大切なもの。

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1:姫♪ ◆NLsI:2012/10/24(水) 17:40 ID:hVs

えー、書きたくてうずうずしてしまっていた宇宙1の駄作者姫♪で御座います。
最近葉っぱで死ネタはやり中ですよね。
それに便乗するかのように書かせていただきます。
あまり期待しても、薫や彼方のようにはいきませんので、そのへんご容赦ください。


ルール
1・書き込み禁止。雑談やらなんやら増えると、見にくくなるのでいっそのこと全部消しましょう。
2・http://ha10.net/test/read.cgi/frt/1348838144/l50←雑談や、感想、アドバイスはこっち。
3・荒らし禁止。
4・書き込み禁止だからないとは思うけど、ここで小説書くのはあたしだけです。
5・死ネタ含みます。苦手な方は即Uターンお願いします。

それでは始めます。

2:姫♪ ◆NLsI:2012/10/24(水) 17:44 ID:hVs

prologue



君と出逢えてよかった。


君と愛を交わせてよかった。


君と青春を過ごせてよかった。



…だけど。



君と離れたくなかった。


君と別れたくなかった。


君だけでよかったのに。



君と歩いたあの道は、どこまでも空色で。



君と過ごした季節はどこまでも春色で。



君とつないだ手はぬくもりを残し続けて。



君と交わした愛は今でもあったかい。




ぬくもりを残し続けた。



愛をあたため続けた。



君と歩いたあの道で。

3:姫♪ ◆NLsI:2012/10/24(水) 17:54 ID:hVs

one story 



「…大変申し上げにくいのですが、あなたは―――…」


目の前に座る、白い髭を生やしたおじいさん。


目を細めれば、その目の存在さえ確認できないほどに優しい顔。


しかし、その口から飛び出た言葉はあまりに残酷だった。



「―――…癌に侵されています」


一瞬、思考が奪われる。



…今、なんて言った?


『癌』、確かに、そう聞こえた。



誰が?私が?私が『癌』なの?


突然医師の口から飛び出した言葉が、頭の中を駆け巡る。



「…―――悪性の腫瘍が―――」


聞き返すまもなく、ただ淡々とカルテのようなものを読み上げていく医師。


…やめて。それ以上言わないで。



今ならまだ、悪夢だと信じていられる。



なのに、なのになのに。



「―――もってあと、1年です」


夢から覚めた。


突然冷たい水でも浴びせられたかのように、体がびくりと反応する。




今まで、いつかは訪れると知っていても遠い存在でしかなかった言葉が。


今まで、自分にはまだ、無関係だと思っていた『死』という言葉が。


今、突然リアルになった。

4:姫♪ ◆NLsI:2012/10/24(水) 18:07 ID:hVs




藍沢 緋鞠(あいざわ ひまり)。


もともと体が弱く、小さい頃から入退院を繰り返していた。


アレルギーがひどく、日に当たれない。


蕁麻疹が出て、ひどければそのまま病院。



だから、ずっと長袖だけを着ている。


そのせいで汗で風邪ひいたりとかはしょっちゅう。




…だけど、死の世界には遠かった。


まだ軽い病気しかしたことなかったし、何よりまだ健康でいられた。


なのに、いきなり突きつけられた事実。


癌?それで余命1年?


頭の中をめぐりめぐった言葉が、やっと落ち着きをのぞかせる。


まだ目の前にいる医師は、さらに淡々と言葉をつなげる。


「…―――なので、入院の準備が必要です。
 今すぐにとは言いませんが―――そうですね。今年の10月くらいまでがいいでしょう」



勝手に決められていく。


私は言葉も出ず、ただ無言で頷くしかなかった。






「はーっ…」

公園のブランコを揺すりながら、石を蹴り飛ばす。


靴に当たった石は、噴水の中にぽちゃんっと音を立てて落ちる。



その音で現実に引き戻され、ついさっき耳にした事実を噛み潰す。



いつかは来るだろうと思っていた、しかしまだ飲み込めていない事実を。


今、考えられていることがわずかながらにも幸福に感じられる。


自分に歯止めが効かなかったらきっと、あの場で暴れてしまっていただろう。


机の上に散らばったカルテは間違いだと叫びながら破り捨てただろう。

座っていたパイプ椅子は、無残な音を奏でながら倒れただろう。


それを思うだけの私は、意外にもまだ冷静なのかもしれない。



でも、頭の中に描かれるキャンバスには何色もごちゃ混ぜにしたような。


そんな色が広がっているところを見ると、冷静なふりをしているだけなのかもしれない。

5:姫♪ ◆NLsI:2012/10/26(金) 20:22 ID:XF2




私は今まで、恋愛なんてしたことがない。


格好いい男の子はいても、大して気にならなかった。


格好いい転校生も、『…何それ?』。



だから、ずっとひとりで生きてきた。


友達もいない、好きな人もいない。


ひとりが好きだからちょうどいいんだけど。




「…うわぁ、すごい風…」


久しぶりに来た学校。


雰囲気も何も変わってなくて、少しだけ安心する。


吹き荒れる風が、ざぁ…っと音を立てながら木々の間を駆け巡る。


あの日から、徐々に体が弱くなっている気がする。



立っているのも辛いくらいに、足がふらつく。




「…っ」


再び吹く風が、ふらついた足をすくう。


…やばい、地面にぶつかる。



そう思ったときにはもう遅く、瞳には硬い地面が映っていた。



「……大丈夫?」


頭上から、急に低い声が聞こえる。

その声に反応して、顔を上げる。


「…っ」


思わず息を飲んだ。


だって瞳に映った声の主が…。



あまりにも格好よかったから。

6:姫♪ ◆NLsI:2012/10/26(金) 21:10 ID:/V2




…、格好…いい…。


整った形の鼻に、ウェーブのかかった茶色い髪の毛。


大きめの瞳はブラウン。


ワンポイントなのか、首に十字架のネックレスがかかっている。



………、こんな格好いい人、初めて見た。


「…おい、大丈夫か?」


「…へ?」


相手に見とれてしまっていたのか、固まってしまった。


彼の声で現実に引き戻される。


低い…、声優さんみたいな声。



「だから、大丈夫かって聞いてんの」


何も答えられない私に苛立ったように、少し不機嫌そうな声。


あ、早く答えなきゃ。



「だ、大丈夫です。ちょっとめまいがしただけなので」


そう言って、支えられている手をほどこうと腕を回す。


しかし、ひとりで立った途端に地面に崩れ落ちる。


…足に力が入らない。


「大丈夫じゃねーじゃん」


彼は、軽く笑いをこらえるような仕草を見せる。


そんな仕草一つ一つが、格好いい。



少し、顔が熱くなった。


『ん』という声と共に、何故か彼の右手が私の前に差し出される。


まるで『掴まれ』とでも言うように、手を動かす。


そんな彼に甘えてしまうように、私は彼の手に捕まって、立ち上がらせてもらう。

7:姫♪ ◆NLsI:2012/10/26(金) 21:30 ID:/V2



軽く掴んだ彼の手は、私の手よりかなり大きくて。


暖かい温もりを感じた。



「…あぁ、そういえば名前は?」


まだふらついている私を心配したのか、教室までついてきてくれるという彼の横で、私は首をかしげる。


あれ、名前言ってなかったっけ。


「藍沢 緋鞠です。あの、あなたは…」


「雪沢 時雨(ゆきざわ しぐれ)。中3だよ」


中学3年生…。


…って、同級生じゃない。


敬語、使う必要なかったかな。


それにしても、同級生にこんな格好いい人がいたなんて。


初めて知ったよ…。


「…はじめまして。あの、私も中学3年です」


一瞬驚いたような顔をされる。


…まさか、身長のせいで年下だと勘違いされてたとか。






その後、そのまさかが本当だと分かり少しのあいだの説教タイム。



身長は低い。病気のせいで何も食べなかったから、身長も体重もほとんど変化しない。

それでも困ることはないし、別にいいかっていうレベルだから、気にしたことはほとんどない。




「あの、雪沢くんは何組ですか?」


恐る恐る、聞いてみる。


そんな私に苦笑しながら、雪沢くんは、


「時雨でいいよ。俺も緋鞠って呼ぶから。んで、俺は4組」


…嘘。


私のクラスは3年4組。


…こんな格好いい人、いなかったんだけど。


「…雪沢く…時雨くんは、転校生ですか?」


危うく雪沢くんと呼ぶところで、口を抑えながら呼びなおす。


時雨くんはくすりと笑いながら『そーだよ』と答える。



そうこうしているうちに、教室につく。

8:陽実(姫♪) ◆NLsI:2012/10/26(金) 21:49 ID:/V2



「「おはよーございます!雪沢くん!」」


教室に入った途端、女子の黄色いハーモニー。


何…これ…。

気持ち悪くなってくる…。


「…っ」

再び、吐き気とめまいに襲われる。


その場で崩れ落ち、床にカバンを落とす。


どさっとものすごい音が教室に響き、その後一瞬静寂に包まれる。


「…おい、緋鞠?」


めまいに襲われ、立っていられない私を、時雨くんが覗き込む。


それを見て、女子たちがキーキー騒ぎ出す。


『何あれー!』とか『なんであの子だけ構ってもらえるのー!?』とか。


でも、頭がくらくらして、それどころじゃない。


長袖の制服の袖で、目を覆う。

視界を暗くして、ほんのわずかな落ち着きを取り戻す。


「…ちょっとハズいかも知んねーけど、我慢しろ」

時雨くんはそう言うと、聞き返す暇も与えずに私を抱きかかえる。


…はっ?

今の私の状況、世に言うお姫様だっこ、ってやつ。


恥ずかしくて、抵抗したいけどそんな元気も残っていない。


結局、女子の痛い視線と騒ぎ声を後ろに、私と時雨くんは教室から出て行った。



「…時雨くん、…もう…大丈夫だから…」


廊下をずんずん進んでいく時雨くんに、腕の中から声をかける。


ちょ、恥ずかしいんだけど…。


廊下の視線が一気にこっちに集まっている。


それを気にすることもなく、時雨くんは保健室に入る。

9:陽実(姫♪) ◆NLsI:2012/10/28(日) 09:04 ID:0GY



トスンという音と共に、ベッドに下ろされる。


太陽の香りが漂うベッドが、妙に心地いい。


先生はいなくて、今いるのは時雨くんと私の二人だけ。


なんか、ドキドキする。


「…大丈夫か?」


唐突に聞いてくる時雨くん。

それに対して、無言という形で返事をする私。


気持ち悪くて、言葉が出ない。


「…大丈夫じゃねーな。授業でないでいいように、先生に交渉しといてやるよ。ゆっくり休め」


そう言って、時雨くんは立ち上がる。


まだ行って欲しくない。でも、引き止めようにも体が言う事を聞かない。


扉をくぐって出て行く背中を見送ることしかできなかった。

そんな自分に、腹が立つ。



あの、余命宣告からまだ2ヶ月。

自分の終わりが見えた日からは、時が経つのが早い。

だからこそ、悔いを残さないように生きたい。

私の最後の心残り『恋をしたい』。


これができるのは、いつになるのかな。


ただのカンだけど、もうすぐできる気がする。


…そして、1年も体はもたない。


日に日に弱くなっていく体。

日に日に細くなっていく体。

日に日に小さくなっていく体。


怖い。怖い。

いつ死ぬのかわからないようなこんな体で生きているのなんて、怖い。



なんで私なの?

こんな苦しい思いをするの、私じゃなきゃダメなの?

やってないことも、感じたことないことも、いっぱいあるのに。

私が、何かしたの?



「…っ、ひっく…」


いつの間にか、瞳から大粒の水が流れ出ている。

流れ出て、頬を伝うその水が、首筋を伝い始める。


首筋を完全に伝い終わった瞬間、保健室の扉が大きな音を立てて開いた。

10:陽実 ◆NLsI:2012/10/28(日) 18:04 ID:duQ



開いた扉が、またすぐに大きな音を立てて閉まる。

さっきの大きな扉の音とはうって変わり、静かな足音が保健室に響く。


誰が来たのか分からずに、ベッドの布団を頭からかぶり丸まる。

こんな荒っぽい音、先生じゃ絶対ない。

そう思って、布団を掴む手に力を込める。


「…おい」

声の低さや、声質。

さっきから、今日何回も聞いたあの声。



…時雨くん?


泣いていることを見られたくなくて。

ぎゅっと手に力を込めて、沈黙を作る。


「…泣いてんの?」


何も言わない私。

しびれを切らしたように時雨くんがもう一度言葉を投げかける。


泣いてるよ。

苦しくて、悲しくて、辛くて。

まるで、心臓を何かに掴まれたような、苦しさに襲われる。


でも、それは言えないよ。

人に心配も迷惑もかけたくない。


「…泣いて、ない」

やっと発した言葉がそれだった。


精一杯強がって、出した言葉。


今の私にはそれがいっぱいいっぱい。


「…嘘つけ。泣いてんだろーが」


バッと軽い音を立てて布団がめくられる。

時雨くんの瞳に映ったのは泣きはらして赤くなってしまった目、涙の跡がくっきりと残る頬。


なんだかよくわからないけど、すごく恥ずかしくて。

すぐに布団を奪い返してかぶりなおす。




重い沈黙が流れる。

布団をかぶった私からは、時雨くんの様子は見えない。

何を思い、どんな表情をしているのかも。


さらに長い沈黙。

それを破ったのは時雨くんだった。


「…何で、泣いてんの」

そりゃ聞くよね。

言ってもいいのかな。言ったほうがいいのかな。


…いいよ、言ってしまおう。

どうせもう、関わることもない人だし。


「…私ね、癌なの。あと、1年も生きられない」

11:陽実 ◆NLsI:2012/10/30(火) 21:40 ID:bGg





口から、滑り出すように出たその言葉。


躊躇いもなくこの言葉が出るほど、神経が磨り減ってしまったのだろうか。


「…はっ?」

彼は何言ってるんだ、という顔でこっちを見る。

涙の跡が筋を描く頬を、腕で強くこする。



「…だから、癌なの」

さっき思ったことはなんだったのだろう。

今は胸が痛いだけ。さっきは痛まなかったのに。

理由がわからないざわめきに心が支配される。


「っ!」

突然、胸に激痛が走る。


それはまるで、重い鉄球をぶら下げられたかのような息苦しさで。

それはまるで、心臓が何かによって強く押しつぶされ圧迫されてしまったようで。


苦しい。

そんな一言で表しきれてしまうような、そんな感覚。


「…ごほっ」


次第に咳が止まらなくなり、胸もどんどん圧迫される。

急な私の変化についてこれていない時雨くんが、びっくりしたように動きを止める。

それと同時に、私の背中をさすり始める。


…苦しいよ。

なんで、なんでなんでなんで。

なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの?


いつ死ぬかもわからない体を抱えて。

いつ悪化するかわからない病を抱えて。


こんなんだったらもういっそ、死んでしまいたい。


自分の手で、自然に勝ちたい。

自然に死ぬ前に、どうせなら自分の手で命を絶ってしまいたい。

12:陽実 ◆NLsI:2012/10/31(水) 21:07 ID:JpI



家につき、着替えるなり机の引き出しを開ける。


中には、大量のカッターナイフ。

それは引き出しの中を埋め尽くすかのようにかさばり、ひとつとして綺麗に形が見えるものはない。

私はその中から、適当にひとつ掴み取るとおもむろに刃を出す。

カチカチ、という乾いた音が静寂に包まれていた部屋に虚しく響く。


カーディガンの袖をめくり、左腕を取り出す。


下にむいていた脈を上に向けると、光が当たる。


そこに刻まれたいびつな線。

見ると痛々しく、しかし後悔という気持ちにはならない。


痛みはあった。

それでも、切ることに躊躇いはなかった。


最初は恐る恐る、痛みを覚悟して小さく刃を出し、刃先で軽く傷つけるくらいだったのに。

今では痛みも忘れ、ざくりと音がするほどに深く切り、鮮血が滴るほど。



出し終わったカッターナイフの刃は、腕を切り落とせるほどに長い。

刃の真ん中をそっと腕に当て、深く押し込む。


「…痛…」

痛い。だけど、痛くない。

血が滴り、机に赤黒い水玉模様を描いていく。

それはとてもまとまりがない模様で。

今の私の心をそのまま映し出しているようだった。



一本目の傷が、深くなりすぎると刃を一旦抜く。

そして、その傷にかぶらないように、もう一本いびつな線を描く。

赤黒い水玉が、増えすぎて形を変えていく。


「…っ」

気づけば外は真っ暗だった。

ハッと我に帰り、左腕を見る。


そこには、数十本もの傷が新たに刻まれている。


こんなことをしても、死ねない。

こんなまどろっこしいことじゃ、死ねない。

わかっているのに、これ以外の方法に変えない私はきっとまだこの世界に未練があるのだろう。


そんなことまで分かっているのに、それでも死にたいと思ってしまう私。

結局私は何がしたいんだろう。

自分のことなのに、全くわからない。

13:陽実 ◆NLsI:2012/11/01(木) 07:35 ID:.oI



ねぇ神様。

教えてください。

私は何のために生まれ、何のために生きているの?

どうしてもっと早く死ななかったの?


神様、あなたは残酷です。

こんなに苦しいのに、こんなに苦しんでいるのに。

それでも救いの手を差し伸べてくれないあなたは残酷です。


今の自分が、大嫌いだ。




朝の学校はいつでも騒がしく、寝不足で閉じかけた瞳が勝手に開く。

そっとまだかすかな痛みの残る左腕に触れる。

そこには、包帯の感触。


あまりに多い傷口を隠すために、意図的に包帯を巻いた。

そっと制服の袖を捲ると、包帯に赤い染み。


この色は、私の体を傷つけるのに、私の体を殺してはくれない。


痛みを伴い見られる色なのに、それ以上の楽園には導いてくれない。


誰も愛してくれないこんな体、いらないのに。


誰も愛せないこんな体、いらないのに。


友達なんて、いない。

好きな人なんて、いない。

家族なんて、いらない。

そんな私に、未練があるのかって話なのに。

未練がありまくりで、死にたくないと思ってしまっている自分が心のどこかにいる。


それはとても小さく、そして儚く、なのにしっかりと存在していて。

心のどこかで、私の心にそっと明かりを灯してくれている。


小さく脆く、それでも明るく暖かく。

私の心に、命を灯してくれている。


だからまだ、生きていたいと思えてしまう。

14:陽実 ◆NLsI:2012/11/01(木) 23:10 ID:hJM

two story


朝の学校は未だに騒がしさが抜けない。


時雨くん人気は落ちることはなく、名前で呼び合っている私には痛い視線が集中する。


一週間、傷は癒えない。


それどころか増える一方だ。


見るからに痛々しい傷。

腕に刻まれた消えない線。


いびつな線を描く、一本の傷跡。

触れるとまだかすかな痛みが走る。


ズキン、という音が体の中を虚しく駆け巡る。


「ねーねー、藍沢さーん」

猫かぶり、そんな単語が似合いそうな女子が私の目の前に姿を見せる。


香水の香りが鼻腔を刺激し、吐き気を促す。


無愛想に返事をすると、変わらない気に触る声で女子は続ける。


「ちょっとぉ、来てくれるー?」


「…はい」


香水の香りに逆らえず、吐き気を抑えながら立ち上がる。



満足そうに私を連れ出す女子は、廊下をずんずんと歩いていく。

どこに行くのか分からずに適当についていく私。



ガチャリという、冷たい音が耳に飛び込む。

扉が開くと、風が一気にふき込んでくる。

瞳を開くと、眩しい光。


「…ここって」

そう、そこは。

立ち入り禁止の張り紙が無残に捨てられているあの場所。


「そう、屋上」

15:陽実 ◆NLsI:2012/11/02(金) 10:22 ID:WYc



屋上。風が吹き荒れ、髪が舞い上がる。


そっと瞳を開けてみると、そこには数人の少女の姿。


その場にいた全員が、突き刺さる視線で私を見る。


「…この子?雪沢につきまとってるっていう女」


いや、それは事実には反します。

別に私がつきまとっているわけではなく、向こうが構ってくるだけ。

私は対して、相手に特別な興味は持っていない…はず。


「そーそー。連れてきてあげたからぁ、好きにしてあげていいよぉ」


は?何言ってるの?

抵抗する暇もなく女の子達に長袖の制服の袖を引っ張られ、地面に倒れこむ。

一応立ち入り禁止になっているみたいだから、人は来ない。

押さえつけられて動けなくなった私を横目に見ながら、女の子はメールを作成している。


パチンという軽快な音を立てて、携帯を閉じる女の子。


「10分くらいそのまんまねー。すぐ来るから、さ」


何を言っているのかわからない。

そのまま押さえつけられて、10分くらいたつ。

扉が大きく開いて、姿を現したのは数人の男。

制服を着ていないことも含め、学校の生徒じゃないだろう。

ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。

思わず後ずさりしたい衝動に駆られた。

でも背中は地面に密着。加えて押さえつけられている。

後ずさりなんて、できっこない。


「へぇ〜、こいつ?可愛いじゃん」

「ほんとに喰っていいの?」

口々に聞きなれない声で聞きなれない言葉を綴っていく。


なんか、危ない。

逃げようと構えるも、扉は固く閉ざされている。


「いいよぉ。その女、むかつくんだよね。二度と雪沢に近づけないようにしてよ」


…これは、やばい。そう思っても動けない。

近づいてきた男たちに私を任せて女の子たちは屋上をあとにする。

気持ち悪い笑みを増幅させて近づいてくる。


密着していた地面と背中をさらに密着させ、長袖のブレザーのボタンが外されていく。

嫌だ。

ブレザーのボタンを外し終わると、今度は長袖のブラウスに手をかけられる。

嫌だ、嫌だ。

ブラウスのボタンも外され、ブレザーとブラウスが一気に体から外れた。

嫌だ、嫌だ、嫌だ。

ここは屋上。太陽は雲に隠されることなく、照りつけている。

ぞわっという鳥肌が体中に駆け巡った。


「…っ!!」

ありったけの力を振り絞り、私にまたがっていた男を突き飛ばす。

でも、所詮私は女。男の力にはかなわず、怒りを膨らませただけだった。


突然、屋上の扉が大きな音を立てる。

それはまるで扉自体が怒っているようで。

屋上に侵入してきた人物はそれ以上に怒りをあらわにしていた。

16:陽実 ◆NLsI:2012/11/06(火) 17:40 ID:w.s



ここは現実。

必ずしも、漫画と同じじゃない。

漫画とかだったら、こういうパターンはヒーローが助けに来る。


でも、ここは現実だから。

そんなことないと思って半分諦めていた。


…なのに。

屋上に侵入してきた影は、真ん中で押さえつけられている私に一度目を向ける。

そして、私にまたがっている男を殴り飛ばした。

男は吹っ飛び、屋上のフェンスに派手にぶち当たる。

それを見た残りの男は、自分に矛先が向くのを恐れ、そそくさと逃げ出した。



「…大丈夫か?緋鞠」

この一週間で、見慣れてしまった顔。

この一週間で、聞きなれてしまった声。


…時雨、くん。

助けに来てくれるなんて思っていなかった。


漫画と同じ展開だからかな。

なんだか胸が、ドキドキと高鳴り踊る。


「…うん、大丈夫だよ」

わざと、明るく振舞う。

わざと、笑顔で立ち上がる。


ここでよろけたりしなかったのが唯一の救いかもしれない。

そうしたら余計に心配をかけてしまっていただろうから。


「そっか。なら良かった」


満面の笑み、というのだろうか。

そういう笑顔を向けられる。


―――…ドキンッ


胸が、大きくはねる。

ドキドキして、息苦しい…。


胸が押しつぶされそうになる。

顔が熱い。熱が顔から全身に伝わる。


「…俺のせいだろ?こんなことになったの」


真っ赤な顔を見られたくなくて、うつむいた瞬間だった。

不意にそんなことを言われる。

時雨くんのせいじゃないのに、そんなこと言わないでよ。

そう思うのに、声が出ない。

17:陽実 ◆NLsI:2012/11/06(火) 22:52 ID:LVo



喉に何かが詰まったような、そんな感じ。

声を出したいのに出ない。

否定したいのに否定できない。


時雨くんのせいじゃないよ。そう言いたいのに。

なのに、声を出せない。


「…ごめんな」


そう言って、私の頭に手を置く時雨くん。

体が大きく波打ち、それと同時に頭を上げる。


私の目に映った時雨くんの顔は、どこか悲しそうだった。


「…違うよ。時雨くんのせいじゃない」

やっと絞り出した言葉。

言いたいことは言えたけど、なにかいいきれていない感じ。


胸の中がすっきりしない。



「…そっか。そう思うならいいや。とりあえず教室帰ろ、風邪ひくぞ」

そう言って、私の方に手を置く時雨くん。

ポンッと奏でられた音がどこか心地よい。


ギュッと音を立てて握られた手が妙に熱い。


手から顔に。顔から全身に。

熱が駆け巡っていく。



この時の私の中に、なにかが生まれ始めていて。

それがなにかは全くわからなくって。

でも、たまにその感情に胸が押しつぶされたり、はねたり、踊ったり。


一喜一憂することが全て、時雨くんにつながる。

18:陽実 ◆NLsI:2012/11/08(木) 20:49 ID:l2Y



時雨くんに連れられ、教室に帰ってきた。


私を連れて行った女の子達は目を丸くしてこっちを見ている。

それを無視して、時雨くんは私を席に座らせて、自分も席に着く。


女子が駆け寄ってくるけど、さっきより怖くはない。


「ちょっと!どういうこと!?あいつらは!?」

まくし立てられる。


唾が飛んできそうなほどに大口を開けて叫ぶ女子。


「…か、帰りまし…」

「…帰ったよ?」

私の言葉は遮られる。


遮ったのは、時雨くん。いつの間にか私の背後に立っている。


「…雪沢!?」

突然目の前に現れた王子様に女子は目を丸くする。


その女子たちを、時雨くんは軽く睨む。


すると女子たちは、一瞬のけぞった。


「…俺が、帰らせた」


そう言って、時雨くんは私の頭にポンっと手を置く。


帰らせた、というよりは殴って逃げてった、の方が正しいと思うけど。


そう思っていると、いつの間にか女子はいなくなっている。


置いてあった手をどけると、私に微笑む。



―――…トクン…ッ


確かに、胸が大きく波打ったんだ。

19:陽実 ◆NLsI:2012/11/10(土) 09:11 ID:lsk

two story

支配され始めたこの感情。


何がなんだかわからないこの気持ち。


時雨くんの手が触れるたびに胸が大きく飛び跳ねる。

時雨くんの声をを聞くたびに鼓動が早く波打つ。


…なんなの?一体。

教えてよ。



私の名前を呼ぶ声も。


笑っている時の彼の顔も。


すべてが…。



「…ね、ねぇ!時雨くん!!」


朝の学校で、時雨くんを見つけて声をかける。

笑顔で振り返ると、なれたように「何?」と聞いてきた。


「…あのさ、人のこと考えるだけで…顔が熱くなったり、胸がドキドキしたりするのって…何?」

きっと単刀直入すぎる質問だと思う。


それでも彼は、笑って答えてくれた。

ちょっとだけ、びっくりしたような色をにじませながら。

「それは恋じゃない?」


そう、はっきり言ってくれたんだ。

20:陽実 ◆NLsI:2012/11/30(金) 18:24 ID:NWQ




「恋…?」


「そ、恋」


彼の口から飛び出した“恋”という単語。

今まで遠く、リアルに感じることができなかった言葉が。


納得できる状況がつき、突然目の前に現れる。


…この気持ちが、恋…。



だとすると、私は時雨くんに恋をしているのか…?

自分のことなのに、それすらも曖昧で。


わけがわからない。


思考にまとまりがなく、ぐるぐると駆け巡る。

結局なにも分からずに、モヤモヤとした感情しか生まれなかった。



こういうのも、恋の一つ…なのかな。



そう思うと、今までのこと全てに合点が行くのだから、きっとこれは恋なのだろう。


あくまで第3者のような目線からしか見られない私は、まだ頭がついていってないのだろう。


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