南雲千尋の法廷式

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1:イサナ ◆410o:2014/02/28(金) 21:28 ID:iks

#アテンション#


主人公が弁護士の、裁判の小説を書きます。
しかし、作者の知識が乏しいため、この物語で登場する裁判の進行やルールは、実際のものとは異なる畏れがあります。
精一杯近づける努力はしますが、それをご理解ください。
感想、アドバイス等お待ちしております。

2:イサナ ◆410o:2014/02/28(金) 21:37 ID:iks

【第一話】
普遍的会社員+世俗的女子高生=痴漢裁判!?


#勇魚駅行き 普通列車 #

草壁佑介は、この時間が苦手だった。
電車で会社の最寄り駅まで行く時間。
温かい家族がいる家とは引き離されて、仕事を押し付けてくる上司、白い目で見てくる同期や部下のいる、嫌な会社へ行く・・・そんな時間だ。
これが毎日続くと思うと、気が滅入ってしまう。
・・・そして、もうすぐ降りなければいけない。
佑介は出入り口の前に立った。
二人の女子高生が僕の前で楽しそうに喋っている。
彼女たちは、同じ時刻でも、佑介とはまるで違う時間を過ごしているのだろう。
佑介は外の景色をぼんやりと眺めながら、これから始まる会社への思いを馳せた。
今日も、嫌なことだらけ。
いいことなんて何一つ無い。
佑介はいつもと同じようにため息をついた。

しかし、まだ甘かった。

今日はいつもと同じどころか、これまでに無かった災難が降りかかることになる。
目の前で喋っていた二人の女子高生のうち片方が、急に振り向いて佑介を睨みつけたのだ。
佑介が疑問に思うよりも早く、その女子高生は車両全体に響く金切り声で叫んでいた。

「この人、痴漢です!!!」

周囲の乗客の視線を感じ、汗が大量に噴き出した。

3:イサナ ◆410o:2014/02/28(金) 23:08 ID:iks

#南雲法律事務所#


卵かけ御飯の旨さは、醤油の量で決まります。
数ミリグラムの絶妙なさじ加減が重要になってくるのです。
私は目の前に置いた卵かけ御飯に、ゆっくりと醤油を垂らしていきました。
すると、黄色のご飯の上に焦げ茶色の水たまりが出来ます。
この水たまりが500円玉サイズになった時、それがジャストタイミングです。
お椀の中に広がっていく醤油の水たまり。
もう少し、もう少しで完成です!
・・・・よし、完___
その時、事務室のドアが音を立てて開き、威勢良く誰かが入ってきました。

「千尋ちゃーん、依頼人連れてきたよ!!」

その声は右耳からそのまま左耳に通り抜けていきました。
私はその時、驚愕の光景を目の当たりにしていたのです。

「あ・・・卵かけ・・ご飯が・・・・」

さっきまで可愛い水たまりだったはずの醤油が、洪水のようにお椀全体に広がっています。
突然の事に手元が狂い、醤油が必要以上にかかってしまったのです。
私は唖然としたまま、取り敢えず卵かけ御飯を混ぜてみました。
案の定、汚い黄土色になります。
もしこんな卵かけ御飯を食べたら、胃が猛烈にかゆくなるでしょう。
失敗です。
完全に失敗です。
私はドアの前にいる戦犯を睨みつけ、怒りの咆哮を上げました。

「なんてことするんですかぁぁぁぁ!!!」

4:イサナ ◆410o:2014/03/01(土) 11:33 ID:iks


「何だよ〜、依頼人連れてきてあげたのに」

犯人はこの法律事務所の弁護士、『津田幸之助』さんでした。
彼は『司法界の問題児』との異名をもつほどの迷惑野郎です。

「うわああああああん卵かけ御飯がー!!!」

私は構わず机に突っ伏します。

「あっ、草壁さん。どうぞ中に」

「ありがとうございます」

「千尋ちゃん、草壁さんに挨拶してよ」

私はムッとして、津田さんを再度睨みつけました。
津田さんは怯む事なくヘラヘラしています。
私の方が年下だからと舐めているのでしょうか。
弁護士として、立場も実力も私の方が上だということを気づいていないとは嘆かわしいです。
そんなことを思っていると、依頼人の方が話しかけてきました。

「南雲先生、ですよね?」

「はい。私が南雲法律事務所の南雲千尋です」

「私、草壁真央と申します」

津田さんが連れてきた依頼人は、20代半ば、私と同い年くらいの女性でした。
愛嬌のある丸顔に、それを包み込むふわふわとした栗色の髪。
全体的にスラっとしていて美人だと思います。

5:イサナ ◆410o:2014/03/01(土) 20:21 ID:iks

とりあえず、私は真央さんの依頼について単刀直入に聞くことにしました。

「で、依頼とはなんでしょう?」

「実は先日、主人が痴漢容疑で逮捕されてしまいまして・・・」

それから、真央さんは少し視線を落としながら依頼内容を話し始めました。
弁護士という立場上、痴漢容疑なんて話は日常茶飯事なのですが、彼女にとってはそうもいきません。
真央さんの旦那さん「草壁佑介」さんの逮捕が知れ渡り、佑介さんは会社をクビ寸前、真央さんは近所から白い目で見られ、息子の佑真くんは学校でいじめられているらしいです。

「何度か主人と面会したんですが、絶対にやっていないと言っています。
主人は優しくて気くばり上手ないい人なので、きっと正しいことを言っているはずです。
・・・南雲先生は若いながらも弁護士トップクラスの実力者だと聞きました。
なので、裁判で弁護人を務めてくれませんか?」

「了承しました。では手続きを・・・」

「さぞかし心苦しい思いをしたことでしょう!」

津田さんが重々しく頷きながら割り込んできます。
真央さんは「ありがとうございます・・」とまるで救世主を見るかのような目で津田さんを見つめました。
佑介さんの弁護を担当するのは私なのに。
それによくもまあ、心にもないことを言えるものですね、津田さんは。
流石、口先だけで生きてきた男。
しかし津田さんの言葉は和紙より薄く、水素より軽いというのが真実です。
なので私が腰を上げ、重みのある言葉を一つ。

「必ず、無罪を勝ち取ってみせまふ!」



噛んだ。

6:イサナ ◆410o:2014/03/11(火) 18:40 ID:iks


#勇魚市 留置所#

佑介さんとの面会の日がやってきました。

「僕の弁護士さんですか?」

「はい。南雲千尋といいます」

アクリル素材の壁を挟んだ向こう側に、草壁佑介さんが暗い顔をして座っています。
私の横には津田さんが立っていました。
どうやら今回の裁判は津田さんも協力してくれるみたいです。
役に立つかどうか心配です。多分役に立たないでしょう。

「確認ですが、法廷では一切の罪を否認し、無罪を断固主張するという方向でよろしいですか?」

「はい。僕はやってないです」

「証拠は?」

津田さんが質問をねじ込んできました。迷惑な。
佑介さんは少し言葉に詰まりながら「・・・・無いです」と一言。

7:イサナ ◆410o:2014/03/15(土) 07:34 ID:iks

佑介さんは少し言葉に詰まりながら「無いです」と答えます。
すると、何を思ったか、津田さんが佑介さんを指差して叫びました。

「ダメですねそれでは! 裁判は甘くないのです。
何の証拠も提示せず、ただ首を振っているだけで勝てるとでもお思いですか?
その調子では判決をダラダラと引き伸ばし、挙げ句の果てには折れて負けるのがオチです。
会社のクビは確定。前科持ちで再就職は困難。
佑真くんへのいじめや、ご近所からの風当たりも酷くなる。
賠償金で絞り取られて家計難にも陥るでしょう。
そうなれば真央さんは変わらず貴方の妻のままでいてくれるでしょうか?」

「津田さん、いい加減にしてください」

私は佑介さんを庇いましたが、正直のところ津田さんにも一理ありました。
痴漢裁判は有罪判決の確率が高いです。
痴漢の線引きが曖昧なこともあり、冤罪多発。
証拠や証人がいないと、無罪を勝ち取るのは難しいところなのですから。
恐る恐る佑介さんを見やると、虚ろな目をして俯いていました。

「・・・でも本当です。電車で前を向いて立っていた女子高生が、急に後ろを振り返って痴漢だと」

佑介さんは、今にも泣きそうな声です。

8:イサナ ◆v6:2014/03/21(金) 20:37 ID:iks

しかし、津田さんは泣きっ面に蜂の如く、佑介さんを責め立てました。

「よーく思い出してください。電車が揺れて、少しでも女子高生のお尻に手が触れてしまってはいませんか?
情状酌量の余地はあるんです。無罪を主張し続けても、膨大な賠償金を払わされるだけかもしれませんよ?」

佑介さんの手が小刻みに震え始めました。
何と厄介なことをしてくれたのでしょうか、津田さんは。
私は津田さんの足を踏みつけ、佑介さんに微笑みました。

「貴方の意思が第一ですから、ご自分でよく考えてお決めくださいね。一週間後また来ます」


#勇魚市 留置場前 #


「あああああもう最悪です疫病神です阿呆ですクビです!!」

「クビは聞き捨てならないなぁ〜、千尋ちゃん、俺は一意見を言ったまでだよ」

「だとしてもあそこまでキツく言う必要ないでしょう!」

「それはほんの出来心さ」

私は脱力して崩れ落ちそうになりました。
津田さんを今すぐクビにしたい。
しかし、南雲法律事務所、初代事務長の私のお父さんがそれを許してくれません。
お父さんは津田さんを気に入っているようなのです。
それどころか、当初はこの事務所を津田さんに継がせようとすら思っていたらしく・・・

「・・・ありえない」

「え? 何か言った?」

9:イサナ ◆v6:2014/03/22(土) 23:02 ID:iks


「何でもありません。ではさようなら」

「どこ行くの?」

「卵を買いに行きます。ついてこないでください」

私が歩くスピードを早めると、津田さんが離れていきました。
津田さんはニコニコしながら手を振っています。
それを見ると無性にイライラしたので走り出しました。

そして電柱に激突。


#勇魚デパート#


私は電柱にぶつけたせいで痛む頭を押さえながら、市で一番大きなデパートに来ていました。
良い卵が買えたし、取り敢えずは満足です。
しかし、ここにきた目的はそれだけではありませんでした。
佑介さんの会社の同僚の方に話を聞くのです。
事前に連絡を取って了承してもらっていましたが、津田さんには絶対に教えないようにしていたのです。
私は待ち合わせ場所のデパ地下のカフェで、コーヒーを飲んでいました。
すると、早くもそれらしきスーツ姿の男性が声を掛けてきます。

「南雲さんですか? 草壁の弁護士の」

「ええ。お忙しい所、申し訳ありません」

スーツ姿の男性が私の正面の席に腰を下ろします。

「いえ、何でも質問してください」

「では・・・草壁佑介さんは、会社ではどのような人だったのでしょうか?」

10:イサナ ◆v6:2014/03/22(土) 23:26 ID:iks

「あいつは、何を考えているかよく分からない奴でしたね。
社員数は20人にも満たないから協力が必要なのに、一人だけ孤立していましたから」

「草壁佑介さんが痴漢で逮捕されたと聞いた時、どう思われましたか?」

「そりゃあ驚きましたよ! でも・・・少し納得する部分もありました」

「どういうことでしょうか?」

「だって、草壁はいつも暗くて、飲みに誘ってもガン無視ですから。
前々から変わった奴だなと思って、少し距離を置いていたんですよ」

「そうですか・・・」

この男性、なんだか攻撃的です。
できれば佑介さんを擁護する証人が欲しかったのですが。
これ以上質問を続けても、この人は力になってくれそうもないです。
証言をしてもらうとしたら、佑介さんを慕っている人じゃないと・・・
やはり、証人集めは佑介さんの意見を聞いてからの方がいいですね。

「ありがとうございました。お時間をとってすみません」

「えっ、もうよろしいんですか?」

男性は拍子抜けしたような表情で見てきます。
私が「はい」と頷いてみせると、男性は爽やかな笑顔を返してきました。

「真実が早く明らかになるといいですね」

無罪になるといいですね、ではないのでしょうか。
なんだか、冷たい人だと感じます。
佑介さんが無罪を主張しているのは知っているでしょうに。

「・・・必ず、無罪にします」

私が少し鋭い視線を向けると、男性は「ほほう」と息を漏らしました。

「あなたの噂は耳にしています。なんでも、若くして弁護士の最強候補の一人だと言われるほどだそうで」

「まだまだ未熟ですよ。では」

私は立ち上がっていそいそとその場を後にしました。
自分が最強候補だと謳われているのは知っていますが、居心地悪いです。
お父さんが無敗を誇る最強の弁護士だっただけで、私はただのおたまじゃくし。
『南雲』のネームバリューが過大評価に拍車をかけているに過ぎません。
まあ、それでも津田さんよりはマシですが。

11:イサナ ◆v6:2014/03/23(日) 09:39 ID:iks

#南雲法律事務所#


私が事務所に戻ると、南雲法律事務所の弁護士の面々が揃っていました。
彼らは呑気にピザの出前を頼み、昼食を食べています。
その中には勿論津田さんの姿も。

「千尋ちゃん、おかえり」

津田さんがピザを頬張りながら話しかけてきました。

「おかえりじゃないですよ。何勝手に・・・」

私は羽織っていたコートを脱いで椅子にかけ、食卓を囲む3人の弁護士を睨みつけます。

「二代目の分もあるぞ。マルゲリータピザ」

そう言って私に四分の一のピザを差し出してくる、背の低い女性は『大井幽子』さんです。
大井さんは我が法律事務所の弁護士で、腕はそこそこ。
津田さんと比べると役に立ってくれています。
ご先祖が武家なため。少し古風な喋り方をするのが特徴です。
年齢は私より少し年上ですが、私より前にこの事務所に所属していました。
しかし、私的に今はそれどころではありません。
マルゲリータピザが嫌いなわけではないのですが、ピザと言ったら普通アレでしょう!

「大井さん!? 私は『卵ピザ』一筋だと前から・・・」

「売れ行き不調で販売中止になったそうだ」

大井さんがモグモグとピザを口に運びながら、素っ気なく言います。
反対に、私はショックで危うく気絶しそうになりました。

12:イサナ ◆v6:2014/03/23(日) 11:56 ID:iks


「あんなに美味しいのに!!?」

「卵を使いすぎなのであろう。買っていたのは二代目だけだったのでは?」

そんなことはないはずです。
卵はどんな食べ物とも相性の良い魔法の食材。
特に卵ピザは三ツ星レストランに出せるほどの絶品で・・・

「お嬢様、ご所望の品はこちらでしょうか?」

白髪混じりの髪をした、初老の男性の『樋口 晶』さんがアルミホイルで包まれた平べったい物を渡してきます。
樋口さんはこの事務所の最年長の弁護士で、事務員を兼任。
歴戦なだけあってお父さんに次ぐ実力者です。
お父さんとは長い仲で、事務所開設当時から身をおいていました。
彼は紳士的で、気配り上手な、私の尊敬する人物です。
本来なら、この事務所の二代目候補は樋口さんなはずでした。
お父さんが彼を差し置いて、津田さんを二代目にしようとしていた理由が未だに分かりません。
ちなみにこの事務所に所属しているのは、私、津田さん、大井さん、樋口さんの4人です。
つまり今いるメンバーで全員ということです。

「樋口さん、これは・・?」

「卵ピザでございます。お嬢様の大好物がもうすぐ販売中止になると聞いた際、取り寄せておきました」

アルミホイルを開けると、卵ピザがこんにちは、と律儀に顔を出します。
その瞬間、私の心の中で、もう一人の自分が万札をばら撒きながら踊り狂いました。
樋口さん万歳!! 樋口さん万歳!!

13:イサナ ◆v6:2014/03/23(日) 17:54 ID:iks


「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」

「お喜びのようで、何より」

圧倒的神々しさを放つ樋口さんを私は何度も拝みました。
それを見た津田さんが「やれやれ」と大人ぶって肩をすくめます。

その時、私の携帯電話の着信音が鳴り響きました。

私は卵ピザをテーブルに置き、携帯電話をポケットから取り出しました。
画面には『草壁 真央』の文字。
津田さんが「真央さん?」と横から覗き込んできます。
私は邪魔な津田さんに背を向け、すぐさま通話ボタンを押しました。

「はい、もしもし南雲です」

「南雲さん!! 大変なんです・・・! 」

真央さんがただ事ではない声色です。
何事でしょうか。

「どうしました?」

「原告人の女の子のスカートから、主人の指紋が検出されたと・・!!」

それを聞いて、私は双肩が重くなるのを感じました。
・・・・事態は、悪い方向に進んでいるようです。


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