空色恋色愛の色。

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1:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/18(木) 19:30 ID:bdU



こんにちは。
閲覧ありがとうございます。

また新しい小説書いてしまいます。
大した実力もないのにとか言わないでください本当のことなんで←



書き込み禁止。
http://ha10.net/test/read.cgi/yy/1373631885/l20
雑談、感想、評価、アドバイスは全てこちらでお願いします。
ルールを守っていただけなかった場合は(数回繰り返された場合は)
アクセス禁止依頼を出させていただきます。


では、startです。

2:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/18(木) 19:33 ID:bdU





prologue




「大好きだよ」
《君は優しく笑った》


「…機嫌、悪いの?」
《君は不安そうに問いかけた》


「俺、お前以外興味ないよ」
《君は屈託なく微笑んだ》


「結婚しような」
《君は、君は……》

3:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/19(金) 19:17 ID:bdU











――「人を信じるなんて、馬鹿らしいわ」

4:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/19(金) 19:30 ID:bdU







「あの、こんな僕で……、
 こんな僕でよければ、付き合ってくれませんか?」






放課後の教室に小さく切なく響く、
男の子――森野龍之介(もりの りゅうのすけ)君――の声。
彼の顔は紅色に染まり、
まっすぐに私を見据えてくる。







私――岡本夕雨(おかもと ゆう)。
中学二年生、十三歳。
可愛くもなく、かと言ってそこまで不細工でもない、らしい顔をもつ
至って普通な中学生。
そんな私が、告白を受けている。
その事実は認識した途端に、私の頬をも赤く染めていく。
胸の鼓動はドキドキと高鳴り、
頭もクラクラとしてきた。







なんで、こう……なったんだっけ?







.

5:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/19(金) 19:53 ID:bdU







事の発端は、確か今日の朝。
朝、教室に行って自分の席に行き、
机の中に手を入れると指先に違和感。
疑問に思って指先に当たったものを引っ張り出してみると、
それは熊の可愛らしい模様の描かれた丸いシールの貼られた薄い桃色の封筒。
宛名の場所にはもちろん私の名前が記されていて、
ご丁寧にさん付けまでしてくれていた。
その時点で、友達からのものではないことはわかったし、
そもそも……本当の友達は、いない。
だから少し緊張した。
もしかしたら、って。
まだ早めの時間で、教室にはほとんど人がいなかったから、
バックを片付けてから椅子に座って封筒の封を切った。
封筒からは、封筒と同じ色で統一された、
シンプルな桃色の便箋が一枚出てきた。





『岡本夕雨さんへ。


話があります。
今日の放課後、教室で待っていてください。



              森野龍之介』





「森野、君?」




読んだ瞬間、思わず名前を口に出してしまった。
同時に体中の温度が上がる。




だって、
だって森野龍之介君といえば。
勉強はイマイチだけど、運動神怪が良くて、
それと……――すごくイケメン。
クラスで一、二の人気を誇る男の子だ。
そんな森野君が……私に、話?

6:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/20(土) 13:37 ID:bdU





そのあとは緊張の連続だった。
手紙を丁寧に折りたたんで封筒にしまい、
その封筒をクリアファイルの中に丁寧にしまいこんでからも、
何回も文面を思い出しては赤面してた。
両手を顔に当てて、赤くなった頬を隠しても
体の温度は上昇を続ける。
特に、森野君が教室に入ってきて、みんなに挨拶をした時なんかは体温がMAXになってしまった。






放課後。
もちろん授業にも集中できていなくて、
家に帰ってからの復習が大変だろうけど
そんなことは頭の中になかった。
これから起こることしか、考えてなかった。
心臓はうるさく運動を続けている。
息も何故だか上がっている。
少しだけど、体も震えている。
緊張、している。
ふぅっとため息をついた数秒後、突然に教室の扉が開け放たれた。




「ごめん、待った?」




優しげな声が耳を通り抜けた。
その声に反応して、自分のサイドテールを揺らして振り向く。
開いた扉には、少し焦ったような顔をした、ユニフォーム姿の森野君が立っていた。




「待って、ないよ」




少し笑いながらそう言うと、森野君は顔を赤く染めて少し俯いた。

7:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/20(土) 14:01 ID:bdU







「それで…、話って、なに?」




あまり急かすべきではないのかもしれない。
でも、早く聞きたかった。
もしかしたら、って思ってたから。
誤解だとしたら早く解いてほしいし、
誤解じゃなかったらすごく嬉しいから。
だから……、早く言ってほしい。
自分の緊張を抑えるように胸に手を当てると、
バクバク動く鼓動が手でも感じ取れた。
その感じを確かめるともう一度息を吐いて、
まっすぐに森野君を見つめる。
彼はゆっくり歩いて教室内に入ると、
後ろ手に扉をしめながら私に近づいた。




「…話……、なんだけど。
 多分今から俺が言うこと、岡本さんを困らせると思う。
 それでもよかったら…、その、聞いて」




緊張してることがすごく伝わってきて、
私も体がガチガチになってしまって、浅く頷いた。
それを見た森野君は、
静かに深呼吸をする。




「俺、さ。馬鹿じゃん。勉強全然できないし。
 だから、勉強できる人って無意識に目で追っちゃうんだ」



森野君はハハッと軽く笑ったあとに、
「岡本さんみたいな人を」と付け足した。
そしてもう一度息を深く吸い込んで、口を開いた。




「岡本さんも最初はそんな感じで見てた。
 なんで勉強できるんだろうって、どれだけ努力してるんだろうって。
 でも、気づいたら岡本さんだけは違う意味で追ってた。
 気づいたら……、岡本さんのことだけ目で追ってた」



ゆっくりと話す森野君の声は、
優しくて。それなのにどこか切なげ。
森野君の声が一つ一つ頭に刻まれるたびに、
ドキドキという鼓動の音が大きくなっていく。
これって、ひょっとして、ひょっとしなくても……。



「……俺、岡本さんのこと好きです」




告白、ってこと?

8:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/20(土) 14:21 ID:bdU







「あの、こんな僕で、
 こんな僕でよければ、付き合ってくれませんか?」




ドクン、ドクン。
鳴り響く鼓動。
その鼓動が、私の言葉を邪魔する。
心臓が口から飛び出てしまいそうなくらい、近くでなっているような感覚。
人生初の告白してくれた相手がクラスで一、二の人気者。
こんな幸福があっていいんだろうか。
もちろん、返事は…。





「……は、い」





俯き加減で呟き程度の声で発したその言葉を、
森野君の耳はしっかりと捉えたらしい。
私が言葉を発した直後に、彼は顔を上げた。
息を吸うような仕草と音が私の耳に届いた。





「本当……!?」




森野君は心底嬉しそうに私に聞き返す。
今度は声を出すのすら恥ずかしくて、
浅く頷いただけだった。
頷いただけだったけど、
森野君を上目遣いで見上げると、彼の顔は喜びに溢れていた。

9:ひなの@ ◆NLsI:2013/07/21(日) 09:47 ID:bdU







「よかった、フラれると思ってたからすっげー嬉しい!!」




自分が部活に遅れそうなことはきっと頭にないんだと思う。
そんなこと気にする様子もなく、
飛び上がらんばかりに喜ぶ森野君。
こういうところが、色々な人からの人気を集める理由なんじゃないかな。
見てて幸せになれるというか、楽しいというか。
ふわふわする気持ちになれるから。
だから、みんな森野君が好きなんじゃないかな……。





そのあとのことはよく覚えてない。
幸せボケとでも言うのかわからないけど、
ちゃんとした記憶はなかった。
ただはっきりしていたのは、
携帯番号とメールアドレスを交換して、
学校では関係を知られないようにしようと決めたことだけ。
今までなかった存在が携帯の中に確かに息づいていて、
すごく幸せな気持ちになった。






このあと、起こることなんて知らずに。

10:ちあ@ ◆NLsI:2013/07/21(日) 22:46 ID:bdU







次の日の朝、目覚めは最高だった。
まだ少し信じられなくて、
朝おきて一番にした行動が自分の頬をつねるというわけのわからないこと。
それくらい動揺していた。






学校に着くと、いつもどおりみんなより早く着く。
だから誰もいない教室に入った、はずだった。
そう、はずだった。
教室に入ると、そこにはもう既にある人影。
扉に背を向けてたっている男の子がいた。
……男の子、というか。
森野君…?
まだ見慣れていない後ろ姿だけど、間違えるわけが……ない。
この後ろ姿は、森野君だ。
いつもは誰もいないのに……。
そう思いながら自分の机にバッグを置くと、
森野君(らしき人影)は驚いたようにこちらに振り返った。





「あ、岡本…さん」




やっぱり、森野君だった。
私を見て少し動揺しながら、
顔を僅かに赤く染めている。
そんな森野君を見ながら、軽く笑顔を作る。





「おはよう、森野君」





緊張で言葉が出ないなんてことがなくてよかった。

11:ちあ@ ◆NLsI:2013/07/26(金) 09:11 ID:bdU







もちろん緊張はしているのだけど、
それを表に出さないようにはできた。
いつもやっていることだから、よく考えれば普通かもしれない。
だけど、
多分いつもとは状況が違う。
昨日できたばかりの“彼氏”と、
いつも表情を表に出さないように接しているクラスメイト。
私の中で相手の立っているポジションが全く違う。
だから…、やっぱり普通じゃない。






「森野君…、今日早いよね?」





教室に入ってからずっと持っていた疑問を、
バッグから教科書を取り出しながら問いかける。
その疑問に彼は、
数秒の間を置いて答えた。






「岡本さんがいつも早く来てるの知ってたし、
 早く会いたかったから早く来ちゃったんだよ」






それはそれは恥ずかしそうに、
でも幸せそうに。
顔を少し赤く染めて答えてくれた。
そんな森野君は、すごく可愛かった。

12:ちあ@ ◆NLsI:2013/07/31(水) 11:58 ID:bdU





もちろんそんな回答を聞いて私の体温が上がらないはずはなく、
吐き出された言葉に体温は上昇、頬は赤化。
恋愛経験がうすいってかなり辛い。
片思い経験すらないんだもんなぁ…。
そんなことを考えていると、
森野君は立っていた位置、窓際から移動して私の方へと近づいてきた






「ひゃっ」





突然私の頬に触れる、大きめの手。
びっくりしすぎて変な声を出してしまった。
それを見て、
原因を作った張本人である森野君も笑いをこらえている。
つられて私も少し笑えて、
そのまま少しのあいだだけ二人で笑っていた。
そして笑い声も途絶え教室がしん、と静まった数秒後。
森野君は私の頬に手を当てたまま言葉を紡いだ。





「俺…、さ。
 岡本さんが彼女…になってくれてからすげー実感したんだよね。
 めちゃくちゃ岡本さんのこと好きだって。
 今までそれなりに恋愛はしてきたけど……、こんな好きになったの初めてなんだ」





紡がれた言葉は優しく私の心に浸透していく。
朝の風がそっと吹き抜けるのが
火照った体にちょうどいい。
セリフが恥ずかしくてついつい下を向いてしまっていた私は、
静かに顔を上げてみる。
顔を上げれば身長差が二十センチくらいなため、
そして彼が私の顔を覗き込んでいるため。
顔と顔との距離は実際の差である二十センチもない。
ただでさえ大きく動いていた鼓動はさらに大きく動きはじめ、
貧血の時のように頭はクラクラし始める。
私が落ち着こうと思い深呼吸をすると、
同じことを考えたかのように森野君が同じタイミングで深呼吸をした。
なんかシンクロしたみたいで嬉しい。
深呼吸をすると、
私は再びうつむいてしまった。
恥ずかしくて森野君の顔が見れない……。
なんて思っていると
頭上から再び降り注ぐ森野君の声。





「だから……俺の、自慢の彼女でいてください。
 大好き……、で、す」





最後の方は彼も恥ずかしかったようでカミカミだったけど。
気持ちはすごく伝わってきて、
朝から、しかも学校で泣いてしまいそうになった。

13:ちあ@ ◆NLsI:2013/08/05(月) 21:46 ID:bdU







「もちろん、です」





恥ずかしさを抑えて顔を上げると、
優しげな、切なげな、柔らかげな、幸せげな。
そんな森野君の笑顔が視界に広がった。
それだけで自分も幸せになれた。








「……あ、岡本さん」






それから少しの間、
二人で窓から見える景色を見ていた。
会話は少ししかなかったけどすごく楽しい時間。
だって隣を見れば、
初めて出来た“彼氏”という存在が静かに色づいていて。
そのことをしっかりと認識すれば
またドキドキと心臓が高鳴る。
そんな時間だったから。
だから、
その幸せな時間が突然終わりを告げたことが少し悲しかったけど、
終わりを告げた理由が森野君の声だったから
それだけで悲しみは吹っ飛んだ。
かけられた声に対して、
二秒間の間を置いて「なに?」と返す。
すると森野君は元々赤めだった頬をさらに少し赤くして
私に向かって声を発した。






「名前で、呼んでくれない?」

14:如月ちあ@ ◆NLsI:2013/08/06(火) 22:49 ID:WRs







森野君の発言は私の思考を停止させるのには十分で。
私は静かな教室内を更に静かなものにしてしまった。
森野君はやっぱりいつもみたいに、
恥ずかしそうにうつむいていて。
窓の外を通り過ぎる風だけが、存在を大きく示していた。





「名、前?」





やっとのことで出てきた言葉はとぎれとぎれで、
もちろんそんなに動揺するべきことではないはずだけど。
最近初めてのことづくしで……。
何があっても動揺してしまう。
私の言葉に、「うん」と頷く声。
その声もどこかに動揺と恥じらいを隠し持っていた。






それと同じくらいに、
私の中にも恥じらいが生まれていた。
名前で呼ぶ、というのは、
男子を名前で呼ぶ、というのは、
小学校の時以来で。
中学校に入ってからは男子のことを名前で呼んだことなんてなかった。
必ず苗字に君付け呼び。
小学校の頃に名前で読んでいた男子も何故か、
苗字に君付け呼びに変わっていた。
だから、
名前で呼ぶ、というのはかなり勇気のいることだった。
それでも私は、口を開いていた。
静かに、ゆっくり、躊躇いながら。
口を開いていた。





「りゅ、りゅうのすけ……君、」





言葉を口から吐き出した瞬間、
顔がボッと熱くなる。
心臓もバクバクと大きな音を立てて絶賛暴走中。
でもそんな私を見て、
森野君――龍之介君は満足そうに笑顔を浮かべた。





「龍でいいよ、ゆ、う」





自分も噛みながら、それでもはにかみながら言葉を発する龍之介君。
整った顔に浮かぶ笑顔はものすごく輝いていた。

15:ちあ@ ◆NLsI:2013/08/10(土) 23:24 ID:WRs













時は流れて、
今はセミの鳴き声が耳をつんざく八月上旬。
つまり夏休み。
二人の関係は壊れることなく、
むしろ仲の良さを増していた。
あの日名前で呼び合うという少し恥ずかしくもくすぐったくて嬉しい関係になって
私は彼のことを龍君と呼ぶようになっていた。
龍君は私のことを夕雨と呼んでいて、
龍君が“夕雨”と呼ぶたびに未だに心臓の音が激しくなる。
それくらいに初々しい“好き”という気持ちがあった。







「…遊園地?」






『うん。たまにはどうかなーって思ってさ』






セミは鳴き止むことを知らないある日の夕方。
ベッドの上で本を読んでいたら突然鳴り出した携帯電話に驚いて
飲んでいたコーラを手から落としそうになってしまった五分後。
着信の相手であった龍君との会話の中で
久しぶりに聞いた単語がでてきた。
“遊園地”
デートの定番といえば定番なその場所。
龍君の声で、遊園地に誘われたという事実を認識するまでに少し時間を要した。

16:如月ちあ@ ◆NLsI:2013/08/11(日) 18:49 ID:WRs







もちろんそれは世に言うデートのお誘いというやつで
龍君の声が通話口で『デート…行かない?』と言った瞬間は
心臓が飛び出てしまうくらいドキドキした。
数ヶ月付き合っているけれどデートはしたことがないから、
初デート、ということになる。
嬉しい半面、恥ずかしいという気持ちもあったけど
私は笑顔で「行く」と答えを返していた。






そのあと軽く話し合って行くのは明日になった。
この間家を教えたから、
明日の朝十時に家まで迎えに来てくれることに。
嬉しくて通話中もずっと心臓が鳴り止まなかった。












「お姉、入っていい?」





夜の七時。
外はまだ暗く染まりきっていない時間。
私は姉の夕夏(ゆか)の部屋の扉をノックしていた。
突然開けるとR18な光景が広がっていることがあるため注意が必要。
だから必ずノックをしなければいならない、というルールが自分の中にある。





「いいよ〜」





お姉の声が聞こえたことを確認すると
私は静かに扉を開けた。
ガチャっという音が静かな廊下にうるさく響く。
部屋に入ると、いつもどおり甘い薔薇の香りが鼻をくすぐった。
お姉はベッドで雑誌を読みながらスナック菓子を頬張っていた。
扉を開けたのにこちらに顔を向けすらしないけど
お姉はかなりの美形だ。
なんでこの人の妹なのに私が可愛くないのかが不思議なくらい。
そんなお姉が寝転んでいるベッドに近づいて
お姉の肩に軽く触れた。





「お姉、ちょっと聞きたいんだけど」





お姉は雑誌に向けられていた顔を私の方に向けて
不思議そうな顔を作る。
お姉のこの顔は「要件を話せ」という合図。
私はちょっと躊躇いがちに口を開く。





「お姉はデートの時どんな服着てく?」

17:ちあ@ ◆NLsI:2013/08/30(金) 18:54 ID:WRs







私がそんなことをお姉に聞くのは初めてのことで、
お姉は一瞬思考停止したかのように固まった。
そして数秒固まると、突然目を見開いて声を上げた。






「嘘、夕雨彼氏できたの!?いつの間に!?ねぇいつの間に!?」






そういえば、家族に彼氏が出来たこと話してなかったんだっけ。
興奮状態のお姉にとりあえず落ち着くように言ってから
龍君と付き合うに至った経緯をゆっくり話した。
話し終わった頃には七時半を回っていた。






「ほぉ〜……。で、明日が初デートなのか」





納得というような表情をしたお姉は、
話を聞く前に座り直していた体を立たせてクローゼットに向かっていく。
そしてクローゼットを開け放つと、
大量の服がかけられている中に手を伸ばした。
その中から何枚か服を取り出してベッドに投げるようにして置く。
しばらくその作業をしていたお姉の手が止まった時には
ベッドの上が服で埋まっていた。






「デートの時にはこんな感じかなぁー」





お姉が出した服はどれも可愛い。
ひと目でブランド物の高い服だということがわかった。





お姉は実は水商売をしているらしく、
お客さんから服をプレゼントされたりもするらしいし
そもそも給料が高い。
そんなわけで高いブランド物が買えるらしい。
よくは知らないけど…。
そんな服の中からお姉が何枚か更に選んでいく。
私の顔と交互に見ながら真剣な顔で選ぶ。
そんなお姉を見ながら私は静かに待っているしかない。

18:ちあ@ ◆NLsI:2013/08/30(金) 19:51 ID:WRs







「夕雨に似合うのはこんな感じかな?ちょっと着てみて」





お姉に渡されたワンピースをよく見ずに着替え始める。
お姉はちゃんと見ないようにしながら、
また他の服も見ている。
背中を向けて着ているタンクトップを脱いでキャミソールの上からワンピースをかぶる。
肌触りのいい素材で、気持ちいい。
着終わってお姉に声をかけると顔を上げてこっちに歩いてきた。







「やっぱり、似合ってる。素材がいいと何着てもいいのねー」







語尾に音符をつけたような話し方で私を見るお姉。
お姉の言葉に自然と顔が赤くなる。






「いや、お姉何言ってんの!
 お姉の方が素材いいでしょ、ていうか本当に似合ってる…?」





「あたしなんか、ねぇ。
 似合ってるに決まってるでしょ、アンタ誰の妹で誰が選んだ服だと思ってんの」





笑いながら言われると現実味が薄れるけど
多分お姉は嘘をつかない。
正直今私が着てる服は初めて着る類のワンピース。
薄いピンク色がベースになっていて、首元に白い大きめの襟がついている。
胸の下に大きめのベルトを占めるようになっていて、丈は短い。
太ももがほとんど露出している。
少し恥ずかしいけど、お姉は満足そうなのでそれは言うのはやめておいた。






「じゃ、明日それ着て行きなね。靴はアンタがいつも履いてる白いサンダルでいいよ。
 髪の毛はあたしが朝やったげる。バッグはそこにある中で好きなの選んで使っていいよ」






「うん、ありがとうお姉!」







なんだかんだ言って、お姉は優しい。
そんなお姉が大好きだ。

19:ちあ@ ◆NLsI:2013/09/28(土) 12:34 ID:WRs












翌日、起床予定時刻は七時だったにもかかわらず六時に目が覚める。
両腕を上にあげて軽く伸びをすると、
ベッドの下に揃えてあるスリッパを履いてリビングへと向かう。
雀のチュンチュンという囀りが窓をはさんで耳に届いた。






「おはよー」






リビングの扉を開け放って顔を覗かせると、
お母さんが朝ご飯の支度をしているところだった。
休みの日は七時か八時に起きてくる私が六時に起きてくるのは珍しいことで、
卵を焼きながらお母さんはさも珍しいものでも見たかのように挨拶をする。
その声に少しだけ反抗的な意を含ませながら微笑み、
ソファーに体を沈めてテレビをつける。
朝のニュース番組がやっていて、
綺麗な女性アナウンサーが起こった事件を淡々と伝えていく。
少し前に起こった殺人事件の進展状況、コンビニに車が突っ込んだ事故。
伝えられる事件の内容は頭には入ってこないけれど、
一つの事件をアナウンサーが伝え始めたところで私の意識はテレビに向けられた。





『――本日未明、神奈川県○○市で通り魔事件がありました。
 被害者は中学三年生の花田叶愛(はなだ かなえ)さん十五歳。
 叶愛さんは塾の帰り道、前から歩いてきた男に突然腹部を刺された模様で、現在意識不明の重体です。
 尚、警察では無差別殺人未遂事件と見て捜査をしています。
 では、次のニュースです』





「お母さ、」





「叶愛ちゃん!?」





私がお母さんを呼んだ瞬間、お母さんは叶愛ちゃんの名前を呼んだ。
二人で顔を見合わせる。
お母さんの顔は青ざめていた。





花田叶愛。
私の一個上の親戚のお姉さん。
神奈川県と千葉県という割と近いところに住んでいることもあり、
昔から仲が良かった。
そんな叶愛ちゃんの名前を、今さっきアナウンサーは冷たい声で伝えた。
その事実は、今日のデートのことなんか頭から吹っ飛ぶほどの衝撃だった。

20:如月ちあ@ ◆NLsI:2013/10/06(日) 18:56 ID:WRs













その日の正午、私は神奈川県行きの電車に乗っていた。
右隣には、お姉。左隣には……、龍君。
お姉の隣にはお母さんが座っている。
数時間前、お母さんの携帯に着信があった。












その時、お母さんは神奈川に行く準備に追われていて、
着信に気づいたとしても出ることはできなかったと思う。
ちょうど携帯が鳴った時に私がそばにいて出られたけど、
本当はあまり出たくなかった。
着信相手が、叶愛ちゃんのお母さん、紗奈(さな)さんだったから。
それでも出ないわけにはいかず、
ガラパゴス携帯を通話状態にすると突然紗奈さんの甲高い声が耳に飛び込んできた。






『もしもし、薫子(かおるこ)!?』





薫子というのは私のお母さんの名前だ。
切羽詰った声が飛び込んだ瞬間、
何度も確認した夢じゃないという事実が更に脳に溶け込んだ。






「お母さんは今、着替えたりしてる。私、夕雨だよ」






私がそう受け答えすると、紗奈さんは納得したかのように息を吐いてから言葉を発した。
機械を通した声が耳の奥に届く。






『夕雨ちゃん、よく聞いて。
 叶愛がね、通り魔事件にあったの。
 ニュースで見たかもしれないんだけど、今意識不明の重体でね。
 薫子に来て欲しいんだけど…。
 薫子にそう伝えてくれない?』





早口で話す紗奈さんの声の中には、
とても大きな事実が含まれていた。
とりあえず「分かりました、伝えておきます」と答えて電話を切って、
二階で支度をしているお母さんの元に駆けていった。

21:如月ちあ@ ◆NLsI:2013/10/19(土) 10:48 ID:CmY







「お母さん」





寝室で慌ただしく支度をしているお母さんに
扉の外から声をかける。
声に反応してお母さんがこちらを向くまでの時間はわずか数秒だった。






「どうしたの?」





柔らかい声色を作ってはいるものの、
切羽詰った感じは隠せていない。
そんなお母さんに先ほどの電話のことを伝えると、
お母さんは更に慌てた様子で支度を再開した。
それを見ながら二階にある自分の部屋に戻って、携帯を手に取る。
龍君に連絡しなきゃ。
時間はもう九時過ぎだ。
早く連絡しないと龍君が家を出てしまう。
こんな時でも、連絡しなくちゃいけない時でも緊張はする。
震える手でアドレス帳から龍君の名前を出して、発信ボタンを押した。







『もしもし?』





わずか三コール目で龍君は電話に出た。
低く透き通った声が耳の奥に浸透する。







「あのね、龍君。私だけど……」






正直、言葉に迷った。
行けなくなった、なんていうのは辛いし。
行けない、っていうのは感じ悪いし。
行きたくない、なんていうのはもってのほか。
なんて言えばいいのか分からずに、少し沈黙が出来てしまった。






『……夕雨?もしかして、行けなくなった?』





黙っている私に気を使ったのか否か、
突然龍君が電話口の向こうで声を発した。
そして図星。
言わなくてはいけないことを、
言わなくてはいけない相手に代弁されるというのは奇妙な気分だ。

22:ちあ@ ◆NLsI:2013/10/27(日) 06:40 ID:CmY








「う……ん、そうなの、親戚のお姉さんがちょっと事件に巻き込まれちゃって。
 神奈川までいかなくちゃいけないくなっちゃったから……」







伝えるべき一番大きな“事実”が話題上に既に出てきていると
あとからの理由の説明は淡々とできる。
数学の証明と同じだ。
大事な部分だけ掴んでしまえばあとは淡々と解くことができる。
そんなことをこの会話中に考えられるだけ、
私はお母さんや紗奈さんよりも冷静でいられているのかもしれない。
思考が途切れず、通話に集中できないでいると、
突然龍君の声が耳に飛び込んだ。







『出発、いつ?』






集中していなかった私は危うく聞き逃すギリギリのところで言葉を聞き取る。
そして数秒思考してから口を開いた。







「多分、あと三十分くらいしたらだよ」






お母さんの化粧にあと十分。
お姉を起こして支度させるのに十五分。
で、お父さんへの連絡やお母さんの仕事先への連絡をするのに五分弱。
逆算して三十分位かかるはずだ。







『わかった、今から行く』






「え?」






またしても集中していない時の突然の言葉。
龍君の言葉は、いつも不意をつく。
そんなことは今はどうでもよくて。






「今から行くって……?」






『だから、俺が今から夕雨の家行くの。で、一緒に神奈川行く』







…………理解、不能だ。

23:ちあ@ ◆NLsI:2013/10/28(月) 10:37 ID:CmY













そしてその言葉通り、龍君は本当にすぐに私の家に来てくれた。
お母さんに龍君のことを説明するのに少し手間取ったけど、
お姉は龍君を見てテンションマックス状態で、お姉を何とかするのに一番手間取った。






そんなこんなでうちの家族プラスアルファ龍君で
神奈川行きの電車に乗ることになった。
龍君は自分の切符代くらいは自分で出すと言っていたけど
お母さんが押し切って結局お母さんが勝手に買っていた。
電車の中では、ほとんど誰も喋らず静かな空間が広がっていた。
不安で震える私の手を、
左隣の龍君がずっと握ってくれていて、
すごく安心できたのを多分私は忘れない。












「薫子、夕夏ちゃん、夕雨ちゃん!」





神奈川県に住んでいる花田家の最寄駅につくと、
紗奈さんが駆け寄ってきた。
昨日から寝ていないのか、
いつも会うときにしっかりと施されている化粧は崩れ始め、
髪の毛は後ろで一つに束ねられているもののどこかぺたりとした印象。
普段はフェミニンな装いが多い服は白色の半袖のブラウス、
灰色の膝丈スカートという比較的落ち着いた物になっている。
何よりも少しやつれ、目の下に隈ができている。
どこからどう見ても疲れていることがわかった。







「姉さん、大丈夫?」






お母さんが駆け寄ってきた紗奈さんの頬に手を当てる。
微妙に紗奈さんの方が背は高いが、あまり違和感はない。
スカートのポケットから取り出したハンカチで目を抑える紗奈さん。
お母さんはそれをじっと見ている。
お姉は携帯の画面を見ているから例外としておいておくとしても、
何をしたらいいのかわからない私と、
花田家と何の関係もない龍君はただお姉の横で佇むしかなかった。
しばらくその状態が続いたあと、
紗奈さんに案内されて叶愛ちゃんの入院している病院に向かう。
通された病室は一人部屋で、広めの部屋の奥にベッドが置いてある。
その上に機械に繋がれた叶愛ちゃんが横たわっていた。






「……事件にはなんも、進展ないみたいだね」






電子機器を使いながら病院に入るのは気が引けるという理由で
みんなよりも遅れて病室に入ってきたお姉がドアを開けた瞬間呟くように言った。
その手には電源を切った携帯が握られ、
お姉はお姉で気を利かせたことがひと目でわかる。







「進展ないって?」







お母さんがお姉に問いかける。
それにお姉は考える素振りを全く見せずに
淡々と語り始めた。







「今ニュース見てたんだ。事件のことは報道されてる。
 でも朝見たニュースと同じ。
 塾から帰る途中、男に腹刺されたってことしか言ってないからさ。
 ネットでもニュース拾ってみたけど無駄だったよ」






相変わらずお姉は考えることと行動力が違う。
いつの間にか私たちの一歩先にいる。
気がついたらお姉は私の隣に立っていて、
ベットを挟んで向かい側にいる紗奈さんに向かって問いを投げる。






「叶愛の体のこととかは何も調べてないんですよね」






一瞬、問いかけの意味が理解できずにその場の全員が固まった。
しかし数秒後には私を除いた全員が理解したようで、
紗奈さんが「調べてないわ」と答える。
お姉が満足したように頷くと、
眠っている叶愛ちゃんの顔を軽くなでた。






「仕事先に連絡入れてくる。休むって」





携帯の電源を入れながら病室をあとにするお姉。
真面目なんだか、不真面目なんだか、
よくわからない人だ。

24:ちあ@ ◆NLsI:2013/11/01(金) 18:55 ID:CmY













「……で、この男の子は?」






こっちに着いてから、紗奈さんがずっと気になっていたであろう言葉を
花田家に来て数分後、やっと紗奈さんが口にした。
説明のしようがなくて黙っていると、
龍君がそっと口を開く。






「はじめまして。夕雨さんとお付き合いさせていただいている、森野龍之介といいます。
 本日はお邪魔させていただいてしまい、申し訳ありません」






丁寧な自己紹介を横で聞き、
事実ながらも恥ずかしさで赤くなる私。
そしてその向かいのソファでまだ信じられないという顔をする、
数時間前に同じ説明を受けたお母さん。
そしてもっと信じられなさそうな顔をする紗奈さん。
……ちょっと、失礼な。






「夕雨ちゃんに彼氏が…。
 大したお構いもできませんで……」






結婚報告みたいな感じになってるけど、それはもう置いといて。
なにげに少しテンションが上がっている紗奈さんを見てしまったことも見ないことにして。
紗奈さんに出されたミルクティーに手を伸ばす。
軽い甘味が私好み。
同じ家庭で育ったおかげかお母さんの味と似ている。
飲むと少しだけ安心する。












そしてしばらく時間が経ち、
日は暮れて辺りは闇に包まれた頃。
……と、いうか。
もう既に時計の短針が十一を回り、
龍君と疲れきったお姉が寝静まった頃。
突然、紗奈さんの携帯が鳴り出した。

25:ちあ@ ◆NLsI:2013/12/11(水) 17:55 ID:CmY









その場にいた全員が、突然の着信音に身震いする。
紗奈さんは机の上に置いてあった携帯に手を伸ばし、
発信先を確認し「病院からだわ」と一言いってから通話を始める。







「はい……、はい、本当ですか!?……はい、わかりました、すぐに向かいます」







紗奈さんは慌てた口調で話し終え、通話を切る。
切ると同時にこちらを振り向き、
何かを伝えるように口を開こうとする。
しかし乾いているのかなかなか声が出ない。
戸惑い、動揺。
見て取れるのはそんな感情だ。
数秒間そうしたあと、紗奈さんはやっとのことで声を発する。







「叶愛の意識が……戻った、って」






紗奈さんの絞り出したような声を聞き、
その場にいた全員は一瞬固まった。
しかしすぐに状況を理解し、夜中にもかかわらず大声を上げてしまった。
そのせいで快眠していたはずのお姉と龍君まで起きてくる。
二人にも事情を話し、
喜びすぎて興奮気味のお姉を無理やり黙らせ車に押し込み、
病院まで全員で向かった。
もちろん後日近隣住人から苦情が来たのは言うまでもない。










夜の病院というのは不気味なものだ。
たとえ中に愛しい、何物にも変えがたい人がいたとしても
一人で入っていくには相当の勇気を要する。
しかし今はそんなこと言ってられない。
病院に行き、
担当の医者と一緒に叶愛ちゃんの病室まで一気にあがる。
いつもは寄るらしい売店も今日はスルーだ。

26:ちあ@ ◆NLsI:2013/12/24(火) 15:36 ID:CmY







コンコン。
冷たいノックの音が私達しかいない病院の廊下に響く。
そして担当医師の権限からか、
返事が返ってこないうちにもう扉を開ける。
後で気づいたことだけど、
叶愛ちゃんは確かに意識は戻っていたけどまだちゃんと喋れる状態ではなかったから
返事が返ってくる可能性は低かったみたいだ。
それはともかく、
扉を開けるとさっきはベッドに伏して目を閉じていた叶愛ちゃんが
今はベッドの上に座ってこちらを不思議そうな虚ろな目で見つめていた。






「――叶愛っ!!」






紗奈さんが叶愛ちゃんを見て飛びつく。
それを受け止める叶愛ちゃん。
扉の入口から中に入るのが躊躇われ、
紗奈さん以外はみんな外で待機状態。
しばらくそのままの状態で
気づけば時間が流れていた。
紗奈さんが正気に戻ると、担当医師に連れられて診察室に向かった。


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