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1:椎 ◆L/SA:2013/06/29(土) 22:37 ID:/vQ




茜色の光が、
カーテンの隙間から、 差し込んでいた。

随分と長い間考え込んでいたのだろう。

テーブルの上にある紅茶は冷め、
すっかり冷たくなっている。

椅子から立ち上がると、
足元から聞き慣れた声がした。

「なぁ、雫。」

黒い猫は、目を光らせながら、
もう一度、雫、と呼びかけた。

「なに?」

私が問うと、猫は、
毛繕いをしながら言った。

「いつ、この街を出るつもりだ?」

…今、一番されたくない質問だった。

「………」

猫は、呆れたようにあくびをすると、

「まぁ、あと三日が限界だな。
それ以上ここに居たら、この街が危ない。」

と、静かに私を窘めた。

( …そんなこと、わかってる )

私の表情が強張ったのを愉しむ様に、

「俺は、この街がどうなろうと、
知ったこっちゃないけどな」

にゃあにゃあと鳴き声を漏らしながら、
猫は嗤う。

「ユニ」

「…な、なんだよ」

「明日、この街を出ようか。」

猫は目を見開き、へぇ、と目を逸らした後、
「意気地無しめ」の言葉を、吐き捨てる様に呟いた。

2:椎 ◆L/SA:2013/06/29(土) 22:53 ID:/vQ



街を出るのは、私たちにとって、容易いことだった。

街の役所や、大きな道には、そこらじゅうに見張りが居たが、
ユニの力を使えば、そんなのは蟻同然で。

だが、問題は、次向かう街のことだった。

これまで、ずっと北から南に南下してきたのだが、
このままでは、私たちが探しているものが見つかる気がしないのだ。

…翡翠の洞窟。

そこにある湖は、亡くしたものを再生する力があるのだという。

私は、戦によって亡くした両親を。
ユニは、魔法によって亡くしてしまった人間の姿を。

そのために、旅をしているはずなのに…

3:椎 ◆L/SA:2013/06/29(土) 23:10 ID:/vQ



歩き疲れ、不機嫌になった黒猫を抱き、
ただひたすらに進む。

地図通りに進んだって、面白くないからな。

いつか、ユニがそんなことを言っていたのを思い出した。

懐かしいな、と呟き、思わず笑みが零れる。

「なに笑ってるんだよ」

ユニがぶすっとした顔で言う。

「いや、昔をちょっと思い出してた。」

そう私が言うと、
ユニは、「変なやつだな」と笑った。

森が延々と続く小道。
正直、かなり辛い。

だが、これしか進む方法が無いのなら。
楽をしたって意味は無い。

「はぁっ…」

ひとつ、溜息を吐いた時、
ユニが、急に、あれ!あれ!と騒ぎ出した。

「あれってなによ…」

「あれだよ!あれ!」

黒い足が指した方向に目を凝らすと、
家が何軒か立っているのが見えた。

「街だね。」

私は、とりあえず、ベッドで寝られることに喜びを感じた。

「やった!街だ!やっと着いた!」

隣で、ユニがぎゃあぎゃあと騒いでいるが、
ユニをずっと抱いて歩いていた私はもっと疲れてるのになぁと皮肉に思った。

でも、とりあえず、よかった。

安堵と共に、笑顔が零れた。

4:椎 ◆L/SA:2013/06/30(日) 22:05 ID:/vQ



「飯!飯!早く飯食わせろ!」

横で騒ぐ黒猫を無視して、
赤い屋根の家のドアをノックする。

すぐにドアが開き、「どうぞ」と部屋に通される。

ここは、俗に言う宿泊所なのだが、
「普通の宿泊所」では無い。

所謂、追われ身の人間の隠れ家。

「では、ごゆっくり」

白い布で鼻から下を隠した女が、
感情のない目で私を見た。

「はい、ありがとうございます」

…この街には、あと何日くらい居られるだろうか。

ふと心臓がぐらつき、緊張が走った。

魔法違反。それは、
今、世界にある中で一番重い罪だ。

使ってはいけない魔法。
それを使うこと。
死刑に値する重い、重い罪。

…私は、その罪を犯した。

蘇りの術という
禁断の魔法を使おうとし、失敗し、

…情けない。

だけど、それでも、両親を諦めきれなかった。

だから…両親を蘇らせるまでは、捕まる訳にはいかない。

「雫、」

ユニが私を覗きこみ、飯、と笑った。

「そうだね。ご飯食べよっか」

そんな苦しい毎日も、楽しんだもの勝ちだ。

5:椎 ◆L/SA:2013/07/04(木) 17:17 ID:/vQ



夕食を食べ終わり、宿泊所に帰ると、
すぐさまユニはベッドでスヤスヤと寝息を立て始めた。

黒く毛並みの美しい猫も、この姿になる前は青年であったなんて
未だに信じられない。

「でも、確かに性格は青年っぽいかも…」

ベッドで爆睡中の猫を見つめる。
布団に包まり、ベッドのど真ん中で丸まっている黒猫。

「…そのベッド、私が寝るところなんですけど…」

なんて愚痴は、届くハズも無く。

( まぁいっか、地図でも見ようと思ってたし。)

そう思い直し、鞄の中から、
四つ折りにされた紙を取り出し、広げてみる。

…シェルシティ。

私は、北の海の街から来た。
思い出すたびに視界が滲んできてしまうのは。

そこで、両親と暮らしていた毎日が
幸せだったから。

今いる街は、カウェタウン。
シェルシティから約1400km、南下したところだ。

つぎは、どこに行けばいいのか。

「どこにあるのよ…」

地図の中に付けられた、
幾つものバツ印が、辛さを物語っていた。


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