風神の道標

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1:そよかぜ ◆Ujv6:2012/12/31(月) 16:41 ID:S0o

風。悪戯に町に、心に吹き荒れるもの。
それを操る者は法律により「風神」とされる。
何もかもが新しく生まれ変わったこの世界。
時を刻む歯車はもう狂い初めていた。


これはここでは公開していない小説の番外編みたいなものです。
本編的なものはここでは公開しませんが、こちらを楽しんで頂けると光栄です。

2:そよかぜ ◆Ujv6:2012/12/31(月) 17:30 ID:S0o


ある旧校舎の廊下。幾多に伝えられた噂とその雰囲気により、誰もいないように感じられたが、二つ、人影が揺れた。
薄暗い校舎に、夕日が差し込み微かに顔が認識できる程度だ。

足音が密かに響く。

「ねぇ、待ってよ繋(つなぐ)。何処まで行くのよ。」

目の前を急ぎ足で進む彼、木逸繋(きいちつなぐ)。
一歩、一歩進む度にギシっと音がなる廊下。窓を埋め尽くす蔦。
そして何よりこの異常な空気。

そんな空間で表情一つ変えずに進む繋を少し頼もしく思う彼女、達咲しず(たちさき)。

何故ここに来ているのか、何故こんなにも気が落ち着かないのか、何も分からなかった。

3:そよかぜ ◆Ujv6:2013/01/01(火) 10:22 ID:S0o

ただ、いつもと違う彼の気迫に圧倒されるだけだ。
笑顔で愛想を振り撒いていたいつもの彼ではなく、果てなく続きそうな廊下を真っ直ぐに見つめるその表情は見たことがない。

ここに何があるのか。

張りつめる緊張感に息を呑む。
耳に入るのは足音と呼吸。そして何処からか聞こえてくる酷く耳障りな声。

怖い。

いつしかこんな感情も彼女には芽生えはじめていた。

口を開こうにも重い空気に圧されて声が出ない。
あの一言が精一杯だったのだろうか。

ガタガタと窓が風に揺れる。
微かに入ってくる隙間風が妙に冷たい。
制服にカーディガンを羽織っただけでは少々肌寒かった。

辺りを見回しても古びた木の板や教室、緑色の蔦しか見えない。

『…でしょ?』

クスクスと笑い声も混じりながらまた同じように聞こえるその声。
耳障りなはずだが、今この状況では唯一彼女にとって安心できるものとなっていた。

いつしか長い廊下も終わりを迎え、上へと続く階段が現れていた。

4:そよかぜ ◆Ujv6:2013/01/03(木) 23:35 ID:S0o

階段は廊下よりも老杤化が酷かった。

ギシリ、と歩く度に音が鳴ることは同じだが、何より壊れそうなほどにひびが入っていた。
だから旧校舎では階段に関する話が多いのか、としずは確信した。

ただ、そうであったら…

最近一番の話となっている「恋人ツナギ」。

きっとこれを彼はやるつもりなのだろう。

5:そよかぜ ◆Ujv6:2013/01/04(金) 00:11 ID:S0o

「恋人ツナギ」

まだここが旧校舎ではなかった頃、この階段の踊り場には1つの鏡が備えられていた。
『ここで告白すると思いが実るらしい』
いつしかそんな噂が流れ出していた。
誰が考えたのか。そんなことはもうその時には忘れられ、噂には色々と意味のないものまで付け足され、最終的には
『この鏡の前で告白すれば必ず告白は成功する。ただし相手が自分を知っていなければ成功は不可能』

そんな馬鹿げた噂を信じた一人の少女。
ずっと憧れていた先輩に告白をすることを決めたそうだ。それも鏡の前で。

(あの人が私を知らないはずがない。)
少女は確信した。思いが実ることを。

だが、結局結ばれることはなかった。

少女は絶望した。何故結ばれなかったのか。何か足りなかったのか。

そんなことが頭をよぎる。

毎日貴方を見ていた。
毎日貴方を愛していた。
毎日貴方の近くにいた。

毎日、いつでも見ていた。

それなのに、何故…何故!!

その時、少女の中の何かが壊れた。

もしかしてこの人は私を知らないのか。
ああ、そうか。だからか。
でも、毎日貴方の側にいたのに。


でも、貴方には私が見えなかったのか。
すっかり人気の無くなった校舎の中を、少女は一人さ迷っていた。

もはや足音なんて聞こえない。
影さえもない。

その時、少女は思い出した。
自分があの鏡の階段から落ちて亡くなったことを。

少女は見てきた。自分と同じようなことをしている少女達を。
大半は結ばれない。
もうこんな悲しいことはあって欲しくない。
少女はもはやこの世から消えた者。残された時間は僅か。
いっそ消えるなら…

翌日、あの階段から鏡は無くなっていた。



それからこの階段で別れを告げても消して悲しくならない。という噂がたった。
あの少女が背負ってくれるから。

6:そよかぜ ◆Ujv6:2013/01/04(金) 20:55 ID:S0o

もしかしたら、彼は私を捨てる気なのか。

そう考えると冷や汗がとまらない。

確かに自分と彼とでは違う所がありすぎた。
でも、離れたくない。そう感じてしまう。
付き合ってたった1ヶ月。
短い時間に彼に惹かれたか。

一段一段、ゆっくりと上がる。
この校舎には二人だけ。

せめてもう少し一緒に…

7:そよかぜ ◆Ujv6:2013/01/06(日) 13:02 ID:S0o

もう、どれだけ時間が進んだのだろうか。
相変わらず彼は真っ直ぐ前を向いている。もはや表情など分からない。

__長い。

この校舎の廊下も、沈黙も。
早く終わってほしい。
早くこの迷宮から脱け出したい。

そんなことを考えていた頃だ。

不意に彼が足を止め、此方に振り向いた。
いつも通りの笑みを表情(かお)に浮かべ、ゆっくりと口を開いた。

「もう、君はいらないや」
「…え?」

沈むくらいに重い言葉がしずにかけられる。
何がなんだかよく分からなかった。

気がつくとここにいて、彼の思うままに着いていき、結局はこうなる。
彼は何かにとりつかれたように口を動かす。

「大体ね、別に君のことが好きだから付き合ったとかじゃないんだよ。まぁただの“遊び“…かな」

__最早、絶望。それすらも浮かばなかった。
なんとこの状況を打破すればいいだろうか。
何を伝えればいいだろうか。

もう伝えることも何もないはずなのに、必死に口を動かそうとする。

でも、本当に自分も彼のことが好きだっただろうか。
そんな次の疑問が頭に浮かべば次に伝えるべき言葉などすぐに浮かんだ。

__が。それも無理なことだった。
一瞬にして彼の表情が変わったのをしずは見逃さなかった。

胸の前に伸ばされた手。それを振り払うことも出来ず、ただ彼の後ろに宿る黒い影に目を移すと…

ふわり、と体が宙を舞った。…ね」
原稿用紙に書かれた文字を一つ一つ丁寧に読む彼女の前には一人の恐らくこの物語を書いたで有ろう少年がいた。
彼女が次になんと口を開くのか黙って少年は待っていた。

「却下」
「っ…で、ですよね〜」

__やっぱり。
でも少しは自信かあったけどなぁ。
つきつけられた却下という結果に肩下ろす。

「当たり前でしょ、少しでもそう思うなら出さないでよ。紙の無駄でしょ」

ズバッと言われ、またいつものようにトゲが刺さる。
『紙の無駄は言い過ぎじゃないですか』
そう反論したところで逆ギレされることは目に見えている。

__今ここは現代、2790年。
電脳生物がうようよ飛び交う時代だ。
何もかもが新しく生まれ変わったこの世界。そんな時代でも、平凡に活動する新聞部。

8:そよかぜ ◆Ujv6:2013/01/06(日) 16:23 ID:S0o

「ネノセイ高等学校新聞」
そう書かれた模造紙が教室の床を半分埋める。
何とかそれを踏まない位置にある部長の席。
堂々と椅子に座り足を組む彼女こそがこの学校の新聞部部長である。

「とにかく、この原稿はボツよ。わかった?」
「…はい」

彼女とは比べ物にならないくらい弱々しい声で返事をした。

「相変わらず部長は厳しいねー」
メモ用紙を見ながら記事の下書きをしていたグループの方から笑い声が響いた。

「はいはい、厳しくて悪かったわねー。もっと厳しくしてやろうかしら?無論貴方にだけに…ね」
ニコリと彼女は「黙ってろカス、殺すぞ」とでも言うように脅迫して微笑んだ。これが彼女の必殺技であるが、彼にはもう通用しなかった。

「わぁー部長に特別扱いだなんて嬉しいな」
此方も負けんばかりにニコニコと必死で笑う。
二人はしばらく火花を散らしながら互いに欠点を言い合っていた。
不意に窓から風と共に入ってきた桃色の電脳生物。それを見つめ、部長は表情を一変させ「モモイロ!!」と声を上げた。

__そのまんまじゃねぇか!!

名前はどうとして、可愛いらしい耳が生えた桃色と電脳生物はそのまま部長の胸に勢いよく飛び込んだ。

「…部長ズルいですぅ!!電脳生物をてなづけるほどのスキルを持ってるなんて!!私だってまだなのにぃ…でも電脳生物って本当に可愛いですよね!!やっぱりそれなりの…」
天然パーマの女子部員がとてつもない猫かぶりヴォイスで電脳生物について語り始めた。
それも完全スルーで部長は少年に向かった。

「まぁそれだから今度直してからあれは出しな。それから今回も『最期のラブコールII』の続きでお願いね」
「は…はぁ…?」

またもペラペラと喋りだす部長の口からは次に信じられない言葉が零れた。



「あと、最後のあの表現、良かったよ…!!」

9:そよかぜ ◆Ujv6:2013/01/06(日) 21:50 ID:S0o

「え…」
数人の部員の口から声が零れた。
まさかあの部長が人を褒めるなんて…!!
誰もがそう思った。

「何よ…そんなに私が褒めるのが変なの?」
子供っぽくプクッと頬を膨らませる。
考えて見れば、部長は今日はいつもと何か違っていた。

「いや…だって、ねぇ」
「うん、上田ちゃんツンデレだしさ」

ヒソヒソと部員達が話す声が部長__上田キイチの耳に入る。

いつもならばニコリと笑い技をかけてくるが、今日はただ笑うだけだった。
それにいいようない恐怖を感じた。

その笑顔には憎悪なんてものはなく、むしろ清々しい今まで見たのことのない普通の微笑みだった。

10:そよかぜ ◆Ujv6:2013/01/07(月) 19:28 ID:S0o

修正です…

>>8
名前はどうとして、可愛らしい桃色と電脳生物。
正しくは名前はどうとして、可愛らしい桃色“の“電脳生物、です。

他にもありましたら言って下さい…


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