Sound of the heart

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1:あんず ◆cmNs:2013/06/30(日) 00:22 ID:8Sc

*プロローグ*

『心を一つ』にして。

『一つの音』を奏でる。

重ねて、合わせて。


決して『一人』ではできない。


――――それが、『音楽』なんだ。

2:あんず ◆cmNs:2013/06/30(日) 01:03 ID:8Sc

「ねぇ、何やってんのよ!!」

「どうするんだよ……っ」


クラスには怒号が飛び交っていた。
耳を塞ぎたくなるほど煩いくらいに。

そんな事の原因は全て――――


「久実!!」


平然と状況を語っているこの私、加藤 久実なのだが。

私は、クラスの出店を破壊、というそうとうヤバいことを仕出かしてしまった。
でも、でも、全部が全部私が悪い訳じゃなくて。
言い訳苦しいけどさ。

クラスがこんな状態になるまでに、色々とあったんだよ、私にも。


それは数十分前の事。
文化祭まで一ヶ月ということで、文化祭がやけに盛大な、この清蘭高等学校は文化祭のためのクラスの時間を設けていた。
私は一年生。
勿論の事、高校初めての文化祭。
すっごく楽しい、って聞いてたから、結構楽しみだった。

そんな私は結構マジメに働いていた、つもり。
その辺で、何もせずにボーッとしておき、何かができると歓声をバカみたいにあげる系女子でもなく。
めんどくせー、しか言わない消極的やる気無し系女子でもなく。
普通に、真剣に取り組んでいた、よ?

なのに、なのに。

私は、ふざけていた奴等に押されて何かに躓き、何かにぶつかった。
おどおどと顔をあげれば、私に正面衝突された『先程まで』形の出来てきた出店。
足元に冷たいものを感じ、目線を下に落とせば床中にどんどん広がっていくペンキ。

周りの視線はとても痛くて冷たくて。

助けを求めるように仲のまぁまぁいい子に目配せをすれば、責めれるという今の状況に陥った。

……本当、人って最低。

自分も人だけど今回の件でよく分かった。
自分のせいにされたくないあまり、人に責任を押し付け逃げて。
で、巻き沿い食らいたくないから責める。


「ほん、と………っ、さい、て……ぇっ」


下を向いて顔を隠して呟いた。

苦しくて、悔しくて。
目頭が熱くなった。
小さく声を漏らすと、限界が来て、涙が溢れた。
足元に広がるペンキと混じり合うように涙は止まる気配無く溢れだした。
でも、誰も声を掛けてくれやしない。


……もう、いいや。

私はズタズタな心だけを持って、教室というこの空間からすり抜けるように飛び出した。

3:あんず ◆cmNs:2013/06/30(日) 13:30 ID:8Sc

自分の教室がある二階から三階へと上がる階段のところで私は足を止めた。
聞こえてきたのは、足音。
もしかしたら、なんて少し期待しちゃう。
あんなに最低って思ったのに。

でも、足音が近づくにつれ、気になるという思いが高まっていく。
私はつい、後ろを振り向いた。


――――でも。


「何してるんだ、授業中だぞ!!」


後ろにいたのは先生。
クラスメイトが追いかけてきてるかも、なんて期待した私はバカだ。

そんなわけない、って分かっていたのに。
胸がきゅっ、と締め付けられるように痛い。

とにかく先生に何か言わないと。


「えっと、三階に画用紙を取りに行くよう頼まれたので……ここに、います……」


グダグダな理由。
勿論全て嘘。
第一、三階に倉庫はないから、画用紙なんて置いてないと思う。
そんな事、みんな分かっている。

でも、先生は、そうか、とだけ言って通り過ぎた。
きっと、嘘だって分かっているだろう。
でも、嘘だろ、なんて怒らないのは……

――――みんな、面倒な事に関わりたくないからだ。

そして、今の私は、"関わると面倒な人"なんだろうな。

下唇を噛み締める。
もう、このまま消え去ってしまいたかった。
少し言われただけで消え去りたい、なんて弱いかもしれない。
でも、ガラスのハート……簡単に言えばメンタルの弱い私には消え去りたくなるようなことだった。

こんなに苦しいなら――――……

私は階段を駆け上がった。
早く、一秒でも早く、この苦しみから解放されたくて……。

4:あんず ◆cmNs:2013/06/30(日) 16:34 ID:8Sc

三階は、思ったよりいいものじゃなかった。
楽しそうな声。
きっと、文化祭の準備中なんだろう。
見たくないものを見せられたことで、また、胸が締め付けられた。
『嫌だ、見なければよかった』そんな思いが駆け巡る。

しかし、それと同時に私は思ってしまった。

『羨ましい』と。

ふとここは何年何組の教室なんだろうかときょろきょろと周りを見渡す。
と、そこには、1-5の文字。
嗚呼、1-5か。
私は自然と納得してしまっていた。
だってここは、私の憧れの先生のクラスだったから。
きっとこうなるのは当たり前だったのかもしれない。

憧れの先生――――工藤 梓 先生。
若い美人の女の先生。
きっと彼女のクラスに入りたいと思っている人は多いはずだ。
もちろん、若くて美人だから、ってのもあるかもだけど……。

入学式の始まる少し前。
あの時、正直言うと、工藤先生のクラスにはなりたくなかった。
漂うスパルタオーラ。
体が拒否反応を起こしていたと思う。
でも、工藤先生の挨拶で、全部、全部変わった。


『あたしは厳しいことをたくさんお前らに言っていくと思う。ズタズタに言われて苦しいときもあるはず。でも、これだけは覚えてとけ。……いいか。あたしはお前らに苦しいと思わせたからには、その何百倍も楽しいと思わせてやる。』


先生にこんな風に憧れたのも、このクラスになりたいと思ったのも、これが初めてだった。

5:あんず ◆cmNs:2013/06/30(日) 22:34 ID:8Sc

工藤先生の厳しく苦しい発言に耐えることができた後の楽しさというのはどれくらいのものなのだろう。
私はそれを味わってみたかった。
まぁ、結局私は工藤先生のクラスにはなれなかったのだが。
クラスの件も、今日の文化祭の件も、本当、自分には運がない気がする。
それも、ツイてるなんて日、これからずっとこないのかもしれないと思うくらい。
小さくため息をつくと私は視界に少し工藤先生のクラスを残しながらもう一つ上の階、四階を目指して一歩踏み出した。
踊り場にある窓からの荒々しい風が頬を掠める。
何だか風に運を奪い取っていかれた気分だ。
なんてバカなことを考えていると、もう視界に工藤先生のクラスはなかった。

代わり、に視界に入り込んできたのは屋上へと続く階段。
ようやく目的地まで後少しのところまでやって来た。
階段を駆け上がり、屋上前のドアの前に私は立った。
それは意味もなくとても頑丈そうで、何かいけないものでもあるような雰囲気が漂ってくる。
別に、私もたまにここでランチをしたりするから、怯える必要性は零なんだけど。

それでも少し手を震わせながらドアノブを捻る。
が、ドアはガチャガチャと音をたてるだけで一向に開こうとはしない。
ランチタイムはもうとっくに終わったから閉められたのだろう。
いつもはこの時間帯でも開いていると学年に数人はいる『サボり魔』は言っていた。
なのに、今日は閉まっている。
やっぱりこういうところでも運の悪さが裏目に出てしまうようだ。
私は二度目のため息をつくと階段へと腰掛けた。


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