純粋に、君が好き。

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1:陽実 ◆NLsI:2013/03/02(土) 23:08 ID:8jc

ネーミングセンス欠片もないタイトル申し訳ないm(_ _)m

これは……好きって言っちゃ、いけません。に次ぐ純愛にしたいな、うん。←

携帯小説風です。
なので書き方戻します。

「怪しげに光る瞳の中で。」という駄作も書いてます。
こっちはバトル系のファンタジー小説。

書き込み禁止。
http://ha10.net/test/read.cgi/yy/1361955427/l50
こっちに書き込みお願いしますね。

ではstart

2:陽実 ◆NLsI:2013/03/02(土) 23:10 ID:8jc

prologue


何をしてても

何を考えてても

君が頭に浮かんでくるの。



消せないくらいに強く、強く。

もっと強く刻まれていくの。



思い出すたびに好きになって
会うたびに好きになって
笑顔を見るたびに好きになって。


毎日毎日
君を好きになる。



ただ純粋に、君が好きなんだ。

3:陽実 ◆NLsI:2013/03/02(土) 23:11 ID:8jc



恋の歯車、回ってる。

どんどん、回ってく。

狂わずに、回ってる。


あるべき場所へ導いて。

4:陽実 ◆NLsI:2013/03/02(土) 23:17 ID:8jc



出会いは入学式という名の中学最初の行事。

校長先生の長い話を聞いて、クラスに分かれて
自己紹介をして終了。

たったそれだけをするために学校に行く。
そして午前中だけで帰ってくる。

どうせなら今日から授業開始すればいいのに。

そう思うけど、やっぱり授業があれば面倒くさいのは目に見える。

やっぱりなくていいや。



クラス割表の前に立つ。

どーんと威圧感のある擬音を使うにふさわしいであろう校舎の壁にそれは張り出されている。

一組から七組まであるクラスから『咲原 実花(さきばら みか)』という自分の名前を探す。

結構疲れる作業だ。


数分後、やっと見つけた自分の名前。

自分の名前があったのは六組。

クラス総勢三十五名。
男子二十名、女子十五名のクラス。

どんな学校生活が始まるかは、わからない。

5:陽実 ◆NLsI:2013/03/03(日) 16:44 ID:Db6



とりあえず自分のクラスに向かうとしよう。

一年生のクラスは全部三階。

つまりこれから重い荷物を持って三階まで上がらねばならないと。

考えるだけでため息がこぼれる。


「1−6」の表示のある教室は、三階の中央階段のすぐそばにあった。

中央階段を上ってすぐ左。

見つけるのはたやすい。

ただ、入っていくことが怖い。



私は小学校時代いじめられていた。

きっと周りから見れば些細なこと。

悪口言われたり、陰口言われたり。

親や先生に相談しようにも具体的な被害の証拠がない。

むしろ相談できないように証拠を残さなかったんだと思う。

でも、相談できない分自分の中でどんどん苦しみが募っていった。

気付けばクラス中が敵。
味方なんていない。

クラスのみんなの視線が私に突き刺さって、言葉で心をえぐられて。

苦しいってだけじゃ表せないくらいに辛かった。


でもその小学校生活ともおさらばしたはず。

これからは楽しい学校生活を送りたい。


友達作って、恋をして。
普通の中学校生活を送りたい。

6:陽実 ◆NLsI:2013/03/03(日) 17:26 ID:Db6



そう、だから小学校の時の辛い思い出は捨てるんだ。

みんなと同じように、楽しくて平凡な生活でいい。

手に入れたいから。

だから辛い思い出は捨てる。


――だけど。
やっぱりいざとなると捨てきれない。

捨てきれずに、足が震える。

教室の扉の前に立つと、扉が実際の何倍も大きく見える。

怖い。
怖い怖い怖い。

また、小学校の焼き直しになるかもしれないと思うとすごく怖い。

足が震えて、それに連動するように体中が震える。

扉を開こうと取っ手にかけた手も震える。


怖い。

――でも、決めた。


私は変わるって決めたはず。

こんな所でつまずけない。


取っ手にかけた手にぐっと力を入れると、思ったよりも簡単に扉は開いた。

7:陽実 ◆NLsI:2013/03/04(月) 07:27 ID:EmY



開いた扉は全開と呼んでもいいくらいに空間を作った。

音と共にみんなの顔がこちらに向けられる。

……小学校だったら
ここでみんなの視線が刺さるように飛んできた。
クスクス、という馬鹿にしたような含み笑いもおまけされて。

思わず光景がフラッシュバックして、思いっきり目をつむった。


……でも
ここは小学校とは違う。

そう思って目を開いてみる。


――良かった。

みんなの視線は既に私から外れていた。

それはそれで寂しいのかもしれないけど
それでもやっぱり、視線が突き刺さるよりかは幾分かマシ。

そっと足を教室に踏み入れて、後ろ手に扉を閉める。

開けた時より小さな音を立てて閉まってくれたおかげで二度目の注目を浴びることはなかった。


自分の席についてスクールバックを置く。
周りでは既にグループみたいなものができていて、私みたいに孤立している人はほとんどいない。

やっぱり中学校でも孤立するのかな。

8:陽実 ◆NLsI:2013/03/06(水) 18:21 ID:aT.



そう思うと止まったはずの足の震えがまた襲ってくる。

椅子に座っているから目立たないけど
それ故にか余計に怖くなってくる。

もうヤダ。

なんでこんなことになったんだっけ。

なんでこんなふうに私が怯えなきゃいけないんだっけ。


そうだ、あの時――


――大山 優華(おおやま ゆうか)。

父親、大企業大山グループの社長。
祖父、大企業大山グループの会長。
母親、大山グループの社長婦人。
祖母、大山グループの会長婦人。

顔はクラスでも一位、二位を争うほどに可愛く
成績は飛び抜けていい。

まさに“完璧”を絵に書いたような女の子。


私の元親友。

そして、いじめっ子。

9:陽実 ◆NLsI:2013/03/06(水) 18:33 ID:aT.



私と優華ちゃんが“親友”と呼ばれる関係になったのは中学一年生の時。

違う小学校から来て
同じクラスになって
仲良くなっていった。

私は“優華ちゃん”って呼んでいて
優華ちゃんは私のことを“実花”って呼んでいた。

周りから見ても仲が良くてまさに親友って呼ぶにふさわしかった、はず。


なのに
優華ちゃんは急に変わった。


いつもどおり朝おきて
優華ちゃんとの待ち合わせの場所に行くと優華ちゃんがいない。

休みかなと思いながら学校に行くと優華ちゃんは教室にいた。

私がちょっと遅れちゃったかなと思いながら謝ろうと声をかけてみる。

――でも
いつもなら笑って振り向く優華ちゃんが
まるで私を居ないものと見ているように表情一つ変えずに無反応を貫く。


初めて、おかしいと思ったのがこの時。

優華ちゃんがいつもの優華ちゃんじゃない。


そう思っても、私には何があったのかわからないし
何をすることもできなくて……

結局卒業まで
繰り返される悪口と陰口と突き刺さる含み笑いに耐えるしかなかったんだ。


私は、弱いから。

私が強ければ、優華ちゃんのことを理解してあげられたかもしれない。

だけど私は弱かった。

優華ちゃんのことを理解できなかった。


自分だけを大切にして結局逃げてしまった。

いじめという現実からも
優華ちゃんからも。


後悔していないといえば嘘になる。

10:陽実 ◆NLsI:2013/03/07(木) 12:22 ID:cCo



私は急に変わってしまた優華ちゃんが怖くて
優華ちゃんから逃げ出そうとしか思えなくて。

一生懸命、気が遠くなるほどに勉強して、私立中学に入学した。

優華ちゃんが私立中学に入学してくれる可能性に賭けても良かったけど
やっぱりそれは危険な賭け。

自分が離れたほうが早いと思ったから
勉強して、受験して、合格した。

そして今、この中学校の「1−6」の教室の中にいる。



今でも優華ちゃんのことを思い出すと
理解できずに逃げてしまった自分を責めてしまう。


はぁ、とため息をついた瞬間
教室の扉がガラリと開いて、若い女の人が入ってきた。

きっとこの人が担任の先生。


その人が教室に入ったのを受けて
今まで騒いでいた女の子たちが自分の席に着き
暴れまわっていた男の子たちは動きを小さくしてやがて席に戻った。


その様子をしっかりと確認したように、全員が席に着いてから先生らしき人は口を開いた。


「私は今年一年六組の担任の古坂です。担当教科は理科。
 みんな、一年間よろしくね」


急に自己紹介をはじめるもんだから
何を言ってるのか最初の方はわからなかった。

でもしっかり通る大きい声が耳にちゃんと届くと
なんだかほっとした気もする。


この人が私たちの担任で

私の運命を大きく変えてくれる人。

11:陽実 ◆NLsI:2013/03/08(金) 06:32 ID:M/Y





「んーっ」

まだほのかに朝の香りが残る帰り道。
朝と昼のあいだ、正確には十一時過ぎくらい。

そんな時間に道を歩いている中学生が当たり前ながら珍しいらしく
道行く人々の注目を浴びてしまう。

なんか嫌だ。

見られるのは嫌い。

小学校の時のこと思い出すから。

チクチクと痛み出す胸を抑えながら
できるだけ注目を浴びないように小走りで家まで帰った。


入学式には親は来なかった。

理由は仕事。

お父さんは普通のサラリーマン。
お母さんは看護師さん。

共働きという理由もあって私はひとりで家にいることも多い。

まぁ、静かだしそれでいいんだけど
寂しくないといえば嘘になる。


今日はすることも特にないし、今日のことで思い出すべき回想もない。

さっさと支度をして寝てしまうのが賢い選択だろう。

という結論に行き当たり、必要最低限のことだけをやって布団に入ったのはまだ八時半。

そのおかげで翌朝の目覚めは最高だった。

12:陽実 ◆NLsI:2013/03/08(金) 19:16 ID:6FQ

今更ながら少し訂正

>>9
×
違う小学校から来て
同じクラスになって


違う小学校から転校してきて
同じクラスになって

13:陽実 ◆NLsI:2013/03/09(土) 22:22 ID:Bc.



朝、きっかり六時に目が覚めた。

何となくいつもよりも目があきやすい。

早く寝たおかげかな。

こんなに楽になるなら、これから早く寝たい。

まぁ……頑張ってみよう。


昨日から私のクラスとなった1−6。

昨日は大きすぎるくらいに見えた扉もそんなに大きく見えない。

これが、みんなが見る普通の光景。

私にとっては、新鮮な光景。

それが少し嬉しくなってきた。



ガラリと開いた扉から顔を覗かせた古坂先生。

可愛らしい、若い顔が目に眩しい。

入ってきた古坂先生は、教室内でチャイムを聞くと朝のHRの始まりを告げた。


「――今日から、授業が始まります。
 皆さん一生懸命取り組んでくださいね」

そう言って古坂先生がHRを終わらせると同時にチャイムが鳴った。

時間ぴったり。

すごいな、先生。

意味のないことで無意味に感心出来るだけ、少しだけ余裕が出来たかもしれない。

14:陽実 ◆NLsI:2013/03/09(土) 22:37 ID:Bc.



その日の一時間目は、初めての数学。

入ってきた担当の先生は優しそうな女の人だった。

名前は鈴村先生。

鈴村先生は、初めての授業だからといって今日の数学を自己紹介の時間に回した。


……正直言うと、自己紹介は苦手。
自分のことをしゃべるのが、なんとなく怖い。

と思っていても自分の順番が回ってこないわけないので早々に諦める。


諦めたあとはもちろん聞くに徹する。

そんなことを思っているうちにもう自己紹介は始まっていた。

最初は名簿番号が早い人からだから男子の一番の人から。

特に興味をひかれる自己紹介があるわけでもなく
ひっそりと存在を消すように自分の席、真ん中の列の一番後ろの席に座っていた。

でも、それは長く続かなかった。

一人の男の子の自己紹介に、気をひかれたから。


すくっと立ち上がった視界の左側に映る男の子らしい大きな背中。

すうっと息を吸い込むような仕草を見せたその背中は
一番前の席ということもあってか後ろに振り返った。


――格好、いい……


目鼻立ちの整った顔は、どこかのモデルかと思うほど。
さらりと宙に舞ったような絹のような黒髪。
筋肉質だと思われる、しかし高めの身長。

格好いい、以外の言葉が思いつかないほどの整ったルックス。

その人に釘付けにならない女子はいなかったのではないかと思う。

ルックス故に注目を浴びながら、その男の子は口を開いた。


「宮本 永(みやもと はるか)って言います。
 一年間、よろしくお願いします」

言い終わると同時にぺこりと下ろされる頭。

礼儀正しさも様になる。


もちろん、心奪われた女子も数多くいるだろう。

宮本君は、言い終わると前に向き直って席に座った。

そして何事もなかったかのように、いや実際は何もなかったんだけど……自己紹介は再開された。

15:陽実 ◆NLsI:2013/03/09(土) 22:51 ID:Bc.



それから、一週間が経った。

未だに親しく話せる友達もいなく
やっぱりひっそり佇むしかない。

朝のHRが始まる前、孤独に襲われるさみしい時間。

そんな時間に、今日は少し変化の予感。


「ね、ねぇ、咲原……さん」

控えめに、でもしっかりと。

空中に放たれた声が自分に向けられたものだということを理解するのに少し時間を要した。

「あ、は、はい、なんですか?」

やっぱり人と話すのが怖いのは相変わらず。
少し口調がこわばってしまう。

というのもきっと、話しかけてくれた相手の顔が恐ろしい程に整いすぎていて
目を奪われると同時にトラウマである優華ちゃんのことを思い出したからだと思う。

というのは一時放置して。

今は話しかけてくれた彼女、岡田 夏希(おかだ なつき)さんと
後ろに控えるように佇んでいる柚木 ちひろ(ゆずき ちひろ)さんの話を聞くことにした。

「あのさ、咲原さんにお願い……があって」

「お願い、ですか?」

敬語になってしまうのは悲しいけど
やっぱりそれだけ彼女の顔が整いすぎているということを率直に意味する。

「知ってると思うんだけど、もうすぐ宿泊学習があるじゃない?
 その班決めがこのあとあるんだけど……一緒の班になってほしくて」

唐突過ぎて何を言っているのかわからなかった。

それでも、唐突過ぎても理解すればふつふつと嬉しさが込上がってくる。

初めて声をかけてくれた嬉しさと
同じ半に誘ってくれた嬉しさ。

同時に湧き上がってくれば噛み締めるほどに嬉しさになることは言うまでもない。

「だ、ダメ……ですか?」

か細い、頼りない、でも可愛い。
そんな声が岡田さんの後ろから聞こえる。

これはきっと、柚木さんの声。

控えめな柚木さんの声を聞いて、私は少しこわばったような笑顔を浮かべながら口を開いた。

「もちろん、お願いします!」

16:陽実 ◆NLsI:2013/03/09(土) 23:06 ID:Bc.



私の声を聞いて、安堵の笑顔らしきものを浮かべる岡田さんと柚木さん。

そんな二人を見て、自然と笑顔になれた。


そして、五時間目の班決めの時間。
約束通り岡田さんと柚木さんと同じ班になれた。

“約束”があったのだから当然といえば当然だけど
それでもやっぱり嬉しく感じてしまうのは
嬉しいという感情をほとんど忘れかけていたからだと思う。

「咲原さん、ありがとね!」

そう言って笑顔を向けてくれる岡田さんはものすごく可愛かった。



それからさらに一週間が経過すると、さらに二人と仲良くなっていった。

お互いの呼び名は苗字にさん付けから名前を呼び捨てにしたりちゃん付けにしたり。

具体的には私は夏希ちゃん、ちひろちゃんと呼んで、
夏希ちゃんは私たちのことを呼び捨てにして、
ちひろちゃんは私と同じく二人に対してちゃん付け。

こんなふうに接することができる人ができたことが純粋に嬉しかった。

そして、その仲間と一緒に宿泊学習に行けることも。


宿泊学習はもちろん、成功に終わった。

きついハイキングも同じ班の男の子たちにペースを合わせてもらってなんとか乗り切れたし
炊事はちひろちゃんが本領発揮。
体力仕事は男の子や夏希ちゃんが進んでこなしている。

すごく楽しい思い出になる宿泊学習になった。



宿泊学習が終わっても、夏希ちゃんやちひろちゃんとはもっと仲良くなっていく一方。

二人ともいつも私と一緒にいてくれて。


小学校の時に失った笑顔がだんだん戻ってくるような気がしたんだ。


――でも。

戻ってきた笑顔なんて所詮付け焼刃のようなものだった。

結局は笑顔なんてすぐ消えてしまうほどにもろかったんだ。

17:陽実 ◆NLsI:2013/03/10(日) 11:19 ID:z82



「――そういえばさ。今日転校生いるらしいよ」

夏希ちゃんが長い黒髪をいじりながら唐突に切り出した言葉。

その言葉は私と一瞬凍りつかせるのには十分だった。

“転校生”。

転校生と聞けばまず私の頭に浮かんでくるのは……優華ちゃん。

あの妖艶で、怪しくて、どこか冷たさを含んでいて。
そんな笑みが脳裏に蘇り、背筋にゾクッという気持ち悪い感覚が走った。


そんな反応をしたのは私だけではない。

ちひろちゃんも、似たような反応を示していた。

彼女の肩で結ばれた、ウェーブのかかった茶髪に近い髪の毛が小刻みに震えているのがわかる。

きっとちひろちゃんの体が震えているのだろう。

私にはその理由はわからない。

でもきっと夏希ちゃんはわかっている。

わかっているかのように、ちひろちゃんの背中をさすっている。

そんな二人の姿を見て、私は少し胸が痛む。
それには気づかないふりをするけど。


夏希ちゃんはちひろちゃんの背中をさすりながら
しきりに「大丈夫だから」と声をかけている。

そんな二人を見ながら、私は自分の気持ちを落ち着けることに集中する。

少し時間が経てば、私もちひろちゃんも落ち着くことができたのは幸いかもしれない。


「ちひろ、実花に話した?あのこと」

二人が落ち着いた頃を見計らって、少なくとも私にはそう見えるタイミングで夏希ちゃんは口を開いた。

ちひろちゃんはそれを否定するかのように首を小さく左右に振った。

「じゃあ話しといたほうがいいよ。実花にも知っといてもらったほうが私はいいと思う」

そんな夏希ちゃんの言葉を受けて、ちひろちゃんは少し考えるような仕草を見せる。

そして覚悟を決めたように、しっかりと私を見つめた。

「あのね、実花ちゃん」

そっと開かれた形のいい唇。

「私」

少し見開かれた大きな瞳。

「前ね……」

彼女の両肩で揺れる、綺麗な髪の毛。

「いじめられてたの」


そのカミングアウトは、私の思考回路を奪った。

18:陽実 ◆NLsI:2013/03/10(日) 12:10 ID:z82



「え……、ちひろ、ちゃん?」

もちろん驚くしかない私。

ちひろちゃんはうつむいているから私からは表情が見えない。

きっとちひろちゃんの大きな瞳には、涙が浮かんでいるに違いない。
涙で滲んだ床の茶色が瞳に映っているんだと思う。

ちひろちゃんの表情が見えないから、私は夏希ちゃんに視線を移す。

夏希ちゃんは少しだけ視線を床に向けているだけで、あまり表情を変えてはいなかった。

それだけ余裕のある精神を持っているってことだと思う。
夏希ちゃんをひっそり尊敬したところで。

「ちひろちゃん……、えっと、どういうこと……?」

思考能力低下中。

うまく言葉が口から出てこない。

私の言葉を身に受けて、ちひろちゃんは少し顔上げながら言葉を発し始めた。

「いじめが始まったのは二年前。五年生の時。
 周りから見ればたいしたことないんだと思う。無視と、陰口と、悪口……」

ちひろちゃんはそこまで言葉を紡いだところで口を止めた。

そんなちひろちゃんを見て、夏希ちゃんが続きを紡いだ。

「あと、暴力と、暴行」

「暴力……」

「それの原因が、転校生だったの。でも……助けてくれたのも転校生。夏希ちゃん」

また驚く。

驚いて夏希ちゃんを盗み見るけど、やっぱり夏希ちゃんの表情はほとんど変わっていない。

僅かな変化をあげるなら、少しだけ目を伏せていることくらい。


でも、驚く必要もなかったかもしれない。
夏希ちゃんの性格上、ほかっておけなかっただろうというのも納得できるから。

だけど、やっぱり驚く必要はあったかも。
私の時は誰ひとり助けてくれなかったんだから。


羨ましいなって思えてしまう。


助けてくれる人がいたちひろちゃんが。

助けてあげられた夏希ちゃんが。


やっぱり、私はこの人たちとやっていける気がする。

同じ境遇に置かれていたちひろちゃんとはもちろん
それを助けてあげられた夏希ちゃんとも。



そう思ったのも束の間。

すぐに壊れてしまうなんて思ってもなかったのに。

19:陽実 ◆NLsI:2013/03/11(月) 17:11 ID:QEg



「だから、転校生って聞いてちょっと怖くなっちゃったの。
 ごめんね、急にこんな話して……」

無理に作ったような笑顔、こわばった笑顔、貼り付けたような笑顔。

ちひろちゃん、そんな笑顔向けないでよ。

なんとかしたくなっちゃうじゃん。
守ってあげたく……なっちゃうじゃん。



初めて見るちひろちゃんの涙を見て、胸が痛くなった。

でも、ちひろちゃんの涙は綺麗で、苦しみをさらけ出していて。

きっとそんな涙だからこそ、夏希ちゃんはちひろちゃんのそばにいるんだよね。


ちひろちゃんの心の綺麗さを知ってるから。

だから夏希ちゃんは、ちひろちゃんを守っているんだよね。



「ちひろちゃん……」

かわいそうなくらい追い詰められて
苦しいくらいに泣き崩れて
それでも存在し続けた強い命が私の目の前にある。

ちひろちゃんみたいになりたい。

夏希ちゃん程に強くなくていいから
ちひろちゃんみたいになりたい。


ちひろちゃんみたいに、ドキドキするような儚さを持ってるのに強い存在に。


あぁ、やっぱり私はこの子達が好きだ。

私に初めて声をかけてくれた二人が
私に笑顔を戻してくれた二人が。

大好きだ。



ガラリ、といいシーンを遮るかのような大きな音が教室に響く。

音を聞いて、夏希ちゃんとちひろちゃんは席に戻っていった。


「今日は、転校生がいます。可愛らしい女の子ですよ。
 入って、大山さん」


――ドクン。


今、先生の声は、先生の口はなんて言った?

私の心に、深い傷をえぐるような痛みが走った。


「はいっ」


――ドクン、ドクン。


廊下から聞こえてきた、可愛い声。

可愛い、のに。
背中に冷たいものが伝った。


まさか……――


少しずつ大きくなっていく足音。

それと同時にうるさくなっていく心臓。


教室の入口を、見たくない。
でもそういう時こそ見てしまうのが人間の性。

教室の入口に目を向ける。


床に落とされる白いシューズ。
空気に舞う長いウェーブのかかった黒髪。

見たくない。

そう思って目をギュッとつむる。


そんなのは気休め。

耳を塞がない限り、全身の皮膚をはがさない限り、彼女の声からは逃げられない。


「大山 優華です、よろしくお願いしますっ」


聞こえてきたその声に、頭が真っ白になった。

20:みなみ ◆NLsI:2013/03/12(火) 19:53 ID:/NM



――優華ちゃんの声。

私から笑顔を奪った、私から友達を奪った、私からすべてを奪った、あの声。


もう出来ることなら二度と聞きたくなかった。
二度と私の前に現れないで欲しかった。

なのに、今優華ちゃんの声はしっかりを私の耳に焼き付いた。
耳の奥にこびりついて離れない悪魔のような声が。


『あー……いたんだ。ごめん、気づかなかった』

『親友?そんなの思ってんのアンタだけだよ』


頭の中でリピートされる優華ちゃんの冷たい声。

怖い。

怖い怖い怖い怖い。


優華ちゃんが怖いよ。


大好きだった優華ちゃんが、怖いよ。


「そうね、大山さんは……あの窓際の席に座ってくれる?」

そう言って先生は優華ちゃんに席に座るように促した。

にこりと笑って返事をする優華ちゃん。

それだけを見れば、いじめなんてことをする子だとは思えない。

あの笑顔は貼り付けた笑顔。お面の笑顔。偽物の笑顔。


本当の笑顔は、冷たくて、妖艶で、鮮やかに悪意を振りまく。

あの笑顔は私に一生消えない傷を植えつけたんだ。



「実花、どうしたの?」

朝のHRが終わった瞬間、夏希ちゃんとちひろちゃんが私の席まで駆けつける。

顔色が悪いと思う。
息も荒いと思う。

だって、もう会いたくなかった優華ちゃんが近くにいるんだから。

怖いと思わずになんと思うっていう話。


すうっと小さく音がするくらいに息を吸って小さく口を開いた。


「……私、優華ちゃんに、いじめられてた」


言葉を発する間もなく驚く夏希ちゃんとちひろちゃん。

瞬間、夏希ちゃんの表情が変わる。

「アイツなんだ、実花を壊したの」

夏希ちゃんの表情は怖い。

優華ちゃんとか違う意味で怖い。


心底怒っているかのような、心底怒りに震えているかのようなそんな怖さ。


だからこそ夏希ちゃんの強さを思い知る。


「……うん」

小さく返事をすれば、突然夏希ちゃんの細くて長い腕が私の頭に回った。


「我慢しなくていい。一人で苦しまなくていい。“独り”じゃないんだから」


言うまでもなく、あったかい液体が瞳からこぼれ落ちた。

21:陽実 ◆NLsI:2013/03/13(水) 06:37 ID:kFE

無駄レスすいません。

小説コンテストなるものにエントリーしました。
面白い作品がゴロゴロ転がっているので、ぜひお気に入りの作品に投票してくださいね。


URLはこちらです。
http://ha10.net/test/read.cgi/frt/1363081676/l50

22:ささ:2013/03/13(水) 18:43 ID:7e.





上手い!!!

23:陽実 ◆NLsI:2013/03/14(木) 06:53 ID:YHk



「夏希ちゃん……、ありがと」

「ん、実花は独りじゃないかんね」

「そうだよ、私も実花ちゃんの味方だもん」


にっこり微笑む夏希ちゃんとちひろちゃん。

そっか、本来人と関わるってこういうことなんだ。
こういう感情を得られるってことなんだ。

私は、優華ちゃんからのいじめのせいで、人と関わるのが怖くなっていった。
だから、こんな感情も忘れてたんだ。

人と関わって、こんなに優しい気持ちになれること。
人の優しさに触れて、こんなにあったかい気持ちになれること。

やっと思い出せた気がする。

今久しぶりに、幸せがわかった気がする。

恐怖とは違う感情に、溺れることができそう。


「二人共、ありがとう」

さっきの二人に返すように微笑めば、二人もまた微笑む。

それが、当たり前のことのように繰り返される。

当たり前のことかもしれない。
普通はこうなのかもしれない。

でも、私はそれだけのことが嬉しい。

“普通”でいい。“平凡”でいい。
“不幸”な道さえ歩まなければ。

それでいいのに。

神様はそれすら与えてくれないんだね。

24:みなみ ◆NLsI:2013/03/14(木) 07:19 ID:YHk



「――ねぇ、実花、だよね?」

夏希ちゃんとちひろちゃんとの感動的なシーン。

割り込み客がいなければ。

夏希ちゃんとちひろちゃんは驚きを隠せていない。
それは私も同様。


だって割り込んできたのは私を壊した張本人。


「――優華ちゃん」



動揺を露にするしかない私。

それを見つめるしかない二人。

そんな三人を目の前にして、優華ちゃんは形のいい唇を開いた。


「実花、久しぶり!急に受験なんてしちゃうからびっくりしちゃった。
 でもずっと探してたんだよ?実花のこと」


――普通。


“普通”でいい。“平凡”でいい。
“特別”なんていらない。
“不幸”ですらなければ、なんでもいいのに。


神様は、それすらもわがままだというの?

それすらも、聞き入れてくれないの?


みんなから見える笑顔を、昔からの友達に再会して喜んでいる笑顔に見せつつ
優華ちゃんは私だけに見えるように、そっと笑う。
そして、私の耳元で妖艶に囁いた。


「やっと見つけたよ、実花。
 逃げるなんて許さないんだから……――」


私の人生は、いつ不幸から解放されるんだろう。

25:陽実 ◆NLsI:2013/03/15(金) 18:41 ID:Fxg




「じゃあね、実花っ」

優華ちゃんは明るくそう言い放つと先ほどの“あの”表情が嘘だったかのような
明るい笑顔を振りまきながら自分の指定された席に戻っていく。

それを見届けると、私は机に突っ伏した。
そんな私に近づく二つの人影。

「実花……」

頭上から降り注ぐ、困惑したような、謝罪の意味が込められたような夏希ちゃんの声。

「ごめんな、助けられなくて」


夏希ちゃんの声に含まれるのは誰に対してか一目瞭然な怒り。

傍らに控えるちひろちゃんは、明らかに動揺している。


そんな二人を上目遣いで見やると、頭を少し動かした。
短め、肩のあたりで切りそろえた黒髪が机にかぶさる。


「いいよ……、気にしないで」


無理に作ったような笑顔。
捨てられたと思ってたのに。
もう、こんな笑顔を作る必要はないと思ってたのに。

また、作ってしまった。


無理やり口角を引き上げて、適度に目を細める。

そんな、作り物の笑顔を。

26:陽実 ◆NLsI:2013/03/15(金) 18:57 ID:Fxg



顔を上げた私の笑顔を見て、たまらなくなったのか夏希ちゃんは私の頭をそっと撫でた。

それに反応するかのように規則正しく動く私の髪。

「ごめん。本当にごめん」


同じようなセリフを繰り返していく夏希ちゃん。

そんな夏希ちゃんの声と、言葉と、手の温かさに安心する私がいて。

思わず涙腺が歪む。


もちろん、止める術なんてない。
ポタリと音を立てて机の上に水玉模様が広がっていく。


それを見たちひろちゃんは、そっと私にハンカチを差し出した。

それだけの気遣いでも嬉しくて、余計に涙がこぼれたのは言うまでもない。




――ただ。

優華ちゃんは汚いしずるいから。

私の心を壊すためにこっちから攻めてきたんだ。


夏希ちゃんと、ちひろちゃんから。

27:陽実 ◆NLsI:2013/03/15(金) 22:03 ID:Fxg



「……もう、朝」


昨日、優華ちゃんが転校してきた。

夏希ちゃんとちひろちゃんと仲良くなれてから、嬉しかった、来ることを望んでいた朝。
今日、久しぶりに来ることを拒んでしまった。

小学校の時、私の生活をめちゃくちゃにした張本人。
小学校の時、私から笑顔を奪った原因。

優華ちゃん。


もう、見たくなかったのに。

転校してきてしまった。


迎えた朝が、学校に向かう朝が、扉を開ける瞬間が、憂鬱。


幸い、今日は何もないみたい。

いつもどおりに、クラスメイトからはあったかい視線が注がれるし
夏希ちゃんとちひろちゃんは教室に脚を踏み入れた私に駆け寄ってくるし。

でも、いつもと違うことがひとつ、ふたつ。

ひとつは、思わず優華ちゃんを目で探してしまうこと。
もうひとつは、その優華ちゃんが教室にいること。


捨てたはずの、小学校時代。

鮮明にフラッシュバックする。


陰口、悪口、含み笑いの嵐。

相談すらできなくて、一人で泣くことしかできなかった。

そんな小学校時代には、手を振って背を向けたかったのに。
向けきれてなかった。
手を振れてなかった。

やっぱり、頭の中に克明に刻まれている。


ふっとこちらを向いた優華ちゃん。

その笑顔は――


――黒い笑顔だった。

28:陽実 ◆NLsI:2013/03/16(土) 16:19 ID:/IM



その笑顔を見た瞬間、足から力が抜けた。
教科書やらノートやら参考書やらで膨らんだ私のスクールバッグが大きな音を立てる。
教室の掃除が完璧ではないことを証明するかのように少しの埃が宙に舞った。

「実花……?」

いきなり座り込む私に心配そうな声をかける夏希ちゃん。
クラス中の注目を浴びる。

でも、今はそんなことどうでもいい。

力が抜けた足に鞭打つようにぐっと力を込める。
それでも思ったように力は入らず、フラフラと立ち上がるのがやっと。

これだけのトラウマが植えつけられてたのを、今日初めて知った。


「……あ、わた、し――」

ガクガクと震える足。
ブルブルと震える体。
大きな波のように震える声。

ああ、情けない。

優華ちゃんがいるだけで、こんなに変わっちゃうなんて。


「――実花」

「実花、大丈夫!?保健室行こう!」


聞こえた大声は、夏希ちゃんのものではない。
でも、夏希ちゃん意外に私のことを呼び捨てにする人は今までいなかった。

ちひろちゃんはちゃん付けだし、他はみんな苗字呼びだから。

だから、この声の主は一人しかいないんだ。


「――優華、ちゃ、ん」


優華ちゃんしか。

傍から見れば、急に倒れかけた昔からの友達を心配している心優しい女の子。
だからこそ誰も私から優華ちゃんを引き剥がさない。

事情を知ってるはずの夏希ちゃんやちひろちゃんでさえ、動かない。

優華ちゃんの細い腕が私の首筋に触れると、ゾクリという悪寒が走る。
優華ちゃんの長い黒髪から漂う、昔から変わらない甘い香りに吐き気を催す。

それに気づかないふりをするかのように私を立たせ、優華ちゃんはみんなに笑顔を向けた。


「実花、気分悪いみたいだから保健室に連れてってくるね」


何言ってるの。

気分悪いのは優華ちゃんのせいじゃん。

何しようとしてるの。


優華ちゃんが、わからない。

29:陽実 ◆NLsI:2013/03/16(土) 18:03 ID:/IM



まだ夏に染まりきっていない六月の生ぬるい風。
そんな風が頬や首筋をなでると何とも言えない寒気が体を巡る。

「実花さぁ……」


唐突に切り出される言葉。

無意識のうちに再生されていた昔の記憶のテープ。
その中に記録される優華ちゃんの声とぴったり一致する声に思わず体がびくりと反応する。

そんな私の様子を見て、優華ちゃんは蔑むように笑った。


「受験したのって、私から逃げたかったからでしょ?」


「……え」


「いやいや、隠さなくてもいいんだよ。わかってることだし。
 実際そうなんでしょ?」


優華ちゃん。
前は、すっごく大好きだった優華ちゃん。

見ると安心できたあったかい光を放っていた瞳。
優しく微笑みかけてくれた唇。
笑うとつくられたえくぼ、それと一緒に赤色に軽く染まる頬。


記憶の片隅にはやっぱり残っていて、
でもそれはもう見られないことは分かっていて。

それでももう一度だけでも見たいと願ってしまう自分がいて。


自分の心が、笑顔が、すべてが壊れたのが優華ちゃんのせいだと分かっていても、
それでもやっぱり優華ちゃんのことが好きだと思う自分がいる。


――大好き。
大好きだった、優華ちゃん。

でも今、優華ちゃんの顔を見ればそんな浅墓な期待と思いはあっさり裏切られることはわかってる。

だってきっと今、優華ちゃんの顔は悪意に満ちているから。
そんな顔を見れば、優華ちゃんを好きでいてしまう自分が情けなくなるから。


「……あー、もう。なんで黙っちゃうかなぁ。私はアンタのそういうとこが嫌いなの」


こんなことを平気で言える人間を好きなままな自分に腹が立ってしまうから。

30:陽実 ◆NLsI:2013/03/16(土) 21:14 ID:Oj.





ガラリと開かれた扉から漂う、薬品の香りと、それに乗せられた埃の香り。
鼻腔を刺激するその香りに思わず顔をしかめる。


「失礼します、養護教諭の先生はおられますか?」

優華ちゃんがよそ行き用、つまり作ったような可愛い声を発する。
しかし、応答はない。

「あー、誰もいないね」

そう言って優華ちゃんは私をベッドに落とす。
とすんという音と、柔らかい感触。
白いシーツから柔軟剤の香りも漂ってくる。



「……実花」

保健室に来て少し時間が経ち、気持ちも落ち着いてきた頃。
優華ちゃんが口を開いた。

「……な、に……」

「実花さぁ……」

形のいい唇が私の名前を呼ぶと、優華ちゃんの整いすぎた顔が近づいてくる。
ゾクリという悪寒が走ると、その悪寒が嫌な予感へと変わっていく。
そしてそれが的中したかのように、優華ちゃんの唇は私の耳元で妖艶に言葉を発した。



「私から逃げれるとでも、思ったわけ?」



逃げれる……と?

私は逃げたかった。
優華ちゃんから。


――本当に、優華ちゃんから?


いや、逃げたかったのは事実のはず。
確かに逃げたい対象に優華ちゃんは入っていた。

でも、きっと一番逃げたかったのは現実から。
どうしようもない、断ち切りようのない、苦しい、悲しい、恐怖にあふれた現実から。


「優、華ちゃ……ん」


「思ったの?」


「思……って、」


「思ったんでしょ。でもね、逃がすとでも思ったの?」



――思ってない。


心の底で思ってたんだ。

多分、どこまで逃げても追ってくるって。

逃げることなんて、できないって。

31:陽実 ◆NLsI:2013/03/17(日) 13:39 ID:Ewo



でも、逃げられないことが分かっていながらも私は逃げた。
だって苦しかったから。
だって怖かったから。

現実から、いじめから、優華ちゃんから、
すべてを放り出して逃げた。

だけど結局逃げられなかった。

優華ちゃんは悪魔みたいにどこまでも追ってきた。
影みたいに身を潜めながら、気づかれないように侵食して。
いつの間にか私に迫ってきていた。

気づかなかった時点で、私の負けだ。


「実花はさ、なんにもできないんだから。
 おとなしく今を生きてればいいの。私に壊されるのを静かに楽しめばいいの、わかった?」

なんて理不尽な理屈。
なんて自己中な台詞。
なんて無茶苦茶な言葉。

あの頃の、楽しかった頃の、優しかった頃の優華ちゃんは面影もない。


今の優華ちゃんは、真っ黒な優華ちゃん。



わからない。
なんで変わってしまったのか、なんでこうなってしまったのか。
なんで、なんで、なんでづくし。

もう嫌だ。

優華ちゃんから、現実から、逃げるために受験した。
なのに優華ちゃんは転校してきてしまった。

結局何の意味もなかった。
一時の時間稼ぎ、一時の安息でしかなかったんだ。


「ったく、また黙っちゃった。なんでそうすぐに黙るの?
 そういうとこ本っ当嫌い。大っ嫌い」


なんで、そんなこと平然と言える人間になっちゃったの?
なんで、そんな風に擦れた人間になっちゃったの?
なんで、そんな苦しい言葉を笑顔で言える人間になっちゃったの?


私はまだ優華ちゃんが、大好きなのに。

32:陽実 ◆NLsI:2013/03/17(日) 13:46 ID:Ewo

無駄レスすいません。

http://ha10.net/test/read.cgi/frt/1363081676/l50
前にも貼りましたが、投票受け付けています。
是非清き一票w(蹴


そして、遅くなりましたが祝30です!!
これは読者様の書き込みを禁止しているので、進みがくそ遅いと思います、はい。←
でも、始めてから約二週間で30レスまで到達、することができました。
それもこれも、ルールを守り、交流のスレッドやフリートークのスレッドに書き込みして下さった
優しい言葉をかけてくださった、書き続けるための気力を下さった読者様のおかげです。

これからも相変わらず書き込みは禁止いたします。
それにタイトルからして恋愛なのにいじめに転がり込んでいて読む気力せると思います。
それでも読んでくださる方、そんな優しい読者様。
これからもどうぞよろしくお願いします。

次このような書き込みをするのは、おそらく祝50の時です。

それまでの約20レス、一生懸命小説を書かせていただきます。

33:陽実 ◆NLsI:2013/03/22(金) 19:16 ID:mn2



ぎしりとベッドが軋む音。
その音と一緒に空気中に放たれる甘い柔軟剤とあったかい太陽の香り。
その香りが薬品の鼻をつく香りと混ざって私の鼻腔を刺激した瞬間、我に返る。


「……ゆ、うかちゃ……、は、まちがってるよ」


「……は?」


とぎれとぎれに私の口から吐き出された言葉。
それに耳を傾ける仕草をする優華ちゃんに、私は久しぶりに大声を出した。


「優華ちゃんは間違ってる!おかしいよ!前はそんなんじゃなかったじゃん!!」


せきを切ったように溢れ出す私の言葉たちに、優華ちゃんは一瞬言葉を失う。
でもものの一秒で我に返ると、即反撃。


「何言ってんの?前とか言われても意味わかんないし。私は元からこうよ。アンタが勘違いしてただけ」


冷たい言葉。
心に突き刺さるかのように、痛いよ。

優華ちゃんの瞳は、前とは全然違う。

前はあったかかった瞳も、今は真っ暗で、真っ黒で、連想させるものは闇しかない。

何があったのか、どうしたらいいのか、私にはさっぱりわからない。
だけど、ひとつだけ分かることがある。

もう、前のようには戻れないってこと。

34:陽実 ◆NLsI:2013/03/23(土) 19:09 ID:oeE







「実花!」

教室に戻ると夏希ちゃんが大きな声を上げて私に走り寄ってきた。
後ろには当然のようにちひろちゃんが控える。

今にも泣き出しそな表情で夏希ちゃんは勢いよく謝る。


「ごめん、ごめんな実花。ビックリしちゃって、動揺しちゃって、助けれんかった。本当にごめん」


今にも土下座しそうな夏希ちゃんに怒れる訳もなく
笑顔で顔を上げさせる私。

夏希ちゃんの横ではちひろちゃんも泣きそうな顔、というか泣いている。
その涙には罪悪感と謝罪の意が込められているような気がして
どうしても二人を責める気にはならなかった。


そんな二人には目もくれず注目を浴びながら堂々と自分の席に戻る影は優華ちゃん。
後ろ姿からでも笑顔を作っていることはわかる。
私は一時期誰よりも優華ちゃんのそばにいた。
だからわかる。わかっているつもりでいた。

だけど、何もわかってなかった。

優華ちゃんがこうなっちゃった理由も、私に当たる理由も。

何もわからない。



「実花、アイツ――大山と何があったの?何話してたの?」


夏希ちゃんが私の方を軽くつかみながら問いかける。
瞬間、優華ちゃんの言葉とその時に見えた白々しい光景が瞼の裏に浮かんだ。




保健室独特の香り。
柔軟剤、薬品、太陽、それに加えて入口付近に行くに連れて香るラベンダー。
いろいろな香りが混ざり合って、およそ体を休める場所とは思えない。
むしろ吐き気がするのは私だけか。

そんな私にとってけしていい環境とは言えない保健室で繰り広げられる舌戦。


「なんで……っ、いつも優しかったじゃん!!」


「ごめん、いつの話?」


「優華ちゃん……!!目ぇ覚ましてよぉ……」


「覚めてますけど」


何を言っても通じない。
それがわかるたびに胸が痛む。

そっか、もういないんだ。
あの頃の優しかった優華ちゃんは、もういないんだ。

そう自分の中で完結させようとする。
完結してしまえば、もう好きでいることはなくなると思うから。
だから……完結してよ。
完結してくれればいい。してほしい。

でも、そう簡単に完結しないのは物語も現実も同じ。

結局私は優華ちゃんが好き。
それは紛れもない事実なんだ。


「――あのさ実花。アンタはわかってないかもしれないけど、私はアンタが嫌いだから。大嫌いだから。
 とことんアンタを苦しめるよ?」


『大嫌いだから』


いつから平然とそんなこと言える人間になっちゃったの?
いつから――


――私のこと嫌いになっちゃったの?

35:陽実 ◆NLsI:2013/03/24(日) 10:34 ID:M2E



脳内に反響する優華ちゃんの声。
脳内の壁という壁にぶつかって、汚い音を発しながら飛び回る。
その感覚は忘れたはずだった。



「……私、ね。優華ちゃんに……大、嫌いって、言われちゃった……」

情けない顔してると思う。
だから、手の甲で目を隠す。

もちろん目を隠そうと情けなく染まった赤い頬や引きつった広角は隠れない。
当然ながら夏希ちゃんにはそんな表情がバレていて。


「バカ、一人で我慢するなって言ったじゃんか」


ギュッと私を抱きしめる夏希ちゃんの腕。

あったかい。
夏希ちゃんの気持ちがあったかいよ。

思わず瞼を閉じてしまうと、こらえていたはずの涙があっけなくこぼれ落ちる。


――夏希ちゃん、大好き。


心の中に浮かんだこの気持ちは、変わらないと思った。

36:羽実(陽実) ◆NLsI:2013/03/24(日) 10:58 ID:M2E







異変が訪れたのはその三日後。
三日間、優華ちゃんは何もしてこなかった。
……いや、裏では動いてたのかもしれないけど。
とりあえず目に見える何かをしてくることはなかった。

だから、“それ”は前触れもなく突然訪れた。



ガラリという音を立てる立て付けの悪い引き戸。
その瞬間、異変を察知する。

夏希ちゃんとちひろちゃんが、私のところに来ない。

いつもなら、扉があいて私の顔が覗いた瞬間走り寄ってくる二人が。
私のところに、来ない。


びっくりすると同時に、胸が締め付けられる。
小学校の時が帰ってきたような、そんな感覚。


もちろん何が起こったのかはすぐに察した。

優華ちゃんだ。
優華ちゃんが手を回したに違いない。

やっぱり、っていう気持ちもあった。
優華ちゃんはこういう卑怯な方法を使ってくると思ってたから。
でも悲しい。
すごく辛い。

ずっと隣にいてくれると思った二人までもが離れていってしまうなんて。
向こう側についてしまうなんて。


突き刺さるような視線。
蔑むような含み笑い。

小学校の完全再現みたいなワンパターンないじめ。
でもそれは私に一番効くのがこういう陰湿なものだってわかってるからかな。


肌に感じる痛い視線と心に刺さる笑い声を振り切るように頭を振ると
みんなの注目を浴びながら自分の席に向かう。

私が席に座った瞬間のタイミングを見計らうように
私の目の前に落とされる黒い影。



「あっれぇ?自慢のお友達はどうしたの?……あ、もしかして嫌われちゃった?」

甲高く、耳について、それでいて耳障り。
この声の持ち主は私の知る限り一人しかいない。


「……優華ちゃん」


顔を上げなくても誰かわかったけど
一応確認するように顔を上げてみる。

そこには予想したとおり、形のいい唇を歪めた優華ちゃんがいた。

37:陽実 ◆NLsI:2013/03/26(火) 19:26 ID:e82



「優華……ちゃん、」


何か言いたい。
何か、言い返したい。

でも、言葉につまる。

何かをめちゃくちゃに言えば優華ちゃんの話術を封じることはできるけど
それは結局何倍、何十倍にもなって返ってくる。

経験しているんだから、そう簡単に動いちゃいけないことを知ってる。

だから黙る。でも黙れば……。


「なんでそう簡単に黙っちゃうの。変わんないままだね、実花は。
 弱くて、小さくて、まるで小動物みたい。ほかの動物に食べられておしまい、みたいな」


優華ちゃんの容赦ない罵詈雑言がとんでくる。

なんでわかってるのに、同じこと繰り返しちゃうんだろう。
わけわかんない。
自分が、わからない。


うつむいて、震えることしかできない。

そんな私を見て、優華ちゃんは満足そうな笑みを見せる。
まるで周りの空気が凍りついてしまうような、そんな笑みを。

周りの人達は優華ちゃんを取り巻くように優華ちゃんの後ろに控える。
ただししっかりと蔑むような笑顔を浮かべて。


それでも、周りがみんな敵でも。
夏希ちゃんとちひろちゃんを探してしまうのは何故だろう。

38:陽実 ◆NLsI:2013/03/26(火) 23:36 ID:e82



優華ちゃんの冷たい視線が絶え間なく注がれる中
首をそっと回して周りを見渡してみる。

もちろん、そこまで広くない教室はすぐに見渡せて。
つまりすぐに二人を見つけてしまった。


もしかしたら、
ふたりは助けてくれるかもしれない。
ふたりは守ってくれるかもしれない。
ふたりはみんなとは違うかもしれない。

そんな期待を捨ててなかった。
捨てられていなかった。

ふたりが好きだから、大好きだから。
そんな期待をしていた。


もちろん、そんなの所詮期待。
事実は期待していたものとは大幅に、百八十度違った。

首を回したことを後悔するような、そんな光景。

夏希ちゃんとちひろちゃんはすぐに見つかったけれど、ふたりの顔は私の知ってるふたりじゃなかった。
私をにらみ、私を憎んでいるような表情。

――あぁ、もうダメかな。

もうふたりとは戻れない。
もう二人とは友達でいられない。

そう思ってしまうくらいの表情だった。


「……あぁ、夏希とちひろを探してる?」

突然聞こえたその声の中に含まれた名前に、思わずびくりと反応する体。

そっと顔を上げれば、さっきとなんら変わらない表情の優華ちゃん。


「なん、で……?」


「表情見りゃわかるよ。はは、まだ信じてるとか馬鹿みたいってか馬鹿でしょ」

笑いながらそういう優華ちゃんの後ろに、昔の面影を探す私がいた。

39:陽実 ◆NLsI:2013/03/27(水) 12:03 ID:xgc



もちろん面影を探そうと面影を望もうと、
結局そんなものは今の優華ちゃんにあるはずなくて。
それでも探そうとする私がいる。

そんな自分にそろそろ嫌気が差してこないといえば嘘になる。


「まぁいいや。夏希ー、ちひろー」

私の脳が昔の優華ちゃんを探しているあいだに、優華ちゃん本人は夏希ちゃんとちひろちゃんの二人を呼ぶ。
その声が教室内に響いてから数秒後、ふたりはこっちに向かって歩いていくる。

「ふたりに直接聞けば?あー、ここまでしてもらって聞けないとか言うんじゃ、本当にクズだよ?」

ちょうどその時優華ちゃんの後ろにたどり着いたふたりに場所を譲る優華ちゃん。
つまりふたりが私の席の前に立つ形になる。

いつもの位置関係なのに、いつもの何倍も恐怖が膨れ上がっていた。


「……なにか用?」

先に口を開いたのは夏希ちゃん。
いつものように強気な口調で、でもそれは私に向けられたことのない口調で。
すでに涙腺がゆがみそうになる。

それでも涙を飲み込んで、口を開く。


「なんで……、うらぎ、ったの?」

うつむき気味だからふたりの表情は見えない。
でも自分の表情はわかる。
“裏切った”という言葉が自分の口から出た瞬間、視界に映っていた机がぐにゃりとゆがんだ。
泣いている、ということがわかる。
実際手の甲で目の端を拭ってみると、冷たい水の感触。

そんな私なんて気にする様子もなく、夏希ちゃんの強気な声が私の耳を通り抜けた。


「はぁ?裏切ったのはアンタでしょ?」


夏希ちゃんの言葉を聞いた瞬間、ゆがんでいてもまだ存在した視界が真っ暗になった。


――裏切ったのは、私?

40:陽実 ◆NLsI:2013/03/27(水) 18:32 ID:UIo



「ちょ、っとまって、どういうこと……」

パッと顔を上げれば、怒ったような表情の夏希ちゃん。
さっきから流れている涙は止まっていなくて、顔を上げた私の頬を流れる。
その涙の冷たさと、胸の痛みに、これは夢ではないと思い知らされる。

「アンタ、表では私らと仲良くしてたけど裏では悪口言ってたんでしょ?みんなから聞いたよ」


わけ、わからない。

私は夏希ちゃんたちの悪口なんて言ったことない。
なのに、なんで――……


そんなに思考しなくてもすぐに答えは見つかった。

やっぱり優華ちゃんだ。
優華ちゃんがクラス獣を取り込んで、夏希ちゃんたちも引っ張り込んだ。

私の心を壊すには、ふたりと離すのが一番効果的だと踏んで。

そしてその読みは言わずもがな的中している。
私はふたりが離れていくこと以上に、今辛いことはない。

相変わらず頭がいい。
私の周りを崩して、引き入れて、飲み込んで、私を壊す。
それが私に一番効果があるとわかってるんだから。


「私は、」

「言い訳なんて聞きたくないから。ちひろ、行こ」


“裏切ってなんかない”

その言葉はいとも簡単に遮られた。

来ただけで何も喋っていないちひろちゃんを連れて夏希ちゃんは私に背中を向ける。
そしてふたりと入れ替わるように優華ちゃんが私の前に姿を見せた。

「わかった?なんで夏希とちひろがこっちについたのか」


にやりと口角をゆがめる優華ちゃんの表情に寒気を覚える。

ぐにゃりとゆがむ視界。
頭の中を何かが駆け巡るように、激しい頭痛。

耐え切れずそのまま意識を失ってしまった。

41:陽実 ◆NLsI:2013/03/27(水) 19:49 ID:UIo







「――……ん」

うっすらと瞼を開く。
最初はぼやーっとしていた視界も、だんだんはっきりしてくる。

白い天井、薬品の香り、甘い柔軟剤の香り、それに混ざる太陽の香り。
記憶に新しいこの場所は……――


「……保健、室?」


背中に当たる感触は、間違いなくベッドの柔らかいマットレス。
漂う香りは保健室独特の香り。

なんで?

私はさっきまで、教室にいたはず。
なんで、保健室にいるんだろう……。


「痛っ」

体を起こそうとすると同時に頭に走る激しい痛み。
その痛みを引き金とするように、忘れかけていたさっきの状態が脳裏に蘇る。

優華ちゃんが手を回して、夏希ちゃんとちひろちゃんを引き入れたこと。
そのせいでふたりが私を信頼しなくなったこと。
優華ちゃんの表情を見て、意識を失ったこと。
それで誰かが保健室に運んでくれたんだろう。

そこまで脳が思考したとき
存在を認識していなかった影が動いた。


「目、覚めた?」

その声が、私に向けられたものだと理解するには時間がかかった。

でも理解してしまえば、また脳は動きを開始する。
聞いたことのある声。
低く染まりきっていなくて、それでも芯の通った声。

入学式直後の自己紹介で聞いたきり、ほとんど聞くことのなかったあの声だ。


「……宮本、君?」



声の主は、宮本 永君だった。

42:陽実 ◆NLsI:2013/03/28(木) 10:42 ID:bLk



ただし今は声の主の姿を確認することはできない。
ぼんやりと、カーテンの向こうに影が見えるだけ。
その影からは相手が男の子だってことくらいしかわからない。
それでも、頭の中に残る印象の強いあの声の主を間違えるはずがない。

私の口が、“宮本君”という形に動き、
それに伴った声を発した数秒後。
閉められていたクリーム色のカーテンがシャッというかわいた音を立てて開いた。


「大丈夫?熱あったりしない?」

そう言いながら私の額に手を当てる宮本君。
あったかくて、私よりも一回り、二回りも大きい手が額に触れる。
手の主を探せば、息を呑むような美少年。
この状況で赤面しない女子がいるのなら、会ってみたい。

もちろん私は平均的な女子と同じく顔は真っ赤に染まっている。
熱いし、赤いし、恥ずかしいし。
頬に手を当てて軽く下を向いた。

そんな私を見て宮本君は熱があると勘違いしたらしく、体温計を取りに私に背を向ける。

……背中も、男の子だ。

触らなくてもわかる細身なのに筋肉質な背中。
歩くたびにサラリと揺れる黒髪。

ずるいよね。

こんな状況でも見とれてしまう容姿なんて。



「ん、熱計って」

そう言って差し出された体温計。
思考にふけっていた私は体をびくりと震わせてしまった。

そんな私を見てふっと笑う彼、宮本君。



その笑顔を見た瞬間、恋に落ちる音が私の中に響いたんだ。

43:陽実 ◆NLsI:2013/04/01(月) 20:48 ID:VTY



それは突然で、でも必然で、恋することが決まっていたかのように。
静かに、自然に恋をしてしまった。

クラスメイトがクラスメイトに優しくしただけ。
それだけにドキドキしてしまうなんて……。


「あ、ありが、とう」

急に訪れた恋心。
自覚した途端に緊張するのは人間の性。
仕方がないとわかっていても、ドキドキする心臓を抑えようとするのも性なのかもしれない。

差し出された体温計を受け取ると、電源をつけて脇に挟む。
一連の動作にも緊張が現れて、ぎこちないと思う。

熱はないと自分では思うけど、それでも引かない顔の熱。


ピピピッという小さめな機械音。
静かを通り越しているほどの静けさの保健室には嫌に大きく響く。
取り出して液晶の表示画面を見ると「36.7」。

「三十六度……七分」

ぼそっつぶやく。
その声に顔をしかめて宮本君が私の手から体温計を奪い取る。
瞬間、かすかに触れる手と手。

「……っ!」

きっと彼にとってはなんでもないこと。
ただ、手が触れただけのこと。

それだけのこと。

それだけのこと、のはずなのに。
きっと今までだったら気にもしなかったはずなのに。

気にするどころか、真っ赤になってる手。

恥ずか、しい。

そんな私には気づかない様子で体温計の液晶表示画面を見つめる宮本君。
……横顔も、格好いい。

44:陽実 ◆NLsI:2013/04/02(火) 12:45 ID:Gd6



「うん、ホントに熱ないな。でも体調悪いみたいだからちょっと休んでろ」

そう言うと宮本君は体温計をケースに入れながらワゴンに向かっていく。
……そういえば。
保健の先生はいない。

だから二人きり……なんだけど。



「……あ、ねぇ、宮本く」


「永でいいよ、なんか宮本って呼ばれんの好きじゃないし」


“宮本君”と言おうとした声を遮って飛んでくる宮本君の声。
聞こうとしたことの返事とは違うけど、嬉しい返事が返ってくる。
でもそう簡単には呼べない。
……気がする。


それから数分が経過した。
“永君”と呼ぼうとするだけなのに、口がうまく動かず未だ無言。
というか、呼び名が違うっていうだけで恥ずかしくて顔すら上げられない。
そんな私を見かねたのか、すでにワゴンに体温計を戻して代わりに氷枕を持ってきていた宮本君が口を開いた。


「別に無理しなくてもいいからな?別に苗字呼びでもいいし。でも気が向いたら呼んでみて」

無理はしてない、つもり。
でも無理してるように映ったかな。

むしろ名前で読んでいいって言われたことが、少し近づいたみたいで嬉しかった。
嬉しいけど、恥ずかしいから呼べない。
なんだろう、このジレンマみたいな気持ちは。

嬉しいし、呼びたい。名前で呼びたい。
だけどそれがすごく恥ずかしくて、呼べない。

別に付き合ってるわけでもないし、相思相愛なわけじゃない。
ただクラスメイトに苗字呼びが嫌だからっていう理由で名前で呼んでほしいって言ってるだけ。

それだけ。
それだけだけど、それだけだとしても、私は嬉しい。


「……ううん、頑張る、頑張って呼んでみる」

決意をあらわにした言葉を発すれば、静かな保健室に響く空気のような小さな笑い声。
何が笑われたのか分からずにポカンとした間抜けな表情をキープ。
それを見た宮本君からもれる更に少し大きな笑い声。


「ちょ、なにを頑張るんだよ……っ、いかん、ツボった」

笑い声に混ぜられて発せられるその言葉。
そんな宮本君を見て私の胸はおかしくなったかのようにばくんばくん音を立てて動き回る。
格好いいし、可愛い一面もある。
あぁ、さっき自覚したばかりのはずの感情が、どんどん膨れ上がっていく。

45:陽実 ◆NLsI:2013/04/03(水) 13:48 ID:0H2



それと同時に“笑われた”、という羞恥に近い感情も込上がる。
でもそれはいつもの――優華ちゃんたちに笑われた時とは程遠い感情。
いつも笑われた時に感じるのは居心地の悪い羞恥だけど、今のそれは違う。

恥ずかしいけど、ドキドキする。
恥ずかしいのに、ここにまだいたいって思う。

そんな感情。


それでも恥ずかしさと頬を染める赤さには勝てない。
とりあえず緊急避難として布団の中に潜り込む。
白い布団がぽっこり盛り上がる形になる。
そんな布団の膨らみに向けて発せられる声。

「笑ってごめんな。気分悪いよな」

そんなことない。
確かに恥ずかしいけど、気分が悪くないといえば嘘になるけど。
別に謝るほどじゃないよ。

そう言えたらいいのに、弱虫な私は心の中で否定してつぶやくことしかできないんだ。




「……いつも助けられなくてごめん」


「……え?」


気持ちが別のところに行っている時に急にほかの話に引き戻されるとどんな気分か。
とりあえず気持ちがついていかなくて数秒間思考停止することがわかった。

そして何に対して謝られているのかを理解するのにもさらに時間を要した。


「……大山たちにいじめられてるだろ。助けらんなくて、ごめん」


布団の中は薄暗い。
暗くて、わずかに光が差し込むだけ。
そんな空間の中で、私の頬に涙が流れる。

ひっく、という嗚咽が漏れ、顔の下にあったシーツを濡らす。

それは小さな音で、外にいる宮本君には聞こえてないはず。
だからこそ宮本君は言葉を紡ぎ続ける。


「本当は助けたい。……今まで助けられなくて本当にごめん。これからは助けるから。ごめん、本当ごめん」


こんな誠実で優しい人だから、恋に落ちた。

恋に落ちた理由が明確になれば、迷うことなく恋することができるんだ。


初めてわかった。

46:陽実 ◆NLsI:2013/04/03(水) 20:57 ID:0H2







宮本君が「少し休んでてたほうがいいよ。また来るから」と言って保健室を出て行ってから早数分が立つ。
ひとりきりになった保健室はなんとなくさみしげな空気が漂っている。
その中の白いベッドに座り込む私。

教室には戻りたくない。
みんなの痛い視線を浴びたくない。
蔑む笑いを聞きたくない。

行かなきゃいけないことくらいわかってる。
それでも本能的に足は動かない。

はぁ、というため息が口から吐き出されれば空中で虚しく消える。
このため息には何の意味が込めたれているのか自分でもわからない。
コロンっとベッドに寝転がると鼻を幾度となく通り抜けた柔軟剤の香りがふわりと広がった。



「――っ、ひ……っく……」

突然あふれ出した涙。
自分でもなんで急に溢れたのかはわからない。
それでも何か意味のある涙のような気がした。

まだ長袖の制服は、私の体温であったまった布団にはミスマッチ。
余計暖かく、むしろ暑さが感じられる。
でも今はそれを気にしている暇はない。
袖で覆われた腕をそっと両目にかぶせるとすぐに袖が濡れる。
そんな涙はかれることなく流れ続けた。

もちろん漫画のようにここで誰かが入ってきてハンカチを差し出すなんてことはない。
さっき「また来る」と言って出て行った宮本君がこんなに早く戻ってくるはずもない。

一人で泣き続けてまた数分。
涙も枯れ始めて袖もびしょびしょになってしまった。

もう一度、さっきよりも深いため息をつく。
瞬間、来て欲しかった時に来なかった来客が保健室の扉を開いた。

47:陽実 ◆NLsI:2013/04/04(木) 08:26 ID:56E



もちろん入ってきたのは期待した人物でも、
もしかしてみたいな思いを持ってた人物でもなくて、この教室、保健室の本来の住人。

“その人”は、
あまり生地の厚くない白いブラウスの大胆に胸元をはだけさせ、
脚のラインをくっきりと演出する黒いミニ丈のタイトスカートをしっかりと着こなし、
自信の塊であろう長く美しい脚線美を引き立てる黒いストッキング、
小さめの女性らしい足には清純を思わせる白いサンダルが突っかけられ、
すべてを統一するかのようにきちんとアイロンのかけられているであろうぴっしりとした白衣を羽織る美女。

白衣の妖天使。
呼び名、通り名をつけるとしたらその言葉が一番しっくりくるであろう筋の通った妖艶な美人。

先程まで美男子に見惚れ、次は美女に見惚れる。
赤く染まったり赤く染まったり忙しい頬だ。
……つまるところ終始赤くしかなっていないわけだけれど。

入口からベッドまでは大した距離はない。
そのおかげでコンマ数秒、保健室に入ったきた人影はすぐに私の存在に気づいた。



「……ん、あれ。保健室に人がいるなんて珍しいな。誰だ?」

見た目は女性を強調しているにもかかわらず、口調はどちらかというと男性的。
それでいて声は凛としていて格好いい。
美しさと気迫に押され口を開けないでいればカツンという足音が近づく。


「おーい、聞こえなかったか?」

足音と同時に近づく凛とした声が耳に響く。
例えるとしたら……なんだろう、芯の通った、信念を持った声。
格好いいなぁ。


「……ちょっと、おーい、無視かい?おーい……」

どうも私は突然聞こえてきた声に対して返答するよりも先に思考にふける癖がある、らしい。
今回もそのくせが災いして答えるよりも先に思考にふけってしまっていた。


「あ、十六の咲原です……」

消え入りそうな声でそう答えると、何がおかしいのか大口開けて笑い出す先生。


「はははっ、咲原、ね。覚えとくよ。あたしは冬月 雪季(ふゆつき ゆき)。見りゃわかると思うけど、養護教諭」

まずなんで笑われているのかわからないから対応のしようがない。
とりあえず当たり障りのない返事である「あ、はい」と呪文のように唱えておく。

48:陽実 ◆NLsI:2013/04/04(木) 08:38 ID:56E

>>47に補足。

“その人”は、
あまり生地の厚くない白いブラウスの大胆に胸元をはだけさせ、
脚のラインをくっきりと演出する黒いミニ丈のタイトスカートをしっかりと着こなし、
自信の塊であろう長く美しい脚線美を引き立てる黒いストッキング、
小さめの女性らしい足には清純を思わせる白いサンダルが突っかけられ、
すべてを統一するかのようにきちんとアイロンのかけられているであろうぴっしりとした白衣を羽織る美女。




“その人”は、
くるりと巻かれたハニーブラウンのセミロングの髪の毛をふわりと風に舞わせている。
さらにあまり生地の厚くない白いブラウスの大胆に胸元をはだけさせ、
脚のラインをくっきりと演出する黒いミニ丈のタイトスカートをしっかりと着こなし、
自信の塊であろう長く美しい脚線美を引き立てる黒いストッキング、
小さめの女性らしい足には清純を思わせる白いサンダルが突っかけられ、
すべてを統一するかのようにきちんとアイロンのかけられているであろうぴっしりとした白衣を羽織る美女。


に直して読んでください。

49:陽実 ◆NLsI:2013/04/06(土) 21:52 ID:3O6



「……で?なんでアンタはここにいんの?」

しっかりとメイクの施されている、白くて綺麗な顔が私の顔に近づく。
瞬間漂う甘酸っぱい香水の香り。
鼻腔をくすぐるとふんわりと通り過ぎていった。


「あ、えっと、教室で倒れてしまったので……」

そう説明をすると自分で聞いておきながら「ふーん」という興味のなさそうな声を花から発する先生。
ツッコミどころはたくさんあるけど今はそこは見ないふり。

そこで会話は終了。
先生は白衣のサイドにあるポケットに両手をそれぞれ突っ込んで、
教師用の机に向かって歩く。
もちろん目的は机ではなくて、その机に隠れるようにして置かれている座り心地の良さそうな椅子。

椅子に体を沈めるぎしっという音が私の耳にも届いた。
そのまま書類整理をはじめる先生を横目に、私は冷たいままの氷枕に頭を埋める。

ふと目を閉じると、私の意識は薄れていった――




――目を開けると、そこは保健室。
場所は変わっていないはずなのに、差し込む光の色が違っているだけで場所すらも変わって見える。
明るい茜色の光が柔らかく部屋の内部を照らし出す。

目を閉じる寸前まで横目に写っていた冬月先生の姿を探すも既にそこには先生はいない。
代わりに、すぐ近くで人の気配。
ベッドの足元、ここからの死角。
その場所に、人の気配。

頭は冷やされたおかげで先程までの痛みは消えかけている。
なんの躊躇いもなく顔を上げ、体を起こした。

50:陽実 ◆NLsI:2013/04/06(土) 22:02 ID:3O6


祝・50です!!

思えば20レス進むのにも三週間……。
流石に遅すぎますね、はい。
これからはもっと頻繁に更新したいと思います!!


さて。
いい機会ですので余談を((しませんけど。

私も今年、中学二年生になりました。
相変わらずのほほーんとしていますけど。
来年は受験生ですね。
来年は今のように気軽にここに来たり、更新することが難しくなります。
そうなる前にこの作品を完結させたいと思っています。

今のこの作品は
咲原 実花、大山 優華、宮本 永、岡田 夏希、柚木 ちひろ。
この五人の関係でもっています。

今でも既に複雑極まるのに、これからまた複雑味をます、と思われます。

泣けるような素晴らしい小説は書けませんが、
“今の自分”の精一杯を出し切りたいと思います。


これからも変わらずここへの書き込みは禁止します。
読んでくださっている読者様に失礼極まりないことは分かっています。
それでも、雑談をここでしていると
不愉快になる方もいますし、何より荒らしなどがあった場合にみなさんの書き込みで荒れてしまいます。
そういうのを防ぐためにご協力お願いします。

51:陽実 ◆NLsI:2013/04/12(金) 18:47 ID:ZFg



刹那、身体が凍る。
凍ったように、動かなくなる。

そして相手が私に気づいていないのをいいことにもう一度頭を枕に沈め、
とりあえず動揺を押さえつけた。


――なんで、いるの?

私の頭を混乱させたのは、
私の身体を凍らせたのは、
いるかもしれないとは予想してたけど、実際にはいないと思っていた彼。

宮本君。

瞬時に乱れた髪をなおし、深呼吸する。
ドキドキと高鳴る胸が、痛い。


そっと顔を上げれば、宮本君の愛しい横顔が瞳に映る。
彼の横顔を盗み見れると、スースーと小さく寝息を立てている宮本君。
少しの安堵と、少しのがっかりに似た感情が交差した。


もう少しだけ、この時間が続けばいいな。

52:陽実 ◆NLsI:2013/04/13(土) 22:11 ID:raM



でも無情な時間はそんな気持ちを気にせずに過ぎていく。
愛しい横顔を見つめる時間も、もちろん終わりを告げる。


「――……ん」

宮本君の血色のいい唇から声が漏れた。
吐息とも呼べるような、小さな声が。
それに反応して、顔をパッと布団に潜り込ませる。
瞬間、宮本君の顔も持ち上がる。
例えるなら私の顔と、宮本君の顔の位置が反転した感じ。

その位置関係になって数分。
一言も言葉が交わされない保健室は静かでさみしささえ感じられる。
私が眠っていると思っているからか、彼は一言も言葉を発しない。
それはそれで彼の優しさの結晶なんだよね。


小さな声すらも発さずに、顔を少し上げる。
ぎしっ音を立てて軋むベッド。
その音を聞いてか宮本君の顔がこちらに向けられる。


バチッと音が聞こえるかのようにぴったりと合わさる視線。
ボンッと赤くなる頬。
とくんと音を立てる鼓動。

そらしたい。
恥ずかしいから、そらしたい。
そらしたいのに、そらしたくない。
バッチリあった視線をそらしたくない。


心の中に生まれた矛盾。

これだけの矛盾が、きっと恋なんだと思う。



ふっと微笑む笑顔を見ただけで
泣きたくなるほどに嬉しい。

53:陽実 ◆NLsI:2013/04/15(月) 00:29 ID:XiE



「……おはよ、実花」

ふっと宮本君は微笑む。
天使の微笑とも呼べる。絶対呼べる。
この世のものではないくらいに、綺麗な笑顔で……って、え?


「……え、名、前……?」

そう、今宮本君は私のことを“実花”と呼んだ。
名前で、呼んだ。
苗字で呼んでたはずじゃ……。
……そういえば、苗字で呼ばれた記憶もない。

突然、名前で呼ばれたから困惑したけど
思えば話すのもほぼ初めてだったわけだし。
名前で呼ばれてようが、苗字で呼ばれてようが、正解があるわけでもないし。


それに、名前で呼んでくれるの……普通に、嬉しいし。



「あー、ごめん。嫌だった?俺は名前で呼んでって言ってるのに、俺が苗字呼びって変かなって思って」

照れ笑いのような、
さっきの微笑みとはまた違った意味合いを持った笑みを向けながら説明する宮本君。

……嫌なわけ、ないじゃん。

好きな人に名前で呼ばれることが、こんなに嬉しいなんて。
初めて知ったよ。


とはもちろん言えなくて。
「別に嫌じゃないよ」と小さく答えるだけが精一杯。

それが、私の精一杯。

「そっか、よかった」っていう君の返答に、
「嫌なわけないじゃん」って言えなかったのはすごく残念だけど。

ぎこちなくても君と笑えてるこの時間が、私は嬉しい。


「……宮本く、……はる、か……君」

宮本君……、が名前で呼んでくれたんだから、
私も名前で呼ぼうとした。

呼ぼうとしたけど、あっけなく失敗。
噛みまくるし、恥ずかしいし、穴があったら入りたい。

きっと、さっきからずっと上昇中の体温はマックスに達している。
顔はもちろん、耳や体中に熱さが広がっていく。
つまり、真っ赤。

熟れたトマトみたいに赤くなった私を見て、彼は笑う。
無邪気に、笑う。


「お前、真っ赤。ほんと可愛いな、はははっ」


その言葉に、
マックスだと思っていた体温はさらに急上昇。
熟れたトマト以上に真っ赤になった顔はなんて表現すればいい?

54:陽実 ◆NLsI:2013/04/15(月) 11:19 ID:zWg



「か、可愛く……ないっ」

口では否定するけど、
可愛いって言われたことが嬉しくて。

なんだろう、体温がすごく上がっていくんだ。

体は熱いし、汗ばむし、心臓ドキドキうるさいし。


「いや、俺的には可愛いと思うよ」

“可愛い”なんて言葉で、体温操作の主導権を奪われる。
格好よくて、その上可愛い笑顔は体中から冷たさを奪う。

「そんなことない」と否定するのが精一杯。
それすらも否定されれば、もう返す言葉がなく黙り込む重い沈黙。
辛い沈黙が痛すぎて、ベッドの端から足をおろす。
冷たい床の感触が白いソックス越しに伝わった。
一瞬足を引っ込めると、きちんと揃えて置かれていたスリッパに足を通す。

それを流れる光景のようにぼーっと見ていた宮本君は、
瞬間バランスを崩した私を抱きとめる。
背中と頭に宮本君の手が回り、制服の胸元に顔が押し付けられる。
ほのかに香るナチュラルフローラルの香り。

パッと顔を引っ込めると、
またベッドに背中からダイブ。
壁とベッドのあいだはスレスレだから、
そのおかげで壁に後頭部強打するという事件はぎりぎりまぬがれた。


「何やってんだよ、冷や汗かいたわ……」

心の底から、安堵の意味のこもったため息を吐き出す彼。
また迷惑をかけてしまったという罪悪感が私の中に渦巻いた。

55:陽実 ◆NLsI:2013/04/17(水) 17:35 ID:5Ik



「ご、ごめん、迷惑かけて……っ!!」


白いシーツに沈む体を急いで起こすと、さっきと同じような動作を繰り返してスリッパを履く。
さっきの事件?のせいで少しバラバラになっていたから履くのに少し苦労した。

スリッパを履いて、
床に両足で立つとまだ少し立ちくらみがする。
そんな私を心配そうに見つめる宮本君。

そこからの沈黙は、今までのどの沈黙よりも重かった。
宮本君は何も話そうとしないし、
だから私もなにも話せなかった。

立ってから数分後、ようやく沈黙が破られたのは、
空気を読まずに大きく開け放たれた扉のおかげ。

開け放たれた扉からは、随分とエロティックな格好をした妖天使、
つまるところ保健室のマドンナ、冬月先生が入ってきた。


「お、咲原目ぇ覚めたか。体調良くなったらもう帰りなよ、親御さん心配してるだろうから。
 あと宮本は咲原送ってってやりな。倒れた咲原連れてきたのもアンタだし、適任でしょ」

淡々としゃべると自分の定位置であろうあの椅子に座る。
綺麗な顔は無表情でも美しい。
揺れる髪の毛が甘酸っぱいレモンのような香りを振りまく。


……え?
先生の美しさに見とれて、というか見惚れて、言葉の真意を聞き逃すところだった。


“宮本は咲原送ってって”


言葉の意味を理解した途端、恥ずかしくなってくる。
体温がまた上昇して、鼓動も大きく波打つ。
そして、宮本君の「はい」の返事を聞いて、もっと熱くなった。


宮本君と、帰るの?

56:陽実 ◆NLsI:2013/04/26(金) 19:20 ID:8Lk



ぼふんという音が保健室中に響いた。
言わずもがな、私がベッドに腰を落とした音。
音は静かな保健室の中に大きく反射する。
自然と二人の視線がこちらに向けられる。


「……宮本、早く送ってきな。私も親御さんに連絡しとくから」

呆れ返った声を発する先生を見ながら、また宮本君の「はい」の声を聞く。
そしてまた心臓が音を立てて弾かれ出す。


もし、私が宮本君を好きじゃなかったら、
こんなにドキドキすることはなかったんだろうか。
もし、宮本君が私を好きだったら、
こんなに簡単に送ってくれないんだろうか。

そう思うと、急に波打った鼓動が違う意味でのリズムを奏でる。
切なげに、さみしげに鳴り出した。

それでも宮本君の笑顔を見れば少しだけその切なさが収まって、
でもその笑顔がみんなに向けられるものであることを知ってるからまた切なくなる。

もう泣きたくなる。
でも、泣きたくなるほど好き。

自覚したばかりの気持ちは、
刻一刻と膨らんでいく。

57:陽実 ◆NLsI:2013/05/11(土) 12:51 ID:S.E



「ほら、早く準備して。もう外暗いんだからさ」

ニカッと笑う宮本君は、そう言いながら私の腕を引く。
痛すぎない程度に力を込めて。
こういう気遣いの一つ一つが嬉しい。
キュンっと締め付けられる胸を抑えながら、宮本君の力に甘えて立ち上がる。
そしてまだふらつく体を支えてもらいながら、三階にある自分の教室まで向かった。


教室に着くともちろんのことながら無人。
さみしさも感じられるけど、いつもの雰囲気よりは断然マシ。
無造作に開け放たれたままの窓から吹き込んだ風がカーテンを膨らませている。

教室に足を踏み入れて、自分の席まで歩く。
あまり新しくない床が、ギシッと音を立てた。
机から用具を取り出すと、ロッカーまで歩いてスクバを取り出す。
用具をすべて詰め終えて宮本君の方を向くと、宮本君も同じように支度を終えたところだった。

「じゃ、帰ろっか」

にっこり笑ってそういう宮本君に、私も自然と笑顔を向けられた。

58:光希 ◆BAtA:2013/05/23(木) 19:26 ID:6RU

※書き込み禁止と言ったけど、書き込みさせてもらいます…ゴメンね?

あげ↑

59:陽実 ◆NLsI:2013/05/26(日) 11:21 ID:dAE





家に帰ると、親はいなくてガランとしたリビング。
そこには私、と。
ホワイトのソファに腰掛け、物珍しそうに周りを見渡している宮本君がいた。
なぜこうなったか、という発端はほんの数十分前。



「あの、着いた……よ」

宮本君と一緒に歩く時間は異常に短く感じる。
気づけば学校から家までの二十分が既に経っていた。
そして今、白い一軒家、つまり私の家の前に二人で立っている。

「そっか、じゃあ俺帰るわ」

着いた瞬間、帰るなんて寂しすぎる。
そう思った思考が原因か否か、咄嗟に宮本君の服の裾を掴んでしまっていた。
もちろん宮本くんは驚愕の顔。

「……え、なに?」

ふっかけられる疑問符に、平然を装って返答する。

「えっと、送ってくれたお礼に、お茶でも……」



平然は装えなくて、動揺が滲み出ていたけど。
それでも宮本君は持ち前の鈍感さで何も気づかない様子で「じゃあ、もらう」と声に出した。
そして、今に至る。

私はキッチンで紅茶を入れていて、宮本君はリビングの中を興味深そうに見渡す。
なんか新婚みたいでドキドキする心臓。
お湯を沸かして、紅茶のティーパックをガラスポットに入れ、お湯を注ぐ。
即席ストレートティーの出来上がり。
私はストレートティー苦手だけど。

一応宮本君にストレートティーでいいか確認を取る。

「ストレートティーでいい?」

「あ、ミルクティーのほうがいい」


返答が宮本君らしくて笑ってしまいそうになった。

60:陽実 ◆NLsI:2013/05/26(日) 13:00 ID:dAE



そして自分と同じ趣味、甘党なことに少し嬉しさを感じる。
わかった、と返事をしてストレートティーを入れたガラスポットに砂糖を入れる。
蓋をして蒸らしながら砂糖をとかしていく。
ティーカップの中に紅茶を注いで、そこにコーヒーフレッシュを入れてマドラーで混ぜる。
綺麗な薄い茶色になると、受け皿をトレイに乗せてその上にカップを置いて準備完了。
トレイをリビングの机の上に運ぶと、宮本君がこっちをふっと向いた。

「ありがと、いい匂い」

宮本君はははっと笑うと、机の上に置かれたミルクティーを口に運ぶ。
熱いよ、と警告するも時すでに遅し。
あちっと声を上げる宮本君は、言ったら怒られるだろうけど可愛い。


「……なぁ、親御さんは?」

私がキッチンから持ってきたお茶菓子、クッキーをつまみながら
宮本君が相変わらず周りを見渡して問いかける。
さっきから挙動不審だった理由はこれか。


お母さんは今日は昼の仕事だから、帰ってくるのは八時くらい。
お父さんは最近は定時に帰ってくるから帰ってくるのは六時すぎ。

二人共私のために忙しいのはわかってるから、
少し寂しいっていうのは昔から禁句だった。


「仕事だよ。二人共忙しいんだ」

小さく笑いながらそういうけれど、隠しきれない寂しさが滲み出る。
皿からクッキーをつまみとって、口に含む。
甘さが口に広がった。

「……実花さ、寂しい時くらい弱音吐いてもいいんだよ」

「へ?」

突然発せられた言葉。
宮本君は私の顔をしっかりと見据えて、もう一度言葉を口にした。

「寂しい時くらい、弱音吐いてよ」



その声はまるで心に訴えかける手のようで。
触れれば消えてしまいそうに淡いのに、それでも強く訴えかけてきて。
私の心をとかしてくれるようで。

気づいたら、涙が頬を伝っていた。

61:陽実 ◆NLsI:2013/06/12(水) 18:49 ID:aEg



女の子に泣かれるとどうしていいのかわからなくなるのか、
宮本君は明らかに動揺している。
それを横目に、止めようとする涙は止まらなくて。
むしろ余計に流れるのは気のせいか。

「あの、実花?俺なんかまずいこと言った?」

動揺しながらもこちらを気遣ってくれる優しさ。

その優しさが、
私だけに向けられるものだったらよかったのに。


好きになると、欲張りになる。
恋をすると、満足することができなくなる。
愛すると、すべてを投げ出したくなる。

だからこそ怖くて。
近づきすぎたくなくて。
でも遠ざかりたくなくて。

胸がもどかしい痛みを覚えるんだ。

「なんも、ないよ……ごめんね」

涙を拭いながら宮本君を笑顔で見上げる。
……頬がほんのり赤くなっているように見えるのは、希望的観測か。

62:陽実 ◆NLsI:2013/06/17(月) 18:31 ID:xqs



突然、体が温かい温度に包まれる。
ふわりと軽めに香るナチュラルフローラルの香り。
その香りのおかげで、今何が起こっているかを認識できた。


――抱きしめられてる。


ぎゅう、と強く。
隙間もないほどに密着する体。
身長差があるから、私の顔が宮本君の首元に埋まる格好。
そして、宮本君の顔が、私の耳元にある。
吐息が耳にかかるたびに、体が震えるのは人間の性。

「なぁ、実花?」

吐息だけですら震えるために充分すぎる破壊力。
プラス低い声まで加わって、
体の温度は最高潮。
震える体と、上がる温度に体中が違和感を覚えた。

恥ずかしさと緊張で声を発することができない私に、
宮本君は耳元で、小さく、でもはっきりと言葉を発した。

「俺の前だけでも、強がんのやめなよ」

その言葉で、既にゆるくなっていた涙腺が崩壊した。
とどめなく涙が溢れて、止められなかった。

63:ひなの@ ◆NLsI:2013/06/21(金) 18:59 ID:CNE



不意に、好きだと言いたい気持ちが溢れていた。
抱きしめられて、
すごく心に響くこと言われて。
告白したい気持ちがフツフツと湧き上がってしまった。

でも。
言わない。
言えない。

振られるから。
振られたら多分立ち直れないから。

だから、押さえ込んだ。
頑張って飲み込んだ。
好きだっていう言葉を。
好きだっていう気持ちを。
一生懸命、赤く染まる頬を隠しながら押さえ込んだ。


「……ありが、と。
 これから、ちゃんと頼るね」

か細い声でそういえば、即座に「うん」と帰ってくる言葉。

とくんと高鳴る鼓動。
紅色に染まる頬。
しびれていく脳内。


恋は、麻薬だ。

64:ひなの@ ◆NLsI:2013/06/21(金) 19:04 ID:CNE



恋をすると、
その人のことを考えるだけで頭がしびれてしまう。
好きだという気持ちが体を支配してしまう。
体が言う事を聞かなくなってしまう。

それはまるで麻薬のよう。

依存し、
執着し、
しがみつき。
いつの間にか逃げられなくなっている。
恋は、そんな麻薬のようなものだ。

いつの間にか、
彼の瞳に囚われた私の心は逃げられなくなっていた。
それどころか、逃げたくないとすら思っているんだ。




「……そろそろ、帰ったほうがよくない?
 もう七時半だよ」

恥ずかしさに負けて体を浮かせながらそう言うと、
宮本君の目はとたんに部屋の中央、テレビの上にかけられている時計に移動。
そして時間を確認すると「やべぇ」と呟いた。

「……やべー、怒られるわ。つーわけで俺、帰るね」


そう笑う彼の笑顔に名残惜しさを感じてしまうのはいけないことでしょうか。

65:ひなの@ ◆NLsI:2013/06/24(月) 19:16 ID:54o



ふたりだけの空間の終わりはあっけなく到来して
それに悲しさともどかしさを覚える。
切ない空気が体中を取り巻いた数秒後、
突然玄関の扉が開く音がした。

パッと時計を見ると、大きく七時を回った長針。
もう父親が帰ってきてもおかしくない時間だ。
むしろ、遅いくらい。
あからさまにまずい、という顔をする私。
それを見て宮本君は少し焦る。


しかし時間は無情。
スタスタと廊下から響くスリッパの床に打ち付けられる音。
お父さんが歩いてくる。

どうしよう。

そう思った瞬間に、リビングの扉は開け放たれ、

「ただいま」

低く、部屋に響くお父さんの声が耳を通り抜けた。



お父さんは、苦手。
普段、お母さんのことには何も口出ししないくせに
私のことになるといろいろ口出ししてきて。
正直。
放っておいて欲しい年頃の娘としては、
内心穏やかではないのが事実。

私の恋愛のこととかにも色々言ってくる。

『付き合うなら……』
『結婚するなら……』

お父さんの基準で決めないで欲しいと、いつも思う。


きっと
今ここにいる宮本君のことも何か言ってくるに違いない。

66:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/01(月) 20:00 ID:UfA



そう思ったそばから、ほら。
お父さんの厳しい視線が宮本君に注がれる。


「……実花、誰だ?」

しばらく沈黙したあと、お父さんは私に問いかける。
それはそれは、厳しい表情で。


「クラスメイトだよ。今日私が倒れたから送ってくれたの」

そっけなく言えば、お父さんから目をそらす。
その代わりに状況を飲み込めていなさそうな宮本君に視線を移した。
案の定形のいい眉をひそめながら、首をかしげている。
はあ、とため息をつく空気の音。
そのあと、しばしの沈黙。


「あの、俺帰りますね。じゃーな、実花」

沈黙を破ったのは宮本君の声で、
それにたいしてお父さんが何か言う前に私が「うん」と返事する。
それを受けてにっこり笑って部屋から出ていく宮本君。
数秒後、玄関の扉が開いて、そして閉まる音が体を伝って響いた。


「……なんだ、あの軽々しい奴は」

はあとため息をついたお父さんは、
心底面倒そうな声を吐き出した。

67:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/11(木) 16:21 ID:bdU



「おい、実花。お前まさかあの男と付き合ってなどいないだろうな」

宮本君が帰って数秒しか経っていないのに、
簡単に迷惑な言葉を浴びせかけるお父さん。

付き合ってるわけないじゃん。
私の片想いだよ。


そんなこと言えるわけなく。
付き合ってない、と一言返すだけ。

その返事に納得したように、
お父さんはアイロンがかけられた背広を脱ぎながら部屋を出ていった。



心配してくれるのはありがたい。
でも、恋愛には口出さないで欲しい。
誰を好きになろうと、誰と付き合おうと、私の勝手じゃない。
なのに口出してくるのは何か違う。

はあ、と大きなため息を着くと、
七時過ぎな事も有り食事の準備にとりかかった。

今日は昨日の夜から仕込んでおいた大根と肉団子の煮物とサラダと味噌汁。
プラスご飯。

煮物を火にかけているあいだに、味噌汁の味噌をとかし、
サラダに使うレタスと人参とプチトマトを準備。
炊飯器の表示が保温になっていることを確認してドレッシングを作り出す。

お母さんが夜、いないことが多いおかげで
普通の女の子より家事はうまいと思う。

早々に作り終えたドレッシングを脇に置いて、
温め終わった煮物の鍋の火を止めて蓋をしめる。
二人分皿を取り出して、野菜を盛り付ければサラダの完成。
しばらくして煮物の蓋を開けて、皿に盛り付ける。
茶碗にご飯、お椀に味噌汁をよそうとお盆にすべてを載せた。

綺麗にふいた机の上に食事を並べ終わると、
風呂上がりのお父さんがリビングに来る。
冷蔵庫からビールを取り出して椅子に座った。


「いただきます」


この言葉は、多分同じタイミングで世界のどこかでも言われただろう。

68:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/18(木) 18:16 ID:bdU







「――ふぁぁ……、」


ベッドの上で盛大にあくびをする私。
チュンチュンと雀の声がする。
柔らかい日差しが窓から差し込み、朝が来たことを告げた。
部屋の窓にかけられたピンク色のレースカーテンから見える空はもう明るい。
もう一度大きなあくびをすると、ベッドから足をおろした。


朝ごはんは自分で作る。
あまり時間に余裕を持っているわけではないから
シリアルを皿に入れたら牛乳をかけて即興で朝食を作って食べる。
これも好きだけど、たまにはお母さんの作ったものを食べたい、な。
そう思うのはわがままだと思い直して
早々に朝食を食べ終えた。




学校に着くと
まだ少し時間が早いからか人はまばらに散っている。
うちのクラスにも、下駄箱に三人分しか靴がなかった。
名前は確認せずに自分の下駄箱に靴を入れてスリッパを取り出した。
スリッパを履くと、少し冷たい。
朝はまだひんやりしてるなと思い知らされる。





「――だよね、ハハッ」


「う、うんっ」


「でさぁ――」


教室の前に行くと、教室の中から声が聞こえてきた。
それだけなら何ら問題はない。
でも、この声は、優華ちゃんだ。
優華ちゃんと、ちひろちゃんだ。


入りたく、ない。

69:ちあ@ ◆NLsI:2013/08/05(月) 21:21 ID:bdU







とか思っても、
入らないで廊下に佇んでいるわけにはいかない。
そう思ってスクールバッグの持ち手をギュッと握り締める。
そして、扉の取っ手に手をかけた。
震える手をいなすように、ぐっと力を込める。
実際は力を込めるような重量はないため、すぐに開く。
ガラリという威勢のいい音が人のまだ少ない校内に、
一年部の教室が並ぶ三階に響いた。





「――……あ、」



扉が開いた瞬間に、
教室の中にいた優華ちゃんとちひろちゃんの会話がぴったりと止んだ。
もうひとり分の靴があったはずだけれど
今教室にいるのはその二人だけだった。




会話が止んだのはほんの一瞬で、
私の方に視線が注がれたのもほんの一瞬。
優華ちゃんはすぐに笑顔でちひろちゃんに向き直り話を続け、
ちひろちゃんはちひろちゃんで
焦ったような表情と仕草を見せながら優華ちゃんの話を聞きながら相槌を打っている。





「でさ、ちひろ?」



「え、なに……?」



「私ぃ、永君のこと好きなんだよねー」




サラッと衝撃的な言葉を優華ちゃんは吐いた。
それはそれは平然とした笑顔で、
まるでこっちにも笑顔が向けられているような錯覚を起こす笑顔で、
悪魔のように歪んだ笑顔で。
宮本君と少し仲のいい私に忠告するかのように言葉を吐いた。
それを聞いてちひろちゃんもかなりの衝撃を受けている様子。




「そ、なんだぁ……」



ちひろちゃんはかろうじて笑顔で返す。
その表情にはどこか悲しさを隠していた。

70:如月ちあ@ ◆NLsI:2013/08/06(火) 23:23 ID:WRs





祝・70!!


20レス進むのに…よ、4ヶ月?
遅い……ですね。はい。
すいません、学校で学級組織の動きがあってくるのが難しくなってしまって……。
後期ももしかしたら何かやるかもしれないので、
更新率は昔に比べてすごく減ります。


でも更新できるときにはしまくる予定です。
頑張ります。


やっぱり今の自分では、
これよりもっと上のものがかけません。
でも“自分の精一杯”で書ききりたいです。




相も変わらずここへの書き込みは禁止します。
読んでくださっている読者様へ失礼なのは百も承知です。
しかし、
読みにくくなってしまうのだけは嫌なので、
ご協力よろしくお願いします。

71:如月ちあ@ ◆NLsI:2013/08/07(水) 10:10 ID:WRs







もちろんその表情を見て違和感を覚えず、
そして何も気づかないような人は正真正銘ただの馬鹿だろう。
その手のことに鈍感だとよく言われる私でさえ、
ちひろちゃんの言葉と表情に隠された気持ちに気づいたのだから。





ちひろちゃんは、宮本君のことが好きなんだ。
その事実は気づいた瞬間、
私の中で大きく膨張していく。
そして心に大きな躊躇い傷を与えた。
もちろん、宮本君と付き合っているわけでもないのだから
罪悪感なんて感じる必要もなければ
躊躇い傷を抱える必要もない。
それは分かっているのに……
優華ちゃんが発した「永君が好き」発言よりも大きなダメージが
ちひろちゃんの表情から私に飛んできた気がした。





「応援してよ、ちひろぉ」





猫なで声を出す優華ちゃんにちひろちゃんは困惑しながらも
「うん」と答える。
その表情は、その顔は、
静かに青ざめていっていた。

72:ちあ@ ◆NLsI:2013/08/10(土) 23:15 ID:WRs







そして優華ちゃんはその事実に気づいているに違いない。
だからこそあんなに笑顔を作れているのだろう。
気づいていないフリをしながら、
私と同じようにちひろちゃんをも壊そうとしているんだ。
仲がいいフリをしながら、
静かにちひろちゃんの心を壊そうとしているんだ。





許せない。
もちろん私をいじめていることも、
私を苦しめていることも当然許せないことなんだけど
それ以上にちひろちゃんを苦しめていることが許せない。
私だけならともかく
あんな純粋で優しい、とても素敵な女の子を壊そうとしていることが。
絶対に許せなくて。
私の中で優華ちゃんへの憎悪がむくむくと膨らんでいった。






「……あ、そうだぁ、実花も協力してくれるよね?」





自分の席で静かに支度をしていた私に突如投げかけられた言葉。
その言葉にびくりと体は拒絶反応を示した。

73:如月ちあ@ ◆NLsI:2013/08/13(火) 17:51 ID:WRs







「……え、」






「だから、実花も協力してくれるでしょ?って言ったの。聞こえなかったの?」





今、きっと私の顔はひどく歪んでいる。
辛そうな顔をしているはず。
だから、
優華ちゃんの顔も違う意味で歪んでいる。
それはまるで醜い悪魔みたいに。
綺麗な顔が台無しなほどに、にやけている。






もっと強い人だったら。
夏希ちゃんみたいに強い人だったら。
ここで優華ちゃんを突っぱねられる。
「無理」って言える。
「ちひろも行こ」って、ちひろちゃんも助けられる。
でも、でも私は……。





「うん、協力……する、よ」





私は弱い。
優華ちゃんに逆らうことができなかった。
私がそう言うと優華ちゃんは不気味に歪んでいた顔を可愛く変えて
「ありがとうっ」と声を出した。


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