遠い いつか

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1:とかげ◆4lKzA:2014/08/31(日) 17:40 ID:ffE

恋愛ものです。

遠い いつか。

2:とかげ◆4lKzA:2014/08/31(日) 17:41 ID:ffE




 月曜日、平野 歩士人はこんな噂を耳にした──あの子と自分が付き合っている──という、でたらめな噂を。




 朝、学校へ来て、歩士人はまず友達の斎藤 竜也に話しかけられた。


「なあなあ、歩士人。お前、村井と付き合ってるんだろ?」


あまりにもニヤニヤして聞いてくるため、なんだか気味が悪かった。そもそも、村井となんて付き合っていない。



「付き合ってなんかねぇよ」


歩士人は、きっぱりと答えた。


竜也はつまらなそうな顔をして、「ちぇっ」と舌打ちをする。




 ・・・・・・それにしても、村井かあ・・・。





 歩士人は、おはよう、という女の子らしい声に振り向いた。

3:とかげ◆4lKzA:2014/09/01(月) 18:47 ID:ffE

 その声の持ち主は、村井友愛だった。


 「おい、お前の彼女が来たぞ」と竜也が言った瞬間、


どこからか


「花嫁が来たぞー!」



という、怒鳴り声にも近い叫びが、教室中に響き渡る。



あまりの出来事に歩士人は顔を真っ赤にし、一方竜也は


「ちぇっ、なんだよ、どいつもこいつも騒ぎ過ぎだ」とつぶやいていた。



歩士人は、そんな彼に「お前もだろ」と、突っ込みを入れたかった。




そんな中、友愛は訳もわからず、ただただドアの前で立ち尽くしているのだった。

4:とかげ◆4lKzA:2014/09/03(水) 16:38 ID:ffE

 竜也は突然教卓の上に上り、立ち上がった。そして、こう言う。


「さてさて、新郎、新婦が揃いましたな」


その言葉が火着け役となったのか、教室にヒュー、などという音が飛び交う。



友愛は、ああ、そういうことか・・・・・・と、全てを悟った。


・・・・・・あたし、新婦なんだ。





だけど相手の新郎は・・・・・・、いったい誰なんだろう?


それを考えると、友愛はとたんに恥ずかしくなった。

5:とかげ◆4lKzA:2014/09/03(水) 16:44 ID:ffE

自分の知らないところで、自分の結婚式があげられようとしている・・・・・・、


そうとなれば、黙ってはいられない。




そもそも、今は好きな人も、付き合っている人もいない。


なのに、どうしてこんな噂がたっているのだろう?



そして、彼女の新郎は、この中にいる。







 ・・・・・・友愛は、知らなかった。



新郎が、隣の席の人だということを。

6:とかげ◆4lKzA:2014/09/05(金) 19:23 ID:ffE

 友愛は、学年の中ではそこそこ可愛い方である。


そのため、密かに友愛を狙っている男子は多く、それに比例するように、友愛に嫉妬する女子も少なくはない。



 そして歩士人も、顔やスタイルの整った人だなあと、少なからず思っていた。




 真っ黒とは言い切れない深いモカブラウン、左右で首の辺りに二つ結わえた髪。


手足はすらりと長く、健康的なほどよい肉付きである。


肌はほんの少し、黒く焦げている。おそらく、夏休みの間に日焼けしたのだろう。


顔立ちは、いかにも純粋な日本人といった感じで、一重の目はぱっちりとしている。



 そしてその美貌は、そばを歩くと、ふわりとシャンプーの香りが匂い、その癖のついた細い髪につられて、思わず振り返ってしまうほどだった。

7:とかげ◆4lKzA:2014/09/08(月) 17:48 ID:ffE

 友愛は、頬の赤いまま席に着いた。

 水色の爽やかなリュックから荷物を出していると、ふと、教卓の上のニヤニヤと笑う存在に気づいた。


どうやらその人物は、友愛と歩士人を歩士人を交互に見ているようだ。




 ・・・・・・もしかして。







 友愛の予想は、まさに的中。


「お二人さん方、お似合いですね」

竜也が言う。


 歩士人と友愛は、お互いの顔を見合った。

8:とかげ◆4lKzA:2014/09/09(火) 19:16 ID:ffE

 長いまつげ、吸い込まれそうになるきらめく瞳。

 歩士人は、友愛の魅力に魅せられて≠「た。





 ・・・・・・好きになってしまったかもしれない。





  人間というのは、他人に言われると『本当にそうかもしれない』と、妄想・錯覚してしまうものだ。


今の歩士人もまさに、その状態である。



そして友愛もまた、思わず歩士人にドキッとさせられてしまった。

9:とかげ◆4lKzA:2014/09/10(水) 21:14 ID:ffE

 ・・・・・・えっと。




 歩士人はなんて言おうか迷ったが、その間に着席のチャイムが鳴ってしまった。


 ちらりと横に目をやると、恥ずかしそうに困った表情をした友愛がいた。



「村井友愛・・・・・・」


「・・・・・・え?」

「あっ!?」



 気がつくと、彼女の名前を声に出してしまっていたのだ。


歩士人は恥ずかしくてたまらなかったが、もちろん友愛も、穴に入りたい気持ちだった。

さっきから、恥ずかしがっているばかりである。

10:とかげ◆4lKzA:2014/09/11(木) 20:46 ID:ffE

 そして、朝の学活が終わった。


 しかし歩士人は、うっとうしい気持ちでいっぱいだった。先生が話をしている途中、竜也が斜め前の席から、こちらをチラチラと見てきたからだ。


 ・・・・・・付き合ってなんか、いないのに。




 だが、それに反発するように、どこか友愛のことが気になる自分がいた。

 たったひとつの噂で、ここまで自分の気持ちが左右されてしまうのだろうか。


 それにしても、今はこんなにも彼女のことが気になっているのに、今までその魅力に気づかなかったのが不思議である。

11:とかげ◆4lKzA:2014/09/13(土) 09:06 ID:ffE

 友愛は、ぼーっと座っている歩士人に、声をかけた。


「次の授業の準備、しないの?」


歩士人は呆気にとられたような顔をして、「ああ、うん」と答えた。




 ・・・・・・まったく、いったいおれは何をやっているんだか。




 自分がこんなにも惚れっぽいだなんて、思いもしなかったのだ。だが、こんなにも苦しい感情を、彼は初めて味わった。



 ──これが、本当の恋≠ネのだと。

12:とかげ◆4lKzA:2014/09/19(金) 18:00 ID:ffE

 ロッカーへ教科書やノートを取りに行ったものの、やはり友愛が気になってしまう。
 ・・・・・・もしもできるのなら、仲良くなりたい。友達以上の関係をもちたい。
 しかし、それはあまりにも段階が早すぎる。まだ友達にすらなっていないのだ。まともに話したことだってない。




 ・・・・・・──いったい、おれはどうすればいいんだ?



「おーい、歩士人」
 あれこれ考えていると、竜也が話しかけてきた。
 少年らしい汗の臭いが、鼻を突く。
「今日の昼休み、サッカーしようぜ。適当に誰か誘って」
 今日は、特に用事はない。
「分かった」

 授業の準備をして席に着くと、隣からふわりと、シャンプーの香りがした。

13:とかげ◆4lKzA:2014/09/20(土) 13:03 ID:ffE

 その後は特に何事もなく、歩士人は体育館に向かった。昼休みも時間を有意義に使い、サッカーを十分に楽しんだ。

「あ、今から部活?」

 階段を降りていると、聞き慣れた声が耳元で響いた。後ろに振り返ると、声の持ち主はやはり竜也だった。

「おう、お前もだろ?」
「うん。ったく、だるいよな。今日は筋トレだぜ」
 竜也はサッカー部であり、中学2年生のわりに、サッカーの技術が十分すぎるほど身に付いている。
 それに比べて歩士人はソフトテニス部、基礎がやっとできるほどの、ド素人であった。

14:とかげ◆4lKzA:2014/09/22(月) 11:27 ID:ffE

 ・・・・・・本当、羨ましいぜ。まったく。


 歩士人は、その親友に憧れていた。彼は頭は悪いが、運動神経が半端ではなく、なにげにモテているのだった。そんな親友に、歩士人は強い憧れ、尊敬、嫉妬心を抱くのだ。

 とはいえ、歩士人も出来が悪いわけではない。むしろ運動神経はそこそこ、たまたまなんとなく¢Iんだ部活のソフトテニスが苦手なだけで、成績も、通知表に『5』がいくらか付くほどである。
 しかし彼は、特に目標を持っていない。部活も自分に合っていそうなものを適当に選び、偶然にもそれがハズレだったのだ。そのことが引きがねとなり、毎日を放浪するような生活を送ることになったのである。


「あーあ、なにか面白いことないかな。なあ、竜也」

 そうは言ったものの、どこにも竜也の姿はなかった。どうやら、歩士人をおいて行ってしまったようだ。
 不覚にも独り言を言ってしまい、無性に恥ずかしくなった。

15:とかげ◆4lKzA:2014/09/24(水) 19:01 ID:ffE

 ・・・なんだか、眠くなってきてしまった。暖かい午後というのは睡魔の大好きな時間であり、歩士人も、睡魔の餌食となってしまったようだ。
 ひとつ、大きくあくびをすると、後ろから柔らかな女の子の声がした。

「じゃ、わたし帰るね。あとでメールしとく。・・・・・・うん、また明日!」

 その声の持ち主は、村井友愛だった。


 こういう時に限って、なぜばったりと居合わせてしまうのだろうか。歩士人は嬉しくて胸がいっぱいになったが、手が届くのに、その手を伸ばさない自分が憎かった。なんとももどかしい思いである。

 しかし、こんな状況でも睡魔は手を休めない。
 そんな眠気との悪戦苦闘の末、歩士人は勇気をふりしぼって友愛に話しかけてみようと、試みた。




 ・・・・・・さあ、歩士人。頑張れ。

16:猫又◆Pw:2014/09/24(水) 23:40 ID:q4g

 とかげさん、エントリーありがとうございます。猫又です。

 感想希望ということなのですが、率直に言うと『ストーリが面白かったです』。
全く意識していなかった二人が、でたらめな噂によって意識し合うようになるという過程を、
地の文・セリフ共にバランスよく表現できていますし、
心情描写の入れ方など、私自身参考にしたい部分もたくさんありました。

 なので、見所にあったように「揺れ動く登場人物の気持ち」がよく伝わってきました。……と、
言いたいところなのですが、少し問題がありました。
 それは、視点です。
 感想希望なので手短に書きますが、一つは >>4 >>5 で歩士人から友愛視点に『急に切り替わっている』こと。
もう一つは地の文で1人称 >>12 と、三人称 >>13 が、混ざってしまっていることです。

 簡単に言うと一人称は、
○主語は絶対に(私・僕・俺・オレ)等々
○主人公(語り手)以外の心情(心の声)を書いてはならない。
○視点は完全に主人公に固定されるので「あれこれ考えていると、竜也が話しかけてきた」のように、
 僕や私(主語)を省くこともできる。
○基本的に主人公から視点を動かしてはならない。(プロローグ等を除く)

 3人称は、
○主語は(彼・彼女・キャラ名)等々
○主人公以外の心情も補足程度に書ける。
○視点は読者・作者にあるので、かならず誰が行動・発言したのかが分からなくてはならない。
○違う話でなら違う視点を使ってもイイ。(1話はA、2話はBのように)
 (ただしそれなりのテクニックがいる)

 といった感じです。
これを踏まえて書くのはけっこう難しいのですが、かといって適当に視点や書き方を変えると、
『揺れ動いているのが視点なのか・書き方なのか・それとも登場人物の心なのか分からなくなってしまうんです』
 (↑誰が上手いことを……)

 そういうわけなので、私が思う限りそこを意識すればもっと読者に伝わりやすくなるんじゃないのかなと思いました。
なんか結局、個人的な文句になってしまってすみません。では、

17:とかげ◆4lKzA:2014/09/25(木) 07:14 ID:ffE

>>16:猫又さん
ありがとうございます。

ストーリーが面白かったということで、自信がつきました。
ただやっぱりわたしはまだまだ未熟ですし、感想を希望したのにアドバイスまで書いてくださって、本当に助かります。
視点が途中で切り替わっているのは、おっしゃる通りです。。

わたしは三人称で書いていきたいので、これからはもっと文を推敲し、面白く読みやすい話を書いていきたいと思います。
ありがとうございましたm(__)m

18:とかげ◆4lKzA:2014/09/27(土) 09:05 ID:ffE

「今、から、帰んの?」

 歩士人は緊張で、言葉をつまらせてしまった。しかも声はいつもより小さく、聞こえるか聞こえないか微妙なところだ。



「・・・・・・平野?」
「う、うん」

 それでも友愛は、歩士人に気づいたようだった。
 友愛は、顔を赤らめていた。どうやら彼女も、緊張しているらしい。






 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、しばらくの沈黙が続いた後、空気を裂くようにして、歩士人が声をあげた。
「村井は、部活、やってないの?」

19:とかげ◆4lKzA:2014/09/30(火) 07:43 ID:ffE

 友愛は、プルプルと顔を横に振る。
「ううん。一応部活は入ってるけど、今日はピアノの日だから・・・・・・」

 小さな声で言い終わると、なんともいえない感覚が彼女を襲ってきた。



 ・・・・・・どうして。もう、こんなの嫌だ。 部活も、ピアノも、忙しいのに。それなのに、合唱コンクールのピアノ練習もあるなんて。

 




 なんで、わたしが。






 友愛は悩んでいた。
 自分を取り巻く環境にうんうんと頭を抱え、心の中で唸るのだ。

20:とかげ◆4lKzA:2014/10/01(水) 07:48 ID:ffE

 歩士人は友愛の表情から、何かを感じ取った。
 ・・・・・・なんだか、様子がおかしい。


 気がつくと、友愛の頬は濡れていた。知らぬ間に、泣いてしまったようだ。
 彼女は、むなしさよりも自分の泣いている姿をクラスメイト、しかも異性に晒してしまったことが、たまらなく恥ずかしく思われた。


 しかし歩士人は、幸い、空気が読めないような人間ではない。
 彼は「ごめん」と一言言い残し、体育館へと足を早める。・・・・・・だけど、申し訳なかった。
 ちらりと後ろに目をやると、つっ立って泣いている友愛がいるのかと思いきや、そこには誰の人影もなかった。

21:とかげ◆4lKzA:2014/10/02(木) 16:51 ID:ffE

 ・・・・・・本当に、あれで良かったのだろうか。


 そう思う反面、歩士人にはなぜ友愛が泣いてしまったのかが、よくわからなかった。やはり自分がいけないのか、それとも友愛の中で、何かが起こったのか・・・・・・。しかし、部活≠ニいうキーワードが絡んでいるのは間違いなかった。



「──うわっ!」

 ぼうっとしていると、前方から飛んできたテニスボールが、顔の輪郭をかすった。

「おい、何ボケッとしてるんだよ」
「ご、ごめん」

 
 そう謝ったが、相手の方はなんだか不機嫌そうだ。



 ・・・・・・このままじゃいけない。


 それは恋愛だけでなく、部活も含めてのことであった。
 歩士人はラケットに力を込め、ボールを思いきり打った。

22:とかげ◆4lKzA:2014/10/04(土) 21:52 ID:ffE

 歩士人は家に帰ったとたん、携帯を手に取った。メールの新規作成ボタンを押し、連絡先の中からたった一つを選び、文章を打ち込む。

『相談したいことがあるんだけど』


 そのメールの宛先は、歩士人の幼馴染みの田村礼だった。
 彼の、たった一人の女友達である。生まれた時からずっと一緒で、今ではクラスは違うものの、部活、さらにはマンションまで同じという、まさに偶然でできたような関係なのだ。


 胸をドキドキいわせながら待っていると、着信音と共にバイブの震え声が聞こえてきた。

23:とかげ◆4lKzA:2014/10/07(火) 16:27 ID:ffE

 歩士人は携帯の電源を入れ、Cメールアプリを確認する。
「礼だ」
 わざとらしくそう呟きながら、内容を見てみる。そこには、こう書かれていた。

『なに』

 相変わらずの、そっけない態度である。こっちは真剣だというのに、・・・・・・まあ、彼女なら仕方ないともいえるだろう。

 しかし、いざとなって相談すると思うと、なんだか手足の震える思いだ。

24:とかげ◆4lKzA:2014/10/09(木) 21:07 ID:ffE

『同じクラスで村井って人がいるんだけど、好きになったっぽい』

 何度も唾を呑みこみながらそう打ち込み、歩士人は送信ボタンを押した。──もうどうにでもなれ──と思いながら。



 礼は、歩士人にとってとても信頼できる相手である。性格はややキツめだが、口は決して軽くない上、約束はちゃんと守る。よくできた幼馴染みだ。

 しんと静まりかえった自分の部屋で返信を待っていると、突然、玄関でチャイムが鳴った。

25:とかげ◆4lKzA:2014/10/11(土) 10:55 ID:ffE

 ・・・・・・礼?
 歩士人の脳裏に、そんな直感が浮かぶ。

 急いで玄関まで行き覗き窓を見てみると、そこにいたのは、髪を肩まで下ろした背の高い女の子だった。
 よく目を凝らして細部を見てみると、彼女はまるで性格を表すかのようなつり目をしていて、腕は太く筋肉の存在が感じられる。


 間違いなく、田村礼だ。



 歩士人は、ドアを開けた。

26:とかげ◆4lKzA:2014/10/12(日) 13:28 ID:ffE

「やっほー」

 ドアが開かれた瞬間、礼はそう言って靴を脱いだ。
 図々しいにもほどがある。

「おいおい、何勝手に上がろうとしてるんだよ」
 幸い、今日は母親がバイトでいなかったからよかったものの、突然家に入られたら誰だって困る。
 それなのに礼は、
「いいじゃん、どうせおばさんバイトなんでしょ。さっきスーパーで見かけた」
と言って、悪びれる様子もない。

 歩士人は半分あきれながら、コップに麦茶を注ぐ。

「なんで来たんだよ」
「まあ、実際に話を聞いた方がいいでしょ」


 ・・・・・・そう言って、本当はお菓子を食べに来たんだろ。

 歩士人はそんなことを思いながら、いつのまにかスナック菓子の袋をつかんでいることに気づいた。

27:とかげ◆4lKzA:2014/10/15(水) 20:53 ID:ffE

 いくら歩士人でも、やはり礼にはかなわないのだ。『女は強い』とよく言うが、それよりも数倍、礼は強い。


「ほらよ」

 歩士人はポテトチップス、チョコレートなどを大きな平皿に乗せ、座っている礼の前に差し出した。

「ありがと」
 礼はそう言い、チョコレートの包み紙をひっぺがす。
 コロンとした可愛らしいチョコレートで、なんだか彼女には、あまり似合わない。

28:とかげ◆4lKzA:2014/10/16(木) 21:16 ID:ffE

 礼はチョコレートを口に放り込むと、もぐもぐしながら
「早く、相談内容教えてよ」
と言う。

 いよいよだ。
 相談相手が礼であるからには、きっと良いアドバイスをもらえるに違いない。同性の友達に相談するより、ずっとマシである。

 歩士人はためらいながらも、今までのいきさつを、すべて話した。


 礼はウンウンとうなずき、歩士人の話を聞き終えた。
 そして何かを考えるように目をしきりに動かし、今度はポテトチップスを頬張る。礼が口を動かすたびに、バリバリと音がした。

「なるほどね」

29:とかげ◆4lKzA:2014/10/18(土) 18:15 ID:ffE

 礼はそう言うと、コップの中身を全て飲み干した。


「わかった。それじゃあ、こういうのはどう? あたしが友愛と友愛の友達を誘うから、歩士人は誰か、他の友達を誘うの。それで、その時にメアドでも聞けばいいんじゃない? たぶん友愛も、歩士人のこと意識してるだろうし」


 ・・・・・・すごい。


 歩士人は、素直にそう感じた。

 さすが礼だ。
 彼女に相談して良かったと、歩士人は心からそう思う。

 きっとこの作戦なら、上手くいくだろう。
 歩士人はわくわくして、その日の夜はあまり眠れなかった。

30:とかげ◆4lKzA:2014/10/20(月) 20:53 ID:ffE

 次の日の朝、歩士人の携帯に新着メールが入っていた。
 差出人は、無論礼である。友愛と友愛の友達を誘った、という内容だった。

 礼の行動が早いため、歩士人は、少々追い付けないと感じるのだった。


 歩士人は学校へ行こうと家を出ると、ちょうど礼が目の前にいた。
 すぐ近くの彼女の揺れる髪をぼーっと眺めていると、向こうの方から声が掛かってきた。

「おはよ」
「おう」

 いつも通りの、たわいもない挨拶だ。

31:とかげ◆4lKzA:2014/10/22(水) 18:24 ID:ffE

「じゃ、誰か誘っといてよ」

 黒目がちの瞳を歩士人に向けながら、礼はそう言う。
 歩士人はうなずいて、二人は学校に向かった。


 朝練が終わり、教室に入ると、すでに竜也がいた。

「おはよう」
「あ、歩士人。おはよ」

 歩士人は彼の元に行って挨拶をしたが、竜也の周りで、むわっと汗の臭いが充満する。あまり心地のよいものではない。歩士人は吐き気を覚えた。

32:とかげ◆4lKzA:2014/10/25(土) 10:27 ID:ffE

 鼻を指でつまみながら、歩士人はこう言った。

「あのさあ、今度どこか行かねえ?」

 なんとも簡潔な誘い方だ。だが、歩士人からすれば、この方が都合が良い。

 しかし竜也は顔をしかめ、
「はあ? どこに行くっていうんだよ。金もないしだるい」
と言う。


 ──こうなったら──


 歩士人もそこまで小遣いがあるわけではないが、せっかく礼が案を出してくれたのだし、もし『誘えなかった』とでも言ったらどうなるかわからない。こんな風に自分から誘える友達も、竜也ぐらいしかいない。

 竜也を無理矢理買い物に付き合わせる方法、それは──。

33:とかげ◆4lKzA:2014/10/25(土) 12:32 ID:ffE

うーんなんか詰んできた。
とりあえず続けます。

34:とかげ◆4lKzA:2014/10/28(火) 13:50 ID:ffE

 歩士人は焦りながらも、自信に満ちた顔で言った。


「わかった。なら、こういう条件だったらどうだ? この前みたいに、食べ物代は全部おれが払うんだ」


 こんなの、自分から爆弾を抱き締めるようなものだ。しかも相手は竜也だから、昼食はもちろん、アイスやお菓子を大量に奢らせるに決まっている。

 そして竜也は、それがわかったとたん、幼い少年のように目をキラキラと輝かせた。




 ・・・・・・ああ、今月はきっととんでもないほどの金欠だろうな──歩士人はひっそりと、心の中でそう思った。

35:とかげ◆4lKzA:2014/11/02(日) 17:09 ID:ffE

 歩士人は、礼たちが来るということを、あえて言わなかった。そのことがわかったら、竜也は誘いに乗らないからである。

 それはまさに、買い物と称した作戦だった。


「うーんと、昼飯は何にしようかな。ハンバーガーもいいけど・・・ううん」

 一方竜也はそんなことも知らずに、のんきに空想を膨らましている。



 ・・・・・・村井の私服。

 しかし歩士人も、彼とあまり変わらないようである。

36:とかげ◆4lKzA:2014/11/09(日) 11:55 ID:ffE

 授業をすべて終え、歩士人は自宅マンションのエレベーターに入り階のボタンを押すと、どこからかダダダッという音が聞こえ、礼が乗り込んできた。その直後、ドアは閉まり、まさに間一髪だった。

「ごめんごめん」
 礼はへらりと笑う。

「危ねえよ・・・」
歩士人は注意を促すが、彼女は全く聞いていないようだ。


 エレベーターが移動する間、礼は鼻唄を歌っている。お世辞にも上手いとは言えないものだった。

37:とかげ◆4lKzA:2014/11/16(日) 09:23 ID:ffE

 なんとも言えぬ空気が、二人を包んだ。
 エレベーター独特の臭い、原曲の音程を失った礼の鼻唄・・・・・・、歩士人は顔をしかめるしかなかった。

 目的の階に着くと、扉が開いた。
 重たそうな鞄をゆらゆら揺らし、礼はフロアに出る。


 そこで歩士人は、あることに気がつく。

「あれ? なんでラケット持ってるの?」
「ああ、今日部活あると勘違いしちゃって」

 礼はそう言い、図々しく歩士人の家の扉の前で待つ。

38:とかげ◆4lKzA:2014/11/23(日) 13:53 ID:ffE

「はいはい、今開けるよ」

 歩士人はそう言い、しぶしぶ鍵を鍵穴に差し込んだ。


 今日も、歩士人の母親は家にいなかった。
 幼馴染みの母親の仕事の日まで調べるとは、礼もあなどれない。

 廊下を歩くと、その冷たさに歩士人は驚いた。もうすぐ冬ということに、なんだか焦りを覚える彼だった。

39:とかげ◆4lKzA:2014/12/03(水) 21:56 ID:ffE

 歩士人は、肩に背負っていたエナメルバックをドサッとリビングの床に置いた。教科書などは学校に置いてきているため、バックの中には弁当箱くらいしかない。

「歩士人のカバン、小さいよね。どうせ置き勉してるんでしょ」

 礼は嫌味っぽく言った。

 不真面目でわるかったね、優等生さん──歩士人はそう返そうと思ったが、やっぱりやめた。礼の反惑を買ったとして、なんの得もないからだ。実際、そんな経験がいくつかある。

40:とかげ◆4lKzA:2014/12/06(土) 21:23 ID:ffE

 二人は手を洗い、歩士人はリビングの椅子に座っている礼の前にスナック菓子を差し出した。
 昨日から販売され始めた新商品だ。歩士人には少し惜しい気持ちがあったが、家にはそれしかなかったので、仕方がない。

 礼はサンキュー、と言って菓子の袋をビリッとやぶく。

 すると、ほわんといい香りがしてきて、なんだかのほほんとした気分になる歩士人だった。



 気がついたら、袋の中身は空になっていた。

41:とかげ◆4lKzA:2014/12/21(日) 21:17 ID:ffE

あげます( ∩・∇・)∩

42:とかげ◆4lKzA:2014/12/29(月) 13:36 ID:ffE

 お菓子の誘惑には勝てないわね──礼はそう言って笑った。今朝のように、彼女の髪がゆらりゆらりと揺れる。そんな光景に、歩士人は釘付けだった。


 ・・・・・・いけない。




 歩士人ぐらいの年齢の男児が同級生や女性の姿を見てドキッとするのはごく当たり前だが、彼はそんなふうに礼を見てしまった自分を悔やんだ。それは、礼が幼なじみだから──でも──女友達だから──でもない。村井友愛という、初めて異性として好きになった人がいるからだ。


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