勿忘草。

葉っぱ天国 > 小説 > スレ一覧 [書き込む] Twitter シェアする? ▼下へ
1:うにゃ ◆4AUw:2013/07/24(水) 14:21 ID:gOU

「…はっきり言います。癌です。それも末期の。…もって3カ月…短ければ1カ月…。」

暗い顔で医者が告げる。




私はただ無言でその顔を見詰めた。




…ガン、か


頭の片隅でただ冷静に考えた。

てっきり、普通末期ガンとか言われたらもっと慌てたりパニックするもんだと思ってた。
それともこれが普通なのかな。


…あぁ、まだ全然生き足りないや。

2:うにゃ ◆4AUw:2013/07/24(水) 14:25 ID:gOU

私の名前は、川里 愛華。
容姿は普通。取り柄もそこまでなくて、ただ普通の女子高生。
成績も普通。
今年で18歳になるはずだった。

でもどうやら私は18歳にならずと死んでしまうらしい。

両親は健在。父は普通のサラリーマン、母は普通の専業主婦。
普通に仲睦ましく、幸せな家庭だった。

友達もいっぱいいたし、彼氏もいた。
付き合ってもう2…3年だっけ?


平凡でありながらも、とても幸せな人生を過ごしていた。



…何でこんなことになっちゃったんだっけ。

3:うにゃ ◆4AUw:2013/07/24(水) 15:09 ID:gOU

医者が明日にはもう既に入院しなければならない、と言った。
だけど明日も学校なのに。

…でももういいかな。


どうせ死んじゃうんだし、行っても行かなくても同じ。

どうせ皆を悲しませるだけだよ。



何で私はこんなに冷静なんだろう。



隣でお母さんが大声をあげて泣き出した。
お父さんはそんなお母さんを抱きしめる。


そんな光景を、自分でも嫌になるほど冷静に見つめていた。


悲しそうだな。

…こんな顔を皆にさせるのは、嫌だな。



死にたくない、な。



温かい雫が頬を伝って、膝に落ちる。
視界が滲んでいた。

私は泣いていたんだ。


…嗚呼、私、死んじゃうのか…。



胸が痛む。
針で刺されたような、誰かが内側から叩いているような、握りしめているような、そんないいようのない痛み。

でも、残されたものの痛みはこれ以上。


大丈夫、大丈夫。

私は自分に言い聞かせた。


これが最後の涙だ。



これ以上の涙を見るつもりも、流すつもりもない。




5月14日。

この日、私は心を閉じ込めた。

4:うにゃ ◆4AUw:2013/07/25(木) 15:16 ID:gOU

母と父が次々と病室の手配をしていく。
その間、一人のナースさんが私を連れて一つの病室に入った。

「ここが貴方がこれから生活する部屋よ。」

にっこり、と澄んだ笑みを浮かべるナースさん。
きっとこういうの、慣れてるんだろうな。

私は無言で自分のであろうベッドに向かう。
その間、じっと同室の人たちが私を見ているのを感じた。

「じゃあ、お母さんたちが来るまでここで待っていてね。そこまで時間はかからないはずだわ。」

そう言ってナースはそのまま扉の外へと消えていった。
ベッドにゆっくり腰かける。
右隣も左隣もベッド。
目の前も、…合計で六つのベッド。

病室は嫌なほど真っ白で、御蔭様で頭の中も真っ白になっていく。

「…ねぇ、お姉ちゃん。」

いきなり声をかけられて、大げさなほど肩がふるえる。
気付けば、隣に寝ているのは小さな男の子だった。

多分、まだ中学生にもなってない。

「お姉ちゃんも、ガンなの?」

その言葉にはっとなる。
じっと、その子供を見つめてみた。

病衣を身にまとっていて、その隣に置いてある机には絵本から薄めの小説など、いっぱい置いてあった。

…こんな小さな子供まで。
よく小説だの映画だので、そんなのを見るけど…実際に目の当たりにしてみると…とてもいたたまれない。

「…そうだよ。」
「そうなんだぁ…僕もガンなんだ!でもねぇ、お医者さんが絶対助かるよって!」
「…そっか。」

私は小さく笑みを浮かべた。
明るく振る舞うこの子に、なんとなく勇気を引きずり出された気がした。

「名前は、なんていうの?」
「お母さんはいつもユウちゃんって呼ぶよ!お姉ちゃんもそう呼んで欲しいなぁ」

ユウちゃん、と小さく呟いてみる。
そうすれば子供は満面の笑顔を浮かべて、嬉しそうにしていた。

そのうち、ナースさんが部屋に入ってきて私の名前を呼んだ。
その後ろでお母さんがいまだに泣きはらした目から相変わらず涙を零しながらついてくる。
そんなお母さんの肩を、きつくお父さんは抱きしめた。

「愛華…今日から貴方はここで住むのよ…。着替えとか、欲しいものは何でも持ってくるからね。」

お母さんが私のもとへやってきて、膝を床につく。
近くで見ると、お母さんの顔は本当にぐしゃぐしゃになっている。

ハンカチを持ったその指で、私の頬を撫でる。
お母さんの親指は随分冷えていて、その感触が少し気持ちよかった。

「…嗚呼、そんな顔しないで…お願い…笑って、ね?毎日会いに来るわ。愛してるわ愛華…」

駄目。
泣いちゃダメ…

泣いちゃ…

「大丈夫だよぉ!お姉ちゃんのお母さん!お医者さん、僕はガンだけど絶対治すって言ったんだ、だからね、お姉ちゃんも絶対大丈夫!」

ユウちゃんが明るく拳を握り、ガッツポーズを決めた。
その様子に、私は堪えられなくなった。

「…っ、ごめんなさ、お母さっ…お父っ…も、これで、泣くの、最後にするからっ…!」

思うように言葉が出ない。
馬鹿みたいにしゃくりあげて、嗚咽が言葉を消しさる。

怖い。
怖い。
怖い。

死にたくない。

お母さんとお父さんが泣きながら私を外に連れ出す。
ナースさんが部屋の扉を閉めた。

それが鍵かのように、私は壊れたように泣きだした。


馬鹿みたい、さっき最後の涙って決めたばかりなのに、また泣き出しちゃって。


それでも、止まらない。
お母さんとお父さんが優しく抱きしめてくれる。



私は声をあげて泣いた。

5:うにゃ ◆4AUw:2013/07/27(土) 13:18 ID:lT2

隣でユウちゃんはもう寝てしまった。
気持ちよさそうに、ぐっすりと眠っている。

窓を見れば、もう暗闇しか見えない。
部屋の明かりも既に消されていて、耳を澄ませば誰かの寝息が聞こえた。
そんな暗闇の中、私は暗闇に慣れた目であたりを見回す。

小さく声をあげて、ユウちゃんが寝がえりを打った。

それを傍目に、私は自分の所持物から携帯を取り出した。
お母さんは一旦家に帰ってしまった。
明日、着替えなどの必需品を持ってきてくれるらしい。

震える手で携帯の電源をつける。


画面には、氷雨の名前。


赤坂 氷雨。


…私の彼氏。
そして私が、誰よりも愛した人の名前。


震える指で、通話ボタンを押す。
感覚的な機械音が、なんとなく心地いいと思ってしまった。

突き放し方はもう考えてある。
あの人は感情的だし嫉妬深いから、きっと簡単だ。
…そんなところも、好きなんだけどなぁ。

唐突に機械音が途切れて、心地いい、低い声が聞こえた。
この声が好きだった。
この声で呼ばれた名前も好きだった。
この優しさが好きだった。
この愛おしさが好きだった。

あなたを愛していた。



…でももう駄目ね。


『―…愛華?』

もう一度呼ばれた名前。


私はゆっくりと唇を開く。
震える声で、言葉を紡ぐ。

…どうか、震えてるのが気付かれませんように。


「ッ…ぁ…ひ…

…氷雨…」

一言出てしまえば、もうあとは戸惑わない。
残りの言葉を紡ぎだすだけだ。

「私たち、別れよう。」


書き込む 最新10 サイトマップ