二重人格と眼鏡。

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1:なごみ:2014/06/02(月) 21:57 ID:bJU

初の小説ですが更新頑張ります!
コメント、アドバイスもお待ちしております。

2:なごみ:2014/06/02(月) 22:03 ID:bJU

他人と関わるのなんて、今はもう苦痛だ。

どうしてこんなことになってしまったのだろう?やっぱり、学校が楽しくなかったからかな?
もう、何もかも嫌だよ。誰か助けてよ……。

そんな、助けを求める声は人々には届かない。皆、知らん顔して通りすぎていくだけ。
もう、なんだか疲れた。
誰でもいい。

「私の声を聞いて」

3:なごみ:2014/06/02(月) 22:15 ID:bJU

【天野瑠璃、自宅の書斎にて】

「……わぁ、うちの書斎にこんなに本があるなんて知らなかった……」

お下げの小柄な眼鏡の少女……天野瑠璃は膨大な量の本に目を輝かせていた。
もともとこの書斎は父親のものだが、父親は普段この時間は仕事のため家にはいない。瑠璃も普通なら学校に行かなければならないのだが、とある事情があり現在は不登校に近い生活を送っている。
瑠璃は読書家で、本があれば一日中読んでいるほどだった。しかしあまり外出しないたちなので、自分の本はすべて読み終わってしまった。
(それに、『あいつ』が出てきたらたちまち私は警察に行かなければいけなくなる……)
物思いにふけっていると、積み上げていた本がドサドサと落ちてきた。
「痛い……」
頭をさすりながら起き上がり、崩れた本をもとに戻す。怒られたらただじゃすまない。
窓の外を見ると、太陽がさんさんと照りつけていて、瑠璃はカーテンを閉めた。

「もう……私が太陽に当たることはないのね……」

4:なごみ:2014/06/02(月) 22:35 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律、私立吉里中学校前】

夕暮れ時に、日泉和久はスポーツドリンクを飲みながら校門に寄りかかっていた。そこに、黒髪で前髪を短く切り揃えた少年、鷹見律が駆け足でやって来る。
「遅い。二分オーバーだ」
「うわ、怖っ!和っぺ威圧感スゲー!」
「いい加減その和っぺという呼び方をやめろ、鷹見。馴れ馴れしくて吐き気がする」
和久は冷たく律を引き離した。律はそれが面白くないのか、別の話を振る。どうやら情報通らしい。
「和っぺはさ、雑木林の向こうに行ったことってあるか?」
「あそこの向こうにはお金持ちの人の別荘があると聞いているが。それがどうかしたか?」
律は怪しげにニヤリと微笑んだ。

「出るらしいぜ、幽霊」

5:rumia:2014/06/02(月) 22:45 ID:Gas

 こんにちは。rumiaと申します。
面白そうな始まり方ですね〜。続きが楽しみです。
 ただ、ちょっと読んでいて情報がバラバラな気がしました。
本棚を見つけたシーンのはずなのに父親のことや不登校のこと、
外の風景なんかが突然差し込まれているので、見る人によっては困惑するかも……。

 余計なおせっかいかも知れませんが、描写する順番に気を付けてみて下さい。
では……。
 

6:なごみ:2014/06/04(水) 19:48 ID:bJU

アドバイスありがとうございます!
これからは話の繋げ方に気を付けようと思います。こんな小説を読んでくださるなんて……!
まだまだ初心者なので未熟ですが、更新頑張っていこうと思います!

7:なごみ:2014/06/04(水) 20:04 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律、雑木林の奥の屋敷前】

「ついに来ちまったな!」
「不法侵入で訴えられたら鷹見の責任だからな。よく覚えておけ」
和久は律の誘いを断りきれず、今に至る。一旦それぞれの自宅で準備をしてから、このひときわ大きな屋敷を探検するという計画で、律は食料やサバイバルグッズを持ってきていた。
そのような経験のない和久はなぜかテキストやらワークを持ってきてしまい、さすがの律も呆れるしかなかった。
「お前って頭いいけどどこか抜けてるよな……。つーかここで勉強するのか?」
「う……。仕方ないだろう!俺はサバイバルをしたことなんてないんだぞ?!それに好きで来たわけじゃないんだからな!」
「キレんなって!ほら、そろそろ行くぞ!」
律に急かされ、渋々大きな門の前まで移動する。鍵がかかっていますように、と和久は切実に願った。
「お、開いたぜ。無用心だなー」
(やめてくれ……)
今なら神なんて絶対信じないなと和久は絶望した。
ふと見ると、二回の窓に人影が映っているように見えた。見た感じ少女のようだったが、気のせいだろうか。
「どうした?和っぺ?」
「なぁ鷹見。先に二階を探索してみないか?」
「ちょ、和っぺ何を言って……。おいこら!一人は危ないっつーの!」
律の声を聞きながら、和久は屋敷に向かって走り出していた。

8:なごみ:2014/06/04(水) 20:15 ID:bJU

【天野瑠璃、自宅の書斎】

気がつくと、すっかり夜は更けていた。読み終えた本を閉じて、カーテンを開く。月明かりが瑠璃の顔を照らした。
(月なら……見ることはできるわ……)
太陽はダメだが、月なら大丈夫だった。なぜだか月を見ると落ち着くのだ。
庭を見下ろしてみると、雑草がかなり生い茂っていた。そろそろ綺麗にした方がいいかもしれない。そう思い、身を乗り出してもっとよく庭を見ようとしたが……。

人の声らしきものが聞こえてきた。

「え……?!なんでここに人が……!」
驚いたせいか、窓から落ちそうになる。慌てて体勢を立て直して、窓を閉めてカーテンを閉める。息が上がっていた。久しぶりに人間を見てしまったためか、焦っているらしい。
(しかも、不法侵入……!)
ここに来られたらひとたまりもない。なんとかして追い払わなければ。
(あいつを使わないで、戦わなくちゃ……!)
瑠璃は近くにあったモップを構えて、恐る恐る部屋を出た。

9:なごみ:2014/06/04(水) 21:36 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律、屋敷内】

和久は頭に引っ掛かった蜘蛛の巣を払いながら階段を上った。後ろの律は和久に比べたら背が低いため、蜘蛛の巣に引っ掛からずに進んでいる。
「それにしても和っぺ、いきなりやる気出してどーしたんだよ?らしくないな」
「二階の窓に人影が見えたんだ。ここの主は年中この屋敷を開けっ放しにしているんだろう?」
「いや、今では行方不明って扱いになっているらしいぜ」
律の言葉が響く。階段だからと言っても、気味が悪い。
「どういうことだよ……主が行方不明って……」
「なんかさ……。ここってけっこう裕福な豪農の一族が住んでいたらしいんだ。けど、五年前にここら辺、土砂崩れが起こってよ。それ以来、一族は忽然と姿を消しちまった。警察も捜索したけど、なにも手がかりは見つからなかったらしい。それから、幽霊が出るって噂が絶えなくなったんだよなぁ……」
律は長く話をしたからか喉が乾いたらしく、水筒の水を飲み始めた。和久もスポーツドリンクを口にする。

「ここは、い、い、い、飲食禁止よ……!だから今すぐ出ていきなさい……!」

唐突に、澄んだ綺麗な声が響き渡った。

10:なごみ:2014/06/04(水) 22:54 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律、屋敷内】

そこにいたのは、自分達と同じくらいの小柄な少女だった。お下げに眼鏡、しかもなぜかセーラー服を着ているため、どこか文学少女のような印象を与える。
フレンドリーな律は、すかさず少女に近づいた。
「ごめんごめん。知らなかったんだよ。それより、君もここの探検に来たの?」
「探検……ですって……?!」
少女が驚きに顔を歪ませる。そしてすぐに、怒りと憎しみの入り交じったような表情に変わった。
「ふざけるのもいい加減にしなさいよ!私だって好きでこんなところにいるわけじゃないのに!あいつの……あいつのせいで!」
「お、おい……大丈夫か?」
さすがに和久も心配になってきた。少女の取り乱しっぷりは尋常じゃなかった。まるでなにかを恐れているようにも見えた。
和久に気づいたのか、少女はモップを振りかぶった。さっきから背後に隠していたようだ。律が手を伸ばすが、届かない。和久はいきなりの出来事についていけなかった。
(俺……こんなところで死ぬのか……?あまりにもあっけないな……)
「和っぺ!!」
律の声も、少女の叫び声も、その時の和久にはわからなかった。

11:なごみ:2014/06/05(木) 19:44 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律、屋敷内】

「っ……」
恐る恐る目を開けてみるが、痛みはなかった。横では律が今にも泣かんばかりの顔をしている。
「鷹見、あの子は……?」
かすれた声で聞くと、律は無言で指差した。
そこには、モップを振りかぶったまま動かない少女がいた。瞳は閉じられており、まるで眠っているようだった。暴れたからだろうか、お下げがほどけかかっている。
「あの子、突然固まっちまって……。それも和っぺにモップ当たるすれすれだったんだぜ?しかもそのまま寝ちゃうし……」
「とにかくこの子を寝かせておこう。このままの体勢じゃ起きたときに疲れると思うから」
律が少女を抱えようとしたが、和久の方が背が高く力もあるため後ろに下がった。和久はそっと少女を抱えようとした。
そのとき、少女の瞳が唐突に開いた。そのまま和久の腕をすり抜けて何回か宙返りして後退する。先ほどはそのような身体能力は見なかった。少女はニヤリと笑って口を開いた。

「はじめまして、かな?あたしの超絶運動神経にびっくり、って感じぃ?」

先ほどとは話し方も違う。無駄に饒舌だし、表情も心なしか生き生きしているように見える。
「ど、どうしたの?」
律が聞くと、少女は口を開いて大笑いした。品の欠片もないが、どこか可愛らしく見えたのは和久の気のせいだろうか。
「ハッハア、さては瑠璃、あんたらに何かしたな?さしずめモップで襲いかかった、のかな?」
「自分でやったくせに、今更何をいう」
「ごめんねー!あいつ人見知りでさ!あ、あたしの名前は萌木。よろしくな!」
萌木はコツン、と自分の頭を小突いて見せた。その馬鹿にしたような態度に、和久は苛立ちを覚えた。
「お前は何者だ?少なくともこんな屋敷に一人暮らしする少女を俺は普通だとは思わんがな」
「えー、あたし?しょうがないか、信じてもらえるかは君ら次第だけど……。

あたしは、天野瑠璃のもうひとつの人格だよ」

12:なごみ:2014/06/05(木) 21:47 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律、屋敷内】

「もうひとつの人格……だと?」
「そう。あたしは瑠璃……さっきあんたに襲いかかったチビ……の中にある瑠璃とは異なる人格なんだ。どうしてこうなったかはわからないけど。けど、瑠璃は悪い奴じゃないよ。あいつは……人間不信なだけで、本当は友達を欲しがっているらしいから」
いつの間にか萌木のお下げはほどけていた。そのせいかさっきとは違う雰囲気を出している気がする。
律が再度萌木に問いかけた。
「ひとつ聞きたいんだけど、いいか?」
「なに?スリーサイズ以外なら聞いてやっても構わないよ」
和久はため息をつきそうになるのを必死にこらえた。やっと大人しくなってくれたのにここでまた襲われては本末転倒だ。
律は苦笑いしてから萌木に聞いた。どうやら思っていることは同じだったようだ。
「その……もうひとつの人格は、どうやったら出てくるんだ?」
「ここのお下げが取れたら……まあ取れかかってる状態でも、あたしは出てこれるらしい。強いて言えば、このお下げが封印みたいな役割をしているんだろうね」
「非科学的な話だな」
「そりゃどうも、眼鏡君。瑠璃とは違う形状なんだなぁ。眼鏡も奥深いね」
萌木はまじまじと和久の眼鏡を観察し始めた。萌木に見つめられているからか、どうしても赤面してしまう。それを律が面白そうに眺めているのが癪にさわる。
ふいに、萌木が壁にかかっている古時計を見た。九時半を過ぎている。
「あんたらは帰りな。親に怒られたらあたし、罪悪感をおぼえちゃうから」
今時門限なんてあるのだろうか、と和久は思った。しかしあまりにも遅く帰宅するのはまずい。ここは萌木のお言葉に甘えることにした。
「わかった。今日は帰ることにする」
「萌木ちゃん、だっけ?またここに来てもいいかな?瑠璃ちゃんとももっと話してみたいし」
相変わらず律のコミュニケーション能力は分けてほしいくらい高い。どうしても律の前だと無愛想に見えてしまう。
萌木は一瞬ぽかんとしたものの、こくりとすぐにうなずいた。
「いいよ!いつでも来な!」
「おう!」
この会話を最後に、二人は屋敷を出た。

13:なごみ:2014/06/05(木) 22:40 ID:bJU

【天野瑠璃、自室】

瑠璃が目を覚ましたのは、夜中のことだった。
お下げが雑になっていることから、また人格が変わってしまったことに気づく。瑠璃はお下げを結い直してまた寝ることにした。明日も父の書斎で本を読みあさるつもりだ。
(そういえば……あの男の子達はどうしたのかな……)
突然やって来た二人の少年のことを思い出す。無駄によくしゃべる子と、眼鏡の子がいたような気がする。モップで襲いかかったのは覚えているが、その先の記憶はない。そこで人格が入れ替わってしまったらしい。
机の上に、メモ帳があった。もうひとつの人格、萌木との唯一の会話手段である。
『あの二人、またここに来るらしいぜ。あたしが許可したんだけど。
年も同い年っぽいし、瑠璃仲良くできるんじゃないの?もしかしたら友達になれるかもね。
あと、親父(らしき人)は来なかったよ。二人はバレずに帰れたと思う』
「友達……か」
瑠璃はメモ帳をファイルにしまうと、すぐに眠りについた。

14:なごみ:2014/06/05(木) 23:11 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律、私立吉里中学校】

この日は朝から大雨が降っていた。和久は濡れたビニール傘の水滴を落としてから、下駄箱の前で待っていてくれた律のもとへと向かう。
律は陸上部の朝練があったらしく、びしょ濡れだった。和久は仕方なくタオルを渡す。
「さんきゅ。そういえば、瑠璃ちゃん大丈夫かな?」
「いきなり何を言う」
律を軽く睨むと、当の本人はニヘラとゆるーく笑った。
「だってさ、こんな雨じゃん?雨漏りでもしてたら大変だと思ってさ」
「馬鹿、雨漏りなんてあるわけないだろう。それにあんなに大きな屋敷なんだから少しくらい雨漏りしたって差し支えないはずだ」
ふと視線を感じて横を見てみると、男子生徒が和久と律を見ていた。こちらが気づいたとわかるときびすを返して去っていく。
「なんだあいつ。感じ悪っ」
「気にすることはないだろう。ほら、早く行くぞ」
自分で言っておきながらも、なぜかその男子生徒のことが頭を離れなかった。

15:なごみ:2014/06/06(金) 22:51 ID:bJU

【日泉和久、私立吉里中学校】

放課後、和久は体育館を訪れていた。ここでは今、バレー部と男子卓球部が部活をしている。

「なによ、いきなり。練習サボらせといてくだらない理由だったらただじゃおかないんだからね」

ポニーテールの快活そうな少女が腰に手を当ててふんぞり返っていた。和久はやれやれと言わんばかりにため息をつく。
少女のジャージの胸元には『速水遊莉』と書かれていた。
「あのさ、速水。この男子生徒のこと知らないか?」
朝出会った男子生徒の写メを見せる。これはいつ撮ったのかわからないが律が隠し撮りしておいてくれていたものである。
速水遊莉はそれを見たあと、眉をひそめた。
「あんたらと同じクラスの生徒よ。『逢坂龍之介』って知らない?」
「ああ、名前だけは知ってる。たしか、二年生なのに生徒会書記とかしている優等生だよな?」
「そうよ。たぶん成績もあんたと同じくらいいいわ」
和久はそうか?と聞き返した。遊莉は自分のことのように顔を輝かせて熱弁を奮う。
「そうよ!自慢の幼馴染みなんだから、もっと自信持ってくれたっていいのよ。あんたは昔から押しが弱くてプライドばかりが強いんだから」
「それって誉めているのか?」
「もちろん、誉めてるに決まってるじゃない。そろそろあたしは練習に戻るわ。あんたも吹奏楽、頑張りなさいね」
そう言うと、遊莉は走って練習に戻っていった。
速水遊莉は和久の幼馴染みで、いわゆる腐れ縁というやつだ。成績がよく運動神経も申し分ない和久と、しっかり者で運動神経抜群、統率力のある遊莉はライバルでも友達でもあった。
女子とはあまり話さない和久だが、遊莉とは気軽に話せる。そのせいで律にからかわれているのだが、気にはしていない。
「俺も帰ろうかな」
和久は荷物をもって、体育館をあとにした。

16:なごみ:2014/06/06(金) 23:10 ID:bJU

【天野瑠璃、屋敷】

今日は朝からどしゃ降りの雨だった。瑠璃は朝早く起きて書斎で本を読みふけっていたが、それも飽きてしまってオセロやチェスをしていた。もちろん一人でだ。
(あの人たち……来るのかな?)
密かに楽しみにしてもいたし、不安でもあった。怒らせてしまっていたらどうしよう、という気持ちでいっぱいだった。
古時計を見てみると、六時になっていた。ちょうど雨も上がって夕日がさしている。虹がかかっていて不覚にも美しい、と思ってしまった。

チリンチリン……。

玄関のドアのベルが音をたてた。誰かが来ている……来客が来たということだ。
瑠璃はお下げを揺らして階段を降りた。嬉しさと不安が入り交じっていたが、なぜか足が弾んだ。
「はい、天野です……」
そこには、背の高い眼鏡の少年が立っていた。昨日はその横にもう一人いたはずだが……なにか用事があって来られなかったのだろうか。
「その……昨日うかがった者なのだが……」
「萌木から話は聞いています。あの、えっと……」
しどろもどろになりながら、それでもはっきりと声を出す。これだけは言わなければいけない。そう決めていたことだった。
いつもは出さない大きめの声で、それを言う。

「昨日は、すみませんでした……!」

17:なごみ:2014/06/07(土) 07:46 ID:bJU

【日泉和久、屋敷】

「はい?」
入った瞬間、いきなり謝られた。和久はなにをしていいのかわからず、ただその場に立ち尽くしていた。
少女……瑠璃はうつむき加減になりながら、消え入りそうな小さな声で続ける。
「け、怪我をさせてしまったのなら、慰謝料も払いますしできる限りのことはします……。でもどうか、他の人には話してほしくはないんです。特に……私の父親にだけは、バレてはいけないんです!」
「ちょっと待て。ここの家、他に人がいるのか?」
瑠璃はぶるりと体をこわばらせる。父親に相当な恐怖心を抱いていることはひとめでわかる。
もしかしたら、虐待や暴力の類いでも受けているのだろうか……と和久は嫌な想像をしてしまった。だからこんな屋敷に一人でいるのかもしれない。
「はい、父がおります。でも、顔は見たことがなくって……」
「え?!顔を見たことがないって、生まれてこのかたか?!生きているか死んでいるのかもわからないのか?!」
「生きているのはわかるけど……。でも顔は見たことがないんです!昔から、夜遅くに帰ってくるものなので!」
瑠璃が声を荒らげる。
和久はスポーツバッグからなにかを取り出した。唐突な出来事だったので瑠璃はきょとんとしてそれを見ていた。
「お前、ほとんど食事をしていないだろう。よかったらこれ、食え」
和久が差し出したのはたくさんのお惣菜が入ったコンビニの袋だった。瑠璃は目を見開いてそれを見ている。
「いいんですか?こんな見ず知らずの奴に……」
「謙遜するな。明日、鷹見をつれてまた来るから、健康管理はしっかりしておけよ」
そう言い残して、和久はドアを開けた。
後ろを振り返ると、ぺこりと頭を下げる瑠璃の姿が小さく見えた。

18:匿名さん RJK:2014/06/07(土) 17:39 ID:H1.

この小説すごいおもしろいですね!!入れてくれませんか?

19:Ruka RJK:2014/06/07(土) 17:40 ID:H1.

上のですが、わたしでRukaっていいます

20:なごみ:2014/06/07(土) 17:48 ID:bJU

お褒めくださりありがとうございます!面白いですか?!(どうしよう目から水が……)
私はいつでも暇なので(オイ)気軽に来て下さいね(^_^)/
>>Rukaさま

21:なごみ:2014/06/07(土) 18:07 ID:bJU

【天野瑠璃、屋敷】

先ほどの少年からもらったお惣菜を食べていると、またベルが鳴る音がした。こんなに一日に何回も来客が来るものなのだろうか……と疑問に思いつつ、チェーンをかけたままそっとドアを開けた。
「あの、どちら様で……」
その瞬間だった。
「?!」
ガシャガシャガシャ、とチェーンを思いきり引っ張られた。瑠璃はビクッと体を震わせて後ずさった。チェーンを引っ張る手は止まらず、むしろチェーンが外れてしまうのではないかと思わせるほどだった。
瑠璃は恐ろしくなって、二階へと逃げた。音は響いているため追いかけてくるように思える。チェス盤をひっくり返してもなお、瑠璃は隠れる場所はないか探した。
(やだよ……!怖い……!)
走り続けていると、玄関のドアが開く音がした。瑠璃の恐怖は最高潮に達した。
脱出するには窓を使うしかないが、ここは二階である。一階には侵入者がいるし、隠れても運が悪ければすぐに見つかってしまうだろう。萌木を呼ぶという手もあったが、彼女(?)のことだから、侵入者に挑むに決まっている。そうなれば勝率は低くなる。
(こうなったら隠れるほかない……)
瑠璃は近くのクローゼットの中に入った。足音はどんどん近づいてくる。
(お願い……通りすぎて!)
瑠璃は目をつむり、耳をふさいで待った。しかしなにも起こらない。瑠璃は安心して目を開けた。

「……やっと会えたね、瑠璃」

「!!あ、あなたは……」
直後、瑠璃は後頭部に鈍い痛みを感じた。そこから、瑠璃の意識はない。

22:なごみ:2014/06/07(土) 18:31 ID:bJU

【速水遊莉・飯嶋芽依、吉里市住宅街】

「もう、疲れたぁ!大会前だからって、コーチ厳しすぎじゃない?!」
遊莉は愚痴を隠すことなく大声で叫びながら、住宅街を歩いていた。いつもなら幼馴染みの日泉和久と鷹見律と途中まで一緒なのだが、和久はなぜか部活がなかったし、律は友達とファーストフード店に寄ってから帰るらしく、珍しく今日は一人だった。
夕焼けが綺麗だな、と遊莉は頭上を見上げた。山の向こうが燃えているみたいで美しい。疲れも少しだけなくなった感じだ。
「は、速水さん!」
突如遮られて、ムッとして振り返る。そこには、クラスメートの飯嶋芽依が息を切らして立っていた。芽依は運動神経が悪いため、すぐにダウンする。そのくせ美少女でモテるから、遊莉にとっては目の敵なのだ。
「なによ?」
「すみません、驚かせてしまって……。急がないといけないんです!」
芽依の様子がなにかおかしかった。遊莉はそれにただならぬものを感じて、話を聞いてやることにした。
「急がないといけないって、どうしたのよ?なにか事件でもあったの?」
「雑木林の奥に、別荘がたくさんある敷地があるじゃないですか。

あそこのなかでも特別大きいお屋敷が、火事になっているんです!」

23:なごみ:2014/06/07(土) 21:14 ID:bJU

【速水遊莉・飯嶋芽依、住宅街→雑木林】

「はああ?!火事?!」
突然のことに驚きながらも、遊莉の足は自然と雑木林に向かって走り出していた。それを芽依がよたよたと追いかける。
たしかに、雑木林の近くに行くほど煙たく、遊莉はハンカチを口元に当てた。芽依が咳き込んでいたため、今日調理実習で使ったバンダナを貸す。
「ありがとうございます……!」
「いいのよ。困ったときはお互い様でしょう?それより、かなり野次馬がいるわね……」
屋敷の近くには野次馬がたかっていた。消防車が来ていないため、バケツに水を汲んで屋敷に振りかけている。しかし庭の炎こそ消えたものの、屋敷はゴウゴウと音をたてて燃えている。
遊莉は携帯電話を取り出した。和久の友人の律に連絡をとるのである。和久は残念ながら携帯電話を持っていないので律に知らせてもらおうという作戦だ。
「もしもし、鷹見君?いま来てくれない?」
『どうしたの速水ちゃん?なんかえらく慌てているみたいだけど』
律は思ったよりも早く電話に出てくれた。これ幸運と言わんばかりに遊莉は捲し立てる。
「雑木林の奥に、別荘がたくさんある敷地があるじゃない?そこのひときわ大きいお屋敷が火事になっているのよ。消防車も来ていないし、野次馬だらけだし、とりあえず鷹見君に伝えておこうと思って……」
一瞬の沈黙のあと、律にしては珍しい焦ったような声が聞こえてきた。
『速水ちゃん、すぐ行くから俺達が来るまでそこにいて!和っぺも連れてくるから!』
「ちょっと、鷹見君?!」
ブチリ、と電話の切れる音がした。芽依がおずおずと尋ねてくる。
「あの、さっきの電話の相手って……?」
「同級生の鷹見君よ。和久……日泉君も来てくれるらしいから、もうしばらくここで待ちましょう!」
「はい」
煙を吸い込まないように、遊莉と芽依は口元を強く押さえた。

24:なごみ:2014/06/07(土) 21:40 ID:bJU

突然ですが、今まで出てきた登場人物のプロフィール的なものを書きます!

日泉和久(Hizumi kazuhisa)
この物語の主人公。中学二年生。成績優秀で運動神経も申し分ない優等生。極度の近眼で眼鏡をかけている。プライドが高いとよく言われる。趣味は筋トレ。吹奏楽部。
身長180センチ、5月6日生まれ。血液型はB型。

天野瑠璃(Amano ruri)
この物語のもうひとりの主人公。13歳。二重人格で、『萌木』という人格を秘めている。なにかと謎が多い。おとなしく控えめ。趣味はチェス(オセロや将棋もするらしい)。
身長152センチ、2月13日生まれ。血液型はO型。

鷹見律(Takami ritsu)
和久の友人でクラスメート。中学二年生。成績も運動神経も普通で平均的。誰にでも明るくテンションが常に高いお調子者で、雑学に詳しかったりする。趣味はゲーム。陸上部。
身長174センチ、10月29日生まれ。血液型はO型。

速水遊莉(Hayami yuri)
世話焼きな和久の幼馴染み。中学二年生。成績は中の上、運動神経抜群な体育会系女子。情報通で頼りになり、和久のことを信頼している。趣味はスポーツ観戦。バレー部。
身長159センチ、8月1日生まれ。血液型はA型。

飯嶋芽依(Izima mei)
和久のクラスメートで美少女。成績はいいが運動神経はなく、どんくさくてどじっ子。ほんわかおっとりの妖精タイプで男子から人気がある。趣味は料理。美術部。
身長162センチ、3月26日生まれ。血液型はAB型。

25:なごみ:2014/06/07(土) 23:28 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律・速水遊莉・飯嶋芽依、屋敷前】

「速水ちゃん!飯嶋ちゃんも一緒なの?!」
電話してすぐに和久と律がやって来た。二人とも肩で息をしているところから見て、全速力で走ってきたのだろう。
「うん。それより、いきなりどうしたのよ?まさか野次馬で来たわけじゃないでしょうね?」
「いや、それはない。俺達の知り合いがここにいるかもしれないんだ」
和久が冷静に答える。その答えに疑問を持ったらしく、芽依がグイッと身を乗り出して和久に近寄る。それを見て遊莉はギリギリと小さく歯ぎしりした。馴れ馴れしくされるといてもたってもいられないのだ。
「知り合い、とは?」
「ここに住んでいる者だ。……おい、もしかしたらまだ屋敷の中にいるんじゃ……」
和久は言うなり屋敷に入ろうとした。野次馬の中をすり抜けて、遊莉と律、芽依も後を追った。
「やめなさい!こんなところに入るんじゃないわよ!今すぐ消防車が来るはずだから、馬鹿な真似はしないで!」
「待っていたら知り合いがその間に死んでしまうかもしれないんだぞ!そんなの見捨てていられるか!それなら知り合いを逃がして俺が死んだほうがましだ!」

パチン!

遊莉が和久に平手打ちした。
「馬鹿じゃないの!あんたが死んだってなににもならないのよ!それにね、散々迷惑かけといて勝手にいなくなるなんて許さないんだから!その人にも責任を負わせることになるのよ!いつもあんたは自分のまわりしか見えていないんだ!人がどれほど……どれほどあんたのことを心配しているかも知らないで!」
遊莉はそう言うと、屋敷の裏側へと走っていってしまった。律が追いかけようとしたが、芽依がその腕を掴んで制止させた。
和久は、ぶたれた頬をおさえた。なぜだか、それはじんじんと長い間痛み続けていた。

26:なごみ:2014/06/07(土) 23:38 ID:bJU

【速水遊莉、屋敷の裏庭】

ぐすぐす、と鼻をすすりながら遊莉は屋敷の裏側でしゃがみこんでいた。昔、ここで秘密基地をつくってよく遊んでいた。和久はあの頃、いつも笑顔で優しくて遊莉とは互いに高め合える存在だった。
しかし、最近はあまり話さなくなった。いつも律とばかりいて、無愛想になってしまった。
「もうなんなのよ……。そんなに知り合いが大切なの……?」

どさっ。

なにかが落ちてくる、嫌な音がした。
「え?」
生け垣の中に、人間が倒れていた。そっと覗き込んでみると、自分と同じくらいの少女だった。長い黒髪はお下げにしていたのだろうか、ほどけかかっている。眼鏡をかけており、レンズが割れかけていた。手足が細く、小柄できゃしゃな体型をしている。
小さなかすり傷や火傷があるものの、それ以上に頭からの流血が目を引いた。遊莉はぐっと拳を握りしめて、できる限りの大きな声で叫んだ。

「誰か、早く、裏庭に来て!!」

27:なごみ:2014/06/08(日) 11:09 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律・速水遊莉・飯嶋芽依、屋敷の裏庭】

「どうした、速水ちゃん?!」
遊莉の叫び声を聞きつけて、律達が駆けつけてくれた。遊莉はそのなかに和久がいるのを確認してほっとした。怒って帰ってしまったものかと思っていたからである。
「こ、ここに女の子が……!」
遊莉が指差す先には、小柄できゃしゃなお下げの少女が倒れていた。多分二階の窓から飛び降りてきたのだろう。運よく生け垣のど真ん中に落ちたようだ。
和久と律はすぐさま駆け寄った。体じゅう傷だらけではあるが、息はしている。
「飯嶋、救急車を呼んでくれ!鷹見は冷やせるものを持ってこい!」
「は、はいっ!」
「任せとけ!」
二人は司令を受けるや否や、それぞれの目的のために走り出した。
その場には、和久と遊莉が残された。遊莉はちらりと和久を見やった。いまの和久は目の前の少女のことでいっぱいいっぱいのようだ。怒ってないかな……と思いながら遊莉は口を開いた。
「あのさ、和久。さっきは……ごめん。ついカッとしちゃってさ……。和久が死ぬなんて言うから……頭に血が上ったのかもしれない……」
「別にいい。それにしても、今日は二回も謝罪されたな……。ホント、俺って不幸体質なのかな?」
すぐに返答されたので遊莉は安心した。和久が本当に怒っているときはだいぶ間が空く癖がある。幼馴染みなのでよく喧嘩してきた。
「あのさ……こんなこと聞くのもなんだけど。その子って、知り合い?」
「ああ。今日一回目に謝ってきたのもこいつだ。本当に世話の焼ける奴だよ」
遊莉は少しだけこの少女のことが憎らしくなった。それと同時に、この少女のことをもっとよく知りたいと思った。
「救急車、呼んできました!すぐに来ると思います!」
「コンビニで氷買ってきたぜ!でかいの買ったからしばらくの間は使えるぜ!」
律と芽依が合流してきた。遊莉はこんな状況なのに、ついクスリと笑ってしまった。
「いきなりどうした、速水?」
和久がいぶかしげに聞いてくる。

「だって、大勢で協力してなにかをするのって、昔に戻ったみたいで気持ちいいものだからよ!」

28:なごみ:2014/06/08(日) 11:35 ID:bJU

【速水遊莉・天野瑠璃、県立病院】

放課後、遊莉は県立病院の病室を訪れていた。プレートには『天野瑠璃』と記されていた。
遊莉は和久と律にお見舞いを頼まれていた。二人とも部活で忙しいらしい。お見舞いの品をたくさん持たされて肩が壊れそうだ。
病室のなかに入ると、この前裏庭で倒れていた少女が窓の外を眺めていた。頭に包帯が巻かれてはいるが、いたって元気そうだ。遊莉は恐る恐る声をかけた。
「えっと……天野瑠璃さん、だよね?」
「はい……」
瑠璃はうつむきながらも答えた。人見知りをするタイプのようだ。
「か、和久と鷹見にお見舞いを頼まれたから……。その、まあ二人の代理だよ!」
「二人……というと、眼鏡の人の知り合いの人ですか?」
瑠璃の『眼鏡の人』という表現に吹き出しそうになり、無理矢理苦笑いをして答える。
「そうだよ。てか、あいつの名前知らなかったんだ……」
「すみません……。色々とトラブルがあったものですから、名前を覚える暇などなくて……。和久さんと鷹見さんというのですね」
「うん。眼鏡が和久ね。ついでに、あたしは速水遊莉。あいつの幼馴染みだよ。よろしくね」
自己紹介をすると、瑠璃はぎこちなく微笑んだ。なかなか可愛い顔立ちなのに、今までの無表情と大きな眼鏡のせいでわかりにくい。
「そうだ、あんた、家はどうするの?あそこ全焼しちゃったでしょ?」
「あ……」
考えていなかったらしい。急に瑠璃の顔色が悪くなった。
遊莉は少し考えたあと、ニコッと微笑んで言った。これなら理由もつけられるし瑠璃が困ることもない。
「じゃあうちに居候しなよ!親には理由をつけてなんとかしてもらうからさ!」
「え?!そんな、迷惑をかけるのでは……!ただでさえ助けていただいたのに、そんなことまでしていただくなんて……!」
「迷惑じゃないよ。大丈夫、慣れないかもしれないけど、和久や鷹見も助けてくれる。つか、なにもしなかったら二人をぶっ飛ばすから安心して」
最後の方には私怨が混じってしまった。しかし、瑠璃はぺこりと頭を下げた。

「遊莉さん、これからよろしくお願いします」

29:なごみ:2014/06/08(日) 12:34 ID:bJU

【天野瑠璃、県立病院】

遊莉が帰ったあと、瑠璃はベッドで遊莉の持ってきたお菓子やら果物やらを食べていた。二人の名前を覚えることができてなんとなく達成感を感じた。
(殴られる直前に、お下げを少し緩めておいてよかった……。でも、結局犯人はわからずじまいだわ……)
あのとき、瑠璃はとっさにお下げを少し緩めた。気絶はしてしまったが、少しの時間がたって萌木が出てこれるようにしておいたのである。
このあとは萌木から聞いたことだが、犯人は屋敷に火を放ち、扉の鍵をしめて逃走したらしい。萌木はいったん一階に行ったが出られず、二階の窓から飛び降りたのだという。それを和久や律達が見つけてくれて、病院に運んでくれたらしい。
(それにしても……遊莉さん、和久さんのお友だちなんだ……。仲良くできるといいな……)
遊莉は自分を居候させてくれると言ってくれた。それはとても嬉しいことだが、自分を殺そうとした犯人が遊莉を狙う危険性もないとは言えない。
「早く、失われた記憶を取り戻さないと」
そよ風が瑠璃のお下げを揺らした。

30:なごみ:2014/06/08(日) 14:50 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律・速水遊莉・天野瑠璃、遊莉の自宅】

「ふぅ。やっと終わったわね!」
瑠璃の引っ越しは、半日かかった。瑠璃は予定通り遊莉の家で居候することになり、荷物の整理のついでに歓迎会をしようという遊莉の提案で二人が呼ばれた。
瑠璃の部屋は遊莉の部屋の隣にあった物置を改造したもので、なかなかの広さだった。物置のがらくたは近々粗大ごみとして処分するつもりだ。
「みんな、本当にありがとう。手伝ってくれて……」
瑠璃は初対面のときに比べて明るくなった気がする。律も「いいって!」と軽く返事をしていた。
「瑠璃はあさってから吉里中に転校生として登校させるって、お母さんが言ってたわ。同じクラスになるといいわね!」
「っても、吉里中の二年生は2クラスしかないけどな」
律が苦笑いする。
吉里中学校は県内でも小さい方の中学に入る。特に和久達二年生は人数が少なくほとんどが顔見知りだったりする。そのため律のような友達100人できるかなタイプにはつまらない三年間となる。
「そういえば、飯嶋は呼ばなかったのか?」
「なんであいつを招待しなくちゃならないのよ。言っておくけど、あたしあいつと友達になった覚えはないから」
プイとそっぽを向く遊莉。芽依は小学四年生のときに吉里市に引っ越してきた。親が事故で亡くなり、親戚のところに引き取られたという。
そのいかにも『悲劇のヒロイン』ぶった感じが気にくわなかったのだろう、遊莉は芽依と仲がよろしくなかった。いじめていたわけじゃないが、本当に大切なとき以外は芽依と話さなかった。
「遊莉さんってキツいこと言うのね。前から思っていたんだけど」
挙げ句の果てに瑠璃にまで言われてしまった。昔から遊莉は毒舌で、女王様気質なのである。それが速水遊莉という人間なのだが。
「でも悪い奴じゃないから安心しろ。あまりにもひどいこと言われたら殴ってもいいからな」
「瑠璃になにを吹き込んでいるのかしら、和久君?」
遊莉と和久の言い合いが始まり、瑠璃はあたふたしながらそれを止めようと奮闘している。それを見て律は大笑いする。
この平和な日常が、いつまでも続けばいいのに、と瑠璃は思った。

31:なごみ:2014/06/09(月) 22:12 ID:bJU

【日泉和久・鷹見律・速水遊莉・飯嶋芽依、私立吉里中学校】

いつもはだるい朝も、今日の和久は楽しみで仕方がなかった。
なにって、私立吉里中学校に瑠璃が転校してくる日なのである。瑠璃は少し遅く来るらしいので、和久は律、遊莉、芽依と登校してきた。
教室でも、転校生の話で持ちきりだった。それもそのはず、吉里中に転校生なんて滅多に来ないからだ。
「瑠璃、きっと緊張してガチガチになってるわね。今朝も顔が青ざめてたし」
「それってヤバいんじゃない?!」
律がすかさず突っ込みを入れる。芽依はクスリと笑って和久に話しかけてきた。
「こういうの、いいですね。私、グループにはあまり入れてもらえなかったので、なんだか新鮮です」
「そうか?騒々しいだけだと俺は思うが……」
「ほら、席つけー。今日は転校生がいるから、早めに朝の会始めんぞー」
担任(39歳、独身、頭の中央部がヤバイことになっている)が教卓に上がる。和久は、担任の次の言葉を待った。

「紹介する。今日から二年二組に転校してきた……星海阿里沙さんだ!」

「「「「えええええええっ?!」」」」
四人の叫びが、校舎じゅうに響き渡った。

32:なごみ:2014/06/10(火) 23:15 ID:bJU

【天野瑠璃、私立吉里中学校】

その頃、瑠璃は教室で自己紹介をしていた。朝は緊張してガチガチになっていたが、本番に強いのか今は緊張なんてしていなかった。
ぐるりと教室を見回してみるが、和久達の姿が見つからない。別のクラスになったのだろう、と瑠璃は悟った。
「それじゃ、天野さんは逢坂君の隣に座ってくださいね」
担任(25歳、彼氏あり、とにかく美人)が窓際の席を指差す。そこには、落ち着いたたたずまいの少年が本を読んでいるのが見えた。
(気難しそうな人……)
内心そう思いつつ、瑠璃は席についた。
すると、少年が本から顔をあげてこちらを見てきた。あまりにも凝視されたため瑠璃は戸惑ってしまう。
「僕は逢坂龍之介。好きに呼んでくれてかまわない」
「は、はあ……。よろしくお願いします……」
「転校して間もないから、警戒するのはわからなくもないけど……。もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃないか?」
龍之介は意外にも紳士的で温厚な性格のようだ。瑠璃も少し安心して肩の力を緩めた。
ふと龍之介の読んでいた本を見ると、父の書斎にあったものだった。改訂版だから、初版とは違うようだ。瑠璃はそれを覗き込んだ。
「どうした?」
「いや、その本、私も読んだことがあるんです。だから、少し気になりまして」
「君の持っているものは初版のようだね。こっちは解説もついているから、おもしろいよ。よければ貸すが?」
瑠璃はありがたく借りることにした。

33:なごみ:2014/06/11(水) 19:46 ID:bJU

【天野瑠璃、図書室】

放課後、瑠璃は図書室で本を選んでいた。龍之介から借りた本は暗い物語なので、たまには明るい物語も読みたいと思ったのだ。
本を取ろうとしたとき、誰かがその本をすっと取ってしまった。これには瑠璃もかちんときた。
「あの!」
グッと相手の制服の袖をつかむ。その人は美しい黒髪をストレートにした美少女だった。教室で見なかったから、隣のクラスの生徒だろうか。後で和久に聞いてみようと瑠璃は思った。
少女もムスッとした顔をして言い返してきた。
「なにか用かしら?」
「その本、いきなり取るのはどうかと思ったんです。私だって読みたかったんですよ」
「はあ〜?そんなのただのわがままじゃない。だからなんなのよ?それくらいのくだらない理由で私に声をかけないでちょうだい」
辛辣な口調で返されたため、これには瑠璃の堪忍袋の緒が切れた。
少女の胸ぐらをつかんで、図書室全体に響き渡るほど大きな声で捲し立てる。幸い、図書室には少女と瑠璃しかいなかったので、聞かれる心配はなさそうだが。
「あんたこそなんなんですか!自分をなんだと思っていらっしゃるのですか?!自意識過剰にもほどがあります!その態度、改めてください!」
「うるさいわね!この裏切り者!」
どん、と突き飛ばされて、瑠璃は尻餅をついた。その間に少女は行ってしまった。


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