狐の嫁入り

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1:きなこ ◆H.KU:2013/01/17(木) 23:25 ID:sno



たとえ禁忌だとしても、
性懲りもなく恋をした。

2:きなこ ◆H.KU:2013/01/17(木) 23:29 ID:QvQ

 千年も昔の事。人里離れた山奥で、曇りなき空は陰りを見せる。

「翔葉さ、ま……うぐ、ぁ、あああッ!」

「すまない、すまない妖狐……これが村の掟だ。
だけど私は、いつかまた必ずお前の事を――」



――愛してみせる。



 全てを裂くような悲しい断末魔と同調するかの様に、いつの間にか空は一面に黒く曇っていた。







「あー……だるい」

 そして時は現在。教室の窓際、柔らかな日光が差し込み、同時に教室という世界の影になる特等席で、神代翔(かみしろ しょう)は気だるそうに頬杖を付いていた。下を向けば真っ白な進路用紙と直面し、逃げる様に視線を窓の外へ向けると今にも雨が降ってきそうな曇り空。

 曇り空は嫌いだ。何故だか衝動的に泣きたくなる。


「マジでだるいわ……」

 思わずぼそりと呟いた本日二言目のぼやきは、担任の発した言葉と、それによるクラスのざわめきによって欠き消された。


「今日から転校生が来るぞ、皆仲良くするように!」

3:きなこ ◆H.KU:2013/01/17(木) 23:33 ID:KAg

 転校生か、浮かなきゃ良いね。なんて上の空で考えていた翔だったが、「転校生」の姿を見ると思わず自分の目を疑った。


「紺野 灯(こんの あかり)です。よろしくお願いします」

 全てを吸い込む様な黒い瞳、腰あたりまで緩やかに伸びた金色の髪。否、そんな事よりも。

「え、えぇえぇえ!?」

 耳には本来在るべき象は為されておらず、代わりに髪と同じ金色の狐の耳が。
 後ろには隠すこと無く見える、また髪と同じ金色のふさふさと柔らかそうな尻尾が在った。

4:きなこ ◆H.KU:2013/01/21(月) 22:11 ID:y6.

「あ……」

 思わずがたりと音を立てて立ち上がると、案の定クラスの視線は自身に集まってくるワケで。
 翔はどちらかと言えば目立つ事の少ない大人しい側の人間である。担任はどうしたものかと目を見開き、クラスメイトは物珍しそうにクスクスと笑った。


「……な、なんでもないです。すいません」

 顔に血が上ってゆくのが分かる。慌てて席に座り直すと、担任は少し不可解な表情をしつつも、耳と尻尾の転校生を席に着かせ、授業を始めた。

(最悪だろ……)

 窓際から飛び込んで死んでやろうかと、この時ばかり翔は本気で思った。

 転校生は、自分の後ろの席だった。

5:きなこ ◆H.KU:2013/01/21(月) 22:12 ID:ikA

 そして迎えた一限目の休み時間。気まずい死にたいの一点張り、悪夢の時間。朝の事もあってかどんよりとした翔の元へ近付く者は居なかった。
「ね、ね……君。ちょっと良いかな?」


 但し転校生を除いて。
狐の転校生は後ろからちょんちょんと翔の背中をつついた。虚ろな目で振り向く翔にお構い無しに、彼女は問う。

「君にはこれが見えるの?」

「これって……ええ、まあ」

 これ、と指差された耳に戸惑いつつ翔は答える。
 すると、その返答を聞くや否や、黒珠の瞳からはぽろぽろと大粒の涙を零れ始めて。何かいけない事を言ったのかと慌てる翔の手をきゅ、と握り、彼女は嗚咽の中絞り出す様な声で呟いた。


「やっと見つけた……翔葉様」

6:きなこ ◆H.KU:2013/01/21(月) 22:17 ID:BI.

「は……?」

 翔は唖然とした。異質な耳と尻尾が見えると答えると突然泣かれ、更に自分の知らない名前で呼ばれる始末である。

 気付いたらしいクラスメイトの「神代が転校生泣かせたー!」なんて囃し立てる様な声が聞こえるが、そんな事気にしていられなかった。

「あの……俺は“ショウハ”じゃなくて“ショウ”なんだけど」

 泣きながら“翔葉”を求める彼女には少し申し訳無い気持ちもあるが、翔はきっぱりと言い張った。と言うのも、自分を翔葉と呼ぶ転校生は、何処か懐かしく、そして何処か艶かしくてドキリと心臓が鳴った事も事実だったのである。

 翔の言葉を聞くと、転校生は少し残念そうに笑った。先程の色は無く、夏の終わりを連想させるかの笑みに翔は少し罪悪感を覚えた。

「そっか……そうだよね。ごめん」

 一呼吸置いた後、でもね、と彼女は言葉を続ける。


「私が妖狐に見えるって事は、きっとこれも何かの因縁なのかもしれない。
だから、仲良くしてくれないかな?翔君」

 そうやって自分の手を差し出してくる。握手だろうか。これは握るべきだろうか。
 否、それよりも。


「あ、手にでっかい爪とかは流石に無いんだ」

「いや元々爪とか狐に無いから!」


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