〜このティッシュ水に流せます〜

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1:rumia:2014/02/12(水) 03:55 ID:8qo


 プロローグ

 あなたは、街角や駅の改札口などでティッシュを配っている人を見たことはあるでしょうか?

 アメや、そのお店の割引券。
街のあちこちで配られている広告には、これまた様々な特典が付いてきますが……、
やはり、ティッシュに挟むのが王道なようですね。

 ……しかし、たかがティッシュだと思って油断してはいけません。
名前も顔も知らぬ人から手渡されるその紙は――それもまた。
 あなたの知らない未知の世界から来た『何か』なのですから……。

 これは、そんなティッシュにまつわる一夜の物語です。

2:rumia:2014/02/12(水) 04:07 ID:8qo


 こんにちは、rumiaと申します。
この掲示板には初めて書き込みますが、よろしくよろしくお願いします。m(_ _)m

このスレッドのルールとしましては、

1 荒らし、ダメ、絶対。
2 コメントは頂けるととてもうれしいです。
  でも、長文や関係の無い話は止めて下さい。
3 駄文です。根暗です。
4 続く保証はありません。

と、こんな感じで進めさせてもらいます。
 なにとぞ文が不器用なので、変なところは笑ってください(笑)

では、スタート!

3:rumia:2014/02/12(水) 21:21 ID:8qo


1 ティッシュ

 今年、中学三年生になる幾田美咲(いくた みさき)の母親は、傲慢だった。

 親戚や近所の母親達に自分の娘である美咲の成績や優秀さを自慢することを生きがいとし、
自分の理想と美咲の成績が食い違うと、定規で腫れあがるまで美咲の頬を叩いた挙げ句、
部屋に監禁し……教育という名の拷問を繰り返していたのだ。

 美咲は大人しく、物静かで、あまり自分の意見を言わない少女だったが……そんな母の暴行に耐え兼ね、
たった今、母親から浴びせられたありったけの暴言と共に、夜の街へと飛び出した。
 ついに、彼女は人生で初めての家出を決意したのだ。

 行くあても、目的も……何もかも分からないまま、
街灯だけが照らす夜道をたった一人で美咲は歩き、歩き、歩き……
……そうして、普段の彼女なら絶対にしないであろう信号無視を何度かした後、美咲は隣町の商店街へとたどり着いた。

4:rumia:2014/02/15(土) 20:39 ID:8qo


 夜の商店街、そこは美咲が思っていたよりも綺麗な場所だった。

 飲食店やゲームセンターの看板から色とりどりの光が発せられ、
それを夕方まで降っていた雨でできた水たまりが反射する。
 その光景は心が枯れ果てた美咲であっても、素直に綺麗だと思った。

 しかしそんな小さな喜びはすぐに雨水と一緒にドブに流れて行き、
美咲はまた、歩行し続けるロボットのように商店街を歩き始めようとした時、
 唐突に、美咲は後ろからこんな声をかけられた。

「ティッシュいかがですか?」

5:なな ◆llQE:2014/02/16(日) 11:29 ID:Pgg

続き気になります!!
これからも頑張ってください*

6:rumia:2014/02/16(日) 14:46 ID:8qo

ななさん! 応援ありがとうございますっ!
文法もめちゃくちゃで更新遅いですが、
がんばりますのでよかったら見て行って下さい。(`・ω・´)

7:なな ◆llQE:2014/02/17(月) 19:30 ID:Pgg

これからも見続けます*

8:海猫:2014/02/17(月) 22:46 ID:8qo

では続きから行きます。

「ティッシュいかがですか?」

「……!」
 この商店街に来るまで、ぶつかった人にさえ声をかけられなかった美咲はその音で硬直する。

 が、すぐにその声の主が商店街でティッシュ配りをしている若者だと分かり、
美咲はゆっくりと声のした方向に振り返った。

 ネットカフェの広告を配っているらしいその人はうつむいているのでよく表情が分からなかったが、
声からすると女の人らしい。
「御嬢ちゃん、ティッシュ一枚どう?」
 ティッシュ配りの女性はもう一度、今度は丁寧に、美咲に向かって声をかけて来た。
どうやら、というか当たり前なのだが、その女性は美咲に自分が配っているティッシュを受け取ってほしいらしい。

「い、いえ……その」
 美咲はすぐに断ろうとした。
 今の自分はそんな心の余裕がないんです……これ以上私の心を刺激しないで下さい! 
と、全く伝わっていないだろうが、そんな思いを込めて女性の目を見た。
 
 が、同時に美咲は思った。
どうせ、あと数時間も街を徘徊していれば、心が耐えられなくなって泣いてしまうだろう。
 それなら、みじめに自分の服で涙を拭うよりも、ここでティッシュをもらっておいた方がいいのではないか、と。

「持っておいて損はないと思うよ? ほら、また雨が降りそうだし……」
「……」
 結局人見知りの美咲は、女性に流される形でティッシュを受け取ったのだった。

9:なな ◆llQE:2014/02/19(水) 21:21 ID:Pgg

続き気になる〜!!!
できれば早く最新してください!

10:rumia:2014/02/20(木) 00:29 ID:8qo


 まあ……いいか。タダだし。
 そう思った美咲はもらったティッシュをポケットに入れ、
ティッシュ配りの女性とすれ違うようにして、また夜の商店会を歩き出した。
どこに行くのか、どこに行きたいのか。そんなことすら分からない道を、また歩き出した。

 すると、すれ違いざまにティッシュ配りの女性が美咲にこう囁いた。
「あぁ……そのティッシュ。水に流せますので十分考えてから使って下さいね」
「……え……?」
 言っていることがよく理解できなかった美咲は、思わず後ろを振り返る。
しかし、そこにはもうさっきの女性はいなかった。代わりにいたのは、

「美咲……っ? 美咲なのか?!」
スーツを着た凛々しい顔の男性だった。

11:rumia:2014/02/21(金) 00:08 ID:8qo


「美咲……! 心配したぞ」
「お父、さん……!?」
 自分の名を呼ぶその男性を見た美咲は、目を見開いた。
なぜなら、その男性は美咲の父親だったからだ。

「……な、何で? 仕事はどうしたの!?」
 予想外の事態に、美咲は混乱する。
 いつも自分が起きた頃には出社し、ほとんど家で話さない父親がいきなり迎えにきてくれた驚きもあったが、
それよりも、本来ならばこの時間、大会社で仕事をしているはずの父親が今こうして自分の前にいるという事実が、
どうしても美紀には信じられなかったのである。

しかし、父親は優しい笑みを浮かべながら驚いて硬直している美咲に言った。
「美咲が出て行ったってママから聞いて、急いで会社から抜け出して来たんだよ。無事でよかった……」
「で、でも大事な仕事を放り投げてまで、何で――」
「何で? 娘が家出をして、駆けつけない父親がいる訳ないだろう……?」

「……そっか」
 その時、美咲は初めて気が付いた。
これが『人に心配してもらう』ということだと。

12:rumia:2014/02/21(金) 22:20 ID:8qo


 学校でも、塾でも……母親に強制されたとはいえ人を一人孤独に引っ張り続けてきた美咲は、人から心配なんてされたことが無かった。
いつも自分がリーダーで、リーダーであり続けなければならなかった。
 だから……こうして普段はほとんど話さない父親に『心配』されるということは、正直とてもうれしいことだった。
胸の奥がどうしたらいいのか分からないほどに暖かくなって、その暖かさが涙と一緒に目から溢れてしまいそうになった。

 しかし……そんなにも熱くなった美咲の心は突然現れた強い罪悪感によって、あっという間に氷付けにされてしまった。
『お前は人に迷惑をかけた』『お前は人に害を与えた』
そんな自分を嘲笑う声が、美咲の心の中で吹き荒れた。

「お父さ……っ!」
「……ん?」
 そんな心無い声に、また泣き出しそうになってしまった美咲は、やっとの思いで口を動かしながら父親に向かってこう言った。

「ごめん、なさい……ごめんなさい。ごめん、なさっ……」


 何故謝っているのか、なぜ謝らなくてはいけないのか。
そんなことすらわからずに、とにかく美咲は贖罪の言葉を何度も口にした。
 しかし、そんな美咲を父親はやさしく包み込み、言った。

「謝らなくたっていいんだよ美咲。……美咲は、お父さんの大切な一人娘なんだから」


 そう父親が言った数秒後、夕方止んだはずの雨がまた降り出した。
「あぁ、また雨か……。おいで美咲、この先のレストランに入ろう。まだ夕食も食べていないんだろう?」

「…………ん」
 父親と手を取られながら、美咲はたった一人で歩くはずだった道を歩き出した。
雨は徐々に強くなり、急ぐ父親とうつむいたままの美咲を一気に飲み込み始める。
 しかし、その時美咲の頬を濡らしていたのは、雨水よりもずっと温かくてしょっぱい
……自分の涙だった。

13:rumia:2014/02/23(日) 23:36 ID:8qo


2 罪流し

「……で、どうしたんだ? 美咲。一体ママと何があったんだ?」
「……」
 商店街の中にあるファミリーレストラン。
夕飯時を少し過ぎた時間であることに加えて突然雨が降ってきたこともあってか、その店内はカップルや家族連れで満席に近い状態だった。
しかしそんな騒がしい輩も父親の顔も見たくない美咲は、窓の外で奏でられている雨水の大合唱を眺めがら、父親と会話をしていた。
それは、さっきからあんな奴をママなんてかわいらしい呼び名で呼ぶ父親に少し苛立っていたのももちろんなのだが、美咲自身が未だにこの状況を飲み込めていないからでもあった。

まぁそれも当然だ。どこかをさまよい続けて、いっそそのまま消えてしまいたいとまで思ってした家出の結果が、
カップルひしめくファミレスでオレンジジュースを飲まされているなんて本末転倒もいいところだろう。

「……美咲。聞いているのか?」
「聞いてるよ? お母さんと何があったかだよね?」
 まぁしかし、だからって黙っていてもしかたがないかと思った美咲は、
コップ底のオレンジジュースを最後までストーローで吸い尽くした後、入っていた氷のくぼみにちょっと残っていたオレンジジュースを吸って、
あ、なんか薄いけどちゃんと味がする……。ファミレスなんて来たことがないから知らなかったな……。と思いながら、父親の言葉に返答した。

14:rumia:2014/02/24(月) 22:42 ID:8qo


「塾で受けたテストの結果について言い合いになったから……だから家に居づらくなって、その……」
「塾で受けたテスト? ……そんなことで家出をしたのかい?」
「…………」
 しかし、美咲は今まで母親から受けた地獄のような仕打ちを、父親に話そうとはしなかった。
 途方に暮れていたさっきの自分は父親の温かい言葉につい涙してしまったが、
よくよく考えてみると、この父親はどうも自分の力にはなってくれそうもないと思ったからだ。
 実際、父親の前で美咲の母親が美咲に対して暴言や暴行を加えた時に父親は、
「まぁ、まぁどちらもやめなよ」と、まるで子供同士の喧嘩でも見たかのような言動を取っていた。

 つまり結論から言ってしまうと、優しいが腰が低く頼りないこんな父親を味方に付けたとしても、
蛙の面に水どころか火に油を注ぎかねないと美咲は踏んだのである。

 しかし、そんな美咲の考えに全く気付いていない父親は、はぁ……とため息を吐いた後、「あのねぇ、美咲」と前置きしてから話し出した。
「それはママが美咲の事を考えてやってくれていることなんだからね? ……嫌なのは分かるけど、ママの気持ちも少しは考えてあげなさい」
「……」
「ね?」
「…………分かった」

 ……やっぱりこの男は信用できない。さっき泣いた私が馬鹿だった。
そう思いながら美咲は窓の外へ視線を移し、また窓の外で奏でられている雨水の大合唱を鑑賞し始めた。

15:Siki ◆JfuU:2014/02/25(火) 07:05 ID:APM

面白い!更新ファイトです!

16:rumia:2014/02/25(火) 21:09 ID:8qo

sikiさん応援ありがとうございます!

つたない文でよければ気が向いた時に更新しますので、見に来てください!

17:rumia:2014/02/27(木) 00:10 ID:8qo

 
 外はさっきよりも激しく雨水達がぶつかり合い、商店街のいたるところにある看板や、
美咲がひじをついている窓を上で守っている店舗用テントを叩いて、音楽よりも純粋な、それでいて美しい音を奏でていた。
 美咲はそんな美しい音に耳を澄ませながら、一つ気になっていたことを小声で口にする。

「ティッシュ……」
そう、父親のことでうやむやになっていたとはいえ、美咲は女性が言ったあの言葉の意味を今だに理解できないでいたのだ。

「あ! そのティッシュ、水に流せますので十分考えてお使い下さい」

 今どき、水に流せる――つまりトイレで使えるティッシュはそう少なくない。
むしろトイレで使えないティッシュであろうと無理やり使う人だっている。
それなのに、女性は「十分考えて」と言ったのである。
 ……あんな紙切れの一体何に気を付ければいいの?
まだこの商店街にいるであろうあの女性に、そんな質問をぶつけたいと思いながら、
なんだか帰るのが嫌で自分の世界に籠っていた美咲だったが、突然、その世界に一本の手が伸びて来た。

「ほら、分かったならそんな所でふて腐れてなんかいないで、早く家に帰ろう。ママが待ってる……」

18:とかげ ◆y4Oc:2014/02/27(木) 12:28 ID:ffE

面白いですねー( ´・ω・`)
文章の書き方と、情景がよく表せているのが良いと思います。

19:rumia:2014/02/27(木) 21:15 ID:8qo

とかげさん。応援ありがとうございますm(_ _)m

正直3人称で書くことが初めてで、何か変な文体になっちゃってますが、
読む時に脳内補正してくれるとありがたいですw。
(その前によく推敲しろ、って話なのですけどね……)

20:rumia:2014/02/28(金) 19:37 ID:8qo


 父親だった。
 おそらく「分かった」と言ってからずっと窓の外を眺めていた美咲に痺れを切らしたのだろう。
無理やり美咲の手を掴み、そのままファミレスから出ようとしていたのだ。
 もちろん美咲も自分がずっと黙っていたら、几帳面な父は痺れを切らしてしまうことぐらい分かっていた。
しかし、突然の刺激に驚いた美咲は、つい脊髄反射で伸びてきた手を思いっきり叩き、父親に向かって大声で叫んでしまった。

「触らないでよ!!」
「……っ?!」

 その瞬間。美咲は見たことが無い父親の表情を見た。
今まで、というか家にいる時も一緒に出かけるときも表情一つ変えずにいた父親が、
目を見開き、まるでバケモノでも見たかのように驚いていたのである。

「ぁ……あ……」
 元々条件反射で行動してしまった美咲は、その顔を直視したまま硬直する。
まさか自分がこんな行動をして、父親にこんな表情をされるとは夢にも思わなかったのだ。
 完全に気まずい状態だった。
美咲の声に反応したのか、周りの席にいたカップルが身を乗り出してこっちを見ていたし、
 なにより、いつもはすぐに「もー痛いなー」なんて言ってくる父親は、まだ何も言葉を発していない。

「わ、私、トイレに行って来る……」
どうしたらいいか分からなくなった美咲は席を離れ、一目散にトイレへと駆け出した。
とにかくこの場を離れたい、落ち着きたいという一心で父親から逃げ出した。

 席に一人とり残された父親が、自分の後ろ姿を鬼気迫る表情で見つめているのも知らずに……。

21:rumia:2014/03/02(日) 21:39 ID:8qo


「……はぁっ。はぁ、はぁはぁ……」
 やっとのことでトイレのドアを閉めた美咲は、息を荒げながら頭を抱えた。
「どうしよう」という簡単な言葉で埋め尽くされた頭が、ひどく重く感じる。
女子トイレのはずなのに、父親が追って来るのではないかと杞憂する。
 美咲は、完全に混乱していた。

「あんなはずじゃなかったのに……」
 しばらく外の景色を見て落ち着いたら、父親の言う通り家に帰って、
まぁ、父親は助けてくれないにしろ、母親と話し合った後に、
結果的に父親の知らない所で、拷問を受けるつもりだったのに。

 そう頭の中で後悔してみる美咲だったが、もう、後の祭りだった。
今の行動で父親は自分に対して不快感を抱いただろう。
もしかしたら、もう自分を置き去りにして帰っているかも知れない。
 そしてさっきの出来事を母親に言いつけているかも知れ――

「……っ」
ブンブンと頭を振って、美咲は悪い方向に進みかけていた思考を振り払った。
 落ち込んでいても仕方がない。今はとにかく落ち着かないと。
そう思って、何か方法がないかと未だにごちゃごちゃしている頭の中をさまよっていた美咲は、あることを思いついた。
「エモーショナル・ディスクロージャー……」

 エモーショナル・ディスクロージャー。
それは自分の感じたマイナスの感情。つまり怒りや恐怖、悲しみや憎しみと言った感情を口にしたり、書き留めたりすることでストレスを軽減する方法のことである。
 実験によるとこれを毎日続けた人は続けなかった人よりも、立ち直りが早いんだとかどうだとか……。

 とにかくそんな方法を思いついた美咲は、家出の為に持ってきたお菓子や飲料がひしめき合う通学用カバンの中から筆記用具を取出し、
自分の感情を書き出すことにした。しかし、
「あれ……?」
 テストのいざこざで家出したせいか、カバンの中にはノートどころか紙片一つ入っていなかった。
「……そんなぁ」

 いくらトイレの個室とはいえ、愚痴を大声で言える状況ではない。
美咲は「はぁ……」とため息を吐き、筆記用具をカバンに戻そうとしたところで、ふと思い出した。


『持っておいて損はないと思うよ?』
ポケットに入っていた、水に流せるポケットティッシュの存在を……。

22:rumia:2014/03/05(水) 20:49 ID:8qo


 美咲はすぐにポケットの中を探った。
「まさかこんな所で役に立つとは……まぁ、どの道使うのはトイレだったけど……!」
 さっきまであった独りで叫ぶのは危ないなんて思想はどこへやら、
美咲はなにやら一人でぶつぶつと呟きながら、取り出したビニールに包まれた紙束から紙を一枚取出し、
さっきカバンに入れた筆記用具から鉛筆をもう一度取り出して、勢いよくティッシュに突き立てた! やぶれた。

「ぁ……」
 バリッとかパリッとかそんな効果音すら無く、興奮した美咲に鉛筆を突き立てられたティッシュはあっけなくやぶれた。
 そして、美咲は気付く。
「……いや、ポケットティッシュに書くって、どうなの?」
 何というか色々とパニックになり過ぎて勢いで行動してしまった美咲だったが、
ティッシュは衛生用品としては優れていても文房具としては全く使えない事にたった今気付いたのだ。

「……で、でも重ねれば書けないかな?」
 が! 美咲は諦めなかった。
広告以外の全ての紙切れをビニールから出し、震えながら鉛筆を動かした。
……『塾のテスト』という文字だけでもう書く場所がなくなった。

……小さかった、小さすぎたのだ。
ストレスを解消できるほどの文字を書くスペースすら、ティッシュには無かったのだ!
 いや……美咲も分かってはいた! 書けないだろうなぁ、と思ってはいた!
しかし、何だか引き下がれなかったのだ! 藁をもつかむ思いならぬ、紙をもつかむ思いでやってみたのだ! 
決して美咲はアホではないのだ! 決してアホの子では――
 ……ゴホン。失礼しました。

「……何やってるんだ私」
 そういう訳で全くと言っていほど落ち着けなかった美咲は、ティッシュを丸ごと便器に捨てようとして、
さすがにこの枚数を流したらトイレのパイプが詰まるだろう……と言う考えが頭を過ぎったので。
 結局『塾のテスト』と書かれた一番上の紙だけを流し、後のティッシュはビニールに戻し、その上でポケットに入れてから、
美咲はファミレスの奥から3番目の洋式トイレを出たのだった。

23:rumia:2014/03/07(金) 22:19 ID:8qo


 しかし、トイレの入り口にいる人物に驚愕した美咲はまたトイレの中へと押し戻されてしまった。

「お父さん……」
 なんと、会計をとっくの昔に済ませてしまっていたのか、美咲の父親がトイレの前で美咲を待っていたのだ。
「……えと、その」
 それをやっと頭で理解した美咲は、ついさっき商店街の真ん中で父親が自分を見つけてくれた時のように条件反射で謝罪の言葉を紡ごうとしたが、やはり口調がしどろもどろになる。
 父親は依然として黙ったまま。
美咲はさっきのバカ騒ぎで忘れかけていた恐怖を改めてその身に受けた。
 
 それと同時に、美咲は自分自身に絶望した。
 今まで、自分は学校でも塾でも人からはクールだと言われ、物事をてきぱきとかたづけてゆく仕事人だと思っていた。
しかし、実際はただ人を避け、厄介ごとを避け、自分を傷つけるものを避け、自分には才能があると思い込んでいただけなのではないか?
 本当に才能がある人ならば、なぜこんな謝罪一つできないのか?
そんな風な、自問自答に似た自己嫌悪が美咲の頭の中で渦巻いた。

 そして、結局出た言葉は、
「……ごめんなさい」
 誰でも言えるような「ごめんなさい」の6文字だった。
 そんな当たり前の免罪符を掲げて、美咲はひたすらうつむいて黙った。
殴られても、怒鳴られても仕方がないと思っていた。

 しかし父親は、美咲が予想していたよりもはるかにやさしいトーンで、こう言った。
「ずいぶん遅かったじゃないか美咲」
「え?」
 そしてやさしく美咲の頭に自分の手を乗せ、下を向いていた美咲の頭を上に向けてから、美咲に微笑みかけた。
「あんまりに遅かったから、お父さんもうとっくの昔にお会計を済ませちゃったよ」

「…………」
 まるで、さっきの事件なんて全部なかったことだとでも言いたげな父親の態度に、恐ろしくなった美咲は色々言いたいことがあったものの閉口(へいこう)した。
 父親が本気で怒っているのか、それとも本当に、本当にさっきのことを水に流してくれたのかが分からなかったからだ。
 しかしその疑問は美咲が口を開く前に解決する。


「さっきのことは、もういい……」
 まるで美咲の心を察したかのように、父親がさっきのことは水に流したと告白したのだ。
「もういいんだ。あんなことでお父さんも少し頭に血が上っちゃたけど、美咲だって家出するぐらいに辛かったんだから仕方がないよ……そんなことで怒るより早く家に帰ってきちんとした夕飯を食べた方が、美咲にとってもいいだろう?」
 そして、何やら長々と美咲に向かって話した後に、美咲の肩をポンポンと叩き思考停止に陥る美咲をよそにファミレスの出口へと歩いて行ってしまった。

 その去りゆく父親の背中を見て、美咲は思った。この父親は自分の思っている以上に心が広いのではないか、と。
 もちろん、優しいが腰が低く頼りないというのは事実だろう。
 しかし、この父親は自分にはない楽天さがあるような気が少しだけした。
問題は何も解決していないのにさっさと全部水に流してしまうような、そんな楽天さが――
 それが自分にとってどう作用するのか皆目見当がつかない美咲だったが、
そんな父親の後を追ってファミレスから出た時の自分は、少なくとも入る前の自分よりも安心しているように美咲は感じた。


 また雨の止んだ商店街にできた水たまりは、そんな美咲の微笑を静かに映していた。

24:rumia:2014/03/12(水) 21:31 ID:8qo

※作者より
遅れてすいません。これからもできる限り続けて行きますのでよろしくお願いします。


「今日はありがとね……お父さん」
 帰り道。街灯が照らす道を父親と二人で戻りながら、美咲は父親に聞こえるか聞こえないかくらいの声でそっと感謝の言葉を述べた。

「? どうしたんだ急に?」
 父親は、不思議そうな顔をして美咲の方を向く。
どうやら美咲の声が聞こえたらしかった。
 聞こえると思っていなかったのか、美咲はしばらくもごもごと口を動かした後、言った。
「私の為に会社まで早退させちゃって……迷惑じゃなかった?」
 するとすぐに「まだそんなこと言ってるのか」と笑いながら、父親はもはや決まり文句となった言葉を美咲に囁く。

「お父さんにとって美咲は大切な娘なんだから」
「…………」
 始めに聞いたときは驚いて、ファミレスで思い返した時はうんくさく聞こえた言葉だったが、今改めてその言葉を聞いた美咲は、素直に恥ずかしくなった。
どうせ『その場の雰囲気』とか『父親として』とかだとは思っているのだが、街中で堂々とその言葉を言う父親を見ていると別の意味で恥ずかしくなってきたのだ。

 とりあえず美咲はその恥ずかしさを父親には見られないように振り払い、さっさと話題を変えた。
「でも、お父さんの会社ってすごく立派な所なんでしょ? クビになったりしないの?」
 数年前、美咲は傘を届けに父親の会社を訪れたことがある。
その時父親は、開放感のあるオフィスで大勢の人に囲まれていたのだ。
 まぁ家出をするまで父親と会ったのはそれを含めた数回だった美咲にとって、それが本当なのか見かけ倒しなのかは分からなかったが、それでも母親の語る自慢話を聞いていると父親は相当な重役らしかった。
 そんな父親が仕事を放り出して自分の元に来たことが、美咲にとってはなんだかひどく犯罪めいている気がしたのだ。
 が、案の定父親は美咲の不安げな言葉を「ははは」という渇いた笑いで笑い飛ばした。

「大丈夫だよ。お父さんのお父さんも、そのまたお父さんもあの会社にお世話になったんだ。多少のことは会社も分かってくれている」
「え……そうなの?」
 父の言葉に美咲は驚愕した、そんなこと初めて聞いたからだ。
「そうだよ? お父さんはお正月もほとんど実家に帰らないからおじいちゃん達も話さないんだろうけど、お父さん達の家系は長いことあの会社にお世話になっているんだ」
「へぇ……」
 美咲は興味が無さそうに返事をしたが、心の中ではブランド好きの母親がいかにもつられそうな家系だと一人で納得した。
しかし、やっぱり空気の読めない父親はそんな美咲の逆鱗に触れるような言葉をしゃぁしゃぁと吐いた。

「まぁだからこそママも色々と抱え込んでいるんじゃないのかな? 出る杭は打たれるというけど、やっぱり恵まれている人は周りから色々と言われやすいからね」
「…………そうだね」

「それは絶対に違う!!」本当はそう言いたかった。
 しかし美咲はこれ以上父親との関係を気まずくさせない為に、すんでの所でその言葉を飲み込んだ。

 ……本当は全部誰かに言いたかったのに。
父親や自分をまるでネックレスや香水と同じように、自分のプライドを満たすだけの物として扱っている母親の支配から逃れたかったのに。
 それなのに美咲は「自分には勇気が無いから……」なんて言い訳して泣きながら走った道を、戻り、戻り、戻り、そして、

「さぁ、着いたぞ美咲」

美咲はまた、地獄の入り口へと戻って来てしまった。

25:rumia:2014/03/16(日) 12:39 ID:8qo


 父親は自分でドアを開けたくせに、押し出すようにして美咲を家の中へと放り込んだ。
そんな父親に対して美咲はまた嫌気が差したものの、とりあえず家の中にいるであろう母親に小声で呼びかけてみる。
「ただいま……」

「美咲?!」
 母親の反応は早かった。
 美咲の声が玄関に響き渡るか否かの瞬間に、息を荒げ、美咲に呪い殺すような視線を向けながら玄関へと現れたのである。
その姿は、握っていたのが美咲の頬を叩く為の30cm定規ではなく刃物だったのなら完全に殺人犯と言えるような風格だった。

「美咲っ! あんた今何時だと思って――あ、あら、あなた……」
 しかし美咲の後ろにいた父親の姿を見て、母親は顔を強張らせた。
どうやら、父親が美咲と共に帰って来ることが母親にとっては予想外だったらしい。

「ただいま」
空気が読めないのか、母親が驚いているのを知っていての反応なのかは分からなかったが、父親は母親に笑顔でそう言った。
 母親は、まるで美咲が父親に商店街で会った時のように、「会社はどうしたの?」だの「こんな時間に帰るハズじゃ」だの言っていたが、美咲の父親は笑って言う。
「美咲が家出したと言ったのは君じゃないか。だからちょっと仕事を早退してきたんだよ」
「確かに……そう、言ったけど。なにもあなたが会社を早退するほどじゃ――」
「なに言ってるんだ。 美咲は俺たちの大切な家族じゃないか」
「…………」

 あぁ、また余計なことを……。
あまりに空気の読めない父親に美咲は心の中でそう叫びながら、そっと溜息を吐いた。

26:rumia:2014/03/17(月) 20:49 ID:8qo


「お夕飯はテーブルに置いてありますから……あなたは先に食べていて下さい。私は美咲と少し話してきます」
 玄関での気まずいやり取りを終えた美咲の母親は、そう言って父親をリビングへと招き入れた後、美咲の手を強引に掴んで美咲と共に家の二階へと上がった。
迷まず美咲の部屋へと美咲を放り込み、思いっきりドアを閉める。

「帰って来たってことは、覚悟はできているんでしょうね? 美咲……?」
 そして、持っていた30cm定規を握りしめながら、美咲に向かって微笑んだ。

 それは地獄の始まりを告げる笑みだった。

 もはや獣の咆哮とすら間違われるほどの罵声を浴びせられながら、顔に何度も何度も定規を打ち付けられる。
せっかく整理している本棚の本を投げ付けられる。
 何年か前に怒られたこと、全くやってもいないこと、果てにはもしかしたらやるかもしれない悪事まで責め立てられ、その度に本や定規で殴られる、頬を張られる。
何か言えば怒鳴り返され、何も言わなければ「聞いているの?」と叩かれる。

 そんな地獄のような拷問に、美咲はただ耐え続ける事しかできなかった。
黙って虚ろな目から涙を流しながら、ただ母親の暴言と暴力を受けるだけの人形になるしかなかった。


 もしかしたらと期待していた父親は、助けてくれなかった。
二階の音が聞こえていなかったのか、美咲を心配すること無く「長いお説教だ」としか思っていないようだった。

 そうしてたった一人、空腹のまま1時間近く拷問を受け続け、気が遠くなり始めた美咲の耳にやっと人間の言葉を話すようになった母親の声が響く。
「……分かった? もう二度と勝手に家を抜け出すような愚行はしないでね?」

「…………はひ」
「は?」
「……はい」

「まったく、何でこんな出来損ないの娘を産んじゃったんだか……」
 そう言って、人間に戻った母親は本が散乱した美咲の部屋のドアノブに手を掛け、最後に美咲を睨みつけて言った。
「とにかく、もう二度とお母さんに黙って勝手に外を出歩かないでね? あんたの居場所くらい携帯電話のGPSで簡単に分かるんだから……」

「……へ?」
 母親が去り際に放ったその言葉に、美咲は違和感を覚えた。
もちろん、自分がGPSで監視されていることではない。そんなことは携帯を持った中学1年生の頃から美咲は知っている。

 問題は母親が「自分に黙って」と言ったことだ。
 美咲は母親と喧嘩をして――塾で行われたテストの点数に関して母親に文句を言って、その結果、家出をしたのだ。
 その時、母親はしっかりと美咲が出て行く姿を見ていたし、なにより家の外まで追ってきたほどだった。
 それなのに今、母親は「自分に黙って」と発言した。
そのことが美咲にとって不可解に思えたのだ。

「ナニ? 何か言いたいことでもあるの?」
心中の混乱が顔に出ていたのだろうか。母親が二度眉を吊り上げて、美咲に問いかけた。
 その問いかけに答えれば、話がまた長くなる。
普段の美咲ならすぐにそう思えただろうが、動揺していた美咲はつい疑問を口に出した。
「……私、お母さんに黙って出て行ったけ?」

 その言葉を聞いて、母親は「はぁ……」と大きなため息を吐いた。
その時初めてまずいことをしたと悟った美咲だったが、時すでに遅く、母親はまた獣のような荒々しい声で、美咲に向かって叫んだ。
「あんた、私の話をちゃんと聞いてたの!? あんたが何も言わずに居なくなったから、お父さんがあんたを迎えに言ったんでしょ? いい加減にしなさいよっ!!」 

 そんな強引に閉められたドアの音より大きな罵声を残して、母親は美咲の部屋からいなくなった。

1時間ずっと真っ暗だった自分の部屋で、美咲はそんな母親が出て行ったドアを訳が分からないまま見詰めていた。

27:カレン:2014/03/20(木) 22:59 ID:9Sk

なんだか現実味のある展開で面白いです!!
更新待ってます。

28:rumia:2014/03/23(日) 00:27 ID:Vsw


 か、カレンさん。コメントありがとうございます……。
そして! 更新遅れて申し訳ありませんでした……!
 これからも、というかまだまだ一応頑張りますので、暇だったら見に来てくださいませ。

29:rumia:2014/03/23(日) 00:30 ID:Vsw


 「よい……っしょっと」
 母親が部屋を出て行ってから3分ほどたった後、美咲は年寄り臭い掛け声と共に自分の机へと向かった。
未だに、なぜ母親があんなことを言ったのか皆目見当が付かなかったものの、とりあえず母親の機嫌を直す為に、塾で配布された受験対策問題集をやることにしたのだ。
 が、
(ぐぅうぅ……)「……」
 部屋に置いてある時計が午後10時半を指している現在。
概算で、もう10時間もまともな食事を消化していない美咲の胃が、このタイミングで抗議し始めたのだ。

 美咲自身こんなことには慣れっこだったが、慣れたからと言って平気になるわけではない。
『腹が減っては〜』という言葉があるが、実際お腹が空くと頭が働かなくなってしまうものなのだ。

「……もうダメ。こんなにお腹空いてたら勉強なんてできる訳が無い」
 ついに空腹に耐えかねた美咲は、机の上に勉強道具を開いたまま、押入れから布団を引きずり出しそのまま倒れ込む。
 普段なら食べ物ほしさに死にもの狂いで勉強をして母親に許しを請う美咲だが、今回はどうも今日のうちに母親の機嫌は直らないと踏んで、さっさと寝ることにしたのだ。
「勉強のことは明日怒られればいいや……どうせあんなに怒ってたら、一週間は治まらないだろうし」
 そんな言い訳を誰も居ない部屋の壁にしながら、美咲は静かに眠りに就いた。

こうして……美咲の不思議な一晩は終わりを――

(ヴゥウウウ……ヴゥゥウウ……)
――告げなかった。

 まるで美咲が寝るタイミングを知っていたかのように、カバンの中に入っていた携帯電話が震えはじめたのだ。
 美咲はそれを確認すると、眠たい目をこじ開けて携帯電話に向けて必死に手を伸ばし、
(ピッ……)
 かかって来ていた電話を、出る前に切った。

こうして……美咲の不思議な一晩は終わりを――
(ヴゥウウウ……! ヴゥゥウウ……!)
――やはり告げはしなかった。

「……もぉ。誰よ、こんな時間に……」
 美咲はしぶしぶ立ち上げり、震える携帯電話を掴んで通話ボタンを押した。
すると電話口から、まるで元気をそのまま声にしたような威勢のいい声が美咲の耳を直撃した。
「あ〜もう! 何で一回切ったの? ひどいよミサッキ―!」
「ひどいのはあなたよ……リサ」
こんな夜遅くに、というより美咲にとっての夜遅くに電話してきたその声の主は佐々原理沙(ささはら りさ)、美咲にとって唯一無二の親友だった。

30:黒蝶:2014/03/25(火) 23:42 ID:anc

なんか面白い展開ですね!

31:rumia:2014/03/26(水) 09:05 ID:Vsw

 黒蝶さん! ご愛読、ありがとうございます。
本当に更新が遅くて申し訳ありませんm(_ _)m
 ここから、またギャグとシリアスのごった煮になってゆきますので、
黒蝶さんが楽しめる展開になるかどうか分かりませんが、とりあえず頑張ります(泣)

32:rumia:2014/03/26(水) 09:15 ID:Vsw

 
 いや……『親友』というのは少し違うかもしれない。なぜなら、
「え? ナニ? 寝起き? ゴメンね」
「…………」
塾でも学校でも美咲にはリサ以外の友達がいないので、たしかに唯一無二の友達ではあるのだが……仲がいいかというとそうではないからだ。
 むしろ美咲は、空気の読めない女子が勝手に自分に張り付いて来て邪魔だと思っている。
「いやぁ! 実は塾の宿題全然分からなくてさぁ! ミサッキ―なら分かるだろうって電話したわけよ!」
「……あぁ、はいはい、いつものパターンね」
 しかしどんな関係であろうと何年も続いていれば慣れてくるもので、美咲は友人の言わんとすることを二つ返事で承諾し、ついさっき消した部屋の明かりをもう一度つけ直した。
 
 美咲にとって、リサからこの手の電話がかかってくることはめずらしくない。
むしろ『宿題見せて―』とか『問題教えてー』とか、そんな電話が9割を占めている。
 それなのに縁が切れないのは、たしかにリサは美咲にとって親友ではないにしろ、大切な人ではあるからだろうか?
「あぃ。んじゃぁ……どこが分からないの?」
「全部!」「……寝る」
「ちょ、冗談だって!!」
 その真偽は美咲にしか分からないが、とりあえず美咲は鞭打たれた体にさらに鞭を打ってリサに勉強を教えることにした。


 なんだかんだで美咲は自分の得た知識が人の役に立つのは嫌いではない。
 特に、リサはバカなので教えがいがある。
「まったく……これくらい分かりなさいよ。中3でしょ?」
「うぅ……私中3じゃないよぉ。私バカだもん」
「はいはい、文句言うなら切るよ?」
「ミサッキ―の鬼ぃ……」
 だから、将来の希望なんて――むしろ希望なんて今の自分にはないと思っている美咲でも
このバカな友人に勉強を教えていると、教師という仕事も悪くないなと思う時があるのだ。
 そう考えると本人は絶対に否定するだろうが、こんな苦しい現実の中で、ある意味このバカな友人は美咲の心を癒してくれているのかもしれない。

 事実、通話を始めて20分後。
これ以上話すと母親の怒りを買うと思い、早口で勉強を教え終えた美咲の顔は明るかった。
「ほんとにすごいよね〜ミサッキ―。普通こんな短時間で人に勉強なんて教えられないって!」
「リサの間違いは全部計算間違いだからよ……小学校からやり直したら?」
……まぁだからといって感謝なんて言う性格ではないし。今の美咲にはそんな余裕はない。
 友人の頼みとあって断れなかったが、家出をして母親に1時間近く説教された美咲は身体的、精神的共に限界なのだ。

 とりあえず今は寝たい。寝たい。寝たい。
そんな本音を隠しながら、美咲は気だるそうに別れの言葉を吐いた。
「とりあえずこれでいい? 次から宿題は自分でやりなさいよ? ……まぁどうせやらないんだろうけど」
「うん! できたらやってみる!」
 空気の読めないリサも、さすがに美咲が疲れていることは悟ったようで、最後に感謝の言葉を述べて電話を切った。

「ホントにありがと〜! これで明後日のテストもギリギリ合格できそうだよ! じゃぁね〜」

「はいはい」
(ツー、ツー、ツー)
 まったく、無駄に元気な友人(バカ)だった。
そう思いながら、もうお腹が空いた感覚すら消えてしまった美咲はまた部屋の電気を消そうとして
――とてつもなく嫌な感覚に襲われた。
「明後日の……テス、ト……?」

 美咲は急いで充電の切れかかった携帯電話を操作して、あの馬鹿な友人へと電話を掛け直す。
そう……美咲はまたしても、他人の発言に違和感を覚えたのだ。

33:rumia:2014/03/28(金) 00:47 ID:Vsw


「もしもし!? リサ?」
「う……ん? あぁミサッキ―か。どしたの?」
 呼び出し音が3回鳴った後。
のほほんとした佐々原理沙が電話に出たのを確認すると、美咲は用件を早口で捲し立てた。
「さっきの電話で、リサ最後に『明後日のテスト』って……言ったよね? 何のテストだっけ?」

 するとリサは状況が理解できなかったのか、しばらく沈黙した後に「えぇ?」と驚嘆した。
「ミサッキ―ともあろう人が塾でやってるまとめテストの日程を忘れちゃったの!? え? 何? ミサッキ―だけ特別なの?」
「いやいや、私だけ特別なんてことはないはずよ……? 学校はもちろんリサとは塾でも一緒に勉強をしてるんだから」
 
 そう、たしかに塾の種類によっては学力によってクラス分けがされている所もあるが、美咲とリサが通っている塾ではそんなことはない。
母親のブランド思考も、塾までは及ばなかったようである。
 そう言う訳で、学校でも同じクラス、塾でも同じクラスである美咲とリサが受けている勉強の内容は全く同じものということになる。
 まぁ、それでこんなに学力が違うのは母の脅威か美咲の才能か……はたまたリサが馬鹿なのかは分からないが、とにかく美咲だけ別の日程でテストがあることは絶対にないのだ。

「だよねぇ? え? じゃぁなんで間違えたの?」
 だというのに、リサと話がかみ合わない。
そう感じた美咲は、思い切って自分の疑問をリサにぶつけてみた。
「え、だって……塾のまとめテストって一週間前に終わったじゃない!」
 塾のテストは明後日ではなく一週間前に終わっている。美咲にとって、それは絶対に揺るがない真実である。
なぜなら、そのテストこそが今日家出をした原因だからだ。

 父親にも話していたが、美咲は今日、塾で行われたテストについて母親と口ゲンカをし、その果てに家出をした。
そのテストを、美咲は一週間前に受け、2、3日前に返却された後に母親に奪われ、事件は起こった。
 それなのに、この馬鹿な友人はそれが明後日に行われることだと言っているのだ。

そんなことがある訳がない。美咲は思った。
 過去が書き換わりでもしない限り、そんなことは絶対に起こりえない。
 だというのにリサは、反論するどころか美咲を気遣うような声で言った。

「ミサキ……? だ、大丈夫? たしかに塾のまとめテストは一週間前に行われるハズだったけど、英語のリスニング問題用のテープが届かなかったからって中止になったじゃん」
「は……?」
「だぁーかぁーらぁ! 一週間前にあるはずだったのが中止になって、今週の明後日になったんでしょ? 塾の先生も何回も言ってたし、入り口の掲示板にも書いてあったじゃん!」
「中……止?」

34:rumia:2014/03/28(金) 00:59 ID:Vsw


『中止になった』その一言は美咲の頭の中をジェットコースターのように何回転もして、そこにあった情報を引っ掻き回した。
 そんなハズはない。そんなハズ――
そう自分を言い聞かせてみるものの、長年の友人は嘘を吐いている様子はない。

 だから美咲は、その答えを見つける為に必死に机の引き出しから、自分が受けたハズのテストを、友人の迫真の演技を見破る為の証拠を探し始めた。
「そんなハズ無いよ! だってもうそのテストは採点も終わって、帰って来てるはず……!」
 必死に探す、探す、探し続ける。
「絶対に返却されて……」
 探す……探す。
「され……て」

……そして、探すのを止めた。
 結局、家出する前に母親から奪い隠したハズのテストは、見つからなかった。

「美咲……」
母親が散らかした本と美咲が散らかしたプリントが散乱する、そんな美咲の部屋に友人の静かな声が受話器を通して入って来る。
「ゴメンね、疲れてるんでしょ? 早く寝た方がいいよ……。間違いなんて誰でもあるからさ、寝て忘れよ? ね?」
「ち、ちがっ」

「……うん、分かった。もしかしたら美咲は本当に1週間前テストを受けてたのかも知れない。
私の知ってる過去が書き換わってて、本当は私も一緒にテストを受けてたのかも知れない。
でも……私は、私の知ってる過去はそんな感じで……その。あんまり気を悪くしないで……んじゃぁ、ゴメンね」

「まっ……」
(ツー、ツー、ツー)
 美咲の制止もむなしく、リサは電話を切ってしまった。

 美咲は携帯電話を握りしめ、まるで誰かそこに居るかのように、または自分に言い聞かせるように言った。

「過去が書き換わった……? 何ソレ……? 突拍子が無さ過ぎる。 SFじゃあるまいし一体私が何をしたって……。した……って」
 しかしその言葉が最後まで紡がれることは無かった。

 美咲は、ついに気付いてしまったのだ。
自分の中にあった違和感の正体に。


『塾で受けたテストの結果について言い合いになったから――』

 『エモーショナル・ディスクロージャー』
   
   『……で、でも重ねれば書けないかな?』
   
    『塾のテスト』という文字だけでもう書く場所がなくなった。
  
     結局『塾のテスト』と書かれた一番上の紙だけを流し――
     
      『……私、お母さんに黙って出て行ったけ?』
  
       『あんたが何も言わずに居なくなったから――』


        『あ! そのティッシュ、『水に流せますので』十分考えてお使い下さい』


                  『水に流せます』……ので。


「そっか……だからあの人は――ティッシュ配りのお姉さんは言ったんだ」
そして、美咲は理解する。

「そのティッシュ今まで起きた出来事を……『過去を水に流せますから』十分考えてお使いください……って」

自分の上着のポケットに入っているティッシュが、ただのティッシュでないことに。

35:rumia:2014/03/31(月) 23:41 ID:Vsw




「いやいやいや……ちょっと待って私」
 カチッ、カチッと時計が時を刻む音が聞こえるほどの長い沈黙の後、
美咲は頭をゆっくりと振りながら思考を一旦停止させた。
「いくらなんでも今の時点でそう考えるのは強引すぎる。もしかしたら偶然が重なっただけの場合だってあるじゃない」
 たった一回、偶然が重なってそう見えただけかも知れない。
そう何度も自分に言い聞かせた後、美咲はおそるおそるハンガーにかかっている上着のポケットを探り、中から例のティッシュを取り出した。
「本当にこのティッシュが『過去を水に流せるティッシュ』だって言うならもう一度試しても同じ効果があるはず」
 ティッシュを持った美咲はゆっくりと部屋のドアを開け、二階廊下に人気(ひとけ)がないことを確認したうえで、隣に設置されている二階トイレへと駆け込んだ。
ちなみにファミレスでの教訓を生かし、その手にはポールペンやジャープペンシルではなく筆ペンが握られている。
これならたとえ破けやすいティッシュであろうと、安心して字が書ける。

「はぁ……はぁ……」
トイレに入った美咲はまず、自分の呼吸音に驚かされた。
少しは落ち着いたとはいえこんな非常事態、興奮しない人間はほとんどいない。
 美咲も例外ではなく、事情を知らずファミレスで適当に書いた時とは比べものにもならないほど緊張していた。

「えっと……何を書こうか」
便器に座り、とりあえずトイレの鍵を閉めた美咲は、息を荒げながら何をティッシュに書くかを考え始めた。
「嫌なこと、恥ずかしいこと……とにかく無くなっても困らない物にしておかないと」
「万が一、無くなっちゃったら困るから」そんな言葉で頭をぐるぐると回転させる美咲。
しかし、そんな美咲に突然誰かの声が降りかかった。
 

「そんなの……決まったようなモノじゃない」

 美咲はその声に驚き、周りを見渡した。
しかし、トイレの中には誰も居なかった。なぜなら、

「私が消したいのなんて、アレ以外何があるって言うの……?」
 その声は、美咲自身から発せられたモノだったからだ。

 何? コレ……。
そう心の中で絶句する美咲を無視するように美咲の口は続ける。
「アレだよ……あの喚き散らすダケしか能が無いバケモノ……」

 嫌だ……それ以上は聞きたくない……。
美咲は不気味になって、両手で耳をふさいだ。 
 そして美咲が自分自身が話しているからそれは逆効果だと気付く前に、
美咲の口はとんでもない言葉を美咲の脳に叩き込んだ。

「アレいらないよね……? 絶対いらない。人を傷つけることしか能が無い母親なんて……」

36:rumia:2014/04/04(金) 02:03 ID:Vsw


「ゲホッツ……エへッ……エ、エヘッ」
 美咲は口に無理やり指を入れ、勝手に言葉を吐き出す自分の口を黙らせる。
「……ぁ、あ、あ」
 すぐに反吐のような言葉を吐いていた口は大人しくなった。
 美咲は何度も何度も声を出し喉に手を当てて、その声が自分のモノであることを確かめると、一気に脱力した。

 怖かった。
自分では望んでいないのに勝手に口が言葉を紡いだのだ。
 いや、よく考えると望んでいなかったとは言い難い。
たしかに美咲は母親を恨んでいる。
しかし違和感を覚えた小学校高学年の時からずっと、美咲は母に不満を持ちながらもそれを抑えて来たのだ。
 それがこの予期しない事態に触発されて美咲の口から出てしまったとしても、何の不思議もない。
だが美咲はそこまで考える前に思考を止め「とりあえず今は小さなことでいいんだ・・・・・・」と、またティッシュに書く願い事を考え始めた。
「そうだ! 今、一番困っているのは家出のこと……。あれさえ『無かったこと』になれば私は、せめて今日だけでも怒られることは無くなるのだから」
 美咲はそう言ったかと思うと、何年か前まで習わされていた書道の腕を生かし、達筆な字で『家出』とティッシュに書いた後、便器の中へと落とした。

「……これを流せば『家出』が無かったことになるのよね……?」
 便器洗浄弁のスイッチを押す手が震える。
まだこのティッシュが本当に過去を流してしまうのか確信が持てたわけではなかったが、美咲は緊張を隠せなかった。
 自分が過去を変える。
そんなあり得ない状況に興奮と恐れが込み上げて来ていた。

 しかし躊躇していても何も変わらないと自分を後押しした美咲は、思い切ってスイッチを押した。
 流れて行く、流れて行く……『水に流せるティッシュ』が流れて行く。
ただそれだけのことなのに、美咲は3分近くもティッシュが流れて行った便器の中を、じっと眺めていた。

37:rumia:2014/04/07(月) 00:13 ID:Vsw


3 過去を流すは涙雨(なみだあめ)

 トイレを出た美咲を迎えたのは、1階リビングから響く母親の罵声だった。
「いつまで上に居るのぉ? 美咲。……早く夕飯を食べなさい! お皿が洗えないじゃない!」
 いつもなら……美咲はその声を聞くたびに表情を曇らせていただろう。
 しかしその時美咲は、母親の声がまるで自分を褒め称えているかのように、ニヤリと不気味な笑顔を浮かべていた。
当然だ。さっきまで激怒していた母親が、あろうことか早く夕ご飯を食べろと催促してきたのだ。
しかもさっきまでいた普段午後0時を過ぎてから帰って来る父親ではなく、普段から家にいる母親がだ。

 これは絶対に何かが変わっている。
美咲は、そんな確信が心の中で安心感へと変わっていくのを感じながら静かに階段を降り、母親のいるリビングへの扉を開いた。
 
「やぁけに遅かったじゃない?」
 母親は入ってきた美咲を一瞥(いちべつ)すると、「はぁ……」とため息を吐き、今まで見ていたらしいテレビからは目を離さずにそう言った。
リビングに充満しているアルコール臭と、いつになくたどたどしい喋り方から、どうやらワインか何かで酔っ払っているらしい。
「いつもは死にそうな顔をして夕飯を頬張ってるのにぃ……さぁ」
 母親の機嫌がよく分からない美咲は、とりあえずゆっくりとリビングに足を踏み入れ、夕飯が置いてあるテーブルの席へと座って言った。
「ちょっと……色々あって」
「色々ぉ? 今何時だと思ってるの? 11時よ? 11時! 学校から帰って来て5時間近くもなぁにがあるってんよのぉ……」
「…………」
 やっぱり……あのティッシュは本当に『過去を水に流せるティッシュだったんだ』
この瞬間、美咲はそう確信しながら母親には見えないようにほくそ笑んだ。

 お母さんは完全に私が家出したことを忘れている……。
いや違う……お母さんだけじゃない。みんな、この世界にいるほぼ全員。私を除いたほぼ全員が私の家出を記憶していないし、地面についた足跡も、水たまりにできた波紋さえみーんなみんな『無かったこと』になってるんだ。

 そう考えた瞬間。さっきまで恐ろしいことを美咲に口走らせていた悪魔が、また美咲に語りかけて来た。
これで私は自由だ……いや、自由どころじゃない。
 誰一人として私に――このティッシュを持っている私に逆らうことはできないんだ。
 たしかに、このティッシュは有限かも知れないけど、10枚もあれば十分。
気に入らない人物を書いて流せばその人間が……『戦争』と書いて流せば、もしかしたら一切この世に戦争がなくなるかもしれない。
 そう、この力さえあれば、私は神様にだって悪魔にだってなれる……。

 そんな悪魔のような思考をしながら、美咲は夕飯の照り焼きチキンに思いっきりフォークを突き立てた。
 まるで、それが自分にとって邪魔な人物の運命であるとでも言うかのように。
目の前にいる、母親の運命であるとでも言うかのように。

38:rumia:2014/04/07(月) 00:14 ID:Vsw


「まったく。……呼んでも来ないし、ほっといたら文句言うし。本当に子育てって大変だわー」
 しかし、そのことを美咲の母親は知らない。
母親は美咲が単に夕飯を食べているとしか考えていないのだ。
美咲はずっと自分の手下で、ずっと自分のアクセサリーとしか思っていないのだ。
 そんな母親の姿を見て、美咲は必死に嗤い(わらい)を堪えながら、また考える。

 あぁ……今すぐにこのことをコイツに言ってやりたい。
 一体どんな顔をするだろうか? 
驚くのかな? 
泣き喚くのかな? 
それとも無様に命乞いをするのかな?
 どちらにしても……もうコイツは私より下だ。
 どんなに泣いても喚いても、それに私が飽きたら紙切れ一つでサヨウナラ。
今までの暴力と暴言を謝って命乞いをしてきても、聞き飽きたらサヨウナラ。

 あァ……想像するダけで。カラダが熱くナって溶けてしまイそうにナル……。
私をバカにしテきた人間を、みンな消シてしまエるんだ。
 ナンテすばらシイ未来……ナンテ理想的ナ未来……。

 その時、美咲はもう夕飯の味なんて分かりはしなかった。
頭には悪魔に似た興奮と復讐心が渦巻き、そのせいで美咲の持つフォークは何度も皿に当たって母親には「うるさい」と怒られた。
 しかし美咲は食事中ずっと笑顔だった。頭の中が今までにないほどの幸福に満ちていた。

「寝る前に自分で食べたぶんのお皿……洗っておきなさいよ?」
「うん……分かった」
そしてそんな天国のような食事が終わると、美咲は満面の笑みを浮かべながら母親に言った。

「オヤスミナサイ、オカアサン……」

39:匿名さん:2014/04/07(月) 21:04 ID:Qy6

わ!悪魔って展開!

40:rumia:2014/04/08(火) 18:14 ID:Vsw


 匿名さん(……初めての人かな?)ありがとうございます!
虐げられてきた子が、力を得て危険思想に染まるのは、
こういう鬱系ストーリーではよくあることですからね〜。

 ただ、この物語ではこのまま皆殺しエンドにはなりません。
書けるかどうか、またご期待に添えるかどうかわかりませんが、
まだまだ起承転結の『転』な展開が続きますので、よろしくお願いします。

41:さんご:2014/04/08(火) 21:26 ID:mBo

名前忘れました

42:rumia:2014/04/08(火) 22:29 ID:Vsw

やっぱり……w
コメントを見た時、上のスレがさんごさんの作品だったのでもしやと思いまして。
気を悪くしたらごめんなさい。

43:さんご:2014/04/09(水) 18:14 ID:cVQ

いえいえ、気を悪くなんてしてませんよ(^^)
iPhoneなので打つのが遅いため
小説を更新することはないです。
荒らしは迷惑ですね。

44:rumia:2014/04/12(土) 00:49 ID:Vsw

そうですか……。では更新できるまで推敲頑張って下さい!!

では、遅くなってしまいましたが、(って言うのも何回目なんでしょうね)
続きを書いて行きます。

45:rumia:2014/04/12(土) 00:56 ID:Vsw


「オヤスミナサイ、オカアサン……」
 それは……恐ろしいほどの殺意が込められた言葉だった。
しかし酔った美咲の母親はやはりそれに気付かず「……? へぇ(えぇ)。おやすみなさい」
と言ってリビングに美咲、キッチンに大量の洗い物を残して二階にある寝室へと歩いて行く。

 そしてたった一人、美咲だけが残された。

「へへっ……えへへへへ……へへへへへへへへへへ」
 誰もいないリビングに、美咲の奇妙な笑い声が反響する。

 さっきまであんなに心を痛め、悩み続けていた家出は『なかったこと』になった。
さらに自分の前ではいつもキチンとして、一切弱みを見せない母親がなぜか理性を失うまで酒に酔っている。
 そして何よりも、『自分の運命を変える道具』を手に入れたという、自分の人生を根底から覆す出来事によって、
今まで潰され続けてきた美咲の欲望が、ついにハリボテ同然の理性を粉々に砕いてしまったのだ。

「私は今日から自由だ……自由なんだ! えと、えと、何しよう……今から何シヨウ?」
 そう言って、リビングをキョロキョロと見渡す美咲。
その姿は、まるで遊園地に来た幼稚園児のようだった。

「そうだ! テレビを見よう! 普段ニュースとか教養番組しか見てないからアニメを見よう、そうしよう!」
 と、親友であるリエのようなセリフを吐きながら、美咲はテーブルの上に置いてあるリモコンを握ってテレビの電源を入れた。

……まぁ、テレビが起動する一瞬のあいだ。
 自由って言う割には……なんかしょぼいな。とか、
あれ? 私、さっきまで殺気に満ち溢れてたような。
 なんて考えが美咲の頭を過ぎったものの、
 あぁ、でも今アイツを消したら明日のご飯食べれなくなるか……とか、
それにアレ、計画的に使わないと何か怖そうだし。
 なんて言い訳をとりあえず自分に言い聞かせ、美咲はリモコンを操作してテレビの番組表を見た。


「……そっか、もう12時過ぎて金曜日になったから、ポ○モン放送してないんだ……」
残念ながら、美咲の見たいらしいポ……アニメは無いらしかった。
 というか、もしこの場所にアニメに少しでも詳しい人――例えばリサなんかがここにいたら。

「み、ミサッキー? あの、ポ○モンは……ね。木曜日だったら一日中放送されてるわけじゃ……ないんだよ? ……分かる?」
 と、ツッコミを入れてくれるだろうが、残念ながらここには美咲以外誰も居ないので、美咲は勝手にそう解釈をして、一人溜息をついた。
うん、たしかに某N局のニュースって、1時間ごとに同じようなことやってるもんね。だけど、その間違え方はどうなのかな美咲さん。(作者談)

 そういう訳で結局は普段から見ている真面目なニュース番組を見ることになってしまった美咲だったが、
その顔はさっきまでと変わらず、普段の無表情な美咲からは考えられないほど輝いていた。

「何だろう……普段見てるのとあんまり変わらないハズなのに、すごく楽しい……」
 殺すだのなんだの言っていたのは別に冗談とか、嘘とか脅しのつもりは全くない。
でも……今はそんな大きなことよりも『夜にテレビを見ている』という、普段やったら怒られるくらいのちっぽけで健気な反抗のほうが、美咲にとって心をくすぐられる行為だったのだ。

46:匿名さん:2014/04/12(土) 16:54 ID:Pgg

おもしろいです*

47:匿名さん:2014/04/13(日) 20:13 ID:6qU

酔っちゃいましたか…

48:rumia:2014/04/13(日) 22:06 ID:Vsw

 コメントありがとうございます。
お二人……なのかな? 
IDが違うのでおそらくお二人だと思うのですが、間違ってたらスイマセン(・ω・`)
>>46 おもしろいと言っていただけると、とても嬉しいです。ぼちぼち更新しますので気が向いたら見に来てください。

>>47 そうなんですよね。美咲は気づいてませんが『家出』がなくなり美咲を叱れなかっただけで、
母親は泥酔するまでのストレスを抱え込んでしまっているんです。
はて……あんな性格でどこからストレスが来るのやら……。

49:rumia:2014/04/13(日) 23:06 ID:Vsw


「んん、眠い……」
 そんなこんなで……あっという間に時刻は夜中の2時になった。

 始めのうちは『いつお母さんにバレるだろうか?』という緊張感と『いやいや、もし怒られそうになったらトイレに駆け込んで水に流せばいいのよ……ちょっともったいないけど』という慢心を心の中で天秤にかけながらテレビを見ていた美咲だが、途中から、おそらく生まれて初めて見る深夜のバラィティ番組や、ちょっとHな恋愛ドラマを少し赤面しながら見ることに集中し始め、気付いたらこんな時間になっていたのだ。
 家出や母親の叱咤、さらにティッシュの一件でかなり疲れているはずなのにこんな時間まで起きていられるのは、日々の我慢のたまものか、それともただ興奮しているだけなのか。
「あ〜こんな時間まで起きてたら、絶対に明日遅刻しちゃうな〜」
 まぁおそらく後者だろうが、とにもかくにもこの調子だと明日は遅刻確定だということは本人も分かっているようである。
「まぁ、ティッシュがあるし大丈夫か……」
が、テレビを見るのはまだ止めたくないようだ。

 と、そんな幼少期に訪れるはずの第一次反抗期と、最近訪れるはずの第二次反抗期を一夜で済ましてしまおうとでもしているかのように変わり果てた美咲は、CMが終わったので、また深夜の恋愛ドラマ(再放送)を見始めた。

『お前……自分のしたことが分かってるのか……? お前は親として絶対にやってはいけないことをしたんだぞ!?』
そこでは、息子に暴力を振るう母親に対して、担任の先生役の役者さんが正論をぶつけていた。
 美咲はそれを「ふっ……」と鼻で笑いながらも、どこか共感するところがあったのか、呟いた。
「はぁ……。うちのお父さんもこれくらい勇気があったら、ティッシュなんて使わなくても解決したような気がしたのにな……まぁ、所詮こんなのドラマだけの絵空事か……。いやまぁ、あのティッシュに比べたらまだ現実的な方じゃ――」

「み、美咲……!? な、何やってるんだこんな時間に!」
 するとその呟きを遮るように、突如としてリビングに男性の声が響き渡る。

 美咲は一瞬、母親が起きたのかと思ったが、その声が男声であること。
そして自分が家出をしなかったせいで父親は会社を早退しなかったことを思い出して、
その声の主が誰なのかを理解した。

 噂をすれば影。美咲の父親が残業と接待の末、このタイミングで帰宅したのだ。

50:匿名さん:2014/04/14(月) 16:10 ID:6qU

ああああああああああ!

51:rumia:2014/04/14(月) 22:15 ID:Vsw


「おい……一体今何時だと思ってる? 」
 美咲が呆気にとられている間に父親はずかずかとリビングに入り、美咲の目の前に立つとそう言った。
「明日も授業があるんだろう……? こんな時間まで起きていていいのか!?」

 しかし、今や反抗心の塊(かたまり)となっている美咲は、そんな強気な父親の行動にも一切怯えることなく、逆に父親を睨み返した。
「うるさいな……別に明日起きればいいんでしょ? 大丈夫だよ、私徹夜とか慣れてるし」
「なっ……」
 まさか言い返してくるとは思わなかったのだろうか? 父親は一瞬だけ狼狽した。
が、すぐに「ゴホン、ゴホン」と咳払いをすると今度は全く別のことを美咲に尋ねてきた。

「さんは……」
「え? 何?」
「お母、さんは……?」
「あぁ、もう上で寝てると思う」
「そうか……分かった」
「……? お母さんに何か用事があるの?」

 お母さんはどこに行ったんだ、そう聞いてきた父親を少し不思議に思った美咲は、逆に父親に聞き返した。
「……いや、別に美咲の気にすることじゃないよ」
 しかし父親は自分に向けられた問いを笑顔でごまかし、そしてその笑顔のままで「まぁ、美咲が明日絶対に起きるっていうなら仕方がないか」と言い放ったかと思うと、自分が入ってきたリビングの入り口まで戻り、美咲を見ずに言った。

「今からお父さんはお風呂に入ってくるけど、とにかく早く寝なさい。いいね?」
「……はいはい、分かった」
 その声を聴いた美咲はしぶしぶテレビの電源を切り、母親に頼まれていた洗い物を洗う為にキッチンへと移動する。
さすがにそこまで言われて反抗する気も起きなかったし、それに正直に言うとかなり眠たかったからだ。

「それじゃ……オヤスミ、美咲」
それを確認した父親は、リビング越しに美咲に向けて「おやすみ」と言ってから、無言のまま風呂へと歩いて行った。
 しかし、夢見心地で皿を洗う美咲はそれに気付かず、皿を洗いながら『水に流せるティッシュのある生活』を妄想していた。
 
 この後訪れるであろう、最悪の結末にさえ気付かずに……。
 

52:匿名さん:2014/04/14(月) 23:02 ID:6qU

お父さんの反応に二つ感想があります。
一つ、何か嫌なことがあったのかと思いました。
二つ、美咲ちゃんにそういうことは多分始めて言われただろうから、結構ショックで
(美咲たぁん!ひどぅいよぉ!そんなこと言わないでよぅ)
とか思ってたりして。っていう感想ですかねw

53:rumia:2014/04/15(火) 22:13 ID:Vsw


 匿名さん、感想ありがとうございます!
そういう展開もアリかも知れないですねwww
(ギャグエンド、別に作ってみようかな……? 正直面白そうw)

 でもまぁ、51の最後を見て分かるように、これから徐々にエグイ展開になってきます。
まだはっきりと構想が浮かんでないので時間がかかるかも知れませんが、
もしえげつない話も大丈夫なら、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
 

54:匿名さん:2014/04/15(火) 23:16 ID:6qU

えげつない話でも少しは救いのあるBADENDにしてあげてくださいね

55:rumia:2014/04/17(木) 00:58 ID:Vsw

 ……ヤダナー、救いくらいあるに決まってるじゃないですカー。(´▽`*)アハハ……(棒)

 

56:rumia:2014/04/17(木) 01:03 ID:Vsw

続けて行きます。

 母親の残した洗い物を全部洗い終え、美咲がキッチンを出たのはもう2時15分を過ぎた頃だった。
 まだ父親が入っているのか、キッチンとリビングの電気を消した後も風呂の電気は煌々と一階を照らしていたが、
父親に限って消し忘れることはないだろうと、美咲は気にせず両親と自分の寝室がある2階へと上がって行く。

「久しぶりにこんな時間まで夜更かししちゃった……目眩がする」
 正直、美咲の体力は限界だった。階段を上がる足はおぼつかなかったし、なにより色々なことが起こり過ぎて、頭の上に鉄アレイでも乗せているかのように、頭が重かった。
しかし、伊達に何も知らないリサにさえ鋼のメンタルと呼ばれている美咲ではない。
 どうにか気力で階段を上り切り、ふらふらと自分の部屋に入ろうとして、ふと両親の寝室のドアが空いているのを見つけ隙間から中を覗いてみた。
「くぅ……がぁ……ぁ」
「なんだアレ……」
 そこでは2時間ほど前になぜか泥酔して寝室に入って行った母親が、ベッドに倒れ込むようにしていびきをかいていた。
ハッキリ言って普段母親自身が頑固に守っているブランド思考とかプライドとか、そんなものが一気に吹っ飛んでしまったかのようなその姿に、美咲は思わず苦笑いする。
 ついさっきまで、一歩間違えば殺してしまおうかとまで思っていた母親のそんな一面に、少し嘲笑を込めながらも拭き出してしまったのだ。
 
 まぁ、あれだけ酔っ払っていたら仕方ないか……。
 が、長い間見ているのも、なんか悪いかなと思った美咲は、とりあえずその光景を写真に撮りたい衝動を抑えながら、自分の部屋へと戻った。
そして、そういえばリサとティッシュの一件でつけっぱなししにていた机の電気を消して、すぐに布団へと潜り込んで目を閉じた。
 ためらいは一切無い。3時間前に感じていた悔しさも絶望も心には一カケラも無く、今あるのは運命を変えられるかも知れないというすばらしい希望だけである彼女には、もう眠りを妨げるものなどありはしなかった。
そして、ただただ夢の中に落ちながら、腰の痛みや頭のだるさを再確認した美咲は、意識が途切れる間際にこんなことを考えていた。

 そういえば、お父さんってこんな時間まで飲み会とか接待とかである意味働いてるんだな……。有名な企業だって言ってたけど、会社員ってそんなにつらい仕事なの……?
 
 しかしその答えを今頃お風呂で体を洗っている父親に直接聞くほどの体力も、父親の全裸を見る勇気もない美咲はそのままゆっくりと夢の中へと落ちて行った。

57:ちくわ:2014/04/17(木) 20:35 ID:6qU

私は夜3時くらいまではラクショーですよw

58:rumia:2014/04/18(金) 21:17 ID:Vsw

(匿名さん改め、ちくわさん)
 夜はまだまだ終わらんのですよっ! (一夜の物語だからねw)

59:ちくわ:2014/04/18(金) 23:01 ID:6qU

何それエロいw

60:rumia:2014/04/21(月) 00:08 ID:Vsw

※遅れてすいません。 では続けて行きます。


 ……それからどのくらいの時間が過ぎただろうか。
午後5時過ぎ、まだ辺りが真っ暗なその時間。美咲は案の定、爆睡していた。
 とは言っても、寝始めてから3時間ほどしか経っていないこの時間に起きる必要など、彼女には全く無い。
今よだれをたらしながら見ているであろう、『お会計を水に流すこと前提で、ファミレスでデザートを食べまくる』という夢を見続けていい時間。
 ティッシュを手に入れた今の美咲でも、以前の美咲でも夢を見ていい時間。
それが美咲にとっての午後5時という時間であり、親にとってそうだったはずなのだ。
 今日、この瞬間までは。

――ダァン!!

 それはまさに寝耳に水の騒音だった。
本来なら6時に起きる両親も7時過ぎに起きる美咲も寝ているはずのその時間に、突然大きな音が美咲の耳を劈(つんざ)いたのだ。

「ん……。何ぃ? もぉ……朝なの?」
その音に驚いた美咲は目を覚まし、寝ぼけたまま枕元にあった携帯電話の電源を入れた。
「……うぅ? まだ夜中の5時じゃない……」
 しかしそこに表示されるのは、見当違いの時間。
「ん、もう……何でこんな時間に起きちゃったの……?」
それを見てガッカリ、というより脱力してしまった美咲は、「寝た時間がおかしいと、変な時間に起きちゃうのかな……」と誰とも分からぬ相手に文句を言いながら、また布団に入った所で……気付いた。

『――って……何度言えばお前は分かってくれるのかなぁ……?』

「え……?」
 自分の部屋の外、2階廊下から声が聞こえて来ることに。

「だ、誰……?」
 美咲は試しにそう声をかけてみるが、返事はない。
代わりに美咲の声が聞こえていないのか、また誰かに対して怒っているような声が聞こえてきた。
『――っきから言って……か。あいつは俺の――――って』
「…………」
 その声は途切れ途切れでよく言っていることが分からなかったが、美咲はすぐに危険を感じ、そっと廊下を覗く。

『……は? ――ってんだ?』 
 声は、美咲の部屋の向かいにある、両親の寝室から発せられていた。

 その声は美咲が聞いた事のない男性の声だった。
嫌にドスの利いた……まるで人を舐めまわすような、威圧感のある声だ。
 美咲はますます焦燥に駆られ、音を立てないように自分の部屋へと戻ると、リサから誕生日に貰ったきりナゼかペン立てになっているプラスチックのコップを手に取った。
 このままではよく聞こえないので、コップを使って寝室の様子を窺(うかが)おうとしたのである。

「…………っ」
ゆっくり……ゆっくりと、音を立てないようにコップを寝室のドアに当てる。
口調からして強盗か何かかも知れないと警戒していた美咲は、震えながらその作業を終え、ついにはっきりと、その男性の声を聞き取ることができた。

「だから何度も言ってるじゃないか……。美咲は、俺達の大切な大切な『娘』……だろう?」
「!!」

 違う……ッ!!
美咲はその声を聞いた瞬間、そう心の中で叫んだ。
 はっきり聞こえないうちは……それが誰の声なのかが分からなかった。
しかしハッキリと聞こえた今、その息遣いと声質から美咲はその声の主を見抜いたのである。

「嘘……そん、な……」

 ……自分自身の父親。
それも、つい3時間前に聞いたあの能天気な怒声とは比べものにならないほどドスの利いた声、だと。

61:ちくわ:2014/04/21(月) 22:17 ID:6qU

うきゃあああああw

62:rumia:2014/04/24(木) 21:08 ID:Vsw

遅れてすいません。 一気に行きます。

「……お父さん。一体……どうして」
 しかしそれが自分の父親の声だと分かっても、普段気が弱い父親が何故そんなに声を荒げているのか、美咲には理解できなかった。
 今はもう無かったことになってしまったとはいえ、父親はあの時のファミレスでもずっと笑顔で美咲を励ましてくれていた。
それに、会社を早退してまで家出をした美咲を迎えに来てくれたのも父親だ。
 そんな気弱で能天気な、けれど母親より優しさのある父親が荒々しい言葉を吐いていることに、美咲はひどく違和感を覚えたのだ。

「もしかして……」
あんな時間にテレビを見ていた自分を不思議に思ったお父さんが、そのことについてお母さんに詰め寄ってるのかな?
 そう思った美咲だったが、それにしては父親の口調は嫌に強かった。
まるで自分は母親よりも上位の存在であるとでも言いたげなその口調に美咲は冷や汗をかきながら、
とににもかくにも、さっき自分を叩き起こした騒音の正体を確かめる為に物音一つ立てず、寝室から聞こえてくる声に耳を澄ましていた。
 すると、父親と思わしき声は続けて言う。
「そうだろう? あいつは俺達の大切な1人娘だよな?」

 大切。
 その言葉に、美咲は少し落ち着きを取り戻す。
自分を迎えに来てくれたあの父親も、同じことを言っていたからだ。

『謝らなくたっていいんだよ美咲。……美咲は、お父さんの大切な一人娘なんだから』
 そう言った父親の顔はたしかに優しさと能天気さに満ち溢れていた。

 怖がることなんかない……たしかにお父さんはのんびりしているけど、怒ることだってあるはずだ。
美咲はそう自分に何度も言い聞かせ、再びコップを使ってくわしく中の音を拾い始めた――ちょうどその瞬間だった。

「で。……それを育てる母親が酒飲んで酔っ払っててイイのかって聞いてんだよ!! ……あぁ!??」
 いきなり扉の奥で父親が大声を出したかと思うと、その瞬間、鈍い打撃音と共に美咲がさっきほど部屋で聞いたのと同じ、
何か重たい物が床に叩き付けられたような音が、美咲の居る廊下まで響き渡ったのだ。

63:rumia:2014/04/24(木) 21:17 ID:Vsw


「……は?」
 突然のことに、美咲は放心状態に陥る。

 ドア越しに一体何が行われたのかは美咲だって分かっていた。
明らかに、美咲の父親が母親に対して手を上げた、暴力を振るった。
 しかし、それを理解しようとした美咲の頭が、一気に機能を停止してしまったのだ……。

 そして全く動かなくなってしまった美咲の頭脳に、また室内の声が入り込んでくる。
「ごめんなさ……っ……ごめんなさ……」
 それは先ほどの野太くドスの利いた声とは違う、本当に本当にかすかな女性の声だった。
 が、壊れてしまった美咲の頭はそれが誰かを考えようとせず、
また耳から入るドスの利いた声を右から左に流し始めた。

「なぁ……出世もしねぇで、風俗ぐらいしか金稼げねぇ女なんかを産みやがったお前を……俺、許したよな……?」

「だから引き換えにお前は誓ったじゃねえか……『たとえ女の子でも貴方の為になる一人前の人間に育ててみせますぅ……』ってさぁ?」
まるで相手を小馬鹿にしているようなテンションで喋り続ける父親に、今まで言葉を発さなかった相手が、大声を発する。
「だから私は……私は一生懸命! 完璧に美咲を育てたじゃないっ!! そこまでして何が足りないって言うの……?」
 
 しかし父親は「は?」と相手の発言を一蹴する。
「足りねぇも何もさぁ……。今日あいつが何してたのか分かってんのか……? お前……」
「――かってる……。いえ、分かってます。……私が酔っている間、美咲があなたに暴言を吐いたんでしょ? だから後で厳しく叱って――」
「ナニしゃぁしゃぁと悪びれず言葉吐いてんだよ……なぁ!?」
 
 また……誰かが何かを蹴り付けているような音が、何度も何度も響く。
 それが終わると、また「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」と美咲には全く理解できない声が扉の奥から聞こえてくる。
それが何回か繰り返された後、突然父親が声の調子を変え、今度は語りかけるような口調で話し始めた。
「お前さぁ……何か勘違いしてないか? 俺がその気になれば、お前達くらい何の躊躇もなく簡単に捨てられるんだぞ?」
「ぇ…」
 今までか細い声を出し続けていた相手、そして扉を挟んで聞いていた美咲が、父親の発言に絶句する。
 すると、それを見た父親がいきなり嗤い(わらい)出した。
「はぁ? は……はは。もしかしてお前みたいな底辺のほかに、俺に相手が居ないとでも思ったのか? 代々会社の重役に着き続けている幾田家の? 幾田本家のこの俺が!?
 はっ……冗談じゃねぇよ!! 金さえあれば俺を満たしてくれる女ぐらい、蟻(アリ)みてぇに群がってくるに決まってんじゃねぇか……」

64:匿名さん:2014/04/24(木) 21:21 ID:6qU

>>63
こっそり近づいてグーパンチや!
滅多打ちにしよれ!

65:rumia:2014/04/24(木) 21:22 ID:Vsw


「そん……な……」
 どこかで誰かが崩れ落ちる音がした。
まるで自分の一生を否定されたかのように、
まるで『最愛の夫にでも裏切られたかのように』
ただ、ただ……力無く崩れ落ちる音が、どこかで響いた。

 しかしそんなことは全く眼中にない美咲の父親は、今度はいつものような優しさに満ちた声で相手に語りかける。

「でもな……お前は女とはいえ、美咲を産んでくれた。それは本当に感謝してるんだぞ?
 お前がきちんと教育してくれればその過程で俺の会社での名声も上がるだろうし、何十万って金を稼げるようになったら……俺の老後も安心だ」
 
 美咲には見えていないだろうが、見るからに善人ぶった格好で、聞くからに善人ぶった言葉を吐く父親。
 しかしそれにも飽きたのか、また先ほどの荒々しい言葉で相手を叱りつける。
「分かったか? アイツは、美咲は俺にとってたった一人の大切な大切な『収入源』なんだ。……そしてそれを育てることだけ、それだけがお前が俺の傍にいるメリット」

「分かった……。か?」
そう相手を威嚇しながら質問する父親。
「……」
しかし相手は――美咲の母親は、それでも唇をぎゅっと噛み締めて、絶対に口を開こうとしなかった。

 そしてしばらくの沈黙の後、ついに父親が折れ「まあいい……」と言ったかと思うと寝室に置いてあるクローゼットからガサゴソとスーツを取りだし始めた。
「……結局お前の所為で一睡もせずに朝になったか。ま、それはまた帰って来てからだ……」
 そう言うとグローゼットの扉を閉め、ゆっくりと美咲がへばり付いているドアへと歩いてきた。

……ヤバいっ!!
 もはや上も下も分からないほど混乱していた美咲だったが、父親の足音を聞いたその瞬間、脊髄反射でドアから離れ、極力音を立てないように自分の部屋へと転がり込む。
途中で足がもつれ、敷いてあった布団に顔面から飛び込んでしまったが、どうやら父親はそれに気付かず、美咲の部屋の前でドア越しに言った。

「これ以上こんなことを繰り返して幾多家の面を汚すようなら、俺と離婚する覚悟でやれ……」

「はぁ。はぁ……っ、はぁ、はぁ……っ」
 布団の上で、うつぶせになっている美咲は自分の息が荒くなっているのに気付いた。
 何でだろう……ワカラナイ。
何でだろう……ワカラナイ。
 今知ったことを……今聞いたことを必死に拒絶する脳を抱え、美咲はただ父親が自分の部屋のドアを開けないことを、意味も分からず願い続ける。

「じゃぁ……行ってくる。朝食はそこらで食べるよ……」
 しかしそんな願いなんてなくとも、美咲を屁とも思っていない父親が部屋のドアを開けるはずもなく。

散々家を荒らしまわった鬼は、玄関から夜の闇の中へと消えて行った。

66:匿名さん:2014/04/24(木) 21:50 ID:6qU

>>65
「お母さん!お母さん!」
期待。

67:rumia:2014/04/26(土) 14:04 ID:Vsw


ちくわ(匿名)さん、毎度毎度のコメント、本当にありがとうございます。m(_ _)m
 ついに虐待の謎が明かされ、物語もフィナーレに向かってきました。
更新が遅れることもあるでしょうが、よかったら見るだけ見ていって下さい。('ω'*)

68:匿名さん:2014/04/26(土) 15:43 ID:6qU

はい!

69:rumia:2014/04/28(月) 22:12 ID:Vsw


「・・・・・・」

 家に静寂が訪れてから一分間。
しかし、美咲にとっては1日にも匹敵する長い長い時間。
 頭が働かなくなった彼女は今起こったことを忘れようと必死に目をつぶっていた。

 私は何も見ていない、何も聞いていない。
私が見聞きしたと思っているのは、夢だ。
 昨日夜遅くまで変なドラマを見ていたから見ただけの変な夢だ。
そう自分に暗示をかけ、自分はまだ寝ている、自分はまだ寝ているとわざとらしいいびきをかき続けていた。

 が、しかし……むしろ目を必死につぶればつぶるほど、見えるのはよくない想像。
さっきの声から構築された悲惨な家庭内暴力。
「……確認しに行こう」
 ついに痺れを切らした美咲は、倒れていた掛布団から起き上がり、真っ赤に染まった目を擦りながら自分の部屋のドアノブへと手をかけた。

「さっきのこと、ハッキリさせないと……駄目だよ」
 そう自分を鼓舞しながらゆっくりと扉を開き、ついさっきまで張り付いていた両親の寝室のドアを勢いに任せて開け放った。
「っっ!!」
 案の定、その音に驚いた母親の視線が美咲に突き刺ささる。

「あなた仕事に行ったんじゃないんで……す……え?」
 どうやら父親が返ってきたと思ったらしい。
母親はすでに見えているはずの美咲に対して、謝罪の言葉を早口でまくしたて、2,3回頭を下げる。
 が、そのシルエットがあまりに小さいことに気付き、美咲を直視したまま動かなくなってしまった。

「あんた……何で、こんな……」
 ぱくぱく、ぱくぱくと口を動かしながら意味の繋がらない言葉を吐く母親。
しかしそれが自分の娘だと認識すると、いきなり血相を変えて美咲に尋ねた。

「見てた――の?」
 
 見てたの。たったそれだけの言葉だったが、美咲は母親の言わんとすることを理解し、何も言わずにうなずいた。
その瞬間、美咲の目の前から母親の姿が消えた。

「あ、あ……」
 美咲の目の前にいるのは、もう母親ではなかった。
「ああぁ! ああぁああ!」
 怯えた目で、ただ、赤ん坊のように喚き散らす。

バケモノの姿がそこにはあった。

「あああぁあああぁあああああぁああああぁああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 喚く、喚く、喚き散らす。
震える手足に鞭打って、一心不乱に美咲に飛び掛かる。
「アンタノセイデ、アンタノセイデ」と人間の言葉を発しながら、ただただ美咲に向かって手を上げる。
 自分の抑えきれない感情を、美咲の体目がけてぶち当てる。
……美咲は何度も母親を『バケモノ』と呼んできたが、その姿まさにはバケモノだった。
 人よりも暴力的で、誰よりも狂気的で……そして何より、
普段の母親よりも悲しみに満ち溢れた目を持つ『それ』は、正真正銘のバケモノだったのだ。

 しかしそれでも、

 目の前にいるのが言葉の通じないバケモノだと分かっていても、美咲は絶対に『それ』の目から目を離さなかった。
どんなに口から出血しようと、殴られて眩暈が起きようと、美咲もただ一心にバケモノの目を直視し続けた。

 そして、長い長い30秒が過ぎた時、バケモノの咆哮が徐々に小さくなり始めた。
「あああああ……ああああああああ……」
 まるで美咲の視線に魔力でもあるかのようにバケモノの咆哮は徐々に小さくなり、それに合わせてバケモノの体から力が抜け始める。
「あぁ……あ、あ……」

そして『それ』のいた場所には、バケモノのいた場所には――いつの間にか美咲の母親がうつむいて泣き崩れていた。

70:匿名さん:2014/04/29(火) 10:42 ID:6qU

美咲つえぇw

71:rumia:2014/04/29(火) 23:32 ID:Vsw

さて、それはどうでしょうか……?

72:匿名さん:2014/04/30(水) 17:34 ID:6qU

いやwめまいとかしてもずっと見てるって強すぎでしょw
神経的に、究極にw

73:rumia:2014/05/01(木) 19:45 ID:Gas


 ……スイマセン(/ω\*) 文章を切るところ間違ってましたw
そりゃ、これだけ見たら『美咲』が母親に殴られてるみたいですよね……。

 では上の文章にちょっと追記です。

74:rumia:2014/05/01(木) 19:50 ID:Gas


「……お母さん」
 泣き崩れている母親に、美咲は優しく声をかける。
「……!」
 母親はその声にビクンと体を震わせた。
そしてうつむいたまま何度も、何度も、何度も、何度も「ごめんなさ……っ ごめ……さ」ともはや誰に言っているのか分からない謝罪を繰す。
 そんな哀れな元バケモノを見た少女は、小さな声で言った。

「泣かないで……お母さん」

「み、さ……き?」
 その言葉を聞いた美咲の母親は、信じられない物でも見たかのように目を見開き、目の前の人間をその充血した目にすっぽりと収めた。
 ……自分の娘が、ずっと殴ってきた娘が、今、自分に手を差し伸べている。
そんな夢のような光景を前にして、美咲の母親もまた目の前の少女を大きく開かれた目で直視したまま、まるで子供のように涙を流し始める。
 
 やっと報われた、やっと救いの手が伸びてきた。
そんな安堵感が溶けたような暖かい涙を流しながら、美咲の母親は目の前の人間に向かって、また何度も謝罪の言葉を述べた。


――目の前にいる人間が、自分の娘「幾田美咲」でないことも知らずに。

75:匿名さん:2014/05/01(木) 19:54 ID:6qU

ええええw

76:千代:2014/05/01(木) 20:58 ID:PYM

はじめまして
前から(スレが出来てから)ずっと読み逃げしてました←
でもフィナーレに近付いてると知り、コメですw

まず前々から思ってたんですが、rumiaさんって神ですか((
私、表現が苦手なんですけどrumiaさんは表現とか描写が細かくて羨ましい限りです…。

後、物語に伏線がはってあって面白いです!!
物語の構成も、先が読めなくて更新の度にワクワクしてますw

ていうか幾田美咲じゃないって…。
ティッシュが関係してるのかな…?
先が気になります
更新、陰ながら応援してます
これからはコメントを残そうと思いますので、よろしくお願いしますね〜

77:rumia:2014/05/02(金) 00:20 ID:Gas


 千代さん。ありがとうござます……(´;ω;`)
そう言っていただけることが、作家の端の端くれとしてなによりの幸せです。
 続編も考えていますが、この物語はそろそろフィナーレとなりますので、
私も最後まで書く所存です。

 よかったら、見ていってくれると嬉しいです(^^♪

――そして、ちくわさん。いいリアクションですね(・∀・)ニヤニヤ

(必死のロジックエラー回避の結果だなんて……言えない……|д゚))

78:ちくわ:2014/05/02(金) 15:27 ID:6qU

自分のやつ宣伝したいですがいいですか?

79:rumia:2014/05/02(金) 17:29 ID:Gas

 むぅ……本当はあんまりしてほしくないけど、ちくわさんにはコメントもらってるし……。
3行、100文字以内でお願いします。(スイマセン頑固で……)

80:匿名さん:2014/05/02(金) 20:09 ID:6qU

http://ha10.net/test/read.cgi/ss/1398851345/l50
東方なのですがお芝居ですのでキャラが原作と違うので知らない人でも楽しめると思ってます。
ルミアさん、宣伝させて頂いてありがとうございます!
これからもお互い頑張りましょう。

81:ちくわ:2014/05/02(金) 20:11 ID:6qU

>>77
ふふふ…ロジックエラーがなんだって…?w

82:rumia:2014/05/02(金) 23:48 ID:Gas

 な、何でもありませんよ……? つ、続きから行きます。
                       

 彼女の、美咲の母親の前にいるのは、もう……いや、ずっと前から幾田美咲であって幾田美咲ではなかった。

 さっき母親に暴力を振るわれた時から、
もしくは見せかけの決断をして自分の部屋を出るときから、
あるいは父親の暴言を聞いたその瞬間から、
 ……幾田美咲という『人間』は、完全に崩壊してしまっていたのだ。


 美咲という、まだ幼い『人間』は受け入れることができなかった。
 自分の母が、あれほど憎んでいた母が、自分をモノとしか扱わなかった母が……
やさしくて頼りないと思っていた父親に、モノのように扱われているという真実を!
 自分と同じように扱われているという現実を!

 受け入れられるハズなど……なかった。

 その結果、ショックなどという適当な単語などでは到底表せない。今まで受けて来た虐待への虚無感と、突如生まれた母親への感傷が、美咲という『人間』を襲い。
そして最終的に『狂気』でも『憎しみ』でもない。

 父親への純粋な『殺意』が、幾田美咲という少女を、ただの『人間の抜け殻』へと作り変えてしまったのだ。

そう……見てはいけなかった暴力へのショックも、母親から殴られる痛みも、全部なくなる。
 『アレ』があれば『無かったこと』――になる。

 『アレ』ガアレバ、ジャマなの――『コロセル』
『コロセル』『コロセル』『コロセル』『コロセル』『殺せる……っ!!』
 たったそれだけを頭に詰め込まれた抜け殻が、

 ついさっき、切れて血が滲んでいる唇をロボットのように淡々と動かしながら、美咲の母親に向けて「ナカナイデオカアサン」と音を出した『人形』が、
 今、美咲の母親の目の前にいる『モノ』の正体だった。

 そして人形は、あくまで淡々と語る。
「ツラカッタヨネゴメンネキヅイテアゲラレナクテ」
 聞いたとしても、もう頭は壊れているのに。
「ワタシギャクタイサレテタノハゼンブオカアサンノセイダトオモッテタ」
 頭にあるのは父親への殺意だけなのに。
「デモチガッタンダヨネ? ダカラナイテルンダヨネ?」
 人形は、まるで目の前の人間を思いやっているかのような音を吐き、
布団の中で考えたシナリオ通り、美咲の母親へと問いかけた。

「ネェイッタイナニガアッタノ? キカセテ……? オカアサン」

83:rumia:2014/05/02(金) 23:53 ID:Gas

 はい……(T_T) 正直に言います。
伏線を張り忘れて投稿したため、ロジックエラーが発生しちゃって、
ここら辺の展開がちょっと強引になってます(;´Д`)

 後付けの連続になりそうなので、温かい目で見てくれると嬉しいです(T_T)

84:匿名さん:2014/05/04(日) 01:29 ID:6qU

ああよかった隠し子じゃなくて。
>>83
いいすよ^^

85:千代:2014/05/04(日) 10:52 ID:PYM

なるほど、そういう「幾田美咲でない」って意味だったんですねー!!
カタカナで表記されてるのが若干怖い…
続きが凄い気になりますw

86:rumia:2014/05/04(日) 22:00 ID:Gas

>>84
 隠しごっ……www
というわけで、これから急展開ですw(汗)

>>85
 ありがとうございます。
ではご期待にお答えして、駄文を羅列したいと思います。
(駄文すぎて耐えられなくなったら、戻るを押して下さい。キケンです!)

87:匿名さん:2014/05/04(日) 22:08 ID:Gas

 
 ……しかし、美咲の母親はそれに気付かなかった。
「つらかったよね、ごめんね……気付いてあげられなくて」
 虐待という、歪(いびつ)なかたちでしか、娘と触れ合っていなかったからなのか。
「私、虐待されてたのは全部お母さんの所為だと思ってた……」
 目の前の『それ』を娘だと疑わず。
「でも違ったんだよね? だから泣いてるんだよね……?」
 やっと自分に救いが来たのだと、妄信し続けていた。

「ねぇ、一体何があったの? 聞かせて……? お母さん」
 だからこそ美咲の母親は人形の問いに応じ、抜け殻となった我が子に自分の過去話を話し始めた。

「……お母さんはね、こんなお上品な家庭には育たなかったのよ」
 母親は宝石や高い化粧品が詰まった鏡台を、虚ろな目で見ながら言う。
「美咲が知っているのはあの人の、幾田家の親族になって立派になったおじいちゃんの家だろうけど……昔は冗談にも裕福とは言えない家庭だったわ……」
 
 と、そこまで話すと母親は目の前の人形に向けて、後悔に歪んだ笑顔を浮かべる。
「……それなのにお母さん、高校も行かずにグレちゃって、結果的に親にも見放されて、やけになって両親の財布から金奪って家出して……でもそんな性格だから、たった三日でお金が尽きて――気付いた時には、変な男に付いて行く代わりに金をせびるだけの、最低な女になってたのよ」

 しかしそこで、今まで低い声で話していた母親の声のトーンが、いきなり上がった。
「……でも。自分で言うのもなんだけど、お母さん……顔だけはよかったみたいね。そんな下心しかない男のほかにも、わたしを好きになってくれる人がいたのよ――」

「――そう、それが幾田秀(いくたすぐる)。あなたのお父さんだったの……」

 母親の声のトーンは後悔を交えながらもますます上がって行く。
「まさにシンデレラの気分だったわ! 灰かぶりからお姫様へ!!欲しい物は何でも手に入る、友人にも家族にも祝福された結婚だったわ……」
「そ、あの頃の私は酔ってたのよ……成金人生ってやつにね」

 しかし、そこからまた母親の声は元の暗い声に戻って、助けを求める子犬のように、目の前の人形の虚ろな目を凝視する。
「でも、それも長くは続かなかった……。あの人の家、幾田本家に行けば、頭の先からつま先まで私の何もかもを『汚らしい』と否定される。……同じように玉の輿に乗った女達と毎日毎日汚らしい自慢話をしなきゃいけない」
「それでも! ……それでもあの人が愛してくれているって。私を必要としてくれてるって信じてたから、乗り切れたのよ……」
 母親の声に熱と嗚咽が混じり始める。また、感極まって泣き始めたようだ。
「でもあなたが……美咲が生まれた途端、あの人は言ったのよ
『……最初から使い物にならない女なんか産みやがって』って……ね」

「私はすぐに離婚しようと思った……!! でも……実家に電話しても友達に電話しても、返って来た言葉は一つ、
『そんないい人と結婚しておいてなんだ……っ!!』」
「……だからその時。まだ小学生だったあなたを、クラスで問題を起こしたことを口実に……殴ったのよ……」
 また母親が、ゴメンナサイ、ゴメンナサイとお経のように謝罪をしながら言う。
「言い訳なんかしても許されないのは分かってる……。でも!! でも……。悲しかった。悲しくてたまらなかった。……だからっ!!」
 だから……だか、ら……だか……ら……。
と、そこから徐々に母親の声は小さくなり、何も言わない人形を無視して一人でこの過去話の結論にたどり着いたのか、大きな声で言った。

「……あぁ、たぶんこれはシンデレラを夢見た私への罰なのね。
 シンデレラコンプレックスって、賢いあなたなら分かるでしょう? 
 ……あの人に依存して……入ってくるお金にも、名誉にも依存して
 ……まさに私はシンデレラコンプレックスだったのね……」

 そして最後に――最後だけは、母親らしくまとめようとしたのか、我が子だった抜け殻の肩に手を置き、語りかけた。
「美咲……。こんなお母さんに言う資格は無いんだろうけど……。私と同じ過ちを二度と犯さないで……!! 
 自分以外の力に頼っても、結局馬鹿を見るだけなのよ……!!」

88:rumia:2014/05/04(日) 22:30 ID:Gas

↑ 私ですw

 母親の過去話が終わり、部屋に静寂が戻ってきた。
必死に声を張って魂の無い人形に語りかけていた母親は、はぁ、はぁと息を荒げ、
 目の前にいる美咲の抜け殻は、依然として沈黙していた。

「……これが、これがさっきお母さんがお父さんから暴力を振るわれていた理由よ……。あなたを――美咲を、お母さんはあの人といる為の道具として使ってしまったの……だから、お母さんに罰が下った。それだけのことなのよ……」
 母親はまた嗚咽を漏らしながら言う。
「バカらしいと、思うでしょう……? お母さんも自分で自分を馬鹿だと思うわ……。でも、もう金銭的にも経済的にも、そして……女としても……もう、あの人無しじゃ生きられないのよっ!!」

「だからお願い、もうあなたに暴力は振るわない、逆に美咲がお母さんに手を上げてもかまわないから……罰はお母さんが被るから……だから、だからあなたはあなたでいて……!!」

「今まで自分に手を上げておいて!! 謝って済ませれることじゃないでしょ!?」そう言われても仕方のないセリフを――しかし自分の本心を、美咲の母親は目の前の抜け殻に大声で告げた。

「ダイジョウブ……ダヨ? ワタシ、オトウサンニハゼッタイに依存『デキナイ』カラ……」
――その瞬間、目の前の抜け殻が立ち上がった。

「……え?」
 そして……やっと気づく。
ここまで近距離で話していながら、母親は目の前の『それ』がいつもの娘ではないことにやっと気付いた。

――が、遅すぎた。
「美咲、どうし――」

「マッテテ、すぐゲンキ二してアげル!」
 
 美咲は――殺気で壊れた人間は、美咲の母親に向けてにっこりと笑うと、そのままふらふらと自分の部屋に入り、何の変哲もないティッシュと筆ペンを持って二度廊下へと出て来る。
そしてすぐにトイレへと方向転換をして、まるでその先に楽しい幻覚でも見ているかのように笑いながら、一目散にトイレへと駆け出した。

「待ちなさいっ!!!」
が、鳥肌が立つほど奇妙な光景に危機感を覚えた母親が、美咲を後ろから抱き締め、トイレから引き離した。
「ん〜?」
 まるで夢遊病にでもかかったかのような美咲に対して、母親は息を荒げて美咲を質問攻めにする。
「どうしたの!? 何があったの……?」
 しかし美咲はそんな母親に怒るでも、泣くでもなく、小さな子供のような笑顔を顔に張り付かせながら、言った。

「あのね? みんなしあわせになるのっ!!」

「……………………は?」
「みんなしあわせでね? だからおかあさんもシアワセなの!」
「なに……言って」
 目の前で行われる娘の狂行……それに恐れをなした母親が手を緩めたその瞬間。

「だから、みさき行って来る!」
 美咲は、人形から子供になった美咲は、また母親に対してとびっきりの笑顔を作ると、そのままトイレへと入り中からしっかりと鍵を閉めた。

「美咲っ?! どうしたの? 開けて!! 中で何をしてるの!? 開けて! 開けなさいっ!!」

ドン! ドンドン!! ドンドンドンドンドンドンドンドン!!
 美咲が閉めたドアが振動する。
しかし、もう美咲はそれくらいで止まりはしなかった。

「開けなさい!! 美咲っ!! みさきぃいいぃい――」


 父親を、消す。

今は壊れているものの、頭の良い美咲にはそれがどんなことを意味するのか分かっていた。
 自分を産んでくれた親を片方でも消すということは、すなわち自分の、美咲の消失をも意味する。

 父親を水に流した瞬間に、父親が生まれた過去が書き換わり、自分は生まれていないことになる。
 それが、父親を流し殺すということの本当の意味だった。

 しかし、もう美咲はためらわなかった。
ためらうことすらできなくなっていた。
 自分の汚い汚い見たくも無い過去が、全部無かったことになって、
ついでに母親が助かれば、もう……どうでもよかった。
「よし……。か〜けた」

『お父さん』
 そう書かれたティッシュが、美咲の手から便器の中へと落ちる。
 それを確認すると、美咲は母親がトイレのドアを蹴り破る前に、トイレの洗浄スイッチを押し、『それ』を――
――自分の人生を、
――父親の人生を、
――母親の悲しみを、

一気に『水に流した』。

「サヨウナラ……おとーさん。あの世で会おうね?」

89:匿名さん:2014/05/04(日) 22:49 ID:6qU

や、やっちまった…
せがるようで申し訳ないですが、出来るだけ早く更新していただけませんでしょうか。この作品面白いです。

90:千代:2014/05/05(月) 22:38 ID:PYM

何が駄文なんですかー!!
駄文なんて見当たらないですよー

母親の人生壮絶ですね…
ていうか父親が最低すぎる…w

て、美咲、流しちゃった…!!
美咲、生きていてほしいです…

91:rumia:2014/05/06(火) 03:00 ID:Gas

お二人とも、コメントありがとうございます。
この先(幕間(章の間)と最終章)をできるだけではありますが、なるべく更新をして行きたいと思っています!

 最後まで見ていただけると嬉しいです。
ではこんな時間ですが更新をっと……。ふぁぁ……。

92:rumia:2014/05/06(火) 03:08 ID:Gas


幕間  『    』

 その世界は、すべてが白で埋め尽くされていた。

 目印になるものは、自分の影だけ。
右も左もどこまで続いているかも分からない。
 そんな白一色の空間の中に、美咲はたった一人で立っていた。

とは言っても、もうその顔に生気はない。
 白目をむき、色が付いただけの石像のようにだらしなく口を開け、
その口から時折「がぁ……ぁ……」と意味の無い呼吸音を鳴らすだけの存在。
 身体的にも精神的にも抜け殻となった美咲の姿がそこにはあった。

 当然だろう。
生まれて来ない魂は、地獄にも天国にも行けない。
 この白い世界。『空白』に流され、そして沈んでゆく定めなのだ。

 そう言っているうちに、ごぼっ……ごぼごぼごぼ……と音を立てながら、美咲の体が『空白』の地面に消化され始めた。
「ぁっ……ぁ……」
 まるで一面に牛乳を満たしているかのような『空白』の地面に、白く染まりながら沈んでゆく美咲の体。

 もう……助けを呼ぶことすらできない。
泣くことも、笑うことも、絶望することすら許されない『無』に……ゆっくり、ゆっくりと飲み込まれてゆく美咲。

「あぁ……ああぁ……!」
 しかし最後の力を振り絞り、もはや紙粘土で作られたかのように白くなった右手をまとわり付く地面から引き抜き、「誰か……誰か」と上に向かって手を伸ばした。
誰もいないこの世界で、誰かを求めて手を伸ばした。

――そして、その手は掴まれた。


 「……来ちゃったんだね、幾田美咲ちゃん」
この世界の一部を切り取ったように白いワンピースを着た、黒髪の女性。
 突如現れたその人物によって美咲の白くひび割れた手は握られ、首から上を残して『空白』の地面は美咲を消化するのを止めた。
「だからあれほど考えて使いなさいって言ったのに……」
 そして白目をむいた美咲に向けて、女性は話しかけた。
「母親にも『自分以外の力に頼っても馬鹿を見るだけ』って言われたのに、それでも使っちゃったのね……」
自我も体も消えかかっている美咲に、まるで女神のような姿で語りかけた。
「……それほど悲しくて、自分の人生を憂いで……自分自身を消したくなっちゃった……か」
そして『空白』の地面、美咲の顔だけが浮かんでいるその部分に自分の顔を近付け、言った。
「でも、こんな終わり方じゃ嫌だよ……ね? ワタシ的にもつまらなすぎるよ……全部消えてめでたしめでたしだなんて……。いやそれ以前に全然めでたくないし」
 
「だから、あなたをもう一つの運命に押し流してあげる……。この『お父さん』って書かれたティッシュ……」
 そう女性は話しながら『空白』の地面にチャポンっと手を入れると、さっき美咲が流したティッシュを引き抜いた。
「解釈のしようによってはあなたをここから出すことができる……もちろん人間としてね」

「あぁ……ぁ……」
 その女性の言葉に感謝しているのか、乾いた美咲の口から音が漏れる。
それを見た女性は急に表情を曇らせた。
「ごめんね……こんな瀕死の状態で、あなたにとって一番つらい選択を勝手にして……。でも、その代りもう一つの運命であなたが決断するまで、ワタシはあなたを助けるから……!」

「あぁ……あぃ」
「え?」
「あぃ、あ……ぉぅ」
 石像のように白くなった美咲の顔から涙がこぼれ落ちる。

「ありがとう」きっと美咲はそう言ったのだろう。
 だからそんな美咲を元気づけるように女性は大声で言った。

「商店街へ……初めにワタシとあなたが出会った場所に来て……! そこで、すべてが決まるから」

 白の世界を、もっと輝かしく温かい光が包む。

その中で美咲は、また一人で女性の言う新たな可能性へと押し流されて行った。

93:カレン:2014/05/08(木) 21:13 ID:pPA

真っ白って・・・怖いですね。
いよいよラストって感じ、応援してます!!

94:rumia:2014/05/09(金) 00:54 ID:Gas


カレンさん、久々のコメントありがとうございます。
駄作すぎて飽きちゃったのかな……とか思っていたので、まだ見続けてくれていたことに驚きました!

 今、なかなか話が繋がらなくて悪戦苦闘してますが、明日(今日)には更新したいと思ってます。
最後まで読み続けてくれると嬉しいです。では、

95:rumia:2014/05/09(金) 21:02 ID:Gas

 では続きを書いて行きます。


4 憂いを背負うは人の性(さが)。未来へ流すは人の才。
 
 目を覚ました美咲がまず最初に見たのは天井だった。
オシャレ……というわけではないがそこその天井照明を美咲の方へ突出し、まるで反重力でも働いているかのような光景だった。
 が、単に自分が天井を向いて寝ているだけだと気付いた美咲は、ゆっくりと起き上って辺りを見渡した。
「……トイレ?」
 白い便器に消臭剤。備え付けの棚にトイレットペーパーがいくつも積んであるその四角い個室は、どこからどう見てもトイレだ。

「何でトイレ……なの?」
 なぜ自分がこんなところに寝ているのか。
そんな疑問をさぞかし当たり前だと言わんばかりに、美咲は吐露する。
 ……どうやら、自分が何をしてしまったのか覚えていないようだった。

「って、あぁもう腰が痛い……。とりあえず、こんな所は早く出よう……」
 そう言って美咲はトイレのドアノブに手をかけ、外に出ようとして――ふと気が付いた。
「あれ……? 二階のトイレってこんな匂いだっけ?」
 いつもはラベンダー好きの母親のせいで、鼻をつまむほどにラベンダーの消臭剤が効いている二階のトイレが、柑橘系の匂いに包まれていることに美咲は違和感を覚えたのだ。

「……まぁ、いいか。消臭剤ぐらい変えるだろうし」
 とはいえ、たかが消臭剤の匂いごときで美咲がそのせまっ苦しい空間に留まるわけもなく。
さっさとドアを開け、二階廊下から自分の部屋の前へと戻ってきた。
「あ〜ぁ、何だったんだろう。トイレで寝るとかあり得ないし……。
まさか気絶してたとか? でもそれならお母さんが『勉強しなさいっ!!』って引きずってでも私の部屋に放り込みそうだけど……」
 そう言いながら美咲は自分の部屋のドアを開いた。


「ひっ……」

……そこには――美咲の部屋のハズなのにカラフルできれいなその空間には、見知らぬ女の子が絶叫一歩手前の状態で美咲を凝視していた。 
「イヤっ……」
「……え?」

「嫌ああああああああああああああああぁあああ!!

 ドアの先の見知らぬ部屋で、見知らぬ少女が絶叫している。
そんな、どこ○もドアで、Sちゃんを訪ねようとしたN.Nさんしか見ないような光景を目の当たりにした美咲は、思わず呆然と立ち尽くした。

「お母さっ! お母さぁああああん!!」
その隙に女の子は美咲を突き飛ばし、反対側にある両親の寝室へと転がり込んでいった。
「どうしたの!? 何があったの菜月(なつき)!」
しばらくして、その声に驚いた女性が寝室から出てきた所で、やっと美咲は意識を取り戻す。

「え、ぁ、あの……」
「は? ……ちょ、ちょっと何してるんですか貴方!!」
 が、遅かった。
その子の母親らしい女性は、美咲に近づくとそのまま押し倒し、美咲の顔を掴むとそのまま廊下のフローリングへと叩きつけた。
「痛っ……!」
 美咲はその痛みに耐えながら必死に頭を動かし、その女性に向けて反論した。
「ちょっと待って下さい! 何してるんですかはこっちのセリフですよ!! ここは私の家ですよ?!」

 するとその女性は「は?」と美咲を信じられないような目で見たかと思うと、怪訝そうな顔で美咲に言った。
「……家を間違われたんじゃないですか? ここはうちの主人の両親がずっと前から持っていた別荘なんです。それを夫と私と娘で使っているので、うちの主人の家系以外誰もこの家に住んでいなかったはずです」

「違いますよ!! ここは私の父がおじいちゃんから受け継いだ家なんです! 生田家でもないのにずかずかと上り込んで何様のつもりですか!!」
 父への怒りを忘れているだけなのか、はたまた都合のいい時だけ父の権力を使うことをためらわない性格なのかはさておき、美咲は『生田家』という単語で反論した。
 しかし、その言葉に対して女性から思わぬ言葉が飛び出した。

「え? だから生田家でしょう? うちの家じゃないですか」

96:匿名さん:2014/05/10(土) 09:01 ID:6qU

あー…理解

97:rumia:2014/05/12(月) 03:03 ID:Gas


コメントありがとうございます!
五月病になりかけですが頑張ります……(かすれた声で)

と、いう感謝ついでにすいませんが『いくた』の漢字が間違ってましたね。
正しくは生田ではなく幾田です。
某ゴシック小説に出てくるビクター・フランケンシュタインのビクターから幾田です。
特に意味はありませんが……w

98:rumia:2014/05/12(月) 21:56 ID:Gas

続けて行きます。

「……は? ちょ、ちょっと待って……幾田家って、あなたが?」
 その言葉に狼狽した美咲は尻餅をついたまま、幾田家だと名乗る女性から距離を取る。
すると、その行為が余計に女性の危機感を刺激したのか、美咲はさらに詰め寄られた。

「いい加減にしてください! 一体、菜月の部屋に忍び込んで何をしようとしていたんですか?」
「ちが……私は――あれ?」

「私は……何して、たん……だっけ?」
 その時、やっと美咲は自分の記憶に大きな穴があることに気が付いた。
失った記憶を、さっきまで覚えていた一晩の記憶を思い出そうとした。
 
「はぁ? 何言ってるんですかあなた……! もしかして精神病院か何かから逃げてきたんじゃ――」
「違う……っ。違う違う違う違う!! 私は、たしか……」
 必死に頭を抱える美咲。
頭の中の普段は使われない部分までもが『記憶の穴』という圧倒的な違和感を埋めようとフル回転している中、必死に痛い頭を支えながら考えをまとめようとしていた。
 そして、脳の隅からかき集めた一晩の記憶が、パズルのピースが、

『みんなしあわせでね? だからおかあさんもシアワセなの!』

「あ……あぁ……。ウ、ソ……わた、し」
ついに、美咲の頭の中で一つになった。

「嘘でしょ……? そんな、まさか……」
そして、今、目の前に広がっている絶望的な『結末』を理解する。

「私の――『私にとってのお父さん』が、消え……た?」

 ……そう、美咲が書いたあの願い『父親を消してほしい』という願い。
その願いには二つの解釈があったのだ。
 一つは『幾田秀(いくたすぐる)という人間を生まれる前に消す』という解釈。これは言わずもがな、あの狂った美咲の望んだ結末だった。
しかし、この願いにはもう一つの解釈があったのだ。
それが『美咲の母親と父親が結婚しない』という解釈だ。
 これなら、美咲にとって幾田秀はもはや『父親』ではなくなる。
そう、これなら幾田秀を消すことなく、美咲の願いを叶えることができるのである。

 それを理解し、「ぁあ……ぁぁ……」と、まるで『あそこ』で溺れていた時のような声を上げる美咲に対し、ついにしびれを切らした女性がいきなり寝室へと踵を返し、携帯電話らしき端末を取り出すと誰かに連絡を取り始めた。

「あなた! 今、家の中におかしな人が――お願い帰ってきて!!」

「……ぁぁああああああ!!」
美咲はそれを聞いた途端、血の気の引いた顔で玄関へと走り出した。
 ――理由はわからない。
 ただ、怖かったのだ。
見知らぬ女性が『貴方』(あなた)と呼ぶ電話先の人物が――もうすぐここに来るその人物が、幾田秀であるという事実を認めるのが、自分のやってしまった罪に対する耐え難い罰を直視するのが……とてつもなく怖かったのだ。

「はぁつ、はぁつ……はぁつ」
 そうして玄関に着いたものの、美咲の靴はなかった。
「…………っ!!」
その事実を、美咲は見ないようにしながら、はだしのまま黒く薄暗い曇り空がぼんやりと照らす外へと、たった一人で飛び出して行った。

99:匿名さん:2014/05/15(木) 22:17 ID:6qU

ありゃ…

100:rumia:2014/05/16(金) 21:29 ID:Gas


「はぁっつ……はぁっつ……はぁ……」

それから、どのくらいの時間が経過しただろうか?
 美咲はとにかく家から離れようと、明朝で誰もいない町をただひたすらに走り続けていた。

しかし、それも長くは持たない。

「あぁ……はぁ……あぁぁ、あぁ、あぁ」
 数分もしないうちに足が動かなくなった美咲は、近くにあった本屋さんのシャッターに寄りかかる。

 その顔はもはや病人と間違えられるほどに青ざめ、目は死人と間違われるほどに虚ろだった。
「……行かなきゃ、逃げないと……お母さんを、探さないと」
 しかし自分のやってしまったことから――最悪の結末から逃げる為に……そして、どこかに居るであろう母親の結末を確認するために、
美咲はまた立ち上がり、歩き出そうとした。

「……ぁ、ダメ……っ」
 が、そのままバランスを崩し、美咲は雨が降ったばかりで生乾きだったアスファルトに倒れこんでしまった。
家出、父との会話に母の暴力、自分のせいとはいえ夜更かしまでしていた美咲の心身は、もうそんな気力だけで動かせる状態ではなかったのだ。

 このまま……死んじゃうのかな? 

徐々に目が霞んでくるのを感じながら美咲はそんな覚悟を決めていた。
 すると、そんな美咲に語りかけてくる声があった。

「待ちくたびれたよ……美咲ちゃん」
「……ぁぁ?」
 美咲はすぐさまその声の主を見た。
目が霞んでよくは見えなかったが、どうやらそれは女の人らしかった。
「……誰?」
 もしかして、こんな状態の私を誘拐でもしようとしているんだろうか? それともお金目当て……? そんな不信感から、美咲はその声の主に正体を尋ねた。
 しかし声の主はその質問には答えずに、美咲には全く訳の分からない話をし始めた。
「って……なんかさっき会った時と同じような格好で同じようなうめき声を上げてるね? ……え? そういう趣味なの? ドM?」
「ど……ぇ?」
 本当に意味が分からなった。他人とはいえ死にそうな自分を見て『ドMなの?』と聞いてくるこの女性の精神が、美咲には本当に分らなかった。
が、そんな美咲の引きつった顔を見ようともしない声の主は、「やれやれ……こんなにボロボロなって」と何やらぶつぶつ言いながら倒れている美咲の手を取り言った。

「仕方ない……。あなたの疲れ、上から怒られない程度に流してあげる」

 その瞬間、美咲は女性が握っていた自分の左手から一気に不快感が抜けて行くのを感じた。
青ざめていた顔は徐々に赤みを増し、震えていた手足は安心しきったように、ゆっくりと地面に横たわった。
 霞んでいた目もはっきりと目の前の光景を映し出し、今自分がいるのはたくさんの店が並ぶ商店街の入り口だということを美咲に教えてくれた。

 そうして、全快とはいかなかったものの立ち上がれるだけの気力を取り戻した美咲は、体を起こし今自分を助けてくれた声の主の姿をまじまじと見つめる。
それは、まるで雪のような真っ白の服を着た黒髪の女性だった。
「あなた……は……?」
その姿を、美咲はどこかで見たことがあるような気がした。それも1度ではなく何度か……。
 しかし美咲がその記憶を頭の中から引っ張り出す前に、女性は起き上がった美咲に向かって何かを企んでいるような笑みを浮かべながら囁いた。


「ようこそ商店街へ……ここがあなたの終着点です」

101:rumia:2014/05/18(日) 22:54 ID:Gas

ついにこのスレッドも100越えですか……みなさん応援ありがとうございます。
では続きから。


「終着点……?」

 午後五時過ぎ。人通りが無に等しいその空間で、まだ地べたに座っている美咲は、女性の発言をそっくりそのままオウム返しで聞き返す。
すると、女性はまるでかわいそうな物でも見るような目で美咲を見据えながら言った。
「あらあら……まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてますね……。やっぱり強引に『空白』から流したショックで色々と記憶が飛んでますか……」
 そして美咲の目線に合わせるように腰を下ろしたのち、今度は口に温かい笑みを浮かべた。
「では……まず自己紹介から」

「わたくし紙代(かみよ)と申します。油取り紙のかみに千代(ちよ)のよと書いて紙代。今回はティッシュ配りという形であなた様に関与いたしました」
 やけに丁寧な口調で話す女性改め紙代。
態度の急変に美咲は驚きながらも、ついに目の前の人物が何者なのかを思い出した。

「あぁ! ティッシュ配りの人っ!!」

 誰も居ない商店街に、回復した美咲の大声が響く。
その大声に神代が驚いたかというと、そういう訳ではなく、むしろつまらない物でも見たかのように口を尖らせた。
「だからぁ……そう言ってるでしょ? こういう堅っ苦しい話し方してる時に茶々を入れないでよ、もぉ……訳分かんなくなったじゃない!」
「え? いや……あの」
「もういいわ……なんか私もこういう喋り方息苦しいし、分からないことあったら聞いて、適当に答えるから」
 
 ナゼかいきなり怒り出し「あい、何か質問ある?」とさっきよりも、なんというか大事な物を放り出したような口調で話し始めた紙代。
あまりのことに開いた口が塞がらない美咲はとりあえず何回か咳払いをした後、「じゃぁ……」とこのどうしようもない雰囲気を仕切り直した。

102:rumia:2014/05/18(日) 23:13 ID:Gas

「あなたが……このティッシュを私にくれたんですよね?」
 そう言って美咲は部屋着のポケットに入れていたティッシュを取り出す。
紙代は黙ってうなずいた。
「えぇ……あの時は自分でも恥ずかしかったわー。『ティッシュいかがですかー』って言うのけっこう恥ずかしいのね」
 しかし全く反省していないようだった。

 当然、美咲は激昂する。
「そういうことじゃなくて、私にティッシュを渡したかって聞いてるんですよ!!」
 が、紙代は「はぁ……」と激昂する美咲に向かって溜息をついた。
「……なによ、随分必死ね」
「当たり前ですッ! あなたとってはどうか知りませんけど、私にとっては死活問題なんですから……真面目に答えて下さい!」

 それを聞いた紙代は「はいはい」と言いながら、先ほどまでと同様に美咲を怪しく見据えながら答えた。
「……そ、たしかに私はその『水に流せるティッシュ』をあなたに渡した。……でも警告したはずよ? むやみに使わないでって」

「そんな危険なモノを何で私なんかに……っ」
 たしかに使ったのは自分かも知れない。しかし、渡した方にだって責任はある。
そんな思いを視線で訴えるように、美咲は紙代を睨みながら歯ぎしりをした。
 が、紙代は怯むどころか、そんな美咲を蛇のような鋭い目で逆に睨み返す。

「危険……? 危険にしたのは誰よ? ねぇ」
「っ……それは……」
痛い所を突かれ、美咲は言いたかった反論を言い淀む。
 その隙に紙代は、さらに棘のある言葉で美咲を突き刺しにかかった。
「些細な願いをしていた最初は安全だったじゃない……。それを正気でなかったとはいえ殺人に使ったのは誰?」
「……だって」「だってじゃないのよ、言い訳したってあなたのやろうとしたことは『殺人』……分かる?」

「そん…・・な」
 身体的な疲労は回復していてもメンタル面は崩壊寸前だった美咲は、紙代の言葉に突き刺され、物理的に崩れ落ちる。
何かが間違っている気はしたものの、たしかに紙代の言うことは真実だったからだ。
 
 しかしそれでも美咲は心の中で渦巻くありったけの思いを大声で紙代にぶつけた。
「でも……っ。お父さんは――あいつは死んでないじゃないですか!!」
 が、紙代はそれを屁とも思わない様子で「そーねー」と適当にあしらいつつ、しゃがんだ状態から立ち上がった。
「本来なら人殺しのあなたはこんな茶番すらすっ飛ばして『空白』行きなんだけど……私が書かれていた願いの解釈をすり替えたの」

「それが、『私の両親が結婚しない世界』ってことですか?」

 その言葉に紙代はトマトを英語発音したトメィトゥ的な発音で「ご名答」と言うと、未だに本屋さんのシャッターに寄りかかっている美咲を見下しつつ言う。
「だからこそあなたは、今こうして公平な審判を受けることができているのよ?」

「審判?」
いきなり出て来た物騒な語彙に美咲は一瞬驚いたものの、紙代が最初に「待ちくたびれた」と発言していたことを思い出し、素直に紙代の答えを待った。

「そう……あなたは自分の境遇を3度も水に流し、流れ流れてあなたの予期せぬ世界へと流れ着いた」

 誰もいない商店街のアスファルトを紙代が踏み鳴らす。

「川の水が海へ流れ着くように、自分の運命を流した者は裁きを受ける為に終着点へと流れ着く、それが決まり」

 まるで美咲を威嚇しているかのように鳴るその音は、拍子木のように高らかでどこか人を寄せ付けないような雰囲気を醸し出していた。

「もっとも、さっき言ったように他人の命まで流した者は裁きすら受けずに『空白』行きですけど……ねぇ?」

 

103:rumia:2014/05/18(日) 23:15 ID:Gas

 な! 文字数オーバーですと!? ……続きます。

急に、美咲を威嚇するかのような態度を取ってきた紙代。
その言葉にまた貫かれぬよう、美咲は紙代の話を切った。

一体、何を審判するっていうの?」

 自分の話に酔っていた紙代はしかし「あら、随分と気が早いのね……ま、その方が説明する手間が省けるけど」と言いながら、またシャッターに寄りかかっている美咲に顔を近付けて来た。
「簡単よ……? あなたが2つのうちから1つ選べばいいの」
 ――そして、その瞬間美咲は確信した。

「私にティッシュを返却して、もといた『虐待の地獄』に落ちるか……」

 目と口を悪意と恍惚で歪め、自分をどう料理してやろうかと迫るこの女は。

「それともティッシュを私に返さず、永遠に理想の世界を求め続けて『空白』に落ちるか……」

 自分の運命を鼻で笑い、指先一つで地獄に落とそうとするこの女は。

「さぁ、幾田美咲? あなたが選ぶのは……どっち?」

――自分が今まで話していた相手は、人間とは呼べないほどに残酷だということを。

104:&◆JE:2014/05/19(月) 09:28 ID:X0w

発想力が....
天才ですね!!!!
神様です!

105:rumia:2014/05/19(月) 20:54 ID:Gas

 &さん、ご愛読ありがとうございます! m(_ _)m
天才だなんてそんな……ありがとうございます、嬉しいです。
 あと少しでとりあえずこのお話は完結しますので、
メチャクチャな展開に目をつぶっていただけるなら、最後まで読んでくれると幸いです。
 コメントありがとうございました。

106:&◆JE:2014/05/20(火) 20:44 ID:18c

メチャクチャってそんな!
世間に出版したって通用しますよ!
絶対最後まで読みます!

107:ミケ:2014/05/21(水) 00:28 ID:yrY

どうも!たまたまrumiaさんの小説を見かけましたから、読んで見ました。
凄く面白いですね。
文章の書き方も私と全く違って上手いですし。
これからも読んでいこうと思いますから、頑張って下さい!
私も小説の方を頑張っていきます。まぁ、rumiaさんみたいに上手くは書けないと思いますけどw
あと、私の小説の方もまだ未完成ですがニ話できました。言われたとおり一話と違いわかりやすく色々細かく書きました。まだ、駄作ですがw
私も小説を書くの頑張ります。rumiaさんも頑張って下さい。

108:rumia:2014/05/22(木) 01:18 ID:Gas


 &さん、ミケさん、コメントありがとうございます。
>>106
いえいえ……まだまだですよ。

>>107
初コメントありがとうございます。m(_ _)m
 ミケさんの小説も引き続き見させていたたきますので、よろしくお願いします。
一緒に頑張りましょう!

 さて、ここからは一気に行きたいと思います。
一体美咲はどちらを選ぶのか……? それではどうぞ。

109:rumia:2014/05/22(木) 01:36 ID:Gas


「…………」
 もう夜が明けてもおかしくないというのに、一向に明るくならない商店街。
その小さな小さな一本道に静寂が訪れる。
 お互い、相手の息がかかる距離まで近づいているというのに、美咲も紙代も全く口を開かなかった。
美咲は息を荒らげて迫ってくる紙代を俯きがちに睨みつけ、紙代はそんな美咲を舌の上で転がすように何度も舌なめずりしながら、反応を楽しむ。
 そんな膠着(こうちゃく)状態が何分か続いた後、最初に口を開いたのは紙代だった。

「あら、どうしたの? そんなに黙ちゃって……まさか私が都合よく運命を変えてくれるとでも思ってたの? たかが人間一人救う為に?」
 ふざけないでよ、私はそんなにヒマじゃないの……。
そう続けると、紙代は美咲が入ってきた商店街の入り口を指差しながら言った。

「あ、解答を放棄して逃げたかったら言ってね? ここは、もうあなたと私しかいない世界――商店街の一本道を切り取っただけの小さな小舟なんだから……。下手に外に出ようとするととんでもない世界に流されるわよ?」
 その言葉に誘われ、美咲はさっきからやけに暗いと思っていた商店街に注意を向けてみた。
そして気付く。今の商店街は異様な静寂に包まれているということに。
 本来、よほど特殊な場所でない限り生まれないであろう、風の音も機械音も人の足音も無い空間。
美咲が普通の商店街だと思っていたその場所は、いつの間にかそんな異様な空間へとすり替わっていたのだ。
 そしてそれを証明するかのように商店街の出入口から先の道が綺麗さっぱり消え、まるでメビウスの輪のようにもう一つの出入口に繋げられていた。

「まぁ、放棄するってことは、『空白』に落ちるリスクを背負いつつ未来を変える選択肢を選ぶってことだから、ある意味放棄はしていないのかもしれないけど……ってあぁ、そういえばあなたは『空白』の記憶を失っていたんだっけ? それなら今から見せても――」
「結構です」
 何か危ない行為に及ぼうとしている紙代を、美咲は言葉で制す。
たしかに美咲は『空白』での記憶を失っていたが、さっきの選択肢からして『虐待される地獄』と同等か、それ以上の場所だと推測できたからだ。
「そう……それならさっさと選んで。あなたが選べないなら、私が勝手に選んでもいいのよ……? それは嫌でしょ? 自分が堕ちる場所くらい、自分で決めたいでしょ?」
 しかしそれが分かったからといって、依然状況は変わらなかった。

 また……あの地獄に戻るか。
それともティッシュを使い続け、身を滅ぼすか。

 そんな理不尽な二択問題に、美咲は答えなくてはならないのだ。

110:rumia:2014/05/22(木) 01:42 ID:Gas


 しかしその前に、美咲には1つ心残りがあった。
「……1つだけ、教えてもらっていいですか?」
「何?」
「お母さんは……この世界でのお母さんはどうなってるんですか?」
 それは母親の幸せだ。

 たしかに、自分を虐待してきた母親を簡単に許すつもりなど美咲にはない。
あの時、母親に優しい言葉を吐いたのはあくまで父親への殺意からでのことだ。
 しかし自分勝手に物事を流し続けてきた今、自分一人の利害だけでこの決断をしてはいけないと美咲は思ったのだ。
 
 が、そんなことは知らぬとでも言いたげな紙代は「はぁ……。まったく、あなたはどこまでお人好しなのよ……」とぼやくと、一旦美咲から距離を取り、冷静な口調で語り出した。 
「あなたの想像通り、彼女は40歳近くなった今でも、ほぼ浮浪者のような状態で生活しているわ……。ま、あんな金持ちに出会わなかったら落ちぶれるのは目に見えてたけどね」

 そんなことは無い。あの人は父親にあんな扱いをされても必死で耐えていた……だからこっちの世界でもただ運が悪かっただけだろう。
紙代の心無い言葉についそう言いかえしてしまいそうになった美咲だったが、今はそんなことを言っている場合ではない――とその言葉を飲み込み、「そうですか……」と紙代に返答した。

 すると、その言葉を聞いた紙代の表情が一瞬だけ緩んだ。
まるで「いけないことを言ってしまったかな……?」とでも思ったかのように、一瞬だけうつむいて自分の方を向かない美咲を、心配そうな目で見た。
 しかしすぐに美咲が顔を上げたので、もとの厳しい表情に戻り、見方によってはフォローとも取れる言葉を美咲にかけた。

「……うんくさい私が言っても信用できないだろうけど、そういうことよ……。えっと、その、たしかに実際に連れてくることは無理ではなかったんだけど――」

「そんなことをしたらあなた、卒倒(そっとう)するじゃない……?」
「え?」
 露骨に口が滑ったのか、頭の中が悩みで飽和しているはずの美咲に、信じられないような顔で見られる紙代。

「……いえ、ただの独り言よ。気にしないで」
 やっと自分の失態に気付いたのか、慌てて仕切り直す紙代。
美咲もこれ以上はこの女を刺激するだけだと理解したのか、追及はしなかった。

「それより、早く答えを聞かせてちょうだい……。あなたが選ぶのは今まで通り虐待され続ける未来? それとも『空白』に落ちる覚悟で自分の思うように変えた未来? さぁ……どっち?」

 そして、決断の時が訪れた。
紙代の口ぶりからすると、時間制限はないものの紙代自身が飽きた時点で終了。美咲から選択権が剥奪されるということだろう。

 もう逃げも隠れもできない。
そう痛感した美咲は、今まで寄りかかっていたシャッターから離れ、
自分の足で立ち上がった後、紙代に向かって話し始めた。

「正直、私は選択肢の『空白』というものがどんなものか分かりません」

 それは始めに紙代と、ティッシュ配りの女性と会った時と同じように覇気が無く、今にも泣き出しそうな声だった。

「あなたの言う通りなら記憶を失っているだけなんでしょうけど、やっぱりどんな場所か思い出せないから……怖いですし恐ろしいです」

 しかし、その声は朗々と商店街に響き渡り。紙代は満足そうに微笑んでいた。

「もしかしたら虐待されるよりも恐ろしい場所かも知れない。地獄よりももっと苦しい場所かもしれない。そう思うと恐ろしくて足がすくみます」

 そう言った後、美咲は何度も何度もためらいながら心の中で言葉を紡ぎ、やっとのことで次の言葉を口にした。

「でも……それでも。やっぱりもと居た地獄に戻るのなんて嫌です」

 美咲の目から、綺麗な滴が頬を通って口へと流れた。

「戻りたくない……っ。もう殴られたくない! 蹴られたくないっ!! もう、もう!!……もう」
 

「もう傷付けられたくなんて……ないですよ」

111:rumia:2014/05/22(木) 01:45 ID:Gas


 アスファルトにできた水たまりに映る美咲を、美咲自身の頬から落ちた滴が何度も何度も歪ませる。
息を殺し、とにかくとにかく涙だけを流す。

 そんな美咲を見て、紙代は満足そうに言った。
「そうよね……元に戻るなんて嫌よね。自分の思いが水の泡になるのなんて絶対に嫌よね……! それじゃ――」

「でも……だからこそ……」

「え?」
 しかしその言葉は言い切られることなく、逆説の接続詞によって否定されてしまった。
予想外の事態に驚き慌てる紙代。
 しかし美咲はそれを一切気にせず、また腰を下ろしたかと思うと頭をアスファルトに擦り付け、涙で枯れた声を必死に絞り出して叫んだ。


「お願いします……。元に戻してください……っ!!」

 それが、美咲の解答だった。

「これ以上求めても、きっと私の望む世界なんてない……」

 それはやっとこの世界で分かったこと。
自分が最善だと思ってやった行動が、かえって人を苦しませてしまった。
 いくら自分一人が強力な力を持って善意で事実を変えたって、待っているのは幸せだけとは限らない。
 だから、美咲は『諦めた』のだ。

「結局私はお母さんの装飾品で、お母さんはお父さんの装飾品であり続けるしか……っ。ないん……ですよ……」

 自分はあそこで一生母の人形として生き、母は父の人形として生きる。
それしか、もう自分に活路はないのだと『諦めた』のだ。


 そして……すべてを諦め言葉を切ってしまった美咲によって、また商店街は静寂に包まれる。
 とはいっても、さっきとは違い完全な静寂ではなかった。
美咲の頬から雨のように流れる涙が、水たまりの水面を揺らす音は依然として何度も何度も響いていた。

 しかし、それでも静寂というには十分すぎる静けさが商店街という名の小舟を支配していた。が、



「……あはっ」
 それを破ったのは意外な声だった。

「あ〜っ! はっはっはっはっははっ……! へへへっ……ごふ……ふふふふふふふふふふっ! はははは……あはははははははっはははははははっはははははっ!」

 豪快な、それでいて心の底から嬉しそうな。
小馬鹿にしたような、それでいて敬意を表しているような。
 そんな笑いが、静かだった商店街中に響き渡る。
その光景に、美咲は絶句した。

たしかに、その声を発しているのが陽気な人なら美咲だってそんな反応はしない。
 しかし笑っているのが、今まで自分を殺すんじゃないかと思うまでに挑発的な態度を取っていたバケモノなら。
 鉄の仮面でも被っているかのように冷静な女性なら。
それは異様という表現が最も適しているだろう。

「そっかぁ! あなたはそっちかぁ。そっかそっかそっかそっかそっか!」
 そっかそっかそっかそっかそっか――と、そこまで言ったところで、
今まで冷酷だった女性が――恐ろしいほどにバケモノじみていた紙代が、絶句する美咲を置いてけぼりにして、
 今度は慈愛に満ちた笑みを浮かべながら言った。


「そっか……あなたはそっちを選ぶんだね……」

112:ミケ:2014/05/22(木) 23:44 ID:TcI

読みました

続きがきになる!

113:匿名さん:2014/05/23(金) 15:38 ID:ZCM

発想が面白いですね!

114:rumia:2014/05/24(土) 01:54 ID:Gas

前略

ミケさん。匿名さん。 コメントありがとうございます。

 続きなのですが、この先は物語の『コア』。
核にあたる部分なので推敲を繰り返しております。(ま、どの道駄文でしょうが……w)

 いきなり笑い出した紙代が語ることとは……? なんて期待させておいて投稿が遅れ気味になるかも知れませんが、気長に待って下さると幸いです。
草々

115:rumia:2014/05/25(日) 22:40 ID:Gas


「強い子だなぁ君は……ホントに」

『君』
 突然そんな代名詞で呼ばれた美咲は目を見開く。
今まで自分のことを『あなた』と呼んでいた黒髪淑女が、とびっきりの屈託のない笑顔で自分に話かけてきたからだ。

「…………」
 何か裏があるんじゃないか、もしかしてまた私を騙そうとしているのか、そんな疑いを目の前の女性に抱いてみた美咲だったが、そんな疑いを笑い飛ばように紙代は言った。

「美咲ちゃん……突然変な話ししちゃうけど、君はトイレの排水がどこに行くか知ってる?」
 いきなり関係ない。それも、けっこう下品な話を振ってきた紙代。
しかし美咲はかえってそんな適当な話を振られたことで気が抜け、「え? えぇっと……」と、紙代の出してきた問題を考え、意味も分からず答えを出した。

「……下水処理場、ですか?」
 またトメィトゥに似た発音で「ゴメィトゥ」と言う紙代。
「そ……トイレに流す糞尿ってトイレで『処理』してるような気がするけど、実はパイプで繋がったどこか遠くで処理されてるんだよね〜」
 紙代がなぜこんな話をしているのか、訳が分からず黙って聞く美咲、それを片目で確認しながら紙代は続ける。
「物事も同じ……。『水に流す』――あったことを無かったことにするなんて言葉があるけど、実際にはあったことを『無かったこと』になんてできやしない……どこか遠くに押し込めるのが精一杯で、どんなに、それこそ糞尿みたいに汚らしい過去であろうと『消す』ことなんてできやしないのよ……」

「あぁ」と美咲は紙代の言わんとすることを自分なりに理解し、また生気を失ったした低い声で、自分の意見を述べた。

「分かってますよ、だから私には天罰が下ったってことでしょう?
本来流せないものを流して、逃げて、無かったことにして……だから私が罰を受けるのは当然ってことでしょう?」

「ううん……違うよ?」
 しかしその言葉は、美咲の記憶にはない――それでいてどこか、違う世界で聞いたような優しい声によって否定された。
 

「あのね、美咲ちゃん」
 美咲ちゃん。
よく思い出してみるとさっきからそんな呼ばれ方をしていたのだが、美咲はその時、自分がそう呼ばれていたことに初めて気付き、複雑な気持ちになった。

今みたいに大人に絶望し、大人を嫌うずっと前。
 声をかけてくれた名前も知らない近所の大人達が、今目の前にいる紙代の姿に重なったのだ。
 お父さんもお母さんも、決してその大人達とは仲良くなかったというのに、自分には「美咲ちゃん」と言って頭を撫でてくれた大人達、それをそのまま演じているかのように紙代は美咲の頭を撫でながら言った。

「たしかにこのティッシュは反則だよ。使っただけで人の記憶どころか事実すら捻じ曲げて、見たくない過去を洗い流しちゃうんだもん」
 美咲のロクに整えていない髪を、さらにくしゃくしゃとかき混ぜながら……。まるで自分の子供に語り聞かせるように優しく、それでいてゆっくりと紙代は語る。
「……でもね、実はこのティッシュ、一つだけ洗い流せないものがあるの」
 そう言うと紙代は突然、涙で濡れた部屋着ごしに美咲の胸に自分の右手を当てた。

「……っ」
一瞬、美咲はまた何かされるのではないかと身構えたが、紙代はそのまま、ドックン・ドックンと脈打つ心臓の音に合わせて美咲の胸をぽんぽんと叩き、おびえる美咲に向かって囁いた。

「あなたの『ここ』よ」


 美咲は始め、それが何のことを言っているのか理解できなかった。
心臓が洗い流せない? どういうこと? なんて考えていた。
 しかし紙代が触れている部分が徐々に、それこそ自称バケモノの彼女が魔法でも使ったかのように温かくなって行くのを感じ、美咲はようやくその言葉の意味を知った。

「私の『ココロ』?」

116:rumia:2014/05/25(日) 22:43 ID:Gas

 紙代はその呟きに黙ってうなずくと、また子供を諭すような口調で話し始めた。 
「どんなに他人の記憶が消えて、証拠も消えて、事実本当に無かったことになったとしても……。あなたの中の『痛み』だけは絶対に流せない。そう、絶対にね……」

「だって」と、紙代はそうっと美咲の頬に触れ、そこに流れている小さな小さな川を――何かを押し流そうと必死に流れている川の水を拭き取り、言った。


「……あんなに色々なことを水に流したっていうのに、まだあなたの目は、自分の中の痛みを『水に流そうと』してるじゃない……」

 どうりで、
その言葉を聞いて美咲はそう思った。
 どうりで口の中がしょっぱいと思った。
どうりでさっきから目がかゆいと思った。
どうりでさっきからしゃっくりみたいなのが止まらないと思った。
どうりで――

 ――胸の奥がずっとずっと前から痛いと、思ってた。

「……私、まだ、泣いてたん……です、ね」
 そう言う美咲は、泣いていた。

ずっと前から、母親に手を上げられたその日から、
ずっとずっと心の中で溜められ続けていたその痛みが、やっと、やっと――

――涙として美咲の頬を伝い、誰も居ない商店街の水たまりを揺らした。何度も揺らした。
何度も何度も何度も、美咲の頬からこぼれ落ちる滴は水たまりを揺らし、そして、
「ぁ……。ぅあ……ぅぁぁあああああああ!! ああああああ! ああああああ……ああああああああああああああああああぁ!!」
 美咲自身の声が、商店街中を揺らし出した。

 まるで赤子のように口を開け、ただ叫ぶ。
ひたすら『あ』を連呼する。
 それでしか表現できない痛みを、美咲は外へと吐き出す。
父親に向けての感謝の涙でもなく、母親に向けての同情の涙でもなく、美咲はただ自分の為に吠え続けた。

「泣きなさい、泣いていいの……」
果たしてそんな美咲の耳に届いているのかは分からなかったが、紙代は美咲に向けてそう囁いた後、そっと美咲を抱きしめる。

「あなたの感じている痛みは決して恥ずかしいものじゃない……だから、声高く泣きなさい。せめて痛みを水に流した気になりなさい」

美咲は驚き、一瞬泣くのをなめたものの、自分の頭を撫でてくれる紙代の体温を感じ、紙代の白いワンピースを自分の涙で濡らした。
 だが、その時美咲は気付いていなかった。
自分のを撫でているその大きな手が、雨も降っていないのに塩っ辛い水で濡れていることに。
 だから、その塩辛い水を流している誰かさんはそれを気取られぬよう、必死に唇を噛みしめながら美咲に言った。

「ここには私とあなたしかいないから……ね?」

117:&◆JE:2014/05/25(日) 23:01 ID:c1s

そろそろフィナーレですね!
ここまで読ませていただきましたが、才能が開花して
すごいですね!!!!!!!!!!
見習いたいですね!!!!!!!!!!

118:ミケ:2014/05/26(月) 16:21 ID:DcY

やっぱ才能あるし凄いな〜
私も見習わなきゃ。
今だに文章が下手くそな自分w
また続きがきたら読みますね!

119:rumia:2014/05/28(水) 05:13 ID:Gas

 お二人とも、毎度毎度コメントありがとうございますヾ(❀╹◡╹)ノ゙❀~~~
帰ってスグに爆睡しちゃって、こんな時間にコメしてますw
 >>117
……感嘆符がw 
いえいえ、ありがとうございます。

 >>118
 ありがとうございます。気が向いたら読んで下さい。
私も妖日和は引き続き読ませていただきたいと思います。

――では、なんか一応続きを書いたので、更新します。(若干遅れましたがw)

120:rumia:2014/05/28(水) 05:36 ID:Gas


「ありがとうございます……少し楽になりました」

 依然として時間が止まってしまった商店街の中、美咲は俯きがちに紙代のワンピースから離れると、そのまま紙代にお礼を言った。
紙代は飲み込んだ涙で喉が痛いのか沈黙したままだったが、その声に応答するかのようにうなずいた。
 それを揺れるワンピースのスカートから感じ取った美咲は、そっと顔を上げる。

「でも……だからこそ事実は、過去は変えれないんですよね……? いくら泣いても、いくら喚き散らしても、誰かに手を差し伸べられたって――結局水に流した気になるだけで、消えたりなんてしてくれないんですよね……」
 また泣きそうな声をしながら、というか最後のほうは嗚咽混じりにそう紙代に訴えかける美咲。
紙代はまた美咲の髪を撫でながら諭す。

「えぇ、そうよ……。人間は例外なく自分の傷を――だれも背負ってくれない悩みを、たった一人で背負わなくてはならない……。大きな悩みであれ、小さな悩みであれ、他人に背負ってほしくてたまらない『憂い』を背負いながら生き続けなければならないわ……」

「そう……ですか」
 少しでも否定されるのを期待していたのか、その言葉に美咲は肩を落とし、そっとため息をついた。

しかしそんな美咲の顔に突如手が伸びてきたかと思うと、そのまま美咲は顔を上に持ち上げられる。
「でもね、美咲。……幾田美咲」
 見上げた先に待っていたのは、真剣な――あれだけ自分を弄んでおきながら、遊び心など微塵もない真剣な顔をした紙代がいた。
 そして神代は「い〜い? よく聞いておきなさいよ?」と前置きした上で、美咲の耳に向けてささやいた。


「消すとこはできなくても、変えることはできるの……」


 そう言うと紙代は、さっき「よく聞いておきなさいよ」と言っておきながらすぐに自分の顔を美咲から離し、右手を美咲の頭の上に置きながら話し始めた。

「私の記憶、ポケットティッシュの付喪神としての記憶の中には、そういう人間がたくさんいる」 

 その置いた手を杖に紙代は美咲とすれ違い、商店街を闊歩しながらセリフを吐く。

「どんなに私に向かって一晩中泣き喚いても、翌朝にはどうにか這いつくばって生きようとする人間がいる……。あいつを殺したいと私を握りつぶしたのに、何回も泣いて喚いてその殺意を相手への賞賛へ変えた人間がいる」

 コツン、コツンと時が止まった商店街に足音が響く。
その音はどこか物悲しげで、どこか楽しげで……。
 まるで踊りを踊っているかのような足音を立てながら紙代は美咲の周りを歩く。

「そりゃぁ、変えることができなくて自殺したり、私を他人の血で染めた奴らもいるけどね」

 そしてまた美咲の前に戻ってくると、苦笑いをしながら美咲の顔を見た。

 美咲の瞳には少しだけ光が戻っていたものの、自分を見つめてくる紙代に対してゆっくりと首を横に振ると、また嘆息をもらしながら呟いた。
「じゃぁ、私はそっち側の人間ですよ……。実際にお父さんも殺しちゃったし……同時に自殺もしちゃったしそれに――」

121:rumia:2014/05/28(水) 05:42 ID:Gas

「――いいえ」
 しかし、そんなネガティブな呟きは、即座に否定される。

「あなたは過去を変えられる人間よ……。私が、何千人もの人の涙を拭ってきた私が断言する」
 それと同時に美咲は神代に両肩を強く握られ、また二人は向かい合う形となった。

「なんで……っ、だって私は――」
 それでも何か言いたげな美咲。
しかし美咲がすべて言い終える前に、紙代はゆっくりと首を横に振り、美咲の言葉を遮った。

「たしかに、あなたは人としてやってはいけないタブーに触れたわ……私の気まぐれでね」

 と言いながら「その点は本当にゴメンナサイね」と謝罪する紙代。

「でもスケールに違いがあったとしても、過去を変えた人間はあなたと同じような道を辿った……」
 そこで紙代は大きく深呼吸をすると、美咲の瞳を真っ直ぐに見据えながら、一気に言葉を吐いた。

「『汚い現実なんて背負いたくない』『何で自分一人で背負わなくちゃならないんだ』と喚いて、泣いて、誰かに手を差し伸べられて……」
 その声は、もう美咲に隠す気が無いのか涙声だった。

「それでもやっぱり自分の悩みは自分しか背負えないんだと気付いて……」
 それは、目の前の少女に対する感動の涙なのか、それとも何かに対する後悔の涙なのか、

「そして自分自身の現実に押しつぶされながら明日に向かってもがき続ける……」
 何も知らない美咲には全く分からなかったものの、

「そんな汚くも美しい道を歩める人間だからこそ、過去を――そして未来を変えることができるの……。私みたいなバケモノには到底作りえない『自分だけの明日』を、自らの手で作ることができるのよ……」

 目の前の女性が、自分を必死に励まそうとしてくれていることは、心が枯れ果てた美咲にも、十分に理解できた。

そして話している間に力が抜け、だらん、とだらしなく垂れ下がった両手を紙代はまた美咲の肩に置き、嗚咽で痙攣する横隔膜を必死に抑えながらさらに言葉を紡ぐ。
「美咲」

「あなたは私の力なんて頼らずに、その原動力が『諦め』であったとしても、自分の現実を背負い、明日へともがき続ける『覚悟』を示したわ……」

 わが子に、遺言を残す母親のように。

「だからあなたにだって変えられる……自分の力で、見たくも無い傷を自分だけの明日に変えることができる」

 力の限り、声の出る限り。紙代は美咲に自分の言葉を浴びせた。

「自らの現実を――『憂い』を背負う覚悟を持って、自分の力で未来へと流す」

 前に進んでほしい。

「そんな本当の意味で『過去を水に流す』才能が、あなたにはあるハズなの……」

 自分には進めなかった道。

「だから……泣き疲れたら顔を上げなさい」

 でも……あなたなら進めるハズだから。

「何もかも諦めつくして、うずくまっていても明日は来る……。それなら、あなたなりに這いつくばって『空白の明日』を、苦しみながらも前に進む『自分だけの明日』に変えて……!」

 だから、力の限りに這いつくばってほしい。……だって、

「……その先に、あなたの望んだ未来があるはずだから」

 そう言いたげな紙代の目から、バケモノにはないはずの滴が1滴、静かな商店街の水たまりへと……こぼれ落ちた。

122:匿名さん カレン:2014/05/29(木) 18:49 ID:KkE

・・・・・・感動的な展開ですね。
「自分だけの明日」ってフレーズで、ちょっと涙腺崩壊しかけちゃいました。
続きが読みたいので、早めの更新おねがいします!!!

123:rumia:2014/05/31(土) 22:39 ID:Gas


 匿名さん。コメントありがとうございます!
このシーンは特に力を入れていたのですが、それが伝わったようでうれしいです!

最近色々忙しくて更新が遅れていますが、早めに更新したいと思います……(スイマセン)

124:rumia:2014/06/03(火) 22:26 ID:Gas

お待たせしました。続きから行きます。

「紙代……さん。何で……」

 紙代の励ましを受け、静かに泣いていた美咲だったが、自分の目の前で涙をこぼした紙代に気付き、泣き笑いしながら話しかけた。
「何で、泣いてるんです……? 私のことなんてどうでもイイって……言ってたじゃ、ないですか……っ」
 照れ隠しなのか、それとも「そんな風に泣かれたら、私が泣けないじゃないですか!」というやけっぱちの怒りなのか、ちょっと皮肉交じりに紙代を心配する美咲。

 すると紙代もまた似合わないセリフを吐いて照れているのか、無理やり声を整えながら俯きがちに言った。
「別に、あなたの為に泣いてるわけじゃ……。ほら、あれよ目にゴミが入ったってやつで――って」

 恥ずかしさに耐えられなくなったのか、それともそれ以上追及されることを恐れたのか、紙代は掴んでいた美咲の肩から手を離し、少し下がってから仁王立ちをした。
「そんなことやってる場合じゃないでしょ? これは審判なんだから、早く判決を出さないと――」
「あぁ……」
 そういえばそうだっけ。と、色々ありすぎて記憶が飛んでいた美咲は思いながら、「それじゃぁ……」とポケットの中に入っていた例ティッシュを紙代に差し出す。

「このティッシュ、返さないといけないですよね……」
しかしそれを見た紙代はゆっくりと首を振った。

「いいえ……それはあなたが持っていなさい。覚悟を決めたあなたになら預けても問題ないだろうから」
 お守りにでもしてくれたらうれしいわ、そう言って紙代は美咲の手ごとティッシュをポケットの中へ押し込むと「さて」と気合を入れ直した。
「じゃ、そろそろあなたを元の世界へ――私とあなたが会ったあの商店街へ帰さないとね……」

 その言葉に、美咲はぼそっと呟いた。
「……お別れ、なんですか……?」

 事件の元凶とはいえ、紙代には色々と気を使ってもらった。
親近感なんて全く覚えなかったものの今、目の前にいる女性に対して、美咲はなんだか申し訳なくなってしまったのだ。

 しかしそんな呟きを、紙代は意地の悪そうな笑顔で一蹴する。
「いや、そうでもないわよ……? 私ここら辺に住んでるし、買い物してたら会う可能性も――」
「……予想以上に庶民的ですね」

 冗談なのか本気なのか分からない紙代の言葉にイラつく美咲。
しかし紙代は気にせず、口でなにやら唱え始めた。

「んじゃ、始めますか……」
「……!?」

125:rumia:2014/06/03(火) 22:29 ID:Gas


 突如、今まで美咲達が居た商店街が掻き消え、美咲はまるで夜空のような深い青色に染まった空間に投げ出された。

「ちょ……ちょ、ちょぉおおおおおおお!!」
 落ちる、落ちる、落ちる。
まるで、というか本当に床が無くなってしまったらしいその空間で、美咲と紙代はひたすら落下を始めた。

「あはは……久しぶりねぇ、こんな感覚〜」
 とは言っても紙代は名前通り軽いのか、落下というより空中散歩といった感じで、美咲より上で優雅に笑っていた。
「何笑ってるんですか!! ――って、なんか下から音がするんですけど!?」
 突然の事態にパニックに陥り、生涯始めて出したであろう奇声を上げながら激怒する美咲。

しかし、そんな美咲にさらなる追い打ちが待っていた。
「あぁ、言い忘れてた」

「下から『雨』が来るから、注意してね……♪」

「ちょ……」
 どゆこと……!? そう美咲が叫ぶ前に、

ざぁあああぁああああああああああああああああああああぁあああ。

 そうとしか表現しようのない、大粒の雨が、美咲の『下』から降って来た。
「おあぁ……ちょ、バランスが、冷たいしバランスが……っ。落ちる! 落ちるって!」

 もう落ちてるだろ……。
そんなツッコミを誰もしないので、怖くなった美咲は思いっきり目をつぶり「もう、どうにでもなれ」とばかりにそのまま落下を続けようとした。

「あら……怖くなったの?」
 が、そんな美咲の弱みを目ざとく見つけた紙代は、上から美咲に言った。
「目を開けてみなさい。……綺麗よ?」

「…………ぇ?」
 その言葉におそるおそる目を開ける美咲。すると、そこには――

「う……わ……ぁ」
 普段は無表情な美咲が放心するほどの絶景が広がっていた。

 大きな大きな雨粒1つ1つが、歪んだ自分の顔を映しながら過ぎ去ってゆく。
自分の体を撫で、紙代の体を撫でて、あっという間に天に昇って星のように輝き始める。
 まるで360度どこを見ても星だらけの天球儀の中で、流れ星にじゃれつかれているかのような光景。

 そんな美しい空間を美咲は落ち続けていたのだった。

126:ミケ:2014/06/05(木) 01:01 ID:W.o

コメ書くの遅れてすみません。

実は風邪ひいてwwそのせいでこっちの小説も書くの遅れましたww

もちろん、読みました。結構感動的ですね。次も待ってます。

127:rumia:2014/06/05(木) 19:25 ID:Gas

 ミケさんお久しぶりです! ヽ(*´∀`)ノ
そしてお褒めいただきありがとうございます!!
 着地点が見つからなかったのでいい感じの話にしてみましたw
(なんかこじつけっぽいですけど……(^_^;)

 風邪、大丈夫ですか? 今の時期はタチの悪いやつが流行りますからね……。
ぶり返さないよう、お大事に〜。

128:rumia:2014/06/08(日) 21:52 ID:KCM

遅れてすいません……。 第4章、最後の更新です。

「綺麗……」

 綺麗、そうとしか言いようが無いとばかりに、美咲は絶句する。

 それを上から見ていた紙代は、笑いながら自分たちが落ちているその先を指差し言った。
「あと2分くらいかしらね……あの一番輝いている光の中に入れば、あの商店街に戻れるわ……」
 そう言われて美咲は自分が落ちて行くその先を、体をくねらせ見る。
 たしかに紙代が指差した先には、一際輝く出口があった。
さっきまで小さな星にしか見えなかったそれは、だんだん大きくなり、自分達がそこへ向かっているのだと、美咲自身に思い知らせていた。
 
 そんな光景にパニックになりながらも、冷静に思考している美咲に対して、紙代はヒマ潰しとばかりに話かけて来た。
「まぁ、こんな綺麗な場所なんだから何時間落ちてても飽きないわね……」

 その声を聞き、また美咲は必死に体をひねって紙代の方を向く。
「……紙代さんは、何回もここを通っているんですか?」
「当たり前でしょう? 私を誰だと思ってるの? 世の濁りを流して消すバケモノよ? たった一人でこの大きな天球儀を支配できるほどに強大な……ね」
 そう胸を張る紙代、しかし徐々に表情を曇らすと、続けて言った。

「でも、こんな綺麗な光景もね……。一人で見ると真っ暗にしか見えないのよ……」

「紙代……さん?」

 美咲の背後で、さらに出口からもれる黄色い光が強くなる。
その月明かりのような優しくも怪しい光に包まれながら紙代は言った。

「こっから先は、私の独り言だと思って聞いてくれない?」
「ぇ? えぇ……」

 状況が読めない美咲は、ただ頷く。
 それを確認した紙代は、すぅ……はぁ……と深呼吸をした後、ちょっと照れたように美咲から目を逸らしながら語った。

「ホントは私。あなたにどうこう言える奴じゃないのよ……」
 星に、雨に語りかけているかのように紙代は言う。

「私はあなたみたいな勇気ある選択はできなかった。過去を作り変えて……ひたすらに逃げて、そして『大変なこと』になったの」
 本人は見られないように顔を背けたつもりだったのかもしれないが、美咲はその顔が引きつったのを感じた。

「私は悲しかった。私には背負いきれないような罪を着せられて、私が悪いの? 私が悪いの? ってそんな堂々巡りの自己嫌悪を繰り返してる時に、ある女の子を見つけた」

 さらに明後日の方向を向いて続ける。
「そしてこの子なら、私と同じような人間なら、もしかしたら……」
 正面から見たら明らかに赤面していると分かる顔を必死で隠すために、紙代はそっぽを向く。

「『友達』……に、なってくれるんじゃないかと思った」

129:rumia:2014/06/08(日) 21:55 ID:KCM


「私と同じ道を選んだ人と、道端で泣こう。そんな邪な気持ちで私はその女の子に招待状を渡したの。とっても禍々しい招待状をね……」
 そしてそこで紙代は一旦目を閉じ、また鋭く見開く。

「でも……結局私の思い通りにはならなかった。その子は私の方には来てくれなかった」
 そこで、もういいだろうと紙代は美咲の方を向き、美咲を真っ直ぐに指差しながら言った。
「だから私はやけくそになってその子に招待状を――いまあなたのボケットに入っているティッシュを、預けたままにしておいたのよ……」

 そして同時に美咲が、今までで一番目を見開き驚愕していることを知った。
「紙代さん……あなた、もしかして――」

 が、もう時間が無い。
「なぁんてね……? ほら、もう出口が近づいて来てるわよ?」

 もう出口が私達を飲み込むほどに大きくなってる。
だから、その驚きは、またいつか解消してあげるわ……。
 そう言いたげな表情で、紙代は美咲から距離を取る。

「ちょっと待って!! まだ聞きたい事が――」

 そんなことをしても落ちるスピードは変わらないのに、美咲は紙代に向けて手をバタつかせる。
それをもう遠目でしか見れなくなってしまった紙代が見下ろしながら、せめてもの挨拶を送った。

「さようなら。また逢いましょう『幾田美咲』……。隣町のスーパーか、『空白』で……ね?」


 挨拶を返す間もなく黄色い光の中に吸い込まれていった美咲。
 最後の方はもうシルエットだけしか見えなかったのに。

 紙代はその愛しくも忌まわしい友が消えた場所を、ずっとずっと見続けていた。

130:rumia:2014/06/12(木) 00:12 ID:KCM

 投稿遅れてすいません! この後のエピローグでこのお話は完結です。
え、エピローグ(終わり)? プロローグ(始まり)の間違いじゃ……。
と言われそうな展開になりますが、あともう少しだけ読んでくれると嬉しいです。では、どうぞ

131:rumia:2014/06/12(木) 00:16 ID:KCM

 
  エピローグ とある食堂での一幕

「なぁ、すげぇだろ穂坂!? 過去を変えられるティッシュの噂っ! 今ここら辺で有名になってる都市伝説なんだぜ?」

 午後12時、お昼時の暁矢東(ときやひがし)高校――学生食堂。
券売機の方でガヤガヤしている学生の声を掻き消すような大声で、男子学生である富山和人(とみやまかずと)が向かい側に座っている女子学生に向かってそう言い放った。

 しかし穂坂と呼ばれた女子は和人をうんざりした目で見た後に「へぇ……そぅ」と適当に言葉を返し、ダイエット中なので我慢して頼んだきつねうどんをずるずると啜る。

「んだよ穂坂、俺の話聞いてなかったのか? 神秘的だろ? ロマンティックだろ!?」
 その反応が気に入らなかったのか、和人はテーブルを叩きながら熱弁する。

 が、そんなことをすればテーブルは揺れるわけで……穂坂は「ちょっと、こぼれるでしょ!?」とその行為を一括した。
そしてどんぶりのスープが安定したのを確認すると「あのねぇ……」と切り出した。
「あなた以外、誰も居ないオカルト研究会に誰か勧誘したいのは分かるわよ? でも私は何度も断ってるじゃない……。そういうのには興味ないって」

「えぇ〜? せっかく女子にもウケそうな都市伝説語ってやったのになんだよその反応は〜」
「嫌だって言ってるのにくっついて来るからよ……それにあなたの話長すぎ……。ここに来る前、教室に居た時から女の子がそのティッシュのせいでひどい目に会っただとか、最近そのティッシュがあちこちで出没してるとか……そんなことを食堂に来るまで一時間も話されたら、どんな人間だって呆れるでしょ……?」

 穂坂がそう言うと、和人はしばらく「う……ぐぐ……ぐ、ぐ」と言葉に詰まっていたが、苦しまぎれに言葉を吐いた。
「いや、でもさぁ! 今そういう確たる目撃情報があるってことは、部の人数増やして探せば見つかるかもしれないだろ? その幻のポケットティッシュがっ!」

 しかしそれも冷静にきつねうどんを頬張る女子に一蹴される。
「くっだんない……いいからあっちに行ってよ、うっとうしい」

132:rumia:2014/06/12(木) 00:26 ID:KCM


 あまりにばっさりと、そして完膚なきまでに切り捨てられた和人。
頭を抱えながら「あ〜もぉ……んでだよ」と一人唸る。

 しかし、それでも和人は席を立とうとはせず、それからしばらくしてまた顔を上げた。
「何? まだ生きてたの?」

 そして、起き上がりにもう一発重いストレートを喰らった。
が、今度はめげることなく「ひでぇなおぃ」とその言葉を笑い飛ばした和人は、目の前のうどん女子に問う。
「穂坂……真剣に聞いていいか?」
「……何? あらたまって」
 そう言いながら少し和人から視線をずらす穂坂。その口は未だにうどんを啜り続けていた。

 そんなに量があったら、ダイエットもなにもないよな……おぃ。
そう思いながらも和人は、穂坂に尋ねた。

「お前、無理してないか?」

「…………」
 穂坂は答えない。
が、うどんを啜るのを止め、顔を伏せたまま箸を置いた。

 その貫録に気圧されたのか、和人は少し身を引きながら言い訳を開始する。
「いや、まだ俺達入学したてでお互いのことなんて全然分かっちゃいねぇけどさ……その、お前女子なのに手……傷だらけじゃん?
それに、俺の部活に入らないのはともかく授業終わったらすぐどこかに消えちまうし……だから、その――」
「――心配だった……って言いたいの? あなたが?」
 なおも顔を伏せたまま穂坂は和人が言う前にその内容を語る。

 あ……これはヤバい地雷を踏んだか……?
そう思った和人はさらに言い訳を積み重ねようとして――
「あ、いや、余計なお世話だってことは分か――」
「ありがと……」
――穂先に感謝された。

「へ……?」
 よく状況が読めない和人は、そのまま「え? ……え?」と困惑する。
するとそれを見ていた穂坂もちょっと恥ずかしくなってきたのか、大声で言い直した。
「ありがとうし・ん・ぱ・い・し・て・く・れ・てっ!!」

「な、なんだよ……何で怒んだよ」
 やっぱ女子怖いわー、マジで怖いわぁ……。
あまりの大声に和人はそう思いながら左へ、対する穂坂は箸を置いたまま和人から見て右へ顔を逸らす。

 そうしてお互い沈黙したまま、きつねうどんがただ冷めて行く――

「ん……きへはんだ、ほしゃかしゃん」
――かと思いきや、そんな空気などまるで無視して二人の間に割り込んで来る声があった。

133:rumia:2014/06/14(土) 19:05 ID:KCM

上のスレ、誤字がありました。(今までもあった気がしますが……)

――穂先(ほさき)に感謝された。 ではなく ――穂坂(ほさか)に感謝された。 ですねw
 (穂先って何だよ……そんなもんに感謝されたくないわw)

134:カレン:2014/06/14(土) 22:37 ID:vK.

…いきなり作風がガラッと変わりましたね!!
たしかにこれから第二話が始まりそうw
でもエピローグってことは、これから美咲が登場するんですよね!!!?

135:ミケ:2014/06/14(土) 23:48 ID:6bU

確かに作風がガラッと変わったw

次はどうなるのか楽しみですね

それにしても、どこにもいるような二人だが、穂坂と和人良いコンビしてますね。こういう仲も好きです。

136:ミケ:2014/06/14(土) 23:51 ID:6bU

あ、wは、単なるミスです。気にしないで下さい!ごめんなさい!

137:ルル:2014/06/15(日) 08:00 ID:2Rw

泣きました。本当に泣いちゃいましたよ!!
素晴らしいです!!表現がとても美しい・・・。これからも頑張ってください!

短編集へのコメント、ありがとうございました。

138:rumia:2014/06/15(日) 10:53 ID:KCM

 うぇ……っ?(奇声) いきなり3つもコメントありがとうございます。

>>134
 まずはカレンさん。
はい、これはエピローグなので美咲も登場し『て』ますよ〜。

>>135
 次にミケさん。
はい、作風もがらっと変えてみました。
ミケさんの指摘にあった自分だけの未来を進んだ先(その先)のハッピーエンドみたいな感じです(^^♪
 そしてホントいいコンビですよね……。自分で書いてて(・∀・)ニヤニヤしますもんw

>>137 
最後にルルさん。
 褒めていただいて光栄です。
ルルさんの小説にも、またコメントするかもしれないので、そのときはよろしくお願いします。m(_ _)m

 と、もう終盤なのにたくさんのコメントありがとうございますm( _ _ )m
第二話、というか続編ぽいものも考えてますが、あともう少しだけ読んで下さると嬉しいです。
 では……。

139:rumia:2014/06/15(日) 20:40 ID:KCM

お待たせいたしました。 ここからENDまで一気に行きます。


「あぁ、白凪か……良いとこに来たな」
「ん……来た」 
 売店のカレーパンを口いっぱいに頬張りながら登場したその人物は白凪千里(しらなぎ ちさと)。
穂坂は最近、和人はずっと前に知り合った友達であり、パンやおにぎり等々、いつも持ち歩ける食べ物でお腹を満たしている女の子だ。

「ち、チサトちゃん! 食堂に来るなんてめずらしいね……!」
 だからこそファーストフードを販売していない食堂にはめったに来ないのだが……なぜか和人の隣りに座り、穂坂の言葉に口をとがらせた。
「別に……学食を食べに来たわけじゃ、ない……」
「え? ……じゃあ、何で?」
「食堂のおばさんに……残飯で安くおにぎり作ってくれるように頼んでるから、それ取りに……」
「そっか〜大変だね〜」

 そう言って穂坂は慈愛に満ちた目で千里を見る。
普通ならちょっと引くレベルの会話なのだが、穂坂も最近知り合ったとはいえ、この千里とはかなり仲が良い部類の人間なのだ。
 その光景を見て、和人は溜息を吐く。

 何か、上手くはぐらかされた感じだな……。
そう思いはしたが、和人は穂坂が楽しそうなのでその言葉を飲み込み、二人に合わせて笑う。
「白凪は相変わらずだなぁ……どうせ今背負ってるバックの中にも色々入ってんだろ?」
「ん、肉まん12個。朝コンビニで買った」
 そう言って千里は持っていたカバンの中から肉まんがぎっしり詰まったレジ袋を取り出した。
「……レジ担当してたのが新人さんだったから、注文した瞬間、この世の終わりを見たような顔された……」
 いつの間にかカレーパンを食べ終わっていた千里はレジ袋に手を突っ込み、肉まんを頬張り始める。

「お前よくそれで太らねぇよな……って、痛ったっぁああああ!!」
 千里の横に座っていた和人がぼそっと余計なことを言ったその瞬間、絶叫する。
その悪口を敏感に察知した穂坂が、思いっきり和人の足を踏みにじったのだ。

「……ってぇぇ! 何すんだ穂坂ぁあ!!」
「いきなり叫ばないでよ鬱陶しい……」
「てめぇ……っ。女じゃなかったら殴ってるとこだぞ……マジで」
 そう言ってぎりぎりと歯ぎしりをする和人。
しかし穂坂はそれを全く気に留めず、千里の白髪を撫でながら、まるでペットに話しかけているような口調で言う。
「千里ちゃんは太らないよね〜? そういう生物だもん」
「……ん」
「ん、じゃねぇよ、お前の体どうなってんだよ……!」
 それから「あなたの頭じゃ考えられない構造してるのよ……」だの「おい……表に出ろ穂坂」だの「うん、んまい……!」だの、そんな下らない話をしていた3人だったが、

――突然、和人も千里も知らない人物が二人の前に現れ、言った。

「おやおや……随分楽しそうだね。幾田さぁ〜ん♪」

140:rumia:2014/06/15(日) 20:47 ID:KCM


 その瞬間、3人が一斉に押し黙る。

 もちろん、その話しかけて来た人物が怪しかったわけではない。
見るからに明るく、気さくで、話しやすそうな女子だった。
 しかし、その子が話しかけている『幾田』という人物が、誰なのか分からないでいたのだ。

――たった一名を除いて。

「い、イクタ? 誰の事でしょうか?」
 穂坂(ほさか)と呼ばれたうどん女子。彼女だけは困惑する2名をよそに青ざめていた。

「私は穂坂と言いまして、その……」
「ん? どうしたの? 何でそんなバレバレの芝居してんの?」
 しかし、それを見た明るそうな女子は頭上に『?』を出しながら首を傾げて穂坂を問い詰める。
すると穂坂はしばらく硬直した後「はぁ……」と深いため息を吐き、テーブルに突っ伏しながら、素の口調で愚痴った。

「……何でこんな時に限って来るのよ、リサ……」

 するとリサと呼ばれた女子は急にあたふたし始める。
「え? もしかして今、合コン中……? 2対1で? 私が来たら3対1になっちゃうからダメなの?」
「相変わらずあんたの思考回路はおめでたいわね……」

「あ、あの穂……坂? できれば俺達にも分かる説明を頼む」
 と、ここで全く状況を理解できない和人が、穂坂に向かって説明を要求する。
「あぁ……ごめんなさい。紹介してなかったわね……」

 そこでやっと2人を無視してリサと話し込んでしまっていることに気が付いた穂坂は、こほんと咳払いを一つしてから二人の方に向き直り、説明した。

「これは私の友達……というより天敵の『佐々原理沙』(ささはらりさ)って生物よ」
 直後「誰が生物だっ!」と穂坂に指差された少女、佐々原理沙が穂坂に向かって突っ込む。
それかららまた「だって本能のままに生きてるじゃない、あなた」だの「う〜る〜さ〜い〜!!」だの、適当な言い合いが始まりそうになったので、和人は次にリサに声をかけてみた。

「あ、あの……佐々原、理沙……さん? なんですよね?」
 するとリサは「ん? あぁ、私からも自己紹介した方がいいかな?」と和人と千里の方を見ると、
ナゼか二人に近づき、まるで内緒話でもするかのように小声で、しかしそれでもテンションを維持したまま自己紹介した。

「私は佐々原理沙。この子、つまり『穂坂美咲』(ほさかみさき)。――旧姓『幾田美咲』(いくたみさき)の親友だよっ! 君たちとはクラスが違うけど同じ学年なんだ〜よろしくね〜!」

141:rumia:2014/06/15(日) 22:17 ID:KCM


「旧姓……って」
「……」
――旧姓
 ほとんど耳打ちで告げられたその言葉に、和人と千里は硬直する。

 しかし穂坂……改め幾田美咲は、その言葉に対する怒りで顔を赤く染めながら、しかしあくまで周りの人間には聞こえない音量で怒鳴った。
「ちょっと! 何でそんな余計なことまで言うのよ……っ!!」
「余計なことじゃないよ? 大切なことだよ!」
「余計なことじゃないッ!! 私の個人情報ばら撒いて楽しいの?!」
 しかし、リサは声を荒げる穂s……美咲を、あくまで冷静になだめる。

「ミサキ……この子達、友達なんでしょ?」
「ぇ? そりゃぁ……そうだけど」
「途中からしか盗み聞きしてなかったからよく分かんないけど、そこの和人って子、凄くミサキのこと心配してくれてたじゃない……?」
「堂々と盗み聞きって言ったわね、今」
「なら、話してあげたら? 仲間は多い方がいいって『あの時』思い知ったじゃない……」
「で、でも……」
 しかしそれでも美咲は不服そうに目を伏せ、自分のカラに閉じこもるように膝を抱え始める。

「仕方ない……ミサキが言えないなら、私が言うよ」
「……ちょっ!」
 が、そんなことはリサ、改め自由奔放な美咲の友人には関係ない。

友人が動けないなら自分が動くのみ、後のことは知らん!
 そんな単純かつ明快な思考回路でリサは、二度置いてけぼりの2人組に近づくと、「実はね」と前置きをして話し始めた。

「美咲――和人君は穂坂って呼んでるんだっけ? とにかくこの子は、家庭内に少し事情があってね……。この高校に進学する前、中学3年生の時に両親が離婚してるんだよ……」
「ちょっと!! やめなっ――」
だが、それを美咲は許さず、すぐに口を塞ごうと動いた。
「……!!?」
 ものの突如ガシっと肩を掴まれ、動けなくなってしまった。

 一体誰が、と振り返ろうとする美咲。
が、その前に耳元から聞こえる咀嚼音で美咲は直感的にひらめいた。

「千里ちゃん……っ」
 白凪千里、和人の横で肉まんを食べていたハズの彼女が、いつの間にか美咲の背後に回り、肩を掴んでいたのだ。

「……心配、ない。私、薄々気が付いてた。多分和人も、そう」
「…………」
「それに、私も和人も言いふらしたり、しない。 大丈夫……」

「……分かった」
 千里の説得により大人しく席に着き、照れ隠しか現実逃避か冷えてしまったきつねうどんを頬張る美咲。
それを確認すると、リサはまた語り始めた。

142:rumia:2014/06/15(日) 22:21 ID:KCM


「ミサキの父方の姓は幾田(いくた)でね、母型の姓が穂坂(ほさか)だった。だから母親と一緒に暮らしてる今は『穂坂』を名乗ってるんだ。……でも離婚して母子家庭になっちゃったから生活が苦しくてね……今は母親はもちろん、ミサキ自身もかなりバイトを掛け持ちしてるんだよ……」

「だから……放課後、あんなに早く帰ってたのか……」
 ぼそっと、和人が呟く。
「しょりゃぁ、お母さんはけにはははせるはけには……(ゴックン)いかないもの」
 しかしその後になんともマヌケな声が覆いかぶさってきた。

――美咲だ。
 おそらく「そりゃ、お母さんだけに働かせるわけにはいかないもの」と言ったのだろうが、うどんを頬張っていたせいで全く発音できていなかった。
が、友人の勘とやらで内容を理解したリサは、にっこりとほほ笑む。
「ホント……ミサッキ〜は強いよね。普通そんな状況になったら鬱になりそうなのに……」
「何言ってんの、私はいつだって憂鬱だったわよ……」
 そう、哀愁漂う声でつぶやく美咲。

 しかし友人は「ぁ、でも」と話をロクでもない方向へと持ち込んだ。

「そのことを初めて私に相談しに来た……えっと、たしか夜明けごろだったかな? 眠たい私に向かって『りぃさぁ〜ぁ……。もう、訳分かんなくて……紙代さんが、いやそれよりお母さんが大変で……もう私どうしたらいいのか分かんないよぉ……』って泣いたのは今でも鮮明に覚えてるけどねっ♪」
「何でそんな記憶だけ覚えてるのよ……っ!! そんなモノ入れてるスペースがあるなら、解の公式でも叩き込みなさいっ!!」
 そう言ってどこからか取り出した数学の教科書でリサを殴打する美咲。

 しかし、そこで物凄く真剣な眼差しを向けてくれている男子一名に気が付き、その男子のほうへ向き直った。

「……何か言いたいことがあるような顔してるわね、富山和人」

「してるわねぇ、じゃねぇよ……」
 その男子は――富山和人は、肩を震わせ怒りを必死に抑えながら、周りに聞こえないように、小さな唸り声を上げた。

「何で……、何でそんな風に笑えんだよっ!! 両親離婚しててその上事実上働かされてんだぞ!?……笑えねぇよ。いくら俺でも、笑えねぇよ…………」

 和人はそう言い終わると、力を使い果たしたかのように、がっくりと肩を落とし、そのまま沈黙してしまった。
 それを見たリサも、千里も押し黙る。

 そして、誰も言葉を発さなくなったその場に、ふたたび声をもたらしたのは、
「そうね……たしかに。笑えない話ね……」
 穂坂美咲だった。

143:rumia:2014/06/15(日) 22:36 ID:KCM


「両親が家庭内暴力で離婚……? その上、入りたかった高校を諦めてまでバイトして生活費稼ぎぃ……? そうねぇ、絶対に笑える話じゃないわ……」
 リサとじゃれてた今までとは打って変わって、暗い表情で語る美咲。
しかし、そう言い終わるとゆっくり顔を上げ、目の前にいるリサ、和人、千里の顔を順番に見ると、少し口角を上げて微笑む。

「でも何でかしら……? 不思議と今は達成感を感じてるのよ」

 依然として、美咲以外誰も言葉を発さない。
しかし美咲の言葉に、固まっていたその場の空気が溶かされて行くのをその場にいる全員が感じた。
 が、それでも和人が顔を上げないのを見ると、美咲は悪戯っぽい笑顔をしながら、わざと和人に聞こえるよう大声で話す。

「まぁ、馬鹿なリサのお父さんがまさか弁護士関係のお仕事をしていて、そのうえあの狡猾な人間からたっぷり慰謝料(いしゃりょう)まで絞り取ってくれたことに関する達成感なのかもしれないけど……」

「よく知らんが、ひでぇな……」
 その話にツッコミ役としての本能がうずいたのか、和人がうつむいたままぼそっと突っ込んできた。
が、そのツッコミを「天罰よ……」の一言で蹴とばした美咲は、和人に一番聞いてほしかったセリフを続けて語る。

「それよりもなによりもね……今こうしてみんなでバカ騒ぎできてることに、なんか不思議な達成感みたいなものを感じちゃうのよ……」

「…………そうか」
 美咲には美咲なりの解釈がある。
美咲の話からそう判断した和人は、納得した旨を美咲に伝え、しかしさらに質問する。
「じゃぁ……お前は昔のことは全部忘れちまったってことか……?」

「ううん……違う」
 答えは否、NOだった。

「忘れたというより……。そうね、もしかしたらあなたがさっき長々と話していた『幻のポケットティッシュ』とやらに、全部流されちゃったのかもねぇ……」

 皮肉なのか? それとも暗喩したつもりなのか。
美咲はそんな意味深なことを呟きつつ「あぁ、そろそろ戻らないと授業が始まるわね……」と言って、きつねうどんの容器を返却口へ持って行こうと席を立った。

 が、それを質問した――しかもオカルト研究会を立ち上げてしまうほどのオカルトマニアである富山和人が見逃すはずがない。
「流された? え? ……お前まさかっ! 幻のポケットティッシュについて何か知ってんじゃ……」
美咲の後を追うようにして立ち上がり、まるで獲物を見つけたライオンのように興奮した様子で、美咲に追い付こうとして――

「和人、ちょっと来る……」「……って、ちょ、白凪!?」
――いつの間にか白凪千里に学生服を握られていた。

「外の景色、見たい。……行く」
「外の景色ぐらいいつでも見れるだろ!? 今はそれどころじゃねぇんだよ! オカルト研究会員としてのプライドがっ!!」

 美咲はどんどん食器返却口へ近づいて行く、昼休みはどんどん過ぎて行く、とにかく時間がないのだと和人は必死に訴えるが――

「和人、めっ……」「は?」

 めっ、の一言で流され、周囲の学生に注目を浴びながら富山和人は食堂の出入口へと引きずられてゆく。
「いやいやいや! 意味分かんねえよ!! 何で俺連行されてんの? ちょ、誰か、誰か助けろぉおおおお!!」

144:rumia:2014/06/15(日) 22:50 ID:KCM


「おぉぉぉ……。おぉぉぉ……(エコー)」というむなしい声を最後に響かせ、食堂からログアウトした和人。
 その光景を意味も分からず見ていたリサは、ちょうど帰って来た美咲に向かって呟いた。
「白凪ちゃんって、変わった子だね……」
「……そ、そうだね」
 そのつぶやきにすこししどろもどろしながら帰す美咲。

「…………」
 ――と、ここで二人の会話が止まってしまった。

 いつもなら「かわいいよね〜」とか「面白いよね〜」なんて話をリサの方からしてくるはずなのだが……。
「…………」
 さっきまでの勢いはどこへやら――リサは、らしくなく顔を伏せ、無言を貫いていた。

「……ぁ、えっと」
 そうなると、美咲も何を言っていいのか分からず……。
「じゃ……じゃぁ、私達もそろそろ教室に戻りますか……!」

 結局、落ち込むリサを無視することで、和人が出て行った出口とは別方向の出口から食堂を出る。

「……」
 しかしそれでも、リサは無言のままだった。

「どうしたの……?」そう言いたい美咲だったが、タイミングが見つからない。
 そうしてそのまま、校舎への渡り廊下へと差し掛かったその瞬間、――美咲の後ろを歩いていたリサが、立ち止まった。

「……? どうしたの? 早くいかないと遅れるわよ?」

「ねぇ……ちょっと聞いていい?」
 足でもくじいたのか、そう思っていた美咲だったが、友人のらしくない真剣な眼差しを見てそうではないと悟り、
それと同時に彼女が――佐々原理沙が、ひどく怯えているのを感じた。
 
 しかしそれを疑う暇もなく、リサはらしくなくオドオドした口調で美咲に向かって呟く。
「私が……ミサキと1年間戦ってきた私が言うのも失礼かなって、思うんだけど……」

そして深く深く息を吸い込んだかと思うと、それを吐き出すのに合わせて、一気に言葉を吐いた。

「美咲、本当に昔のこと思い悩んでないの……!?」


 ……あぁ、そうか。
その言葉を聞いた瞬間美咲はそう思った。

 リサはあれから……そう、美咲が父親に立ち向かおうと決意したあの日から数カ月、自分と寝食を共にし、共に戦った。
でも……いやだからこそ。

 さっき食堂で会った和人のリアクションに傷付いてしまったのだろう。

 自分は美咲のことをよく見ていなかったんじゃないのか?
冷静に考えれば傷付かない方がおかしい。
 本当は美咲だって、私の想像以上に傷付いてたんじゃないのか?

 と、そんな下らない罪悪感を、この腐れ縁の友人は足りない脳の中に詰め込んでしまったのだ。

美咲はそう考え、しっかりと2つの目で、リサを――戦友を見た。

 いつだってその口からは、いつだって自分を楽しませる冗談が出た。
その目には、いつも勇気をもらった。

 そして、それよりもなによりも、

『自分だけの明日』を作ろうとする自分に賛同してくれた。

 だから美咲は、そんな戦友に向けてニカッと満面の笑みを浮かべ、
せめてそんなことで思い悩まないよう、心の底から言葉を紡ぎ、

――発した。

「何言ってんの! 当たり前じゃない……。もうそんなこと『水に流したんだから』さっ……♪」 



       『このティッシュ水に流せます』  〜END〜

  ご愛読ありがとうございました。m(_ _)m

145:rumia:2014/06/16(月) 22:24 ID:KCM


【あとがき】……のようなもの。

 こんにちはrumiaです。
別にプロ作家面するつもりはないのですが、せっかく書いたのであとがき……のようなものを書いてみたいと思います。

 で、最初に書いてみて思うことは――
いやぁ……正直ここまで長くなるとは思わなかったです。
 最初はほんの数ページ適当に書いただけだったのに、あれもこれもと余計なものを足してゆくと案外長くなるものですねw

 そしてもう一つ、思うことは……。

『書き直したいッ…………!』

 そう、私、最後の最後でやってしまったのです。
『いつだってその口からは、いつだって自分を楽しませる冗談が出た』

……語呂悪いよっ!(゚Д゚)ノ

 すいません、どなたか心優しいお方がいらしたら、問題箇所を見ないでくれると嬉しいです……。
(あ、もちろん正しくは、『いつだってその口からは自分を楽しませる冗談が出た』です……)

 というわけで、そんな悔いを残したまま、この物語、終わってしまったわけですけれども……。

(あ、読み返したら修正したい場所ばかりだったので、もしかしら修正して別サイトに(ココじゃ怒られそうだから)投稿するかもしれませんが……)

 もちろん、これで完全に終わりではありません。
『紙代の秘密』『白凪千里の行動』そしてなにより、大幅に飛ばした『美咲の戦い』

 これらの伏線を……まぁできるだけ回収しようと第二話……というより『Another story』を一応準備しておりますので、
もしよかったら、そっちも見てくれたら嬉しいです。←露骨な宣伝

 では、改めてご愛読ありがとうございました!!

146:きつね:2014/06/16(月) 22:32 ID:TRU

このスレットに書き込むのは初めてですが、楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。

147:どんぐり◆cU:2014/06/17(火) 17:02 ID:5zU

私も楽しく読ませていただきました

想像力がとてもすごいなと思いました

rumiaさんの小説いつも楽しみにしていました
次も楽しみに待っています

頑張って下さい

148:にっきー:2014/06/17(火) 19:29 ID:7HY

rumiaさん!

すごいです!
天才ですか?!

私の小説にコメントしてくれましたよね!
改めてよろしくお願いします

おうえんしてます

149:猫又◆Pw:2014/06/17(火) 22:41 ID:KCM


きつねさん、どんぐりさん、にっきーさん。
本当に最後までコメントありがとうございます!!

>>146
初コメントありがとうございます!! 読んでいただいで大変光栄です……。
まだ書きかけですが、続編を書いています。
 満足していただけるか分かりませんが、見かけたら読んでもらえると嬉しいです……!

>>147
 応援ありがとうございます!! 楽しみにしていただいてたなんて……いや、そんな、……照れます。
次のお話も読んでくれると嬉しいです……。

>>148
 『君の隣で』の作者さんですよね! コメントありがとうございます!
天才だなんてそんな……。まだゲラなので、これからペン入れして行きたいと思います!
 お互い頑張りましょう!! (……ぁ、また作品の方更新しましたら見に行きたいと思いますっ)

 本当にみなさん、最後までどうもありがとうございました!!
……で←(露骨な閑話休題) 一応新しい話を上げたので、見てくれたらうれしいです……。↓ ( ´艸`)
  
       http://ha10.net/novel/1403010846.html

 
 

150:ミケ:2014/06/17(火) 23:31 ID:cF.

今回も楽しく読ませてもらいました!

本当にrumiaさんの小説は凄いなぁ〜

露骨?いいえ、別に露骨とは思いませんよ!それに、あの時のコメで書き忘れましたけど
指導だなんて…ただ私は自分の思ったことをただ言っただけですよ。でも、ちょっと嬉しいw

次も待ってます!頑張って下さい!

151:猫又◆Pw:2014/06/18(水) 22:08 ID:KCM


 ミケさんコメントありがとうございますm(_ _)m
次の話、まだ内容が全然できていないのでどうなるか分かりませんが、気に入ってくれたら嬉しいです(*≧∀≦*)

 妖日和も流しそうめんの話が一段落したみたいですね。
次の話もかわいい子達の面白おかしい日常なのか? それともシリアス、バトル系なのか?
 どちらにしろ私も続き待ってます! ではっ(o・・o)/

152:にっきー:2014/07/05(土) 13:01 ID:Rns

お久しぶりです!!

テスト終わったので来ました!
更新楽しみにしてます!

私の小説の方も頑張って更新するので
暇あったら見に来てください


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