終わり無き旅

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1:ALICE:2014/05/18(日) 08:31 ID:PYM

「ねえ、何かお話をして!!」
子供がそう言うと、大人は決まってこの話をする。
「そうだね。じゃあ、とある旅人の話をしよう。私が子供の頃の話だ__。」



*****


こんにちは、ALICEです。
この物語はとある旅人の話です。
長い物語ではなく、ひとつひとつは短編となっております。
気になった話があれば是非読んでみてください。
また、感想やアドバイス等ありましたらお気軽にどうぞ。
その場合はサイトポリシー、最低限のネチケットを守ってください。

2:ALICE:2014/05/18(日) 08:44 ID:PYM

エピソード0 旅の合間に

「ねえ、フラットはこの旅をいつまで続けるの?」
夏の川。
蝉が五月蝿く鳴く間からふとそんな声が聞こえた。
柔らかく、少しも咎めや責めが無い声だった。
「さあ、ね。」
フラット、と呼ばれた者が返事をする。
声変わりをしていない、若い男の子の声だった。
「まだ分かんないよ。まあ取り敢えずはお父さんやお母さんを取り返すまでかな。」
「そっか。」
あの柔らかい声が相槌を打つ。
するとフラットは笑い声を洩らした。
「フフッ、シャープ。僕はまだそんなこと考えられないって分かってるくせに。」
シャープ、と呼ばれた柔らかい声も笑う。
「まあ、そうだね。ボクも『今日には止める』って言われたらどうしようかと思ったよ。この生活、楽しいし。」
「うん。じゃあ、行こうか。」
フラットが掛け声をあげる。
と、同時にエンジン音が聞こえた。
「新たな国へレッツゴー!!」
シャープもはしゃいだ声で告げ、次第に声は遠ざかって行った。

3:ALICE:2014/05/18(日) 09:12 ID:PYM

エピソード1 デルフィーヌ国


広い森の中を、ひとつの影が颯爽と走っていた。
影の正体は一人の少年とハムスターだ。
少年は赤茶の長めの髪の上から青い帽子を被せていた。
チェック模様のシャツや薄手のジーパンから見える肌は白く、髪の影からうっすら分かる眼の色は澄んだ青だ。
ハムスターは少年の帽子の上に乗っており、体は真っ黒だ。
そしてやはり眼は澄んでいて、青色だ。
彼らはセルデン(エンジン搭載のスクーター)を巧みに操り、でこぼこした木々を飛んだり跳ねたりしてやり過ごしていた。
セルダンは黒く、手前のかごにはリュックが置いてある。
そんなセルダンが跳ねる度、さっきからハムスターが変な声をあげていた。
「そえっ……くおっ…ぎょにっ!!…」
少年は黙って運転していたが、とうとう顔をしかめて叫んだ。
「シャープ、うるさいよ!!」
シャープと呼ばれたハムスターも声を張り上げる。
「仕方無いじゃない…かあん!!…ああ、もう揺れええええるう!!」
最後の方は、絶叫になっている。
少年はそんな声を聞いて、思わず吹き出してしまった。
「シャープ、止めろよ。面白くて、僕笑い死んじゃうよ。」
するとシャープはムッとして言い返した。
「ボクだってわざと言ってるううううううわっ、訳じゃあななななあいよ!?此処はどうもゆゆゆゆ、揺れるんだ!!」
……やはりおかしい。
「冗談はよしなよ、こんな揺れへいき……あ!!」
少年が笑いかけて息を呑んだ。
スクーターにブレーキをかける。
シャープの「うぎゃっ」という声と共にスクーターは停止した。
「見なよシャープ、国だよ。」
少年がスクーターから降りて頭の上のシャープをソッと手に乗せる。
シャープの驚いた様子が手に伝わってきた。
「驚いたね、フラット。国がすり鉢みたいだ…!!」
フラット、と呼ばれた少年も頷く。
彼らの眼下に広がるのは、すり鉢状に掘られた中にある国だった。

4:ALICE:2014/05/18(日) 10:46 ID:PYM

「ようこそ、デルフィーヌ国へ」
フラットとシャープが国に入ると、一人の女性が立っていた。
黒い髪が白いワンピースと対照的だ。
彼女は髪もワンピースも背も高く、優雅な身のこなしをしている。
女性は二人を一瞥すると聞いた。
「旅の方ですか?」
彼女の問いに、シャープが答える。
「そうだよ。」
フラットも頷いた。
「はい。僕はフラット。こっちが友達のシャープです。」
そしてトラベルノート(パスポートのようなもの)を出そうとする。
その手を女性が止めた。
「トラベルノートは要りませんわ。」
驚くフラットに彼女は言った。
「この国では各層ごとに入国検査があります。私は最高層の検査官なのですが、あなたは最高層には合いません。せいぜい中層でしょう。ですから、ここの検査は受けなくて結構です。」
その言葉に、シャープは抗議した。
「酷い、差別だ!!」
しかし女性は肩をすくめる。
「差別が何ですか。この国はそういう国です。」
シャープは再び何か言おうとしたが、開いた口から言葉が漏れることはなかった。
フラットはそんなシャープを見つつ女性に聞いた。
「層、と言うのはこの段のことですか?」
この国には段があった。
大きな階段のような、段が。
女性はこくりと頷く。
「ええ、そうです。此処より少し下がった所が最高層。一番下が。」
と、女性は忌々しそうに言った。
「汚らわしい難民層です。」

5:ALICE:2014/05/18(日) 11:03 ID:PYM

「なんかさ、変な国だねえ。」
中層にたどり着いた所で、シャープが不服そうに呟いた。
目の前には先ほどと同じ関所がある。
「そうだね。でもまあ、郷に行っては郷に従え、だよシャープ。」
フラットが頭に乗っていたシャープを手に下ろし撫でた。
そしてセルダンを押しながら関所に入って行く。

関所の中には男性が居た。
黒髪が短く刈ってあり、爽やかな印象だ。
「やあ、坊や達。」
彼はにこやかに笑いかけた。
フラットとシャープは少し面食らった。
さっきの女性とあまりにも雰囲気に差がありすぎる。
すると男性は声を出して笑った。
「おいおい、俺らを最高層と一緒にするなよ?最高層みたいに冷血じゃねえ、ちゃあんと温かい血が流れているんだぜ?」
フラットは目を丸くしながらもリュックからトラベルノートを出し、男性に渡した。
「4日滞在します。」
シャープは男性の口調に驚きながらも、だいぶ楽しんでるらしい。
少し笑った。
「ボクはシャープ。こっちはフラット。……ねえ、最高層の人達と一番下の人達、どう違うの?」
トラベルノートに何やら記入していた男性は、ノートをフラットに返しながら言った。
「俺はマテューだ。違い、ねえ。俺が許可出しとくから、四日間で色んな層をまわると良い。自分の目で確かめな」

6:ALICE:2014/05/18(日) 11:16 ID:PYM

関所を抜けると、たちまち人に囲まれた。
「あんたが旅人さんかい?」
「昼食食べてかない?」
「イケメンじゃねえか!!」
「パンはいかが?」
そんな言葉の数々を制し、フラットは聞いた。
「此処で一番泊まり心地の良く、なおかつ安い宿は何処ですか?」
すると、中層の人々は静まり返った。
フラットとシャープが黙って顔を見合わせていると、一人が言った。
「中層に宿はひとつしかねえ。しかもおんぼろだ。最高層にはいくつもあんだが。申し訳ねえ。」
フラットは慌てて手を振る。
「いやいや、良いんですよ。寝れれば充分です。是非案内してください。」
すると、何人もが一斉に名乗り出た。
よっぽど旅人が好きらしい。
シャープは苦笑してぼやいた。
「人気者はスゴいねえ。」
と。

7:ALICE:2014/05/18(日) 13:59 ID:PYM

結局、中層で一番優しいという男性に案内してもらうことにした。
まあフラットとシャープには誰に案内してもらおうが辿り着きさえすれば良いのだから問題無い。
彼はよく喋った。
主に自身の事だ。
彼の名はテューリと言う。
彼は元々難民層で産まれたが、学校の無い環境でも必死になって勉強したらしい。
その努力が認められ、彼は中層へとやって来た。
「上の層は冷たいって聞かされてきたから、中層に来たときは驚いたね。みんな俺に優しくしてくれる。」
そこで、フラットは聞いてみた。
「難民層にもう一度戻りたいですか?」
するとテューリは険しい顔になった。
それはまるで……そう、怪物のようだった。
「いいや、全然。あんなとこ、行きたくもない!!」
その答えにシャープは目を丸くした。
「キミの両親が居るんじゃないの!?」
テューリはますます顔をしかめる。
「止めてくれっ!!俺はそれが恥なんだ。…昔あそこを良い所だと思っていたのが恥ずかしい!!憎い!!あそこで俺を産んだ親が……」
聞いてられない。
フラットは耳を塞ぎたくなった。
するとシャープが何時もの柔らかい声から一転し、金切り声をあげた。
「止めるのはあんただよ。テューリさん。親を何だと思ってるんだ!!」
テューリも怒鳴った。
「ああ!?」
堪らなくなったフラットが珍しく大声を出す。
「二人共うるさいよっ!!」
すると二人がピタッと喧嘩を止め、フラットを見た。
双方の目にはうっすらと涙があった。
「テューリさん、変な事を聞いてすみません。シャープは親想いなので、取り乱したみたいです。すみません。」
テューリは呆気に取られたように頷いた。
「あ、ああ。」
しかしすぐに使命を思い出したらしい。
涙を拭うと威勢よく言った。
「さっきはすまねえな。よし、気を取り直して行くぞ!!」
シャープが笑う。
「オーっ!!」

8:ALICE:2014/05/19(月) 20:01 ID:PYM

かくして着いた宿は一言で言うならば……。
「ぼろぼろじゃん」
シャープが呆れ気味にテューリを見る。
テューリは肩をすくめた。
「仕方ないだろ?此処しか無いんだ。まあ、難民層には宿なんて無いけどな」
そうは言いますがね、とフラットは心の中でぼやく。
これはかなりのもんですよ。
事実、宿の外見は酷い。
壁紙は所々剥がれているし、和風の引き戸は錆び付いている。
蜘蛛の巣が至るところにあり、ムカデや毛虫が普通に這っている。
まあ、フラット達はもっと凄まじい宿に泊まった事もあるから泊まれないほどではないだろう。
フラットはそう思って扉を開けようとする。
しかし開かない。
「……っ!!」
歯を食い縛り思いっきり横に引っ張る。
すると、ガラッと音がしてようやく開いた。
フラットは反動で尻餅をついた。
それでも起き上がって中を覗くと、一人の女性がこちらを向いて立っていた。

9:ALICE:2014/05/24(土) 21:02 ID:PYM

真っ直ぐにおろした黒髪に対照的な白い肌。
すぐに骨が折れてしまいそうな華奢な体つき。
着ているのは薄手の青いワンピースで、綺麗だった。
しかしそんな彼女の端正な容姿を崩してしまう物があった。
……目だ。
彼女の黒い目は鋭く見たものを怯ます力があった。
シャープとフラットも動けはしたものの、その瞳に目を奪われてしまい声を出せなかった。
と、女性が赤い唇を開く。
「誰かしら。もしかしてお客さん?」
その声を聞いたテューリが頷く。
「ああ。こっちがフラットさん。こっちはシャープ君。」
「……そう。」
女性はとたんに興味を無くしたらしく、顔を逸らした。
この女性は?
そう思ったフラットはテューリを見る。
するとテューリが説明しようとしてくれた。
「彼女はこの宿の主の娘だよ。名は……」
「テューリ君、勝手に紹介しないでもらえるかしら?」
テューリの言葉を遮るように女性がずかずかとやって来る。
目はこれ以上無いくらいに鋭い。
その目がフラット達を捉えた。
ビクッとするシャープに向かって女性は言った。
「私はロジーヌ。元々は旅人よ。だから宿の娘じゃなくて正確には居候なの。」

10:ALICE:2014/05/29(木) 19:21 ID:PYM

「居候……じゃあ、もしかしてこの宿の仕事を手伝ってる?」
シャープがロジーヌに聞く。
するとロジーヌは意外な事に笑みを浮かべた。
柔らかな、優しい笑みだ。
「ええ、そうよ。……そう言えばあなたたちお客さんだったっけ。」
そして少し考えてからお辞儀をする。
「改めまして。ようこそ当旅館へ。このようなボロい所ですがくつろいで頂けたらと思います。」
それを見たシャープがフラットを見る。
「……今話したのってロジーヌ…さんだよね?」

ロジーヌに案内され、フラットとシャープは部屋に入った。
立派とまではいかないものの泊まれるレベルのボロさだ。
洋式と和式が混ざっていて、ありがたい事に寝床はベッドだった。
「ベッドの方がよく寝れる」
嬉々として語るフラットにシャープは告げる。
「ベッドで寝るチャンスが少ないからでしょ」
フラットはそれを無視し、ベッドに腰掛けてから新たな話題を持ち出した。
「それにしても、此処は差別が酷いね。難民層だの最高層だの……」
シャープがフラットに聞いた。
「フラットは何処が良い?」
フラットは肩をすくめた。
「わからない。それを見に明日いろんな層へ行くんだよ」

11:ALICE:2014/05/31(土) 22:17 ID:PYM

次の日。
フラットは4時頃に目が覚めた。
軽く伸びをして、ベッドサイドに置かれた二本の剣を取った。
そのうち少し長い方を鞘から抜く。
フラットが「ピアノ」と呼ぶ剣だ。
持ちやすいデザインで装飾も見事。
刃は両側に付いており扱いやすそうだ。。
フラットはピアノの切っ先を触り満足気に微笑んだ。
そしてベッドから降りて片手でピアノを振る。
手付きは軽やかで、剣先は踊っているようになめらかだ。
フラットの手の動きに合わせビュンビュンと音がした。
「フラット、やっぱりその振り方だと背中が無防備だよ。素早くかわせないし振る音もうるさい。」
いつの間にか起きていたシャープがベッドの上で言った。
フラットはピアノを鞘に納めて腰に鞘ごと差す。
そして答えた。
「そうだね。もっと考えないと。」
それからもう一本の剣を取る。
ピアノと違い、比較的短い……いわゆる短剣と呼ばれる物だ。
フラットはこれに「フォルテ」という名前を付けた。
ピアノより重そうで装飾はシンプルだ。
「フォルテには慣れた?」
シャープが聞くと、フラットは苦笑した。
「まだだ。まだピアノの方が扱いやすい。」
「重そうだもんね。ピアノに慣れてるフラットには厳しいかも」
「うん、だから練習する。」
フラットは少しウィンクをして振り始めた。
さっきとは違い、動きが固い。
そんなフラットを見ながらシャープは呟く。
「慣れない行為……例えばウィンクなんかは練習した方が良いね。」
その声は汗ばんでいるフラットには届かなかった。

12:ALICE:2014/06/02(月) 20:17 ID:PYM

トレーニングを終え部屋を出ると、ロジーヌが玄関で立っていた。
その目から突然涙が溢れる。
「絶対……絶対許さない……」
フラットは目を丸くする。
そして隠れて見るのも悪いと思い、声をかけることにした。
「ロジーヌさん?」
するとロジーヌの体がピクッと揺れた。
凄まじい勢いでフラットとシャープの方を向く。
それから慌てて涙を袖で拭った。
「な、なんでもないのよ。気にしないで」
その言葉にシャープが答える。
「何でも無くないでしょ?…誰かに話してみるのも良いことだよ」
ロジーヌはしばらく二人を見つめていた。
やがてその頬を再び涙が伝い出した。



「まずこの国の歴史をお話しするわ。」
落ち着いたロジーヌが笑顔で言う。
此処はカフェ。
とりあえず場所を移したのだ。
「元々、この国は素晴らしい国だったの。
すり鉢状になってはいたけど、みんな仲良く暮らしてた。
私の母も……そうだった。
母はジャムを作って売ってて。
収入は少ないけど、充実した日々を送っていたみたい。
でもね、だんだん国の中で職業差別が行われるようになった。
それが酷くなって、とうとう金持ちと普通と貧乏で分けられるようになった。
金持ちはこう言った。
『国の外へ行きやすい上の方に住みたい』
当然金持ちの意見は受け入れられた。
私の母は一気に難民になったわ。
私を産んで、育てようと頑張った。
でも無理だった。
母は……死んだの。
栄養失調だった……。
私が10の時よ。
私はそれから旅人になった。
金を集めて、復讐しようと思った。
でもね、足りなかったわ。
金持ちにはなれなかったの。」
ロジーヌは一息吐いた。
俯いて、フラットたちと顔を合わせようとしない。
けれどもそれはたった数秒の話だ。
彼女はスッと顔を上げた。
キリッとした顔からは決意の色が見て取れた。
「フラットさん、シャープさん。
私、この数年間とある計画を立てて来ました。
この国をぶち壊す計画です。
難民層は愚か、最高層の者でさえ生き残れないでしょう。」
「……」
「私は今日、それを決行する予定です。
フラットさん、シャープさん。
このまま此処に居ればあなたたちの命は危ない。
どうします?
元々は一緒に殺ってしまうつもりだったんですけど、聞いてもらったからチャンスを上げるわ。」
フラットたちは顔を見合わせた。
そしてフラットが言う。
「僕たちは……」

13:ALICE:2014/06/06(金) 19:56 ID:PYM

「ひゃー、酷いねこれは。」
シャープが言葉とは裏腹に、何処か愉しげな口調で言う。
「そうだね。」
フラットもセルダンから降りて言った。
二人の目の前には汚い街があった。
家は全て蜘蛛の巣だらけ。
空気は悪く、常に塵が舞っている。
近くにでも工場があるのか、変な色の煙が天高くモクモクと昇っていた。
しかし。
「なんか楽しそうだね」
シャープが笑う。
フラットは無言でセルダンを押しながら街へと入って行った。



数分前。
フラットはロジーヌにこう答えた。
「僕たちはこの国を見て回りたいと思います」
と。
ロジーヌは目を丸くして二人を見たが、しばらくすると息を吐いた。
「まったく、あなたたちには敵わないわ。
良いわよ、見て行きなさい。
待ってあげるわよ。」
こうして二人は当初の予定通り国の中を見ることにしたのだった。

14:ALICE:2014/06/10(火) 19:39 ID:PYM

街へ入ると、たくさんの子供が居た。
みんなつぎはぎだらけの酷い服装で、しかも裸足だった。
でも、彼らの目は生き生きしていた。
口元には笑みすら浮かんでいる。
「あなたが旅人さん?」
一人の少女が聞いた。
そうだよ、とフラットが答えるとみんなの目がさらに輝きを増した。
「旅人さん、いつまでいるの?」
「お話聞かせて!!」
「遊んでよ!!」
「このハムスター可愛い!!」
「ハムスターに触っても良い?」
そんな言葉の数々を制し、フラットが問う。
「まず最初にこの層を見て回りたいんだ。良い案内人は居るかな?」
すると、しばらく子供たちはヒソヒソと話していたが、しばらくすると一人の少年が前へと出てきた。
「ぼく、アレクです。……その、よろしくお願いします。」
お辞儀をするアレクにフラットは笑顔で返す。
「よろしくね、アレク。」
頭の上でシャープが
「フラット、案外楽しんでるね」
とぼやいた。

15:ALICE:2014/06/10(火) 20:35 ID:PYM

アレクは打ち解ければ話しやすい良い子だった。
しょっちゅうボケをするし、フラットやシャープがボケてみせたらツッコミも入れた。
おまけに説明も上手くてフラットは感心した。
今はこの国の歴史を歩きながら聞いていた。
フラットたちは一度ロジーヌから歴史を聞いていたが、アレクの好意を無駄にしたくはなかったので聞くことにした。
「昔昔、この土地にぼくらの御先祖様が辿り着きました。此処には元々こういう穴があり、御先祖様はそこに入ったのです。
 昔はこんな差別は無かったようですが、だんだん差別が行われ今のような状態に。
 でも、ぼくらは平気です。だって楽しいんですもの。」
フラットたちは顔を見合わせる。
そして聞いた。
「この国に、金持ちに復讐しようとは?」
アレクは笑う。
「そんなこと思いませんよ。ぼくら、さっきも言いましたが楽しいんです。
 そりゃ環境は悪いかも知れないし、死ぬ確率も高いかも知れない。
 でも、死んでも楽しい中で死ねるなら良い。
 知ってます?金持ちは全然幸せじゃないらしいですよ。」


「あなた方が旅人さん?」
最高層の人々は、フラットたちが町に入るなり眉をひそめた。
ええ、とフラットが答えると人々は一斉にフラットから距離を置いた。
「汚いわ」
「この人臭そうだわ。家の子は大丈夫かしら」
「子供はすぐ避難するべきよ。この人は有害ですもの。」
そんな数々の蔑みを制し、フラットが問う。
「この層を見て回りたいのですが、案内をしてくださる方はいらっしゃいますか?」
すると人々は一人の方をサッと見た。
それは女性だった。
「私はエーベルよ。」
フラットは頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
落ちかけたシャープが
「はあ、疲れる……」
と一人ごちた。

16:ALICE:2014/06/11(水) 20:01 ID:PYM

エーベルは非常に傲慢な子だった。
いつも怒ってるし、やたらめったら威張っていた。
説明なんてしようともせず、ただただ愚痴をこぼすだけだ。
それでもこの子が選ばれたということは、最高層ではこれが普通なのだろう。
今はカフェで赤いお茶を飲みながらエーベルが申し訳程度に話し出した歴史を聞いていた。
「昔、偉大なる御先祖様が此処に来たの。この穴は昔からあったの。
 昔は腐った難民の奴等とも一緒に暮らしてたけど、だんだん離れていったわ。
 当たり前よね、アイツラ汚いもの。
 そのくせ楽しそうだし、それに目だけはギラギラしてんのよ?気味悪いわ。
 私たちは身を粉にして働いているのにちっとも楽しくないわ」
シャープが聞く。
「この国を恨んだことは?」
エーベルは鼻で笑う。返事は一言だけだった。
「はあ?」

17:ALICE:2014/06/11(水) 20:18 ID:PYM

そんなこんなで、フラットたちは夕方頃に宿へと帰ってきた。
ロジーヌはちゃんと居て、二人を待っていた。
「お待たせしました。」
フラットが言うと、ロジーヌは大きな鞄を持って答えた。
「良いわよ、このぐらい。……行くわよ、出国の手続きしましょう」
そして歩き出す。
フラットたちも部屋の荷物とセルダンを取り、後を追った。

歩いている途中。
フラットはふと聞いた。
「テューリさんは?」
すると、ロジーヌは振り返らずに言った。
「……良いのよ」
と。
それからしばらくしてロジーヌも質問をした。
「あなたたち、最高層と難民層を見てどう思った?」
これにはシャープが答えた。
「最高層は経済的には素晴らしかった。でも、人々は生きてないように思えた。
 あれじゃまるで愚痴を吐き出すだけの機械だ。
 反対に難民層は経済的には苦しいけど、みんな楽しんでた。」
ロジーヌが頷く。
「その通りよ。それでも最高層の人々は自分たちが一番だと信じてる。…そうなれば破壊するしかないわ。」

出国の手続きを終えた一行は丘の上へとやって来た。
国のすぐ側で、すり鉢状の国がよく見えた。
最高層はきらびやかな色で覆われているが、難民層は茶色いように見える。
ここからだと違いがよくわかった。
ロジーヌがごそごそと鞄をあさる。
そして幾つかの____手榴弾を出した。

18:ALECE:2014/06/17(火) 22:27 ID:PYM

「手榴弾、ですか」
顔色ひとつ変えず、フラットが呟く。
「ええ、そうなの」
そう答えたロジーヌ。
その首に剣先が触れた。
「……え!?」
ロジーヌが呆気に取られていると、剣を持ったフラットは無表情で伝えた。
「一人の少年に依頼されました。『復讐する奴を殺して』と。」
シャープも頷く。
「諦めなよ。今はみんなあの国が好きなんだよ」
と、ロジーヌが立ち上がった。
そして笑い出す。
「あはは、面白いじゃない?」
その首元に一筋の血が流れた。
フラットはピアノを少し動かす。
ロジーヌの頬に傷が出来た。
「痛いじゃない、フラットくん。でも。この手榴弾をな…げら………」
どさっとロジーヌが倒れた。
血の噴き出した喉笛を抑え、彼女は死んだ。
フラットは相変わらず無表情で、布で剣先を拭い着替えた。
手榴弾を拾い、安全ピンを止める。
それをバックに入れ、セルダンでシャープと共に夕焼けに消えた。

19:ALECE:2014/06/22(日) 21:27 ID:PYM

「あっけなかったね」
平坦の道を行くセルダンの上でシャープが呟く。
森からひとつの影が出て来て、遠くに消えた。

20:ALECE:2014/06/29(日) 19:38 ID:PYM

エピソード1を書いて

後書き的な物です。
エピソードが完結する度に書く予定です。

なんだろう。
書き直したいです、猛烈に。
実はこのエピソード、結末を二つ考えてました。
ひとつはこれ。
フラットが殺してしまう結末です。
もう一つは、この話を書こうと思ってた時に考えてた結末です。
フラットは何もせず、国は滅びる。
フラットたちはそれを見ながら少年たちの事を思い出し、ロジーヌは狂ったように笑う。
バッドエンドですかね、まあ。
今回ロジーヌを殺したのは、戦闘シーン的なのを入れたかったってだけです
だから何か色々おかしいですね。
書き直したい。
いつか書き直しましょうかね、結末を変えて。

では次の物語、エピソード2を始めましょう

21:ALECE:2014/06/29(日) 19:50 ID:PYM

エピソード2 グイード国

平坦で広大な草原を一台のセルダン(エンジン搭載のスクーター)が走っていた。
運転手は若い人間で、男なら長めの髪をたなびかせている。
彼の肩には黒いハムスターが乗っていて、しきりに話していた。
「ねえ、フラット。その国……グイード国だっけ?そこはどんな国なの?」
フラットと呼ばれた運転手は答える。
「変わった国らしいよ、シャープ。なんでも義務教育がないらしい。」
シャープは不思議そうに聞き返した。
「義務教育がない?義務教育って、どの国でもあるのに」
「だろう?気になるから行ってみるんだ。」
「なるほどね。……見えてきた!!」
二人の視線の先に、大きな城壁と頑丈な門が見えた。
フラットは少し笑みを浮かべ、セルダンの速度を上げた。

22:ALECE:2014/06/30(月) 19:50 ID:PYM

「義務教育がないって聞いたのですが。」
審査官にトラベルノートを渡しながらフラットが聞く。
「おう、そうだよ坊ちゃん。……ところで何日滞在するつもりだい?」
「四日間ほど。…義務教育がないってことは、小学校とかはないんですか?」
審査官がトラベルノートを返して来た。
「俗に言う小学校は無いね。中学校も。」
そして、外に案内人がいると告げ奥に引っ込んでしまった。

23:ALECE:2014/07/16(水) 19:54 ID:PYM

「シャープ、国に入っちゃって良いのかな?」
戸惑うフラットが聞くと、シャープも首を傾げる。
「随分とテキトーな審査官だけど……良いんじゃない?」

城門と呼べるほど立派ではない門をくぐると、人通りの少ない通りに出た。
「ここ、裏門なのかな?」
シャープが再び首を傾げる。
「そういう可能性もあるね。」
フラットは答えながらセルダンに乗った。

通りをまっすぐ進むと、大きな広場があった。
人通りも多く、フラットたちはたちまち人に囲まれた。
「旅人さんだぁ!!」「名前はなんて言うの?」「ハムスター可愛い!!」
フラットはその問いひとつずつに答えながらシャープに話しかける。。
「子供ばかりだ。こんなに広い広場なのに、大人はひとりもいないよ」
「同感。そこらへんのことも後で聞いてみよう。」
「了解」
フラットは頷き、子供たちに聞く。
「この国で、安く泊まれて居心地も良いホテルは何処か分かる?」
それを聞いた途端、子供たちの目が一斉にひとりの少女のほうを向いた。
明るい茶髪をおさげにしている彼女は、恥ずかしそうに言った。
「私のうちはホテルで…居心地はわかりませんが、安さは保証します。」

24:ALECE:2014/07/19(土) 18:18 ID:PYM

彼女は道中、自己紹介をした。
名はカフィと言い、歳は12。
兄弟はいないが、優しい両親がいるため気にしていない。
夢は親のホテルを継ぐこと。
「まあ、叶うかどうかは分からないんですけどね」
カフィがそういい、突如立ち止まった。
「ここが私の家です。」
そして呆気に取られるフラットたちに一礼した。
「ようこそ、学校へ。」

25:ALECE:2014/07/20(日) 18:27 ID:PYM

カフィが案内したのは、他の国では「幼児・児童・生徒・学生その他に対して教育が行われる場所」__すなわち学校だった。
シャープが戸惑いながら問う。
「なんで学校がホテルなの?」
すると、カフィは満面の笑みを浮かべた。
「はい、それはですね。我が国の歴史に関わってるんです。」
とりあえず中に入りましょう。
そう言うカフィの後に続き、入ったロビーで彼女はこの国の歴史を語り始めた。
「この国にはお二人がご存知かは知りませんが、義務教育がありません。」
「はい、それは噂で聞きました。」
フラットが言うと、カフィはコクンと頷いた。
「とは言っても無くなったのはつい最近の事なんです。」
そうカフィが告げた時、ひとりの女性が三人の元にやって来た。
彼女はフラットとシャープを一瞥してからカフィに話しかけた。
「カフィ、お客様かしら?」
「ええ、ママ。」
カフィがそう言った瞬間、女性の目がキュッと細くなった。
それをフラットが確認したとたん。
ロビーに乾いた音が響いた。
うずくまるカフィに女性が言う。
「カフィ、いつも言ってるわよね?お客様はまずフロントにお連れすること。」
赤く腫れた頬を押さえ泣き声を漏らすカフィ。
フラットが慌てて口を開いた。
「あの、僕らが国の歴史を話してほしいと頼んだんです」
しかし女性はフラットの言葉を無視した。
「カフィ、返事をなさい。そして土下座するのよ」
「申し訳…ありませんでした」
カフィが歯を食いしばり、女性に向かって頭を下げる。

26:ALECE:2014/07/21(月) 20:35 ID:PYM

「ふんっ」
女性はカフィを蔑むような目つきで見、それからフラットに向けて笑みを浮かべた。
そして今までと一変した声や口調で話し出す。
「お客様ぁ、大変お見苦しいところを御目せしてしまいましたぁ。母としてもホテル長としても謝らせていただきますわぁ」
そう言って突然頭を下げる。
フラットはいえいえ、と首を振った。
「お客様は何日お泊りになる予定ですのぉ?」
女性__ホテル長が相変わらず甘ったるい声で聞く。
「えっと、三泊四日の予定です。」
フラットの答えにホテル長は満足そうに頷く。
「ならば桃の間へどうぞ。」
そして先ほど立ち上がったカフィを睨みつけた。
「お客様を案内しなさい、虫けら。」

27:ALECE:2014/08/02(土) 15:10 ID:PYM

「びっくりしたね〜。この国はみんなあんな感じなのかな。」
部屋に案内され、カフィが居なくなったとたんにシャープが口を開いた。
「さあ?」
フラットは答えながら部屋を見渡した。
和室になっているこの部屋は桃の間というだけあって、床の間に桃が飾られていた。
壁紙も薄い桃色で、窓からは桃が見えた。
フラットは荷物を隅に置き、シャープを机の上に乗せ、大きく伸びをした。
「明日は何処に行く予定なの?」
シャープが聞くと、フラットは窓を開けながら答えた。
「さあ?」

宿泊料は驚くほど安かったが、美味しい食事は出たし熱いお湯の出る温泉もあった。
食事は希望すれば無料で三食出してくれるらしかった。
シャープの分もクッキーを用意してくれたりと、サービスはとても良い宿だった。
フラットとシャープは夕飯を食べてから温泉に浸かることにした。
此処は動物が入っても良いらしいのだ。

浴場の戸を開けると、そこは誰も居なかった。
「貸し切りだね〜」
その光景をみてシャープは呑気にそう呟き、フラットは笑みを浮かべる。
その晩、二人の影は月が真上に来るまで消えなかったらしい。

28:ALECE:2014/08/09(土) 20:20 ID:PYM

「ふわああ」
次の日、フラットはいつものように4時に目を覚ました。
伸びをしてから布団から抜け出し、それらをたたむ。
そして脇に置いておいた一本の剣を手に取った。
この剣はフラットがピアノと呼ぶ剣である。
フラットはピアノを持ちながら床に座り、じっくりとあちこちを点検した。
それが終わると、ピアノを一度鞘に収め、腰へ携えた。
そして一気に引き抜き、目の前の空間を一振りした。
振った時、剣先は目で追いつけない程の速さになり、ビュンと空気が引き裂かれる音がした。
「やっぱりフラットは速いね。ただ、もっと技術を磨かないと、そのうち死んじゃう。」
いつの間にか目を覚ましていたシャープがフラットの動きを評価する。
そして、付け足した。
「基礎トレはしたの?」





更新短くてすみません。
諸事情により、ID変わってるかもしれませんがALECEですので‼


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