ヘッドライトアフターデイズ

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1:薫音:2012/12/07(金) 19:19 ID:vNU



あの日、笑う君の後ろでヘッドライトは眩しく光った。
闇に包まれていた交差点は、パトカーのサイレンと君の瞳で埋まり始めていた。


そして現在。
今までの君はもういない。
あるのは、妖しげに光る赤い瞳だけだ。



―――これは彼と彼女と彼女のお話。
存在という名の赤い瞳と、それらを創り出した黒い瞳。
そして、すべてを仕舞い込む灰色の瞳。


彼らの電脳紀行は、始まったばかりだ。

2:薫音:2012/12/07(金) 20:32 ID:.iM

えっと、作者の薫音です。
ここでは主に、私が書いた曲を小説化したものをアップしています。
少し理解し辛い内容なので、よく解からないところも沢山あると思いますが、どうぞお付き合いください。

それでは、スタート。

3:薫音:2012/12/07(金) 21:20 ID:.iM

  ヘッドライトプログラム


教室では相変わらず、担任の聞き飽きた声が響いている。
耳を傾ける者は誰1人として居らず、ノートの空白に落書きをするか、おれの様に堂々と机に伏せているかに分かれている。
気付いているのか気付いてないのか知らないが、担任は黒板に白いチョークで文章を書きつけているだけだった。
その手がふいに止まり、目の前の君が不思議そうに担任を見る。
彼女のノートは、黒板を写した形跡もなく、何処ぞのキャラクターの落書きで埋め尽くされている。
それを隠すようにページをめくり、シャーペンを握りなおした。
「長坂、これを解いてみろ」
「はい」
名前を呼ばれ、長坂灯は立ち上がった。
先程までノートに落書きばかりしていたのに、問題なんて解けるのか……?
心の中で呟いていると、隣で声がした。
「――大丈夫だよ。授業、あと2分で終わるから」
「え?」
言われて初めて、時計に目を向ける。

―――時計の長針は、3時13分を指していた。

「あと2分やり過ごせば、せんせもあたしたちも、家に帰れるよ」
「……だな」
少しだけ口がにやける。

その間、灯は黒板の前で固まっていた。
メドゥーサに石にさせられたのかと思うほど、一寸の動きすら見せない。
「どうした? 発作か?」

担任がこう言ったのには、訳がある。
この教室の生徒は、3人だけ。
黒板の前に立つ長坂灯(ながさかあかり)、隣で伏せている真河薫(まかわかおる)、そしておれ、榎宮宙(えのみやそら)。
おれたちには、ある共通点がある。
それは、全員何らかの病気を持っているということだ。
詳しくは知らないが、灯は常に頭痛が襲っているらしい。
そして、予想もしないタイミングで頭が割れるような痛みへと変わるのだという。
薫は目が弱く、幼い頃から視力が悪い。
それに加え、飛蚊症、結膜炎などいろいろな病を患っているのだと本人は言う。
そしておれは、身体が弱い。
と言っても病気的なことではなく、ただ単に、身体を造っているすべてのものがかつて他人のものだったということだ。
幼い頃事故にあい、跳ね飛ばされ、4tもするトラックにひかれたらしい。
そして丸3日の大手術の末、何とか、本当に何とか命を取り留めたと親は言う。
大量の皮膚と1つ1つの内臓を移植された身体だという実感は、はっきり言ってない。
だが、自分の身体の弱さを、日々痛感している。

これらの説明で解かってもらえたと思うが、要するに此処は、よく言う養護学級だ。
ただ授業を受けるのが保健室や養護教室ではなく、普通の図書室だということを除いて。


チャイムが鳴った。
「終わったか。明日までにここのページやってこいよ〜」
適当に言いながら、担任は教室を出ていく。
扉が閉まると、薫が身体を起こした。
「早く帰ろ。お腹空いた〜」
「……言うと思った。宙、準備出来た?」
2人はもうとっくに出来ているらしく、揃っておれに目を向ける。
「まだ。先靴箱行っとけ」
「わかった」
「待っとくね」
薫と灯は一見正反対だが、実はとても仲が良い。
だから今日も、楽しそうに話しながら教室を出ていく。

独り残されたおれは、何となくため息をついた。

4:灯音:2012/12/08(土) 12:51 ID:bAY

えーと、いつの間にか出来ていた、ってか。
名前、これでいいよね?
じゃ、頑張って。せめて破棄らないように。

5:薫音:2012/12/09(日) 11:56 ID:eUg

……だと思った。
ひまだったんでね。作りました。
ミカヅキプロジェクト4もうちょいでできるよ。

灯の病気あれでいいよね?
一番酷いの宙だけど。
あ、薫の病気あるじゃん。
あれ事実だから。
まあ、半分は知ってると思うんだけどね。

6:薫音:2012/12/09(日) 12:19 ID:eUg



「宙ー! 早くー!」
そう言って燥ぐ薫は、両目を閉じている。
きっと砂埃が舞っているからだろう。
それなのに、脱靴場におれがいることが解かるというのは、聊か奇妙だ。
灯はヘッドフォンを着け、薫を横目に見ている。
その眼差しは何処か優しく、そして蔑みでもあった。

「今行く!」
黒のスニーカーを引っかけ、鞄を肩掛けにしながら急ぐ。
遅いよと口を尖らせる薫を、灯が宥める。
もうグランドにはおれたち以外誰もいない。
「じゃ、帰るか」
「うん!」
「さっさと帰ろ」

背後では、夕焼けが終わろうとしていた。

7:クロス ◆B97s hoge:2012/12/09(日) 14:11 ID:95g

これって夕景イエスタデイを元にしてるんですか?

8:薫音:2012/12/09(日) 17:12 ID:eUg

いえ……あ、でもカゲロウプロジェクトを元にしているのは確かです。
ですが決してパクりではありませんので。

9:薫音:2012/12/09(日) 18:09 ID:eUg




――――一体、何が起こったんだろう。
目に入ってくるのは紅く染まった地面だけ。
その中心部に、目を閉じ、ぐったりと横たわる――――

「……薫?」

君の口から、言葉が零れ出る。
痛い程掠れた声で、それを吐き出す口は震えている。
目は大きく見開かれ、現実を受け入れまいと張っている様だ。


―――ついさっきまで、薫は笑っていた。
最近できたゲームセンターの話をしながら、今度一緒に行こうねと笑顔で言っていた。
それを否定する思いもなく、ОKの返事をしようと口を開いたとき、薫の向こうでヘッドライトが眩しく光った。
クラクションが鳴り響く中で、薫の黒髪は紅く染まり始めた。
白地に赤いチェックのマフラーが揺れ、身体が地面に叩きつけられる。

それらすべてが走馬灯現象となり、脳内にイメージを焼き付ける。
―――気付いた時、交差点はパトランプの回転とサイレンで埋め尽くされていた。


「薫!」
「駄目だ灯! 行くな!」
「離せ!!」

灯が発した大声に、思わず怯んだ。
その隙におれの羽交い絞めを解いた灯は、真っ直ぐ倒れている薫の元へと走って行く。
それを止める術もなく、残されたおれは立ち尽くす。

「薫……薫? 何……また立ちくらみでも起きた?
 だったら何ですぐ治らないの?
 ねえ薫……こんなに紅かったっけ……?」

事態を呑み込めていない様子の灯。
―――でもそれは見た目だけで、本当は誰よりもよく解かってる。
それもそうだ。
唯一無二の親友が目の前で死んだのだから。

「一緒にゲームセンター行くんじゃないの……?
 そうでしょ……ねえ薫……返事してよ……
 答えてよ……さっきみたいに笑って。
 こんなんじゃないじゃん……薫は、こんなんじゃないでしょ? ねえ薫……」

灯の気持ちが溢れだしている様に見えた。
おれだって、同じことを叫びたかった。
でも―――もう十分だった。

「戻って来てよ。薫ぅぅ……っ!!」

「灯っ!!」
駆け寄り、顔を覗き込んだ。
灯の瞳から、涙が溢れている。
一瞬躊躇ったが、灯を薫から引き剥がした。
「宙……!? 離せよ。離せ!」
「駄目だ! 灯は、薫と同じになっちゃいけない」
「何で!? 離せ!」
争うおれたちを尻目に、薫の身体は警官の手によって車へと運ばれていく。

気が付くと、おれの目にも涙が溢れていた。
「宙……」
「解かってるよ。灯の気持ちは痛い程解かるから……だから……」
これが最善策じゃないことぐらい、熟知している。
でも今は、こうするしかなかった。

掴んでいた灯の手から、力が抜けていく。
それから暫くは、灯の啜り泣きが聴こえていた。


パトランプは徐々に遠ざかり、辺りに静けさが戻ってくる。
帰ろうと呟くと、灯は頷いた。

10:クロス:2012/12/09(日) 19:41 ID:m-VfY

似てるなと思っただけでパクりとは思ってませんよ
頑張ってください

11:薫音:2012/12/09(日) 19:54 ID:.bQ



次の日は、今までとは打って変わっていた。
教室はやけに寒くて、誰1人として発言をしない。
担任でさえ、授業を放り出して何もない空間を見つめている。
灯はいつもと同じで、ノートに落書きをしている。
――だが、表情は無かった。
丸で仮面を着けている様で、感情も何もない。
おれは同じくいつも通り、机に伏せている。
だが眠気など起きる筈もなく、ただただ考えていた。

薫は、どうしたらおれたちのところに戻って来るか。

現代の最先端医療・技術を駆使しても、それは無理だろう。
だが身体を甦らせることができなくても、心はできるはず。
薫は姿を変えて、再びおれたちの前に現れるんだ。

―――でもそれは、勝手な欲望かもしれないな……


「……宙?」
気付くと、灯がおれの顔を覗き込んでいた。
「帰ろう」
すでにチャイムは鳴っていたらしい。
担任も、とっくに姿を消している。
「宙?」
「ああ。帰ろう」
椅子を引いて立ち上がり、灯を見る。


灯の姿が、薫と重なった。

「――そうか!」
突然叫んだおれを、不思議そうに見る灯。
「灯、もう一度薫に会いたい?」
一瞬理解不能といった顔をした灯。
やがて、その顔が驚きと期待に満ちていく。

「――会いたい」

この返事が聴きたかった。
「じゃあ、急いで帰るぞ!」
頷く灯。
おれは鞄を肩に掛け、君と図書室を飛び出した。

12:薫音:2012/12/09(日) 21:45 ID:B3.

そうですね。ごめんなさい。
応援ありがとうございます。

13:薫音:2012/12/09(日) 22:25 ID:B3.





「ただいまー」
「……お邪魔します」
家に帰ると、めずらしく誰もいなかった。
父さんは普通のサラリーマンだけど、母さんは専業主婦だし、姉貴も大学生。
女2人は家に居てもいいんだが……。
まあ、いない方が楽か。
「宙?」
「えっ ああ。こっち」
とりあえず部屋に招き入れる。
「……黒?」
「いいだろ。別に」
部屋のことを突っ込まれると、ちょっと恥ずかしい。
でもこの際仕方ないと言えるだろう。

「それで……本当に薫は生き返るの?」

灯の真っ直ぐな瞳に見つめられ、思わず話すのを躊躇う。
でも、これは言わなくちゃいけないんだ。
「灯、本当に薫にもう一度会いたい?」
「会いたい」
1文字1文字を大切に言う灯。
なら、大丈夫だ。

「本当に会いたいなら、灯……君を実験台にしなくちゃいけない。
 それでもいい?」

長い沈黙が流れる。
これほど恐ろしい沈黙を、今まで感じたことがあっただろうか。
きっと無いだろう。
「うちを……実験台に……」
「もし失敗すれば、灯の存在も消えることになる。
 でも、成功する可能性は今のところ98%だ。
 だから……」

不意に言葉が続かなくなった。
だから何だと言うんだ?
無理矢理灯を説得しようと迸った言葉なのか?

「――宙」
灯が言った。
「いいよ。実験台になる」

「い……いいのか?
 もし失敗したら、灯も……」
もしそうなってしまったら、おれももう生きていられない。
「いいよ。いなくなっても。
 だけど……」
灯は言葉を切った。
そして息を吸い込み、再び口を開く。


「信じてるからね。宙」

そう言って笑った。

灯は、おれにすべてを懸けているのだ。
だったら、失敗なんかしている場合じゃない。
「――わかった。
 これからプログラミングをするから、ベッドに寝ていてくれ」
灯が頷いたのを見計らい、PCを起動させる。
灯のヘッドフォンを繋ぎ、灯自身にも着けさせる。


あとは―――――……

14:薫音:2012/12/10(月) 19:10 ID:Uzs

  彼女はグレーアイ


窓の外を見ると、先程と変わらず雪がちらついている。
あの子がいなくなって、もう早2週間。
これまで何度も感じて来た感情が込み上げ、思わずヘッドフォンを着け変えた。
――自分のヘッドフォンから、薫のヘッドフォンに。

こうしていると、何だか薫の声が聞こえるような気がするんだと、昔宙に話したような気がする。
素直に聴いてくれて、頷いてくれたっけ。
確か宙は、薫のイヤホンを貰ったんだ。
「おれもそんな気がする」って言って、どんなときでも着けてたな。

――――でも、そんな宙ももういない。

15:薫音:2012/12/10(月) 20:03 ID:Uzs


宙はあの日、うちをベッドに寝かせたままプログラムを完成させた。
PC画面に映し出された、エネミー化された薫。
赤い瞳を持ち、左右2房だけ外れて長い黒髪。
耳にはヘッドフォンが装着され、両頬に黒い紋章らしきものが描かれていた。
顎まで届く長くて分厚いジッパー付きタートルネック&フード&ポケット付きのトレーナーに、制服のチェックのスカートという妙な組み合わせの服を着ている。
それはうちが着けているヘッドフォンを通じて脳内に送られ、しっかりと定着したらしい。
これで、薫は甦る――――。



と思っていた。


あのプログラムには、1つだけ欠陥があった。
ただ薫の心を造ったからと言っても、そのままでは発動しない。

そのとき、薫のイヤホンを耳にしていた宙が、犠牲になった。


死んだ訳ではない。ただ、同じ場所に面と向かっていないということだ。
薫と同じにエネミー化された宙――ソラは、薫の様にいつもうちの脳内に居る訳ではない。
電脳空間を彷徨い、たびたび姿を現す。
それでも、短い時間だった。


エネミー薫――カオルは、決してうちの想像ではない。
最初は自身もそう疑った。
だが、この身体を造り出した宙は、ちゃんと証拠を残していた。

カオルは目の前の風景を見るとき、脳内映像をチェックしているのではなく、うちの目を使って見ているらしい。
そのときうちの瞳は、赤色に変わるのだ。
おまけにソラが見ているときは黒色になる。

言っておくが、うちの瞳は産まれ付き灰色だ。
性格と合っていて、妙に濁っている。
薫はそれを見て、いつも言っていた。

「灯、かっこいい!」――と。

正直言って、うちはこの瞳があまり好きじゃない。
これのせいで学年から浮いているのもあるが、何より色付きコンタクトをしていると思われるからだ。
「不良だ!」「我が校の名が廃れる!」だとか何とか、偉い先生は余計に騒ぐ。
興味すらないので、逆にイラついて睨み返すこともしばしば。
まあ薫の瞳も赤いから、同じ目に遭っていたが。
「宙は黒いからいいよねー」とよく言っていたが、思い返せば宙の目も他人のものだ。
うちらがこんなんだから、本当は金色をしていたぐらいあってもいいだろう。



鏡を確かめると、今は黒だ。
カオルも大人しくしてるんだな……
そのとき、いきなり赤くなった。
「か……カオル!? いきなり何……」
『へぇ〜 今雪降ってんだ! じゃあ雪達磨作ろうよ』
「……嫌。寒いから嫌だ」
『寒くてもいいから作ろ! ソラだって作りたいって」
「んな訳あるか」
もうカオルの言語パターンは読めてる。


ピンポーン
突如チャイムが鳴った。

16:薫音:2012/12/11(火) 20:11 ID:u62


「ちょい移動するよ?」
『いいよー』

インターホンのカメラを除くと……ん?
「誰もいない」
『ピンポンダッシュ? あれまだ流行ってんの?』
「いや、そもそも流行じゃないし」
無能な会話をしながら、外に出てみる。
すると、少し距離は遠いが、小2〜3年くらいの男子が3人居た。
うちを見た途端、叫び声を上げて逃げて行く。
1人はこう言っていた。

「あの姉ちゃんの目ぇ赤い!」

―――――……。
「カオル?」
苛立ちを含んだ声で訊く。
カオルはそれに答えずに、ただ一言告げた。

『ポスト』


中を見ると、一通の封筒が入っている。
その場で封を切り、文を読んだ。

明日朝8時、駅の裏口に来い

裏口……?
『何か怪しいけど、行こっ。ナビしたげるからさ!』
「怪しいけご行くって、殺されに行くようなもんじゃん』
『大丈夫!』

そう言うカオルは、何故か妙な自信に満ちていた。

17:薫音:2012/12/12(水) 23:16 ID:lmw

えと……訂正です。
「怪しいけご行くって、殺されに行くようなもんじゃん」=「怪しいけど行くって、殺されに行くようなもんじゃん」
では。

18:薫音:2012/12/14(金) 20:41 ID:ccc



『あ、雪降ってきた。寒い?』
「そりゃね……いいな」
『え? 何が?』
「いや、何でもない」

他愛のない会話をしながら、気温−2℃の駅で待っていた。
時計はもう―――

「カオル、これ直せる?」
『あー 狂っちゃった時計? 無理だわ』
「えーっ じゃあこれからどうしろってんだよ」
『知らなーい。大体あたし脳内エネミーだよ? 場所が違う』
「それもそうか……」

余談だが、カオルは自分をエネミーだと自覚しているらしい。
訳は知らないが、訊くなと直感が告げている。

「しかし遅っそいな……カオル、今何時?」
『はいはい。あたしはどうせ時計ですよ』
「拗ねる前に何時か教えろっ」
『えっとね……8時14分』
「え――…… もう帰ろうか」
『そうしよ〜 どうせ暇だし』
考えが纏まった。


そのときだった。

19:薫音:2012/12/17(月) 19:58 ID:EBY


『灯』

しばらく聴かなかった声が響く。
もしかして――――

「ソラ?」
『ちょっ……何処行ってたの? もっと帰って来てよ!』
寂しがり屋のカオルが喚く。
『悪い……それより、灯』
「なっ、何?」
突然話しかけられ、思わず同様してしまう。

うちは昔からいつもこうだ。
人と話すことに慣れていない。
とくに、カオルとソラがエネミー化してからは。

『今雲が切れて、光が差してるだろ?』
言われてみれば、そうだ。
と言うことは、今うちの瞳は黒くなっているはず。
だったら、誰にも怪しまれないと1人ほっとしている。


でもそれは、油断だった。

『よく見てみろ。影が多くないか?』
『あ、言われてみれば……』
『――! カオル、覗くな!!』


突然、地面と同化していた影が動き出した。
まるで、赤い瞳となったうちの目を確認したかのように。

――――「んぐっ!」
「大人しくしろ」

くぐもった声が耳元でしたかと思うと、目の前が真っ暗になった。
―――崩れ落ちていくうちは、ただあの声を聴いていた。


     今度、一緒に行こうね

20:薫音:2012/12/19(水) 15:48 ID:yWE





何だろう。この音は。
カタカタと少々耳障りな音。
だけど、一番身近な音。
うちは、これを日常で最も耳にしているのだろうか――――――。



カタカタカタカタ……カタカタカタカタ……

『ねえ……此処は何処?』
『まだ解からない。もうじき判明するはず……』
『でも判ったって、あたしたちじゃどうにも……周りには見えないんだよ? 
 こんな透けた身体じゃ……』
『しっかりしろ! それでも、できることは必ずある。
 とりあえず、向こうにアクセスだ』


途端、焼けつく様な頭痛が襲った。

21:薫音:2012/12/19(水) 20:31 ID:vrI



「―――か、おる。ソラ……?」
『灯!』

呟くと同時に、2人の二重奏が返ってくる。
それを聴いたうちは、何故か少し安心した。


「此処何処……?」
『まだ解からない。――周りに人は?』
「よく見えないけど……多分、いない」
『分かった。じゃ、借りるぞ』

瞬く間に、うちとソラの瞳が重なる。
一瞬視界が二重になったかと思うと、映像が少し鮮明になった。

「ソラ目ぇいいね」
『知ってたくせに』
少し笑いを含んだ声で言われ、何処となく微笑んでしまう。
途轍もない危機感に襲われている筈なのに、それを微塵も感じない。

ひょっとして、カオルが操作してる……?

「カオル」
『何?』
「いや……何でもない」

何気ない一声を聴き、うちはそんな筈はないと思っていた。
カオルはそんなことしない。
目の前に居るときでも、存在になっているときでも。


えー 教えてよぉーと甘え口調になるカオルを尻目に、ソラが口を開いた。

『とりあえず、映像は取り込めた。
 あとは情報収集だ。
 カオル、ちょっと奥に行くから、灯を頼んだぞ』
『うん!』
「ちょっ うちは子供かよ!」
『喚いても無駄だよ〜 もうソラ行っちゃった』

えええ……
まあ、これを根に持ったりはしないだろうけど。

22:薫音:2012/12/21(金) 15:34 ID:WQc

『ねえ、灯。そっちどう?
 縛られてたりとかしてない?』
「え、ああ……うん。縛られてはない」
『縛られてはないのね? じゃあ、手錠とか?』

………。

「阿呆かぁ! 縛られてなかったら別の何かがあるっちゅうんかい!!
 しかも手錠って、ここは拘留所かっての!!」

あ。

『くくくく……あーっはっはっはっは!!
 あはははは! あは、あは、あははぁ!
 あはっ あははぁははっ! はぁ―――……』

「笑い過ぎだぁ!! どれだけ笑ってんだよ!!
 しかも笑い方おかしいし!
 あは、あは、あははぁて、バカらしいわ!!」
『ご、ごめん……で、でも、だって……あははっ』
「だから笑い過ぎだっての!!
 いい加減収ま……」



思わず、口を噤んだ。

うちが閉じ込められているのは、天井にパイプが剥き出し、壁という壁はコンクリートという地下室らしき場所だ。


唯一ある扉がゆっくりと開き、人影が姿を現した。

23:薫音:2012/12/25(火) 11:34 ID:WRU


「―――機嫌はどうだ? お嬢ちゃん。
 さっきから誰かに怒鳴ってる様だが、誰も居ねえぞ?
 誘拐されたから狂っちまって、想像上の何かでも造り出したか?」

―――の、野郎……

「まあいい。とりあえず、こっちに来てもらおうか」


―――――……。

「うちがそっちに行って、何の意味がある?
 警察に連絡するなら此処でもできるだろう。
 それに、お前等だって変に連れまわしてアジトの散策でもされたら、組織が潰れ兼ねないからな。
 そこは慎重に動いた方が良いんじゃないか?」

そう言って、にやりと笑ってやる。
案の定、相手は狼狽えた。

「なっ 何だこの子供……!
 何時何処で聞きかじりやがった!?」
「別に。こんなの誰でも解かる事だ」
「にしても……!」
『ちょっと、灯ぃ!』

ぅげっ
『全部自分の手柄にしないでよ〜!
 それ殆どあたしとソラが教えた情報じゃん!』
『灯……』
「仕方ないだろ……あんたらのこと話すわけにいかねえし」
『それはそうだけど……でも悔しいっ』
「阿呆」

『カオル、そこまでだ。灯、今奴等は居るか?』
「――いる。今は無線機で仲間と話してる」
『分かった。カオル、後は頼んだぞ』

『――了解』

ソラ……


『灯、いい? これからあたしの言う事をよく聴いて』

カオル―――

「了解」
『まず今そこに居る奴等を全部倒して』

随分と難題をぶつけてくるな。
――――まあ、やってみせるけど。

24:薫音:2012/12/26(水) 09:31 ID:19A


「――――まあいい。
 お前、とりあえずこっちに――――ってうおぉっ!?」

「はあっ!!」

こっちを向きかけた相手に、回し蹴りを喰らわす。
即座に反応する仲間。
一番近い奴に腹部突きをかまし、走ってきた奴をとりあえず交わす。
後ろから首に手を掛け頭を固定すると、そのまま腹部に膝蹴りを叩き込んだ。

「完了―――……」
『これでいい。後は別室に居る奴等ね』
「残った仲間の居場所、判る?」
『もう見つけた。ナビするから、移動して』
「了解」

重く冷たい扉を開ける。
すると、辺りに光線が走った。

25:薫音:2012/12/26(水) 09:42 ID:19A


「――!?」
「やってくれたな。見事だった」

前に立っているのは、恐らくこの組織のボスだろう。
拳銃の照定をうちにぴったりと当て、睨むような目つきをしている。
それでも口元は笑っているから、一応の余裕はあるのだろう。

「あいつ等を倒すとはなぁ……中でも屈強な奴ばかりだったのに、やるな。小娘」

ああ。今度は小娘な訳ね。お嬢ちゃんじゃなく。
徐々に闘争心が高まってくる。

「まあいい。だが、これからはこっちの指示に従って貰うぞ。
 言っておくが、この銃に勝てた度胸の持ち主はいない。
 力ずくでも従って貰うからな」


――――ふうん。

「『さあ、それはどうかな』」

うちとカオルの声が重なった。

26:薫音:2012/12/26(水) 09:55 ID:19A

「何だと――?」
「うちを見縊らない方がいい。
 見かけは独りだが、独りじゃないから」

訳が分からないという顔でうちを見るボス。
そんな最中、うちは合図をした。

「カオル」
『了解』


途端、頭に激痛が走る。
あまりにも耐え難い痛みに、思わず床に膝をつく。
抱えている頭は、今にも割れそうな感覚に襲われている。

『灯、ごめん……』
そんなカオルの呟きも、もうよく分からなかった。

27:薫音:2012/12/27(木) 10:39 ID:kVw

  デジタルレッドガール


『灯……灯……』
先程からあたしは、君を呼び続けていた。


灯の意識は、まだ戻らない。
誘拐され、相手を倒し、ラスボスに拳銃を向けられた灯。
恐怖感で気を失ったのではない。

あたしのせいだ。


本来なら、抜け出して灯が警察に通報すれば良かった。
でもあたしは、それを実行しなかった。
灯のことだから、きっと最後まで戦うだろう。
そんな根拠の無い解析を信じた愚かなあたしは、組織の撲滅を計った。

そして結果的に、灯を傷つけてしまった。


途中で計画を変更しようとした。
何せ、あの場では多勢に無勢だ。
予め警察に通報し、パトカーが到着するまでできる限りの攻防戦をすれば、一番の打開策になるだろう。
そう考えたあたしは、今までに経験の無いことを行った。

脳内から外の世界へのアクセス。
それはとても危険な賭けだった。
でも此処まで来てしまったのなら、こうする他ない。


灯の合図が来た瞬間、あたしはPCのEnterキーを叩いた。
途端に途轍もない電脳波の乱れが生じる。
周りに浮かんでいる情報画面の影で、ソラが目を見開くのが分かった。

外へのアクセスは、灯にとって相当なストレスとなっただろう。
身体がそれに耐えられなかった筈だ。

だから灯は気を失った。


今のあたしは、中から君を呼び続けることしか出来ない。
以前なら、前なら。
あたしがまだ養護学級の一員だったのなら――――――。

28:薫音:2012/12/30(日) 00:27 ID:ZnU




「そういや、そろそろ三者懇だよね」
唐突に、灯が言い出した。

三者、懇……。

「うえぇ……」
「薫……お前、提出物出したか?」
宙が疑わし気に見てくる。
ある意味の期待でもあるから、それに答えないといけないことでもある。
でも……これは現実だ。冗談じゃない。

「出して……ない」
言うと、2人は揃って溜息を吐いた。
「ちょっ 何よぅ! その呆れた様な蔑んでる様な溜息は!?」
「いや……だって、この前も出してないんじゃなかったっけ?
 それヤバいよ」
「同感。薫……お前マジで地獄行きだな」
「じっ 地獄って! あたしまだ生きてるよ!
 死んでないよ! ほら、見えてるでしょ〜?」
少し大袈裟に身体と手を振る。
すると今度は、灯が吹き出して宙が理解不能という顔をした。

もう。2人ってば。

「バカっ!」
そう言って、あたしは2人の肩を叩いた。

29:薫音:2012/12/30(日) 00:45 ID:ZnU



家に着いたあたしは、ただいまと言って自分の部屋へ急ぐ。
扉を開けると、すぐさまベッドの上に身を投げた。

三者懇、か……


三者懇こと三者懇談とは、学期末などに生徒、保護者、担任の三者で行う懇談のことである。
うちの学校では何故か今年からその制度が導入され、生徒全員が恐怖に怯えている。
中学校とは、そんなものだ。

「あーあっ」
愚痴を零しても、どうにもならないことは誰だって知っている。
でも、口に出さずにはいられない。

だってあたしは、成績に大きく関わる提出物を一切出していないのだから。


「絶対それ言われるだろうな―――……」
呟くと、一層悲しみが増してくる。
未来の超絶御説教を想像し、慌てて溢れ出る映像を押し留めた。
「馬鹿。泣くな。
 ほら、下にチョコあるでしょ。食べよっと」
明るい口調でそう言い、せーのと起き上がる。
口を歪ませにこりと笑うと、ドアを開け、階段を下りて行った。

30:薫音:2012/12/30(日) 12:19 ID:GOw




微かに聞こえてくる怒号をヘッドフォンでシャットアウトし、あたしはベッドに倒れ込んだ。

「そっか……そうだよなぁ」
そう呟いては見たものの、溢れ出る涙は抑えることが出来なかった。

大声で泣き叫べたらどんなに良いか。
そんな場所さえも、此処には無いのだ。



事態は、数十分前に遡る。

31:薫音:2013/01/03(木) 11:53 ID:KTc


三者懇談での出来事だった。
もちろん提出物は零……という訳では無かった。

国語 二百字帳提出回数2/24回
数学 宿題提出回数3/12回
社会 レポート中身不十分
理科 ノート中身不十分 ファイル未提出
英語 授業ノート中身不十分 ファイル未提出

あれ? あたしこんなに出したっけ……
あ、これも……ん?
数学の宿題結構出したのになぁ……
そんな言葉にする程でもない疑問を感じつつ、あたしは担任の言葉に耳を傾けた。

―――「真河薫さんの宿題提出に関してですが、今まで忘れた忘れたが多かったんですよ」
あ……そうですね。
「それが、ある時から全部やって出す様になって、訊いたんです」
あ、あれね。
「塾に通いだした? って」

……はい。訊かれました。
「塾だったら、やらされるんですよね。
 家庭学習だと自力でやる。
 そこが塾では出来てないんですよ」
「分かります」
母親が頷く。

え……でも、関係ないよ。
あれ自力でやったんだし。
塾に行ってやったんじゃないし。

32:薫音:2013/01/12(土) 22:29 ID:B0U

思わず口走りそうになるけど、あたしは口を開かなかった。

そうだよな。どうせ解かってくれないんだもんな。

33:薫音:2013/01/12(土) 22:37 ID:B0U

いつもの事だろ。気にしてどうする。

自分を叱咤し、再び会話に耳を傾ける。

34:薫音:2013/01/12(土) 23:13 ID:B0U


相変わらず、あたしの提出物の出なさに話は続いているらしい。
誰にも見られない場所で、あたしは溜息を吐いた。


……だろうと思ったよ。うん。
今母さんの口から出るのは愚痴しかない。
あたしの提出物の出が悪いだの、もうPC禁止だの。
あー そう。勝手にすれば。別に隠れてやるし。

そう心の中で呟いていた。
でもそれとは裏腹に、自分の素直な部分が膨れ上がっていく。

―――あたしって、何処までひねくれるんだろうな。
そんな事を感じながら、無意識に小さく呟いていた。


「放っといてよ」


久しぶりに出した素直な気持ち。
それは、冷た過ぎる木枯らしに混ざって飛ばされていく。


どうか、君の元に届きませんように。
何も無い右の手を、ぎゅっと握りしめた。

35:薫音:2013/01/12(土) 23:45 ID:B0U




ベッドに倒れ込んだあたしは、身体の中にある全ての空気を出し切るように息を吐いた。
仰向けに寝転がり、天井を見つめる。

―――徐々に、視界がぼやけていく。

あ、れ……?
喉が詰まる様な感覚がし、思わず上体を起こす。
すると、頬を何かが伝っていった。

馬鹿……何してるの?
もう泣かないって決めたじゃん。約束したじゃん。
相手は破らないでいてくれてるのに、あたしが、決めた本人が破る?
阿呆。何やってんの。
真性の馬鹿だね。あたし。

心の中のあたしは、あたし自身に辛辣な言葉を突き刺す。
今までは、それを鵜呑みにして何事も撥ねてこれた。

―――そう。今までは。

「耐えられなくなったんでしょ……」
独りでに呟く。
「辛い事が重なり過ぎたから……いいんだよ?」

重なり過ぎた?
はっ、馬鹿か。
それが毎日じゃねえか。それ以外に何があるってんだよ。
喜び? 嬉しさ? んなの10%じゃん。
90%に耐えていかないと、生きていけないんだよ?
今折れてどうすんだよ。

「いいの……あたしはひねくれ過ぎたから……もう、そろそろ………」

そろそろ、何だよ?
許される? 阿呆。
奇跡を願っても、あたしにはもう来ない。分かってんだろ?

「素直になっても……いいんだよ。あたし」


自分に素直でいること。
それを……今まであたしは守れた?

「分かってるんでしょ?
 担任が言う事も、自分が提出物出したいけど出せないのも、分かってるんでしょ?
 母さんが言いたい事も、理解してるんでしょ?
 それを実行しようと、頑張ってるんでしょ?」

今まで以上に、涙が溢れ出る。

「今は素直になりなよ。大丈夫。
 分かってるんなら、それを実行すればいいよ」

自分自身に慰められるって、変な感じ。
でも、いいよね。たまには。

36:薫音:2013/01/13(日) 13:10 ID:/NA




RRRRR RRRRR
部屋の子機が鳴り出した。
2回コールしても鳴り止まないって事は、母さんおらんかコール聴こえてないか。

「はい、真河です」
『……薫?』
「灯?」

珍しい。
灯電話嫌いだから、滅多にかけて来ないのに。

「どしたの? 珍しいじゃん。
 灯からかけてくる何てさ」
『放っとけ。……えっとね、宙が今すぐ第1来いってさ」
「宙が? 第1って、公園でしょ? 何で?」
『うちに訊かれてもね……』
「だってさ、宙子供嫌いじゃん。
 なのに何で態々子供率高い公園なわけ? しかも第1。
 あそこ今の時期多いよ?」
『知らねえよ。とにかく、今すぐ来いってさ。
 じゃね』
「あっ ちょ、灯っ ……切れたし」

何の用だろう。
でも、行くしかないか。

37:薫音:2013/01/24(木) 19:39 ID:RZk




「お待たせーっ!」
桜の木の下に居る2人に、右手を振る。
灯はすぐ気付いたけど、宙は無関心。

「ちょっとぉ、宙っ?
 反応しなさいよ」
そう言って髪を引っ張ると、いててててと悲鳴を上げた。
「乱暴だな! 折角情報を教えてあげようと思ったのに……」
「え、何、情報? ねえ、何の何の?
 もしかして、社会と理科のせんせが付き合ってるとか?」
……灯、完全に呆れてるよね。
「違う。 この前、眼科検診あっただろ?
 あれの結果」

眼科、検診……

38:薫音:2013/02/18(月) 18:15 ID:cBU

思わず目線を落とすあたしを、灯が何とも言えない表情で見る。


これからを訊くのが恐い。
あたしの中で、そんな感情が渦巻く。


でも―――――……



「で、それが何なの?」

やっぱり、訊いていた。

所詮はあたしだ。変わらない。
好奇心は好奇心で置いておこう。


「おれたち養護学級の眼科検診の結果がある」
宙がキーボードを叩きながら平然と言った。

39:薫音:2013/02/18(月) 18:36 ID:cBU



……結果がある?

「宙……またハックしたのか」
灯が音楽プレーヤー片手に呆れている。

宙は企業秘密サイトのハッキングが得意で、暇なときはいろいろ覗いているらしい。
何でも、「書き換えたりしちゃ捕まるけど、見るだけなら大丈夫」だって。


「で? どうだった?」
興味半分、不安半分であたしが訊く。
数秒後、宙が重々しく言った。


「薫……お前の目の状態が一番悪い」



「だっ だよね〜。そりゃそうか。
 あたし幼いさい頃から目ぇ悪かったし、元から目ぇ弱いし……」
「薫……」
「もうすぐ見えなくなったって仕方無いし〜 当たり前って言っちゃあ当たり前だし……」
「薫」
「まあ見えなくなってもいいやぁ〜 何とかなるし…… 「薫!!」 」

――――灯

「あんたは……いつまでたってもそういる気?
 本当は判ってんでしょ? だったら……認めてよ。 認めてよ!!」
灯はあたしの肩を掴み、揺らす。
それを、あたしは俯きながら受けている。

「薫……馬鹿っ!!」
「灯っ!!」
灯はあたしと宙を置き去りにして、公園を出た。

ううん――――現実から逃げた。 そうかもしれない。


「薫……」
「大丈夫だよ。宙」
ああ見えても、灯は強い。
だからこそ、放っておいた方がいいんだ。

「帰ろ。 ―――バイバイ」


あたしはそう一言残し、風の中を突っ切るように家路を辿り始める。



耳に着けたイヤホンからは、やけにアップテンポな曲が流れ込んで来た。

40:薫音:2013/02/24(日) 23:04 ID:Ut2





学校。授業。休憩時間。
いつも通りの平日。

時間はいつも通りだ。
窓の外で流れて行く雲を眺めていると、すぐに過ぎ去る。

でも今日は―――――。



「薫、帰ろう」
そうでもないのかもしれない。
結局、下校はあっという間にやって来た。

「あっ、ちょっと待って!!」

遅れ気味のあたしは、鞄を引っ掴んで教室を出ていく。


風が吹いた。

ただそれだけなのに、やけに寂しく感じたのは、あたしだけだろうか。

41:薫音:2013/02/24(日) 23:05 ID:Ut2

そしてそのときはやってきた。

42:薫音:2013/02/24(日) 23:13 ID:Ut2



「薫ぅぅぅっっ!!」


灯が叫ぶ。

今あたしの顔は、逆光でよく見えないんだろうな。
何て、考えている。
いつでも呑気なあたし。
後ろから、何か、固いもので衝突され、身体が横に舞う。


あれ……


不思議と、昨日の公園でのやり取りが脳裏に映る。

そっか……あたしもうすぐ、失明しちゃうんだな……


本当は判っていた。
これは交通事故だって。
そして、被害者はあたしだって。


でも――――――。


もういい。
これからは、暗幕が張られた道を歩く羽目になる。
だったら、丁度、都合がいい。


もうこの場で、死んで仕舞おう。



頬を何かが伝うのが分かった。
何だろう……これ。
何でもいい。知ったこっちゃない。


ねえ、灯。
それ以上近づかないで。
今はまだ気付いてないでしょう?



あたしが、泣いてるって。

43:薫音:2013/02/24(日) 23:49 ID:Ut2

  三色デフォルト


自室のドアを閉めた拍子に、手に持ったグラスがカラコロと音を立てる。
中に入っている氷が徐々に溶けてゆく。
それ位、この街の残暑は厳しいのだ。

薫の死から季節は巡り、とうとう半年が経った。
うちは予想以上に早く、薫への悲しみから解放されている。と思う。

まあ、それは―――――。

『ねえねえ、灯! ちょっと眼ぇ使ってもいい?』
「―――ぅうるさい! さっきから何を見たいの?」
『月だよ。月! 今日は確か満月だもん。
 綺麗だよぉ』
「……知るか」
『えーっ そんなこと言わないで、ほら、見てみて!
 絶対綺麗だから!』
「んなの何でわかんだよ? 外の世界は視えないくせに」
『そんなの決まってんでしょ!』

いつもより大きな声で、薫が吠える。

「決まってるって……」
『勿論!』

何故か分からないが、妙に、続きを訊きたくなった。


『勘!!』

……訊いたうちが馬鹿だった。
とんでもなく大馬鹿だ。
これが勘以外でものを言う何てことが起きたら、それこそ世界は破滅だ。

『ちょっと、灯、聴いてんの?
 ……あ、あーっ!』

「え、ちょ、薫!?
 何、どうし――――」

『ソラぁ!』

………。
呆れてものが言えない。

『やっほー!
 あのね、灯が……』
「早速チクろうとしてんじゃねえ!!
 ってか、ソラに言っても何も変わんねえぞ?」

『……えと、灯?』

ソラの声だ。
古今とこさっぱり聴いてなかったから、酷く懐かしい。

「……久しぶり。
 で?」

『あー いや、その』
「え、何?
 まさかソラも月見たいの?」
『………』
『灯ぃ、そうなんだって!
 ほらほら、早くあたしたちに月見せて!』
「おま勝手に乗っかりやがって……あー もういいっ」

ガラスのコップ片手に、布団を踏んづけ、ベランダに続くカーテンと窓を開ける。

少し湿った夜風が部屋に流れ込んでくる。


『綺麗……』
いつの間にか薫は、視ていたらしい。


今薫は、月を視ながら、何を考えているんだろう。


『ああ。そうだな……』
ソラが見上げる。
うちも自然と、窓の外へ首を出していた。


真上には、赤く、光り輝く月。
星が瞬く中で、1つだけ、うちらを見ている。



うちらはいつまで、月に嗤われる日を送るんだろう。
始まった日すら、もうよく覚えていない。

赤、黒、灰色。
それぞれの眼に映った月は、一体何色何だろうか。


いつかきっと分かる。
そんな想いを胸に、月を見つめていた。

44:薫音:2013/03/05(火) 16:35 ID:C0Q

「ヘッドライトアフターデイズ」は、次の話で最後になります。
これまでご覧下さり有難う御座いました。
もう少しだけ、お付き合いください。


彼等の赤くて黒い、灰色の真実を。

45:薫音:2013/03/05(火) 17:03 ID:C0Q

  ヘッドライトアフターデイズ


蒼い、蒼い世界。
最初は綺麗だと思っていたが、もう慣れてしまった。

時空空間をさ迷うこと。
そろそろ戻れる筈だ。


すぐそこの情報画面を曲がると、見えてきた。
最初はゆらゆらと棚引くほんの少し茶色がかった黒髪。
酷く長い髪だから、これはまだほんの片隅に過ぎない。
続いて同じものがもう1房。 手招きしている様に見える。
後姿が見えて来た。
長い丈の白いパーカーの裾から少し出ている、何処かの中学校の指定制服のスカート。
白と赤のコンビネーションが、これまで派手に見えるとは。
君の肩まであと2メートル半――――

「おかえり。ソラ」

……気付かれていた。
肩に手を触れる寸前で振り向かれ、にこりと笑われる。
この笑顔を可愛いと思ってしまうおれ。 何て単純なんだ。ったく。

「何やってんだ?」
「灯の記憶見てるの」
「灯の―――?」
「時間割思い出したいんだって」

ああ、成程。
灯らしい。

「いっつも面倒臭がってメモしないからね〜 灯は。
 あたしがいなかったらどうしてたんだか……… あれ?」
「ん? どうした」


「これ……事故のときの記憶だよね」

あ………
そう言われ、画面をまじまじと見る。

「確かにそうだな……再生してみるか?」
「いいよ。……灯寝てるし」
「そうか。 じゃあ」

画面を右手で触る―――と言っても、感覚は無い。
ピッという音がし、風景が動き出す。



『今度一緒に行こうね』

クラクションの音。眩しいヘッドライト。
一時的に明るく照らされる辺り。



「ちょっと待って!!」
突如としてカオルが叫び、画面が一時停止した。

「カオル?」
「此処……よく見て」

カオルがある一ヶ所を指差す。
其処には―――――



「嘘、だろ……!?」

雷に撃たれた様な衝撃。
口から出たのは先程の一言だけ。

灯は、見ていたんだ。
本人が自覚していないだけで、ちゃんと―――――

「灯に知らせよう」
「駄目っ!!」
カオルが遮る。
「さっきも言ったけど、今灯寝てるんだよ!
 起こしちゃ駄目!」

………。
少し拍子抜けする答え。カオルはいつも何処かずれている。
でも確かにそうだ。忘れていた。

「分かった。じゃあ、灯が目を覚ますまで………」

身体を稲妻が通り抜けた。

「ソラ……!!」
カオルがはっとする。

「ごめん。もう行かなきゃいけないみたいだ。
 後のことは………」
「―――任せて」

カオルが言った。
おれも強く頷く。


おれたちを取り巻く世界が、また少し変わろうとしている。
一体何処まで、歯車は狂うんだろう。

46:薫音:2013/03/09(土) 23:58 ID:KDs



いつもの登校時間。
いつものヘッドフォン。
いつものカオル。

「………」
『………』

うち―――長坂灯は、今日も通常だった。
いつもと同じ。

――――見た目は。


今うちの意識の世界は、混乱状態にあった。

うちは―――見ていた?
   ―――知っていた?


――――気付いていた?


もうよく分からない。
今はただ、カオルの声に耳を傾ける。


『再生するよ―――』
まるで何かの呪文のように聞こえる。

そして意識を貫く、稲妻。

「くっ――!」
『耐えて、灯!』

頭全体に割れたガラスが突き刺さった様な感覚の後、ぼんやりと映像が現れる。
スロー状態で再生され、脳裏に一コマ一コマを刻み付けていく。

『―――居た。此処!』

カオルがとある一ヶ所を指差した。


「――――っ!!」
『この人……!!』

うちは、見ていたのだ。
    知っていたのだ。


気付いていたのだ。


『間違い無い。
 灯が見た、あたしの事故の犯人は――――』

カオル――薫の事故は、後ろから車が衝突した出来事。
その車の運転手を、うちは見ていたのだ。
そしてしっかりと、記憶していたのだ。


うちは知っている。
この車と、この車の運転手を。
そしてそれが―――誰なのか。



『担任―――』
「―――らしいね」

47:Cosmos:2013/03/13(水) 22:39 ID:A4M

ヘッドフォンアクターとエネの電脳きこう?

48:薫音:2013/03/14(木) 16:39 ID:xgU

いいえ。 オリジナルです。

49:薫音:2013/03/14(木) 16:51 ID:xgU



うちはその場で踵を返す。
走行中の車から通勤途中らしき先生が顔を出した。
誰だっけ? とか思うけど、関係無い。

何か言う。何か言う。何か言う。


『灯? 帰る?』
「うん」
『分かった』

流石はカオル――薫だ。
うちの心模様、テンション、機嫌をよく判ってる。
そして言い出したら聞かない性格も知ってるから、止めたりはしない。
カオル自身止める気が無いのかもしれない。

『学校に届け出そうか? ……此処で気絶するけど』
「いや、いい」
『やっぱり。
 んじゃ帰ったらすぐ寝てよ。その間に連絡するから』
「了解」




そして家に着く――――――。

50:薫音:2013/03/22(金) 18:53 ID:5TU




カオルと約束した通り、帰ってすぐベッドに寝転がる。

うちの意識空間を操作したんだろうか。
すぐに眠気はやって来た。




此処は夢の中らしい。
うちは蒼い空間の中で、何の気も無いまま揺蕩っている。

誰かが見える。
人影は、そう――――あの娘に似ている。


「薫………」
『駄目だよ。灯』

どうして? 何で?

『もう駄目なの。
 歯車は戻らないの。
 後悔なんて無駄なの。
 ねえ―――?』

「煩い。 煩いよ、薫。
 やっぱ変わらないね。
 だったら、戻ってもいいでしょ?」

『もう駄目なの。
 歯車は戻らないの。
 後悔なんて―――――


「無駄なんかじゃないっっ!!!」


叫んだ。
涙が滲み、辺りに飛び散る。

51:薫音:2013/03/22(金) 19:23 ID:5TU




――――『灯っ!!』

え……?

瞼を押し上げると、いつもの天井。
あ、夢、か………


『わわっ どっ、どーしよ!?
 灯死んでる……ってことは、あたしも死ぬ!?
 わお。二回目か。……って!!
 ソラっ ソラ、ソラ、ソラぁっ!!
 灯が死ん
「あああああうっさい!!
 勝手に死んだとか決め付けんな呆けぇっっ!!」

即座に突っ込みを構す。
ああ。本当、変わって無い。

52:薫音:2013/03/25(月) 15:33 ID:ycs


『あ、灯が生き返ったぁっ!!
 良かったぁ……』
「あんた泣けんの!?
 脳内エネミーの癖に………」

更に呆けを続けるつもりらしいけど、もう放って置こう。

「で? 連絡した?」
『え? あ、うん。しといた』
「そう。有難」

うが抜けた。まあいいか。


今までのやり取りを思い出す。
そうなると、うちも全然変わって無い。


『―――灯』
「何?」
『出来た』
「は?」

やけに慎重な雰囲気のカオル。
すると、誰かが姿を現す。

「―――ソラ」
『へえ。凄いな。
 カオルにしちゃ具体的だ』
『ちょ、ちょっとそれ、どーゆーこと!!』

ソラにからかわれ、カオルは顔を真っ赤にしてソラを殴る。
恐らく痛くないんだろうな。
羨ましい―――なんて、思ってしまう。

『ううう……るさいっ!!
 ソラも説明手伝ってよ。
 これ結構大変だったんだから』
『作るの大変だったからって、続きをおれに任せるのは理屈上じゃあ……』

「はいはい。
 で? カオル、何が出来たの?」

やりとりに飽きて来たうちは、突っ込みを入れ話題を戻す。
カオルも本題を思い出した様で、新たに口を開けた。



『全ての、真相――――あたしの事故から、今に至るまで』

53:薫音:2013/03/26(火) 10:00 ID:uNs


一瞬ぽかんとした後、1つ訊いた。

『……もう全部判ってんじゃね?』
「……もう全部判ってんじゃね?」


……見事にソラと被った。


「あ、うん。そう」
『あ、ああ……』

妙な雰囲気が漂う。
最中、カオルが先程とは桁違いの怒りの声を上げた。


『2人共全然判って無いっ!!
 あたしが言いたいのは、何故担任は事故を起こしたかってこと!!』


―――――そうだ。

それすらも、うちは知らない。

それを一番知りたいのは――――うちだ。


「カオル……もう全て判ってる?」
『うん』


そうか。なら―――――


「教えて」

一言で充分だった。


カオルがEnterキーをタイプする。



そして記憶が――情報が――全てが、意識空間に傾れ込む。

54:薫音:2013/03/29(金) 20:57 ID:Aes




窓から夕焼けが見える。
緊張を解すのも兼ね、うちは溜息を吐いた。


同日の、放課後。
うちは制服に通学鞄という格好で、帰路に着く集団の中逆らいながら、学校に行き着いた。
向かうは図書室。

まだ居る筈だ。
この事件の犯人は。

図書室には居なかった。
でも靴箱に靴があったから、うちはただ暇を潰す。
鞄や教材が教卓の上に置いてあるから、直に戻って来る。





「―――先生」

戸が開き、先生が入って来た。
うちを見て、驚いた顔をしている。

「長坂……!?
 お前、頭痛の発作が起きたんじゃあ………」

カオルめ。 そんな理由にしていたのか。
今更悪意を感じているが、今は関係無い。


「約半年前、この養護学級の一名が亡くなった」

そう切り出す。
すると先生が答えた。

「真河のことか。
 あいつなら今頃天国で笑ってるだろうな。
 馬鹿なくらい能天気な奴だった」

うちの意識空間で、カオルが何か言った。

合図だ。


「薫は死んでなんかいません」


「え―――?」



「此処で、生きてます」

そう言ってうちは、自分の心臓を指差した。


「……何だ。そういうことか。
 長坂、お前の気持ちは――――」


「嘘なんかじゃないです」


一回、口を閉ざす。

そして再び口を開いたときには――――――



『久しぶり、せんせ』


薫だった。

「ま、かわ……!?」

相当驚いている。

カオルがうちの声帯をハッキングしたのだ。


『あたしね、あの事故の後、宙に作って貰ったんだ。
 どうしても生きてて欲しいみたいで。
 ね、灯』

「………煩い」


意識の中で、素直じゃないなあ。ふふふと笑われる。



『PC上の情報だったんだけど、犠牲になった宙――ソラとあたし、
 灯の意識空間にインストールされた。
 それで、今は文字通り一心同体ってことで、生きてるよ』

「まさか……そんなことが………」

『あり得るんだよ。
 ま、おれも此処までPCが得意とは思わなかったけど』

ソラが言う。


『じゃ、言うよ? せんせ。
 あの事故の車の運転手はあんた。
 でも、意図的にあたしを殺したんじゃないんでしょ?』


「あ、う、うぅ…………」

此処まで来ると、最早擬音語しか上げられない担任。
止めを刺す様に、うちは相手を指差した。



『借金。――――だよね?』

55:薫音:2013/03/29(金) 21:17 ID:Aes



「――――お前が、何故、それを………!?」

もうカオルを、自分の生徒とは見ていない様だ。
眼球は飛び出し、腰は引き気味。
手はわなわなと震えている。


『あたしの情報管理に判らないことなんて無いもん。
 どう? 合ってる?』

俯くように頷く担任。
じゃあ此処からは自分で話す? と尋ねるカオルに、言った。

「もう全て判っているなら、そっちで話してくれ。
 今更思い返したって辛いだけだ………」

『了解。
 じゃ、ソラ宜しく』
『はっ!? おれ!?』
『だって面倒だもん』

『はぁ――――……』


溜息を吐き、ソラは語り出す。



『ただの借金っちゃあそうだろう?
 だが金額が馬鹿にならないくらいだった』

「3億―――だったっけ」

『やっぱり欲しいなあ〜』

カオルが呟いたけど、無視。


『そんなの一生掛かっても払える訳無い。
 そう考えたお前は、最終手段に出た』


『自殺――――』

カオルが言う。

『本当はあたしの位置より少し奥にあった電柱に、車ごとぶつけて死のうと考えてたんでしょ?
 でもあたしが居たから、身代わりとなってあたしが死んじゃった』

軽く言っているが、結構重大なことだ。

『どう? 当たってる?』

「ああ……恐いくらいにな」

『いえい! 当ったりぃ!』
「お疲れ、カオル」


とりあえず、エネミーたちは黙る。
うちは1人、口を開く。



「うちはあんたを許せそうにない――――けど」

担任が顔を上げた。


「一生恨み続けたって、何にもならない。
 だからやめる」

うちは、そっと微笑んでみせた。



「さよなら」


うち等は図書室を出て行った。

56:薫音:2013/03/29(金) 21:32 ID:Aes




『本当に―――無駄じゃないと思う?』



夕焼けが見える。
綺麗。それしか浮かばない。

『最初に後悔なんて無駄って言ったの、灯じゃん』

「いいの。――――だって」


『だって?』


屋上は少し肌寒い。
互いの腕を支え、手摺りに身を任せる。




「薫がずっと傍にいてくれたら、それでいい」




風が、吹いた。


薫が笑う。



「これからも傍にいて、守ってあげる」


何だろう。
すごく、すごく―――――



「ずっと一緒だよ。灯」


触れている薫の手があたたかい。





うちはこんな世界が好きだ。


何でかって?






だってそこに―――――君の笑顔があるから。

57:薫音:2013/03/29(金) 21:38 ID:Aes

今まで宙、薫、灯を有難う御座いました。

次回作は近々アップする予定なので、宜しくお願いします。



彼と彼女たちの、赤くて黒い、灰色の瞳をお忘れずに。


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