいのかどっちだよ、天の邪鬼なお嬢様」


 そう言って執事は、主人の頭をそっと撫でるのであった。

87:琴乃 ◆qZls:2012/09/23(日) 21:22 ID:8vc

は、鼻血が←Σ

展開がヤバスで心臓ばくはつしそうですww

続きがますます楽しみですっ><

88:オーバー ◆UA3.:2012/09/24(月) 00:24 ID:tg.

久しぶりに見たら結構いい展開に進んでいますね!
これからの展開に期待します!!

89:きなこ ◆H.KU:2012/09/24(月) 19:30 ID:QvQ

>>87
ΣΣぎゃー、鼻血も心臓も無事ですか!?(

ありがとうございます!!
頑張ります(*^▽^*)

>>88
良い展開が書きたいが為に苦労しました(笑)←

期待には答えられないかもしれないけど、頑張ります(*^▽^*)

90:きなこ ◆H.KU:2012/09/25(火) 19:36 ID:KAg

 次の日は至って平和だった。朝になればやっぱり素っ気ないお弁当も作ってくれていて。日常化しそうなこの情景に、雪菜はほっと胸を撫で下ろした。

 思えば、雪菜はお嬢様だった時から変わりつつあった。起床時間や三食の食事も以前とは反転するほど違っていた。



「雪菜ちゃん、綺麗になったよね」

「そう?」

「うん、なんか昔とは違う」

 元々可愛かったんだけどね、と付け足し俊也は笑う。綺麗になったかどうかなんて自分では分からないものだ。



「きっと、それは恋をしたからじゃないですか!?」

 そんな二人の会話に、目を輝かせて日和が入る。彼女、こういう類の話が好きなのだろうか。

91:きなこ ◆H.KU:2012/09/25(火) 20:16 ID:Whc

「恋をすれば、乙女は綺麗になるのですよ!」

「どこの少女漫画よ!?」

「恋……?つまり世界一可愛くて美しい姉貴は恋をしてるのか……?」

「なんかシスコン出てきた!」


 こうして楠姉弟に振り回される雪菜を見て、再び俊也は笑った。だけど先程の笑みとは違う、含んだ笑顔。


「雪菜ちゃんは、変わってしまったんだね」

 誰にも聞こえない様に俊也は呟いた。そしてそっと目を閉じると、彼の中で走馬灯の様に幼い日の記憶が流れ出す。


 自分が知っている雪菜はこんなに喋らない。物静かで大人しい少女だった。
 親に婚約の話を出された事をそっと雪菜に告げると、幼い彼女は何の偏屈も無く頷いた。そうして、自分と彼女は結ばれるのだと信じていた。

 あの事件が起こるまでは。



「……篠原って執事には負けないよ」

 目を開けると俊也はもう一度呟いた。平和な昼下がりの事だった。

92:ちゃっぴー ◆9s0k:2012/09/25(火) 20:33 ID:lcg

続きが気になる!

93:きなこ ◆H.KU:2012/09/25(火) 22:26 ID:IWo

>>92
おお、ちゃっぴー姉さんではないですか!!
ありがとうございます!!
頑張ります(*^▽^*)

94:きなこ ◆H.KU:2012/09/26(水) 20:14 ID:rew

 ……とまあ、様々な感情はあるものの、昼休みまでは至って平和だったのだ。


「遂に来週は進級試験です。薔薇の階級を上げ、より良い召使いになれる様、皆さん頑張って下さいね!」


 昼からの授業。睡魔という快楽が襲うが、待っているのは悪夢だけである。いつもは作法の時間なのだが、その前に放たれた一言により、睡魔などは一瞬で吹き飛んで行った。



「階級試験嫌いです……」

「姉貴が嫌いなら俺も……特にあの監視官が嫌い」


「監視官って?」

 周りの雰囲気もざわざわと不満で満ち足りて行く。そんな中楠姉妹の小声での会話に、夢菜は空気を読んで小声で入った。尤も、授業中の私語は禁止なのだが。


「静粛に、授業中に私語は禁止!」

 結局篠原の一喝により、日和からの返事は貰えなかったが(日向? 彼は論外だ)代わりに小さなメモが回ってきた。所謂お手紙という奴だ。経験の無い雪菜にとっては新鮮だった。

 手紙を見ると、走り書きでこう書かれていた。



『監視官は、天才児です』

95:ちゃっぴー ◆9s0k:2012/09/26(水) 20:17 ID:lcg

うわわ
もっと書いてくだせぇ笑

96:きなこ ◆H.KU:2012/09/26(水) 22:20 ID:BlI

>>95
おうよ、頑張りますぜ!笑

97:きなこ ◆H.KU:2012/09/26(水) 23:34 ID:NkE

「ねえ、監視官の子って天才なの?」

 その夜、雪菜はそれとなく篠原に昼間聞かされた事を尋ねた。天才児なんて見世物かの様に扱うテレビでしか見た事が無いから気になっていたのだ。


「天才児……か、まあそんなもんかな」

「それじゃ答えになってないわよ」

「まあ、会えば分かるさ」


 それだけ言うと逃げるかの様に篠原は寝てしまった。

(もう、何隠してるのよ!)

 監視官も気になるが、それより篠原が隠し事をしている事に、なんとなく雪菜はモヤモヤと霧が晴れない気分で居た。

98:きなこ ◆H.KU:2012/09/28(金) 22:42 ID:BlI

 その頃。

「日向君、そこにカフェオレ作っておいたよ!あたしはもう少し勉強するね」

「さんきゅ……姉貴がするなら俺も頑張るよ」


 白い湯気を出すカフェオレを机に置き、楠姉弟は試験勉強をしていた。カフェインは眠気覚ましになると聞きコーヒーを飲もうと試みたが、生憎この姉弟、苦いものが苦手なのだった。


「ふへ〜、インスタントだけど甘くて美味しいね」

「姉貴がそう思うなら美味しいと思う……」

 軽く微笑んでカフェオレに口を付ける日向。彼がこうやって微笑みかける相手など、きっと姉の日和しか居ないのだろう。
 しかし、そんな日向と裏腹に日和は悲しそうに俯いた。まるで遠くを見つめている様な視線をカフェオレに落とす。


「日向君……君はあたしに捕らわれなくて良いんだよ?」

99:かれん@あすリン ◆YYDk:2012/09/29(土) 14:42 ID:6f.

きゃああああ!カッコイイいいいいwww
展開がっぁぁ!

100:きなこ ◆H.KU:2012/09/29(土) 15:53 ID:tzs

>>99
謎な展開になって参りましたwww
ありがとうございます!!



そして…ついに>>100です(*^▽^*)♪

101:姫♪♯0214:2012/09/29(土) 16:19 ID:0kY

……姐様!!
姐さんの小説発見!

更新チェックしますね!

by絆

102:琴乃 ◆qZls:2012/09/29(土) 22:27 ID:Uy.

100達成オメデトウございます♪
これからも楽しみにしてますね♪

103:きなこ ◆H.KU:2012/09/29(土) 23:47 ID:bmg

>>101
見つかっちゃったww

わー、ありがとう(*^▽^*)!!

by雛

>>102
ありがとうございます!!

これからも頑張ります〜(*^▽^*)!

104:ココナッツ:2012/09/30(日) 21:49 ID:ICw

久しぶりに来たら
なんか、面白い展開になってる!

きなこ様頑張って♪( ´▽`)

105:きなこ ◆H.KU:2012/10/01(月) 21:09 ID:Whc

>>104
お久しぶりです(*^▽^*)
ふふふ、ありがとうございます♪頑張ります!!

-------

「……え?」

 びくりと日向の肩が揺れる。日和は俯いた顔を上げるとにこりと笑った。何の雑じり気も無い笑顔は何処か寂しそうだった。


「葉人の事」


「はの……と……」

 葉人、恐らく人名であろうそれを聞くと、普段表情の種類に欠ける彼の瞳が大きく見開かれた。まるで怖れるかの様に。
 見かねた日和はかたんと席を立つと、真っ直ぐベッドへと向かった。しかしまた、彼女の顔は何処か曇っていて。


「……今日はもう寝よっか、また明日頑張ろ!」

「……」

「日向君?」

「……あ、うん」


 日向が日和の後を追い掛け、机の上には無機質なノートと教科書、それと冷めたカフェオレだけになった。



 そうして、それぞれの不穏な夜は明けてゆく。

106:きなこ ◆H.KU:2012/10/04(木) 22:04 ID:Pg.

 そうして試験一日前の日の昼休みまで時は進む。そして現在進行形で雪菜はじめじめとキノコを生やす勢いである。


 それもその筈。
『いやぁ、試験一日前の朝とは清々しいものですね!』


(鬼だ……)

 朝、実に爽やかな笑顔で篠原は教壇に立って言った。それと正反対の様にどよめくクラスの雰囲気。プレッシャーと緊張が渦巻いている。雪菜もそれらを発する者の一人だった。


「日和……試験ってそこまで難しい?」

 雪菜はなんとなく日和に訪ねた。そんなことないですよ、という返答がお世辞でも欲しかったのだ。だが日和は見事に期待を裏切り、きっぱりと言った。


「とっても難しいです!」

「あ、そうですか……」

 雪菜の心は、地中深くに沈み込んだ。

107:きなこ ◆H.KU:2012/10/04(木) 22:23 ID:sno

 夜。しきりに俊也が「雪菜ちゃん緊張するから一緒に寝よぉおぉお」という誘いをきっぱり断った雪菜は寝れないでいた。自分の隣で何事も無く寝息を立てている篠原が恨めしい。

「あーあ……明日落ちたらどうしよう」

 ぽつり、言葉が漏れる。それは以外にもはっきりと聞こえ、不安を増長させた。

(篠原に嫌われちゃうかな、幻滅されちゃうかな)

 やっぱり箱入りお嬢様だな、って普通に笑ってくれるだろうか。それとも自分をこの塾へと連れてきた事を後悔するのだろうか。

(やだな……篠原に嫌われたくない)

 ぐるぐるぐるぐる、不安と孤独が渦を巻く。堪えられなくなってきゅ、と目を瞑ったその時、額に手が優しく触れた。


「お前なら大丈夫だよ」


 篠原の声。自分を励ましてくれているのだろうか、雪菜は心がぽわっと暖かくなった。

 ありがとう、私頑張るね! なんてデレデレの言葉は掛けられなかったが、それからは安心した様に雪菜は眠った。








「……ついに、私の出番だな、甘ったれた輩は全員失格にしてやる!」

 今宵深夜。重い塾の門の前で一人の少女は腕組みをして立っていた。彼女はそう、


「この、試験監視官様がな!」

108:ネットハート:2012/10/05(金) 19:06 ID:o2M

すっごいオモロー

109:ココナッツ:2012/10/05(金) 22:23 ID:tMU

わー!

篠原カッケーー♪( ´▽`)
もうまじファンです!

110:きなこ ◆H.KU:2012/10/05(金) 22:49 ID:Pg.

>>108
面白いだなんて、ありがとうございます!!
頑張ります(*^▽^*)


>>109
わー!ありがとうございます(*´v`*)
カッコいい篠原を極めます…!笑

111:ネットハート:2012/10/06(土) 10:12 ID:o2M

きなこさん私の話きいていますか

112:きなこ ◆H.KU:2012/10/06(土) 16:37 ID:Whc

>>111
聞いてますよ〜、コメントありがとうございます!!

あれ…何か見落としたレスがあったでしょうか??;

113:きなこ ◆H.KU:2012/10/06(土) 22:21 ID:j66

 遂に迎えた試験当日。柄にも無く雪菜は緊張して、動きもぎこちなくなっていた。篠原に触れられた額はまだ熱を持っていて、それは別の意味で雪菜を固まらせた。


「おはよう雪菜ちゃん、緊張してる?」

「俊也……う、うん。凄く緊張してる」

「えへへ、緊張だなんて可愛いね!でも授業も普通に理解出来る内容だしきっと大丈夫だよ!」

 緊張の何処が可愛いのだろうか、なんて突っ込みをする余裕は無い。正直雪菜は頭がよろしくない部類だ。幾らなんとか理解しているとはいえ……という訳だ。


「それに、まだ青薔薇の試験なんだし簡単だよ!」



「青薔薇だからって舐めてかかると、泣くことになるぞ」


 へらりと俊也が言った言葉を、後ろから誰かがばっさりと否定した。ソプラノ調、よりも高い幼い声。にも関わらずその威圧感は声に不釣り合いだった。


「誰……?」

 後ろを振り替えると、腕組みをして立つ幼女が居た。

114:きなこ ◆H.KU:2012/10/08(月) 10:00 ID:NkE

「幼女……?あは、何処から来たの?可愛いね〜」

 俊也が幼女と同じ目線になるように屈み、にこにこと話し掛ける。すると、その幼女は顔を真っ赤にして怒り始めた。どうしたんだ幼女。


「私は幼女などではないッ!立派な13才だ!」

「僕らから見たら幼女なんだけど」

「ええいうるさいッ!……と、お前たち、見ない顔だな?」

 ハッと気付いた様に幼女は言うと、まじまじと雪菜と俊也を見つめた。そして、にんまりと笑ったあと、


「ふん。私の恐ろしさは後で知ることになるだろう。それよりもうすぐ試験だ、早く行け!」

 そう言って雪菜達を促した。


(あの子、どうして試験の事知ってるんだろう?
まあ良いや、早くしなきゃ!)

115:ココナッツ:2012/10/08(月) 20:55 ID:ICw

ワオ!

あたしの個人的な感情だと

ちょっとウザキャラな感じがしますww

116:きなこ ◆H.KU:2012/10/08(月) 22:30 ID:BgU

>>115
はいwww
実はとってもウザキャラです(*^v^*)www

117:ココナッツ:2012/10/09(火) 20:38 ID:ICw

やっぱり〜★

118:きなこ ◆H.KU:2012/10/11(木) 16:43 ID:bmg

>>117
ご名答です〜(*^▽^*)笑

---------
 試験会場に急ぎ足で入る。試験会場と言っても何時もの教室なのだが、扉に大きく貼られた「階級試験会場」の紙を見れば、簡単に教室とは呼びがたい感情に襲われた。


 教室内はいつもと違う雰囲気が漂っている。皆ノートや教科書を食い入る様に見つめ、呪文の様にぶつぶつと何か呟く。それは自分自身に対する慰めであったり試験内容の復習であったりと様々だ。
 あの日和でさえ雪菜達を見つけても何も話し掛けずに会釈するだけだった。

 ごくん、雪菜は唾を飲み込み周りと同じくノートを広げたその刹那、


「それでは、これより試験を開始する!」

ガラッと大きな音を立て扉が開いた。その音にも驚くが、何より中へと入ってきた人物に驚いた。


「あの子、朝の……!」

119:ちゃっぴー ◆9s0k:2012/10/11(木) 19:53 ID:lcg

おもしろーい!

120:ココナッツ:2012/10/13(土) 19:33 ID:ICw

来たよーー!!

登場したね!
ウザキャラww

121:きなこ ◆H.KU:2012/10/14(日) 09:29 ID:OMY

>>119
わぁあ、姉さん!!
ありがとうございます(*^▽^*)

>>120
こんにちは〜!
ついにウザキャラ始動ですww

122:ききらら:2012/10/14(日) 13:49 ID:cnc

おもしろいです。 ♭('ч '*)♭
わーいわーい

123:きなこ ◆H.KU:2012/10/14(日) 21:50 ID:j66

>>122
わーい(*^▽^*)
ありがとうございます!!
----------

「あの子は朝の幼女……!」
 雪菜とほぼ同時に俊也が呟く。だが彼の言葉は余計なおまけが付いていた。

「よ、幼女ではない!私は13歳の神崎リリアだ!」

 自己紹介を終えふふん、と胸を張るリリアこと幼女。隣で日和がくすりと笑った。
 それにしても「リリア」という名前にしろ、彼女のキラキラと窓からの日光に光る金髪にしろ、彼女はまるで違う世界からやってきたかの様だった。ハーフか何かなのだろうか。



 その後、リリアからの説明を受けた。

 どうやら試験内容はどの階級でも同じ様なものらしい。ただ、“少しだけ”問題が違うという。

124:きなこ ◆H.KU:2012/10/14(日) 22:03 ID:pYE

「ふふん、まあどの階級でも激ムズのすっとこどっこいだがな!」

 ふん、と鼻を鳴らすリリアの姿はやはり幼い為か、単語にも少し意味が違うものが混ざっている。ああ幼女だな、と雪菜は思った。


「では、始め!」

 そして、リリアの一声と共に試験が始まる。



 雪菜の軽快にペンを走らせるステップは鼓動と旋律を織り成し、一つの円舞曲を奏でた。これはいける、そう確信したその次の問題で音楽はぴたりと止んだ。



『あなたが、召使いになろうとしたのは何故ですか?』





 その一方で、リリアは教室、否……試験開場の端に座り辺りを見回していた。そしてぽつりと呟く。

「……苦労を知らない馬鹿の鼻なんて、へし折ってやる」

 その声は幼いながらも、何処か哀しげに消えていった。

125:きなこ ◆H.KU:2012/10/16(火) 19:45 ID:OMY

 どの様な答えを書いて良いか分からず、雪菜はゆっくりと目を閉じた。まるで、この世界の静かな雑音から全てを遮断する様に。

――私は元々何の不自由も無いお嬢様だったわね。

 古い木の薫りがする書庫でゆったりと本を読み、時々執事が淹れてくれた紅茶で喉を潤すだけの代わり映えの無い毎日。

 それが家の財政破綻により全て失われた。信じていた両親は私を捨てて、これまでずっと箱の中だった私は突然外に放り出されてしまった。
 全てが信じられなかった。恐怖と絶望と、……何処にも当てられない虚しさで。

 そんな時に執事が来た。篠原、あいつがあんな奴だとは思わなかったけど……嬉しかった。

 篠原だけには、傍に居て欲しい。そう思う様になっていた。

 それでこの塾へ入って毎日が変わったわ。日和や日向にも出会って。……俊也には会いたくなかったけどね。
それは書庫で読む本の世界よりもキラキラしていて楽しかった。


 執事がまさか「ご主人様」になるとは思ってなかったけど、私は彼の傍に居るから今居るんだよね。


 ……もしかしたら私、篠原の事――――

 ここまで思考を巡らせると、雪菜は目を開けペンを動かした。

 書き終わると、試験終了を告げるベルが鳴った。

126:花梨:2012/10/16(火) 20:31 ID:gxQ

面白いです 頑張ってください!

127:風鈴:2012/10/17(水) 16:15 ID:Abw

ファンです!面白いです!愛してるー!

128:ココナッツ:2012/10/17(水) 19:20 ID:ICw

姉さんなのアタシ?
初めて言われた―!!
なんか嬉しーー(^v^)/~~

129:きなこ ◆H.KU:2012/10/17(水) 21:21 ID:Zow

>>126
ありがとうございます!!
頑張ります(*´∇`*)!

>>127
Σあああ愛してる!?
うわぁあ、ありがとうございます(*´ω`*)

>>128
ふふふ、それではココナッツ姉さんで(*^▽^*)笑

130:きなこ ◆H.KU:2012/10/19(金) 13:46 ID:qb6

「ふあ〜、疲れました〜!」

「姉貴お疲れ様……俺も疲れた……」

「雪菜ちゃん、これから僕とお茶でもひでぶ!?」

 試験が終わった事により解放感に満ち足りた表情の三人。しかし雪菜は、それと対照的に頭の中にぐるぐると渦を巻いていた。俊也をグーで殴った事にさえ気付かないくらい心臓はドキドキと音を立てている。

(わた……わたたた、わたし……

 篠原の事、好きになっちゃった……!)

 あのテストの答えを導くと共に、とんでもない感情まで導いてしまった。

 こんなの、気付きたくなかったのに。

(今夜から、どうやって過ごせば良いのよ!)

 試験が終わると共に、雪菜に新たな心配事が芽生えたのであった。






「リリア、久しぶりだな。元気だったか?」

「はい、とても。お兄様のお陰です」

 生徒達が居なくなり緊張の糸が切れた様な教室。そこには、一人の少女と青年が居た。


「そんな事無いさ。今の道はリリアが歩んだものだろ?
それじゃあ、採点宜しくね。今回は二人新しく入学したからいつもより大変だろうけどね」

「……二人、はい。分かりました。




優也お兄様の為なら、なんだって頑張れます」

131:ココロ ◆F4eo:2012/10/19(金) 16:20 ID:7VE

入れてください

132:きなこ ◆H.KU:2012/10/19(金) 18:24 ID:rew

>>131
どうぞどうぞ〜(*´`*)
--------


「…………」

「……おい、雪菜」

 びくり! 静かな部屋の中で名前を呼ばれ、先程までずっと黙っていた雪菜は飛び跳ねた。

「なっ……ななな何!なんか用!?」

「いや……やけに黙ってるから可笑しいな、と思って……なんかあったか?」


(いや、あんたのせいだよ!)
 いつもと変わらないベッドの上。彼も疚しい事はしないと分かっている。分かっているのに。

「知らない!寝る!おやすみ!」

「え、ちょ……」

 ふん、と毛布を占領して布団に潜り込み、雪菜はほぼふて寝と言って良い状態で眠りに……つける筈も無く、一晩中悶々とした空気を過ごしたのだった。





「ふぅ……半分も不合格じゃないか。サボってるのか?アイツら」

 誰も居ない試験開場、もとい教室。その中で、こうこうと小さな灯りを付けて机に向かう幼女。
 試験監視官であるリリアは、むすっとした表情で仕事である採点をしていた。どうやら不合格の連続らしい、彼女の眉間には皺が寄せられていた。


「次は……ああ、新しく入ったとかいう奴等か。さて、不可能の青薔薇さん達の結果はいかがなものかな」

 “廻崎雪菜”と名前欄に書かれた回答、それに“柳俊也”と書かれた回答を並べ、一律して採点してゆく。
 終始つまらなさそうなリリアだったが、最後の回答を見るとニィ、と口角が上がった。


“篠原優也が好きだから”

“雪菜ちゃんが好きだから”



「……ふん。お気楽な奴等め」

133:ココロ ◆F4eo:2012/10/19(金) 18:36 ID:7VE

>>132ありがとうございます☆
  タメおkですか?
雪菜ちゃんツンデレですね!

134:ココナッツ:2012/10/19(金) 20:50 ID:ICw

わぉ!!
三角関係だぁーー!!!

めっちゃ面白い展開〜〜!!

さすがきなこだね!!
姉さん嬉しいよー(^v^)ノ ←(ウザい奴ww)

135:きなこ ◆H.KU:2012/10/19(金) 22:41 ID:ikA

>>133
呼びタメなんでもおkですよ〜(*^▽^*)♪
ですね!w

>>134
ずっとやりたかった三角関係ですww

うざくないですよww
むしろ私も嬉しいです(*´`*)

136:ココロ ◆F4eo:2012/10/20(土) 08:12 ID:7VE

ありがとう(*^∀^*)
>きなこ

137:きなこ ◆H.KU:2012/10/21(日) 10:07 ID:cYg

>>136
いえいえ〜(*´`*)
--------

 翌日の朝、きっと木々さえも寝ている時間帯に、一人の少女はむくりと起き上がる。

「この時間から行かなきゃ、きっと日向君着いてきちゃうからね」

 日向君には思い出して欲しくないの、と呟く少女の顔は早朝の空とは対照的に曇っていた。だけどそれを振り払う様に大きな伸びをすれば、曇り空もすぐに晴れてきた。

 ゆるりと髪をおさげにして結う日和の服装は制服では無く、明るい向日葵の色のワンピース。清楚な彼女に、その色はよく合っていた。


「さて、今日は休みだしお出かけするかぁ!」

 試験翌日は臨時休校になるのだ。これは塾長の篠原からのプレゼントと言って良いだろう。


 とんとん、と白が基調のスニーカーを整える。

 そうして、楠日和の休日が始まった。

138:きなこ ◆H.KU:2012/10/21(日) 23:22 ID:NkE

「あ〜……やっぱり此処は落ち着くなぁ」

 がたんごとん、と人が疎らの電車に揺られ、日和は外を見つめる。見渡す限りの田んぼはもう実りの秋の時季で、心地よさそうに風に揺れている。日和はうとうとと眠気に誘われながらも、寝過ごしてはいけない! と目を擦り奮闘していた。

(だって、大切な用事だもん)




―――

 電車から降りた町はあからさまに田舎で駅も古かったが、手慣れた足取りで日和はある場所へと向かう。



「あ……そうだ、お花も買わなきゃ。それとメロンパンも……」

 そうブツブツと独り言を呟く日和は、昔を思い出す様な表情だった。

139:きなこ ◆H.KU:2012/10/23(火) 21:34 ID:BlI

「お花もメロンパンも買った……と! よし、準備万端!」

 一通りの買い物を済ませると、満足げな表情で日和はにこりと笑う。彼女の手にある花は、日光を吸収して水滴に反射した。

 そうして日和はずんずん道を進む。古い民家を通り過ぎ、平坦な田を越えると目的の場所に辿り着いた様で。



「相変わらず木ばっかりだなぁ……」

 そこは人気の少ない墓場。先程の日光はまるで全て遮断された様で、ひゅうひゅうと風が素肌を撫でる。しかし、日和は怖がりもせずある一点の墓へと向かった。





「久しぶり…………葉人」

140:ココナッツ:2012/10/26(金) 18:57 ID:ICw

葉人って誰ー?

新キャラ登場?(・口・)ゝ

141:きなこ ◆H.KU:2012/10/30(火) 19:34 ID:sno

>>140
葉人とは……誰でしょうっww
今から葉人について書きます(*´∇`*)
------

 噎せる様な線香の香りにを鼻にかすめ、日和はぽつりぽつりと語りだした。

「葉人、もう……あの子を解放してやってくれないかな?」


 あたしね、葉人がずっと好きだった。葉人もあたしを好きって言ってくれたよね、嬉しかったなぁ


 まるで“葉人”を思い出すかの様な懐かしい表情。だけれど寂しげな、思い出したくない記憶の蓋を開ける様なそんな声色。


「でもね、それがあの子を……日向を束縛するなら、あたしは全てに終止符を打つよ」


 無機質な墓石からは返答が無い。しかし日和は戸惑う事無く立ち上がり、「それを伝えたかっただけだから」と言いにこりと笑った。いつもの彼女の笑顔だ。

142:きなこ ◆H.KU:2012/10/30(火) 19:42 ID:HBQ

 それから、くるりと振り返ると、

「日向君、そういう事だからね」

 もう一度にこりと笑った。その先には罰が悪そうに俯く日向。彼女の弟である。

「着いてこなくても良かったのに」

「……俺は一生葉人に謝り続けるつもりだから」

「どうして?何も日向君が悪いわけじゃ」

 「掟なんだよ!」日和の言葉を遮って、日向は叫んだ。彼にしては珍しい反抗である。日向の思考はふわふわと何を考えているか分からない。それなのに脳裏には“あの日”がずっと過っていて。



 日溜まりの下の感情は、世界をぐるぐるとかき混ぜる。

143:今から楠姉弟の過去話www ◆H.KU:2012/10/30(火) 20:07 ID:cYg

 “掟”
 それは、世界に潜む見えない鎖。



――

――――

 鈍い音がすると、世界は真っ暗で、恐る恐る目を開けると、そこは真っ赤だった。







 天気の良い日、二人の男女が駅で談笑していた。


「元気でね、葉人」

「また会おうね」

 在り来たりの別れ言葉を一言二言。すると少女は少し頬を赤らめる。そして意を決した様に相手を向いた。
 その時だった。

「おい! 葉人! 俺はお前と姉貴の交際なんて認めないからな!」


 階段から息を切らしながら少年が走ってきた。目には焦り、額には汗。それを見て、唖然とする少女。
 それとは対照的に“葉人”と呼ばれた少年はくす、と笑う。



「俺はもう、恋はしないよ」

 そう言って、“葉人”は駅に身を投げ出した。

144:ココナッツ:2012/11/03(土) 19:43 ID:ICw

葉人、死んだ!!

145:風鈴:2012/11/17(土) 11:07 ID:Abw

続きが楽しみです♪

146:かれん@あすリン ◆YYDk:2013/09/09(月) 18:09 ID:6f.

急展開!

続きが気になりすぎてやばいww


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