好きって言っちゃ、いけません。

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1:姫♪ ◆F4eo:2012/09/28(金) 21:15 ID:fZQ

純粋なラブストーリーがうまく書けない葉っぱ一の駄作者姫♪でございます。

さて、ルールは少しありますね。


1・雑談禁止。雑談し始めたら全員おさらb((ry
2・感想コメは歓迎するけど褒めないで。これ以上成長したいから。
3・荒らしとかマジ勘弁です。そんなことしたら水平線の彼方まで吹っ飛ばしm((ry
4・暴言コメ禁止。あたしの作品が駄作なのは知ってるから、改めて突きつけないでその事実。
5・あたし以外小説は書かないでくださいね。書かれたら泣きますから。
6・アドバイスは歓迎しますので、ビシバシよろしくです。


…さぁ、守れない人はUターン。
守れる人だけ来てくださいね。こんな駄作でよければ。

ではスタートです。

2:姫♪ ◆F4eo:2012/09/28(金) 21:20 ID:fZQ



プロローグ



…苦しんで、苦しんで…。
あたしが壊れてしまいそうで。


泣き叫んだあの日。


大好きなきみが、消えたから。


きみは今…幸せですか?


あたしは今…幸せなの?


きみがいない世界がこんなにもつまらないなんて


きみからの連絡がない心がこんなにも虚しいなんて



…初めて知ったよ。


大好き、大好き。


だけど…なんで言えないの?


なんで、きみが好きなのに…我慢しかないの?



きみは今……何してる?

3:姫♪ ◆F4eo:2012/09/28(金) 21:30 ID:fZQ




「如月さん!お、俺…如月さんのこと好きです!」


如月 蒼依(きさらぎ あおい)。

あたしの名前。


別に可愛くもなんともない、へいっぼんな女子中学生。

特別もてるわけじゃないし、特別可愛いわけでもないし。


ただ普通に生きてるだけの、普通の人間。


…そんなあたし、人生初告白されちゅう。



…相手はイケメンな先輩。


陸上部のエース、桜井 宇宙(さくらい そら)先輩。

4:姫♪ ◆F4eo:2012/09/28(金) 21:35 ID:fZQ


「え…桜井先輩…冗談ですよね…?」


こんなイケメンがあたしのこと好きなんて、冗談に決まってる。


あぁ、わかった。

なんかの罰ゲームだ、きっとそうに違いない。



「冗談なんかじゃない。本気なんだ。俺と付き合って欲しい」


先輩の真っ直ぐな瞳。

とても嘘付いてる感じなんてしなかった。


だから……あたしはどうしたいの?


確かに先輩は格好いい。


学校1の人気者かもしれない。



…そんな先輩に、あたしは釣り合うの?


どこにでもいる平凡な中学2年生。


それに対して陸上部エースにしてイケメンな中学3年生。




…つ、釣り合わないよ…。

5:姫♪ ◆F4eo:2012/09/28(金) 21:39 ID:fZQ




……。


マイナス的なネガティブ思考だけが頭を駆け巡る。


「あ、返事はいつでもいいよ。待ってるから」


優しくそう言ってくれる先輩の声が優しくて…。


少しでも疑ってしまった自分が、恥ずかしい。




先輩。桜井先輩。


先輩は格好いいから、女の子なんてよりどりみどりじゃないですか。


なのにどうして、こんなあたしなんかに告白するんですか?


あたしは、先輩がどういう感情であたしのことを好きって言ってくれるのかいまいちわからない。


あたしが先輩をどう思ってるのかも…。




先輩は格好いいし、優しい。


少なくとも嫌いではないんだと思う。


じゃあ好きか、って言われるとわからない…。





…あたし、わがままなのかなぁ。

6:姫♪♯0214:2012/09/28(金) 22:01 ID:fZQ




わがままなあたしが、傷つかずに済む方法。


振られたら傷つく。


裏切られたら傷つく。


…最初から、かかわらなければどう?


そうしたら傷つかない。



…だけど、だけど…。


そう思うと胸のどこかがモヤモヤするのは…なんで?



「…桜井先輩…」



結局その日は答えがでなくて、ずっとずっと頭を抱えていた。




「如月さん、考えてくれた?」

朝の学校で先輩に声をかけられる。


ドキンッ


胸が、高鳴る。鼓動が、早い。


「あ…えっと、もうちょっと待ってください…」


もうわけがわからない。


別に好きじゃないと思うのに、ドキドキする。

7:姫♪♯0214:2012/09/28(金) 22:16 ID:fZQ

雑談とか感想はこっちでお願いします。
http://ha10.net/test/read.cgi/frt/1348838144/l50

8:姫♪♯0214:2012/09/29(土) 15:57 ID:0kY



桜井先輩のこと、別に好きじゃない…と思う。


でも、先輩のこと考えると胸が踊る。


先輩がほかの女の子と話してると、胸がちくちくする。



…神様、聞いてみてもいいですか?


この感情の名前はなんですか?



「あ〜、そこの女の子ぉ」
「ねーねー、きみひとりぃ?」
「俺らと遊ぼぉよぉ」

塾帰りの夜の道で、3人組の男の人に声をかけられる。


お酒臭い…。


できるだけかかわらないように、無視して歩き出す。
でも追いかけてくる。


「ねぇー、ちょっと待ってよぉ」

がっしり掴まれた腕。…動けない。


「ちょ…離してくださいっ」


精一杯の抵抗を見せるけど、動けない。


男の人の力ってこんなに強いの?



マンガとかだったら、ここで格好いいヒーローが助けに来るんだ。


でもこれは現実なんだね…。


誰も助けになんて、来ない。

9:姫♪♯0214:2012/09/29(土) 16:05 ID:0kY



廃墟っぽい倉庫に連れ込まれる。


ほら、やっぱり現実なんてこんなもんだよ。


誰も助けに来ないし、酔いがさめて男の人がやめてくれもしない。


どんどんあたしが壊されてく。



「やっ!やめて…っ!!離してよっ」


男の人の手が服にかかるたび、鳥肌が立つ。
ヤダ、ヤダ、気持ち悪い!

男の人の手が体に直に触れた時、思わず平手で殴ってしまった。

そうしたらあたしに馬乗りになっていた人が、あたしの体を押さえつける。
それで、たくさん殴られた。

いっぱい傷つけられた。


身についていたものがどんどん取られていく。

触らないでよぉ…っ!!




そのあと、何があったかは覚えてない。
ただわかったのはあたしは汚れたってこと。

ただ感じたことのない恐怖を感じたってこと。

マンガと現実は、やっぱり違うってこと。



泣きながら家に帰る。

体中についた痣を隠しながら帰ったのに。


お母さんには気づかれた。


「何があったの?」って優しく聞いてくれた。



お母さんのあったかさに触れて、余計涙が溢れたんだ。

10:姫♪♯0214:2012/09/29(土) 16:16 ID:0kY



お母さんに今日あったことを全部話した。

変な3人組にナンパされたこと。

逃げたけど追いかけられて捕まったこと。

廃墟みたいな倉庫に連れ込まれたこと。

あたしを、汚されたこと。



お母さんはずっと相槌を打ちながら聞いてくれた。

全部話し終わった時に、


「怖かったよね。大丈夫だよ」

そう言って抱きしめてくれた。


お母さんのぬくもりが、ただ嬉しかった。



「警察、行こうか」

お母さんが不意にそう言った。


あたしが不思議そうに、え?と聞き返すとお母さんは、

「蒼依がされたことは、立派な犯罪なのよ。だから、警察に行ったほうがいいわ」

そう言った。


確かに言ってることはわかるし正しい。


でも、被害者はあたし。

警察に行ったら事情を聞かれる。


そうしたら、あの時のことを思い出さなきゃいけない。


明らかに震えて、様子がおかしいあたしに気づいお母さんが優しく

「まだいいよ。蒼依の心が落ち着いたら、一緒に行こう?」

そう言ってあたしの手を握ってくれた。

11:姫♪♯0214:2012/09/29(土) 16:26 ID:0kY



それから数日後、あたしとお母さんは警察署まで来た。

事情を話して被害届を提出。


実際やったのはこれだけだけど、妙に長い時間のような気がした。


まず、お母さんが要件を受付で話した。
受付の女の人は、快く了承してくれて、婦人警官酸をつけてくれた。

そして、取調室みたいなところに入る。


こういう話は個室がいいって、警察の人が気を使ってくれたから。


お母さんは「ついていこうか?」って言ってくれたけど
お母さんがいたら甘えてしまいそうだから「大丈夫だよ」って言って婦人警官さんとふたりで話す。



「じゃあ、被害にあった時の状況を聞かせてくれるかな?ゆっくりでいいよ」

優しく微笑んでくれる婦人警官さん。


どことなくお母さんと同じ雰囲気を感じた。



それから、泣きながらその時の状況を話した。

ナンパされたところから、一番最後まで話すまでにかかった時間は1時間くらい。

それだけ泣いて、それだけ時間がかかった。


婦人警官さんは、優しく微笑みながら優しく話を聞いてくれた。
話終わると、被害届を書く。


ペンを握る手がちょっと震えた。

12:姫♪ ◆F4eo:2012/09/29(土) 17:43 ID:0kY


「じゃぁ、犯人が上がったり、疑わしい人物が現れたら連絡しますね」

優しそうに微笑んで、見送ってくれる警察の人。

怖くて怖くて、動けなかったあのことを、優しく聞いてくれたあの婦人警官さんは必ず犯人を見つけるって言ってくれた。


「よく頑張ったね」って、お母さんと同じようになでてくれた。

お母さんと同じ、温もりを感じて涙が溢れた。



「お母さん、少しさっぱりしたよ」

あの日以来、見せられなかったにこやかな笑顔をお母さんに向ける。
お母さんはびっくりしたような顔をして、それでも優しく微笑んでくれた。

「蒼依、よく頑張って話してくれたね。お母さん、心配したよ。
話せてないんじゃないかって」

お母さんが優しく撫でてくれた頭は、少しのあいだ熱を持っていた。



問題は、そのあと。

桜井先輩に余計釣り合わなくなっちゃった。

こんな汚れたあたしじゃあ、絶対に釣り合わない。



桜井先輩に、言わなきゃ。

あたしは汚れちゃった、付き合えないって。



…頭ではわかってる。
でも、でも…。

先輩を傷つけたくないのに、言いたくないあたしがいる。


桜井先輩は、今のあたしのこと知ったらなんていう?

「それでもいいよ」って言う?

…そんな風に、言ってくれる?


こんなに汚れたあたしでも、変わらずに好きって言ってくれるの?

先輩、あたし不安だよ…。

13:椿:2012/09/29(土) 17:51 ID:/CE

キャァ――――!!!!
純愛(*>ω<*)


すいません;今日文化祭で、これませんでした(;д;)

14:姫♪ ◆F4eo:2012/09/29(土) 17:51 ID:0kY



なんで、先輩のことでこんなに悩むの?


好きじゃないなら、はっきり好きじゃないって言えばいいじゃん。

それができないのは、なんで?


あたし、おかしい。



「っ…桜井先輩っ!」

思い切って、3年の教室まで行く。

桜井先輩はあたしを見て驚いた顔をしたあと、にっこり笑ってきてくれた。


「如月さん!答え、出たの?」

柔らかい笑顔で聞いてくる先輩。

この顔は反則だよ。


今から告白の返事、断ろうとしてるのに。


「あ…え…っと…」

…決心してきたはずなのに、いざとなると少し怖い。

断って、嫌われちゃったら?


…それが、怖いから…。



「…人がいないとこ、行こうか」

桜井先輩が、あたしの手を引いて中庭まで行く。

あたしはちょこちょことそれについていきながら、どうやって断ろうかを考えていた。

告白の、返事。


先輩を傷つけるかもしれない。


…ううん、傷つける。

そんなことわかってる。わかりきってる。

…でも、言わなきゃ。



中庭についた時、あたしは意を決して声を出した。

「…っ、あの…!」

15:姫♪ ◆F4eo:2012/09/29(土) 17:52 ID:0kY

>>椿様
あ、椿様。
向こうのフリトのスレに書き込んでくださると嬉しいです。

わがままですいません。
こっちのスレでは小説だけを書こうと思いまして。

16:椿:2012/09/29(土) 17:52 ID:/CE

あの…!?

17:椿:2012/09/29(土) 17:53 ID:/CE

>>15
わかりました!
此処にはカキコしないようにします。tkしません!
あっちでしますね!!^^

18:姫♪ ◆F4eo:2012/09/29(土) 18:00 ID:0kY



「…っ、あの…!」

冷たい風が吹く。火照った頬にあたって心地いい。
急に口を開いたあたしの腕を話して、先輩があたしを真剣な眼差しで見つめる。


「…うん」

あたしの尋常でない緊張感に気づいたのか、先輩は真剣な表情。


怖い。嫌われるかもしれない。


…でも、あとから知られて傷つけるのはもっとヤダ。

だから、言うよ。



「先輩…あたし、先輩とは付き合えません…っ」


…先輩、このあとなんていう?

なんで、って聞く?


聞くよね、やっぱり。

好きな人がいるの?とか。


だって、断られたんだもんね。


「…え、なんで…?」


ほら、やっぱりそう聞くよね。


…怖いよ、思い出すのが。


でも、先輩と中途半端に終わりたくない。

だから…だから、全部話す。


それからあの日のことを、ゆっくりと話した。


先輩は途中、口を抑えたりしながら聞いてくれた。


「…そいつら、許せない」

そう言って、自分のことのように怒ってくれた。

先輩、優しいね。


「…だ、だから、先輩とは付き合えません。汚れたあたしで…先輩と付き合えません…」


なんでかわかんないけど、目頭が熱いよ。

19:姫♪♯0214:2012/09/30(日) 13:07 ID:xPI



先輩とは付き合えない、そう言った。

本当のことだし、今じゃないと決心が揺らぐ。


だから今しかない。
そう思って言ったのに…。


そんな悲しそうな顔、しないでよ…先輩。



「…別に、如月さんは汚れてないよ」

優しい声色でそう言ってくれた先輩。

不思議に思って「え?」と返すと、先輩は真剣な表情でこういった。


「如月さんがそれを望んでいたなら話は別だけど、如月さんはそれを望んでなかったんでしょ?」

先輩の声がいつになく真剣で、でも優しくて。

うまく言葉が見つからない。

もちろん、あんなこと望んでなかった。
「嫌だったんでしょ?」


嫌だった。逃げたかった。

でも、できなかった。痛くて、苦しくて、離してくれなくて。

泣いても叫んでもやめてくれなかった。

「本人が望んでないそんなことで、如月さんは汚れないよ」



なんで、そんな優しいこと言っちゃうの?

なんで、そんな決心揺らがすの?

なんで、そんな真っ直ぐな瞳で見つめるの?

なんで、そんな偽りのない愛で包んでくれるの?



先輩…、先輩との距離が近づいた気がします。

20:姫♪♯0214:2012/09/30(日) 13:17 ID:xPI



先輩が、前よりずっと近くなった。


桜井先輩、あたし…告白の返事断ったんだよ?

陸上部のエースで、誰もが一度は恋焦がれる先輩の告白を。


なのに、なんで今もまだそんなに優しいの…。



あたしは、ずるい。


この間のことだけを表に出して、断ろうとしてる。


自分の一番大きな罪を、隠そうとしてる。


『蒼』


脳裏に蘇ってくる声は、今も生きてるのにな。





「一条くんのこと、好きです…っ!」


中1の夏、あたしは初めての告白をした。

相手は一条 翔(いちじょう かける)。


クラスではあまり目立たない眼鏡をかけたクール男子。

でも頭が良くて、さりげに優しくて。


隣の席になって、初めての恋をした。


「…如月さん?え…嘘?」


あたしからの告白を受けて、一条くんはびっくりしてた。

口をあんぐり開けて、ぽかーんと間抜けな表情なんかして。

可愛かった。


「嘘なんか…じゃないよ」

真っ赤に染まったであろう顔を地面に向けて、一条くんの言葉をまっていた。


「俺、ずっと如月さんのこと気になってた」


そうして、あたしと翔は付き合いだした。


好きだった。本気で好きだった。

だけど…気持ちはいつか薄れるもの。

21:姫♪♯0214:2012/09/30(日) 13:30 ID:xPI



初デートの日、遊園地に行った。

翔がジュースを買いに行ってるあいだに、あたしはナンパされた。


でも翔が「人の女に手出さないで」って助けてくれた。



ナンパのことは今思い出すと、寒気がする。

あの時翔が助けてくれなかったら…どうなってたんだろ。




中1の秋、翔がおかしくなった。

危ない先輩たちと絡みだして、薬物に染まっていった。

みんな翔とはかかわらなくなっていった。


…あたしも、翔と距離を置いた。


翔からは、しつこく電話やメールが耐えなかった。

3分に一回くらい届くヨリを戻したいっていうメール。

1時間に一回くらい来る同じ内容の電話。


怖くて怖くて、携帯を充電せずに放置した。




その1週間後、翔は死んだ。

22:姫♪ ◆F4eo:2012/09/30(日) 18:06 ID:8X.


翔の死因は、交通事故。

薬物のせいでフラフラして、車道に出てひかれたって聞いた。


…でも、あたしは知ってる。
それは違うって…。



あの日、警察の人からこっそり聞いた。


『一条翔の体からは薬物反応は検出されなかった』


翔は多分、薬物に染まった自分を抑えるために…。

自ら命を絶ったんだと思う。


もしかしたら、あの時あたしが「薬はやめてよ」って言ったら翔はやめてたかもしれない。


あたしのことが好きだった、依存してた翔はそれでやめられたかもしれない。


あたしは翔を無視した。



…あたしが殺したも同然だ。





「如月…さん?」

桜井先輩の声で、ハッと我に帰る。

先輩があたしの顔を覗き込んでいる。

それが恥ずかしくて、赤くなった顔を隠すかのようにうつむいた。


「あ…えっと、桜井先輩…。そういうこと、なんで…っ」


そう言って走りだそうとするあたしは、ずるい。


「ちょ…ちょっと待ってよ!」


がしっと掴まれた腕。

逃げようとしたくせに、それを待ってたとか…ずるい。

23:家永:2012/09/30(日) 20:23 ID:SMk

ハロー
姫〜
今回もおもしろくなりそうだね!!!

この調子でじゃんじゃん書いてってくださいねっ!

24:姫♪♯0214:2012/10/01(月) 15:24 ID:jwQ

>>23
フリトに書き込みなさい←
書くけどね。

25:姫♪♯0214:2012/10/01(月) 15:29 ID:jwQ




「な、なんですか…っ」

掴まれた腕から先輩の熱が伝わってくる。


ドクンッ。

胸が、心臓が、大きく波打つ。


大きく動く心臓をなだめるように、ひとつ息を吸った。


「あの…」
「如月さんは俺のこと、嫌い?」


真っ直ぐな瞳。
最初と変わんない、痛いほど真っ直ぐにあたしを捕らえる瞳。


…あたしが、先輩のこと嫌い?


ううん、嫌いじゃない。

…でも、好き?


…ううん、好きじゃないのかなんて、わかんない。



結局あたしは先輩から逃げてるだけなんだよね。

わかってる、それくらい。


翔のことをいつまでも引きずってるのは、あたし。

そんなの…、自分を責め続けるだけ。


わかってるのに…、な。

26:姫♪ ◆F4eo:2012/10/01(月) 15:47 ID:jwQ




わかってる。

自分を責め続けて…自分を責めて…。

自分を苦しめるだけ…。


「別に、嫌いじゃないですよ…」

絞り出したような掠れた声でそう言った。

そんなの、説得力ないよね。


“嫌いです”って言ってるみたいなもんだよね。


でも、嫌いじゃないよ先輩。

好きじゃ、ないだけ。



「…そんなの説得力ないよ。俺のこと好きじゃない?」


好きじゃ…ない?


わかんないよ、だって嫌いじゃない。

だけど、じゃあ好きかって聞かれたら口ごもる。



絵の具で塗りつぶしたような、雲ひとつない青空を見上げて深呼吸。


「…好きじゃ、ないのかもしれません。でも、少なくとも嫌いではないです」


やっぱり、こんな曖昧な返事じゃぁ勘違いさせるよね。


逆に傷つけるかもしれないことくらいわかってる。


でも…本当のこと、だよね。

27:姫♪♯0214:2012/10/01(月) 16:15 ID:jwQ



「…そっか。返事、聞けてよかった」

ズキン。

悲しそうな表情をする先輩を見たら、胸がいたんで涙腺が歪んだ。


泣くなんてずるすぎる。

あたしが泣いていいわけないじゃん、泣いていいのは先輩だよ。


「また、もうちょっとしたら告白していい?」


そう言われたときは、思考停止。

振られる覚悟で?今断られたのに?


「その時も、OKするとは限りませんよ」

意地悪っぽくそう言ってみた。

でも先輩はにっこり微笑んで、

「その時までには好きになってもらえるように、努力するよ」

そう言って、教室に戻っていった。


あたしは、あんな純粋で一途な先輩を傷つけたんだ。


そう思うと、少しおさまった胸の痛みがまた膨れ上がった。


太陽に熱されたアルファルトに、ひとつぶひとつぶ、涙がこぼれた。



何で泣いてるの、あたし。

先輩が離れてったから?


…そんなわけないじゃん。

あたしが振ったんだもん。



…それで泣くなんて、あたしはどれだけずるいんだろう。

28:姫♪♯0214:2012/10/01(月) 17:48 ID:skI




あたしは…あたしは、大きな十字架を背負ってる。

これは一生消えない。

あたしが翔を殺した。


『蒼』

『蒼依、どこ行く?』


脳裏に蘇る、翔の声。

少し周りの男子より低くて、聞くと安心できた声…。


今はもう、聞けない。


あたしが聞けなくした。あたしが…。


「…翔…っ」


無意識に翔の名前を呼んでた。

本当に、無意識のうちに。


翔…っ…、ごめんね…。

あたしが一言…、言ってあげればよかったのにね。

「薬はやめようよ」って。

そうしたらもしかして…、まだ、ここにいてくれたんじゃない?


そうしたら…、あたしの前から、消えなかったんじゃない?



あたし、どうしちゃってたんだろ。


翔のこと、大好きだったのに。

翔のこと、見捨てた。




そして今…、桜井先輩に心が向き始めた気がする。



あたし、フラフラしちゃってる。

29:姫♪ ◆NLsI:2012/10/01(月) 18:45 ID:skI



ジリジリと照りつける太陽。

髪が、全身が溶けてくような気がする。


―――キーンコーンカーンコーン

本鈴がなった。

でもあたしは中庭から動かなかった。


…いや、動けなかった。


翔との思い出が…。

美化された思い出かもしれないけど、浮かんできた。


あたしのことを、『蒼』って呼んでいた翔。


あたしの頭の中には、まだその声が焼きついて離れない。



付き合ってた、って言っても、手をつないだりデートするだけだった。

それ以上のことはしてない。


でも、そんなことなくても愛されてるって思えた。

あたしに触る翔が、優しく宝物に触れるように触ってくれたから。

包み込むように抱きしめてくれたから。



ずーっと、この時が続けばいいって思えたから。



今のこの痛みなんて、想像もできなかったから。


翔と、桜井先輩。

天秤にかけられるような二人じゃない。


翔は大好きだった人。

桜井先輩は憧れの人。


翔への気持ちは、今もずっと罪悪感でいっぱい。


『好き』って気持ちは…どこに行ったんだろ。



桜井先輩への気持ちは…まだわかんない。


嫌いじゃないし、かと言って好きでもない。


あたし、わがままなのかな。

ずっと翔のこと引きずって、恋なんてしないままなのかな。

翔…、あたしね。


翔のこと、大好きだったよ―――






でも、いつの間にか翔への気持ちは薄れて…。

泡みたいに消えちゃったんだね。


そして、今は罪悪感でいっぱい。



生きてるのが、辛いほどの十字架を背負ってる。

30:姫♪ ◆NLsI:2012/10/02(火) 18:32 ID:MKQ




本鈴がなってから、15分くらいたっただろうか。

ようやくあたしの足は動いた。

ゆっくりと足を動かして、教室に向かう。


―――ガラッ


授業は始まってたけど、気にしない。


「ん?如月じゃないか。どうしたんだ?」

いやに気に障る男性教師の聞き方。

みんなの注目を浴びる。


「中庭にいたら、急に腹痛に襲われて。少しのあいだ動けなかったんです」


あたし、先生にも先輩にも嘘付いてる。


なんでこんなに弱いんだろ。


「そうか。もう大丈夫なのか?」


「はい」


それを聞くと先生は安心したように、席に座るように促された。

小さく音を立てて席につく。


授業は上の空で聞いていた。


数学の方程式とかどうでもいいし…。

今のあたしに大事なのは、先輩のことと翔のこと。




あたし、どうしたらいいんだろ。

31:姫♪ ◆NLsI:2012/10/03(水) 17:53 ID:hYE




チャイムが鳴って、ようやく終わった授業。

すぐさまスクールバックに用具を詰めて帰る。

部活には入っていない。



廊下に出て、しばらく歩く。

下駄箱が遠いのを恨むよ…。

「おい、如月!」

不意に、後ろから声をかけられる。

重いスクールバックを肩にかけたまま、振り向いた。


「…あ、早坂くん」

同じクラスの、早坂 紅旗(はやさか こうき)くん。


あまり話したことはないけれど、話すとそのたびいじってくる。


いわゆるどS系?ツンデレ?そんな感じ。


「こ、このあと、時間あるか?」


「あぁ、うん。暇だけど…」


「は、話があるんだ」


話?なんだろう。

別に暇だし、行ってもいいかな。

「いいよ。ここでいい?」


「いや…人気のないところのほうがいい」


「じゃあ、図書室でいい?部活はどこも使ってないから」

早坂くんは、こくんこくんと首が取れそうなほど大げさに首を縦にふった。


…変な早坂くん。



そしてあたしたちは、人気の全くない図書室に来た。


気のせいか…。


早坂くんの頬が、ピンク色に染まってるような気がするのは。

32:姫♪ ◆NLsI:2012/10/03(水) 18:44 ID:hYE



で、図書室に来てから何分か経過。

早坂くん、未だに一言も喋らないんだけど…?


「早坂くん、話って何?」

しびれを切らして、先に聞いてしまった。

いくら暇って言っても、早く帰りたいしね。


「あ、えっと…。…一条翔…知ってるよな?」


“一条 翔”

その名前を聞いた瞬間、体が凍りついた。


また、翔の声が頭によぎる。


『蒼』





「如月?」

思考停止しているあたしを不思議に思ったのか、早坂くんがあたしの顔を覗きこもうとする。

その顔を反射的に避けてしまったのは…なんでだろう。


「あ、えと…し、知ってるよ。去年同じクラスだったし」

あたしと翔が付き合ってたことなんか、誰も知らない。

秘密にしてたし、しゃべる友達いなかったし。


…―――だけど、なんで早坂くんは知ってるの…?


「翔と付き合ってたろ?去年」


「…っ、な、なんで…っ!?」


あまりに突然すぎて、びっくりすることしかできなかった。

誰も知らないはずなのに……。なんで…!?



早坂くんから帰ってきた答えは、あたしから一瞬、言葉と思考を奪った。



「…俺、翔の従兄弟」

33:姫♪ ◆NLsI:2012/10/05(金) 18:06 ID:vNQ



早坂くんの言葉が、あたしを苦しめる。


翔の、従兄弟…。


「…え、え、え?」

うまく言葉にならなかった文字が、口の中で踊る。


今のあたしには分かんない。

あたしにとって翔は大事な元彼で。

あたしにとって桜井先輩は憧れの先輩で。



ただ、わかるのは…


翔に対しては今、罪悪感しかないっていうこと。


そして早坂くんは、あたしのことを恨んでる。…、と思う。

34:姫♪ ◆NLsI:2012/10/09(火) 17:46 ID:foc



早坂くんが翔の従兄弟で、あたしたちの関係を知ってる。

そして、あたしを恨んでる。


頭の中でそう公式づけて、図書室独特の本の香りに包まれながら顔を上げる。


きっと、なんか怒った顔してるんだろうな。


本の香りがツン、と鼻腔を刺激する。



「…信じらんないかもしれねぇけど、俺、如月が好きなんだ」


「ハッ?」


いや信じらんないかもしれないって、信じらんないに決まってんでしょ。


あたしは従兄弟の敵だよ?

従兄弟を殺したも同然の女だよ?


そのことを覚えていながら、罪悪感を覚えながら、新しい恋にフラフラしてるような女だよ?



それを、好き?


「ば、馬鹿な冗談はやめてよね」


「冗談?」


一瞬考えた後、出た結論が冗談だった。


早坂くんは誰にでも気持ちが動くのか、試してるんだ。





…なのに、なんでそんな悲しそうな顔するの?



「俺は俺個人で如月を好きになったんだ。冗談なんかじゃねぇよ」




みんな、あたしが苦しむところを見て楽しみたいの?


その時の感覚はまるで底のない闇に囚われたようで。


出たくてもがけばもがくほど沈んでいって。


最後には何も残らずに何もかも消えてしまうようで。


苦しみっていう闇から抜け出せなくなったんだ。

35:姫♪ ◆NLsI:2012/10/10(水) 17:39 ID:IZM



抜け出せない黒い黒い闇。

体にまとわりついて離れてくれない。


「え、嘘、でしょ?」

信じられない、という顔をして早坂くんを見上げる。


まだ嘘だって信じてた。

…ううん、信じたかった。


だからお願い。


顔を上げた先にいる早坂くんは、濁った瞳をしていますように。


人を試している顔をしていますように。




でも、違うんだね早坂くん。


顔を上げた先の早坂くんの瞳は澄みきっていて。


嘘なんてカケラも感じられなかった。


「嘘じゃねーって。俺は如月が好きだよ」


なんでそんな真っ直ぐに言い切れるの?


なんでそんな真っ直ぐに想えるの?


あたしは途中で想うのを諦めたのに。



早坂くんは、強いんだね。

36:姫♪ ◆NLsI:2012/10/10(水) 19:59 ID:IZM



“好き”

その言葉が頭の中を駆け巡る。


翔のことが好きで好きでしょうがなかった。


でもいつの間にか思うのを諦めて、色を塗り替えてしまった。


ほかの誰でもない、自分だけの色に。


でも最近、先輩の色が滲みだした気がする。


そしてたった今…、早坂くんの色も滲んできた。


自分の色。先輩の色。早坂くんの色。


3つが混ざり合って、でも自分の色が一番多い。


今あるこの割合を変えるのが怖くて。



前に進めない。



「…あたし、どうしたらいいんだろうね」


口から思わず溢れ出た言葉。

それに一瞬驚いた早坂くん。


一瞬の後、あたしの顔は早坂くんの胸の中に埋まった。

37:姫♪ ◆NLsI:2012/10/11(木) 22:05 ID:GRQ



え、な、何が起こってるの?


あたしの顔に当たる、温かいもの。


あたしの頭に回る、大きな手。


な、何が起こってる、の?



「ちょ、早坂…くん?」


あたしの言葉に反応したかのように、早坂くんの力が強まる。


ぎゅうって音を立てるくらいに、強く。


最初の方は抵抗も見せていたけれど、時間が経つにつれて糸の切れた人形みたいに力が抜けてく。


既に窓の外は紅色に染まり始めている。



「如月、俺を選んで欲しいんだ。大事にするから…苦しめないから…!」


力の抜けたあたしを逃さないようにか、さらに強く抱きしめる早坂くん。


痛いっていうより、あたたかい。

久しぶりに人の体温を、お母さん以外の人の体温を感じた。


でも、ダメだよ。


あたしは幸せになっちゃいけないんだ。


翔の未来を、翔の幸せを。


翔のすべてを奪ったんだから…―――

38:姫♪ ◆NLsI:2012/10/12(金) 18:08 ID:bs6




『蒼』

『蒼依、好きだよ』


じわりと、涙腺が歪む。


今でも鮮明に蘇らせることができる声。


今でも、あたしの中では生きてる声。



蘇らせるたびに、胸が痛む。



早坂くんの体温が、あたしの乾いた冷たい体に染み込んで体を温めていく。




―――ガラ…ッ


突然、図書室の扉が開く。


本の香りと、外の空気が混ざりあう。

「…あ、如月、さん?」


なんで来ちゃうかな。



………―――桜井先輩。

39:姫♪ ◆NLsI:2012/10/12(金) 18:35 ID:bs6



あたし、早坂くん、桜井先輩。


状況は最悪。

あたしの体は早坂くんの腕の中。

目の前には状況を飲み込めず、思考停止している桜井先輩。

悪夢のスリーショットだよ。



「如月…さん…?」


桜井先輩の頭の中は、きっと『?』で埋め尽くされてることだろう。


自分からの告白を断った女子が、ほかの男の腕の中。

『?』以外の何が、怒り以外の何が先輩の頭の中を支配する?



「さ、桜井先輩…」


あたしでさえ、当事者のあたしでさえ、状況を飲み込むのに時間がかかったんだから。


喉でつっかえて、しこりが残るような気持ち悪さ。


ずっとそれが残って、残って、残り続ける。


いっそのこと吐き出してしまえたら、どんなに楽になるだろう。



「お、お邪魔、みたいだね…」


それだけ言い残し、少しふらつく足取りで先輩は図書室からでていく。


それはまるで、重い鉄球を引きずっているように。


いつもの爽やかさは微塵もなく、重い足取りが目に入った。



「如月、先輩とどういう関係?」


先輩の足音が響かなくなると、唐突に切り出す早坂くん。


開けっ放しの窓から、強い風が吹き込んでくる。


「あ、えっと…、この間、告白された、だけ、だよ」


あたしの中には滲み始めてるけど、それは恋じゃない…はず。


早坂くんは「ふ〜ん」とだけ言うと、手に込めた力を緩める。

そしてあたしを完全に離すと、いつもの意地悪な笑みを浮かべた。


「今日の告白、悪かったな。どうしても黙っておけなくて。先輩とお幸せにな」

投げ捨ててあったカバンを肩にかけると、笑顔を残して帰っていった。



なんか、勘違いしてない…?


あたしは先輩と付き合ってるわけでも好きなわけでもないんだけど…。



翔、まだ翔が生きてたらあたし、きっとずっと翔でいっぱいだったよ。


でも、ごめん。


色は滲んだ。翔の色から、あたしの色へ。


あたしの色から、先輩の色が少しと早坂くんの色も少し。



きっと、全部塗り替えられるのももうすぐなんじゃないかって思う。


それが何色か、まだわからないけど。

40:姫♪ ◆NLsI:2012/10/13(土) 15:04 ID:FKw

第2章(第1章なかった気がするけど気にしないでくださいね)


緊張した顔で、入口に取り付けられたアーチをくぐる。

今日は学園祭。


うちのクラスは男子の提案で何故かメイド喫茶になってしまった。


メイド服なんてきたくないけど、着ないと怒られる(女子に)。


うちの学校は理事長の遊び心のおかげで、学祭の売り上げ上位のクラスは冬休みの宿題何割か免除。

みんな気合が入っているわけだ…宿題免除のために。


あたしは前半だけ出ればいいから、後半は自由に回れる。


そう思うと、何故かやる気が出てきた。



「おかえりなさいませ!ご主人様!」


このセリフにもだんだん慣れてきた頃、ガラの悪いお客様乱入事件が起こった。


「おー、可愛いじゃん」

「メアド教えてよ」


そこら辺のメイド姿の女の子に片っ端から言い寄っている。


こういうの、ヤだなぁ。



「…お、この子超可愛いじゃーん」

あたしの方を見て、近づいてくる男。


腕を掴まれる。


「…っ」

その途端、トラウマのフラッシュバックが始まる。


腕を掴まれて、抵抗できなかったあの日。


誰も助けてくれなくて、苦しかったあの日。



少しずつ、鮮明に。


嫌な思い出が脳裏に映し出される。



「…そういうの、やめていただけますか?」


震えているあたしの腕を掴んでいる男の腕を、さらに掴む手。


そっと顔を上げると、鋭い顔で男を睨みつける早坂くんがいた。

41:姫♪ ◆NLsI:2012/10/14(日) 22:10 ID:c3A



早坂…くん?

鋭い目で男を睨みつける早坂くんは、いつもの早坂くんじゃない気がする。


「あんだよテメェ。俺ら客なんだけど」

そう言って言い返す男。

あたしは怖くて、のけぞってしまったのに…。


早坂くんは一歩も怯まずに言い返す。


「お客様であろうとそういうのは困ります。いい加減になさらないと、警察を呼びますよ」


敬語なのに、どこか危険さを含んでいて。


場の空気が一気にマイナスまで下がるほどの冷たさ。


やっぱり、いつもの早坂くんじゃない。



早坂くんの剣幕にビビった男たちはそそくさと逃げていった。



「皆様、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


冷え切った温度を温めるように、やわらかく言葉を発する早坂くん。


その一言でみんな元に戻った。

42:姫♪ ◆NLsI:2012/10/19(金) 20:43 ID:Tfs



「は、早坂くん、ありがと」


「あぁ、いいよ。それより大丈夫?」


男たちが去っていったあと、また騒がしく戻った教室。


注文の声が飛び交い、オーダーを承った声が受け答える。


あたしは一応、精神を安定させる為に一時休憩中。


あたしの横には、早坂くん。


「うん。大丈夫。ありがとう、本当に」


無理にかもしれないけど、笑顔を作る。


無理に口角を引っ張ったような、作り物っぽい笑顔に早坂くんは気がついたんだろうな。


でも、わざと気づかないふりをしてくれている。


…優しい。




でも、その優しさが余計にあたしを苦しめる。


余計に胸を締め付ける。



「いいよ。好きな女助けんのは当たり前だし」


ニカッと笑う早坂くん。


いつもは意地悪そうな笑顔しか浮かべてないのに。



あたしにだけ、見せてるのかな。


それとも、ほかの女の子にも?



ほかの女の子にも見せてるかもなんて、なんか胸が痛いよ。



「…っさ!戻るぞ。お前人気なんだからいつまでも休むなよ?」


「人気なんてないけど、わかったよ。もう戻るね」


「おぅ」


走って教室へ戻っていく早坂くんの背中。


なんか翔の面影が滲んでいて…。




涙がこぼれたんだ。

43:イチゴ♪:2012/10/19(金) 20:58 ID:qtM

私も体験してみたいです〜

44:姫♪ ◆NLsI:2012/10/19(金) 21:30 ID:HdE

>>43
>>7お願いします。



いつまでも翔を引きずっているなんて、おかしいんだと思う。


翔を手放したのはあたしで。


翔を殺したのもあたしみたいなもの。



だからあたしは翔のことで悲しむ資格なんてないはずなのに。


早坂くんの、翔とどこか似ている早坂くんの背中を見るだけで、思い返して想い返して。


涙をこぼすあたしはなんて罪深くずるい。


頭の中の真っ白だったキャンバスが、美しく絵を描き始めたはずのキャンバスが。



途端に真っ黒く染まっていく。




“人を殺した”という十字架が重くのしかかり、息をするのも困難なほど押しつぶされ。


時には自責の念に支配され、犯した傷が左腕に今も残る。




翔が死んだあの時はあたし、晴れ渡る空を見上げながら泣いたっけ。

雲一つなくて、美しくて。


蒼く蒼く澄んだあの空に飛び込みたいと何度も思った。




「…さ、戻ろう!」


座っていたパイプ椅子がギシッと音を奏でる。


メイド服の裾を直し、何故か付けさせられた猫耳カチューシャの場所を調整する。


うん、まぁまぁ。




休憩場所となっている一角にかけられたカーテンを開ける。


途端に瞳に飛び込んできたのは…



「如月、さん?」


……なんでいるの……?




「…桜井先輩…」

45:姫♪ ◆NLsI:2012/10/19(金) 21:53 ID:HdE




今、会いたくなかったのに。


会ったら惹かれてしまうから。


会ったら目が離せなくなってしまうから。


会ったら…翔への罪悪感を捨ててしまいそうだから…。




なんで、なんでいるの?


桜井…宇宙先輩。



「あ、ど、どうも…」


「…如月さん、メイド服着てるんだね。似合うよ」


にこりと向けられた笑顔。


…でも、なんか違う。前までの笑顔じゃない。


みんなに向けられている、あたし以外にも向けられている、普通の笑顔。


心からの笑顔じゃ、ない。




…それが、こんなにも苦しくなってしまうのは何故?


早坂くんに揺れて。かと思えば桜井先輩に揺れて。


フラフラしてるこの心は、いつになったら落ち着いてくれるんだろう。



「ありがとうございます。………えっと」


「大丈夫だよ。俺は。気にしてないから。あの子とお幸せにね」


…違う、違う、違う。


欲しかったのはそんな言葉じゃ、ない。


いっそのこと、好きにさせて欲しかった。


ここまで、ここまで惹かせてから突き放すなんて…。


ひどいよ先輩。




原因作ったのは、あたしなのに。


今更、苦しんでも遅いのに。


今更、好きになりかけても遅いのに。


今更、逃げないで向き合うなんてできないのに。




分かってるくせに。


頭では理解してても、心が理解したくない。

46:姫♪ ◆NLsI:2012/10/20(土) 06:58 ID:LMk




恋愛のカタチは人それぞれで。


ひとりの人を、運命の人だけを一途に愛しぬく恋愛。


複数もの人が気になり、最終的に誰かに落ち着く恋愛。


いつまでも迷い続けて、結局すべてを壊す恋愛。



あたしは、ひとりの人だけを一途に愛せないのだろうか。


人に揺れて揺れて揺れて、揺れて。


最終的に落ち着けるのだろうか。


それとも、迷い続けて全てを壊してしまうのだろうか。




先輩に突き放されたくない。


でも早坂くんに離れて言って欲しくない。


あたし、何もかも矛盾してる。





「…ごめん、ちょっと…休憩に戻っても、いい?」


ここにいたら、泣きそう、


ここにいたら、胸が張り裂けそう。


桜井先輩の、あの笑顔を見たくない。


尋常じゃないあたしの様子を悟り、みんな快く了承してくれた。


そんなクラスメイトに恵まれたことに感謝しながら、休憩室に戻る。


カーテンを占めると同時に、目から大粒の水が溢れた。


しょっぱくて、塩の味がして。



きっとこれが、あたしの恋愛の味なんだろうと思う。


甘くない。甘酸っぱくない。苦くない。しょっぱいんだ。


甘くなるほど近くなくて。


甘酸っぱくなるほど距離は保てなくて。


苦くなるほど突き放されなくて。


ただ、苦いと甘いのあいだのしょっぱい。



いちばん、苦しい味。

47:姫♪ ◆NLsI:2012/10/20(土) 10:08 ID:Zm.




大粒の涙が頬を伝う。


頬を通った涙は、口に含まれる分とそのまま落ちて首を伝う分とに分かれる。


頬を触ると、とどめなく流れ落ちる涙が手に触れる。




なんで、あたしは泣いてるの?


なんで、あたしは涙を流してるの?


なんで、あたしはこんなに苦しいの?



悲しむ資格なんて、ないのに。


苦しむ資格なんてないのに。



早坂くんを突き放したのはあたし。


桜井先輩を突き放したのもあたし。


そんなあたしが苦しむなんて、そんな資格はない。



「違う…、違う…!」


わからない。


頭の中がぐるぐる回って、混乱して。


頭の中の真っ黒なキャンバスに、多彩な色が描かれている。



ぐちゃぐちゃに、とかしていないような絵の具で描かれていく。


でも、全部違う。


もう一度、白に戻そう。


そうすればきっと、新しい道が見えてくるはずだから。



白い絵の具をぶちまけたように、キャンバスが真っ白になる。


頭が、真っ白に。


早坂くんも、桜井先輩も、好きになっちゃいけない。


滲んだ色を、消していく。

48:姫♪ ◆NLsI:2012/10/20(土) 10:51 ID:Zm.

はい既に第3章


学園祭の日から、あたしは桜井先輩と早坂くんを避け始めた。


これ以上近くにいたら、本当に好きになってしまいそうだから。


早坂くんを好きになったらきっと、翔の影をかぶせちゃうと思うから。


桜井先輩を好きになったら、翔のことで嫌われるのが嫌だから。



弱すぎるって、自分でもわかってる。

でも、こうするしかない。


好きになっちゃいけない。

もう、恋なんてしない。……ううん、する資格なんてない。



「…如月」

…。

避け続けていた、会いたくない人。


あったら惹かれてしまって、罪を深めるから。


…早坂くん。会いたくなかったよ。




明らかに不機嫌そうな顔で、図書室の本棚にもたれかかっている。


あの時と同じで、鼻を刺激する本の香り。



人生2回目の告白を受けた場所。


それと同時に、苦しい事実を知らされた場所。


「…早坂くん」


この、意地悪な口から聞かされた、痛くて苦しい真実。


もう、聞きたくない。

もう、逢いたくない。


惹かれたく…、ない。


「なんで避けんだよ。理由言えよ。急に避けられたら訳わかんねーんだよ。俺、何かしたのか?」

そんな一気に言わないでよ、早坂くん。


避けてるけど、避けたいわけじゃないの。

理由なんて決まってる。

あたしが弱いからだよ。


あたしがこれ以上傷つきたくなくて、傷つけたくないから。


強い言葉で弱い自分を隠すんだ。



「…ううん。早坂くんは何もしてない。あたしがダメなんだよ」



弱いあたしは、翔の影を早坂くんにかぶせてしまうから。


早坂くんを、傷つけてしまうから。


「…なんでだよ!好きな女に避けられること、どんなに苦しいかわかってんのかよ!」


いきなり、大きな声を出す早坂くん。


誰もいない図書室に、早坂くんの声が虚しく響く。


「…ごめんなさい。あたしが…弱いから…」


「…は?」

ボソッと言ったのに聞こえたらしく、聞き返される。


「早坂くんに…翔の影かぶせちゃう…と思うから…」


途切れ途切れになる言葉。

はっきりと言葉を発することができない。

きっと、体が勝手に震えてるんだと思う。


「…あのさ。俺は別にそれでもいいよ。翔にかぶせられても、それでも傍にいてくれれば」


なんでそんなに優しいの?


なんでこんなあたしにそんな優しくしてくれるの?



…でも、それじゃあダメなんだよ。


それじゃあ、いつかは早坂くんを不幸にする。


早坂くんは幸せになれない。

49:姫♪ ◆NLsI:2012/10/21(日) 09:53 ID:Jww



あたしじゃ、早坂くんを幸せにできない。


あたしじゃ、早坂くんは幸せになれない。


早坂くんじゃ、あたしも幸せになれない。


我慢と苦しみしかないなんて、幸せになれるわけない。



あたしは、“早坂 紅旗”というひとりの人間だけを愛せない。


“早坂 紅旗”に“一条 翔”をかぶせてしまう。


だから、あたしを好きにならないで。


「あたし以外の子、好きになったほうがいいよ…」


そう、本気で思う。


早坂くんは、あたしなんかよりもっと可愛い子や、優しい子。


もっと早坂くんにふさわしい子がいい。


「…初恋なんだよね。俺」


早坂くんの言葉が、一瞬あたしの思考回路を奪う。


「…は?」



早坂くんは、正直結構もてる。


顔は翔と同じで格好いいし。


声は正直、翔より高いけど。


身長も高いし筋肉質だし。




そんな早坂くんが、初恋?



「初恋の奴、簡単に諦めるとかできねーよ」


…早坂くん。


そういう、優しい言葉で、優しい気持ちで包み込んでくれて、ありがとう。



止まったままのあたしが、動き出すきっかけをくれて、ありがとう。



もう一度、人を好きになりたい。


翔のことは忘れられない。


罪悪感しか残っていない、翔でも。


初恋の人だから。



いつまでもきっと、心は翔を好きになったことを忘れない。

50:姫♪ ◆NLsI:2012/10/21(日) 09:59 ID:Jww

☆祝50☆

えーっと、いい機会なので作者としてコメント残します。

ここまでの内容は、蒼依を取り巻く二人の男の子との恋物語です。


今後の内容はお話しできませんが、ある程度決まっています。

ですので、これからガンガン書かせていただきます。


“桜井 宇宙”と“早坂 紅旗”と“一条 翔”。


この3人と蒼依の関係も複雑さを増すと思いますので

複雑な関係が苦手という方はUターンでお願いします。


※これからも変わらず、ここへの書き込みは禁止いたします。
 まぁ、読んでいる方はいないでしょうg((ry

 

51:姫♪ ◆NLsI:2012/10/21(日) 10:18 ID:Jww



なんか、吹っ切れた。


早坂くんの本音は、多分言いたくも言いたくなくもあったんだろう。


だけど、言ってくれて嬉しかった。

初恋だって。諦めないでいてくれるとか。



本気で、嬉しかったよ。




あたしの足は、放課後の図書室を出た。


そして自然にグラウンドに向かう。


足が、勝手に陸上部の場所に向かっている。



『俺は今までどおり、好きでいるだけでいいよ。…如月、もう気づいてんだろ?』


早坂くんは、自分から離れて行ってくれた。


あたしを、苦しめないために。


選択の余地を残さないために。



そんな優しさがいちばん、苦しいよ。




早坂くんが離れて行ってくれて残った色。


それは何色だろう。



初恋の翔の色ももちろん残ってる。


もちろん、翔の色はこれからも強く強くあたしに残り続ける。




でも、今いちばん強い色。


それは桜井先輩。


その色は、あの時と同じ。



そう、初めて恋をしたあの時。



そう、翔に初めて恋をした時と同じ。


あたしに残った桜井先輩の色は、『戸惑い色』でもあり『迷い色』でもあり。


ただいちばん強く濃く描かれた色は、


『恋色』だった。

52:姫♪ ◆NLsI:2012/10/21(日) 12:27 ID:Dvo




自然に動いた足は、陸上部の練習場所についた。


あれだけ拒絶しておいて、すぐに先輩を見つけてしまう。



真剣に、ゴール地点だけを見据える先輩。


あの瞳に捉えられたら、きっともう二度と逃げられない。


でも、それでもいいと思っているあたしがいる。


それでも、好きだと思う自分がいる。



今しかないよ。


気持ちを伝えられるのは、きっと、今しか。


必死の思いで、大きく名前を呼ぶ。


「桜井先輩っ!」


ちょうど走り終わった先輩は、ゴールに着くと同時にあたしの声に反応してぴたりと動きを止める。


そしてゆっくりとこっちを向く。



まだ、先輩があたしのこと好きでいてくれるなら。


まだ、まだ遅くないのなら。


まだ、気持ちを伝えられるなら。


まだ、間に合うなら。



あたしは、すべてをさらけ出そう。


桜井 宇宙という、ひとりの人だけを愛せるように。


思考がぐるぐる回っているあいだに、桜井先輩は顧問となにかを話している。


そして、ひとくぎりつくとあたしに向かって走ってくる。


「なに?5分しか時間もらえなかったから、要件だけお願いできる?」


笑顔だ。


誰にでも見せる、作り物の笑顔。



あたしが好きになった笑顔を、もう一度向けて欲しい。



だから、そのためだったらあたしは、先輩に想いを伝えることだって出来る。


でもやっぱり、恥ずかしいからうつむいたまま。


「あの、先輩…、えっと、あ、あたし…!」


何が言いたいのか、さっぱりわからないらしく、首をかしげる先輩。


ど、鈍感にも程があるんじゃ…?


おそらく真っ赤に染まったであろう頬に、風を当てるように顔を上げる。



「あ、あたし、桜井先輩が…好きです…!!」


言えた。やっと、言えた。


キャンバスに残った色を信じて、告白した。


それが決して間違いじゃないと、信じたい。

53:姫♪ ◆NLsI:2012/10/21(日) 18:27 ID:1W6




沈黙が続く。


5分しか時間がないはずなのに、10分にも30分にも、1時間にも感じられるほどの、長すぎる沈黙。


桜井先輩は、というと、思考停止している。


「……嘘?」

とぼけた声が、桜井先輩の口から漏れる。


そんなところが間抜けっぽくて、少し笑えた。



「嘘じゃ、ないですよ。あたし桜井先輩が好きみたいです」


思った以上に、ハキハキと口にできる。


何かに背中を押されているように、突き進める。



桜井先輩は、はぁ、とため息を着くと頭をかきむしる。


「…い」


ぼそっと発せられた言葉は、あたしの耳に届かない。


最後の文字しか聞き取れずに、困惑の表情を見せる。


「…遅いよ、如月さん…」


心なしか、先輩の顔が赤い。


少し、涙ぐんでいるようにも見える。



「それ、本気でいいんだよね?信じていいんだよね?」


きっと、あたしが振ってからも好きでいてくれたんだろう。


きっと、その気持ちを隠そうと必死になってたんだろう。


だから今、そんな嬉しそうな表情ができるんだよね。



こんな優しくて素敵な人に、出逢わせてくれた神様、本当にありがとう。



「はい、信じてください!」



これからも、きっとずっと。


先輩のこと好きでいる。



中2の夏。


先輩と出逢い。


中2の秋。


先輩と結ばれる。




大好きだよ、先輩―――

54:姫♪ ◆NLsI:2012/10/21(日) 19:02 ID:1W6

第4章


先輩と付き合いだしてから、早2ヶ月。

毎日が楽しくて、すぐに過ぎていく。



先輩は、あたしだけを見てくれる。


そんな先輩が大好き。


でも、好きになったばっかりに人を死なせてしまったあたし。


翔のことも、受け止めてくれるのかな。


もしも言って、嫌われたら…。


そう思うと、怖いよ。





〜〜♪


ケータイの着信音。


あたしのじゃ、ない。


ここは先輩の部屋。

だからいるのは先輩とあたしだけ。


案の定、先輩は机の上に置いてあるケータイを手に取る。


ディスプレイを確認すると、表情を曇らせて音を切る。


「…出なくていいんですか?桜井先輩」


ケータイを机に戻す先輩に、そう問いかける。


先輩は笑って、

「いいんだよ。どーせ大した用じゃないから。それより腹減ったろ?何か持ってくるわ」


そう言って立ち上がり、扉を開けて出ていく。


その途端、また着信。


先輩はいないから、音を切ろうとケータイに手を伸ばす。


ケータイを持ち上げて、ディスプレイを見た瞬間、体が凍りつく。


『月葉 心』


知らない女の人の、名前。


違うかもしれない。


でも、頭が、心が直感したんだ。


この人はきっと、先輩の元カノだと。

55:姫♪ ◆NLsI:2012/10/21(日) 19:23 ID:1W6




「…誰…?」


きっとあたしは、先輩にハマりすぎてるんだと思う。


だからこそ、不安になるんだ。


通話ボタンを押したい。


それで、聞きたい。


『月葉 心』さんに、先輩との関係を。



震える手で、通話ボタンをおそうとした瞬間。


―――ガチャッ


扉を開ける音が響く。


その音に反応して、慌てて先輩のケータイを机に戻す。


「はい。烏龍茶でよかった?」


何も知らない先輩は、にこやかに問いかける。


本当は今すぐ、聞き出したい。


でも、できない。

それだけの勇気がないから。


「あ、はい。…あ、桜井先輩のケータイに、着信ありましたよ」


…遠まわしに試してるのかな。


気がついたら、そんなことを口にしていた。


先輩はお茶とケーキの乗ったお盆を散らかりかけた机に置いて、代わりにケータイを拾い上げる。


「ん、ありがとう。誰からだろ」


着信履歴を見ているであろう先輩の手を、今にもはちきれそうな心臓を抑えながら見つめる。


一瞬、顔が曇ったような気がした。


すぐに画面を待ち受けになっているあたしの写真に戻し、机に置きなおす。


「…誰からでしたか?」


元カノだって言って欲しかったんだ。


それで、電話番号やメールアドレス、写真なんかも全部消して欲しかった。


そうしたら、きっと楽になれただろうと思うのに。


「…あぁ、部活の友達のね。木藤って奴だよ」


瞬間、思考が停止する。


…嘘でしょ。


『月葉 心』って人でしょ?


なんで嘘つくの?


今の彼女はあたしじゃないの?


あたしは、先輩のいちばんにはなれないの?


なれてないの?



苦しい。胸が…押しつぶされそうに痛い。


先輩…、あたしは先輩のなんなんですか?

56:姫♪ ◆NLsI:2012/10/21(日) 19:43 ID:1W6




好きなのに、好きだからこそ。


どうしてかな、信じられない。


先輩のことが大好きで、先輩と離れたくないのに。


信じていないあたしが、心のどこかにいる。


先輩のケータイが、また着信の光を出す。



…見たくない。


先輩が、ほかの女の子と繋がってるものなんて。


部活の友達とかだったら、嘘つかなくてもいいじゃん。


大事な人だから、嘘ついたの?



どうしても、マイナス方向に考えてしまう。



先輩が大好きで。


先輩を信じたくて。


先輩に触れたくて。


なのに苦しくて。


なんで、信じられないの?


なんで、嘘ついたの?


胸が押しつぶされそうに、痛いよ。


鳴り響いたケータイの着信音は、先輩の手によって切られた。


さっきよりもずっと早く、静寂が訪れる。


「…ごめんね。木藤の奴、何の用だろ」


……嘘、つかないでよ。


…ううん、もしかしたら本当に木藤って人なのかもしれない。

さっきのだけ、あの人なのかもしれない。



でも、きっとずっとあの人からだ。


着信音を切る時の先輩の顔、いつも曇ってるから。



だからこそ、信じられない。

57:姫♪ ◆NLsI:2012/10/22(月) 17:31 ID:muk




家に帰る道を、トボトボと歩く。


あれから聞く勇気もなくて、帰るとだけ言って先輩の家を飛び出した。


歩いているあたしの瞳から、涙が溢れだしている。


通行人は、珍しいものでも見るように振り返る。


その視線に耐えられず、走り出した。




家に着くと、持っていたカバンをベッドに放り出す。


あんな格好いい先輩の元カノなんだから、きっとすごく綺麗な人なんだろうな。


あたしなんか、足元にも及ばないような。



月葉さんがヨリ戻そうって言ったら、先輩はあたしのこと捨てるのかな。


考えたくもないネガティブな思考が頭を駆け巡り、カバンの横に腰を下ろす。



あれだけ時間をかけて向き合った先輩なんだから、簡単に捨てられたくない。


あれだけ時間をかけて好きになった人なんだから、簡単に切れたくない。



今になって、改めて気づかされる。



あたしは先輩が、大好きなんだって。



〜〜♪〜♪

ケータイから、軽快な音楽が流れる。


メールの受信音に設定している音だ。



カバンに手を伸ばし、ケータイについているストラップに指を引っ掛ける。


簡単に引き上げられたケータイは、メールの受信を告げながら震えている。



ディスプレイには、『桜井 宇宙』の文字。


見たくもない内容かもしれない。


あっさりと終わりを告げられるかもしれない。


だったら気づかなかったふりでもしたほうがいいんじゃないの?


そう思っている頭とは反対に、体は勝手に受信メールを開いていた。



【今日は、どうしたの?】


先輩からのメールは、いつも短い。


短くて普通になっていたのに、今はそれがとてつもない孤独感と不安を作り出す。



どうしたの?じゃないよ。


どうして嘘ついたの?


こっちから聞きたいことがたくさんありすぎて、返信する言葉が見つからない。


【どうもしないから、大丈夫です】


勝手に指がそう打っていた。


気がついたときには既に、送信ボタンを押したあと。


本当は聞きたかったけど、聞いて嫌われるのが怖い。

58:姫♪ ◆NLsI:2012/10/23(火) 17:15 ID:0.M




なんで、あんなふうに打ったんだろう。



「あの着信、木藤さんからじゃないですよね?」

そう打てばよかったじゃない。



今の彼女はあたしなんだから。


だけど、指が勝手に…。


メールの受信音が鳴り響き、ケータイが手の上で震える。


軽く音を立てて、ケータイを開く。



【そう?なら良かった】


それだけ。それだけの短いメール。


いつもと同じはずの、短いメールなのに。


今日だけはなぜか虚しくて、悲しくなった。





「はーっ…」


家の近くのお気に入りの公園。


ベンチに腰掛け、舞い落ちるもみじを見ながら足をぶらつかせる。


…先輩、先輩の電話の相手…誰ですか?



「―――…蒼ちゃん?」


「へ?」


不意の声をかけられて、反射的に顔を上げる。


茶色い、わたあめみたいな髪の毛。


くりっとした大きな綺麗な瞳。


高い整った鼻。薄い、桜色の唇。


ちょっと周りより小さいであろう小柄な体。


…美少女。


「あー、覚えてないかー…。私、幼稚園同じだった月葉 心だよ!」


…え?

今、なんて…。


「…月葉…心…?」





…先輩の…電話の相手…。

59:陽実 ◆NLsI:2012/11/10(土) 09:37 ID:lsk



「そうっ!私転校したんだけど、また戻ってきたんだよっ♪」

そう言って、あたしの目の前で飛び跳ねる月葉 心と名乗る彼女。


その彼女とは裏腹に、あたしの中では彼女に対する気持ちが渦巻いていた。

先輩メールの相手…。

この子、が?


…あたしなんかより、ずっと可愛いこの子が…。


勝てる気、しないや。




「ねぇねぇ蒼ちゃん!よかったらまた、私と友達になってくれない!?」

勝手に話を進めていく彼女。


『蒼ちゃん』という呼び名は、幼稚園の時に呼ばれていたあだ名。

変わらないこの呼び方が、私の心を収めてく。


もしかしたら、ただの友達かもしれないし。


そう思えば、いいじゃない。


「…うん。いいよ。心ちゃんって、呼んでいい?」


「うんっ!いいよ!」


ただ、そう無理やり思うことで自分を殺してしまっていたことに気づかない。



翔と付き合った時の二の舞いにならないように。


それだけに気をつけすぎて、一番大事なことを忘れかけてしまった。

60:陽実 ◆NLsI:2012/11/16(金) 18:00 ID:WwQ



「如月さん!」


朝、学校で桜井先輩に声をかけられる。


あたしの横には、心ちゃん。


それを見た先輩の顔が、一瞬曇ったような気がする。



考えすぎ、かな。


「昨日はごめんね。木藤にはしっかり言っといたから」


「あ…はい。あ、今日急がなきゃいけなかったんで、失礼しますね」


下手な逃げ方だったかもしれない。

でも、これ以外に逃げ方が見つからなかった。


心ちゃんが引き止めるのも聞かずに、走り出してしまった。



「…はー…」

教室。誰もいなくて、静寂が広がる。


机に座り、足をぶらつかせる。


別に用事なんてなかったんだけどな。



好きだからこそ信じられなくて。

好きだからこそ怖くなって。


好きだからこそ、逃げてしまった。



あたしは結局、逃げることしかできないのかなぁ。

61:陽実 ◆NLsI:2012/12/01(土) 17:00 ID:9Rg



青い空が、白い雲を流している。

新鮮な風が、空いた窓から吹きこむ。


不意に、先輩の隣に心ちゃんがいる光景を想像してしまう。

二人は幸せそうで、肩を並べて微笑み合って…。


あ、ヤダ。

そこはあたしの場所なのに…。


心ちゃんを塗りつぶしたところで、想像は終わった。



やっぱり、私は先輩じゃなきゃダメなんだ。

先輩以外の人とは、恋愛できない。


だから、心ちゃんに取られたくない。

先輩の今の気持ちが変わってしまう前に…。


心ちゃんの気持ちを知らなきゃいけない。


心ちゃんは今も好きなのか。

先輩は心ちゃんをどう思っているのか。


きっと、聞きたくないこともあるだろうと思う。


でも決めたんだ。


先輩と付き合い続けるために、私は傷つくことは覚悟するって。


だから少し位、傷ついたって構わない。


先輩が好きだから。

62:悠成:2012/12/03(月) 12:55 ID:9Ko

面白い!

63:陽実 ◆NLsI:2012/12/12(水) 17:41 ID:f9E

>>62
>>7お願いします。



先輩と話をするために選んだ時間は部活が終わったあと。


休み時間は短いし、部活中は迷惑がかかる。

帰宅部所属の私は、時間を潰すことにした。


…帰宅部は部活とは言わないんだけど。



「…んーっ」

大きく伸びをする。

冬の日暮れは早い。気づけば外は茜色だ。

そろそろ陸上部、終わるかな。

そう思うと、足は自然とグラウンドに向かった。




グラウンドに出ると、片付けをしている生徒で溢れている。

サッカー部、野球部、ソフトボール部。

そして、陸上部。


率先して片付けを行う、優しくて格好いい桜井先輩を勝手に見つけるのは私の瞳。

…もう少し、見ていよう。


手の甲で汗をぬぐう姿、まるで花が咲いたような笑顔。

先輩の姿を見つけるたびに、新しい“好き”が増えていく。


やっぱり、先輩以外の人じゃダメだ。

先輩じゃないと、ダメだ。

64:陽実 ◆NLsI:2012/12/15(土) 12:16 ID:CZc



ドクンッ


抑えたこ動画、大きく波打つ。

先輩を見つめる瞳が、勝手に動く。

目に入ったのは先輩にタオルを差し出す、先輩に微笑みかける、先輩に軽く触れる、


―――…心ちゃんの姿だった。


なんで…心ちゃんが…?


ぐるぐると、思考が頭の中を堂々巡り。

考えても、答えは出ない。


ドクン、ドクン、ドクン


心ちゃんの手が触れている、先輩の肩。


見たくないのに、勝手に瞳が追うんだ。



…先輩も、なんで拒否しないの?

「俺には彼女がいるから」って言ってよ。


…なんで、そんな楽しそうに笑うの?

…なんで、そんな優しく触れるの?


ねぇ先輩…。


私、先輩の優しところとか、好きだよ。


だけど、先輩の優しさはいつだって、私の心を蝕むんだよ。



私だけを見てほしいっていうのは、ただのわがままなの?

65:陽実 ◆NLsI:2012/12/15(土) 12:17 ID:CZc

>>64
誤字
「こ動画」×
「鼓動が」○

66:陽実 ◆NLsI:2012/12/15(土) 17:33 ID:N3U




気づいたら、頬に涙が伝っていた。

拭っても拭っても、温かく、どこか冷たい意味を含んだ液体は止まることを知らない。


ポロポロと、大粒の雫が地面を濡らしていく。


「…っ」

制服の袖で目を抑えると、制服が少し湿る。

目を強く拭うと、そのまま走り出した。


先輩と、心ちゃんを見たくなくて、ただがむしゃらに走った。




何も考えずに走って、走ってたどり着いた場所は図書室。


この場所で脳裏に映るのは、早坂くん。

人生二度目の告白を受けて、嬉しかったのと同時に苦しい事実を知らされた場所。


あの時と同じ香りが、ほのかに鼻をついた。


入った瞬間に、懐かしいと言える香りに安心したのか、座り込んでしまった。

指のあいだを静かに通過していく涙。


声を押し殺して泣いた。
ただひたすら、泣き続けた。


本当はね、先輩。

改めて今日、気持ちを伝えて。

それで前以上に近づきたかったの。


前に先輩言ってたよね。

『蒼依ちゃん、俺ら今までとは関係違うんだから『宇宙先輩』でいいよ』

今日、『宇宙先輩』って呼びたかったよ。

近づいた距離を確かめて、噛み締めながら。


なのに…

近づいた距離なんてなくて、私が触れたい先輩には心ちゃんが触れていて。


そっと、小さく、優しく、柔らかくだけど

確かに心ちゃんが先輩に触れていて。


独り占めしたい指先は、心ちゃんに触れていて。


先輩も、心ちゃんに触れていたから。



…先輩は私よりも、心ちゃんが好きなの?

好きで、好きで、好きで。
愛おしく、狂おしく、切なく、甘く。

大好きなのは私だけなの?



ねぇ…先輩、答えてよ。

67:陽実 ◆NLsI:2012/12/15(土) 18:04 ID:N3U



あんなに先輩のもとに行くのに躊躇ってた私はどこへ行ったんだろう。


今の私は、先輩が好きで仕方ない。

先輩しか考えられない。


…なのに先輩は心ちゃんに触れていた。


いちばん触れて欲しい人は、友達に触れているんだ。


苦しい、悲しい、切ない。


先輩は私のこと、本気で好きになったわけじゃないのかな。

大好きなのは、私だけなのかな。


先輩が心ちゃんと仲良くしてたら、苦しくなるのは私だけなのかな。

先輩は私が男の子と仲良くしてても、何も感じないのかな。


そんなこと考えるのも、もう疲れ始めたよ。



もう嫌だよ。

自分のことだけを大事にして欲しいのに。

自分のことだけを考えていて欲しいのに。

自分だけに優しくして欲しいのに。


それを伝える勇気すらない私は、どうしてこんなにも弱いんだろ。



開けっ放しの扉の隙間から、冷たい風が吹き込む。

秋とは言えども、10月になれば風は冷たい。

私の後ろ姿を冷たく刺激する風。


「…如月?」


聞きなれた声が背中越しに聞こえた。

と、同時に小さく音を奏でながら扉がしまる。


後ろに感じた小さな異変に、軽く振り返る。



そこには、

「どうしたんだよ、如月」


…―――早坂くん


私の涙を見て、さらに驚いた顔をした早坂くんが存在していた。

68:陽実 ◆NLsI:2012/12/15(土) 18:39 ID:N3U



さらにポタっと落ちる涙。


それにびっくりした早坂くんは制服のポケットからハンカチをとりだした。

私にそのハンカチを差し出すと、自分は私の背中をさすりだした。


「…どうしたんだよ?」


優しい声が、私の中に浸透していく。

ポンっと頭に置かれた手が、ほんのりあったかくて。


少し安心したんだ。



それから、少し時間をかけて早坂くんに今日あったことを話した。

泣きながら、途切れ途切れになのに、ずっと相槌を打ちながら聞いてくれる。


頭を撫でてくれる早坂くんの顔に、なんとなく翔の面影を感じた。



時間をかけて話したからか、いつの間にか窓の外は黒い。

重い体を持ち上げるように、立ち上がる。


「…ごめんね、格好悪いとこ見せちゃって。聞いてもらって、ちょっとすっきりした」

そう言って、無理に作った笑顔を向けた。


その瞬間、せっかく立ち上がった私の腕は引かれ、体はすとんと床に落ちた。

「無理してんの見え見えなんだよ。俺にくらい弱いとこ、見せてくれよ」


…おさまっていた、おさえていた涙が、再び流れ出した。


それはあまりにも突然すぎて、その事実を認識するのに少し時間を要した。


「…ダメ元で言う。俺、如月のことまだ、好きだよ」


唐突に聞かされる言葉。

“まだ、好きだよ”


ねぇ気づいてる?早坂くん。


あなたのその気持ちは嬉しいけど、あなたのその言葉が私の心を狂わせるんだよ?


その言葉が、私たちの運命の歯車を狂わせたんだよ?

69:陽実 ◆NLsI:2012/12/16(日) 09:55 ID:66Y

第5章


ガシャ、ガシャン…―――

運命の歯車が、噛み合う場所を探して狂っていく。
見つからない片割れを探しながら、狂っていくんだ。

70:陽実 ◆NLsI:2012/12/16(日) 10:14 ID:66Y



早坂くんが…私のこと、まだ好き…?


いや、そんなこと言われても、今の私には桜井先輩がいるんだから。

彼氏と呼べる、最愛の人がいるんだから。


……そう、言いたいのに。

口がその言葉を拒否する。


「…ま、まだ…好きとか…あ、ありえない…」

そう言って、顔を抑える。

赤くなってしまっているであろう、顔を。


「なんで?俺、如月のこと好きだよ」

そう言って、おそるおそる私を抱きしめる早坂くんの腕。


ダメだよ。

私には桜井先輩がいるんだから。
桜井先輩が好きなんだから。

拒否しなきゃダメだよ。


…なのに、なんで?


なんで、私は受け入れてるの?


先輩、ごめんなさい。

私先輩のこと好きだよ。


…だけど、今だけこうさせてください。


こうしないと、私、壊れてしまうから。

だから、今だけこの温もりに触れること、許してください。




突然、ガラリとあいた扉。

いつかの再来かと思うほどのシチュエーション。


神様、あなたは残酷です。

どうして今、彼を連れてくるんですか。


「…蒼依ちゃん」

風を背負ってたっていたのは、そこに強く存在していたのは、

「…先輩」


桜井先輩だった。

71:陽実 ◆NLsI:2012/12/16(日) 11:03 ID:66Y



いつかと同じ、あのスリーショット。

押しつぶされそうに、痛い、2人の視線が混ざり合う。

助けて欲しいと願う私は、ずるいのかな。


早坂くんは私を離すと、立ち上がった。


「すいません先輩、人の女に手出して。…俺如月のこと好きなんで、泣かさないでくださいよ」

私の頭に手を置いて、意地悪そうにそう言い、図書室から出ていく。


残された私と先輩。

先輩は明らかに、怒りと悲しみが混ざり合った表情をしている。


「…どういうこと?」


先輩の視線は私に戻され、鋭く見つめられる。

どういうこと…?


そんなの、私が聞きたいよ。


先輩は心ちゃんと仲良くしてたじゃん。


私は先輩が好きだよ。

だけど、先輩はどうなの…?


「…どういうことって、そんなの私が聞きたいですよ…」

ぼそりと小さく呟くように。

本音を大きくぶちまけるのが怖いから、小さく。

小さく、小さく呟いたのに。

「え?」

聞こえてしまったみたいで、聞き返された。


本音を語るのは、怖い。


嫌われたらどうしよう、とか。

そんなこと考えるのは怖い。



…だけど、これしか方法がないなら私は言うよ。


「…怖かったの、心ちゃんに先輩が取られちゃう気がして、不安だったの!!」

びっくりした顔をして、本音をぶちまけた私を見る先輩。


「私は先輩が好きなんです、誰にも取られたくない。でも愛されてる自信がないの!」


ぎゅうっと胸を押さえつけて、深呼吸する。

大好きなの。

大好きだから不安になるんだよ、先輩。

72:陽実 ◆NLsI:2012/12/16(日) 13:46 ID:v3I



一通り、本音を吐き出した。


何も言わずに聞いてくれる先輩は、小さく頷いた。

その頷きには、なにか意味が込められているようで、込められていないようで。

なんだか不思議な感覚を覚えた。


「俺は、蒼依ちゃんが好きだよ。誰よりも好きだよ」

そう言って、私を抱きしめる先輩。


あったかい温もりが、体中を包み込んだ。

それと同時に、早坂くんに止めてもらった涙がまた溢れだした。


涙は先輩の制服の胸元を濡らしてく。

それも気に止めず、先輩は更に強く抱きしめた。



先輩のぬくもりを全身に感じて、改めて思う。


私は先輩が好きだ。


それはきっと、消えない事実。


だから、先輩にも愛して欲しい。

なのに、空回ってから回って、何がなんだかわからなくなって。

もう自分が生きている意味もわからなくなってしまって。


なんで死んだのが翔なんだろう、なんで私じゃないんだろう。

隠して、封じ込めたはずのその思いは走馬灯のように駆け巡る。


先輩は、翔のことも受け止めてくれるのかな。


「…先輩」


静かに呼ぶ。

ドクンと大きく波打つ鼓動が、早く口を開けと急かしてる。


…大丈夫、先輩はそんなことで嫌ったりしないよ。


そう思ってるのに、そう信じてるのに。

口に接着剤を塗られたように、口が開かない。


かわいた喉を潤すように唾を飲み込むと、意を決して深呼吸をした。




「…私、去年元彼殺してるんですよ」




言ってしまえば、抵抗は襲ってこない。

驚くほど冷たい言葉が、先輩に突き刺さった。


そして、私にも。


心の傷に拍車をかけるように、なにか鋭いものでえぐられたような痛みが全身を襲った。

73:陽実 ◆NLsI:2012/12/18(火) 18:59 ID:z.Y



“元彼殺してるんですよ”


残酷な言葉を、簡単に口にする私は先輩の目にどう映ってますか?


翔のことを引きずって、先輩を素直に愛せていない私を。

未だに忘れられずに、思い返して涙をこぼす私を。


先輩は受け止めてくれますか?



びっくりしすぎて、驚きを隠せていない先輩をまっすぐに、見つめる。

先輩は何か言おうと口をしきりに動かす。


でも、かすれたような声しか出ていない。


「……き、如月…さん……?え……嘘だろ……?」


やっと先輩の口から飛び出した言葉はびっくりするほど弱々しくて。


思わず“嘘に決まってるじゃないですか”って言いそうになった。


でも、嘘じゃない。

先輩にまで嘘はつけない。


「……本当ですよ。私のせいで翔は死にました。私が殺したようなものです」


突然涙がこみ上げてくる。

私が泣いていい立場じゃないのに、泣こうとしている。


いつだって、私はそう。

泣いていい人間じゃないのに、人を追い詰めているのに。

人が死にたいほど、私のせいで苦しんでいるというのに。


それを理由にして、自分を被害者側に持っていく。


早坂くんの手によって、開けっ放しで保たれた扉から、冷たい風が吹く。

背中をなぞり、とてつもない寒気を連れてきた。


厚ぼったい雲が、月さえも隠す。

それがまた、冷たい孤独感と罪悪感を掻き立てる。



もうこれ以上苦しみたくないのに、先輩が好き。


これ以上傷つけたくないのに、気持ちが揺れる。


もう私にさえ、私が何をしたいのかわからない。

74:陽実 ◆NLsI:2012/12/18(火) 18:59 ID:z.Y



“元彼殺してるんですよ”


残酷な言葉を、簡単に口にする私は先輩の目にどう映ってますか?


翔のことを引きずって、先輩を素直に愛せていない私を。

未だに忘れられずに、思い返して涙をこぼす私を。


先輩は受け止めてくれますか?



びっくりしすぎて、驚きを隠せていない先輩をまっすぐに、見つめる。

先輩は何か言おうと口をしきりに動かす。


でも、かすれたような声しか出ていない。


「……き、如月…さん……?え……嘘だろ……?」


やっと先輩の口から飛び出した言葉はびっくりするほど弱々しくて。


思わず“嘘に決まってるじゃないですか”って言いそうになった。


でも、嘘じゃない。

先輩にまで嘘はつけない。


「……本当ですよ。私のせいで翔は死にました。私が殺したようなものです」


突然涙がこみ上げてくる。

私が泣いていい立場じゃないのに、泣こうとしている。


いつだって、私はそう。

泣いていい人間じゃないのに、人を追い詰めているのに。

人が死にたいほど、私のせいで苦しんでいるというのに。


それを理由にして、自分を被害者側に持っていく。


早坂くんの手によって、開けっ放しで保たれた扉から、冷たい風が吹く。

背中をなぞり、とてつもない寒気を連れてきた。


厚ぼったい雲が、月さえも隠す。

それがまた、冷たい孤独感と罪悪感を掻き立てる。



もうこれ以上苦しみたくないのに、先輩が好き。


これ以上傷つけたくないのに、気持ちが揺れる。


もう私にさえ、私が何をしたいのかわからない。

75:陽実 ◆NLsI:2012/12/18(火) 19:00 ID:z.Y

…あれ、二回更新してる?

>>74は無視してください。

76:陽実 ◆NLsI:2012/12/19(水) 17:54 ID:Dw.



苦しみに悶えている私に気づく人はいなくて
悲しみに溺れている私に気づく人もいなくて。


それでも私は、自分をさらけ出さなくて。
そのくせ気づいてもらえないとか言っていて。


自分が弱いだけなのに、周りのせいにしてる。


翔が死んだことを受け止めるのは、正直容易じゃなかった。

好きだったし、愛はあったし、信じられなかったし。


だけど紛れもない事実に飲み込まれて、私は自分を見失った。


きっと、どこかには存在しているのだと思う。

心のどこかには、きっと。

うっすらと、弱々しく、儚いながらも、ちゃんと光を残している。


だけど、思いのほか遠く感じるのはなんでだろう。

遠く、脆く、消えそうに、終わりそうに、光が届かない。


そんな『自分』を見つけることすらも、諦めかけている。



『自分』を愛せていないのに、人に愛してもらおうなんて馬鹿馬鹿しい。


自分でもそう思うのに、愛して欲しいと強く願う自分がいる。





「……」


何も言わずに、先輩は図書室をあとにした。

自分の中で整理がつかなくなってしまったのだろうと思う。


それを認識した途端、後悔がどっと波のように押し寄せる。


なんで言ってしまったんだろう、嫌われたくないのに。

そんなこと言ったら、嫌われてしまうと思うのに。


きっと、先輩のそばにいられなくなってしまう。


きっと、そばに置いてくれなくなってしまう。



……先輩の、そばにいたいのに。



色々な思いが複雑にうずを巻く心の中。

重みがまして、今にも吐き出しそうなのに、直前で止まる。

それの繰り返しは、なんとも辛い。


家に帰ると、何の連絡もないケータイがかすかに冷たくなっていた。

77:陽実 ◆NLsI:2012/12/20(木) 19:05 ID:79k



部屋に入り、ベッドに横になると冷たくて柔らかい感触が背中に伝った。

外の空気に触れて冷たくなったケータイを開くも、着信はない。


……嫌われちゃったかな。

そう考えると、胸がいたんだ。


自分にも、私の気持ちがわかんない。



私は先輩が好きだ。……絶対に。



だけど同じくらい、翔の存在は濃くなって残ってる。

それはまるで、飴玉みたいに。


溶けて溶けて溶けきって、ドロドロになった存在。

それでもいつの間にか、溶かすのをやめると少しずつ固まっていく。

それはいびつなカタチ。


綺麗な、初恋なんかじゃない。


悩んで、苦しんで、それでも透き通っていて。

初恋なんかよりももっと綺麗で聡明。

そんな、存在なんだ。



私の中の先輩の存在は、何なんだろう。


綺麗で美しくて、泣きたくなるくらいに透き通って。

……それでもどこか、輝きを放つことを渋っている、鈍い輝きで。



試行錯誤するたびに、余計に分からなくなる。


私が、何をしたいのか、誰が好きなのか。



神様教えてよ……。

私はどうしたらいいの?


「……もう嫌だよ……」


ポツリとつぶやいた瞬間、ケータイの着信音が部屋に響き渡った。

78:陽実 ◆NLsI:2012/12/20(木) 20:45 ID:79k



突然の着信にびっくりしながらも、ディスプレイを見る。


表示されているのは、先輩の名前。

一瞬、電話をとることを躊躇ってしまう私がいた。


しかし、そんなことは許される訳もなく、鳴り続ける着信音が私を急かしていく。


ゆっくりとケータイを開いて、通話ボタンを押した。


「……はい」


声が、わずかに震える。

震えてしまった声が、私の気持ちを素直に表す。


『……蒼依ちゃん?あの、俺だけど……』


電話越しに聞こえる、先輩の声。

心なしか、先輩の声も震えているように聞こえる。


「はい、……なんですか?」


ドクンと脈打つ鼓動。

ケータイを持つ手も、声も、すべてが震える。


『明日……学校、早く来れる?話があるんだ』


先輩の声が、私の中に響いて、浸透していく。


“はい”というそっけない返事を返すと、通話を切る。


先輩も今きっと、自分の中で大きな葛藤を繰り広げているんだと思う。


好きな女の子が抱える大きなブラック。

自分にそれを、受け止められるのかどうか。

受け止められたとして、自分の態度が傷つけたりしないか。



だから、私も先輩のことを真剣に考える。

必死に、もがき苦しみながら、真剣に。

恐怖に押しつぶされそうになっても、前向きに。



私の中には変わらず、先輩は強く存在している。


私は変わらずに、先輩が好き。



……だけど今でも翔が、強く、濃く、深く、刻まれているのはなんでだろう。

79:陽実 ◆NLsI:2012/12/21(金) 17:25 ID:4bw



翌日、普段より早く目が覚めた。


中学校にしては珍しいブレザーをピシッと着こなす。

白いブラウスを茶色のチェックスカートの中に入れる。
その上から黒いカーディガンを着て、ボタンを止めた。

赤いリボンタイを胸元につけると、白いハイソックスを履くと、扉を開けて廊下に出た。





一階に下りていくと、まだ湯気の出ている朝ごはんが用意されている。

「今日は早いのね」というお母さんの声に「まぁね」と答えて椅子に座った。


食パンをほおばると、温かさが口の中いっぱいに広がる。


しばらくしてから、ココアを飲み干すとスクールバックの中身を確認して家を出た。



秋の朝はもう寒さが顔を覗かせている。

布で覆われていない部分を刺激する冷たい風。

ネックウォーマーを鼻の部分まで上げると、かすかに埃の匂いがした。



学校に着くと、思った以上に静けさが広がっていた。

朝練のない曜日なためか、学校に出入りする人はほぼいない。


そんな空間なためか、すぐに先輩を見つけることができた。



「……蒼依ちゃん!」

向こうもすぐに私を見つけて、駆け寄ってくる。


少し嬉しさがあったけど、それ以上に感じた感情は―――……





「話ってなんですか?」


空気よりも冷たく、そっけない言葉を先輩に投げかける。


少しひるんだ感じを見せる先輩を、静かに見ていた。



「あのさ、蒼依ちゃん。昨日のことなんだけど……」


言いにくそうに口を開いた先輩。


そんな先輩を見つめると、決意の色に少しだけ迷いの色が滲んでいた。

80:陽実 ◆NLsI:2012/12/21(金) 21:19 ID:4bw



先輩を見据えると、先輩も私をしっかりを見据える。

真剣な空気が、二人を取り巻いた。


「昨日のこと、俺考えたんだ。蒼依ちゃんが言ってた…その、元彼のこと」


ゆっくりと口を開いた先輩は、ゆっくりを言葉をつなげていく。


鼓動が、ドクンと大きく音を立てて波打った。


「……確かに、俺はそういうことには気づかなかった。
だけど、やっぱり蒼依ちゃんを好きな気持ちは変わらなかった」


先輩の優しい言葉が、私の空っぽな体に浸透していく。


優しさが響き、同時に罪悪感を増幅させていった。


ドクン、ドクン、ドクン―――…


鼓動が、痛いほどに大きく動き回る。

はねて、動いていく。



先輩は私の事、本気で愛してくれている。

でも、私は……。



「俺は本気で蒼依ちゃんが好きだ、それは変わらない」


“俺だけを愛して欲しい”という先輩の心の声が聞こえた気がした。


だからこそ、私は小さな勇気を振り絞ったんだ。


「―――……先輩」



静かに、冷静に先輩を呼んだ。


冷たい風が、さらに冷たさを増したような気がする。

81:陽実 ◆NLsI:2012/12/22(土) 15:30 ID:gtw



冷気の中に鋭さを含んだ風が、私の髪の毛を揺らす。

首筋に膨らんだ髪の毛が当たり、それが私の次の言葉を急かしているような気がした。


先輩も尋常じゃない私の表情に気づいたらしく、静かに次の言葉を待っている。


かすかに聞こえる二人の息遣い。

わずかに見えるお互いの表情。

校舎に付けられている大きな時計が時を刻む音までもが聞こえる。


時計の長針が動いた瞬間、私を意を決して口を開いた。



「……先輩、私も、話があります」


先輩は、軽く静かに頷いた。


静かな口調に乗るかのように、言葉が淡々と飛び出した。


「私……、先輩のこと好きです。
……でも、翔以上に先輩を愛せる自信が……なくなってしまいました……」


本当は悲しい。

本当は苦しい。


言いたくないし、嫌われたくないし、離れたくない。


でも、言わないければいけない。


先輩も、私も、これ以上傷を広げないために。




「……先輩、別れましょう」




その言葉は、冷たい風を伝って、さらに冷たさを増して先輩に届いた。


びっくりして言葉も出ない先輩をしっかりと見て。


もう一度、同じ言葉を発した。



「……別れましょう」



静かな中庭に、さらに静けさが広まった。

風が吹き荒れて、落ち葉が舞う。


その光景が、なんとも虚しかった。



つかの間の愛に溺れて、すぐに覚めてしまうのならばそんな愛、ない方がいい。

先輩のことは今、好きだ。


だけど、これから先ずっと愛せる自信がない。

82:陽実 ◆NLsI:2012/12/23(日) 12:43 ID:ZsU



今の私は先輩が好き。

でも、今好きでいても、この先ずっと気持ちが変わらないと断言ができない。


私のそばにいてくれる先輩に、もういない翔をかぶせてしまうと思うから。


考えて、自分の気持ちに耳を澄ませてわかったんだ。


私は今でも、翔が好きなんだって。

今はまだ、翔以上に人を愛せないんだって。


だから先輩、別れなきゃいけないんだよ。

先輩だけを見れない私だから、先輩だけを愛せない私だから。


そんな私で先輩のそばにはいられない。





別れの言葉を浴びせられ、先輩は戸惑いを隠せていない。

先輩が大好きだけど、翔は愛している。いや、愛せている。


先輩を好きでいても、愛せてはいなかったんだ。


これ以上先輩とだらだら付き合っていても、きっと二人とも深く傷を刻まれて終わりを迎える。

だったらまだ傷の浅い、今のうちに離れておいたほうがいい。


それしか、ないんだ。





「蒼依……ちゃん?何……言って……?」


何も理解できていない先輩は、動揺も戸惑いも表に出している。

先輩が好き。だから離れなきゃいけない。


きっと、これ以上好きにはならないから。



恋から愛に変わらないから。




「先輩……好きです。だけど、先輩以上に、翔が好きなんです」


じわりと涙腺がゆがみ、鼻にツンと刺激がくる。


先輩に別れを告げて、自ら離れようとしている私が泣くなんて、ずるすぎる。





早坂くんと先輩と翔。

三人が私に与えてくれた気持ちは、一生私が大事にしていかなきゃいけないものなんだ。


「恋」も「愛」も「苦」も「罪」も。


全部、紙一重なんだ。


恋することは苦しいことで。

愛することは罪なことで。


それでも恋をするのは、それでも愛するのは

人間はひとりでは生きていけないからなんだ。



苦しさに耐えるために手を取り合い

罪の意識を保つために愛し合い。


だけど先輩、あなたが手を取り合うべき相手は私じゃない。

少なくとも、今は私じゃないの。


同じように、私が手を取り合うさだめの相手もあなたじゃない。

少なくとも、今は違う。





先輩、好きだよ。


だから、別れよう?

83:陽実 ◆NLsI:2012/12/23(日) 17:56 ID:ZsU



別れを告げることはけして容易ではない。


私の中でも葛藤があったし、実は今も迷いが膨らみ続けている。


でも、このまま先輩と付き合い続けても何も生まれない。

失うものの方が多い、それ以上に失うものしかない。


だから、別れるの。


ううん、別れなきゃいけないの。





「……俺は別れたくない、蒼依ちゃんが好きだ。別れたく、ない」


そう言って、私を抱きしめる先輩。

私の体は先輩の熱に包まれる。

別れを告げておいて、胸が高鳴ってしまう。


―――……でも。


「……蒼依、ちゃん……?」


私は、静かに先輩の体を引き離した。

それにより、私の体は更に冷たさを増す。


先輩に背を向け、小さく息を吸うと、口を開いた。


「……先輩、今までありがとう。私、幸せだった」


そして、幸せだった日々を振り返るように。

その日々に別れを告げるように。


私は振り返った。




「……サヨナラ、先輩」




最後は、笑顔でサヨナラしよう。


できるだけの微笑みを作って、言葉を発したはず。


切なさも、苦しさも、全部胸に閉じ込めて。

最後は終わろう。


恋の結末を、綺麗に飾りたい。


だから……涙は見せない。



もう一度先輩に背を向けると、急に背中に温かい感触が伝う。


「……せんぱ」


「少しだけ、こうさせて。……最後だから」



そう言われると、抵抗できない。

だから、少しだけ先輩に身を任せてしまった。



……あったかい。


先輩の温かさが、優しさが、伝わってくる。


このあったかさに、この優しさに、この愛に。

私は今まで、守られてきたんだ。

最後だから。

だから、愛しい腕に手を回してしまった。



「……好きだよ。……今までありがとう」

先輩の声が耳元で響く。


それと同時に、私の手に温かい雫が伝った。


びっくりして顔を上げるも、私じゃない。

首を回して後ろを振り返ると、声を押し殺して泣いている先輩。


初めて見た先輩の涙は、温かくて、綺麗だった。

84:陽実 ◆NLsI:2012/12/23(日) 20:16 ID:ZsU



先輩のぬくもりに身を任せている間も、とどめなく先輩の涙は流れ続けている。

私も泣いてしまいそうなのを、必死でこらえていた。


しばらくすると、先輩は腕をほどいた。


「バイバイ、蒼依ちゃん」


先輩は、ゆっくりと私に顔を近づけると、軽く触れるだけのキスをした。

一瞬だけのキスに、先輩の愛が感じられたんだ。





ゆっくりと校舎内に足を踏み入れる。

埃っぽい香りが漂っている校舎は、どうしても涙を誘われる。


静かに階段を上がり、教室に入った。

まだ誰もいない教室。



誰もいない、孤独に包まれる教室。

入った瞬間、涙が溢れて止まらない。





「先輩……サヨナラ……っ」






それだけ言うと、泣き崩れた。

85:陽実 ◆NLsI:2012/12/23(日) 20:20 ID:ZsU

エピローグ


苦しんで苦しんで―――……


それでも愛した彼。


苦しんで苦しんで―――……


それでも好きになった彼。





好きになっちゃいけないと思っても好きになってしまった先輩。

思い出しちゃいけないと思っても思い出して愛した翔。



もう迷わない。

前だけを向いた生きていくことを、先輩と翔が教えてくれたから。




次に好きになった人を、次に本気になった人を。


迷わずに、まっすぐに愛していく。

86:陽実 ◆NLsI:2012/12/23(日) 20:27 ID:ZsU

―――あとがき―――


「好きって言っちゃ、いけません。」完結です。


今の私にはこれが精一杯です。


でも、もっと実力をつけて、この話の完全版を書きたいと思います。





さて、この作品は思い入れがある作品です。

初完結の作品ということもありますが、蒼依の気持ちが少しだけわかるのです。


いろんな人の間で揺れる気持ち。

そんな蒼依の気持ちが少しだけ。


それゆえに、絶対書ききりたい作品でもありました。

それがこうして達成できて、とても嬉しいです。


まだ未熟な私ですが、これからも頑張っていきたいと思いますので
応援してくれる優しい方は応援よろしくお願いします。



「好きって言っちゃ、いけません。」の続編として「君が好きだと、言いたいの。」を書きたいと思っています。

そちらもよろしくお願いします。



好きって言っちゃ、いけません。[完結]



2012年12月23日 陽実

87:陽実 ◆NLsI:2012/12/23(日) 21:54 ID:ZsU

http://ha10.net/test/read.cgi/novel/1356262802/l50

↑「君が好きだと、言いたいの。」

88:大和 ◆U7Pg:2012/12/23(日) 21:58 ID:P96

「好きって言っちゃ、いけません」

完結おめでとう御座います。
陽実は王道のストーリーを道ゆくまま、
最後の最後で予想外な展開を迎え入れたりすることが上手で、
それがこの作品にとても生かされたと思います。
この作品を手掛けている間、他の作品に惚れ、嫉妬に溺れたことでしょう。
けれど、その人にはその人の。
独特という作品があります。
他を見るのではなく自身もを大切に。

さて、雑談の方でもお世話になりました。
僕は「大和にぃ」など呼ばれよく誉めたりして頂いてますが、
特になんの変哲もない人ですよ。
相談や楽しいお話有難う御座います。
またこれからも宜しく御願い致しますね。

ではこれで祝電とさせて戴きます。

現連載「special秘密警察特殊部隊」作者 大和。

89:莉菜:2013/01/01(火) 13:59 ID:xBM

完結おめでとうございます。
早速ですが、批評に移させていただきます。
※私は物語はNo.20まで、文面は最新のスレを見て批評しています。

〜文面について〜
会話の時の伸ばし棒(ー)は、〜を使わない方がいいと思います。
極力、ーのほうを使ってください。

〜ストーリーについて〜
@蒼依ちゃんの登場シーンから、ナンパされるシーンまでが短いです。
唐突すぎて、主人公は桜井先輩か蒼依ちゃんか分からなかったです。
Aなぜ、桜井先輩が蒼依ちゃんを好きになったのかがわからなかったです。
私はがNo.20までしか読んでいないので、その後、その訳を話したのかもしれませんが、最初の告白シーンに、
「きみの●●なところに惚れたんだ」
などといれても良かったのかもしれません。
そうしたら、蒼依ちゃんの性格や容姿もくわしく想像できたと思います。

〜物語の進み方について〜
先ほども書きましたように、蒼依ちゃんのナンパされるシーンが唐突で、読者側は突き放されている感じでした。
しかし、桜井先輩から告白されたことで、翔くんとの関係に悩む蒼依ちゃんの心情描写。
これはとても素晴らしいと思いました。
こんな設定が思い浮かぶ作者様は凄いです。


総合評価⇒★★★★星半分(☆4.5)
一言⇒心理描写が少し多いので、背景も書いて欲しいです。
新作も、個人的に読んで見たいです。

ご依頼、ありがとうございました。

90:ささかま:2013/01/04(金) 16:37 ID:hn6

ご依頼、ありがとうございました。
帰省していて遅くなりましたが、読みきりました!

評価は、私のスレでします。

91:家永:2013/02/11(月) 02:46 ID:M9U

お久しぶりです!

完結おめです!
書き込み遅くなってすみません...

次の作品も頑張って下さい!!!

応援してますよ!!

92:陽実 ◆NLsI:2013/05/24(金) 20:20 ID:8rI



「好きって言っちゃ、いけません。」過去編

version 翔

93:陽実 ◆NLsI:2013/05/24(金) 20:22 ID:8rI





プロローグ



何の変哲もなかった俺。

人を好きになれなかった俺。

地味で目立たなかった俺。


俺の全てを
君は愛してくれて。


だからこそ
嫌われるのが怖くて
臆病になってしまって。



気づいたときにはもう手遅れだったんだ。

94:陽実 ◆NLsI:2013/05/24(金) 20:27 ID:8rI





男にしては長めに伸びた黒髪。
目にかかるかかからないか程度の長さの前髪を、
軽く横に分けてメガネをかける。

鏡に移した俺の姿は、
お世辞にも格好いいとは言い難い。

なんだろう、見た目ガリ勉。
そんな感じ。

中身は別にガリ勉でもなければ本当は地味でもないんだけど、
気づいたらもうすでに“地味なやつ”としてインプットされて小学校時代を過ごしてきた。

今更変わってもキモいだけな気もするし、
このままでもいいとか思い始めた今日この頃。


今日から、中学一年生になる俺の名前は一条 翔(いちじょう かける)。

95:陽実 ◆NLsI:2013/05/24(金) 20:45 ID:8rI



「んじゃあ、行ってきます」

そう言って玄関を開けて、外に出た。
俺の家はマンションの三階だから、階段を下りて気持ちいい朝の風に当たる。
親はあとからくる。
俺のことにちゃんとした関心は示さないくせに成績のことにだけはうるさい親が。

正直、親のことは嫌い。
“俺”をちゃんと見てくれないくせに、
成績が落ちれば殴られるし、クラスメイトともめれば俺が悪くなくても土下座させられる。
そこそこの地位についている親だから、
息子にもそういうプライドらしいものは持っていて欲しいらしい。
娘には何も求めないのに。


そんなことを考えながら道を歩いていれば
いつの間にかもう学校についている。

今日から俺が通う中学校に。

96:陽実 ◆NLsI:2013/05/25(土) 14:36 ID:Gd6



クラス割表のとおり教室に行くと、
既に何人かの男女がクラスの中に散らばっていた。
指定された席に着いてバッグを指定ロッカーに入れると、また新しく人が教室に入ってくる。
どんどん増えていく人数を横目に、俺は机に置いた組んだ手の中に頭をうずめていた。




入学式を終えて数週間が経った。
今日は初めての席替え。
どんな人と隣になるのか、まるで女子みたいに期待をしていた。

そして行われた席替え。
俺の席は窓際の前から四番目で、隣の席は如月 蒼依(きさらぎ あおい)という可愛い女子だった。

97:陽実 ◆NLsI:2013/05/26(日) 08:59 ID:iB6





「ねぇ一条くん、ここわかんないんだけど……」

「ありがとう! すごいね一条くん!」


毎日繰り返される少しの会話の中で柔らかく笑いかけてくれる如月さん。
見た目地味男の俺にいつも優しくしてくれて、気づいたら気になってる自分がいた。

だから、授業中に如月さんからメモが回ってきたとき、
それを読んだとき、
期待と緊張に胸が支配されてしまったんだ。


『話があります。
 今日、放課後教室で待ってます。 蒼依』


俺は一応バレー部に入っていて、如月さんは帰宅部。
部活が終わるまでの二時間、何をしていたのかはわからないけど
俺が息を切らして教室に駆け込んだとき、彼女の頬は既に俺より赤かった。


「話って……、何?」

窓際の自分の席の前にひっそりと立つ如月さん。
その横の自分の席にエナメルバッグを置いて、彼女の前に立つ。
如月さんは、大きく息を吸い込む仕草を見せると、真っ赤な顔をさらに赤く染めながら口を開いた。


「一条くんのこと、好きです……っ!」

98:陽実 ◆NLsI:2013/05/26(日) 11:45 ID:dAE



「如月さん?え……嘘?」

口はあんぐりあいて、きっと間抜けな表情をしてたと思う。
頬はじわじわ赤く染まっていき、体中の温度は急上昇。
女子が使うような形容詞しか浮かんでこないけど事実今の俺はそんな感じ。


「嘘なんかじゃ……ないよ」

如月さんは、もともと真っ赤だった顔を地面に向けて見られまいとしている。
なんて可愛いんだろう。
多分この時、初めて俺は人を好きになっていた自分に気づいたんだ。


「俺、ずっと如月さんのこと気になってた」


こうして、俺と如月さん――蒼は、付き合い始めた。
本気で好きだった。
愛してたと思う。

異常なまでに。

99:ひなの@(元陽実) ◆NLsI:2013/06/20(木) 19:02 ID:G62



次第に蒼と俺の仲は良さを増し、
クラスでも少し有名なカップルになった。
そのおかげでクラス内でも仲良く出来て都合は良かった。

でも、蒼がかわいそうでもあった。
女子たちに叩かれる陰口。
地味で、陰気で、格好良くない俺と付き合っていることに対する陰口。
そんなこと気にする様子もなく屈託なく笑いかけてくれる蒼は、本当に可愛かった。


初デートは遊園地。
俺はいいところ、ってか優しいところを見せようとして蒼の分のジュースとかも買いに行った。
笑顔で「ありがとう」と言ってくれる蒼の余韻を感じながら出店から帰ると、
蒼の周りに群がる数人の男たち。
雰囲気からして、ナンパだろう。
確かに蒼は、中一にしては大人っぽくて可愛いし、
今日の服装はデートだからか肩の露出した丈の短いワンピース。
ナンパしたくなる気持ちもわからなくもないが。
俺の中にふつふつと怒りが湧き上がった。


「人の女に手出さないで」

気づいたら、蒼の腕を掴んでいた男の腕をつかみ、低い声でそう漏らしていた。
俺の声に驚き、舌打ちしながら男たちは去っていった。

正直、喧嘩は弱いから、いざ肉弾戦となったら軽傷じゃすまないだろうから
逃げてくれて助かった。
男たちがいなくなった直後に
俺の腕にすがりついて泣き始めた蒼の頭を俺はずっと撫でていた。

100:ひなの@ ◆NLsI:2013/06/20(木) 19:08 ID:G62



祝100!

まさか…100レス行くとは。
ま、ただたんに過去編書いてるからなんですけd(蹴

去年と違い忙しく、
更新が本当に遅いです。
それでも読んでくださる読者様は
本当に本当にたからものです。

ありがとうございます。

今は蒼依バカの翔の過去編です。
そのうち○ぬけどね((
そしたら先輩の過去編。
余裕があれば心ちゃんの過去編も書きたいなと思っています。

心ちゃんって、全然本編出てきませんよね。
だからこそ謎が多いと思うんですよ。
その謎とやらを解明していきたいです。

101:ひなの@ ◆NLsI:2013/06/21(金) 18:54 ID:CNE





光の差し込まない暗い部屋。
人のひしめいていることを明らかにさせる蒸し暑い室内。
その中で俺は、白い袋の中の気体を何度も吸って吐く行為を繰り返していた。

気体を吸い込んだ俺の目は、次第にとろんとしていく。
視界もぼやけて、
脳内に幻覚が浮かんでいく。

「一条もすっかりこっち側だよな」

不意に聞こえたヤンキーな先輩の声。
笑いながら言う先輩の目は、俺と同じくとろんとしていた。



“シンナー”、“覚せい剤”。
法律で禁止されている、快楽の遊び。
シンナーを吸い込めば、脳に作用して幻覚が見える。
ふわふわして気持ちいい感覚が味わえることを俺は知ってしまった。
薬が切れれば、モノ恋しい気持ちになり。
その気持ちを埋めるためにシンナーを吸い続ける。
その繰り返しで、次第に俺の体はボロボロになっていった。

でも、たまに思うんだ。
たまに、正常な意識を取り戻した時に。
ふと、蒼を思い出して。
なんでこうなったんだ、って思うんだ。


事の発端は、数ヶ月前。
きっかけはほんの些細なことだった。
俺が校内で番張ってるヤンキーな先輩にぶつかって吹き飛ばされ、
そのおかげで謝らなかったこと。
その行為が生意気だと勘違いされて、
そのまんま先輩の家に連れて行かれた。

先輩の家に着くと、突然白い袋を渡され、「吸え」と命令された。
嫌だと拒絶したけれど殴られ蹴られ、結果的には吸ってしまった。
吸った直後は気持ち悪さが勝っていて、泣きそうだったけど
数分後には頭の中が痺れるような感覚が気持ちよくなっていたんだ。
かすかに浮かぶ蒼の顔に、僅かな罪悪感を覚えながらも。
俺は快楽の波に渦巻かれて行った。

102:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/13(土) 13:29 ID:bdU



……そして。
今俺はここにいる。
先輩の部屋の中で、光のない暗い部屋の中で、
蒼の顔を頭の中に浮かべながらシンナーを吸っている。
頭の中が痺れて、何も考えられなくなっていく感覚が心地よかった――……。


夜の街は何とも言えないくらいに不気味だ。
闇に輝くネオンが鬱陶しい。
薬が解けていない俺の足は重く、だらだらと歩く。
早く帰らないと補導されたりと色々まずいだろうから
少し早めに歩こうとしても足は速度を早めない。
速度を変えないまま、俺は家の近くまで来た。
すると。


ドクン。
突然心臓が波打ったかと思うと、視界が一気に霞んだ。
すぐに理由を自分の中で見つける。
――薬が、切れたんだ。
クラクラとめまいを起こす頭。
思うように動かない体。
吐き気を催す黒い闇。
思わず歩道にしゃがみこんでしまった。


「ハァ……、ハァッ」

次第に呼吸も荒くなり、苦しさが増す。
大粒の汗が地面にこぼれ落ちたとき、
俺は瞬間我に返った。




俺は、何をしてるんだ?

103:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/18(木) 18:28 ID:bdU



脳裏に霞んでは映る蒼の顔が、
俺に薬をやめろって何回も訴えてきたことを思い出した。

もうひとつ、俺は何かを思い出した。
ポケットからケータイを取り出すと
電話の発信履歴を開く。

『2分前 発信 (157)
 発信先 如月蒼依』


俺の目に飛び込んだのは、異常な数字。
わずか二分前、薬が切れる直前だ。
そんな時にまで俺は無意識に蒼に電話していたのか。
迷惑、かけていたのか。

履歴を遡れば、一時間に一回、二回、三回。
必ずそれくらいは電話をかけていた。


なんだよ、これは。
俺はどうしちまったんだよ。
一体どうすればいいんだよ。

泣きそうな心を押さえつけるのはとても辛い。
ぐっと押さえ込んで、
俺は大きな一つの決心をした。

104:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/18(木) 18:33 ID:bdU





それから、数十分後。
俺は大きな交差点に来ていた。
流れるように走る自動車やトラック。
それらを俺はボーッと見ていた。

ケータイはポケットの中だ。
きっと壊れてしまう。
壊してしまう。
蒼との唯一のつながりだったのにな。
少し残念だけど、もう仕方ない。



俺はひとつ深呼吸をした。
新鮮な空気が肺の中に流れ込み、
古くなった空気は外に思いっきり吐き出された。


突然横目にひときわ大型なトラックが映る。


その瞬間、俺は足を踏み出していた。




「蒼、ごめんな。バイバイ」





最後に俺が見たものは、
自ら道路に身を投げた俺を見て叫ぶ通行人の悲痛な顔。

迫り来るトラックと、
その運転手の驚愕した顔だった。

105:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/18(木) 18:36 ID:bdU






エピローグ




薬に溺れてしまった俺。
一人では何もできなくなってしまった俺。

そんな俺じゃあ
たとえ優しい君でも受け止められないと思う。


だから。

だから、ごめんな。


俺の最期のわがままを許してください。


ごめんな蒼。
愛してる。








壊れた翔のケータイの未送信メールには
蒼依宛のこんなメールが残されていた。

106:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/18(木) 18:38 ID:bdU



好きって言っちゃ、いけません。過去編 翔version


fin


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