桜咲け

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1:鈴 ◆4DCs:2013/11/14(木) 22:22 ID:V6o

掛け持ち……長続きするかな。
長続きしますよう努力します。

「月光」も宜しくお願い致します。

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序章

__桜が吹雪く春。
私は君に恋をした。

桜と共に愛は散る。それを知りながら。
君は____笑っているかな。

“私の想いが届いてくれますように”

 この想いを確かに紙飛行機に込めて学校の窓から投げたんだ。

終幕

2:& ◆dJy.:2013/11/15(金) 18:58 ID:V6o

第一話 桜咲け

__四月六日。あの日を君は覚えているかな。
桜が吹雪く小学校六年生の教室にたった一人
私と同じ様に窓の向こうの桜の木を見つめていた少年が居た。
 私の席は三号車の一番後ろの左側の席。
窓の向こうを見る少年は四号車の一番窓際の席。

人一人挟んだ先に見えた彼の横顔に私は惹かれてた。
幼くて小さな恋心。それより真っ白で純粋な恋はあるだろうか。

 ドアが音を立てて開き、そこから女性教師が
黒いスーツに白いブラウス、黒いタイトスカート
という新学期らしい服装で入ってきた。

「早乙女 篝(サオトメ カガリ)です。
 今日から一年間よろしくお願いします」

 凛としたその目つきに皆はただ、無言で先生の話を聞いていた。
「では、先生は皆さんのことを知らないので
 定番の自己紹介を出席番号順でお願いしますね」
 一番のクラスメイトは誰だろうと思い、私は辺りを見渡す。
すると、桜を見つめていた少年が返事をして席を立った。

「__青柳 奏汰。四月十七日生まれ。
 好きなことは絵を描くこと。以上です」

 窓からの風で靡く、彼の髪は綺麗で女性の髪にも負けないくらい綺麗だった。
黒く澄んだ瞳は純粋で、吸い込まれそうだった。
彼の方を見つめていると何回か隣人が私の肩を叩いていた
「出番出番」
 出席番号順だったのを思い出し私はすぐ席を立つ。
そして緊張で震えた声で自分の名前と誕生日と好きなことを言った。

「井田 桜です。誕生日は四月二十七日です。
 好きなことは絵を描くことです! 」

 そう言い終わって拍手を貰った時、チャイムが鳴った。
「はい。それでは残りのみなさんには明日やってもらいます」
 先生の話が言い終わらないうちに私も含め他の子ももうランドセルを持って支度を始めていた。

__帰りの会が終わって、私は一人で帰ろうと思ったとき。
誰かが私の名前を呼んだ。

 振り向くと少し照れくさそうな表情をする奏汰は私にこういった。
「あのさ一緒に帰らないか……?? 」
 ちょっと顔を赤く染めている表情に可愛いと思った。
「いいよ。一緒に帰ろ」

 私も少し照れて、気が付けば私は彼に手を握られていた。

3:鈴 ◆4DCs:2013/11/16(土) 20:26 ID:V6o

「えっと……あの、手…………」
 帰り道桜の花弁で埋め尽くされてる
歩道を歩きながら私はそう言う。
六年間初めて顔を会わせて恋人でもないのに
これは可笑しいと判断したためだ。
「あっごめん」
 少し焦りながら直ぐ様手を離した。
先程まで手のひらには彼の体温と自分の体温。
それだけの世界だったのに今は
手のひらに春風が通りすぎていく。
何故かそれに寂しさという感情を覚える。

「____一年」
 彼は立ち止まり、空を見て無表情のまま涙を流した。
「え……? 」
 私は思わずそう聞き返す。
けれど次の言葉を聞いて理解出来た。

「『寿命一年』……俺、病気なんだよね」
 無表情の顔から一気に私の方へ振り向き
くしゃくしゃな笑顔を作ってそう言った。

「今日は調子が良いから学校に居る。
 けれど……俺一年も持たない気がするんだよね
 分かるんだよ。日に日に体が蝕まれて心も蝕んでることも__」
 袖で涙を拭って途切れ途切れながらもそう言ったんだ。
私はただその様子を眺めて泣いた。
理由が分からない。好きだからかも知れない。
 少しの間言葉は無く、数分後
最も切ない告白をされた__

「__一年生の時からずっと好きでした。
 一年間。俺と付き合って下さい」

 大きな桜の木の下で、春風が吹くなか
彼は涙を流しながら私にそう言った。
「はい」

 そう答え、人生で初めてのキス。
苦くて苦しくて切ないキスを経験した。

桜咲け。奏汰という名の桜をもっと咲かせて____

第一話 桜咲け 終

4:鈴 ◆4DCs:2013/11/16(土) 20:47 ID:V6o

第二話 恋刻む

__一年間付き合ったって彼奴が苦しむだけ。
何故だろう。終わりは絶対苦しい筈なのに
今だけでも良いから幸せにしたい__
そう思えるのは……

「ただいま」

 あのあと無言で帰って、俺は帰ってきた。
母親が出迎えて来たとき何故か俺は涙を流してしまった。
「奏汰……!? 」

「__母さん。『彼女』出来た」

 泣きながら笑ってそう言った俺に
母親はどう思ったのだろう。
でも、俺がそう言い終わって数秒経った後
「__良かったねぇ。幸せにしてあげなさいよ」
 と母親はそう言って泣いてる俺を抱き締めた。

母親も泣いて、俺も泣いて。
こんなんで俺は大丈夫なのかって思った。
「ほら。アンタ、早く宿題やりなさい」
 泣きながら母親はキッチンに行って
昼飯の用意をしていた。
俺は靴を脱いで、二階の自室へ行く。

 ベッドに潜り込んで泣いた。
布団の隙間から見えた置時計が示した時間は
午後十二時丁度を指していた。

 俺は一回起き上がりおもむろに未使用の白紙のノートを探した。
見つけたのは青い表紙をした行のノート。
俺はそれに、鉛筆を持った右手で
文字を刻み込んだ。
『四月六日 午後十二時一分
 俺に彼女が出来た。
 
 幸せに出来るか分かんなくて怖い。

 けれど俺はアイツが好きだ』

 汚い字でそう刻みノートを閉じた。

5:鈴 ◆4DCs:2013/11/20(水) 18:49 ID:V6o


 __こんな弱い俺に何が出来るのだろう。

こんな俺に彼女を一年間だけの幸せにさせる権利なんてあるのだろうか。
 五年間の病と恋。運動すればもう倒れてしまう。
こんな細くて血色悪い肌では彼女を守る事さえも出来ないだろう。
__立ち上がるだけでたまに倒れて意識を失う。
彼女の元へ……桜の元へも歩もうとすれば
倒れて目が覚めれば病室。
「糞っ……」

 こんな自分があまりにも悔しく、憎く、そして醜い。
“あの世”へ行けば彼女は俺の事を忘れるのだろう。
『それでも良い』
 そう思いたいのに少し悲しくて寂しいと矛盾してしまう。
涙が溢れ、日記の青色の表紙に涙が滴り落ちる。
泣いて感じたのは自分が無力だって事だった。

「俺を……一年間だけでも
 好きでいてくれ……桜…………」

 そんな独り言誰にも聞こえない。
自分の心だけに槍の様に突き刺さる。

____病の痛みより辛い。

何故俺は後一年しか生きられないのだろう?
何故俺はもっと前に彼女に告白しなかったのだろう?


何故俺は__彼奴を好きになってしまったのだろう。

6:鈴 ◆4DCs:2013/11/20(水) 19:28 ID:V6o

※奇数話が桜サイド、偶数話が奏汰サイドと進ませて貰います。

 ベッドへ寝転がると不思議と眠気は襲ってくる。
睡魔に抵抗する気力すらもないので
ただ俺はなされるがままにした。

__視界は瞼によって遮られ、夢の世界へと変わる。

__青い空。白い雲。そしてその空の下にあるのは
『世界樹』あだ名でそう呼ばれる巨大な桜の木。
そしてその下に居るのは桜__
その桜は太陽の様に眩しくて本当に輝いてる様に見えた。
 茶色の長い腰まで届く絹の様な髪に
白い肌、そして頬は桜の花弁の様に染まり
黒い瞳は真っ直ぐ俺を見る。
俺の心臓にまでその真っ直ぐな感覚が届く様だった。

「好きです」

 夢の中の桜は確かに俺にそう言った。
夢なのに、夢なのにその言葉は俺の心に響く。
今すぐ抱き締めたくなって、気がつけば俺は家のベッドで目を覚ました。
「夢か……」
 夢ということが少し不満で俺は
今すぐ桜に会いたくなった。
無意識の内に鞄と自転車の鍵を握っていて
「母さん。少し出掛けてくる」
 そう言い残し家を出た。

 桜の家を一応知っているから
自転車を必死に漕いで桜の家。
その玄関の前に俺は立っていた。
 表札をチラチラと見て確認し、
震える右腕を左腕で押さえつけ、
右手の人差し指でインターホンを押す。
 インターホンという機械音は俺の耳に来て
その数秒後桜が玄関のドアから顔を出した。

「桜……今、時間空いてる? 」
「空いてるよちょっと待ってて」
 そう言って二、三分経った後
鞄を持って髪を二つに結い彼女は現れた。
「んじゃあ……隣の公園に場所移そっか」
 桜はそういうと俺の右手をそっと彼女の左手で握った。

__彼女の手は春なのに冬のように冷ややかだった。

7:漣 ◆WOJE:2013/11/21(木) 18:38 ID:TuE

突然ですが・・・
今日、結果発表をしたいと思います。
突然ですいませんっ

8:鈴 ◆4DCs:2013/11/21(木) 20:08 ID:V6o

>>7結果見させて貰いました。
全然急でも構いませんよ。
結果ですが・・・いや銅賞とは自分でも驚きですね・・・
まだまだ小説歴一年にも満たないですが
宜しければこれからもお読みくださると此方として嬉しいですね

「冷たいね__」
「そう? 奏汰は温かすぎるよ」

 そんな事言いながら小さな公園に俺らは辿り着く。
約五分の道のりの筈なのにとても遠いものだと感じた。
俺達以外誰も居ない公園。
むしろ好都合だろうかと思ってしまう不純な自分に少し悲しさを覚える。
二つあるブランコに乗ると、桜はブランコを止めたまま俺に語るように話しかける。

「奏汰とこうやって幸せな時間を過ごせるのも後一年なんだね____」
 彼女の横顔に頬を伝って涙が流れ落ちていた。
触れたら壊れそうな彼女を抱き締める事すら出来ないのは

病気のせい。いや、彼女を不幸にするのが怖いから・・・・・・

 俺は少し俯いて、桜に問う。
その質問はただ、確かめたかったから。
__桜の中に隠っている俺への気持ちを。

「・・・桜は俺と居て幸せか? 」
「幸せじゃなかったら隣には居ないよ」

 目を閉じて彼女は静かに、静かに笑った。
それは、俺の『恋に怯えている』という想いが分かっていたかの様に笑った__
そんな触れたら今にも壊れそうな彼女に俺は何故守られているのだろう・・・?
 ブランコから降りて俺は桜の元へ行く。
桜は次に俺がとる行動を理解しないまま俺の目の前でブランコにただ座っている。

「立ってくれるか__」
 桜はブランコから降りて立つ。
「絶対・・・・・・死ぬまで幸せにさせるから」
 俺はそう言って人生二度目のキスを今ここで交わした。

「約束だよ」

 彼女はそう言って涙をまた、流した。
俺はそんな彼女を自分が出せる最も小さな力で抱き締めた。
彼女の小さな鼓動が俺の体内に刻みこまれた。

__恋刻む。その小さき体とその心に。

第二話 恋刻む 終

9:漣 ◆WOJE:2013/11/21(木) 20:10 ID:TuE

第二回も推薦しますか?

10:鈴 ◆4DCs:2013/11/21(木) 20:12 ID:V6o

>>9勿論ですとも楽しみですよ
主に金賞の人の小説を見て勉強をしたいですね

11:鈴 ◆4DCs:2013/11/21(木) 21:21 ID:V6o

第三話 透明

__あの日から休日を挟んで月曜日。
六年になって第二回目の登校になる。
付き合ってるとは言うものもやはり
話してもどこかぎこちない会話になるだろう。
そんなことを考えながら朝七時半過ぎの桜の花弁が吹雪く通学路を歩む。
そう思ってる内にもう既に足は校門を通りすぎて行く。
意外と私の家から学校は近いものだと改めて感じる。

 校舎へ入り、上靴に履き替え二階の
教室へとまた歩き出す。
教室の前の白いドアに手をかける。
煩い教室に一人で入るのは少し怖く感じる。
そんな思いを振りきり、ドアを開けると
皆の視線は一瞬此方を見るが直ぐに元の視線へと戻る。
所詮こんなものかと思いながら机にランドセルを置き
教材を引き出しへと移動させ、課題を教卓の上の
プラスチックケースにあるノートの山に
更に私はノートを一冊重ねる。
 支度が終わると私は恋愛小説を
机の引き出しから手に取り、読みだす。

「その本読んだ事あるー面白いよね」

 横から聞こえるクラスメイトの女子の声。
その声に私は横目に彼女を見る。
 黒く長い髪を耳の上で結う少し
私より背が小さい可愛らしい感じの子だった。
「あっ私は名札の通り……
 柳葉 梨南(ヤナギバ リナ)宜しく! 」
 元気に可愛らしく笑い私に軽く自己紹介をする彼女。
色白でその顔立ち、性格から
相当男女共に人気のありそうな少女だと感じる。

「桜ちゃん友達になろ? 」

 首を少し曲げ私の目を見る。
頼まれては仕方がないし流石に
一年間友達居ないのも苦しいと感じ
私は二秒程黙ってから彼女に
「良いよ。宜しくね」
 と出来る限りの笑顔でその言葉を言った。

12:鈴 ◆4DCs:2013/11/22(金) 15:28 ID:V6o

>2第一話 桜咲け

すると、桜を見つめていた少年が返事をして席を立った。

ここは
すると、窓の向こう側にある桜の木を見つめていた少年が返事をして席を立った。

に変換してお読みください。申し訳ありませんでした。
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 “上辺だけの付き合い”__今の私と梨南の関係は
そういうモノ。書道の半紙と同じくらい薄っぺらいモノ。
梨南は私を信頼しているのかもしれない。

けれども信頼は互いに交わってこそ
初めて意味を持つのではと考える。
小学生のくせに生意気な思考を持つ

私に彼と『幸せを共有する権利』があるのだろうか・・・・・・?

幸せは共有出来なくとも
私には彼と“時間”を共有する事は
神様は許してくれたようだ。

 ふと窓際の座席に座る彼を見ると、それはあの時と同じ様に
あの初恋の始まりの時のようにただ桜の木をずっと眺めていた。

「奏汰。飽きないね」

 私はそう一人挟んだ彼に呼びかけた。
「好きな人との思い出の場所だからな」
 彼はそう言って私のただの質問に笑顔で答えた。
こんな彼が一年後、私の目の前から消えるなんて想像出来ない。

__いや、想像なんかしたくもない。

そう改まって今日思ったんだ。

13:鈴 ◆4DCs:2013/11/22(金) 19:52 ID:V6o

 チャイムは鳴り、次の授業に入る。
面倒くさいという思いが声にでている号令がかかり
着席をして一秒も経たない間に担任の早乙女は話を進める。
「自己紹介を続きからして貰います。
 では、江角さんから__」
 自分と興味のある者しか基本的に耳も目にも入らないものだ。
音が自分の意識によって塞がれて世界は一気に無音と化す。
少し意識すると何も聞こえなく、あるいは小さく聞こえるのは
私にとってかなり良い人間の特徴だと感じる。

 彼をずっと見つめていると私の視線に気が付いた様で
私の方を少し見てまた窓の向こうへと視線を傾ける。
何故か彼は口に手を押さえつけて苦しそうな表情をする。
担任はその様子に気が付いては居ないようで自己紹介を続けている。
 咳き込む音は私の鼓膜のさらに向こうを
突き破っていくような大きさになり周りもざわめき始めた。

____五分後彼から何か赤い液を口から吐いた。

「先生! 保健室連れて行きます!! 」
 私はすぐさま立ち上がり彼をおぶう。
女子が男子をおぶうなんて彼にとっても恥だろう。

「俺・・・・・・大丈夫・・・だから」
「__嫌だ。恥を知れるのは生きてる証拠なんだから」

 そう言って私は一階にある
保健室へと彼をおぶったまま向かった。
保健室に入ると先生は目を丸くして私にこの状況を問う。
「井田さんどうしたの・・・・・・・・・? 」
「彼が血を・・・・・・口から・・・吐血し・・・ました」
「とりあえずベッドに下ろして」
 保健室の職員秋山千春は私にそう指示する。
私は言われたがままに彼を空きのベッドへと移した。

 私は眠る彼を二、三秒ほど見つめていると
彼は目を覚ました。何も驚かないでただ無表情のまま
涙を静かに流していた。そんな彼を見てるのが辛くて苦しくて
戻ろうと後ろに体を向けたその時

本当に微かな声で彼はこう弱音を私に吐いてくれたんだ。

「俺このまま__透明人間になっちまうのかな・・・・・・」

 その言葉の意味を考えるととても悲しくて
自分まで涙を気が付けば流し床にも涙の跡が残っていた。
涙の跡を踏むように私は前へと進みただ教室へ突っ走った。

 頭が真っ白でその白さに彼から漏れた赤い液が
焼き付いていて瞬きする度にその赤い液が目の前にあるように感じた。
それが怖くてただ逃げた。
私はこの十ヶ月位先にある彼の死を受け入れられるのだろうか____

受け入れられると信じたい。
でも、きっと向こうへ行っても彼はずっと
透明人間として私の側にいてくれると思うから。

__だから、未来で笑えるように今だけは泣かせて。

第三話 透明人間

14:鈴 ◆4DCs:2013/11/22(金) 20:03 ID:V6o

>>13第三話 透明
でしたすみません。

15:鈴→吹雪 ◆4DCs:2013/11/23(土) 11:33 ID:V6o

第四話 約束

__見せたくなかった。俺のあんな所なんて。
彼奴が苦しんでいるのを見るのは
この病気よりもっと辛い事だ。
 耳をすますと奥では保険の先生が
俺の親に電話をかけていた。

「__奏汰君の御母様でしょうか」

 母親も嫌だろうなこんな息子なんて
家計は金持ちでもないのに息子が病気になるなんて
 十分位経った時保健室のドアが開く音がした。
カーテンを開けられ、母親は俺の側に来た。
「奏汰……__病院行きましょう? 」
 嫌だった。病院に入院するなんて
彼女に会える時間が少なくなるなんて

最も彼女に弱い俺を見せつけるだなんて__
「嫌だ……」
「何で……私は貴方が
 心配で心配で堪らないわ……」
 そう言うのも無理はない。
今にも死にそうな位の顔を俺はしてるんだから。
「__取り合えず今日は戻りましょ
 私荷物教室から取ってくるから待ってて」

 母親はそう言って教室へと向かっていった。
その後俺は真っ白な布団に潜り込み
声を殺してただただ泣いていた。

二十分もしないうちに母は荷物と
何か小さい紙切れを持って俺の所へと姿を現した。
「これ、桜ちゃんっていう子から
 渡されたんだけど____」
 俺はその紙切れを受け取り、内容を目で追った。

『奏汰へ
 早退するんだっけ……
 早く治して教室に来てね

 私、ずっと待ってるから』

 最後の文だけ一行分空いていてとても心が締め付けられた。
こんなボロボロに今にも壊れてあの世へ逝ってしまいそうな俺を。
こんな俺をずっと彼女は純粋に待ち続けてくれるなんて
考えるだけでも嬉しくてでも苦しくて__
「____早く貴方治しなさいよ?
 待ってる子大事にしなさいよずっと」
 そう言って微笑んでくれた母親。
俺の事を分かっていてくれる。一番ではないけれど

____一番は桜だから
 

16:吹雪 ◆4DCs:2013/11/23(土) 15:22 ID:V6o

 早退するため保健室から
俺はランドセルを背負って下駄箱に向かう。
それに母親も一緒に付いてきた。
靴を履いて、駐車場に停めてある黒いワゴン車__
自宅の車に俺は乗り込む。そのあと母親も乗り込んだ。
 運転する母親の隣……助手席に俺は乗り
ランドセルが邪魔な為、下ろして膝の上に乗っけといた。

__出発するまでの間、ずっと無言だった。
エンジンがかかり、車がゆっくりと動き
やがて少しずつ学校から遠ざかっていった。

「奏汰、貴方本当に入院しなくて大丈夫なの……?
 無理だけはしてほしくないわ
 無理して苦しむのはあの子なのよ? 」

 母親の言うことは最もだった。
実を言うとこの状況は入院しなくてはいけない奴だ。
吐血するなんて体が可笑しいから、
病気が少しずつ進行してるからに決まってる。
 でも俺は意地を張った。
張らないでこのまま入院すると
二度と戻ってこれなさそうだったから__

「私は、お母さんは貴方に出来る限り元気になって
 あの子と一緒に居て笑顔の貴方が見たいから
 こんなこと言ってるのよ? それをよく理解してるの? 」

 分かってる__だけど俺は俺なりに
きちんと考えているつもりだ。
俺はこの病気に心も体も少しずつ蝕まれている当事者なのだから。

「今日は、家で安静にしてなさい……
 明日は病院で検査受けにいくから」

 母親はそう行ってハンドルをただ動かして行った。
俺はその言葉に背くようにそっぽを向き
ただ車窓から見える流れる景色を
ずっと、ずっと眺めて家に到着するのを待っていた……桜の事を想いながら。

17:吹雪 ◆4DCs:2013/11/23(土) 21:19 ID:V6o

 車では無言で少し重苦しい空気が漂っていた。
吐血なんて異常。それは分かっているが
病院送りは出来るだけ避けたい。それを一番理解するのは母親だと
思っていたがやはり親子でも別の人間だと感じる。

 真っ昼間に近い時刻。太陽が車に差し込む。
眩しいがその光で少し安心出来る
という不思議な感覚がする。
 エンジンの音は止み、車は俺の家の周りの地域で
指定されている駐車場に停められた。
「奏汰。先に家に戻ってて私
 お父さんに連絡するから……」

 俺は黙って頷き、車のドアを開けて地面に足をつけて
ただ何も考えないで家へと歩いた。
家に帰ると何も不気味な位音が無くて
暗くて小学六年生の癖に少し怖く感じられた。
 足音を忍ばせて二階に繋がる階段を少しずつ上がる。
階段を上がると自分の部屋へと行き真っ先にカーテンを開けた。

__車から見えた太陽とは違ってとても温もりを感じられた。

 家の近くには桜の木が植えてあって
窓からはその桜の木から散る桜の花弁が
春風と共に舞っていって俺の目の前を通りすぎていた。

『桜に会いたい』

 少し前に会ったのにこれ程にまで
会いたく感じられる。
会いたいのに会えない。そんな悔しさが
俺の心と脳内を支配するかのように染める。

__俺の命は一年も持つのだろうか。

 今日こんな目に遭遇したらやはり消極的に考えてしまう。
けれど生きたいのは事実。
好きな人と片時でも離れたくないのだから。
 生きたくても死んでしまう。
これが俺に与えられた運命。
そして、その一年という限られた命を与えたのも運命。

____彼女に出会えて付き合えたのも『運命』。

18:吹雪 ◆4DCs:2013/11/24(日) 10:37 ID:V6o

 彼奴はいつも一人だから俺が死んだら
友達と一緒に過ごして時間を忘れるなんて出来るのかな
とか余計な心配をする自分が情けない。
 まだ生き延びられる可能性も無くは無いだろうに。
勝手にマイナス思考へと向かっている自分は変だ。

 普通の人ならもっとこう、絶対生きられるとか思うだろう。
俺は可笑しいんだ。何もかも。
この細い体とか、心とか、思考とか気味悪いくらい白い皮膚とか
そんなのを全部ひっくるめて彼女は__桜は俺をあいしてくれているんだ。

 小学生が愛とか恋とか

19:& ◆i186:2013/11/24(日) 10:38 ID:V6o

ああミスりましたすみません

20:吹雪 ◆4DCs:2013/11/24(日) 10:58 ID:V6o

そんなの端から見れば可笑しいのかもしれない。
だけどそんな幼い俺らが何に向かって生きてるのか
幼いけれど分かる気がするんだ。

__それは『愛』なのではないかと思う。

 一年も持たずに死ぬかそれとも手術で無事癌が全て撤去されて
後遺症は少し残るかもしれないリスクを抱えて生きるかの
二択しか俺の運命はない。でも結果はどうか分からない。
 だが俺的には一年持たずに死ぬかの方が圧倒的に確率が高いと考える。
まだ十ヶ月も残すのに吐血は寿命が短い証拠だろう。
だから俺は敢えて桜には一年超えて生きられると言わなかった。

__いや、逃げたかったという言い方の方が正しいのかもしれない。

 俺は卑怯だ。何もかも。
そして自分で言うのもなんだか純粋に恋をしている。
そんな卑怯者の俺の死を悲しんでくれるのは幸せといえるだろう。

 ポケットに突っ込んでいた桜から貰ったメモ用紙を
改めて見ると裏に何か書いてあったようだった。

『__奏汰。私と約束をして
 その一.不安にならないで
 その二.私を一生懸命愛してください
 その三.自己嫌悪しないで。私は貴方が好きだから』

 知らず知らずのうちに俺の考えが読みとられていたようで
少し悔しく感じられたのは言うまでもない。
こんな俺より背が小さいのに。俺より弱いのに。
それなのに必死に俺を守ろうとしてくれる桜に申し訳なくなり
 気が付けばホロホロと涙は流れその左手に
クシャクシャで涙のシミがある桜色のメモ用紙が握ってあった。

 約束を守ろうと。そして彼女を
この一年間という短い命で幸せで
満ちさせてあげようと思ったんだ。
 俺の我が儘を聞いてくれる彼女を守るために
俺は窓から差し込む眩しい日光とその澄みきった青空に
今、約束を守る事、幸せに満ちさせる事を誓った。

 第四話 約束

21:霧臘 ◆WOJE:2013/11/25(月) 20:03 ID:js2

結果発表します。
漣です。

22: ◆4DCs:2013/11/25(月) 20:34 ID:V6o

>>21漣さんですか。有難う御座います。何回でも私は挑みますよ´∀`

23: ◆4DCs:2013/11/25(月) 20:54 ID:V6o

第五話 歪み

 あの日の夜。私は眠りにつけずにいた。
脳内は奏汰の事で一杯で何かが歪むような予感がした。

__私らは一体どうなるのだろうか。

そんな事考えながら耳から
イヤホン通じて流れる音楽の歌詞を口ずさむ。
 部屋は暗く、手のひらサイズの音楽プレーヤーの画面による
僅かな光が部屋に不思議な色合いで謎の雰囲気をつくらせる。
その雰囲気は何故か落ち着いて何も感じなかった。

 時刻は何時かも分からず、ただ無の空間。
そんな部屋ですすり泣く娘の声は
両親にも迷惑をかけるだろう。
だがそんな事は今になっては関係無い。
只、今は『彼』という名の“希望”の光を差し込んで欲しかった。
この部屋を希望で満たせたかった。

 そんなのは只の願望だと思って体育座りから
後ろに倒れ砕けた体制になる。
 枕を抱き締めて声を殺して泣いた。
もう何も出来なさそうで二度と会えない。
そんな思いが心を侵食しているのだ。
 ベッドの上で雑に放り投げられている
携帯は今軽やかな音を私の目の前で流し
小刻みに震わせ光り続けた。
“これは『電話』の合図”と直ぐ察知し
急いで携帯を手に取り出る。

「__桜? 俺。奏汰なんだけど
 お前の約束。守るから。
 絶対俺お前の事__好きで居るから。」

 誰よりも聞きたかったその声にまた涙する。
電話をする手が震えて、唇は固まったかの様に動かない。
目は、視界は、気持ち悪い位歪んでいて
私は精一杯自分の気持ちを彼にぶつけた。
「__ありがとう。大好き」

 そう言い終わった瞬間電話は切れた。
耳には冷めた機械音。
でも、彼の暖かい声が冷えた心にまで
溶けるように少しずつ少しずつ進む感触は直ぐ分かった。

24:吹雪 ◆4DCs:2013/12/08(日) 17:06 ID:V6o

 __私の中に何かが潜んでいる。
何だろう。奏汰の死の恐怖はもちろんの事その他に何かがある。
それは恐らく、

その内自分が奏太を酷い事を言って仲が切れるのではないかとか
気が付かないうちに別の異性に恋愛感情が生まれていそうで怖かった

という想いだろう。何故余計なことまで考えるのやら不思議だ。
 ふと周りの音に耳を澄ませると風により窓が音をあげている。
そして甲高い声とドアを叩く鈍い音も聞こえている。
「桜ー飯だから降りてこい」
 女性の声。だが若々しい声なのでこの声はきっと姉の実咲だろう。
私はただ無言でベッドから立ち上がりドアの方へと足を運ぶ。

 ドアノブを握りしめ、回して押す。木製のドアは音を立て開く。
廊下に電気が通っていて思ったよりも眩しかった。
まだ目が完全にも慣れていない時に何か話しかけられる。
「ちょっと桜!? 目腫れて__」
 中学二年の姉は制服を着ていてその裾から出る白い手は私を揺さぶる。
「何でも……ない。実咲姉には関係ないよ」
 私はそう言って姉の手を振り払い一階のリビングへと駆け降りようとした。

「関係なくない」

 そうきっぱりと言って強い力で姉は私の手首を握る。
振り返ると姉は涙目になっていて怒っているような表情をしていた。

25:吹雪 ◆4DCs:2014/01/04(土) 03:10 ID:V6o

 その姉の表情は何処か迫力があって
説得力も掛け合わせていた。
姉は私の目をただ矢の如く真っ直ぐに
見つめ、私の目に訴える様に姉の“何か”が刺さる。
 私の手首には姉の手の痕が残り、微かに赤くなっていた。
「__怒らない。桜も辛かったんでしょ……? 」
「何……で?? 何で実咲姉にも分かるの…………? 」

「__姉妹だからね。私達は」

 『辛い』という単語に小さく頷きも出来ない位、
私は固まり瞬きをしては涙を流すばかりだった。

 嗚呼これが姉の癖。井田実咲の癖。
怒った後いつも幼い時から、こうやって
私の頭に手を添えて抱き締める。
もうこの癖は分かりきっているのに、
 この癖が発動する度、心が温かくなる様な気がする。
一回私から離れ私の涙が伝う頬に
姉の手のひらが触れ、姉は私の涙を自分自身の親指で
そっと、繊細な物に触れるかの様に拭った。

「大丈夫__大丈夫だから____」

 そっとまた姉は私を抱き締めて、
私の背中をずっと軽く手で叩き
その動作は、泣きじゃくる赤子をあやす母親の様だった。

「__実……咲姉…………
 ……あ……りがと……う」

 姉の事を呼ぶまでも喉まで言葉が入り込んで
声すらも出なくなって、言うのに時間が掛かった。
姉はそんな私の途切れ途切れの言葉を
理解したかの様に静かに、涙を流し微笑んだ。

26:吹雪 ◆4DCs:2014/01/25(土) 14:33 ID:V6o

【】

27:& ◆j4B2:2014/01/25(土) 14:55 ID:V6o

間違えました……

第六話 病は刻一刻と

 __病は刻一刻と進む。
気づけば残りは半年もなかった。
何もかもこの体が俺の心を精神的に追い込む、
そんな気がするのは決して気のせいではない様だ。

 ジリジリと照りつける太陽は夏を象徴するかのように暑い。
最高気温は三十八度という猛暑の中、水泳の授業は行われる。
「青柳くんは__見学ね。
 はい、分かりました」
 担任の早乙女はそう言うと、教室を抜け女子更衣室に行ってしまった。

 ササッと速やかに外へでる。
やはり夏は暑いものだ。肌は少しばかり赤くなっている。
見学場所で胡座をかきながら、皆が水泳の授業を行っている間
 ただ。ぼーっとして時が過ぎるのを待つ。
「ごめん…………奏汰タオル持っててくれる? 」
 桜はただ、いつも通りに接した。
桜のタオルからは、ほんの少しだけだが
甘い、いい匂いがしたような気がした。

28:吹雪 ◆4DCs:2014/01/26(日) 19:05 ID:V6o


書き方変更:奏汰の一人称→自分
※桜は変わらない※
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 澄みきった青空。それを覆う入道雲。
そんな空の下で騒ぎ立てる少年少女。
水飛沫は自分にも飛んでくる。
見える光景一つ一つがこんなにも切なく感じる。
 自分はなんて弱いのだろうと再確認出来た気がした。

「チャイムが鳴ったので休憩取ります。
 水分補給等しといて下さいねー」

 ぞろぞろと自分の隣に置いてある
クリアケースの中の水筒を取りに来る。
 その中に人混みのせいで取れない桜がいた。
「あっ奏汰ータオルパスッ!
 あとそのイルカの水筒も宜しくー」

 薄い桃色の持ってたタオルと、
小さい水色ベースにイルカの模様がある水筒を渡す。
「それにしても今日は暑いねー」
 笑いながら自分の側に小動物の様に座り込む。
被ってた白い帽子を取り彼女はタオルを肩に掛ける。
どうしてもあと半年で“死ぬ”という現実味がないと
そう桜の横顔を見つめながら考えていた。

 休憩が終わって暫く。時刻は十二時になる頃。担任の早乙女が指示を出す。
「はーい。泳ぐの一回止めて、
 1組からシャワー浴びて来ちゃってねー」
 今年入って初のプール授業をやる
早乙女は何とも大雑把な指示だったが、
皆は指示通り自分の目の前を通り、シャワーの方へと向かっていく。

「おーい奏汰ー教室戻ろうぜー! 」
「大助焦んなよー……
 此方だって人の流れ凄いんだぞ?」
「俺寒いから早く早く」

 数少ない親友、津本大助(ツモトダイスケ)は
そう言って人々の流れの隙を突き、
此方へと駆け寄って腕を引っ張られ連れていかれた。

29:吹雪 ◆4DCs:2014/01/26(日) 19:08 ID:V6o

>>28最後の一行
>此方の元へと駆け寄って自分は、腕を引っ張られ、連れていかれた。
以上。訂正でした。お詫び申し上げます。


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