*One Love*

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1:椎 ◆L/SA:2013/09/28(土) 22:57 ID:ns2

解き放たれし力よ 我の手に宿れ…

2:椎 ◆L/SA:2013/09/28(土) 23:16 ID:ns2


目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった。

飾り気の無い家具、
窓の横に垂れ下がった薄緑のカーテン、
木の葉の模様が描かれた絨毯…

…全てに見覚えがある気がした。
でも、何故だか思い出せないのだ。
まるで、そこの記憶だけ抜け落ちてしまったかのように。

(俺は、どうしてここに…)

脳を叩き起こして、記憶を辿ってみる。
…確かに、家を出た所までは覚えている。
じゃあ、その後はどうした?

…どうやら、そこから記憶が無いらしい。

(どういうことだよ…)

今まで、こういう状況は、小説の中の世界でだけで起こる現象だと思っていた。だが、間違いだった。

シーツに触れている感触も、
自分の身体の感覚も、
全てが信じられない程リアルだ。

3:椎 ◆L/SA:2013/10/02(水) 00:22 ID:ns2


鈍く痛む身体を無理矢理起こし、
「…はぁ…」と溜め息を吐く。

部屋は静かなままだ。

しかし、このままベッドに横たわって居る訳にもいくまい。
どうにかして、
この状況を抜け出さなければならない。

改めて、周りを見渡すと、
また、懐かしいような気持が甦った。

(俺は、この場所を、知ってる。)
____そう感じた。

その時、ふと窓からの光に気付いた。
…強い光だった。

何故だろう。
瞬時に外を見たい衝動に刈られ、
バッとカーテンを開ける。

そこには、信じられない景色が広がっていた。

目に慣れていたアスファルトの灰色とは間逆に、
綺麗な緑色が、一面に広がっている。

「なんだよ…これ」

まるで、おとぎ話の世界だ。

子供の頃に読んだ「大草原の小さな家」に出てくる
「草原」のビジョンがしっかりと目に焼き付けられた。

「…あ、目を覚ましたんですね!」

不意に聞こえた透き通った声。

ハッと振り向くと、そこには、
目が勿忘草の色をした少女が立っていた。

「家の前で倒れていたので、心配しました。お怪我はもう大丈夫ですか?」

型通りの礼儀に、細やかな気配り。
自分よりも年下に見えるこの少女は、
顔とは裏腹に、大人びた言葉を使うのだった。

「あぁ。もう大丈夫だ」

謎に緊張してしまって、
声が自然と低くなる。

やっとの思いで絞り出したその言葉は
しっかりと少女にも届いたようで、
にっこりと微笑み掛けられた。

4:椎 ◆L/SA:2013/10/04(金) 21:04 ID:ns2



「ここは、どこなんだ?」

さっきよりは、落ち着いた声で言えたと思う。
それでも、自分のことが分からなくなる位に動揺していたのは確かだ。

少女は、一瞬目を丸くして、俺を見つめたが、
その後、先ほどと同じ声色で言葉を紡いだ。

「ここは、ディアンという国です。ここは、都心からは離れていますが」

「ディアン…?」

これまで学んだ知識の全てを探ってみても
聞き覚えの無い国名だ。

「聞いたことがないでしょう」

少女は、少し泣くように、笑うように、顔を歪めた。

「前も、貴方のように、
この世界に迷い込んできてしまった方が居たんです。
あの子は、まだ小さかったから、記憶だけ抜いて、人間界に帰しましたが…」

その言葉は、ただただ聞いていることしか出来なかった。
人間界、という言葉や、この世界、という言葉、
記憶を抜き去るという夢の中で起こるような言葉、
それが、平然と使われていることに、呆然としたのだ。

それでも、必死に脳を使って、考えた。
その言葉の、意味を。

「ということは…」

掠れた声だった。

「ここは、俺たちの住む世界とは、違う世界なのか…」

やっとの思いで繋いだその文字の一つ一つは、
妙に現実味を帯びていた。

5:椎 ◆L/SA:2013/10/04(金) 21:16 ID:ns2


その声にも、言葉にも、動揺する事無く、
少女は酷く穏やかな雰囲気を放ちながら、話した。

「…はい。ここは、恐らく、
貴方たちの住む世界のちょうど反対側にある世界です。
特にこの草原は、時々空間が歪んでしまうようで、
ごく稀に、人間界と次元が繋がってしまうことがあるんです。
それに人間が巻き込まれてしまうのは、とても珍しいことなのですが、
運悪く、貴方は、巻き込まれてしまった…大体は、こんなところでしょう。」

少女は、茶色くて長い髪を耳に掛けると、
俺を見つめた。

その目線がぶつかった時に、何かを感じた。
部屋を見回した時のような、懐かしい感覚。

それは、相手も同じだったようで、
「え…?」と高めの声がこだまする。

「まさか貴方、あのときの…」

少女は放心したように俺を見つめ、
ようやく我に返ると、言葉を発そうと、口をパクパクさせた。

「やっぱり、そうだったんだ…」

この言葉が、独り言だったのか、俺に向けられたものだったのかは、知る由もない。

6:霙:2013/10/04(金) 22:55 ID:noQ

おもしろい♪
上手すぎじゃないですかーー!?

7:れいか:2013/10/05(土) 07:50 ID:nvs

面白いですね!私こういう小説だいすきなんです

8:椎 ◆L/SA:2013/10/05(土) 20:30 ID:ns2

>>6-7
ありがとうございます^ ^

9:椎 ◆L/SA:2013/10/05(土) 22:06 ID:ns2


「やっぱりそうだった、ってどういう意味だ?」

その言葉を聞くと、少女は微かに揺れる服を握った。

「今は、言いたくありません」

出会った時と同じ、静かで優しい表情をしながらも、
その目には、しっかりとした決意が宿っていた。
絶対に教えてくれない、という諦めが、心に広がっていく。

「そうか…」

この言葉以外に、選択できる言葉があったなら苦労しなかった。
俺はどうも、この少女といると胸が苦しくなるようだ。

「俺は…」

それは、耳慣れた俺の声だ。
この事実は、絶対に変わらない。

ただ…

「…元の世界に、帰れるのか?」

事実とは思えない現実が、
俺に襲いかかっていたのは、言うまでも無いことだ。

自分でも不思議だった。
そのことを聞かされても、大して驚きを感じなかったのは。

何故なら…あの少女は、俺を、俺自身を、見ていたからだ。
違うところを見ていても、どこか瞳の隅に俺を映してくれていた。
それは、他人に作られた自分では無く、ありのままの自分だ。

「俺が、元の世界に戻るには、どうしたらいい?」

俺がそう問うと、少女は難しい顔をした。

「そういえば、前ここに来た子供を、元の世界に戻したって言ってたけど…」

「あの時は…」

少女の顔色が変わった。
ふっと曇る表情。こちらまで不安になる。

「あの時の魔法は、もう、使えないんです。
この国の今の状況が、影響しているんだと思います。」

「この国の、状況…?」

10:霙:2013/10/05(土) 23:16 ID:noQ

本当すごーい!!!
続き楽しみにしてますね^^♪

11:椎 ◆L/SA:2013/10/07(月) 00:59 ID:ns2


そう聞くと、少女はうつむいた。

「この国は、代々国王によって治められてきた国です。ですが、一年前、国王が突然の病によって命を落としました。後を継ぐのが誰かも決まらずに、女王が亡くなってしまったが為に…」

少女はそこでプツリと言葉を切ると、
俺の方を向き直して言った。

「争いが、起こってしまったのです。」

俺は、状況がイマイチよく掴めず
ただ話を聞いていることしか出来なかった。

「争いはどんどん大きくなって行きました。ウォール街のマキア様を王にすべきと言う人々と、イアル区のダミヤ様を王にすべきだと言う人々が、大々的に戦争を始めてしまったのです。」

「…死傷者の数は、現時点で10000人を超えています。」

そうか、と俺は思った。
戦争と言うものは、人間がいるという前提さえあれば、いつでも起こりうる出来事なのだ。
世界など関係無い。悪いのは、人間の持つその欲そのものだ。

「いずれ、ここにも火の粉が降りかかるでしょう」

少女がわざと冷たい声を装っているのは直ぐに理解出来た。

そう、これは仕方の無いことなのだと
諦めさえもが虚しく心に刺さっているのだろう。

「どうせ、帰れないのなら」

口からついて出た言葉だった。

「俺が、この国を変える」

12:椎 ◆L/SA:2013/10/07(月) 01:12 ID:ns2



少女は、言葉の理解に苦しんでいるのだろうか、俺を見つめてずっと固まっている。

自分でも、何を言っているのか分からなかった。
ただ、寂しそうな少女の顔が、頭から離れなかったのだ。

「……あの」

少女がようやく口を開く。
薄い唇の桃色が妙に目立った。

「本気で、言ってるの?」

その眼差しは、強く鋭いものだった。
でもその中に希望があるのは確かだ。

「本気だよ」

自分でも驚く程に冷静でいられた。
いや、感情が分からなすぎて冷静になってしまっていたのかもしれない。

「……本気なら」

少女は震えた。

「貴方が元の世界に帰れる方法が無い訳じゃない。ひとつだけ、あるの」

俺は少女を見つめる。
少女も俺を真っ直ぐ見ていた。

「それは、王室にある鍵の部屋を開けること。あそこを開けて、中にあるネックレスを手に入れられれば…」

少女ははっきりと言った。

「貴方は、元の世界に帰れる」

13:椎 ◆L/SA:2013/10/28(月) 21:47 ID:ns2



自分が元の世界に帰れる方法が無い訳では無かった事に、
可能性が0では無かった事に、俺は少なからず喜びを感じていた。

だが、何故か、感嘆や沸き上がってくるような感情は、
全くと言っていい程に感じることが出来なかった。

それはきっと、自分がさっき自らしてしまった、
この国を変えるという宣言から来ている不安だろう。

俺は、この世界の人間ではない。
つまり、まだこの世界のことを何も知らないのだ。

「ところで…」

俺が俯いて考え込んでいると、少女が、先ほどとは打って変わって、
少し笑いを含ませたような声で俺に問いかけた。

「貴方の、名前は?」

あっ、と思った。
ここまで助けてもらっておいて、名も名乗っていなかったのだ。
そんな非常識なことをしていたと思うと、
凄く恥ずかしい気持ちに晒された。

「俺の名前はエクと言う。名乗り遅れて悪い。君は?」

「私はシオンといいます。」

最初は、どちらかと言うと大人っぽい印象だった少女…シオンは、
今見ると幼さをしっかりと帯びた可愛らしい女性だった。

「エクさんと出逢えたことは、
きっと、神様が決めた運命なんでしょうね。」

シオンは、ちょっと微笑みながら、つぶやく様に言った。


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