麦わら帽子

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1:アイ子:2014/07/30(水) 21:02 ID:ZCM

「は〜っ、退屈〜!」

中二の茉奈は、夏休みに入って暇を持て余していた。

高校生の姉、莉奈はバイトや部活で家に居ないし、小4の弟の翔太もサッカーや習い事、友達と遊んだりでほとんど居ない。

父は仕事だし、母も最近パートとしてどこかの大学の事務として働き始めたみたいで、朝の8時から夕方5時半までは帰ってこない。

そんな中で茉奈は毎日暇だった。家の方針でケータイを持っていないから友達とも連絡が取れないし、塾にも行っていない。

部活には所属してるけど、ゆるい部で活動も週に1~2回ぐらいしかない。特に、最近は暑いからサボりがちになっている。

大体、なんで夏休みなんてものがあるのかと茉奈は思う。宿題がたくさん出るし、友達にも会えないし、暑くて
退屈なのに無駄に長い休みだ。茉奈の場合は、母がパートに行っている間家事をしなくてはならないのも憂鬱だ。

2:アイ子:2014/07/30(水) 21:03 ID:ZCM


家の電話が鳴った。

「もしもし? おばあちゃん!」

近くに住む父方の祖母からだった。茉奈はおばあちゃんが大好きだった。

70代なのにすっごく元気で水泳をしたり、絵を描いたり、自転車に乗ったり毎日楽しそうに過ごしていた。自慢の祖母だ。

「何? スケッチ? 晴くんも行くの? うん! 行く〜!」

隣の市の牧場にスケッチに行くので茉奈もどうかと誘われた。小学一年生のいとこ、晴くんも一緒だそうなので、茉奈は二つ返事で了承した。

茉奈は暑いのが苦手なので、近頃家にこもりがちだった。本当は外に出た方が良いとわかっていても、暑いのでどうしても億劫だった。

でも、おばあちゃんに誘われてしかも晴くんもいると言うのなら、行かないほかなかった。

3:アイ子:2014/07/30(水) 21:03 ID:ZCM


しばらく車に揺られて、牧場に着いた。

「さあ茉奈、着いたわよ。」

「うわ〜! 綺麗〜!」

そこはとても綺麗な場所だった。緑が広がっていて小鳥のさえずりが聞こえてくる、『平和』を絵に描いたような場所だった。

「じゃあおばあちゃんはここでしばらくスケッチしてるから、茉奈と晴はその辺で遊んでなさい。」

「うん!」

晴くんは虫取り網を持って駆け出した。モンシロチョウを捕まえたいらしいが、網が大きくて滅茶苦茶な方向に振っている。

茉奈はしばらくその近くをうろうろしていた。鳥やヤギがいる小屋もあった。ヤギの鳴き声は面白くて、しばらく眺めていた。

それにも飽きると、晴くんと一緒におばあちゃんのところへ戻った。おばあちゃんが絵を描くのを隣で見ていると、
茉奈は自分でも描きたくなってきた。

「おばあちゃん、私も描きたい。」

「オレも!」

晴くんは、自分の事を『オレ』と言うけど、発音がちょっと違う。

「あら、見てたら描きたくなったのね。」

「えへへ。」

茉奈は照れ笑いする。おばあちゃんは、茉奈と晴くんにスケッチブックと鉛筆を渡してくれた。

「これで下書きをするの。できたら色を塗るのよ。」

茉奈と晴くんとおばあちゃんは、並んで同じ建物のスケッチをした。途中いろんな人に声をかけられた。

おばあちゃんと同世代くらいの人たちで、今日はみんなでスケッチをしにきたそうだ。

4:アイ子:2014/07/30(水) 21:04 ID:ZCM

「で〜きた!」

「あら、上手ね。じゃあ色をつけなさい。絵具はここにあるから。」

そう言っておばあちゃんは絵具を差し出した。

屋根の色や空の色など、できるだけ本物に近くなるように塗っていった。

黙々とやっていたら、少し飽きてしまった。

「おばあちゃん、ちょっと休憩してくる。そこら辺にいるね。
そうだ! カメラ貸してくれない? ヤギの写真を撮りたいの。」

「あら、いいわよ。ヤギなんているのね。気を付けてらっしゃい。」

「うん!」

茉奈はさっきのヤギ小屋のところに向かった。相変わらずおかしな鳴き声だ。

『メェ〜』と『モォ〜』の中間みたいなのもいれば、人の叫び声みたいなのもいる。

面白いのでしばらく写真を撮っていた。

すると、人がいるのに気が付いた。ヤギ小屋近くの木の下で、スケッチをしているようだった。

茉奈とあまり変わらないくらいの男の子だった。ここでスケッチをしているのはお年寄りが多いのに、
同性代の子がいるのに驚いて茉奈は近づいて行った。

5:アイ子:2014/07/31(木) 11:25 ID:ZCM


気付かれないように後ろからこっそり近づいて行った。後ろからその子が描く絵を覗いてみた。

「すごい……。」

茉奈は驚いた。物凄く上手だったから、思わず声に出してしまった。

鉛筆一本で、細かな線や影や濃淡を完璧に表現していた。茉奈は自分が描いた絵も結構上手なんじゃないかと思っていたけど
そんなのこの絵に比べたら全然だなと思った。

そんなことを考えていると、声に気が付いたのかその子が振り向いた。またしても驚いて、息をのんだ。

その少年は、ひどく整った美しい顔立ちをしていた。

白い顔、日本人離れしたグレーの瞳、美しい鼻、唇……。触れたら壊れてしまいそうな儚さを持っているのに、
顔の輪郭は年相応にくっきりしていて何だかちぐはぐな感じがした。

外国の人かな、と茉奈は思った。この瞳の色と肌の白さ。鼻も高いしどうも日本人離れしている。

ぼーっとしてその少年を見つめていた。

「あの……、何?」

その少年の口から出てきたのは流暢な日本語だった。茉奈は我に返った。

「えっ!? ああ、うん! 絵が上手だなーと! 思って! すごい! ね! あはは〜。」

必死でごまかした。初対面相手に何言ってるんだ私はと呆れた。

「そう、ありがとう。」

少年はまた体の向きを戻して絵を描き始めた。

このまま話しかけないのはもったいないと思った。こんなに絵が上手で顔も綺麗という人はなかなかいない。

「……上手だね。いつもここにスケッチしてきてるの?」

少年は驚いたようにこっちを向いた。

「あ、まあいつもってわけじゃないよ。絵を描くのが好きだから……。」

すごく優しい目をしている人だった。もっと知りたいと思った。何歳なのか、名前、どこから来たのか。

6:アイ子:2014/07/31(木) 11:59 ID:ZCM

「ここでスケッチしてる人ってお年寄りのグループが多いけど、一人で来たの?」

「君は?」

「私はおばあちゃんといとこと来たの。さっきまで描いてたんだけど休憩してぶらぶらしてた。」

「そうなんだ。僕は一人だよ。今日はたまたまお年寄りが多いだけだと思う。」

そう言ってまた絵を描き始める。話しかけられたら迷惑なのかもしれない。

「あのさ、君が迷惑じゃなかったらお話したいんだけどいい……かな? ここに若い人がいるの珍しくて。」

すごく緊張した。でも、知りたい。少年はびっくりしたような顔をした後、微笑んで『いいよ』と言ってくれた。

茉奈は少年の隣に座った。

「ありがとう! じゃあさ、自己紹介してもいい?」

「うん。」

やっぱりすごく優しい目。

「じゃあまず私の名前! 私は柊茉奈って言うの。中二だよ。隣の市から来た14歳!
 お姉ちゃんと弟がいるの! お姉ちゃんは怖いし、弟はすっごく生意気なんだけどね。一緒に来た晴くんはすっごく良い子なの。」

「そうなんだ。よろしく、マナ。」

ドキッとした。男の子に下の名前で呼ばれるなんて小学校以来だ。

「あ、『茉奈』っていうのは茉莉花との茉と奈良県の奈だよ。」

「素敵な名前だね。」

そう言って微笑んだ。この少年が話したり微笑んだりする度に、あたりに一瞬爽やかな風が吹くような感じがする。

すごくドキドキする。

「もしよかったら、君の名前とか教えてくれない?」

「もちろん。茉奈が自己紹介してくれたんだから僕もしなきゃね。」

「ありがとう!」

茉奈は身を乗り出すようにして聞いた。

「僕は、レイって言うんだ。年は16。ちょっと事情があって学校には行ってないんだけどね。
兄弟はいないよ。一人っ子。こうして色んなところで絵を描いてる。絵が好きなんだ。」

「素敵ね。年上だから、レイ君って呼ばなくちゃ。漢字はどういう字なの?」

「僕の名前はカタカナなんだ。ちょっと珍しいかもしれないけど。
見た目と名前のせいでよく外国人に間違えられるけど、祖父がイタリア人のクォーターなんだ。僕自身は祖父に会ったことが無いけどね。
日本で育ってるから。」


「そうなの。素敵な名前……。実は私も最初外国人かと思っちゃった。」

茉奈はぺろりと舌を出す。そうか、クォーターだったのか。

でも茉奈は不思議だった。普段なら初対面の人と、ましてや男の子とこんな風には絶対喋れない。

なのに、すごくリラックスしてる自分がいた。

7:アイ子:2014/07/31(木) 12:37 ID:ZCM


茉奈とレイはしばらく話し込んだ。家族の事、学校の事……。

と言っても、茉奈が一方的に話していてレイは静かにそれを聞いていただけだが。

結構長い間話していたようで、おばあちゃんと晴くんが探しに来た。

「あ〜! お姉ちゃんいた! ばあば、こっちこっち〜!」

「まあ、茉奈。探したわよ。こんなところに居たのね。
もういい時間だし帰りましょう。続きは家でやればいいわ。」

「おばあちゃん! 晴くん! ごめん! 今このレイ君と話してて……。あれ!? ウソ!」

茉奈が振り向くと、レイは居なくなっていた。

「ここにいたの! 私さっきまで話してて……。男の子なんだけど。」

「そんな人いたかしら? 晴、見かけた?」

「オレは見てないよ。お化けじゃないの? こわ〜い!」

嘘だ……。さっきまであんなに話してたのに。どこに行っちゃったんだろう。

「ホントだってば! さっきまで話してたの! ホントに……。」

声が弱くなっていく。おばあちゃんにも晴くんにも疑われて悲しくなってきた。

「茉奈がそこまで言うなら嘘じゃないわねぇ。きっとその子人見知りだったのよ。
おばあちゃんと晴が来るのに気が付いて帰っちゃったんだわ。残念だったわね。茉奈のボーイフレンド、見たかったわ。」

そういっておばあちゃんはウィンクした。

「……!!」

「さ、帰りましょう。」

にっこり笑って言う。ボーイフレンド……。

「ばあば、ボーイフレンドってなぁに〜?」

おばあちゃんはウフフと笑っていた。

8:アイ子:2014/07/31(木) 18:15 ID:ZCM


レイに出会ってから一週間が過ぎていた。相変わらず暇な日々だ。

あれから茉奈は何度かあの場所を訪れた。でもレイには会えなかった。

どうしても不思議でならなかった。おばあちゃんが言った通り人見知りだったからだとしても、
晴くんもおばあちゃんもレイを見てないのはおかしいし、本当に音もなく消えていた。

「もう一回会いたかったな……。」

ベッドの上でぼそりと呟く。

「よし! 探しに行こう!」

宿題は最初の一週間で済ませてある。どうせ暇だし、街をぶらぶらするついでに探しに行くことにした。

あんなに整った顔立ちなんだから、街にいれば目立つと思った。

買い物も兼ねて街を歩いたけど、結局レイらしき人には会えなかった。

「暑〜い……。神社で休憩しよ。」

飲み物を自販機で買って、近くの神社の境内に入る。

この神社は境内に大きな木があって、その下はとても涼しい。神主さんもめったにいないので涼んでも平気だった。

買った飲み物を飲みながらしばらく休憩した。すると、境内の奥に人影が見えた。

何やら背中を丸めて手を動かしている。近くには絵具が置いてある。服は以前レイが着ていたのと同じものだった。

まさか……と思って近づいて、人違いも覚悟で声をかけた。

「あの……」

「……!!」

振り向いたのは確かにレイだった。

「ウソ!? ホントに!? レイくん! 久しぶり! 私、茉奈! 覚えてる? 
ほら、あのスケッチしてる時に会ったじゃない!」

茉奈は興奮して言う。まさかこんなところで会えるなんて思ってもみなかったからだ。

「もちろん覚えてるよ! 茉奈! 久しぶり! 会いたかった!」

そういうとレイはハグしてきたので、茉奈はすごく驚いた。

「会えて嬉しい! どうしてあの時は急にいなくなっちゃったの?」

「ごめん……。実は、急用を思い出しちゃってね。僕も後悔してるよ。
でも今、こうして会えて本当に嬉しいよ。」

そういうとレイは改めてハグしてきた。友人と再会できたことに対するハグだとは思うが、すごくドキドキした。

日本育ちだというのに女の子相手にこんなことをできるのはちょっと天然なのかもしれない。あるいは茉奈を女の子として
意識してないのかもしれないと思った。

9:アイ子:2014/08/01(金) 18:38 ID:ZCM

茉奈は思い切ってレイに聞いた。

「あのさっ、これからも私レイ君と連絡取ったり会ったりしたい! 
だから、住所とか電話番号とか教えてくれない? 私も教えるからっ!」

レイは少し黙った。まずいことを聞いてしまったのだろうか。

「……ごめん。それはできない。教えたくないわけじゃないんだ。でもちょっと事情があってね……。」

「そ、そっか……。」

教えたくないわけじゃないと言われたけど、やっぱりショックだ。事情って何だろうか……。

「でも、僕もこれからも君に会いたいよ。だから会いたくなったらこの神社に来ればいい。
僕はいつでもここにいるから。君を待ってるよ。」

「いつでもって……。本当に? いつでもいるの?」

「うん。君は、学校帰りとかに来たくなったら来ればいいよ。僕は学校に行ってないからね。
いつでも待ってる。」

「…………。」

なんて素敵なんだろう……。

「あれ? どうしたの?」

「ううん、素敵な人ね。嬉しい。毎日だって来たいくらいよ。」

「それは良かった。」

レイは茉奈の頭の上にポンと手を置いた。

前から薄々自分の気持ちに感づいてはいたが、今ので本当にレイの事が大好きになってしまった。

でも、茉奈はなんだかおかしくなってしまった。レイみたいな外国人っぽい顔立ちの人が神社にいるなんて。
ちょっと変な感じがする。

レイはどちらかというと教会とかお城が似合う方だから。思わず笑ってしまった。

「何笑ってるんだい?」

「あははっ、何でもないよ〜」

「なんだよ〜。気になるなあ、教えてくれたっていいじゃないか。」

「何でもな〜い」

二人の笑い声が夕焼けの空にこだました。

10:アイ子:2014/08/01(金) 18:54 ID:ZCM


家に帰るともういい時間だった。

「あら、茉奈。おかえりなさい。遅かったわね? どこ行ってたの?」

母に声をかけられた。もうパートから帰ってたのか。

「うん、ちょっとね。」

思わず頬が緩みそうになったので、平静を装うと少し声が裏返ってしまった。

二階の自分の部屋に駆け上がってベッドに寝転がった。


もう完全に、彼に恋をしてしまった。

でも、よく考えると茉奈は全然彼の事を知らないという事に気が付いた。

知っているのは、レイという名前と16歳で学校に行っていないという事。祖父が
イタリア人のクォーターで本人は日本育ちだという事。

それだけだった。名前も下の名前だけだし、彼の詳しい素性の手掛かりは少なかった。

でも、それは仕方がないと思った。なんたって惚れた弱みだ。

彼が自分の事をどう思っているのかだってわからない。だけど全然不安じゃなかった。

この恋なら、大丈夫だと思った。

11:アイ子:2014/08/01(金) 20:24 ID:ZCM


次の日朝から神社に行ってみると、彼がいた。

「レイ君! 本当に居てくれるなんて!」

「君の方こそ本当に来てくれるとは思わなかったよ!」

「絵を描いているの?」

「そうさ。君も描く? 道具と紙はあるから。」

「ううん、ここで見てるわ。」

茉奈はレイの隣に腰掛けてレイが絵を描く様子を見つめていた。

胸が苦しくなった。好きなんだって思って、もっと知りたいと思ったし、もっと話したいと思った。

それにしてもレイが描く絵は本当に上手だ。線一本一本が繊細で細かくて……。

するとレイは鉛筆を置いた。

「せっかく君が隣にいるんだから、君の肖像画を描いてもいいかな?もちろん君が嫌じゃなければね。」

「描いてくれるの? 嬉しいわ! ありがとう!」

「こちらこそ。じゃあ、こっちを向いてくれる?」

「ええ。」

茉奈は体の向きを変えた。レイと目が合う。途端に恥ずかしくなってしまった。

顔がみるみる赤くなっていくのがわかった。

レイは優しく笑って言った。

「そんなに恥ずかしがらないで。リラックスするんだ。」

胸のあたりでキューっと音が鳴ったような気がした。

レイは滑らかな手つきで絵を描いていった。少し盗み見ようとすると

「ダメだよ茉奈。完成するまでのお楽しみさ。」

と言われてしまった。

仕方がないので完成できるまで待った。最初はモデルらしく顔の表情を作ってみたりしたが、レイに
『自然体でいい』と言われたでそういうことはやめた。

「よし、できた。」

そう言うと描いた絵を手渡してきた。

「…………。」

茉奈は嬉しくて言葉が出なかった。

「……嬉しい。この絵の中の私、すごく綺麗ね。私ってこんなに綺麗なのかしら。」

「うん。茉奈はすごく綺麗だよ。」

こういう事を何の照れもなくさらりと言ってくれる。

「ありがとう。本当に嬉しいわ。」

「気に入ってもらえて僕も嬉しいよ。その絵は茉奈にあげるよ。」

「本当に? じゃあこれ、一生大事にするね!」

なんて素敵な人だろうと思った。もう気持ちは抑えられなくなっていた。

「レイ、私あなたの事が好きよ。」

「僕だって茉奈の事が大好きさ。」

「それは……、どういう意味の『好き』なの?」

「どうだと思う?」

不敵な笑みを浮かべて言ってくる。

「わからないわ……。」

そう言うと、茉奈の唇がレイの唇に塞がれた。

「…………!!」

「こういう事さ。」

12:アイ子:2014/08/01(金) 20:45 ID:ZCM


「じゃあ改めて……。僕は茉奈の事が好きだよ。愛している。」

「…………。」

思考が完全に停止した。

「……う……そ……」

絞り出すようにしてやっと言った。

気付くと目から涙がこぼれていた。

「ごめん! いきなりキスなんてするもんじゃないってわかってるんだけど……。
どうしても抑えきれなかった。本当に綺麗だよ、君は。」

「……私たち、お互いの事なんてほとんど何も知らないじゃない……。それでもいいのかな?」

「そんなの、これからどんどん知っていくことになると思うよ?」

レイは茉奈の手を握って優しく言った。

「レイ……、大好き……っ!」

茉奈はレイに抱き付いた。

「僕も」

レイは本当に優しく言った。

13:アイ子:2014/08/02(土) 20:49 ID:ZCM

それからというものの、茉奈はほぼ毎日神社に通った。

いつ行ってもレイは待っててくれていた。

雨の日は二人で同じ傘に入って話した。屋根の下に入ることもできたけど、あえてそれを選んだ。

何も話さなくても、一緒にいること。それが嬉しかった。



茉奈は、だんだんレイの事がわかってきた。

レイは中学の頃同級生にひどく虐められていたそうだ。

いじめの事実を親や教師に話しても取り合ってもらえず、親には『登校拒否だけはするな』と言われていたらしい。

「父親は教師をやってるんだよね。そんな人の息子が登校拒否になったら世間体に関わるから、
そう言われてたんだと思うよ。母親は僕が小さい頃に他界してるし肉親は父だけだったから言うこと聞かなきゃなと思った。」

「だからどうにか三年間耐えたんだけど、卒業したらぷつんと糸が切れたみたいに無気力になっちゃってね。
親に反発して、行けって言われてた高校にも行くのをやめた。」

「これ以上ないってくらいに大喧嘩して家から出てけって言われちゃって、
あてもなくぶらぶら彷徨ってるんだ。かっこ悪いよね。」

「そんな事ない。いじめに……三年間も耐えただけじゅうぶん立派よ。」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。茉奈に住所や電話番号を明かせないのは、父との
事があるから。僕は家出したけど、父はまだ僕の事を探しているらしいんだ。もし茉奈が僕の
父と何らかの繋がりがあって僕の居場所がばれたらまずいからね。」

「そうだったの……。今は、どこに住んでいるの?」

「今は貯金を使ってアパートに部屋を借りて一人暮らししてるよ。昼間はこうして神社とかにいる。」

「食事は? 自炊とかしてるの?」

16歳で一人暮らしなんて、結構すごいことだ。

「いや……、恥ずかしい話、今まで料理なんてさっぱりしたことなくてさ。
コンビニの弁当とか、カップ麺が多いかな。」

「私、作ってあげる!」

「え?」

茉奈は決心した。

「こう見えてもね、料理は得意なの。お母さんが仕事の時とかに作るから。
レイの部屋のキッチン、貸してくれない?」

これは本当だった。母が仕事で遅くて姉がバイトでいないとき、弟の翔太に頼まれてご飯を作ることはよくある。

育ちざかりの翔太の為にいろいろなレパートリーを覚えて、今では休日の食事のほとんどを茉奈が作っている。

「でも、悪いよ。」

「確かにカップ麺やコンビニのお弁当は美味しいけど、その分添加物がたくさん入ってるわ。
あまり体に良いとは言えないじゃない。私、作りたいんだけど迷惑かな?」

「そんな事ないよ。いいのかい? 本当に。」

「ええ、もちろん。」

こうして茉奈はレイのアパートに行くことになった。

14:猫又◆Pw:2014/08/02(土) 22:55 ID:qaQ

 こんにちは、はじめまして。 猫又と申します。
見た瞬間レベルが高いなぁ、と思って見させていただきました。

 感想を率直に述べてしまうと、上手いです。
私の個人的な意見ですが、全く文に違和感を覚えませんし、
たった13スレッドで茉奈とレイの関係から目が離せなくなってしまいました!

 ですが、ちょっとマル(。)とカッコ(」)の併用が気になりました。
つまり「なんだ」が「なんだ。」になっていることです。(カッコ内は。いりません)

 これ文法に厳しい人が見ると『へっ』と言われてしまうので、
やらないにこしたことはありませんよ〜。(提案)

なんだか失礼なこと言ってしまいましたが、続きよろしくお願いします。では、

15:アイ子:2014/08/03(日) 09:27 ID:ZCM

>>14
ありがとうございます。上手いなんて嬉しいです!
マルとカッコの使い方は知りませんでした。参考になります!

16:飛鳥:2014/08/03(日) 19:02 ID:HOM

面白いですね♪(>∀<)bグッドデス!
これからも頑張ってね〜☆私の応援もヨロシクです☆
(うちらの新聞部の飛鳥より)

17:アイ子:2014/08/05(火) 18:55 ID:ZCM

>>16
おー!嬉しいです(#^^#)お互い頑張りましょう

18:アイ子:2014/08/05(火) 19:53 ID:ZCM

「僕のアパートはここから結構あるんだけど平気かい?」

「ええ、気にしないで」

神社から30分ほど歩き、道中のスーパーで食材を購入してレイのアパートに着いた。

「さあ、上がって。あんまり綺麗じゃないんだけどね」

「おじゃまします」

レイの部屋はさほど汚くはなかった。部屋の隅に洗濯物がある程度で、あとは全然普通だった。

「綺麗にしてるのね」

「そうかな?」

「じゃあ、キッチン借りるわね」

茉奈はキッチンへ向かった。置いてあるゴミ袋の中には言っていた通りコンビニ弁当やカップ麺の容器が
たくさんあった。

「僕は何か手伝うことあるかな?」

「大丈夫よ。そこで座って待ってて」

「わかった。本当に助かるよ」

茉奈が買ってきたのはじゃがいも、ニンジン、たまねぎ、鶏肉、カレールー。これでチキンカレーを作るつもりだった。

チキンカレーは一番の得意料理だし、家族からは味の評判もいいものだった。

手早く材料の下ごしらえをこなし、鍋に水と入れて煮る。しばらくしてカレールーを入れ、ルーが溶けたら完成。

同時進行でサラダも作っていた。

「できたよ! チキンカレー茉奈スペシャル!」

「もうできたのかい? あっという間だね! ああ、いい匂い!」

「どうぞ!」

「いただきます」

レイはばくばくとカレーを食べ始めた。体は細いけどやはり育ちざかりなのだろう。

「茉奈、すっごく美味しいよ! サラダの方も最高だね!」

そうしてあっという間にカレーを平らげてしまった。

「ごちそうさま! 本当に美味しかったよ! 人が作った料理を食べるのは久々だから
尚更美味しく感じるね! 茉奈は絶対に将来いいお嫁さんになると思う」

『いいお嫁さん』という言葉にドキッとした。こういうことをさらりと言えるレイだから
好きになったのだろうか。

「そんなに喜んでもらえると作り甲斐があったわ。このくらいならいくらでも作るから、
食べたくなったらいつでも呼んでね」

「あ、そうだ! ちょっと待って……」

そういってレイは席を立って玄関の方に向かっていった。

「はい、これ」

差し出されたのはシルバーの鍵だった。

「何? これ」

「スペアキーだよ」

「スペア……?」

「つまり、合鍵って事だよ! 僕の部屋のね! 好きな時に来てくれていいよ!
いい加減神社に通うのも飽きたろう?」

合鍵……。その響きにドキドキした。まさか、大好きな人の部屋の合鍵をもらえるだなんて。

「うそ……。ありがとう!」

茉奈はすごく嬉しくなった。

19:にっきー:2014/08/05(火) 20:04 ID:ZeQ

題名に惹かれたので全部読まさせていただきました!

面白いです!
しかもめっちゃいいところで止まってますね!
合鍵とか!!

これからも頑張ってください!
私も小説書いてるのでよかったら見に来てください!
題名は「君の隣で」です!

ではまた来ます!
お互い頑張りましょう

20:アイ子:2014/08/05(火) 20:13 ID:ZCM

>>19
嬉しいです!読んでみますね。
毎日は書けないけど見てくれると嬉しいです

21:にっきー:2014/08/05(火) 20:28 ID:ZeQ

アイ子さん>ありがとうございます!
アドバイスもらえると嬉しいです!(^^

アイ子さん小説書くの上手なので!

22:アイ子:2014/08/05(火) 20:30 ID:ZCM

>>21
はい(*'▽')お互いよろしくです!

23:にっきー:2014/08/05(火) 20:33 ID:ZeQ

はい!

よかったらこれからも読んでください!

ではまた来ます!
更新楽しみにしてますので頑張ってください!

24:アイ子:2014/08/06(水) 16:08 ID:ZCM

レイの部屋の合鍵をもらってから、神社よりもレイの部屋に行くことが圧倒的に多くなった。

茉奈の家からは少し遠いけど、そんなのは全然苦にならなかった。

レイの部屋では茉奈が食事を作って振る舞っていた。最初は作るのは茉奈だけで食べるのはレイだけだったけど、
二人でやるようにもなった。

レイはなんでも美味しいと言って食べてくれるし、料理の腕も上がるので作り甲斐があった。

二人で料理をして二人で食べる。後片付けをしてテレビを見たり雑談したりする。

レイの部屋でするのはだいたいこんな事だった。

恥ずかしい話、キスも告白された時にしかしていなかった。

ハグとか手を繋ぐことはあっても、キスまでは絶対にしなかった。

レイはクォーターだし年上だからもっとすると思っていた茉奈にとっては、少し驚きもあった。

ただ私がまだ14だから控えているだけならいいけれど、私にそういう魅力がないのだとしたら
ショックだなと思った。

そんなことを考えているとレイと見ていたドラマがキスシーンに入った。それも結構濃厚な。

家族でこういうのを見ると絶対気まずくなっちゃうやつだ。友達とならニヤニヤしていられるけど、
恋人とならどういう反応を取ればいいんだ?

レイの顔をちらりと見ると、至って普通な顔でそのシーンを見ていた。

何だかもやもやした。

男の子って案外こういうものなのだろうか。

すると視線に気が付いたのかレイがこっちを向いた。

「ん? 何?」

「何でもないけど……」

「本当に?」

「うん……」

「絶対?」

珍しくしつこく聞いてくる。

「本当だってば……」

するとレイが茉奈の脇をくすぐり始めた。

「あはははっ! くすぐったい〜! やめて〜!」

「嫌だ、やめない」

レイの目はいつになくまっすぐだった。

「な、何……? そっちこそどうしたの?」

茉奈の声はレイの唇によって遮られてしまった。

最初の時とは、また違うキスだった。

「……別に、僕も茉奈とキスしたいとかは思うからね」

「…………!!」

「茉奈って本当バレバレだよね。ドラマのキスシーン見て、僕がそういうの興味ないのかと
思ったんでしょ? 僕だってこんなだけど一応男だからさ」

「…………」

「驚かせちゃってごめんね。今日はもう帰る? 送るよ」

「……う、うん」

茉奈とレイは二人で道を歩いた。会話はなかった。

自分の考えていたことはレイに全部お見通しだったことを考えると、すごく恥ずかしかった。

でも全然イヤじゃなかった。

「あ、ここまででいいよ。ありがとう」

「そう、じゃあね」

茉奈はレイに手を振って歩き出した。今日は、いろいろ衝撃的なことが起きたな……。

「待って!」

いきなりレイが駆け寄ってきた。ぐいっと手を引っ張られまたキスされてしまった。

「え…………」

「……キスとかさ、茉奈からしてもいいんだからね?」

「…………」

「じ、じゃあ気を付けて帰ってね」

「…………うん」

茉奈は嬉しさでいっぱいだった。

25:アイ子:2014/08/06(水) 16:12 ID:ZCM

【お詫び】
葉っぱ天国ってエロネタ禁止なのに若干入ってしまったような気が
しなくもないです。。。

申し訳ありません。。。

そういう描写が書きたかったわけじゃなくてただ恋人ならそういう
問題もあるかなって思ったので。。。

あとあれですよね。
茉奈のセリフに「……」←これ使いすぎました。でも便利です

申し訳ございません

26:もふ☆◆moDAI:2014/08/07(木) 12:18 ID:wmI

>>25
この程度なら、問題は特に無いと思いますよ♪
実際オリキャラ板とかで、Dキスまではokとか書かれたスレ、注意されてないですからww

27:アイ子:2014/08/07(木) 14:29 ID:ZCM

>>26
そうなんですか!良かった〜(笑)

28:アイ子:2014/08/07(木) 14:49 ID:ZCM

その日は少し遅くなって家に帰った。

「茉奈、遅かったのね。少し話があるんだけど」

「何?」

母親に呼ばれてダイニングテーブルに着いた。

「あなた、男の子と付き合ってるの?」

「へ?」

そういえば彼氏ができたってお母さんに言ってなかったけ……。

「どうなのよ。教えて」

「あ、最近付き合い始めて……。お母さんには言ってなかったね、ゴメン」

「それはいいのよ。ただ……、あなた毎日のようにその男の子の部屋に
通ってるそうじゃない」

「そうだよ。でもなんでお母さんがそんなこと知ってるの?」

「ご近所の方が見たそうよ。アパートから男の子と出てくるあなたを。
お部屋で何をしているの? その男の子のご両親はご在宅なの?」

「え、普通にご飯食べたりテレビ見たりおしゃべりしたりだよ。
彼一人暮らしだから、ご両親はいないよ」

すると母は大きくため息をついた。

「一人暮らしねえ……。その彼、いくつなの?」

「えっと、16だったはず」

「16って……。じゃあ高校生ね。学校はどこなの?」

「学校は行ってないって」

すると母はさっきよりも大きなため息をついた。なんだかカチンときた。

「何それ。何か文句でもあるの?」

「そりゃ私だってあんたに彼氏ができるのは嬉しいわよ?
でもねえ、16で一人暮らしで学校も行っていないような子はちょっと……」

「会ったことも無いのにどうしてダメだって決めつけるの?私が誰と付き合おうが私の勝手でしょ!?」

悔しくてたまらない。親に彼の事をこんなふうに言われるなんて……。

「いけません! 私はいつだってあんたの幸せを願ってるわ! 16で!? 学校も行かないでほっつき歩く
一人暮らしの男の子ですって!?」

「何で!? そんな理由だけでダメって決めつけるの? ありえない! 彼は私の事すっごく大事に
してくれてるのよ!? とっても優しいの!」

茉奈は大声をあげた。お母さんなら応援してくれると思ったのに……。

「そんなの知りません! 部屋でいつも二人きりなんでしょう!? 何されるかわからないわよ!
妊娠なんて事になったらどうするの?」

妊娠…………? レイがそんなことするわけない……。

気が付いたら茉奈は母親の頬を平手打ちしていた。

「まあ!! 親に向かってなんてこと……!」

母親にもやり返された。

「あなたをくだらない男に熱を上げて親に暴力をふるうような子に育てた覚えはないわ! 出てって!」

「言われなくてもこんな家出てってやるわよ!」


茉奈はそのまま家を飛び出した。もうやだ……。最悪……。さっきまでレイがあんなに素敵なキスをしてくれたのに……。

なんで邪魔されるの? しかもお母さんに。信じられない……。

着の身着のまま家を飛び出したので、持っていたのはポケットに入れていたレイの部屋の合鍵だけだった。

このまま行く当てもないし……。レイの部屋に行こう。

29:アイ子:2014/08/07(木) 16:16 ID:ZCM

思い切ってドアを開ける。

「……おじゃまします……」

「えっ!? 茉奈! どうしたの? こんな夜に……」

そこまで言ってレイは言葉を切った。私の顔を見てただごとじゃないという事に気が付いたのだろう。

「一人で来たんだね? とりあえず上がって。こんな夜に女の子が一人で出歩いちゃ危ないよ」

「…………ごめんね」

レイは部屋に上げてお茶を出してくれた。

「何があったの? 話したくないこと?」

「…………母親と喧嘩した。出てけって言われた……」

「そっか。それは大変だったね。今日はどうする? そんな状態じゃ家に帰れないだろう? 泊まっていく?」

さっき母の言った『妊娠』という言葉が蘇る。ダメだ、何疑ってるんだろう私……。

レイがそんなことするはずないじゃない。

「……そうする。ありがとう」

「でも、ご家族が心配しない?」

「平気。どうせ出てくって言ったんだし」

「……そっか。ご苦労様。まあ、たまにはそういう事もあるから仕方ないよね」

そう言って頭を撫でてくれた。

レイは、私の言ってほしかった言葉をぽんぽん言ってくれる。

茉奈は思わずレイに抱き付いた。

「うぅっ……。レイっ……、どうしようっ、私……」

母親とあそこまで喧嘩したのは初めてだった。すごく不安になった。

家族じゃ、いられなくなっちゃうかもしれない。

「大丈夫だよ。ちゃんと仲直りすれば、少なくとも僕みたいな事にはならないから」

「でもっ……」

「茉奈、顔上げて?」

「?」

言われるままに顔を上げる。

キスをされた。うっとりするぐらい甘くて優しい……。

「大丈夫だって。僕には慰めるなんてこんなことしかできないけどさ、元気出してよ。
茉奈にそんなにうつむかれちゃ僕も悲しいから」

「…………ありがとう……」

目が合うと頭がくらくらする。さっきまであんなに不安だったのに……。全部どこかに吹っ飛んだ。

「疲れたね。今布団敷いて来るからここで待ってて」

「うん」

すると思い出したように振り返って言う。

「忘れてた……。僕一人だから布団も一人分しか無いんだった……。僕は床で寝てるよ。
あ〜…、泊めるって言った手前情けないなあ〜……」

「でも、風邪引いちゃうわよ」

「いや、泊めておいて君に風邪引かれる方が困るよ」

「私もあなたに風邪引かれちゃ困る」

「いやでも……」

しばらく押し問答が続いた。

「一緒に寝ればいいじゃない」

「え!? 何言ってるんだよ!?」

レイの顔が真っ赤だ。やっぱり男の子なんだなぁ……。

「何赤くなってるのよ」

ちょっとからかってみよう。面白そうだ。

「僕だって男なんだよ……」

真剣な目にドキッとする。そんなのわかってるって……。

結局同じ布団で寝ることになった。

「ホントに一人分しか無い……」

「だから言ったじゃないか! 狭いしやっぱり僕はあっちで……」

「冗談だって! あははっ!」

「もう……」

いざ布団に入ると、本当に狭いので体と体がぴったりくっついた。

全身が心臓になったんじゃないかと思うくらいドキドキしたのに、同じくらいほっとしている自分がいた。

レイは知らなくていいからね。レイの事で喧嘩したって事……。

気が付くとぐっすり眠っていたようで、朝になっていた。

30:アイ子:2014/08/07(木) 17:19 ID:ZCM

「ふぁ〜、もう朝?」

「茉奈、起きた? おはよ」

「おはよう……」

そっか、レイの家に泊まってたんだった……。

「茉奈は本当にぐっすり眠ってたよ」

笑いながら言う。

「寝顔……、見た?」

「見たけど、仕方ないだろう。隣で寝てるんだから。でも、可愛かった」

「……ありがと」

照れる……。寝顔なんて自分じゃ見たことないし。

「そうだ、お母さんに連絡しなくていいの? 心配してると思うよ」

そうだ……、お母さん……。一晩も帰らなかったからきっと心配してるはずだ。

でもどうやって……。

「喧嘩の原因って、僕が茉奈と付き合ってること……?」

「えっ……」

「何となくわかったんだ。話してくれない?」

「…………わかった」

茉奈は一部始終を話した。

「私、お母さんとあそこまで喧嘩したことないの……」

「お母さんがそういうのも無理ないよ」

「でも……」

「僕は高校も行かずにほっつき歩いてるような奴なんだ。信用されなくて当然だよ」

「でも、レイは優しい人じゃない。私を大事にしてくれるじゃない……。反対を押し切って
付き合い続けることはできるけど、それじゃ嫌なの。お母さんもレイも傷つけることになる」

「……茉奈……」

レイはつらい顔をしていた。こんなレイ、嫌だよ。

「お母さんにちゃんと、レイが素敵な人だってわかってもらいたいの」

「………………」

沈黙が続いた。

31:アイ子:2014/08/08(金) 15:30 ID:ZCM

「ねえ、一緒に私の家に行こ?」

「え?」

茉奈は決心した。お母さんはレイと会ったことも無いからそんな勝手なことを言えるんだ。

一度会ってみれば素敵な人だってわかってもらえるはず。

「会ってもらえばきっとお母さんもわかってくれると思うし……」

「わかった……」

「…………私、お母さんに電話する。電話貸して」

レイは黙って電話を差し出す。

番号を押して、何度目かのコールでお母さんが出た。

「もしもし……」

『茉奈? あなた今どこにいるの?』

「……彼の家だよ」

『まあ!? 泊まってたの? 信じられない!』

「心配するようなことはないから」

『で? 何の用?』

「今から彼と一緒に家に行くから。お母さんも一度彼に会ってみて」

そう言って電話を切った。心臓がばくばくしている。


茉奈は今まで、母親に逆らったことなんてなかった。高校生の姉、莉奈を反面教師にしていたからだ。

気が強かった姉は友達とも家族とも衝突してばかりだった。自己主張が強くて頑固で、こうと決めたら他人の
意見なんて絶対聞かない人だった。

自分の考えを否定されるのをひどく嫌っていた。

中学では成績優秀だったが、母に行けと言われていた高校に行かずに違う高校に入学。

中学で部ではキャプテンを務めるほどの腕前だったバレーも辞め、反対されていたバイトに没頭し始めた。

彼女自身はバイト先での人間関係などとても充実しているらしいが、母はいまだに怒っている。

母と姉は口も利かなくなり、利いたとしてもほとんどが喧嘩だった。

そんな二人の関係を見て、いつしか茉奈は姉を反面教師にしていた部分があった。

友達とも家族とも波風を立てないように、自己主張はしすぎないで慎重に毎日を過ごしていた。

母には、姉と比べてあなたは育てやすいと何度も言われた。それが嬉しかった。

一度姉に『お前は母が決めたレールの上を走っていくのか』と聞かれたことがある。

もちろん、そのつもりだった。母にはつらい思いをさせたくない。私は姉の分、『育てやすい子』じゃないといけないのだ。

母が望む高校、大学に進んで母も気に入ってくれるような優しい人と結婚する。そして可愛い子供を産む。

自分はそういう人生を送るのだと、思っていた。



でも、それがレイに出会ってから大きく変わった。

彼は父親と大喧嘩して家を出てきたと言った。すごくしびれた。カッコいいと思った。

今まで親と喧嘩したことなんてなかったから、そういう経験のあるレイに憧れた。

それだけじゃなくて、彼はとっても優しくて素敵な人だった。初めて人を好きになった。

付き合い始めて、すごく大事にしてくれた。

そんなに嬉しくて幸せだったのに、母に反対されてしまった。

すごくショックで、悔しかった。自分の好きな人は母にも好きになってもらえなかったら悔しい。

だから絶対、わかってもらいたい。



その一心だった――。

32:アイ子:2014/08/08(金) 16:07 ID:ZCM


「準備できた?」

「うん」

二人でアパートを出た。歩いて茉奈の家に向かう。

すごく緊張した。母がレイを見たらどんな顔をするのか――。


「……着いた。私がお母さんに言ってくるから、少しの間レイはここで待ってて」

「わかった」

ドアを開ける。

「ただいま」

真っ先に母親が出てきた。

「あら、おかえりなさい。あなた彼がどうこうとか言ってたけど……」

「うん。連れてきた。一回会ってみてほしい」

「本当に? じゃあ今そこにいるの?」

「うん、そうだよ。上がってもらっていい?」

「でもお家汚いわよ?」

「そんなのいいって。上がってもらうからね」

「ええ……」

母の弱々しい声。嫌味は言いたくてもすぐそこにいるというのなら言えないだろう。

「上がって」

「初めまして」

レイがお母さんに挨拶をする。真面目な顔で。

「は、初めまして……」

お母さんはもごもごと答えながら、レイの顔をちらちらと見ている。

そっか。茉奈はもう慣れたが初対面だったらびっくりするくらいの美形だから仕方ない。

「じゃあ、話そう」

「ええ……」

私たちはリビングに入った。

33:猫又◆Pw:2014/08/08(金) 21:56 ID:8Zk

 こんにちは、エントリーを受けて来ました、猫又です。
感想希望ということですが、あえて一言で言いましょう。
 面白いです。
 特にレイと主人公、
そしてそれに反対するお母さんという構図がこれからどうなるのか本当に楽しみです!

 しかしそれと同時に、ちょっとキャラが死んでしまっている気もします。
特にレイ君。
 茉奈に恋愛感情を抱いているはずなのに、セリフや行動に一切の躊躇(ちゅうちょ)が無く、
なんだか物語を進めるための踏み台に使われているような印象を受けました。
(レイ君も多分(?)人間でしょうから、もうちょっと人間味を出してもいいかなと思いました)
っと、長文になるといけないのでこの辺で。では、

34:アイ子:2014/08/08(金) 23:50 ID:ZCM

>>33
ありがとうございます!
キャラが死んでるか…。参考になります
レイは人間なのでもうちょっと人間らしい葛藤を書いてみます

本当に参考になります。ありがとうございます

35:アイ子:2014/08/09(土) 12:24 ID:ZCM

「お、お茶出してくるわね」

「いえ、お構いなく」

お母さんはさっきからそわそわしている。多分想像していた人とだいぶ違ったのだろう。

リビングに気まずい沈黙が流れる。私が提案したことだから私が進めなきゃいけないのは
わかってるんだけど……。

「茉奈さんのお母さん」

レイから話を切り出してくれた……。本当に頼もしい。

「はい?」

「どうしても、交際には反対ですか?」

「え? あ、いや……」

お母さんもしどろもどろになってきている。やっぱり外面だけは良いから、面と向かって
文句は言えないのだろう。

「お母さん、はっきりしてよ」

茉奈も言ってみる。お願い、お母さん……っ!

「あの、レイさんでしたっけ? ちょっと茉奈と二人で話したいので席を外していただけないかしら?」

「わかりました」

「えっ、でも……」

なんでレイはこんなにあっさり了承しちゃうの?

「大丈夫だって。二人で話してて」

レイは別室に向かった。


「お母さん……」

「ハンサムな人ね」

「ハンサムって……。古いよ。今はイケメンだよ」

お母さんが優しい顔をしている。

「泊まらせてもらったの?」

「うん。でもお母さんが心配するようなことはないよ」

「本当に?」

「うん、でも一緒の布団で寝たよ。一人分しか無かったの」

「何もされなかった?」

「うん」

「キスは? したことあるの?」

「うん、4回くらい。上手だったよ」

「そう……。良かったわね、あなたを大事にしてくれてるんでしょう?」

「……うん。素敵な人だよ。私が初めて人を好きになったの」

「仲良くしなさいよ。あなたも、彼を大事にしてあげるのよ」

「お母さん……。いいの? 本当に?」

「ええ。あなたが幸せそうだもの。一目見て分かった。彼ならあなたを幸せにしてあげられるわね」

「ありがとう! お母さん、ごめんね。出てくなんて言って……。お母さんの事叩いちゃったし」

茉奈は母に飛びついた。嬉しい……。交際が許されたことも、母と仲直りできたことも……。

思いがけず涙が出てきた。私……、お母さんと喧嘩してこんなにショックだったんだ。

「そんなに泣かないで。レイくんを呼んできなさい」

「……うん……」

茉奈はレイがいる部屋へ向かった。良かった……、本当に……。



「レイ」

「茉奈? どうだったの?」

「お母さん、許してくれたよ。仲直りもできて……。本当に良かった……」

茉奈はまたぽろぽろ泣いてしまった。

「良かった……。僕、ダメだって言われたらどうしようかと思った」

レイが茉奈の頭をぽんぽんと撫でた。

「じゃあ、お母さんのところに戻ろうか」

「うん」

36:にっきー:2014/08/10(日) 20:25 ID:oU2

久しぶりです!
更新されてたのでみに来ました!

続きが楽しみです!(^ー゜)
あと、更新率高いですね!
見習わないと。

お互い頑張りましょう

37:アイ子:2014/08/11(月) 10:12 ID:ZCM

>>36
ありがとうございます

38:アイ子:2014/08/12(火) 16:40 ID:ZCM

「茉奈さんのお母さん。ありがとうございます。茉奈さんの事は大事にしますから。
僕に任せてください」

「ありがとう」

お母さんも微笑んでいた。

「じゃあ僕は帰りますね。長居するとお邪魔でしょうし」

「あら、茉奈も一緒に帰ったら? 泊めてもらったらいいじゃない? もちろんレイくんが良ければですけど」

「え、お母さんなに言って…」

「いいんですか?」

「レイまで!」

お母さんもレイもなに言ってるのホントに……。

「ええ。茉奈、着替えとか洗面道具持っていきなさい」

「なにそれ! お泊り会じゃないんだから!」

ふつう恋人の家にお泊りって言ったら……。うわっ、私ってば何考えてるんだろ!

でもこれじゃあムードも何も無いじゃない! まあ、前のお母さんだったら考えられない事だし
今はこんな会話ができるのにも感謝か……。

結局茉奈はお泊り用のセットを持って家を出た。

「いってらっしゃ〜い」

「……行ってきます」

お母さんはゴキゲン顔で送り出してくれた。



「ごめんね……。ホントに修学旅行じゃあるまいし」

「いいねそれ! 僕と茉奈の修学旅行だよ!」

レイは楽しそうに笑っていた。やっぱりどこか抜けてる……。ま、そこも好きなんだけどな。

それにしてもレイ、なんかさっきと違う感じがするな。

そんなこんなでレイの住むアパートに着いた。

「そうだ! 私たち朝ごはんも食べないで出てきたからレイお腹空いてるでしょ?」

「あー…。そういやそうだったね」

「私、また作るねっ! 朝昼兼用のご飯になっちゃうけどいいよねっ」

「いーよ、作んなくて」

「えっ、でも…」

「今は一緒に居たいから」

そういうとレイは茉奈の事を後ろから抱きしめた。すごく力強く、でも優しく……。

「僕、すごく不安だったから……。今茉奈とこうしていられるのがすごい嬉しいよ」

「……レイ……」

私だってそうだよ…。私だって不安だったんだから…。

「前に言ったろ、父親と大喧嘩して出てきたって。なんだかんだ言って親だから父親の事
好きだったんだよね。今こんなこと言うの情けないけど。だから、出てきたのも後悔してるんだ」

「……そうだったんだ……」

「また僕のせいで失いたくないから……」

そういってレイはまた力強く茉奈を抱きしめた。手が冷たい……。やっぱりホントに不安だったんだ……。

「レイ、あのね……。私は絶対いなくなんないからねっ。多分これからもずっと、レイみたいに人を好きになることは
無いと思う。私にはこれからもレイだけだから」

「茉奈……」

茉奈は体の向きを変える。お互いの顔が近づいていって、あと一歩でキスするという時に……。

グ〜〜〜〜ッ

ものすごいお腹の音が鳴った。やだ、これ私のお腹!? 恥ずかしくて死にそう……。

「ごめん! レイにお腹空いてないとか聞いておいて空いてたのは私じゃん…」

「あははははっ! 茉奈、最高だよ! あはははっ!」

「わ、笑わないでよ!」

「ごめん、でもすっごい可愛いよ」

そういってレイはキスをした。まただ……。いつもレイの方からキスされている。

レイの顔が離れた後、茉奈は思い切って自分からキスをしてみた。

「えっ……」

レイはすごく驚いた顔している。

「私、いっつもレイの方からキスされてばっかりでしょ? だからたまには私からしてもいいじゃない。
それとも、嫌だった……?」

「いや、ちょっとびっくりした……。でもすごい嬉しいよ!」

二人はまたキスをした。

39:アイ子:2014/08/16(土) 14:36 ID:ZCM

そのあと二人でご飯を作った。レイに何がいいかと尋ねると、初めて食べたチキンカレーがいいとレイは答えた。

「やっぱりおいしいね」

そういってレイが微笑む。

「ありがと」

食べていた手を止めて、レイが急に真面目な顔で訊いてきた。

「茉奈はさ、一目惚れってしたことある?」

一目惚れ……。多分、レイに会った時がそうだったのだろうか……。

「あるよ」

「誰に?」

「誰って……。今私の目の前でチキンカレーを食べてる人だけど」

「その人の名前は?」

「レイの事よ」

「ふうん、やっぱりそっか」

「わかってたならわざわざ聞くことないでしょ、いじわる」

「ごめんごめん。今まで人を好きになったことってある?」

「ない」

「そっか」

「そういうレイはどうなの?」

「これがさ、16年間生きてて全くなかった。なんでだろうね」

「私も14年間生きててなかったんだし特に不思議じゃないんじゃない?」

「まあそれもそうだね。ごちそうさま」

「食べ終わったんだ。洗っとくね」

「悪いね」

茉奈は何だか変な気分になった。なんだろう、この夫婦みたいな会話……。

洗い物が終わってレイの横に座った。

「テレビ見る? 映画やってるよ」

「ううん、いい」

茉奈がそういうとレイはテレビを消した。茉奈はレイに寄り掛かる。

「どうした?」

「なんか……、疲れた」

「じゃあ休む? 布団敷くけど……」

レイが言いかけると茉奈はすでに眠りの世界に入っていた。

「布団かけなきゃ……」

立ち上がろうとするけど今立ち上がったら寄り掛かった姿勢が崩れて起こしてしまうだろう。

「ま、いっか」

レイはそのままの姿勢で茉奈の目が覚めるのを待った。

40:アイ子:2014/08/21(木) 16:11 ID:ZCM

なんか今スランプ的な状態に陥ってます…

構想が思い浮かばないんです…。茉奈とレイがいちゃつくのしか思いつかないw
なんか修羅場的なの書こうかなw

ちなみに同じ板でもう一つ書いてるのでよかったら読んでください

http://ha10.net/test/read.cgi/novel/1407564565/l50

41:飛鳥:2014/08/26(火) 09:34 ID:sAo

つづきぃ!はやくよみたい!ww

42:アイ子:2014/09/01(月) 17:48 ID:ZCM


茉奈はしばらく眠っていたようで、目が覚めるともう夕方だった。

「ふぁ〜あ……。もうこんな時間……」

寝ぼけ眼をこすりながら、レイの姿を探す。
あれ? 眠りに落ちる前は隣にいたはずなんだけど、どこいったんだろう? そんなことを考えながら、ぼんやりレイの名前を呼ぶ。

返事がない。気配もしない。どこかに買い物にでも行ったのだろうか。でも、レイは寝ている女の子一人置いて
そんな事をするような人ではない。

ただ事ではない、と感じた茉奈はソファから飛び上がった。やはり、どこにもレイはいない。

パニックに陥ってしまった。レイがいない。靴もないし財布も置いてあるからどこかに買い物に行ったわけではなさそうだ。

じゃあいったいどこへ? もしかして何か事件に巻き込まれて誘拐されたとか? でもそれだったら何で私は無事なの? 庇ってくれた?
でもさらったり人質にするなら女で小柄の茉奈の方が都合がよさそうだ。

頭の中にたくさんの「なんで?」が浮かび上がっていると、一枚の紙が目に留まった。


『ごめん』


紙にはただ一言、そう書いてあった。

43:アイ子:2014/09/01(月) 17:49 ID:ZCM

めっちゃ久々更新になっちゃいました…w

44:アイ子:2014/09/02(火) 19:18 ID:ZCM


それは確かにレイの字だった。無理矢理書かされたようでもない。でも……なんで? 『ごめん』ってどういう意味?

しかし茉奈は、弾かれたようにアパートを飛び出した。「レイ」と叫びながら走り続ける。手掛かりなんかないし、
ただ勢いで飛び出してしまったけれどこうしなければ二度と彼に会えない気がした。

世の中は夏休み真っ最中。自転車で走る小学生の軍団が不思議そうに茉奈の方を見て、冷やかしの声を上げた。
茉奈の耳には届かない。

彼女の頭の中にはただ、レイの顔だけがあった。レイ……。どこ行っちゃったの? 何があったの? 教えてよ。

当てもなくただ炎天下の中を走り続けた。あんまり夢中で気が付かなかったけど、今日はものすごく暑い。

45:アイ子:2014/09/12(金) 09:57 ID:ZCM

夢中で炎天下の商店街を駆け抜けた。頭の中には彼の笑顔。どこに行ってしまったの……?
必死で彼の名を呼び、探し続ける。

するとそこに、黒いスーツを着た男が自分の車に少年を押し込もうとしているのが見えた。
誘拐? 拉致? そう思って体がこわばる。夏休みで、いつもは賑やかな商店街も閑散としている。

誘拐したいならもってこいだ。どうしよう、近くの交番に駆け込むか大声を出すか……。
しかし茉奈の考えは止まった。なぜなら、車に押し込まれようとしている人物がレイだったからだ。

「レイ……。レイ! なんで? どうしたの!?」

「茉奈…………!!」

レイは、驚いたような安心したような複雑な表情を浮かべた。

彼のもとに駆け寄る。この男の人はいったい誰? なんで無理矢理車に押し込まれようとしているの?
するとスーツの男は、茉奈を怪訝そうな顔で見た。茉奈は一瞬足がすくんだが、すぐさま睨み返す。

この人はいったい何の目的でレイを狙ったんだ? 彼を家から連れ出したのもこの男だろうか。

茉奈が考えをめぐらせていると男が口を開いた。

「千歳、この子は誰だ?」

え? 千歳? 誰の事? 茉奈はそう思ったが、男の視線は確かにレイに向けられている。
レイを見ると、レイはひたすらアスファルトを見つめているだけだった。

46:アイ子:2014/09/12(金) 09:58 ID:ZCM

「あの、人違いじゃないですか? 彼、『千歳』なんて名前じゃないですよ? 人さらいか何だか知らないけど
人違いなのでやめてください」

茉奈は勢いでそういった。人違い以外に考えられない。しかしレイも人違いでさらわれそうになるなんてついてないな。

「はぁ?」

そう思っていたのに男はとてもさっきよりもさらに怪訝そうな顔で茉奈を見た。

「君こそ人違いじゃないのか? 『レイ』だなんてふざけた名前を付けた覚えはないぞ。いったい君は誰だ?」

「え……」

茉奈はそれしか言えなかった。だってスーツの男は、確かに『名前を付けた覚えはない』と言った。
ということは、この男はレイの父親? 確か喧嘩して家を出てきて、父親はレイの居場所は知らないはずだよね?

すると黙りこくっていたレイが口を開いた。

「……ごめん。茉奈、ごめん。父さん、ちょっとこの子と話したいんだ。少し待っててくれない?」

「ああ、あまり長くなるなよ」

そう言ったかと思うとスーツの男は車にまた乗り込んだ。茉奈はそれどころじゃなかった。レイは確かに
男の事を『父さん』と呼んだ。やはり、レイの父親なのだろうか。

「近くに公園があるからそこに行こうか」

そう言ったレイの後に続いて近くの児童公園に入った。二人の間に会話はなかった。
重い沈黙を破るようにレイが切り出した。

「茉奈、本当にごめん。謝っても謝り切れないけど……」

突然深々と頭を下げて茉奈に謝罪をしてきた。でも、何の謝罪?

「僕、本当は『レイ』じゃないんだ。さっきの人が言ったように、僕は『千歳』なんだ……」

「え…………」

レイじゃなくて千歳? 彼の本当の名前は千歳だっていうの? なんで私には『レイ』って名乗ったの?

47:アイ子:2014/09/12(金) 20:00 ID:ZCM

「茉奈は何が何だかさっぱりだと思うから、一から説明するね……」

茉奈が小さくうなずくとレイは話し始めた。まとめると、だいたいこうだった。

やはり先程のスーツの男は彼の父親で、彼の事を自分の元へと連れ戻しにやってきたらしい。
最初は自分の居場所は父親にはばれていなかったが、興信所を使って調べられてしまったそうだ。

彼の父親は彼の住むアパートを突き止め、早速乗り込んだ。ソファで寝てる茉奈の存在にも驚いていたようだが、
茉奈に一言手紙を書かせて彼を連れ出した。必死の抵抗もむなしく車に押し込まれようとしていたところに茉奈が現れたそうだ。

一通り聞き終えて茉奈は口を開いた。これまでの経緯はわかったけれどこれじゃあ肝心なところに触れてないじゃないか。

「そっか、大変だったね。…………で、なんで私には『レイ』って名乗ったの?」

すると彼は一瞬戸惑った表情を浮かべた後、口を開いた。

「……うん、それを話さなきゃね……。僕は前に君に『父親と大喧嘩して家を出てきた』って話をしたよね?」

茉奈は小さくうなずく。

「それは本当なんだ。家出して当てもなくふらふら彷徨って、絵ばかり描いてた。その日もいつもみたいに適当な場所で
スケッチしていたら、君と出会ったんだ」

茉奈が初めて彼に出会った牧場の事だろう。少し懐かしい。

「こっちに家出してきて、父親に居場所がばれるとまずいから名前とかも偽ってたんだ。そもそもそれ以前に
人とあまり関わらないようにしていたんだ。もしその人が僕の父親と繋がりがあったらまずいからね。恋愛なんて
もってのほかだと思ってた」

じゃあなんで今私と付き合っているんだろう……。もしかして、名前と同じようにこの関係も偽りなの?
そんな茉奈の不安を察したのか彼は言った。

「君の事が好きなのは間違いない。これは嘘偽りも無い正直な気持ちなんだ。最初は君と付き合うのに迷った。
もし君が僕の父親と繋がりがあったらどうしようかとか考えてね……。でもそれは」

ぴしゃり――

気が付いたら、茉奈は彼の頬をぴしゃりと打っていた。

「どうして!? そんな心配してたなら言ってくれたってよかったじゃない! たとえ私があなたのお父さんと
知り合いだったとしても、密告するようなまねは絶対にしなかったわよ! もうやだ…………。そんなに信頼できないの……?」

ひどくショックだった。たとえ茉奈が彼の父親を知っていたとしても、彼の為なら協力するつもりだった。
絶対に裏切るなんてことはしない。その覚悟だった。

なのに、なんで――。


「でも……今まで私の前にいたのは『レイ』なの?『千歳』なの?」

彼はひどく驚いたような、ショックを受けたような顔をした。

「…………ごめん……。君を騙してた事実は拭いきれないけど……本当にごめん……」

「…………お父さんのところに戻る気はあるの?」

レイが頭を上げる。

「……僕は戻りたくないと思ってる。でも逆らっても無駄なんだ。だから強制的に戻ることにはなると思う」

茉奈は決心した。

「レイ、じゃなくて千歳? まあどっちでもいっか。私のこと、好き?」

「うん」

「じゃ、行こっか!」

茉奈は、レイの手を引いて公園を駆け出した。レイの手を握ったまま走り続ける。レイは何が何だかわかってなくて、驚いている。
でも茉奈は走り続けた。どこまでも、どこまでも……。疲れなんて感じなかった。日差しだってへっちゃらで、走り続けた。

やっと、どこかの海に着いた。レイは肩で息をしている。あーっ、疲れた! でも最高!

「……茉奈、ハァ、ハァ……。なんで……」

「これでもう逃げられたでしょ? レイのお父さんから」

茉奈は腰に手を当て得意げにほほ笑む。

「……え?」

「だから、レイが戻りたくないなら逃げればいいじゃない! 簡単よ! 私だってレイと離ればなれになるのはイヤ」

48:れん子:2014/10/12(日) 19:38 ID:kII

こんにちは。元アイ子です…。
引っ越ししました。なのでID変わったw
なりすましではないです。明日からまた頑張って小説書きます

「中二デビュー!?」もお願いします。

49:あんず:2014/10/13(月) 10:20 ID:sAo

がんばって〜!

50:れん子◆oo:2014/10/14(火) 17:52 ID:kII

「茉奈…………」

「名前……嘘だったのはやっぱりショックだけどね。これからは、なんて呼べばいいのかわかんないし」

「ごめん。本当に悪かった。僕の事は、今まで通りレイでもいいし千歳でもどっちでもいいよ」

「そっか。じゃあレイって呼ばせてもらうよ。なんか、ごめんね。私勝手にレイのこと連れてきちゃって」

「うん」

レイと離れずに済んでほっとしている自分がいる半面、今になって考えてみるとすごく勝手なことをしたなと反省しているのも事実だった。

「お父さん、大丈夫だったの? なんかごめんね、勝手なことしちゃってさ」

「……ああ、あのまま行っててもどうなってたか……。結果は僕にもわからない」

「そっか。私は、レイとお父さんが仲直りできるって言うんなら協力するからね」

「ありがとう。……さてと、これからどうしようかな……」

「だよね。ごめんなさい。住んでいるアパートも知られちゃったわけだし」

「しばらくビジネスホテルに泊まることになるかなぁ」

「わ、私の家に来れば?」

「へ??」

私は、とんでもないことを口にした。

51:にっきー:2014/10/18(土) 10:17 ID:0r2

久々に見に来たよ!

私の事覚えてるかな?
小説面白いね!

これからも頑張ってね

52:れん子◆oo:2014/10/18(土) 17:14 ID:kII

>>51
もちろん覚えております!
頑張ります


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