みぞれ道中

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1:シズヤ ◆BBs.:2013/05/04(土) 08:00 ID:GvM

この世界は跋扈する『妖怪』の所為で統率を失い、幾千万の『里』と呼ばれる国家が散在している。
そして里の1つ1つに特徴があり、価値観、文化、里の民もそれぞれ大きく異なっていた……

2:シズヤ ◆BBs.:2013/05/04(土) 08:19 ID:GvM

第壱話【環の里】

年季が入った木造の家と、そこに住む父親と娘の親子を十数人の集団が取り囲んでいた。
集団の人々が共通して着ている碧色の羽織には、『環境委員会』と刺繍が施されている。

「環境委員会 戒律第二条に基づき、貴方を本部へ連行します」

環境委員会という集団のリーダーらしき白いハチマキをした初老の男が淡々と言い放つ。
すると父親に引っ付いて怯えていた10代半ばの娘は集団の1人に引き剥がされ、父親は手錠を掛けられた。

「お父さん……」

娘は地に膝をつけて今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
それに対し、父親はぎこちない笑顔を見せて「元気でやるんだぞ」と白い歯を見せるも口許が微かに震えていた。
そしてそれを察したのか遂には娘が泣き崩れてしまう。

「お父さん……い、行かないで………お願い…」

激しい嗚咽が混じった声で嘆願する我が娘の姿に耐えきれなくなった様子で、父親も背中を向けたまま肩を震わせた。
環境委員会の人々に連れて行かれてどんどん父親が遠ざかってゆくにつれ、娘の泣き声は大きくなっていく。

3:シズヤ ◆BBs.:2013/05/04(土) 16:45 ID:GvM


「絵子ちゃん、だったね?」

父親の影が近隣の森に消えた時、涙を服の袖で拭いている娘の「絵子」の横には、気づけば白ハチマキの男が座り込んでいた。
絵子は口を固く結んで、白ハチマキの男をただ睨む。
自分の父親を連れて行った男に口をききたくないのだろう。
しかし白ハチマキの男は絵子を逆撫でしようとしていた。

「なに、泣く必要はない。君の父親はロクでもない愚か者だ。
設立当初から私達に反対し続けたんだからな。当然の報いさ」

白ハチマキの男は急に立ち上がり、両手を広げて辺り一帯を見渡す。

「見てごらんなさい。全ての植生物が平等な権利を握り、まさに環となって永遠を創り上げていく自然の神秘の美しさを!
黒く淀んだ人間達とは違って、純粋に理性だけを求める生物達の尊さを!
そしてそれらを想う気持ちこそが環境を綺麗にするんだよ」

絵子は相変わらず口を閉ざしたままだったが、それでも白ハチマキの男は不気味な笑顔を浮かべ、「いずれ分かるさ」と言い残して去っていった。



小鳥のさえずりや虫の鳴き声は澄んで聞こえ、豊かな森林や渓流がありのまま存在しているこの『環の里』。
小鬼などの下級妖怪さえものんびりと暮らすこの里の裏に、暗い影が潜んでいる事など外部の人間には知る由もなかった……

4:ちぃ ◆G.4s:2013/05/04(土) 17:29 ID:EAA

お、シズ君。小説に挑戦かね(´∀`*)
頑張ってね(`・ω・´)

5:シズヤ ◆BBs.:2013/05/04(土) 17:53 ID:GvM

>>4
ちぃちゃん小説板にも居たのか〜( ´ ▽ ` )ノ
ありがとう!まだ下手だけど頑張るよ! 笑

6:シズヤ ◆BBs.:2013/05/04(土) 19:10 ID:GvM

川の流れる音はいつもと違って、絵子の心を癒してはくれなかった。
父親に怒られて落ち込んだ時は決まってこの家の裏の渓流に来ていたが、今日ほど気持ちの沈んでいる日は無い。
連れ去られた父親がどんな目に遭っているか想像すると、今日何十回目かの涙が目頭を覆った。
昼食にと持ってきたおにぎりにも手を付けず、絵子はもう何時間もここで座って俯いている。

「それ、落ちそうですよ」

不意に透き通った声が聞こえた。
ふと顔を上げると、端麗な顔立ちをした上品そうな女性が絵子のおにぎりを指差しているではないか。

日除けの笠に、艶やかな黒髪。
百合の花をあしらった純白の着物。
心の奥底まで見透かされそうな藍色の澄んだ瞳。
荷物を纏めて風呂敷で包んでいるところから、旅人か何かだろうかと絵子は思った。

そして鬱になっていたせいで気づいていなかったようだが、おにぎりは絵子の指先だけでギリギリ支えられている状態だった。
今にも手から滑り落ちそうなおにぎりを慌てて両手で持つが、何故かおにぎりには絵子の両手だけではなく、黒髪の女性の手も伸びている。

「えっ」
「あぁ……すみません。一週間何にもロクに食べてないのでつい」

黒髪の女性はせわしく手を戻すが、物欲しそうに再度おにぎりを見つめる。
今の絵子には「図々しいです」と突っぱねる気力などなかったので「どうぞ」と女性におにぎりを差し出す。
それに食欲も無いし、赤の他人でも餓えで見殺しにするのはあまりにも不憫だと、他に持っていた2個のおにぎりも全て女性に渡した。

7:シズヤ ◆BBs.:2013/05/06(月) 08:20 ID:GvM

「んん〜!!美味しいですねこれ!噛めば噛むほど甘みが広がって最高です!」

女性はよっぽど腹が空いていたようで、おにぎりをすぐに平らげ、頬に手を当てて幸せそうな笑顔を浮かべた。
絵子はそんな彼女を見て少し心が落ち着き、表情を和らげる。

「お父さんが作ってくれた物なんです」
「へぇ〜、良いお父さんですね」

女性は担いでいた風呂敷包みを地に降ろしながら言った。

「あいつらに連れて行かれてなければ、今頃2人でピクニックしてたのに……」

絵子は心の中で思っただけのつもりが口に出してしまっていた。
勿論何も知らない女性は「あいつら?」と首を傾げる。
一瞬「何でもないんです」と訂正しようと試みるが、どうせ知らない人なのだし、辛い想いを誰かに吐き出したいという気持ちが先行したので、事情をその女性に話した。

環境委員会は白いハチマキがトレンドマークの男性『飛沫』によって設立された自然愛護団体で、この里の豊かな自然は彼らによって作り上げられたという事。
表向きでは真面目で意欲溢れる模範的な団体という事になっているが、裏では奇天烈で危ない思想を里の民に押し付けて里を征服しようとしているという事。
そして、環境委員会の戒律の1つ『我々の活動を非難するべからず』により、飛沫達を「裏がある」と怪しんでいた父親が連れ去られてしまった事。

話しているうちにもまた涙がこぼれ落ちて、地面に小さな丸を描く。
そんな絵子に女性は雲一つないような静かな笑顔で言った。

「じゃあ、連れ戻しに行きましょうよ」

8:シズヤ ◆BBs.:2013/05/07(火) 20:28 ID:GvM

絵子は目を背けてぼやきつつ答える。

「無理ですよ、そんなの」
「まぁ、貴方が行かなくても私はする事があるからどっちみち行きますけどね」

女性は先程と同じように静かな笑顔を続けていた。
絵子は俯いてだんまりを決め込んでしまう。

「それにしても、環境委員会って学校の委員会みたいで笑えますね」

女性がクスッと笑いながら違う話を持ち込んできた。

「学校?」
「あ、この里は学校が無いんですか」

この女性は色んな所を旅しているのだろうか。
外の世界は中級、上級クラスの妖怪が居て危ない為、環の里から一歩も出たことのない絵子には羨ましい限りだ。
絵子がそんな事を思いながら女性を眺めていると、女性は急に立ち上がった。

「……そろそろ行かなければいけない場所があるので失礼します。それと貴方に環境委員会のところへ私と同行する意思があるのならば、丑三つ時にこの渓流で落ち合いましょう」

女性はそう言って、風呂敷包みを担ぎ上げて歩き出そうとする。
しかしその時、絵子は女性に名前を聞いてない事に気づき、咄嗟に女性を呼び止めた。

「あの!名前……名前はなんて言うんですか?」
「私は霙(みぞれ)といいます。ただの行商人ですよ。貴方は?」
「絵子です」
「いい名前ですね」

霙と名乗る女性は微笑み、踵を返して昼の森の中へと消えてく。
変わった名前だなぁ、と絵子は思わず呟いていた。

9:シズヤ ◆BBs.:2013/05/11(土) 22:15 ID:GvM

時の流れは以上に早く感じ、もう時計の針は丑三つ時を回りそうだ。

流石に空腹となった絵子は一度家に戻っていたのだ。
しかし父親が居なくなった家に帰った途端、果てしない孤独感が押し寄せるように襲ってくる。
絵子は小さなちゃぶ台があるだけの居間に座り、幼い頃両親に買ってもらった緑色のラメが入ったヘアピンをポケットから取り出した。
いつも御守りとして持っているのだ。

病弱だった母は絵子が七つの頃に病で他界してしまい、父親は男手一つで絵子を育ててくれた。
環境委員会から必死で絵子を守ろうとしてくれた。
それなのに何も恩返し出来ていないじゃないか。

「親不孝な娘でごめんね……」

そんな言葉と共に、また涙がポロポロと零れ落ちる。
弱虫な自分が情けない。何も出来ない自分が悔しい。
連れ戻しに行かなければならないのに、恐怖心で足が竦んでしまっている自分が……

絵子はちゃぶ台に突っ伏して頭を掻き毟る。
そして激しく絡まる葛藤の中で、父親の懐かしい声が鮮明に響いた。


___絵子、自分の正しいと思った事だけをしなさい___


絵子はそのヘアピンでだらしなく垂れた前髪を留め、立ち上がった。
涙はもう乾いている。
代わりにその目は鋭く、闘志に溢れた輝きを出していた。

「待ってて、お父さん……」

10:シズヤ ◆BBs.:2013/05/24(金) 19:21 ID:GvM

夜の渓流で流水を飲む霙はとても絵になる。
霙自身のミステリアスな魅力と、環の里の綺麗な自然が相舞ってこんな不思議な光景を生み出しているのだろうか。
そこに絵子が来たのは丑三つ時丁度であった。

「来てくれましたか……逞しい顔つきになりましたね。その髪型も似合っていますよ」
「ありがとう、霙さん。……じゃあ行こう」

絵子は恥ずかしそうにはにかむ。
絵子自身にも吹っ切れた感があるようで、今なら父親を救い出せるのではないかと思えた。




歩き出した2人は森へ入っていた。
霙がバレずに本部へ行く為の最短ルートを調べてきたと言うので、絵子はそれを信じて霙に先導を任せた。

「霙さん、こっちの道で大丈夫なの?」

森の中へ進んでいくにつれ、どんどん闇が濃くなっていくので、絵子は訝しげな表情になる。
霙は相も変わらず「大丈夫ですよ」と静かに笑うのみだった。

11:シズヤ ◆BBs.:2013/05/25(土) 08:27 ID:GvM

もう随分歩いている。
絵子は父親にこの森への出入りを禁止されていたから知らなかったというものの、こうも道のりが長いと嫌になってくるのが普通だ。
それに、さっきからまっすぐ進んでいない。
森の外側をわざわざ回りながら少しずつ中心部へ向かっている感覚だ。

「霙さん、本当にこの道で……」
「静かに」

霙は押し殺した声で絵子を遮る。
絵子もなんとなく危機的状況に置かれている事は理解できて、咄嗟に口を押さえた。

絵子達の数十メートル前を環境委員会の羽織を着た男が通りすぎて行ったからだ。
環境委員会の戒律第三条の『責任者の許可無しで日没後に徘徊する事を禁ずる』を破る者を取り締まる為の見張りだろう。

霙は絵子を連れて近くの茂みに身を潜める。
妖怪がウロついている外の世界を旅しているだけあって、霙の動きには慣れが感じられた。

しかし、不意に背後から聞こえる甲高い声。

「お前らは悪い!夜遅くに出歩くのは悪い!とくに環境に悪い!悪い、悪いぞ!悪い悪い悪い!!」

三頭身で赤ちゃんサイズの小さな身体。
長くトンがった耳やぎょろりとした目。
2本の角や持っている棍棒からして、どうみても"あの妖怪"だった。

「小鬼……!?」

12:シズヤ ◆BBs.:2013/05/26(日) 17:27 ID:GvM

小鬼の様子がおかしい。この里の小鬼は温厚で優しい筈だ。
中には絵子とよく遊んだ小鬼も居たというのに……

「悪い!こいつは悪い!環境に悪い!環境に悪い!環境に…」
「煩いっ!!」

絵子は叫び散らす小鬼を止めようと手を出すも、時は既に遅い。
数十メートル先にいた環境委員会の男が駆けつけてきた。
その男も小鬼と同じように怒鳴った。

「環境に悪い、環境に悪いぞ!深夜徘徊なんて環境に悪すぎる!悪い!悪い、悪い悪い!!!」
「ご乱心のようで」

霙は苦笑いを浮かべた。
絵子はそんな霙の手を急いで引く。

「霙さん何やってるの!!逃げないと!」
「動けば刺すぞ!悪い奴らめ!」

男は懐からナイフを取り出した。
絵子も負けじと、家から持ってきた短剣を両手で持つ。
霙は微笑みながら絵子を眺めていた。
小鬼はそそくさと男の背後に回る。

絵子と男の睨み合いはそう長く続かなかった。
男が痺れを切らした様子でナイフを一閃させ、絵子に向かって走ってきたのだ。

怒号を上げながら襲いかかって来ようとする男に対し、絵子の短剣を持っている両手は小刻みに震えていた。


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