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1:サカナさん ◆1TFQ:2013/06/16(日) 13:30 ID:GvM



「表が出れば私の勝ち、裏が出たらあなたの負け」

2:サカナさん ◆1TFQ:2013/06/16(日) 13:43 ID:GvM

7月。
太陽が昼下がりの住宅街をギラギラと照りつけていた。

赤レンガで造られた一軒家の前に、一台の白い軽トラックが止まっている。

トラックから荷物を抱えた宅配員が降りてきた。

トラックから降りた男性はその一軒家のインターホンを押して、その家の中から出てきた住人と向かい合っていた。

「お届け物です!印鑑と、引き換え代金をお願いします!」

そう言ったのは、『うみねこ宅急便』の目印である水色の制服姿の若い宅配員だった。
『割れもの注意!』と記された大きな包みを抱えている。
男の癖に小綺麗なミディアムヘア。
更に茶髪なので一瞬チャラチャラとした印象を与える容姿をしている宅配員だ。
しかし、その髪から覗かせる表情は和気藹々とした営業スマイルで、清涼感あふれるオーラを放っていた。

一方、玄関側にいたのは、昼なのにも関わらずジャージを着て、処理しないせいで不衛生に伸びた髭をさする中年男性だった
察するに、常時自宅の警備にあたっている人だろう。
宅配員のテンションとの格差にもの苦しそうな様子だった。

中年男性は宅配員と、宅配員が抱える包みを見て「あ、はい…」と暗いトーンの声をボソッと出す。
そして、そそくさとドアを閉めると、パタパタと家の中へ印鑑と現金を取りに戻った。

3:サカナさん ◆1TFQ:2013/06/16(日) 13:53 ID:GvM

一分後。
玄関のドアを再度ガチャリと開けて出てきた中年男は、印鑑と、明らかに自分の物では無さそうなベージュ色の女物の革財布を手にしていた。

「では、この欄に印鑑を!あっ、引き換え金は7万円になります!」

宅配員は変わらぬ営業スマイルでハキハキと話す。
中年男は不慣れな手つきで財布から1万円札を7枚抜きとると、それを宅配員に渡して、宅配員に指定された欄に印鑑を押して、包みを受け取る。
包みは相当重かったらしく、中年男はそれを受け取った瞬間に両手がグッと膝当たりまで下がった。

「ありがとうございましたっ!」

宅配員は直角に頭を下げる。
そのまま踵を返して、早足で路上駐車してあった軽トラの助手席に乗り込んだ。

4:サカナくん ◆1TFQ:2013/06/16(日) 14:05 ID:GvM

宅配員……の筈だった若い男性は車内で帽子を外し、暑そうに手で風を扇ぎながら愚痴をこぼす。

「暑いね〜、こんな炎天下じゃ『仕事』の能率も悪くなるよ」

男は独り言を言っているワケではなく、運転席に座ってアクセルを踏もうとしている女性に向かって喋っていた。
運転席に座っていた女性は、車を発進させながらメゾ・ソプラノの大人っぽい声で応じる。

「その割には、『仕事』は成功だったみたいですけど。甲斐さん」

甲斐(かい)と呼ばれる男は女性にそう言われ、「ははは」と笑いながら頭の後ろで腕を組む。
甲斐の手には、先ほど中年男から受け取った7万円を握られていた。

5:サカナさん ◆1TFQ:2013/06/16(日) 14:08 ID:GvM


「あの男はやり易いカモだったからね」

「えぇ、確かに不用心な男性でしたね。荷物の確認もあまりしてなかったみたいですし」

「この辺り一帯の情報をせしめている情報屋によれば、あの家の住人はもうすぐ60歳を迎える有名資本家のお婆さんとその息子の2人暮らし。母親の出勤中、ボンボンの息子は家でずーっと自宅警備だそうだよ。古賀ちゃん」

「ちゃん付けで呼ばないでください。……確かに、乗ってきたトラックが『うみねこ宅急便』のシンボルである『うみねこトラック』ではないことを疑わないところも、引きこもりであるが故の世間知らずということを踏まえれば頷けますね」

古賀(こが)、と呼ばれた女性はすらっとした華奢な身体に、少し幼さが残るが凛とした顔立ちをしていて、長い黒髪をツインテールにまとめていた。
横顔だけでも相当な美人と分かる古賀が『この仕事』をしている事を世間一般に知られたら、誰もが口を揃えて「宝の持ち腐れだ」と言うことだろう。

6:サカナさん ◆1TFQ:2013/06/16(日) 19:37 ID:GvM

「そういえばあの荷物、男性は重たそうにしてましたけど、一体何が入ってたんですか?」

「その辺のコンクリートのブロックを新聞紙に包んで入れておいたけど、それだけじゃ可哀想だから古賀ちゃんの秘蔵画像を一枚…」

古賀は甲斐のわき腹にドスッと素早い左ストレートをお見舞いする。
意外に痛かったらしく、甲斐はわき腹を抑えて苦痛の声を上げる。

「じょ、冗談って分かってる癖に…」

「馬鹿な事やってないで準備してください。『仕事』はあと3件あるんですよ」

「はいはーい」

甲斐は片手を上げてだるそうな返事をする

7:サカナさん ◆1TFQ:2013/06/16(日) 19:55 ID:GvM

宅配詐欺…それは業者を装って、相手に頼んでいない荷物を換金させて騙し取るという、古典的な詐欺方法の1つだ。
勿論、荷物に入っているのはコンクリートのブロックや落書きや新聞紙など、ほぼ無価値なモノなど。
中でも、先程の中年男性のように同棲者とコミュニケーションをあまり取っていない人物が宅配詐欺に遭ってしまい、「多分◯◯が頼んだ品だな」と勘違いして引っかかるケースが多い。

「この仕事終わったらその金で冷やし中華でも食べに行こうよ。今回の仕事なんてただの小遣い稼ぎでしかないんだからさ」

「いいですけど、奢ってくださいよ」

「いや、モチロン割り勘だけどね」

「………」

そんなやり取りをしている、2人のW詐欺師Wを乗せたその軽トラックは、炎天下の住宅街を大きなエンジン音と共に走っていった。

8:サカナさん:2013/08/24(土) 20:37 ID:Wws

第一章『飛べない鳥』

「あらあらあら……大手電機メーカーに契約金の取り込み詐欺、損害はざっと3億円、ねぇ……」

甲斐は新聞の大見出しの部分を広げながら冷やし中華を箸で口に運んだ。
日除け傘の付いた丸テーブルの上には、2つの冷やし中華が並んでいる。

1つは新聞を読みながらボヤく甲斐の冷やし中華、もう1つは不服そうな表情をして、向かい側に座っている古賀のものだった。


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