13月

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1:AQUA:2013/12/31(火) 20:21 ID:6KM

あなたはこんな場所を知っているだろうか。
身近にあるのに、何故か一度も訪れたことのない場所。
不思議な雰囲気に包まれていて、近寄りたくない場所。
もしそれらに心当たりがあるのなら、今後ともその場所には一切近づかないことをオススメする。
今から、その理由を私の体験談をもってして教えようと思う。
また、これからする話は真面目に話すにしては滑稽で、ふざけて話すにしては軽薄だ。
それだけ奇々怪々な出来事だったのである。
したがって、この話を聞いて「その場所に行きたい!」などと言い出す輩はオカルトマニアかド阿呆だけであろう。
または、オカルトマニアでありかつド阿呆であろう。
あなたの周りにそんな奴がいたらパンツ一丁にして太平洋に沈めてしまえ。許可しよう。
・・・さて、前置きはこの程度にして、ご静聴いただきたい。

私が経験した『13月』の話を。

2:AQUA:2014/01/25(土) 08:34 ID:nvs

私の家から歩いて数分で着く水瓶駅。
その水瓶駅の線路沿いの砂利道をおぼつかない足取りで渡れば、小さな踏切が見えるであろう。
五歳児の蹴りで折れるような低耐久の色褪せた遮断機は、風にキシキシ鳴らされている。
退廃空虚の草むらとなるべきを静かに待つだけのオンボロ踏切だ。
そして、オンボロ踏切の向こう側は山の入口。
人気を全く感じさせない向こう側の世界は、まるで別世界と言うべき神秘を感じさせる。
その時まで私は何度もここの近くを通ったことがあったが、向こう側へ渡ったことは一度もなかった。

・・・さあ諸君。ここが私の奇怪極まる冒険譚の始まりの地点だ。
私が大晦日の夜、散歩がてらこの踏切を超えた時に全てが始まった。
規則正しく噛み合っていた時の歯車が狂い出し、私の世界は暗転したのだ。

3:AQUA:2014/01/27(月) 16:43 ID:nvs

【13月1日】


その踏切を一歩超えた時、私は膝から地面に崩れ落ちた。
何がそうさせたのか? その時の私は到底理解し得なかった。
別に吐き気や痛みを伴っていたわけではないのだから。
しかし、おそらくその時、私は予知していたのだろう。
自分が途方もない世界に紛れ込んでしまうことを。

・・・♪♪♪


聞き慣れた歌のワンフレーズが流れ出す。
この音は私の携帯電話の着信メロディである。
私は力が抜けて俄然立てないままだったが、なんとか携帯電話だけはポケットから取り出す。
電話してきた相手は非通知で誰かわからなかった。
私は怪しい番号からの通話は断固拒否する対処法を貫き通してきたのだが、なぜだかその時は無意識に通話ボタンを押してしまっていた。

4:AQUA:2014/01/27(月) 16:49 ID:nvs

「・・・・・・」
「もしもし?」

相手はボソボソと何か言っていたが、上手く聞き取れなかったので聞き返した。

「希ど湧民は芽注わ度とば・・・」
「・・・はい?」
「紛だ大柔さ、東場く君味中さみ土生生の右の散!!朴と公とは学昭み!!」

相手(おそらく男性)から、音は分かるが意味が全く分からない言葉で怒鳴られる。何故だか知らないがものすごい剣幕だ。
私の目は点になっていた。
意味不明の四文字に尽きる状況である。

「割受まし決め弽、曽座み知さんみ!!!」
「・・・あの、聞こえません!」

なんとも不気味で、気持ち悪くなり、徐々に不安が募ってゆく。
不安は苛立ちも伴って私を包み込んだ。

「けふ時和え羅みんみ!!!
「聞き取れない! ちゃんと喋れ!!」

いや、聞き取れないのではない。
相手が話している言葉が全然分からないのだ。
日本語をめちゃくちゃにかき混ぜたような言語だった。

5:AQUA:2014/01/28(火) 20:40 ID:nvs

「へ角見区消しふ和名にしさみ。名図と絵愛ぱそう心、みし席某てん、巻でが獅し区まつみ!! へ穂味も会う愛ずや味生!!!!!!」
「うわあああああ!!」

気づけば私まで半狂乱になっていた。
携帯を地面に叩きつけ、かかとで踏みつけて液晶を割る。
よそから見ればただの精神障害者だが、その時の私は取り乱してもしょうがない精神状態にあった。
なぜなら、何とも説明し難いが、電話相手も含め、周りのモノ全てに『違和感』を感じたからだ。
また、その『違和感』は私に「ここに居てはいけない」と強く警告しているようにも思えた。
反射的に周りを見渡したが、踏切付近には誰もいない。
いや、もともと人通りは少ないのだが、私は妙な空気感にアテられて猛烈に人恋しくなった。
誰かに会いたい。誰でもいいから助けてくれ!

「はあ・・・はあ・・・っ!」

不意に呼吸が苦しくなり、視野が狭まる。
人間の脳というのは怖いもので、精神がおかしくなると身体もおかしくなるらしい。
私はただ全力で水瓶駅に向かって逆走した。

「誰か・・・・誰か!」

6:AQUA:2014/01/29(水) 23:18 ID:nvs

私は全速力で走っていたつもりなのだけど、混乱のせいか視界がグニャグニャと歪曲して、転ばないようにするのも精一杯だったので、なかなか前に進まないヘンテコな走りをしていたと思う。
少し時間が経つと、水瓶駅へ戻るまでもなく人影が見えた。
眼鏡をかけた中年男だ。
私はその中年男に助けを求めようと「あの!!!」と息絶え絶えに呼びかける。
すると、その中年男は私を見た途端に鬼の形相へと変わった。

「牙しえを地門るも四!!!!」

また、あのワケの分からない言葉だ。
さらに中年男は私の腕を掴み、ものすごい剣幕で「地門るも四!」と繰り返し叫び散らした。

「うわあああああああああ!!」

私は中年男を蹴り飛ばして再度走り出した。
ここは本当に私がこれまで過ごしてきた街なのか?
走っていて、視界を横切るもの全てに違和感がある。
既視感がない。本物に似せたハリボテの光景に見える。
しかし、水瓶駅に着いたとき、私はその直感を確信へと変えた。
『水瓶駅』と駅名が書かれていたはずの看板に『地し秋光会し』と意味不明な文字列で記されている。
そう、ここは私がこれまで過ごしてきた街じゃないのだ。

7:AQUA:2014/01/30(木) 17:31 ID:nvs

「は・・・はは・・・」

なんだか怖すぎて笑えてきた。
さらには腰が抜けて涙目のままへたり込んだ。
この時の私はあまりにも情けなかった。思い出すと枕を殴りたくなる。

「無あい映穂は自!! 市もすて!」

またあの意味不明言語が聞こえ、勘弁してくれと私は目を瞑っていた。
残念ながら目を瞑ったところで元いた世界に戻れるわけもなく、私が目を開けた時には数人の人々に囲まれていた。
彼らも怒りに満ち満ちた表情を浮かべていた。私がなにかしたというのか。
なぜだか知らないが、この世界の住人は私を見ると酷く憤慨して怒鳴り散らしてくる。
また、老若男女関係無しに、私を捕まえようとする。
彼らの目的は見当もつかないが、捕まれば私の命が脅かされる可能性は高い。

「あ番疑最わ秋の三しも!!」
「先あうぃ増人さ軍み!!」

そして、私を囲んでいる人々は怒号を上げて私に迫ってきた。

8:AQUA:2014/01/30(木) 23:57 ID:nvs

私は万事休すと諦めの決意を固め、無抵抗の意志を伝えるために「ごめんなさいごめんなさい」と平謝りする。
恥ずかしい事をやってのけたにも関わらず、周りの人々の一人が怒りで顔を歪めたまま、私の腕を乱暴に掴んだ。

私は絶望した。私の人生は四半世紀で幕を閉じるのだと悟る。

しかしその時、背後から一人の少女の声が響いた。
その声は、電話相手や眼鏡の男やこの周りの人々とは明らかに違う、はっきりとした日本語だった。

「こっちへ逃げてください! 捕まれば殺されます!!」

・・・すると、私の腕を掴んだ人が急に頭を押さえて倒れたではないか。
よく見ると、その人は後頭部が陥没しており、地面に拳サイズの石が転がっていた。
背後にいる少女が投げ当てたのだろうか。
いずれにしてもそんなことを考えている暇はない。
怒号を上げて襲ってくる人々をなんとか避け、私は後ろから聞こえた声の主の黒髪の少女を確認し、その方向に急いで駆け出す。


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