恋愛短編集『see you』

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1:千尋:2013/05/17(金) 21:32 ID:s26



こんにちは。
初めまして、千尋です。

小説歴は2年の新人です。
ここを知ってみると、皆さん本当に上手ですね!
もう、私スレ立て一分戸惑いましたもん!


というわけで、以前から苦手な、恋愛小説をここに投稿していきたいと思います。

拙い文章ですが、何か汲み取ってくれれば幸いです。

2:千尋:2013/05/17(金) 21:39 ID:s26




1 『天秤』





 君と僕じゃ、不釣り合い。
 そんなことは分かっていた。
 もし、君と僕を“人間の価値”という天秤にかけたのなら、君の方に、天秤は、傾く。


『それだって、私と足したら変わらないわ』

 わざわざ“価値”は否定しない。
 そんな、君の言葉が好きで。

 でも、悔しくて、痛かった。

3:千尋:2013/05/19(日) 01:00 ID:s26


 一年に、一ヶ月高校に通えたのは、快挙だった。
 その内、車イスではなく松葉杖の日が一週間あったのだから、かなりすごい、と思う。

 夏樹(なつき)は、大学病院へと車輪を回す。

 今朝会った“彼女”を頭に浮かべながら。

4:千尋 ◆ijAo:2013/05/19(日) 13:42 ID:s26

 

 高校の入学式の日から、一ヶ月。
 夏樹は普通の男子高校生となった。

 白血病の少年という、レッテルと共に。

「桑原(くわはら)君は重い病気を患っています。怪我などさせることの無いように」

 そんな担任の挨拶で、夏樹の短い高校生活は、始まった。
 正直、経過は芳しくなかった。
 いつ病院に戻るか分からない状況で、思ったより、学校ってつまらない。

 知ったのは、そんな事実だけ。

 街を歩いていても、学校の廊下を歩いていても、夏樹を見る目は大して変わらない。

 怖いくらい色白で、車イスの男子。

 物珍しそうな目でちらちら見られるか、何か囁かれるか。

 どちらかだ。

 今日病院に帰ると決まったときも、悲しくなかった。
 嬉しくもなかった。
 まるで感情が無くなってしまったように。

 “病人”になった日から、ずっと。

5:千尋 ◆ijAo:2013/05/19(日) 13:47 ID:s26




 そんな今朝、“ウチの学校の制服を着た彼女”に出会った。

 また視線を感じると身構えると、彼女は夏樹を人目見て、ふん、とそっぽを向いた。

 そうして欲しいことを悟ったように。ひとの目を気にする夏樹を哀れむように。




 その横顔が忘れられなくて、夏樹は“彼女”を思い浮かべたまま、病院のドアを開ける。

6:みく♪:2013/05/19(日) 14:00 ID:EQQ

こんにちは!
読ませていただきました。
宜しくお願い致します。


続きが気になります。
コメはいれないほうがいいですか?

7:千尋 ◆ijAo:2013/05/19(日) 14:11 ID:s26

>>6

いえ。
雑談にならなければ、大歓迎です。
ありがとうございます。

これからも頑張らねばなりませんね!

8:千尋:2013/05/19(日) 16:51 ID:s26



 三時間位、経っただろうか。
 夏樹はベッドの上で、見慣れた白い壁や天井を見つめた。
 
 また、感情を持てない入院生活が始まるのだと、ぼんやりと感じながら。


 夏樹の治療費や入院費がかさむからと、両親は共働き。病院に顔を出す時間も少ない。
 病院で、傷を舐め合うだけの友達を作りたいとも思わない。


 毎日、いつも、いつまでも、夏樹はこの「白」を見つめていた。

 
 一人で。
 何も考えないように。
 何も感じないように。
 小さく蹲って。


 だけど、今日は……

 “例の彼女”のポニーテールが、揺れたままだ。
 心も一緒に、揺れたままだ。

9:千尋:2013/05/21(火) 21:50 ID:s26




 学校に行っていたら、二学期に入った頃だろう。
 目を開けた途端に入り込んでくる日射しが眩しすぎる、真っ青な空、快晴。

 そんな日だったのだ。
 “記憶の中にいつまでも居座り続ける彼女”が、夏樹の前に現れたのは。


 夜中に救急車が来て、隣に中年女性が入ったのは知っていた。看護師が連呼する声によれば、「渥美(あつみ)さん」。

 そんなお隣を訪ねてきたのが、制服姿の、あのままの、紛れもない彼女だった。


「お母さん」
 彼女は平然と呼び掛けた。

 ここはICU(集中治療室)。母親が重体なのに、おかしいくらい、彼女は表情を変えない。


「ダメじゃん。やっぱ病院に居なきゃ」
 
 母親の腕を軽く叩きながら、“あの彼女”は言った。

10:千尋:2013/05/22(水) 19:40 ID:s26


 夏樹は彼女の手を見つめた。
 乱暴なようで確かな家族愛が存在する、その手を。

 そのせいで、彼女が夏樹に気づいたことも、視線を感じるまで分からなかった。

 すらりと伸びた脚。
 意思を感じる力強い眼。

 そして、ベッドから見えるのは、あの日と同じ“そのままの彼女”の横顔だった。
 

 不思議そうに、ちょっと夏樹を睨んで。
「何? なんかある……あっ」 
 パチンと、手を合わせた。


 それ以上続けずに、彼女はにっこり笑った。

 そんなところだと思うのだ。
 彼女が他の人と“違う”と感じるのは。
 相手の心を察する能力。
 だけど、素直じゃないから、そっけない。


「頑張ろうね」
 下を向いたまま、彼女は言った。 
 誰に言ったのかは分からない。

 そして彼女は、母親の点滴の隣に、たくさんの鶴をかけた。
 
 もしかしたら、千羽なんてとっくに越しているのかもしれない。

11:千尋:2013/05/23(木) 18:16 ID:s26



「って訳なんだけどさ……」
「出たとこ勝負ってことね」

 病院のカフェで夏樹の正面に座る“出会って一年経った彼女”は、何度も頷いてみせた。

「要するに、運? それか、はじめからそれは運命(さだめ)だったりして」

 彼女は窓を見る。
 夏樹もつられて振り返った。

 彼女に初めて会って一年。
 母親の見舞いのついでにと、彼女は話し相手になってくれた。
 勿論彼女のことだから、同情なんてしてくれない。でも、少しは夏樹に心を許してくれたようだ。

 夏樹は、そんな彼女だから話せたのかもしれない。


 移殖。
 白血病という重病には必ずついてくる言葉、骨髄移殖。
 夏樹にも、ゆっくりと降りかかってくる問題だった。

 母親とも、父親とも、親戚とは型が合わなかった。
 方法はひとつ。
 骨髄バンク。
 赤の他人から、骨髄を分けてもらうことだ。


「なんか、私だったらヤなもんだけど」
 彼女は言った。

「長い闘病の末、待っているものは分からない。必ず助かるなんて、夢物語なわけだし? 結局、どこまで生きたいかだと、思うけどな」


 どこまで、生きたいか。

 その言葉は、夏樹に深く突き刺さった。

12:千尋:2013/05/24(金) 15:01 ID:s26



「おめでとう!!」
 看護師の弾んだ声が、遠くで響いた。たくさんの拍手。笑い声。
 隣のベッドが消えたのだ。


「お母さん、明日。明日、退院」
 昨日、彼女は言った。

 その頃は、もう彼女の母親はICUから出ていた。一般病棟だった。
 それでも彼女は、夏樹のところへ来てくれた。
 しかし、病院に用がなくなれば、もう会うことはないだろう。
 それに……。
 夏樹の状態は良くなかった。
 個室に移るか、話し合われていた。


 今日、遠くの彼女の母親は嬉しそうで。
 彼女も少し笑ってた。
 なんだか、寂しそうに見えたけど。
 それは、夏樹の思い込みなのか?

 
 ゆっくり、車イスを押して、彼女は出ていった。

13:千尋:2013/05/31(金) 19:22 ID:s26




 次の日、夏樹は個室に移った。
 彼女には伝えられない。
 この病院に、用はない……はずだから。
「君がいるじゃん」と、そっけなく笑い飛ばして欲しいという微かな願いは、多分届かない。


 窓からシーソーが見えた。
 お見舞いにきた子供が遊んでいる。

 右が上がる。
 左が上がる。
 子供の顔は遠くて見えない。
 だけど、笑い声だけ聞こえる気がした。

 天秤みたいだ、と思う。
 まだ病気じゃなかった頃、理科で使った上皿天秤。
 もしも、と考えてしまう。

 あの皿に、人間が乗ったら?
 体重じゃなくて、“価値の重さ”を比べたら?

 その先が怖くて。
 ゆらゆらゆらゆら。
 シーソーは小さいからか、ぼやけて見える。

 ゆらゆらゆらゆら、揺れている。


 外から声がして、はっとした。


「桑原夏樹の病室は、どこですか?」

 紛れもない、ぶっきらぼうな“あの彼女”の声だった。
 

14:千尋:2013/05/31(金) 21:58 ID:s26



 構えたくなかった。
 それでは如何にも来るのを待っていたみたいじゃないか。
 無理に視線をドアから離す。


「ありがとうございます」という彼女の声と同時に、ドアがスライドした。

 そこにいたのは、私服姿の彼女だった。

「休日に、行くとこなんてないし」
 パサ、と軽い音がしてテーブルを見る。


 置かれたのは、ひとつの折り鶴。

15:汐:2013/05/31(金) 23:02 ID:kb.

この作品は神ってますね。

こんな難しくてリアルな表現私には無理無理無理(´∀`)

私はこの作品を人気にして見せます!

宜しく御願い致しますm(__)m

16:千尋:2013/06/01(土) 22:02 ID:s26

>>15

ありがとうございます。
いえいえ。
ド下手です。
確かに全然見られてないんですよねー。

よろしくお願い致します。

17:千尋:2013/06/02(日) 04:49 ID:s26




 次の日は、二羽だった。
 月曜日だから、制服姿の彼女がやってきた。
 「別に他の子みたいに忙しくないし。まず、そういうの嫌いだし。病院って意外と落ち着くんだよね」と言い訳するように言う彼女は、スクールバッグをあさり、針と糸を出した。

 隣には、合わせて三羽の綺麗な千代紙で折られた鶴。

「自分で通してきなよ」
 彼女は言う。
 
「元気になりたくないの?」

 そう言われた瞬間、夏樹は気づいた。

 そりゃ、退院したいと思っている。
 でもそれは建前で。
 自暴自棄という訳じゃなく、どうでもいいのだ。
 自分のこと。

 そんな中、彼女と出会った。
 
 今夏樹が今までにない感情をもっているのは明白だ。

 夏樹に、ひとつの答えが出た。
 不思議なくらいに気持ちいい。

 例えるなら、そう。
 まる一日、点滴を抜いたように。

……こんなところも病人だなあと、苦笑してしまうのだった。

18:千尋:2013/06/02(日) 08:25 ID:s26



 鶴を三羽繋げた。
 裁縫なんてやったことなくて、夏樹の指はたどたどしく覚束ない。
 
 しかし、全部繋げた。

 そして首をぴんと伸ばした折鶴を眺めていた時だった。
 彼女はやってきた。

 日課だというように、もう何の弁解もしない。
 少し笑顔も見せてくれながら。

 今日は三羽だ。
 合計、六羽。

 それを眺める彼女に、話しかけた。

「移殖は、しない」
 
 少しびっくりしたように彼女は夏樹を振り返る。 
 「いいんじゃない?」と無理に笑う。

「だから、死ぬまで一緒にいてください」
 真っ赤になった。
 彼女も赤面する。
「は……い」


「私、由菜。渥美由菜(あつみゆな)だから。ちゃんと名前あるから」

 そう言った彼女は泣き笑いの表情で。

 これを。
 これを恋と呼ぶならば。
 夏樹と由菜の天秤は釣り合っただろうか……?


 見上げた空に、雲ひとつない空に、夏樹の疑問は消えていった。

 二人で、その空を眺める。



                      (1『天秤』完)

19:千尋:2013/06/02(日) 08:32 ID:s26



〜作者より〜

一話、完結いたしましたー。
いやぁ、長かった。
白血病。
親戚がかかってしまったのがきっかけでした。まだ7才だったのに。
その人は移殖を行いましたが、成人を迎えず亡くなってしまいました。

白血病を明るく書きたかったのです。
やはり下手は下手でしたが。
次も、読んでくださると幸いです。


H.25 6月2日 千尋

20:姫蘭:2013/06/02(日) 08:37 ID:pZQ


 千尋サマ♪…**

 読ませて頂きました!!
完結おめでとうございます。

 千尋サマの素晴らしい豊かな言葉使い、表現……のおかげで、つい物語に吸い込まれてあっという間に読み終えてしまいました。

 最後、ハッピーエンドで良かったです。
 由菜ちゃんのキャラの作り方もとても上手いです。

 今後の活動に期待しています・∀・

by 姫蘭☆

21:千尋:2013/06/02(日) 08:41 ID:s26

>>20
ありがとうございます!
お褒めの言葉、嬉しいです!
超絶嬉しいですぅ!!

22:千尋:2013/06/02(日) 10:30 ID:s26




2 『イジメっ子の思惑』




 イジメで辛いのは、みんな一緒でした。
 イジメる側もイジメられる側も、見てる人だって。
 勇気で世界は変わるんだ。


 このちっぽけな心、今すぐ変えてみようか。

23:千尋:2013/06/04(火) 21:36 ID:s26

上げるだけの行為は正直好まないのですが、申し訳ないです。上げです。

24:千尋:2013/06/04(火) 22:05 ID:s26



 春が私達を待っている……。
 そんな浮き足だった気持ちで高校に入学して一年。高二になった。

 今年、ちょっと汚れた私の心を、春はまた、「待っていた」。
 惜しむ様子もなく、優雅に舞ってゆく桜。
 去年は純粋に綺麗だと、自然に歩を速め幹に触れたものだ。
 今私は、下ばかりを見てしまう。 

 散った後の花びらの残骸たち。
 靴で踏みつけられて、ちぎれて、土にまみれて。


 汚いな、と思う前に、同情してしまう自分がいた。

25:千尋:2013/06/05(水) 21:17 ID:s26




※ここからは三人称です。すみません。




 単刀直入に言えば、イジメである。
 高一の夏から受けたイジメ。
 彩音(あやね)は耐えた。
 耐え続けた。
 自分でも誉めたくなる程。
 だけどイジメは入っている軽音部まで広がっているのだから、進級したって変わるはずがなかった。


 御手洗(みてらい)彩音。
 高二。イジメを受けてもうすぐ一年。

「変な苗字だよね」
 始まりは、これだったかもしれない。その後、中間が終わって、彩音がクラス二位をとった。一位は、派手なグループの一人が密かに片想いしている男子だった……。

 その辺りからだ。

『変な苗字だよね』が、
「便所」に変わったのは。

26:まゆみ:2013/06/06(木) 18:04 ID:BPs

初めまして☆

読ませていただきましたぁ!♪

『天秤』は白血病というちょっと重め(?)なテーマなのに、
純粋な恋愛小説としてロマンチックな感じに仕上がってるのが

上手ですごいなぁぁと思いました!!


2の『イジメっ子の思惑』も続き、楽しみにしてます。+゚.。+。(´ω`*)♪♪

27:千尋:2013/06/06(木) 18:40 ID:s26

>>26

君は……
君は……
ガクガクブルブル

まぁ、ありがとうございます!

28:千尋:2013/06/13(木) 17:46 ID:s26




 桜が舞った。
 新しいクラスは騒々しい。
 足取り重く教室に入るか否か、濡れた雑巾が飛んできた。

 かわすのも億劫になり、彩音は制服に薄黒く湿ったシミができるのもそのまたに席につく。

 投げたのは恵(めぐみ)だ。
 分かっている。
 クラスの絶対的権力者。
 元親友。
 人を信じちゃいけないと、教えてくれた人。

 死んだら負け。
 負けたら悔しいでしょう?
 言い聞かせて。

 四月二十三日。
 教室にいたくないからと、屋上に向かった日だ。

29:千尋:2013/06/16(日) 11:16 ID:s26




 夏が来た。
 蒸し暑いだけで、キラキラの青春なんてあったもんじゃない。
 夏が来た。

 蒸し暑さと共に、私の心は耐えられなくなったらしい。


 悲鳴をあげるだけじゃない。
 言葉のナイフを刺しっぱなしにしとかないで。血だらけのままにしとかないで……。


 彩音の心は沸騰した。夏の暑さのせいじゃない。
 沸点は高い。
 一年ぴったりなんだから。


 イジメは終わらない。
 復讐に立ち上がった彩音だって、先のことよりも“今”のために。


 イジメっ子に、報復を。
 恋とか友情とか、ひねくれて考えられなくなった心を元に戻すため。

 イジメは、終わらない。

30:千尋:2013/06/19(水) 16:59 ID:s26



 クラスの女子の、ニヤついた顔が一斉にひきつった。
 恵の顔は怒りで歪む。

 彩音を殴ろうとした恵の手を捻りあげたのだった。

「楽しい?」
 彩音は呟くように言った。

「イジメ、そんな楽しい?」

 返事などない、静寂。

「楽しいなら、入れて欲しいなー、なんて」

「だ、ダメよ! あんたの役回りは決まってるんだから!」
 恵が焦ったように言う。
 彩音は口角を少し上げる。

「代理がいればいいんじゃん?」
 教室の一角を指差した。

「アイツとかさ」
 話題に出された彼女は、振り向きもせず、鶴を折っていた。


「確かに……ね」

 彩音の微笑は、新しいイジメの合図。

31:千尋:2013/06/20(木) 18:18 ID:s26




 渥美由菜。
 彩音は一度だけ、彼女と話したことがある。

 四月二十三日。
 春だった。


 彩音が手をかけると、屋上のドアが軋んだ。ノブを回せば、錆びた金属音が階段の踊り場に響きわたる。
 屋上への一歩を踏み出すのは、何故か躊躇われた。
 逃げるようで。
 だけど彩音が屋上へ足を進めたのは、ドアから漏れる一筋の光の中に、人影が映ったからだった。

 息をつめて、ドアを開いた。
 そこには、辛さを吸い込んで融かすような青空が広がっていた。


 彼女は私に気づかない。
 
 鶴を、折っていた。
 いつもと同じように。
 なにかを思って。

32:千尋:2013/06/24(月) 18:49 ID:s26


 屋上は意外と暗かった。逃げにはならない場所だった。
 
 盗み見は嫌いだ。
 わざとドアを強く閉めた。
 彼女が振り向く。驚いたように。でもその表情もすぐ消えた。

「現実逃避、できないでしょ」
 無表情な彼女。フェンスあるからかな、と付け足した。

「いつも、ここに?」
 動揺しているのか、彩音の声は上ずった。

「向き合うために。自分自身と、現実と」
 空を仰ぐ彼女。今日は黒い雲が浮かんだ空だ。

「なんで、鶴を折ってるの?」
 馬鹿みたい、と自分で思う。

「ちょっと不格好に、強く生きてる大事な人に届けるために。夏樹っていうんだけど」

 彩音は黙っていた。
 渥美由菜という人物は、もっといろんなことを秘めて生きていると思った。
 しかし今彼女は、彩音の質問に淀みなく答えている……。




 小さな小さな、春の思い出だ。
 あの日最後に彼女は言った。

『あんたも変えてみなよ。別に、汚い手でもいい。後悔しないならね』

33:千尋:2013/06/27(木) 18:56 ID:s26



 思い出して、頭が妙に冷えてきた。
 後悔、している。

 イジメに堂々と立ち向かわずに、加害者になったこと。

 日に日に心が重くなって、イジメられている頃の方がまだマシだったと思う。

 確実に、後悔している。


 イジメの連鎖。
 今更だけど、断ち切りたい。
 私の手で。
 彩音は思った。
 怖い、と。

 恵たちも、乗っかってる「みんな」も、黙って見ている男子たちも、そして、それを利用した彩音自身も。


 彩音は切実に願う。

 真っ向から立ち向かう、勇気が欲しいと……。

34:千尋:2013/06/28(金) 18:18 ID:s26



 彩音はイジメに加担するのをやめた。
 初めは理由をしつこく聞いてきたクラスメイトも、『クズに構う時間がない』という彩音の言い分を聞くと追及しなかった。

 が。その言葉に秘められた皮肉を、恵たちは知らない。気づかない。
 せめて。
 せめて勇気がないのなら。
 加害者にだけはなるまいと決めた。

 渥美由菜は誰かと密かに付き合っている……。
 そんな噂が出たのもそのころだった。

 勿論、いつものことながら、当の本人は知らぬ存ぜぬ。
 そんな彼女の姿に、彩音はくすりと笑みを漏らした。

 彼女の生き方には、なんだか親近感がわく。
 イジメをやめた頃から、そうだ。

 彼女が誰かと付き合っているのなら、その恋を心から応援しようと思うくらいに。

35:千尋:2013/07/02(火) 19:36 ID:s26




 ……何で逃げてんだよ。

 一人歩いた帰り道、名を呼ばれた。
 振り向くと、ウチの学校の制服。
 同じ学年。同じクラス。

 それどころか、恵が片想いしていた男子なのだから、イジメを受けた原因といっていい。


「お前、セコいって分かってるだろ?」
 端正な顔立ち。浮かんだ、微笑。
 隣を歩く彼は、彩音を見下ろした。
 
「でも、怖くて、逃げてる」
 ……何も反論出来なかった。
 そう、自分は弱い、逃げてる。
 彩音は反芻するように繰り返す。
 何も間違ってない。

 それが、悔しかった。

 昔から胸に秘めていた「負けず嫌い」の心が沸き上がる。

 だから、勉強したし、だから、イジメられても泣きたくなかった。

 そう。
 今の彩音は“負け”だ。
 なにかが、沸騰した気がした。


 最後に、彼は言った。
「お前はそんなヤツだった? 正直、幻滅なんだけど?」

 その途端、懐かしい香りがした。

36:千尋:2013/07/12(金) 17:20 ID:s26

すみません。
誰も読んではいないと思いますが……
巻き込まれてました…

37:千尋:2013/07/16(火) 14:44 ID:s26



「話がある」
 似合わないぶっきらぼうな口調でそう言うと、意外そうに恵は表情を変えた。
 不安げ、というか。
 かわいそうだな、と思った。
 話がある、その一言が。一言でこんなに不安を感じるなんて。
 寂しいだろうな、とも。
 恐怖感を与えることでしか、ひとを引き寄せられなかった彼女。
 イジメっ子の思惑。
 それは、権力拡大、自己誇張。
 でも、誰かに背かれたら終わりなんだ。危なっかしいGAME。
 そんなGAMEに挑まなければいけない、世界に何万といる彼らは、弱い。
 
 だから、不安なんだろう。
 やめたくても、始まったらやめることなど……。彩音は、それが出来る人に、なりたい。


「何……?」

 恐々と訊く恵に、彩音をイジメていた頃の勢いや強さは、もうない。

 それで、決まった。
 あんたも変えてみなよ。別に、汚い手でもいい。後悔しないならね……。

 ……間違ってる? 構わない。後悔しないなら。


 彩音は、恵の頬を思いっきり打った。

38:千尋:2013/07/16(火) 15:33 ID:s26


 恵は目を見開いて彩音を見つめる。
 頬を押さえていた。
「もう、……やめよう」
 彩音の息は上がっている。余程緊張していたのだろう。
「……は?」
 無理に強がる恵。

 彩音はそんな彼女を指差した。
「痛く、なかったでしょ」
 知ってるよ。あんたの秘密。
 彩音は笑った。
 笑って、うずくまる恵の体を起こした。

 もう、夕日が窓に映る。
 夕日でできた二人の影は、まるで姉妹のようだった。



 昨日の帰り道、彩音は恵を見つけたのだ。
 母親に、殴られていた。
 腕に、血が滲んでいた。
 虐待、だ…………。
 テレビの言葉が、飛び込んできた。 逃げるように帰ったあとで、その事を思い返した。
 学校でいばる恵と、虐待を受ける恵と。そして今、彩音と恵はイジメによって仲を修復しつつあることと。
 そして、今日の放課後に至る。

39:千尋:2013/07/16(火) 15:59 ID:s26


「私は、イジメを許せないと思う」
 彩音はまた話し始めた。
 許せない。
 イジメた恵たちも。
 それを利用して、荷担した自分自身も。

「でも……今、恵のこと嫌いじゃない」
 ポタリ。
 恵の涙が教室の染みた。

「今まで憎んでたのに。いなくなれって願ってたのに」
 まっすぐ恵を見つめる彩音の眼には、強さがあった。光があった。
 そして、うるんでいた。

「なんでだろうねー」
 天を仰いで、この場所に合わない間延びした声で言ったのは、涙を溢さないためかもしれない。

「恵にもうまくいかないことがあって、思い通りにならないこともあって、大事な、大事な愛が欠けちゃってるとこがあって…………」
 彩音は一度鼻をすすって言い切った。
「大きな大きな悲しみを抱いてるって知ったからかなぁ」
 もう一度きいた。

「私のビンタ、私は思いっきりやったけど、あんま痛くなかったでしょ?」

 恵は顔を上げて、彩音を見た。
 恵の眼にも、同じ光が灯る。


「だって、もっと酷い痛みがなにか、知ってるもんね」

40:千尋:2013/07/16(火) 16:27 ID:s26



「「やったぁぁぁ!」」
 廊下にひときわ大きな歓声が響き渡った。
 小野(おの)恵と渥美由菜である。
 今日は新高三のクラス替え。
 生徒の名前がクラスごとにずらりと載った表を、小野恵と渥美由菜と御手洗彩音は覗きこんだ。

「ほら、彩音もクラス一緒だよ!」
「そうだよ! 彩音ちゃん!」
 恵と由菜が呼んでくれているのに、彩音はふくれっ面だ。

「でも……健(けん)くんとクラス、離れたし……」

 はぁ、とため息をつく二人。

「そんな憂鬱羨ましいだけだから!」
 と二人は言う。

「でもさ〜学年トップの相原(あいはら)健と彩音は確かに順当だとしてもぉ〜実は幼馴染みだったなんてホントびっくりだよぉ」
 恵が言う。

「最近気づいたんだけどね」
 恥ずかしそうに彩音。

「あ、前から片想いしてたからって、彩音ちゃんのことひがんじゃだめだからね」
 由菜だ。

「そろそろ教室いこうよ」
「あ、話題変えた」

 そして走り出した三人はもう、ずっとずっと昔からの親友の姿になっていた。キラキラしていた。


           (完)

41:千尋:2013/07/16(火) 16:33 ID:s26


〜作者より〜
よっしゃぁぁぁ!完結!!!
嬉しいですよ、とにかく。
内容は置いといて、完結したことが嬉しいです。
で、置いといた内容の件。
もう最低だったwww
本当に読み返して「あ、手ぇ抜いてる」感パネェんだが?
前回より納得いきませんが、暖かい目ください。
できれば感想も………
では!

42:千尋:2013/07/18(木) 17:23 ID:s26




3『ユナ』



 あたしはただの“間違えられた人”で
あなたにはもう本当に大事な人がいて……


 あたしとあなたを繋ぐのは、ただひとつ、電話番号。

43:千尋:2013/07/24(水) 17:00 ID:s26


「もしもし? ……ユナ?」
 息を詰めた。
 というか、詰まった。

 流れた声が男の人のものであったことも、その人の声に聞き覚えがないことだって、友那(ゆうな)がパニックに陥るのには十分すぎた。

 しかし、もっと驚いたのは、声が“ユナ”と発したことだろうか。

 堪えきれず、友那は携帯電話を手放した。
 “ユナ”を何度も何度も呼ぶ声が、耳に木霊した。

 横になって目を閉じても。
 落ち着かない。

 声は鮮明。
 友那は、思う。
 優しい、声だったと。

44:ちひろ:2013/07/29(月) 07:48 ID:s26

林間学校行ってたら相当下がったw

45:千尋:2013/07/30(火) 11:41 ID:s26


「知らない男からの電話ぁ!」
 友那の隣で大声をあげた、クラスメイトの蘭(らん)。近所のおばちゃんみたいな人。

「しかも、“ユナ”って呼んだわけでしょ!? ……ユナ、気を付けた方がいいわ……誘拐犯は意外と近くに……」
 ユナというのは友那のあだ名。ユウナを縮めて、ユナである。

「ほらそこにっ!!」
 突然の悲鳴がかった声に、周囲が肩を震わす。
 友那も蘭が指差す方向を振り返った。
「うっそ〜」
 笑い転げる蘭。
 ……時々この人が分からなくなる。

「でもさぁ〜、ユナみたいに可愛かったら、狙われててもおかしくない気がする。それなのに彼氏をつくらない、高嶺の花なのね、ユナは」

「いや、つくらないんじゃなくて、つくれないんだって」

「怖くて、でしょ? あんた、本当に臆病。男性恐怖症だっけ?」

 確かに中学生の頃、男には良くない思い出があるので、少し怯えるのは事実だ。

「何はなしてんの〜?」
 合流したクラスメイトの瑠璃(るり)の声で、話が遮られた。

46:りな ◆snuQ:2013/07/31(水) 00:23 ID:BlQ

神作品発見!!
がんばって下さい!

「天秤」すごかったです!!
白血病ってすごい病気ですよね……
描写は上手いし……見習います!

ちょって手下にしてくだs((蹴

47:千尋:2013/08/02(金) 17:50 ID:s26

>>46
うわわっ!
びっくりした〜
誰にもみられていないと思ってたのでw
天秤ですかぁ。ありがとうございます!
手下……いや……まだまだですよ……

良ければあなたの作品を見に行きますよ?

48:りな ◆WVds:2013/08/02(金) 19:58 ID:FLA

え!?本当ですか!?
あ、でも一度依頼したことがあるんで読んだことあると思います。

「麗愛のgdgd短編集」にて「月照」(完結)「純粋レモン」(現在執筆中)

「アリスと白うさぎ。」(現在執筆中)

です!コメントくれると泣いて喜びます!

これからも、がんばってください!

49:千尋:2013/08/02(金) 20:24 ID:s26

>>48

名前が違うとわからなくて…
了解です

50:千尋:2013/08/09(金) 17:05 ID:s26



 その日もまた、電話は鳴った。
 その未登録の番号に見覚えがあったから、すぐに“彼”だと分かった。

 友那は昨日のように震えなかった。
 心は真逆に水を張ったように穏やかで。
 耳に残った低音が、「通話」を押せない友那の身体に心地よく反響する。
 しかし依然としてボタンを押す勇気は出ない。

「ユナ……大丈夫か? 上手くやってるか?」


 応答しない相手に語りかける彼。

 悪質なものかもしれないし、もしかしたら蘭の言う通り狙われている可能性だって少なくない。
 知らない男なんて、そんなものだろう。
 それでも友那は、この人の声が好きだった。


 それに、この人は別の「ユナ」を探しているのだと、友那には思えた。


 明日は、もし電話してくれたなら、絶対に出ようと決めて、
そして友那は、着信音が消えるのを待った。

51:千尋:2013/08/12(月) 17:12 ID:s26


 瑠璃に聞かれた。
「昨日は、大丈夫だった?」
「何が?」
「電話の件」
 声を潜めて言う瑠璃。

 あ、なにかあるな、と感づいた。
 そういう勘は、何故か人一倍働いてしまうのだ。

「大丈夫大丈夫。昨日はなんにもなかったよ」
 友那は嘘がうまい。 
 瑠璃も安堵の表情を浮かべた。

「何かあるの?」
 一応、聞いておいた。

 ユナに、心当たりがあるという。
 違うとは思うけど、引っ越す前に中学が同じだったのだと。


「あたし、あの子に助けられて立ち直ったようなもんだからさ」
 懐かしむような微笑みを浮かべて、瑠璃は言った。

52:碧妃 さな ◆RCWE:2013/08/13(火) 01:26 ID:b4I


お久し振りです*

トリップで分かるかと思いますが元若宮鈴音です。

やっぱり千尋ちゃんもお上手で…(´`*)
私も手下にしてもらおっとww

二年で新人って言っちゃ駄目よ!
私なんかまだ4ヶ月くらいだから…

無駄話は控えてっと…、頑張ってね〜*

53:千尋:2013/08/15(木) 16:37 ID:s26

>>52

あなたの目に入っただけで嬉しいです!
上手くはないです。(断言)
手下とかこの私に出来ることがあったらなんでも致しまs((←ぇ

54:碧妃さな ◆RCWE:2013/08/15(木) 17:28 ID:b4I


いやいや…
描写がお綺麗ですよ(´`*)
交流板の当スレにいる方は私を除き、皆さんお上手ですねww

あ、では手下に…((跪き
良ければ交流板の当スレで話しましょう*

55:千尋:2013/08/15(木) 20:54 ID:s26

>>54
いやいや……
跪かれたら私地面になりますw

了解です!
が私3日間旅行に……
その後になりますかね…

56:千尋:2013/08/19(月) 18:17 ID:s26



 やった。ついに、やってしまった。

「……もしもし?」
 まるで首を絞められたように掠れた声が部屋に響く。相当な緊張具合だ。

「ユナ? ユナなのか? どうして電話に……」
 向こう側で“彼”はユナの安否を知り安心していた。

「多分それ、間違い電話なんです。番号がひとつ、ズレているとか……」

「マジで? ……ごめん! 知らない男が何度も電話かけて……そりゃ、“出んわ”って感じだよなぁ……」
 乾いた笑いが聞こえたから、友那はつられて笑った。

「また、電話して下さい」
「え?」

 あなたの声、好きだから。

 そんなこと言えるわけがない。
 友那には限界だ。
 戸惑う相手を放り、友那は電話を切った。


「ごめんなさい……ね?」
 小さく、呟きながら。

57:千尋:2013/08/22(木) 17:04 ID:s26



「今日は、最低だった」
 部屋に、友那の声が響く。

「どうした?」
「テスト。数学はまだいいんだけど、英語と歴史が……ね」

「期末かぁ。そんなこともあったなぁ」
「ナツキこそ、調子どう?」
「うーん、まぁまぁ」

 一学期も終わる。
 “彼”と電話することは、友那にとって日課になっていた。
 毎日、毎日、今日を報告しあう。
 “彼”の名前はナツキというらしい。
 探している“ユナ”はやっぱり違う人で、「彼女だよ」と少し照れていた。
 ナツキは何か病気で入院しているらしい。
 あと、電話番号。

 ナツキの情報はそれだけ。
 でも、大学受験も近づいて疲れた心は、ナツキの声にどれだけ救われているだろう。


 幸せだった。
 なぜか、ただそれだけで。

58:千尋:2013/08/27(火) 16:05 ID:s26



「ねぇ、友那。最近好きな人いるでしょ」


 あ……、蘭……。
「なんで〜」
 笑って即座に打ち消したけど、上手くいったかはわからない。

 なんで笑顔がひきつってしまうのか、なんで目を逸らしてしまうのか、なんで顔が火照ってくるのか。

 理由はひとつ。
 今私が、嘘をついているからだ。
 私に、好きな人がいるからだ。

 嘘はうまいはずなのに、何故かその問いを打ち消すのは後ろめたくて、悲しくて。


 好きな人……。
 男の人で、唯一話すのはナツキ。
 私……ナツキのことが好きなの?


 ナツキのことを思い出しても、見たことがない顔は出てくるはずがなく。
 もう暗唱できる電話番号を思い、胸が締め付けられた。

59:千尋:2013/08/30(金) 13:09 ID:s26


やっぱり泊まると下がるなー。あげ。

60:千尋:2013/09/02(月) 18:07 ID:s26



 次は、瑠璃だ。
「あの人と連絡取り合ってるんじゃないでしょうね」
 心底心配そうな顔で。

 ……もう、耐えきれないかもしれない。

 友那は瑠璃に、全てを打ち明けた。
 瑠璃は静かに微笑んだ。

「悲しくないの?」
 笑いながら訊いてくる。
 なんで? と言う前に答えが届いた。

「彼が“ユナ”だけを見てて」
 そう。
 彼が想うのはユナ。
 でもナツキは自分にもたくさん言葉をくれて。
 それが友那にとって宝物なんだとは、ナツキは思わないのだろう。


「案外強いんだ」
 瑠璃がそう言って友那に渡した紙には……。


『由菜(ユナ?)の電話番号』

61:千尋:2013/09/02(月) 18:08 ID:s26

>>58
一人称になってます。
ミスです。すみません。

62:あ〜ヤ ◆I1o.:2013/09/04(水) 22:05 ID:.bk

神小説!

どの話もスゴく感動してウルっとするんだけど、「ユナ」がすごく切なくて共感できます!
これからも頑張ってください

投稿楽しみにしてます

63:千尋:2013/09/06(金) 19:24 ID:s26

>>62
うわわっ!
全部読んでくださったんですか? ありがとうございます!

全部の話が、一応登場人物とか繋がってるので……大変で描写とか疎かかも知れませんが…………

これからもレビュー下さると嬉しいです!

64:千尋:2013/09/06(金) 21:37 ID:s26


 “由菜”という人物の電話番号をもらった。
 その瞬間から、友那の心は揺れていた。
 家に帰っても変わらなかった。


 その人がもしも、「ユナ」で、ナツキが愛した人だったとしたら? 友那にも優しい声をくれるのだろうか。

 でも、もし正しければナツキは幸せになれるのかもしれない。

 察するに、ナツキはもう長くない。


 ……本当に「初恋」みたいじゃん。

 なぜか、頬が染まった。

65:千尋:2013/09/12(木) 18:41 ID:s26


 悩んで悩んで悩んで。
 いつも押す通話ボタンを押せないまま、四日がたったころ。

 五日目だ。
 ナツキが、電話をくれた。

「どうした? 電話こないなんて、珍しいな。な、なんかあった?」

 緊張を隠せてない。女子に自分から電話をかける機会があまりないのだろう。
 その声が、優しくて。
 彼の声が、彼が、これからも友那になにかをくれるなら。
 いいんじゃないか、このままで。

 ナツキと久しぶりに話しながら、葛藤で自然と流れた涙は止まらず。

 嗚咽を堪えて、電話を切った。
 どうか、気づかずに。

 いいんじゃないか、このままで。

 一瞬でもそう思った自分を責め、
友那は強く自分の肩を抱いた。

66:千尋:2013/09/16(月) 17:43 ID:s26



 その夜のことだった。
 夢を見た。
 勉強ばかりの生活で、疲れすぎていたのだろう。横になると少し浮くような感覚、そして飛んだ現実感。

 友那は真っ暗な部屋にいた。
 独りだ。
 独りだと思うと、自然と体が縮こまる。どうしようもない恐怖。
 ふと、光が見えた。
 眩しくて、見たくない、見たくないと思うのに、目を閉じれず、顔も背けられず、ただただ涙が伝うばかり。
 必死で力を込めたその手の汗を、じわっと吸われたことに気づく。
 見ると一枚の紙を握りしめていて、何故かそれだけが白く闇に浮かぶ。
 見覚えがあるその紙に書かれた十一個の番号は、片時も忘れられない「ユナ」の電話番号。
 光はどんどん近づいてきて、人の形になった。
 そいつはその紙をとろうとする。
 友那な抗った。
 何故その紙が必要? 光が言う。
 駄目、駄目なんだから。 反射的に答える。
 すると、友那から奪おうとしていたその手を下ろした。

 多分、明日で最後なんだって。光が言う。
 え?

 光はもう答えなかった。
 その代わりに、
『チャンスをあげる。ラスト・チャンスだよ』
 と。
 何か言いたいなら言ってごらん。光に促されるままに、

「ナツキ、あなたが欲しい! 欲しいの!」

 ……友那は自分の声に目覚めた。
 額は汗で濡れていた。

67:時乃 ◆0CTM:2013/09/16(月) 18:41 ID:OLA

読ませて頂きました。
とっても読みやすくて、面白いですヾ(*・ω・*)o

これからも応援していますね^^
頑張ってください!

68:千尋:2013/09/18(水) 18:38 ID:s26


>>67
ありがとうございます。
後になるにつれ文が拙くなっていますが……
これからも応援、レビュー頂けると嬉しいです。

読みやすいというのは嬉しいお言葉ですね´∀ `

69:千尋:2013/09/23(月) 18:19 ID:s26


 
 そんな事を叫んでしまった自分に驚きつつも、やっと自分の気持ちに素直になれたね、と安堵したのも確かだ。


 夢である。
 たいして気に病むことではない。
 「ラスト・チャンス」は気にかかるが、それ以上はもう、考えない。

 そう決めて迎えた朝。

 だから友那はいつも通りで、学校が終わったら勉強の前にナツキに電話する予定だった。
 いつも通り。



「今日、帰りにちょっと寄り道しない?」
 瑠璃の言葉が、軽さを出そうと努めたものだったとは気づけるはずがなかった。
 友那は頷いた。

70:千尋:2013/10/01(火) 18:22 ID:s26


 電車に揺られて、数十分。
 瑠璃に連れられてきたのは、小さな公園のベンチだった。向かい側は、横断歩道を渡れば病院の駐車場。


「渥美由菜、です」
 決して好意的ではない声で、そう自己紹介した彼女は、ベンチから立ち上がり、横断歩道を、渡る。
 ユナ、ユナ……とたった今聞いた声が繰り返される。ユナ。『ユナ』だ。彼女が、ナツキが愛したユナなのだ。
 胸が痛む。
 だが、それ以上に……
 嫌な予感がした。

「あれが普通よ、気にすんな」
 瑠璃が小声で言う。
 
 瑠璃の懸念は的はずれだが、余程心配そうな顔だったのだろう。


 行き先が病院だと知り、嫌な予感は強まった。

 今朝の夢は不吉の前兆だったのではないかと、そんな気さえした。

71:千尋:2013/10/16(水) 16:59 ID:s26


age

72:りな:2013/10/18(金) 05:21 ID:GLc

一つ一つの小説にまとまりがあって、3つの小説が繋がっててやばい!

っと、こんにちわ^^

以前もコメントしました、りなです!

久しぶりに上がってる!これは読まなくちゃ!…の一心で来ちゃいました(笑)

もう一回言います!
弟子にして下ss((殴
もう、やばいです(//ω//)

これからもがんばって下さい!

73:千尋:2013/10/20(日) 13:51 ID:s26

>>72

こぬぬちわわわ〜
嬉しい!なにこれ嬉しすぎる!
私どうすればいいんですか!?

本当に嬉しいのです、コメント。
更新してなくてすみませせせぬッ。

頑張ります!師匠となるためにっ!((蹴

74:千尋:2013/10/20(日) 14:03 ID:s26



 病院のドアを開け、看護師さんと「ユナ」さんが何やら言葉を交わし、エレベーターに乗る。


 その間の記憶が定かではない。
 それくらいに、友那の心は凍っていた。
 今まで黙っていたことへの罪悪感、波のように押し寄せてくる。


 そこで二人が歩くのを止め、一気に現実に引き戻される。


 目の前には、『桑原夏樹』のプラカード。
 ……ナツキ。


「入るよ」
 ノックせずに、慣れた調子で言う、「ユナ」さん。



 そして入って、息を飲んだ。

 その大きな一人部屋には、抜け殻みたいなベッドだけ。

75:千尋:2013/11/05(火) 16:29 ID:s26

age

76:千尋:2013/11/09(土) 12:04 ID:s26



 その意味が分からない程馬鹿じゃない。

 長い長い沈黙。
 それが、怖くて、怖くて。
 
 その沈黙を破ったのは、ユナさんだった。


「……話したの、あんたが最後らしいわ――」


 涙さえ出てこない。声さえ出てこない。
 友那は震えていた。


「……最低」

 吐き捨てられたその言葉には、瑠璃の同情の眼には、ただただ深く頭を下げることしか――



「夏樹は許してくれるわ、そういう人だもの。だけど私はそんなに優しくなれない。だってあんたは――――」

 

77:千尋:2013/11/09(土) 12:13 ID:s26



『最後のチャンスさえ、手放したんだもの――』


 ユナさんが残したその言葉に、ようやく実感が現れて。
 ドアが閉まり、友那が完全に一人になったとき。


 友那はなにもないベッドに向かって、手を合わせた。
 
 いつまでそうしていただろうか。

 友那は手をおろして。


「……ごめんなさい」

 私なんかがどの面下げて。そんな立場なのは分かってる。
 分かってるけど、
 最後に言わせてほしい。



「あなたのことが、好きでした――――」
 
 それが、友那にとって最初で最後の告白だった。




              <『ユナ』完>

78:千尋:2013/11/09(土) 12:18 ID:s26



「ユナ あとがき」

この作品は、いつもより長くなってしまいました。
その割に完成度が本当に低くてすみません。

「あとがき」なんて偉そうにつくれるような分際であることは2が完結したあとに気付きました。
しかし、1・2でつくってしまったのだから仕方ない!!
とまたでしゃばります。


えー、と。
「電話番号」これだけで恋におちてしまう。
ありえない思う方もいるかもしれません。
だけど、そんな正体不明のものに魅せられてしまったら。
そう思って書きました。

今後ともよろしくおねがいします。

79:千尋:2013/11/12(火) 21:02 ID:s26

あげです。

80:愛乃れい:2013/11/12(火) 21:20 ID:9Fk

ユナ完結おめでとう!
りなです。
名前また変わりました(笑)

81:千尋:2013/11/15(金) 22:01 ID:s26

>>80
ありがとう!
……最後下手ですみまそんw

82:千尋:2013/11/15(金) 22:46 ID:s26



4 『屋上』



 私の思い出は、いつも、屋上にあった。

83:千尋:2013/11/17(日) 17:31 ID:s26



 自分はまだまだ子供だが、十七年生きてきて思うこと。

 『私の思い出は、いつも屋上にある。』

 別に屋上から見える景色が好きだったわけでも、そこに珍しいものがあったわけでもない。
 ただ、大切な人がそこにいるのか? と訊かれて首を振ったら嘘になる。


 貰いたての卒業証書。まだ開いていないアルバム。


 それを開くその前に、彼女はたった一人で、その場所へ向かおうと思う。

 思い出が還る、その場所へ。

84:愛乃れい:2013/11/17(日) 19:04 ID:9Fk

新章も楽しみにしてます!!

>>81
いやいや、めっちゃ上手いから!
自信持とう!!(笑)

千尋の小説読んでると、切なさがヤバい(泣)
すごいよね、なんか小説に引きこまれる!

がんばって!!

85:千尋:2013/11/18(月) 18:58 ID:s26

>>84
そんな風に思ってくれるとは・・・・
光栄です・・・

てかそんな風にいってくれるのはあなただけですッ

86:千尋:2013/11/20(水) 18:51 ID:s26

更新遅れる可能性アリ。すみません

87:愛乃れい:2013/11/20(水) 20:24 ID:9Fk

>>85
絶対そんなことないっ!!
みんな隠れて見てるんだって!!
私も最初、すごすぎて書き込むのためらったもん…

88:漣 ◆WOJE:2013/11/21(木) 18:40 ID:TuE

突然ですが・・・
今日、結果発表をしたいと思います

89:螺薇姫:2013/11/22(金) 13:52 ID:jU2

小説ランキングてきなの見て、見に来ました。
描写がとても素敵です。

見習わせていただきたいと思います。

90:千尋:2013/11/22(金) 19:40 ID:s26

>>89
ありがとうございます!
賞をいただいたようで嬉しく思います。
いえ・・・描写得意じゃないです・・・
全然うまくないんです・・・・
でもお褒めの言葉はちゃっかり貰っときます。
ありがとうございますw

91:漣 ◆WOJE:2013/11/23(土) 20:00 ID:zv2

第2回も推薦します...?

92:漣 ◆WOJE:2013/11/23(土) 20:00 ID:zv2

第2回も推薦します...?

93:愛乃れい:2013/11/23(土) 20:06 ID:9Fk

最優秀賞おめでと☆
流石、千尋だね♪

引き続き、更新楽しみにしてまーす!

94:千尋:2013/11/24(日) 10:48 ID:s26

>>92
じゃあ、お願い致します。

>>93
ありんと♪

更新しなきゃなあ・・・

95:霧臘 ◆WOJE:2013/11/25(月) 20:04 ID:js2

結果発表します♪
漣です。名前変わりました。

96:千尋:2013/11/25(月) 20:48 ID:s26

一回目賞もらってからの
二回目でそんな進んでないのに銅賞頂けたー・・・・
なんて名誉なことでしょう!

ありがとうございます!

97:千尋:2013/11/25(月) 20:52 ID:s26

***

 小学六年の頃、瑠璃(るり)は確かに初恋をした。


 活発だった瑠璃が選んだバスケクラブ。
 そこにいるただの同級生。

 小学五年の頃までそんな間柄だった。

98:きゅー:2013/11/27(水) 18:39 ID:JV.

初めまして、きゅーと申します。
小説コンテストを見て来ました!
どれも魅力的な話で、感動で涙腺崩壊ですよ!!
千尋様、一方的ですが(笑)応援さしてもらいます!!!

99:千尋:2013/11/27(水) 20:47 ID:s26

>>98
ありがとうございます!
ありがとうございます!
ありがとうございます!
いえ、是非書き込み残してくださいね!励みにしますので!

100:千尋:2013/11/27(水) 20:52 ID:s26


 恋に落ちた。
 惹かれた訳とか所とかそんなこと、小学生の瑠璃には分からなくて。

 ただ、鼓動が早まる。
 顔が紅くなる。
 「好きな人いるでしょ?」と訊かれる。


 淡い淡い、幼い思い出。

 だけど高校を卒業する今も、鮮明に在る思い出。

101:千尋:2013/11/27(水) 21:00 ID:s26


 『彼も瑠璃のことが好き』。
 友達の誰もが言うそれはかなり広まっていて。

 『付き合っちゃえばいいのに』と無邪気な声。

 瑠璃には勇気が足りなすぎた。


 それに、その“彼”と瑠璃は、通う予定の中学が違うのだ。


 時が過ぎ、卒業式が間近になっても進展はなく。
 ただ話して笑い合うのがこんなに楽しいのは初めてだ、とそれくらい。


 中学が同じで、中学生になったら制服を纏ってちょっぴり大人になって、そしたら何か変わるかもしれないのに。そう境遇を恨み、悩んだ。


 そのまま卒業式は過ぎて、小学校生活が終わった。

102:千尋:2013/12/01(日) 12:41 ID:s26



 新しい学校での生活はそれなりに上手くやれていたし、それなりに楽しくもあった。
 
 だが、なんだろう。
 心にぽっかりと、穴が開いたような感じは。
 この穴から何かが漏れていってしまうような気さえする、心に開いたこの穴は。

 好きな人と離れているってことが――こんなにも虚しい、なんて。

 中学が始まってはじめのうちは、道でばったり会うなんて偶然を期待したが、都合のいい偶然は簡単に起こらないもの。


 だから、好きな“彼”と同じ学校の小学校の友達からメールが来たとき、奇跡かと思った。夢かと思った。
 
 それは夏の暑い日。

 『久しぶりに会おうよ。今度の夏祭り一緒に行こう! 小学校時代の仲間もつれてく。勿論今野(いまの)もつれてくよ!』

 久しぶりのメールには、そう書いてあった。
 特に最後の文に――――
 胸が高鳴った。

 好きだった人。今でも好きかも知れない人。
 その人に、会えるのだから。 

103:千尋:2013/12/07(土) 17:02 ID:s26

すいませんあげます

104:千尋:2013/12/11(水) 16:57 ID:s26



 だから夏祭り当日は浴衣を着て、待ち合わせ場所に一番乗りで言った。

 後から来た女子たちは、「カワイイ」と褒めてくれた。


 好きだった“彼”は、瑠璃を見つけて照れくさそうにはにかんだ。


 再会はあっけなくて、瑠璃たちは騒ぎながら夜店を見て回った。

105:千尋:2014/01/05(日) 13:30 ID:dFE


 あっけなくて、あっけなくて、だから――――

 あの屋上に行ったのは、夏の夜の魔法だったのかな、なんて考えるときもある。


 花火を“彼”と見たのも、魔法のおかげで、

 ――“彼”とキスをしてしまったのも、魔法のおかげだと。


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