一夏の花

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1:無機物Palm:2014/03/12(水) 16:38 ID:Y1o


 私は、病気になったから心を閉ざした。
 僕はね、病気になったから、これから精一杯生きてやろうと思ったんだよ。最後まで叶えられなかった夢を、誰かの笑顔に託して。

 もう間に合わないのかな。
 残りの一秒まで、生きてください。

 不思議だね。見えるよ、貴方が。
 僕にはね、ずっと君が見えているんだ。


 一夏の花、君は一夏の花だった――――


***
はじめまして。無機物Palmと申します。
ここで小説を書くのは初めてです。
この小説は他サイトにも執筆しておりますので(同じ名前で)、無断転載などの心配は無用です。

ではでは、早速「一夏の花」、はじまりです。

2:無機物Palm:2014/03/12(水) 16:49 ID:Y1o




 意識は朦朧、気分は最悪。
 温んでいた布団を急に剥がされたように心もとなかった。
 または見たかった夢の続きが見られなかったときのようなあの感じ。
 とにかく最低の目覚め。支配するは不快感。
 よれよれのパジャマの胸に、幾つも重石を乗せられたみたいだ。
 その重石は本当に重いから、息をするのも面倒くさい。
 体がまっ白いベッドに沈んでる。目を閉じていても分かる。嫌気がさすような眩しい白は、今の心情とコントラスト。
 呼吸と全然違うスピードで鳴ってる機械音。遠くの方で女の人が喋ってる。
 ああ煩い。耳を塞ぎたくなる。でもそれも面倒くさい。
 いつからこんなにひねくれた。いやひねくれたわけじゃない。自分はなにも変わっていない。変わったのはいつも周りだけだ。しかも毎回毎回、悪い方にばかり変わっていく。運が尽きたか。いやここにいる時点できっと、とうの昔に運など尽きていたのだろう。ああ嫌だ。さっきの快楽はどこへ消えた。眠っているときは幸せになれる。
 ふと、もう一度眠りに就けばいいということに気付く。
 温い布団を、夢の続きを、もう一度。
 だが逃したものというのは、再び捕まえるのが難しかったりして――。
 結局、面倒くさい。ここは素直に諦めておこう。布団と夢の奪還は一時休戦、おはよう地球。
 なんて、こんなに悲鳴をあげる体とは対照で脳は結構平穏に、
 苦しんでいる。

 知果(ちか)は久しぶりに目を開けた。
 蛍光灯が眼に眩しかった。瞼越しにみるベッドの白とは、比べものにならないくらい。
 暫く光が目に染みた。ボヤボヤした視界。
 
 驚いた。光の中に女性がいた。よく見れば面識のある看護師だった。
「具合はどう? よく寝てたわね」
 一応聞こえているという合図にこくん、と首を縦に振っておく。
 いつもにこにこしていて、人のよさそうな彼女。無愛想は流石に悪いと思うけど、口角を上げるのには筋肉をつかうのである。
「また来るわ」と言い残し、特大スマイルと共に去っていく彼女。三十路は迎えたのだろうか。体のラインが少し大柄な印象。彼女は看護師という未来をいつ描いたのだろうか。知果よりも後か、先か。
 私も未来を描けるだろうか。知果は少しだけ考えた。
 うん、ちょっと羨ましい。丸みを帯びた彼女の背中が、何だか輝いて見える。そんな気さえした。
 ……無い物ねだりってヤツか、醜いな。最終的に心で呟いたのは、知果の捨て台詞だったと思う。相変わらず、本当に醜い。

 目を瞑れば、雑音が耳に戻ってくる。
 機械音、声、そしてチューナーが合わないラジオみたいな不快音。
 なんだろう、と思ってまた目を開ければ、夏の通り雨だった。雨は好きだ。知果はその音に身を委ねる。
 不快音、と目を開けたはずが、雨音だったら受け入れる。矛盾だらけ、人間なんてそんなもんだ。

3:無機物Palm:2014/03/13(木) 18:11 ID:Y1o

【prologue】

 目の前が一瞬真っ暗になって、眩暈がした。フラッと倒れそうになったのを誰かに見られないようにぐっとこらえる。騒がれたくない。寝不足からくる貧血かなんかだろう。
 次に何かがせり上がってくるような感覚を覚える。気分が悪い。
 なにも考えずに、私は女子トイレに向かって駆け出す。


 確かあれは中二の冬。あの頃はテニス部に所属していてそれなりに結果を出してもいて、私は結構目立つタチだった。
 それに不満なんかなくて、ある程度の水準まで青春を満喫してもいたんじゃないかと思う。
 スカートの丈を短くするタイプのグループにいて、毎日下品な笑い声をあげていられたんだから。それが良いことかは別として。

 だからその日も。いつも通り、変わらない日常。
 そう思ったのに。


 この季節流行りの胃腸風邪かな、などと頭の片隅で考えながらトイレへ走った私は、崩れるように血を吐いた。


 心配した友達が保健の先生に伝えたらしく、先生の車で大きな病院に行かされた。
 いろんな機械を通されたあとに、駆け付けた母だけが部屋に呼ばれた。
 それで分かった。
 ――これはヤバい。ヤバいんだ。

 戻ってきた母は貼り付けたような笑みを浮かべていて、不安を余計に増幅させる。
 怖くて、病名さえ聞けなかった。


 母の声は震えていたっけ。
「行こう、知果」
 

4:紅& ◆MVj6:2014/03/13(木) 18:36 ID:W9c

面白いです!

特に書き方が…!
なんか、書き慣れてる人の
書き方っていうか……


私の好きな感じの書き方です!
続き、楽しみにしています!

5:いっちゃん:2014/03/13(木) 19:09 ID:5OE

ど、どうだったんですか??

6:無機物Palm:2014/03/13(木) 22:06 ID:Y1o

>>4
嬉しいです!
この掲示板来たばっかりで心細いので、いつでも感想下さいね^^

7:無機物Palm:2014/03/16(日) 14:09 ID:Y1o

>>5
これから分かりますよw
コメありがとうございます

8:無機物Palm:2014/03/16(日) 14:21 ID:Y1o

【1 虹】




 夏が雨が多くて、短い。

 次第に雨の音も遠のいた。
 病院特有の騒々しさは健在で、嫌気がさしてしまう午後二時半。
 知果はキャンパス・ノートと色鉛筆の筒を取り出した。最近始めた暇つぶし、それはスケッチ。
 特にやりたいとは思わないので趣味と呼ぶかは分からないが、気が紛れるのは確かだ。
 描きかけの、目の前に広がる忙しない病院の風景。そのまま描く。想像妄想は一切含めずに。ここが私の退屈な世界。狭くて苦しい世界だ。自分を納得させるようにただ手を動かす。傍からは一心不乱に絵をかくように見えるらしい。そしてそれは両親からも医者からも喜ばしいことみたいなので好都合であった。医者はともかくいつも自分を心配している両親をさらに心配させるのは嫌だ。
 壁、柱、窓、点滴、コンピューター、受付のカウンター。大まかなところは昨日完成したところだ。そこでふと気づいた。病院ではいつも白衣の人達は小走りで動く。これでは描けない。想像してでは描きたくない。どうしようか。
 しょうもないことで悩んでいると知っていながら、結構長い時間思案していた。

 驚いた。目の前に待ち望んでいた白い制服が立ち止った。よく見れば面識のある看護師だった。
「具合はどう? ずいぶん集中してたわね」
 ああ、今朝と全く同じ展開か。半ば可笑しい気持ちで今朝と同じ優しい看護師を見つめる。今度はなんだろう。
「虹が出てるのよ。ちょっと屋上に言ってみない?」
 なにをするにも力が出なかった毎日だ。屋上に行くなんて考えたこともなかったからどこかさえ分からない。把握しているのはせいぜいこのフロア全域くらいだ。でもこの日は、なぜか心をひかれた。
 描きかけのノートをぱたんとと閉じて、知果は看護師と一緒に病室を出た。

「う、わぁ」
 思わず声が漏れた。あまり動いていなかったから、エレベーターのない、最上階から屋上までの十段近い階段は少々きつかった。でもそれを払拭するように天井のない世界が広がっていた。青空。それの方がぼんやり浮かんだ虹よりも、知果にとっては印象的だった。

「虹なんて見たの、何年ぶりかなぁ」
 声が聞こえて、ぎくりとした。まさか私に話しかけているんじゃないだろうな、とおそるおそるあたりを見回す。
 いた。うつむいたまま目を泳がせれば、柵の傍に見える大きなスリッパ。大人の男だ。目が合わないようにそっと様子を窺うが、特に知果を見ているような感じはしなかったので安心する。コミュニケーションは苦手だ。彼はただ虹のかかった空を見ていたのだった。まるでさっきまでの知果と同じように。

 そこで気づく。――――私多分、この人の顔を知っている。
 何故だろう、とそれは分からなかった。だから、息を殺したまま彼の顔を見つめ続けた。視線に気づかれる、ということはそのときに限って忘れてしまっていた。
「遠野(とおの)さん、久しぶり」
 動悸が一気に激しくなる。自分は相手の顔を知っていて、相手は自分の顔だけでなく名前までも知っている。
「なんで、私のことを知っているんですか」
 彼は声をあげて笑った。心底おかしそうに笑った。
「そっかぁ、君が僕のことを覚えているはずがないよね。なんせ一番端っこでメモ取ってた冴えない研修医だし」
 ああ、一番はじめの診察でいた人か、と納得する。半年前のことなのによく覚えていてくれたな、と半ば感心する。

 それがその冴えない元・研修医、久保大斗(くぼひろと)との初めての会話。

9:無機物Palm:2014/03/19(水) 18:11 ID:Y1o

キャラ画

10:無機物Palm:2014/03/19(水) 18:12 ID:Y1o

キャラ画
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=42206373

書いてみました。
画力は0に等しいですが、主人公のイメージだけ伝われば嬉しいです。

11:紅& ◆kxUMVj6:2014/03/19(水) 18:22 ID:W9c

>>10
御上手ですっ!!

なんか、服のしわの感じとか
髪の毛とか……すごいです!


私、イラストすごい下手なので
羨ましいですよ……(*^^*)
更新楽しみに陰で待ってます!

12:無機物Palm:2014/03/19(水) 18:44 ID:Y1o

>>11
良かったす・・・。
いやー、難しくて・・・

応援ありがとうございます!
更新のほうも頑張らねばっ

13:無機物Palm:2014/03/19(水) 19:31 ID:Y1o


「絵、描くんだ」
 久保先生、は知果のノートを見て言った。

 ――虹を描きたい。屋上に来たのは初めてで、ましてやこの病院で虹を見たのなんて初めてだけど、この虹はなんだか特別な気がした。
 消える前に、早く描かなきゃ。
 描きたいと思うものが出来たの自体が初めてのことだ、知果にとって特別に違いない。

「見せてよ」
 久保先生が小突いてくる。
「先生なんかに見せたくないし。……だからって他に見せる相手もいないけど」
 小さく付け加えた負け惜しみみたいな台詞。一歩下がって、線を引いた牽制の台詞。
「先生なんか、か。僕が先生って呼ばれていられるとはね」
「ケンシュウイも先生は先生でしょ」
「それがさぁ」と彼は笑う。はじめに見たのと同じ、乾いた笑い方で。
 そして彼は言った。
「僕は君を診察した日に、君と同じ病名を上司に告げられて先生から患者になってしまいましたー」
 小学校の男子が照れ臭い言葉を笑いながら言うように、彼は言いにくいことをさらりと笑いながら、言った。
「……そりゃ、私のこと覚えてるはずだね」
 正直、緊張していた。
 病名を聞ける。彼と同じ病名を。
 だけど今なら乱さずに聞けるだろうか――――

「だからさ、僕のことは友達と思ってよ」
 乾いた笑い方で彼は言う。
「友達? 無理、ヤダ、友達とか絶対ない、ていうか友達ってなんだし、分かんないよ」
 知果は焦った。自分の思考に没頭しているうちに、話が変なことになっている。
「えー、僕五コぐらいしか変わんないのに。じゃあせめてさ、ヒロって呼んでよ」
「……もういい」

 吐き捨てるように言って屋上から階段に向かうドアを開ける。
 自然と足取りは軽かった。キツイけど。
 会話という会話が久しぶりで、ちょっと嬉しくて。
 階段を降りようとすると、「いつでも、待ってるから」と彼の声が追いかけてきて、口元が緩みかけてしまった。

14:無機物Palm:2014/03/26(水) 17:29 ID:Y1o


「あら、描かなかったの」
 予定より早く帰ってきた知果に看護師は言う。
「邪魔者がいたから」
 言葉少なに答える。無愛想でごめんなさい。
「ふーん」
 彼女は軽く流す。深く聞くと悪いと思ったのだろうが、こうも流されると逆に話したくなってくる。コドモだ。構ってほしい駄々っ子だ。

「久保大斗って知ってる?」
 ――私はコドモだ。仕方ないんだ。言いたいことも素直に吐き出せないし、我慢もできないの。だからこんな言い方で。

「知ってるわよ」
 彼女は一瞬引き攣った笑みを浮かべて。
 その取ってつけた笑みで嫌な部分を思い出した。同じ日に同じ病名を聞かされた、彼の部分を。
「そっかぁ」
 溜め息と一緒に吐き出す言葉は重い。

 そんな知果を見て、看護師はあはは、と笑う。さっきとは全然違う、乾いた笑い。
 ちょっと久保大斗という男の笑い方に似ているかもしれない、と知果は思う。


「だって彼、カッコいいでしょ」
 そうだ。そうなのだ。
 マトモに人と話さない知果でも感じるように。
 彼は、端正な顔立ちをしている。思わず見とれるほど。

 ――――私はコドモだ。だけど私はひねくれたコドモだから、そんな質問にうなずき返すことなんてできっこない。
 

15:無機物Palm:2014/04/02(水) 15:24 ID:Y1o



「知果、久しぶり」
 病室に来た母親はひどく疲れていた。医療費がかさむのは言われなくても分かっていて、母はそれを知果に言わない。母親として当然かもしれないが、それが辛かった。
「お母さん」
 気づいた合図に声をかける。母は疲れた顔で笑う。知果は笑えない。笑顔を作るってのも年の功なのか、なんて考えたりする。
 知果の医療費を稼ぐために働く両親、病院に行く時間はあまりない。今日来たのは医者の話をきく日だから。
「じゃ、主治医さんのとこ行ってくるから」
 そうして知果はまた一人になる。
 今頃自分の病気について話されている、そう思うとちょっとキビシイから、何も考えないように、考えないように。

「相変わらず能面みたいだなぁ」
 乾いた笑い声といっしょに、知果の前にはヒロ……と呼べと言った久保大斗という元・研修医がジャージ姿で立っていた。
「今、母親が自分の病気について聞かされてる」
 知果は小さな声で言った。
「ちょっと、怖いと思わない?」
 ヒロはうなずく。

「自分でも分かるんだ、悪くなってく感じ」
 同じ日に病気を告げられた彼なら分かるだろうか。
 分かって欲しい、と思う。
「なるべく見ないように、見ないように、僕も目を背けて生きてるよ」
 彼は笑って言った。

 胸が疼いた。
 嗚呼――――彼のように笑いたい、強くなりたい、なんて。

「知りたいんだよね」
 すぅ、と息を吸って。
「病名、余命」

 彼は微笑んで、病室を出て行った。
 代わりに入ってきたのは母だった。


「お母さん」
 知果は言う。
「今日医者に言われたこと、全部教えて」


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