少年達の雄叫び

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1:◆XI:2014/11/02(日) 21:17 ID:ppY


練習に。

指摘や感想等あればウレシス。

2:◆XI:2014/11/02(日) 21:18 ID:ppY


 雲一つない空の下、数年前まで兵士の輸送に使われていたトラックに乗る、少年が二人。
 助手席に座る少年が、果てなく続く砂漠の途中に、黒い物体を一つ見つけた。

「なんだろう、あれ」

「……さあな……人間の死体だろう」
 もう一人の、運転席に座る少年は平然と言ってのけた。

「ああ、そうかも……いや、そうだろうね」

 こんな事を何食わぬ顔で話すのは、四年前ならば常軌を逸しているだろう。
 だが、今はもはや違う世界……こんな会話が、日常の中に組み込まれてしまうような時代。

 2027年、七月。世界は終わっていた。

3:◆XI:2014/11/02(日) 21:22 ID:ppY


「おい昌(しょう)、俺達が砂漠を走り出して何日目だ」
 トラックを運転する、右の頬に痣のある、目つきの鋭い少年が、もう一人に尋ねる。
 もう一人の昌と呼ばれた、まだあどけなさの残る顔つきの少年は腕時計を確認する。

「もう三日くらいは経ったかな」

「大分かかっちまったな」
 一つ溜息をついた後、少年はハンドル片手に軍用の水筒を取り出し、豪快に飲み干した。

「亮(りょう)、それ飲んじゃっていいの?もうそれが最後なのに」

「もうそろそろ目的地だからな」

 そう言った直後、地平線の向こう側から徐々に街らしきものが姿を現す。

「小さい街だが、弾薬や食糧くらいは補給できるはずだ」

 街に着き、トラックから降りる二人。
 その街には全くと言っていいほど人気が無かったが、二人は全く動揺することなく、近くの食料品店に入っていく。
 二人は店にあった食糧を持てるだけ持って出ると、それらを躊躇なくトラックに積み込んだ。

「とりあえず僕は使えそうな物を探してくるよ」

「じゃあ俺はここを見張っておく。ほら、一応これ持っていけ」

 亮、と呼ばれる少年が一丁のリボルバーとホルスターを取り出し、昌に渡した。

「いまどきリボルバーって……いくらなんでも」
 昌は渡された銃について愚痴りながらも、慣れた手つきでホルスターを腰に巻き付け、リボルバーを収めた。

「西部劇なんかじゃあ定番アイテムだったらしいぜ」
 亮はそう言いながらもう一丁のリボルバーを取り出し、「俺も西部劇風に見張ってやるぜ」

「あっそ。死なないようにね」と言い残し、昌はその場から立ち去る。

「……しっかし、酷い世の中になったもんだな」
 亮が少し寂しげな顔をして呟いた。


 亮が少しうたた寝をしていると、昌が慌てた様子で帰ってきた。

「まずいよ亮、奴らがついに来た!」

「……何かあったか? 物資と状況、両方の意味で」
 亮が瞼をこすりながら言った。

「弾薬とかそういったものは既に全部取られてた……でも今重要なのは、ついに奴らが現れたってこと」

 昌が指す『奴ら』というのが何かを亮は知っていたが、彼はわざとらしく、
「奴らって?」と聞き返す。

「ふざけてる場合じゃないよ!……ああ、もう追いつかれた!」

 昌が引き返してきた道の方から、人影のようなものがいくつも現れた。
 それらは肌が赤紫に変色し、長く尖った爪はギラギラと光っており、とても人間とは思えない、何かだった。

4:◆XI:2014/11/02(日) 22:04 ID:ppY


「……いつ見ても醜い野郎どもだな」
 亮が窓から身を乗り出し、リボルバーを構え、狙いを付ける。

「それであんな大勢と戦う気なの?バカなの?」

 昌はトラックに乗り込むと、短機関銃のMP5を取り出し、窓から突き出した。
 謎の化物はよろめきながらも、じわじわと詰め寄ってくる。

「僕がある程度倒すから、その間に」

「へいへい」

 昌は確認を取ると、一発ずつ、化物の頭部を華麗に打ち抜いてゆく。
 撃ち抜かれた化物の頭部からは多量の血が噴き出て、化物は間もなく倒れてゆく。

「もっと映画っぽく、思い切り撃ちまくれよな」と亮は隣で冷静に射撃する昌を見ながら退屈そうに言った。

「そんなこと言ってないで、早く!」

「分かった分かった、分かりましたよ」
 面倒そうに亮はトラックを発進させ、昌が倒した化物の上を通り、その場から脱出した。


 暫くトラックを走らせ、また何もない砂漠に戻る。
 後ろに見えていた先程の街もすぐに地平線の向こうに姿を消した。

 おもむろに昌が地図を広げる。

「次の目的地は……オーストラリア、その次が日本、と」

「もうすぐ日本に帰れるんだな」
 亮が安堵の声を上げる。
 二人とも、故郷に戻るのは一年ぶりだった。一年の間、生存者を探して世界中を旅していた二人にとって、日本へ帰ることはとても喜ばしいことだった。
 だが、残念なことに、世界中を回ってみても、生存者は全く見つからないままだった。

「……なあ、おい、昌。あれ見ろよ」
 先程まで眠そうに運転していた亮が目を見開いて、前方を指さしていた。
 昌も何かと思い、指さす方向を見る。

「あれは……生存者!?」

 二人の視線の先にはよろりよろりとして、今にもバランスを崩して倒れそうな一人の小さな女の子が歩いていた。

5:◆XI:2014/11/02(日) 23:15 ID:ppY


 生存者を発見した二人は、すぐにトラックを止め、女の子の元へ駆け寄る。

 九、十歳くらいの容姿の女の子に、
「大丈夫?」と昌が声をかけると、その女の子は力が抜けたようにその場に倒れ込んだ。

「と、とりあえずトラックの中に」

 昌はその女の子を抱きかかえ、食糧を詰め込んであった後ろに乗せてやり、水をいくらか飲ませた。

「煌めく金髪に、透き通るような白い肌……現地民じゃなさそうだな」
 目を閉じたままの女の子を見ていた亮が冷静な口調で言った。

「でもなんでこんなところに居たんだろう……」
 昌が呟くと、目が覚めたのか、女の子は上半身を起こした。

「ここは……?」

 昌は女の子の顔を覗き込み、
「気が付いた?」

 突然の事に女の子は驚き、昌のみぞおちに一発、蹴りを入れた。
 昌は苦しそうに咳き込んだ。亮はそれを見てにやりと笑い、
「分かるか昌、こういうのは目の高さを同じにして話してやるのがいいんだぞ」と言い、しゃがみこんだ。

「お嬢ちゃん、お名前は?」

 女の子は亮の顔を見ると暫くの間、口を開いたままだったが、突然泣き出してしまった。

「り……亮の顔は怖いから仕方ないんじゃない?」
 慌てる亮に向かって、まだ少し苦しそうな昌が薄ら笑いをしてみせる。

 亮はうなだれると、「やっぱりお前が相手してくれ」と言うと、とぼとぼとトラックの運転席に戻っていった。

 昌は気を取り直し、少女に向かって笑みを浮かべつつ、話しかける。
「さて、初めまして、僕は昌。君の名前は?」

 女の子はその質問を聞いて、暫く黙りこんでいたが、突然口を開いた。

「私、誰?」

「……え?」
 昌はその言葉を聞き、思わず白目を剥いた。

6:Red◆XI:2014/11/03(月) 10:39 ID:ppY


「名前、分からない?」

「うん、分かんない」

 昌は暫く考え込んだ後、記憶喪失を疑った。

「ちょっとでいいから、思い出せないかな? 他に、住んでた所とか、歳とか」
 昌が理解しやすいようにゆっくり話す。
 女の子は身に纏っているワンピースをいじくりながら、うーん、と考える素振りを見せ、そして突然、

「ルビー! 名前、ルビー。九歳!」と元気に言った。

 記憶喪失かもしれないのでそれの真偽は定かではないが、昌はとりあえず信じる事にした。
 しかし、不明な点が一つ残る。それは、何故こんな砂漠で一人歩いていたのか、という事だった。

「じゃあルビー、どこに住んでたかは分かる?」と昌が言い終える間もなく、ルビーは
「分かんない!」と即答した。

 昌は助手席に戻り、運転席で仮眠を取っていた亮の肩を揺すった。

「亮、あの子どうする?」

 亮は瞼を開くと大きなあくびを一つして、「お前はどうしたいよ」

「このまま連れて行っていいものか、とはいってもここに残すわけにもいかないし……」
 昌は少し口ごもった。その様子を見て亮は溜息をついて一言、
「連れて行こうぜ」と言った。

 二人の間にルビーを乗せ、トラックは再び走り出した。

7:Red◆XI:2014/11/03(月) 13:35 ID:ppY


「れえ、ろほいふのー?」
 ルビーが昌の与えたクッキーを頬張りながら昌に話しかける。

 昌は少しかがんで、注意する。
「ちゃんと全部食べてから話しなさい」

 ルビーはクッキーをごくんと勢いよく飲み込むと、再び昌に話しかける。
「ねえ、どこ行くのー?」

「海に行くんだよ。そこからオーストラリアっていう国に行ってね……」
 昌が説明をしていると、突然亮がトラックを止めた。
 ルビーと昌は前のめりになり、昌が突然止めた亮に問いかける。
「どうしたの、急に」

「生存者だ。……だが、あんまり遭いたくは無かったな……伏せろ!」

 亮の突然の指示に驚きつつも、昌はルビーを抱きかかえその場に伏せる。
 その瞬間、遠くから銃声のような音が聞こえ、その直後にトラックの窓ガラスが貫かれた。

「本当に遭いたくないのに遭っちゃったみたいだね」
 昌は屈みながら狙撃銃のモシン・ナガンを取り出し、弾を込める。
 実は、二人とも、確認はしていなかったものの、生存者が存在することは知っていた。数度、目的地の街で何者かが食糧や銃弾などを持って行った形跡を見つけていたのである。

 亮が少し頭を出し、双眼鏡で銃声のした前方を確認した。そこには小型のジープと、俯せになってこちらを狙うスナイパーがいた。
「距離は……大体千メートルってとこか。手練れだぞ」
 亮が頭を引っ込めて状況を伝える。

「さすがに今の状態で相手を狙うのは無理がある……使うしかないか」
 事態が把握できずに、耳を塞いだままただ怯えるルビーの背中をさすりながら、昌は覚悟を決めた目で言った。

「おい、あれはむやみに使うな!」
 昌が何をしようとしているのか察したのか、亮が引き止める。

「こういう時に使わなきゃ意味がないよ。ごめん、亮」

 昌は身を乗り出し、モシン・ナガンを構え、そっと呟いた。
「アビリティ、32」

8:Red◆XI:2014/11/03(月) 15:29 ID:ppY


 アビリティ32。そう呟いた瞬間、昌の周りのもの全ての動きが、まるでスーパースロー映像を見ているかのようにゆっくりになった。
 焦っている様子の亮の手が近づいてくる。しかし昌はおかまいなしにスコープを覗き込んだ。

 スコープの中にこちらへ狙撃銃を構えた少女が映り込む。女であることを確認した昌はわざと少し右にずらす。

(よし、捉えた……ここで……撃つ!)

 昌の指が引き金にかかり、息を吸った瞬間、轟音と共に弾丸が銃身から飛び出る。そしてそれは数百メートル離れた相手の左肩に見事命中した。
 それと同時に、昌の周りのスピードが元に戻り、昌は意識を失った。

「おい、昌!」
 亮は昌を引きずり、車のシートの上に横たわらせる。そして、双眼鏡を手に車から顔を突き出した。
 左肩を負傷した少女を見て、亮はルビーに「ここで待ってろ」と言い、拳銃を手に走り出した。

「日本人か……?」
 亮がのたうち回る少女が着ている軍服に縫い付けられた国旗を見て呟く。

 少女は苦悶の表情を浮かべ、出血する左肩を押さえながら唸り声を上げていた。
 亮が近くに落ちていた狙撃銃のステアーIWS2000を拾い上げると、少女が亮を睨みつけた。

「私の……銃に……」

 亮は諭すように、
「何もしやしねーよ」とため息交じりに返した。

 亮は狙撃銃と少女を横抱きにして、少女が使っていたと思われるジープに乗せ、発進させた。

 トラックの近くまで来たところで止めると、亮はジープに積まれていた銃や弾丸を持ち出し、昌の元へ駆け寄った。

「昌、大丈夫か」

 亮の呼びかけに対し、昌は少し目を開き、肯いた。
 心配そうに昌を見ていたルビーもそれを見て笑顔になる。

 昌は亮の持つ狙撃銃の方へ視線をやった。
「……その銃は?」

「お前が撃った女の持っていた物だ。突然こんなのをぶっ放してくるなんてイカれてやがる」
 亮は二メートルはあるだろうかという程の巨大な銃を持ちながら言った。

「食糧難なんでしょ……僕達を襲ってきたのも多分積荷が目的だ」

「お前はどうもお人よしだな……お前、あの女の肩を狙っただろ」

 昌がばれてたか、と呟くとハハッ、と苦笑いする。
 そんなやりとりをしていると、後ろから息を切らしながらよろりよろりと少女が歩いてきた。

「そういえば、名前聞いてなかったな」と亮が少女を横目で見ながら言った。

「……近藤……怜奈(こんどう れな)」と、苦しそうにしながらも、途切れ途切れに言った。

「そうか。俺は亮、こいつは昌だ」
 亮が適当に紹介をする。
 だが、そんなことはそっちのけで少女は話し出した。

「さっきのあんたの動き……あんな即座に私を捉えて撃つなんて、とても人間業とは思えないわ」
 少女が肩を押さえながら昌の方を見る。

 それに対し、亮が答える。
「人間業じゃない……確かに、そうかもな……こいつと俺は軽く人間離れした力を持ってるんだからな」

9:匿名希望:2014/11/03(月) 17:11 ID:ppY


「人間離れ……ってどういう事なの」

 肩を押さえながら話しを続けようとする怜奈を見て、亮は包帯を取り出した。

「とりあえず痛々しいから、話す前にこれ巻くぞ」
 そう言うと立ち上がり、怜奈の左肩に包帯をぐるぐると巻きつけてテープで固定した。


「ええっと……何だっけ……そうそう、人間離れしてる、ってとこだったな」

「早く言いなさいよ」

 幾分か楽になったのか、落ち着きを取り戻した怜奈が強気な言い方で亮に迫った。
 それに対し、亮はふっと鼻で笑い、

「そんな言い方をされると教えたくなくなるんだよなあ」

「調子に乗らないで! 言っておくけど私、あんた達より年上なのよ!」
 亮の言葉に腹を立てた怜奈が、自慢げに胸を張って言った。

「まあ、こいつよりかは上かもな。精神年齢はどうか知らないが」
 亮はそう言うとルビーの頭を撫でた。

「亮、失礼だよ」と昌がたしなめる。

 怜奈は顔を真っ赤にして、怒鳴った。
「十六よ! じゅうろく!!」

 亮は食糧の消費期限を確認しながら、「あら、本当に」と、適当に受け流した。
 確かに、昌が十四、亮が十五だったため、怜奈は年上のようだった。

「それじゃあ、教えてやるよ」

 怜奈は固唾を飲み、亮を見つめる。

「俺達はな、対リミット・サイコパス用に能力開発を受けた……いわば『実験体』なんだ」
 そう言うと、亮は一枚のコインを取り出し、呟く。

「……アビリティ・2」

 そう言い、亮は右腕に力を込めた。すると、コインが一瞬にして弾けとんだ。
 それを見た怜奈は衝撃を受けたのか尻餅をつき、コインを粉砕した亮の右腕を見つめていた。

10:猫又◆Pw:2014/11/03(月) 21:26 ID:q4g

 感想よろしいでしょうか? 猫又と申します。

 読ませていただきましたが、文法的に違和感も無く、
内容も物語の運び方も本当に素晴らしい作品だと思いました。

 あえて無理やり揚げ足を取れば、>>5 の『煌めく金髪に、透き通るような白い肌』
というセリフが少々緊迫した状況に似つかわしくないとは思いましたが、
気付いたのはそれくらいです。

 とにかく、これからどのような展開になるのか楽しみです! 

……応援してます。では、

11:Red◆XI:2014/11/03(月) 21:34 ID:ppY

>>10
コメントして頂きありがとうございます。

猫又さんの挙げられた『煌めく金髪に、透き通るような白い肌』という、
どこかのラブロマンスの冒頭部分にありそうな文章についてですが、
私も投稿する前に見直した時、違和感を感じましたが、
亮はこういった場面でもユーモアの精神を忘れないキャラなのだ、という無理矢理すぎる設定を
脳内で付け加えて投稿したものですから、内心誰かに指摘されないかとビクビクしておりました。

もう少しキャラ設定などを書く前に考えなきゃダメですね^^;

12:Red◆XI:2014/11/04(火) 22:14 ID:ppY


コインを一瞬で粉砕してしまった亮の手を見つめたまま、怜奈は絶句していた。


「これが俺達の持つ力……人類の最終兵器、『マテリアル』だ」
 亮がすまし顔で説明したが、怜奈はまだ自分の目の前で起きた事を信じられないでいた。

「昌があんたを相手に使ったのもこの力だ。俺の力は『右腕の運動能力を一時倍加させる』みたいなところだ」


 怜奈がコインの破片を拾い、信じられないといった目でそれをまじまじと見つめながら、亮に聞く。
「じゃあ、あの昌って奴が使ったのは何なのよ」

「『思考速度倍加能力』……数秒間、昌は並の人間の数倍の速さで物事を冷静に処理することができる」
 怜奈はその言葉にも衝撃を受けたのか、更に目を丸くした。

「ただ、この力を使うと体力を消耗する……だからあまり使わないようにしてるんだ。昌の力は特に消耗が激しいみたいだ」

 亮は横たわる昌の方へ目をやった。それにつられて怜奈も昌の方を見る。


「さて、俺達の過去と力の秘密を喋ったわけだが……タダ……って訳にはいかないな」
 亮はそう言うと右手をバキバキと鳴らして見せた。
 怜奈は驚き、瞬発的にその場に立ち上がる。

 それを見ていた昌が溜息をついた。
「亮、あんまり怖がらせちゃ駄目だよ」

「女の子いじめてる!」
 昌に便乗するようにルビーが騒ぎ出す。
 亮は面倒くさそうに頭を掻いた。
「ああ、もう、分かってるっての……とりあえずここに来た経緯だけでいい、教えてくれ」

 怜奈はそれを聞いてふう、と溜息をついた。


 怜奈が話し出そうとすると、亮が不意に夕焼けの空を見上げ、
「あと一時間くらいで日が暮れちまうな……あんた、この後どうするんだ」

「え……? 特に決めてないけど」

「じゃあ今日は取りあえずここらへんで休息をとるぞ。俺が見張ってるから、あんたは自分の車に戻って寝ろ」
 そう言いながら亮がトラックからMP5を取り出す。

 銃弾を装填し終えて歩き出す亮を、怜奈が慌てて呼び止めた。
「ち、ちょっと待って! なんで私があんたらと一緒に行動しなきゃいけないわけ!?」

「いざという時に……例えば、リミット・サイコパス共に追われた時に犠牲にして逃げることもできる……俺達に損はない」
 亮はMP5に取り付けられたスコープを覗き込みながら、冷酷な言葉を平然と言ってのけた。

「リミット・サイコパス……さっきも言ってたけど、何のことなの?」

「あんたも見ただろ。全身紫色で爪が鋭い化物だよ。イカれた生物兵器さ」
 そう言うと亮は一枚の写真をポケットから取り出した。
 怜奈は一瞬言葉を失った……そこには、バリケードに囲まれた研究所らしき場所からあふれ出る、リミット・サイコパスという化物の大群が写り込んでいたのだった。

13:Red◆XI:2014/11/05(水) 18:23 ID:ppY


「私も何度か遭遇したけど、こんなに多くはなかったわ……」
 怜奈が写真を亮から受け取ると、それを見つめて唾をごくりと飲んだ。

 亮がその様子を見て、右頬の痣をさすりながら言った。
「俺も、そんな大群を見たのはそこに写ってる研究所の周辺に行った時の一度だけだ。あの辺りは完全にそいつらの根城にされちまってて、近づくこともできなかった」

 よほどの衝撃を受けたのか、怜奈が黙り込んだ。亮は場の沈黙に耐えられないのか、頭を掻くと、詳しい話は後だと言って休眠することを促した。
 怜奈はジープの方へ歩き出し、昌とルビーの前で立ち止り、昌に話しかける。

「ねえ、あの亮ってのは何なの」

 昌は苦笑いすると、怜奈に笑いながら言った。
「あれでも君の事を心配してるんだよ。亮はなんというか、不器用なところがあるから」
 そう言うと昌は周囲を見渡す亮の後姿を見つめる。

 怜奈も亮の方を見たが、気付いた亮が振り返って目が合うと、怜奈は思わず目を逸らした。
「私にはそうは思えないわ」と腕を組みながら言い、怜奈は自分の車に戻った。
 周到にも、鍵は抜かれていたようだった。

「ま、あの昌って方は悪い奴じゃなさそうだし、いいか」
 怜奈は呟くと微かに笑みを浮かべ、そのまま毛布を取り出して眠りについた。

14:Red◆XI:2014/11/06(木) 21:45 ID:ppY


 怜奈の朝は遅かった。

「おい、いつまで寝てるんだ」

 運転席で丸くなっている彼女の肩を揺さぶり、亮が何とか起こそうと試みるも、一向に起きる気配を見せない。亮は駄目だ、と言って諦めてしまった。
 昌も、気持ちよさそうに眠る怜奈の寝顔を見て、さすがに困ったといった感じで苦笑した。
「ここまで遅いと、心配になってくるね」

「寝坊だよ!」
 ルビーが大声で怜奈の耳元で叫ぶと、怜奈はびっくりして飛び起きた。

「な、何!? 何が起きたの?」

「ようやく起きたか。あんた、軽く十五時間は寝てるぞ?」

 亮の言葉を聞き、怜奈は空を見上げる。日はほぼ真上まで昇っており、自分の間抜けな生活習慣を見られた事に怜奈は赤面した。

「なあ……もしかして毎日こんななのか?」
 亮が頭を掻きながら、呆れた顔で言った。
 それを聞き更に顔を赤らめ、怜奈が反論する。

「んな訳ないでしょ! 暫く落着けなかったから、つい……」

「随分と信頼されたもんだな」

 亮の一言で怜奈は何も言えなくなった。
 確かに、小さな女の子が一人いるだけで、少年とはいえ見知らぬ男二人と同じ場所で寝ていたのに、安心して呑気に熟睡していたなんて正気の沙汰ではなかった。


「で、これからどうするのよ」

 顔を上げて聞くと、昌が答えた。
「アフリカの沿岸付近は自家用機で溢れかえってるらしいから、そこへ行くつもりなんだ」
 昌がボンネットの上に地図を広げる。赤い印が無数に書き込まれているが、それがおそらく飛行機のある場所を示しているのだろうと怜奈は思った。

15:匿名希望:2014/11/06(木) 23:34 ID:eJ6


続き、楽しみにしてます

16:匿名希望:2014/11/07(金) 18:21 ID:ppY

>>15
dクス

17:Red◆XI:2014/11/07(金) 18:21 ID:ppY


「自家用機なんて運転できるの?」

 怜奈にもっともな質問をされ、昌は頭を掻き、笑いながら答えた。

「いや、僕はできないよ。でも、亮は大体の乗り物は扱えるんだ。訓練されててね」

「へえ……凄いのね」
 怜奈は納得したような顔をして頷いた。

「海ー、海ー!」

 海へ行くことに喜び、はしゃぐルビーを見て、昌は笑みをこぼし、頭をなでた。


「それで、君は来る?」
 昌が、地図を覗き込む怜奈に聞いた。

「え? そりゃあ行くわよ」

 なんでそんなことを聞くのか、といった様子で返されて、昌は馴染むのが早いなと思いつつ、「じゃあ、出発しよう」

 亮は頷き、ルビーを連れてトラックに乗り込む。怜奈も鍵を受け取ると鼻歌を歌いながらジープにエンジンをかけた。
 昌がトラックに乗ったところで、二台は広大な砂漠の中を再び走り出した。

「風が気持ちいいねえ!」

 直接車内に吹き込んでくる風を受けて亮が大声で嫌味を言う。
「悪かったわね!」と怜奈がムスッとした顔で叫んだ。

 しかし、ルビーは本気で楽しんでいる様子だった。昌の膝の上で両手を振り上げ、まるでジェットコースターに乗る子供のように叫びだした。それを見て昌は苦笑する。

「ほら、そろそろだよ」
 昌が前方を指さすと、そこに街のようなものが姿を現した。
 だんだんと近づくにつれて街の状態が少しずつ分かってくる。昌が目を凝らしてみると、いくつか飛行機の翼らしきものがみえた。

18:Red◆XI:2014/11/07(金) 22:07 ID:ppY


「自家用機の天国って話は本当だったんだな」
 街に溢れかえるそれらを見て亮が呟いた。

「五年前の2022年に、アメリカの天才科学者レートン・アンドレ・コウコウが起こしたエネルギー革命……その技術に投資していたアフリカの富裕層が娯楽用の自家用機を大量購入、なんて馬鹿げてるよね」
 昌が機体に描かれている、すっかり古ぼけたピースマークを見て言った。

「当時この辺りでは空を飛ぶ飛行機を見ない時は無いと言われてたらしいな」と言い、亮は失笑した。


 暫く街を走っていると、太陽の光を反射させて、金色に輝く海が見えてきた。それを見て、うとうとしていたルビーが再びはしゃぎだす。
 昌は砂浜の近くで車を止めた。後ろに続く怜奈の乗るジープもそれに合わせて止まる。

 怜奈が車を降りてトラックの方へ歩いてきて言った。
「どうしたの? 急に止まって」

「ルビーが海に入るって聞かなくってね」と昌がルビーを抱き上げて降りてくると答えて、苦笑する。隣に乗っていた亮も溜息をついた。
 ルビーは元気よく叫びながら海の方へ走り出した。

「僕はルビーの相手をしてくるけど、二人はどうする?」

「俺はパスだな」と亮は即答した。怜奈もそれに賛成するように頷く。
 二人とも、とても遊べるような状態ではなかった。亮はほぼ毎日運転していた上に、昨日から一睡もしていないため、疲労はピークに達していた。怜奈もまだ右肩の状態は良いとは言えなかった。

「じゃあ二人はここらへんで待ってて」
 そう言うと昌はルビーの後について行った。


 残された二人は黙ってその場に座り込んだ。
 海に足を入れて冷たいと叫ぶルビーを見ながら亮が不意に切り出す。

「そういえば、あんたがここに来た経緯をまだ聞いてなかったな」

19:  Anna   ◆KY:2014/11/08(土) 08:54 ID:RBU



面白いです!頑張ってください^^

20:Red◆XI:2014/11/08(土) 13:11 ID:ppY

>>19
ありがとう でも敬語と^^辛いよ

21:Red◆XI:2014/11/08(土) 13:11 ID:ppY


 怜奈は思い出したようにああ、と言うと空を見上げ、話し出した。

「どこから話したものかしら……そうね……三年前、大人たちが最終決戦に動き出した頃だったわね」

 三年前の最終決戦という言葉を耳にして、亮は眉をピクリと動かす。2024年の秋、亮や昌、怜奈達の両親は『子供達の未来を守る』という言葉の元に、突如出現した謎の生物の討伐軍を結成した。
 怜奈は続ける。

「街に残された私達は、突然、どこかの研究員のような人たちに『安全な施設がある』ということでどこかに連れて行かれた……」

 それを聞き、亮は顔をしかめた。
 亮と昌も三年前に研究施設に入れられ、そこで二人は出会っていたのだ。研究施設で亮たちは皆、謎の能力開発を受けた。そんな過去を持つ亮はあまり聞きたくない話なのだった。

「けど、私たちの先輩が何かに気付いて、隙を見はからって私たち後輩を何とか逃がしてくれたの……自らの身を犠牲にして」
 話す怜奈の顔は次第に暗くなっていった。

「先輩たちが何を知ったのかは私には分からない。けど、私たちを必死に逃がそうとしたあの時の表情は、今でも忘れられないの」

 その場が静まり返った。ルビーの嬉しそうな声が響いてくる。
 昌は振り返ると、何故かうなだれる二人を見て首を傾げた。


 暫く黙っていた亮が腕を組んで、
「研究員に施設へ連れて行かれたら、まず薬の投与を行われるんだ。それで九割が副作用に耐えれずに死んだらしい」

 怜奈は衝撃を受けたのか、涙目になった。
「そ、それじゃあ……先輩たちもみんな死んじゃったの?」

「そこまでは俺には分からんが、もしかしたら生きてるかも……それで、あんたは逃げた後どうしたんだ?」

 怜奈はええ、そうかもしれないわね、と言って頷き、涙を手でぬぐうと再び話を始めた。

「私たちは先輩たちに国外へ逃げるよう言われてたから、船を使って中国に入ったわ」


 怜奈の脳裏に当時の状況が浮かんできた。
 船から降り、皆が街を観光気分で回る中、怜奈は一人周囲を警戒していた。
 そんな時、突如として街の至る所から何かが現れ――。

 怜奈は眉にしわを寄せた。

「突然現れた無数の謎の生き物に、私以外の全員が殺されたわ」

 怜奈は続ける。

「私は無我夢中で船の中に置いてあったあの狙撃銃を一発撃った。運良く化物の頭に当たって、私はそこから逃げ出したの」


 話し終えた怜奈の顔は寂しそうで、そしてどこかにまだ不安が残っているようだった。
 亮は話を一通り聞くと、溜息をついて手を怜奈の頭にポン、と乗せて言った。

「あんたはもうよくやった。ここまで生き延びただけで十分だ」

 怜奈は熱くなってくる目頭を腕で覆い隠し、
「生意気なのよ」
 小さく、少し震えた声で言った。

22:Red◆XI:2014/11/08(土) 18:23 ID:ppY


「その後も化物……リミット・サイコパスだっけ? それとは何度か遭遇したんだけど、どうも私、射撃の才能があるらしいのね」

 怜奈が自信ありげに、銃を構えるポーズを取ってみせた。
 そんな事を言っていると、昌とルビーが砂浜から戻ってきた。

 ルビーは満足そうに笑い、亮と玲奈に向かって手を突き出した。

「ねえ見て! 貝殻拾った!」

 手の中には綺麗に渦を巻いた貝殻があった。
 怜奈がそれを見て笑いかける。

「あら、凄いわね! そういえば、貝殻に耳を当てると波の音が聞こえるらしいわよ」

 昌は怜奈の赤くなった鼻を見て、薄ら笑いを浮かべながら亮に小声で話しかける。
「亮、女の子泣かすなんて見損なったよ」

「い、いや、違うんだ。俺は何もしてない」
 亮が慌てて弁解する。しかし、昌は意地悪そうな顔をして、ほどほどにね、と返した。
 亮は深く溜息をつき、頭を掻いた。

「もういい。いいからさっさと飛行機に乗るぞ」

 近くにあった自家用機を指さし、あれでいいだろうと言うとトラックに乗り込んだ。



「燃料も十分にあるみたいだ。この機体だと軽く世界を一周はできそうだな」
 亮がメーターを見て報告する。
 それを聞き、怜奈は驚きを顔に表した。
 銃器を機内に積み終えた昌はその場に倒れ込んだ。そして突然起き上がったかと思うと、二人に愚痴をこぼした。

「ルビーが肩車するって言って聞かないから、ただでさえ一人なのに肩車しながら荷物運んだんだよ!?」

 ヘトヘトになった昌の様子を見て、亮と玲奈が声を揃えて言った。
「甘すぎじゃないのか?」

 何も言い返せなくなった昌は黙って機内の椅子に腰を下ろした。

 亮はやれやれ、とこぼし、

「それじゃあ出発するか」


 何も変化の無い静寂の飛行場で、一機が音を立てて飛び立った。それは上空を旋回すると、東の方へと向きを変えた。
 機内でルビーが、さっきまで自分がいた陸地や海を見つめ、目を輝かせる。
 昌と玲奈は疲れたのか、すっかり眠ってしまった。

「何でこんな無駄な知識習得しちまったんだろうなあ……」
その二人を羨ましそうに見つめ、亮が呟いた。

23:Red◆XI:2014/11/09(日) 21:38 ID:ppY


 すっかり日は沈み、ただ延々と海が続いていたが、ずっと向こうの方に陸地のようなものが見えた。
 亮が重い瞼をこすり、遠方に目を凝らす。

「あれは……!?」

 自分の見たものを信じられない、といった様子で再び目をこする。
 突然上げられた声に反応して眠っていた昌と玲奈が起き上がった。

「どうしたの亮、大声上げて」

 昌は大きな欠伸をすると、自分の膝の上でお構いなしに眠るルビーの頭を撫でた。

「あれを見ろ。あの街、明かりがついてる」

 亮が指さした方向には、黄色い光が密集した地域があった。

「そんな……有り得ない」

 昌がその一点を見つめていると、気になった怜奈もそこに視線をやった。
 徐々に街に近づくにつれて、ぼんやりとした光ははっきりとしたものに変わってくる。それは間違いなく建物の明かりだった。

「日本以外にもちゃんと機能してる街があったのか……驚きだな」

 亮は驚きのあまり、すっかり眠気も飛んでしまった様子だった。

「目的の場所はもうちょっと先にあるんだが……ここら辺の飛行場かどこかで着陸するぞ」

 亮は機体を旋回させながら、着陸可能な場所を探す。そして、丁度いい広さの飛行場を見つけると、そこへ機体を近づけた。

「ちゃんとシートベルトしろよ」と亮が言うと、怜奈が慌ててシートベルトを装着する。


 突然、昌が何かに気付いた様子で下を見渡した。
「ちょっと待って」
 そして亮が理由を聞こうとすると、先を取るように続ける。
「リミット・サイコパスだ……それも数百から数千ってくらいの大群だ」

 よく見ると、飛行場のバリケードの外側には、うじゃうじゃと蠢く奴らの姿があった。

24:Red◆XI:2014/11/09(日) 22:58 ID:ppY


「今はかろうじて飛行場の中には来てないみたいだが、着陸させたが最後、バリケードなんて簡単に破壊してきそうだな」
 亮が下の様子を確認し、顔をしかめた。

「光のことは僕が確認してくる」
 昌は少しうつむくと決心したように言い、寝ていたルビーを座席に座らせてシートベルトを付けさせると、MP5を持って扉をやや強引に開けた。
 操縦しながら顔を向け、亮が叫ぶ。
「待て昌! 無茶だ」

 しかし、昌は聞く耳を持たず、一つのビルの真上に来ると、怜奈にロープを渡し、戻ってくるときに垂らすよう言うと、思い切りよく飛び出した。
 昌はビルの屋上で着地し、何度か回転すると、すぐに走り出した。
 それに気付いたリミット・サイコパスが数匹、ビルの内部へと入っていく。

 亮は屋上の扉を破壊する昌を見て頭を掻いた。

「クソッ、あの馬鹿!」

「わ、私も行くわ」と玲奈が言い終える前に、今までに見せたことがないほどの睨みを利かせて、亮が怜奈を制止した。
「あんたが行ったって状況は同じだ。それにあんたじゃああいつの足手まといになるだけだ……ここはあいつに任せるしかない」

 足早に建物の中に入っていく昌の後姿を見て、亮の頬に一筋の汗が流れた。

「死ぬなよ、昌」

25:にっきー:2014/11/22(土) 22:52 ID:q8U

コメント失礼します

題名に惹かれ見てみたらすごく面白かったです
私はこういう話が好きで、とても楽しく
読ませて貰いました。

描写なども自然で読みやすかったです

これからも応援してますので頑張ってください(^^)

26:康:2014/11/25(火) 22:00 ID:Pl6

話が面白くて楽しく読ませていただきました!!

これからも頑張って書いていってください!!

応援しています!!(∩´∀`)∩

27:Red◆XI:2014/11/25(火) 23:12 ID:ppY

>>25-26
dクス。


並行して書いていかなきゃならん

28:匿名希望:2014/11/26(水) 06:30 ID:Vus

29:Red◆XI:2014/11/28(金) 21:11 ID:ppY


 昌はビルの階段を駆け下り、分かっていたこととはいえ、電気が通っている事に衝撃を受けた。

「これは生存者がいるに違いない」

 天井から下を照らす電灯を見て呟く。
 すると、先ほど一階から侵入してきたと思われる怪物が数匹こちらへ向かってくるのが見えた。紫色の顔を歪めて、唸り声を上げながら走ってくるのを見て、冷静に銃を構える。
 ビルの中を銃声が響き渡った。一発ずつ、正確に頭部に命中させてゆく。倒れる化物達の後ろから、更にもう一匹が距離を詰めてきた。
 昌は素早くナイフに持ち替え、鈍く光る爪をヒラリとかわし、ナイフを顎に突き刺した。そのままハイキックをお見舞いすると、怪物は他の倒れていた奴らの上に覆いかぶさるように倒れた。

「ここは急いだ方がよさそうだ」と呟き、リミット・サイコパスの顎からナイフを引き抜くと、階段を駆け下りる。

 一階にたどり着いたところで、昌は足を止め、近くの柱に身を隠した。化物が十数匹、周辺をうろついていたのだ。
「リミット・サイコパスがやけに多いなあ……発電所まで少し遠回りした方がいいかな」

 昌はリミット・サイコパスの集団とは逆方向に走り出した。空を見上げると、亮たちが乗る自家用機が旋回を続けていた。
 そして走りながら、申し訳なさそうな顔でそれに目をやった。

「ごめん……でも生存者がいるかもしれないんだ、諦める訳にはいかないんだ」

 発電所らしき建物がいくつものビルの奥に見えてくる。
 昌はあそこに人がいるにに違いない、と信じ進む。だが、実は心の中で昌は薄々気づいていた。このリミット・サイコパスの大群がいるというのに、誰かが生き残っているだなんて有り得ない、という事に。
 何とか化物の目を掻い潜り、はっきりと発電所が見えてきた。

「よし……ようやく……しまった!」

 昌は少し油断したせいか、曲がり角を曲がったところで大量のリミット・サイコパスの前に飛び出してしまった。
 昌を捉える赤く染まった目。止むを得ない、と呟き銃を構えたが、とても対抗できるような数ではなかった。


「ねえ、亮、あれ見て! 昌が危ない」

「何!? ……おいおい、マジかよ」

 窓からリミット・サイコパスに囲まれる昌を発見し、二人は冷や汗を流した。

「助けるぞ。怜奈、ロープを垂らせ!」

「わ、分かった!」

 怜奈は何とか扉を開き、先ほど昌に渡されたロープを地面に向かって下ろしてゆく。
 しかし、高度が高すぎるのか、ロープは全く届きそうにない。

「高すぎるわ、もっと下げて!」

 怜奈は下を見下ろしながら叫んだ。しかし、ビルの密集した街でこれ以上高度を下げることは殆ど自殺行為だった。

「……仕方ない、一か八かだ!」

 じりじりと昌に詰め寄るリミット・サイコパスの群れを見て、亮は期待を大きく旋回させた。
 怜奈は大きな機体の揺れに足を踏ん張って耐えた。

 昌はMP5を撃ち続けるが、倒しても倒しても、その後ろからあふれ出るように迫ってくる化物を相手に必死に戦っていた。だが、それも長くは持たず、弾丸が切れた音が響く。
 再装填する暇もない昌は、苦渋の選択でナイフを取り出した。
 その瞬間、後ろから轟々と大きな音が近づいてくるのを昌は感じた。

「昌! 掴まって!」

 高度をかなり下げた機体が、速度を落としこちらに飛んでくる。そこからは怜奈がロープを垂らしていたが、やはり地面には少しばかり届いていなかった。

 昌は化物達の後ろに見える発電所に目をやったが、眼前の敵の群れに視線を戻し、突破できないと悟った。
 昌は飛行機が近づいてきたところで、ナイフを正面のリミット・サイコパスに投げつけた。
 ナイフは見事な弧を描いて頭部に突き刺さる。それと同時に、昌は走り出した。

「ええいっ!」

 力のこもった大声を上げ、突き刺さったナイフに足をかけ、ありったけの力を入れた。
 飛び上がり、昌の手がロープの先端を掴んだ。

「掴まったわ」

「全く……こんなフライトをさせられるとは思わなかったぜ」
 汗を手で拭い、亮は静かに溜息をついた。

30:Trivia◆XI:2014/12/26(金) 17:33 ID:rao


 暫く続いた沈黙を破ったのは亮だった。

「昌、二度とさっきみたいなことはするな」

「で、でも、あそこには確かに人がいるはずなんだ」

「あの大群の中で生き残れてるとは考えにくい。一度体制を立て直してもう一度調査に行く」

「わ、分かったよ……」

 亮の顔はいつになく真剣だった。
 その雰囲気を感じ取った怜奈が落ち着かない視線で機内を見ていた。
 相変わらず昌の膝の上で眠り込んでいるルビーにふと目をやり、また戻す。

「ひとまず日本に帰る。あそこには、一応頼りになる奴ならいる」

「亮、それってもしかして……」

 何か知った風な二人を見て怜奈が首を傾げた。
「誰なの? それ」

 亮はその問いを聞いて、少し苦い顔をした。その、日本にいる『頼れる奴』のことを思い出したくなかったのだ。

「まあ、会えば分かるさ。年は俺より三つ上だ」

「ふうん……」

 何かを察し、怜奈はそれ以上詳しく聞くことを諦めた。
 どうやら、相当嫌っている人物らしいと怜奈は思った。

「まあ、日本へはまだ数時間ほどかかりそうだ。お前らはもう寝とけ。俺は日本に着いたら寝るから、昌、お前はあいつに会って事情を説明しとけ」

「え……僕?」

 本気で会いたくないのだな、と怜奈は思い、フフッと笑みをこぼし、目を閉じた。

31:Trivia◆XI:2014/12/26(金) 22:02 ID:rao

 ――朝日に照らされたオレンジ色の空が、静寂に包まれた大都市を覆っていた。

 しかし、その何の音も聞こえないはずの都市の中で、一つ、音楽が流れ始めた。
 2020年に大流行したアニメ、『アイドル・レコード』の中で流れる歌だった。
 そして、何も動かないはずの街で、三つの影が道路の上で動いていた。

「ハイ! ハイ! ハイ! ……今日も最高だな」

「さすが、黒尾見先輩は動きが違いますぜ」

「キレと躍動感、最高ッス!」

 歌が終わり、三人が手にしていたサイリウムの光が消える。

「お前らも最近はすっかり一人前に打てるようになってきたな。神田、零崎」

「そ、そんなことないですぜ! まだまだ黒尾見さんには勝てる気がしません」

「そうッス! 先輩を越すなんて、自分には無理ッス!」

 そう言うと、二人は男に向かってお辞儀をした。
 男は笑いながら、よせよ、と言うと、ふと空を見上げた。

「フフ、神田、零崎、どうやら客人のようだ。出迎えの準備をしておけ」

「客人……ですかい?」

「ああ。俺の旧友ってとこだ」

 男は遠い海の彼方の方へ目をやり、笑みを浮かべた――。



「おい、そろそろ着くぞ」

「すごい! 昌、見て、見て!」

 昌と玲奈は亮とルビーの声で目を覚ました。
 昌がルビーが指す窓の方を見ると、そこからは太陽の光が差し込んできており、眩しさのあまり思わず目を瞑った。
 再び目を開けて窓の外を見ると、水平線の中央から、黄金色に輝く太陽が顔を出しているのが分かった。

「きれいね……」
 怜奈は外の景色に夢中になり、思わずこぼした。

「そろそろ日本の飛行場が見えてくるはずだ、準備しておけよ」

 亮はどうでもいい、といったような感じで大きな欠伸をしながら操縦桿を握っていた。
 暫くすると、陸地が水平線上に現れた。日本である。

「久々だなあ、日本も」

「私もね……」

 昌と玲奈はその陸地が近づくにつれて目を少しずつ大きくしていった。
 二人とも、早く自分の故郷の姿を見たかったのである。

「ああ、ここ東京ね!」

 怜奈は見覚えのある建造物の数々を見て目を輝かせた。

「あの頃から変わってないのね……」

「まあ、な。そろそろ着陸するぞ」

 亮は都市の端の方にあった飛行場へと機体を近づける。

「よし、そろそろ……」

 亮は突然、嫌な物を見たような目で飛行場の方を見た。

「どうしたんだい、亮……って、あれは」
 昌は飛行場のど真ん中に立つ三人の姿を見て声を上げた。

32:Trivia◆XI:2015/01/02(金) 10:39 ID:rao


「すっかり忘れてたぜ。あいつの能力を」

 亮が飛行場の上で笑ってこちらを見つめる三人を見て、溜息をついた。
 三人が飛行場に現れるとは思っていなかったのだ。
 怜奈はその三つの人影を凝視していた。

「あの人達は誰なの?」

「あれが例の頼れる奴……黒尾見 駆(くろおみ かける)だ」

「それってあの真ん中の人? 側にいる二人は?」

「あの二人は駆の後輩だ。右にいる眼鏡をかけた野郎が神田 照秋(かんだ てるあき)、左の帽子を逆にして被ってる女は零崎 千鶴(れいざき ちづる)だ」

 亮は何度も溜息をつきながら、飛行機を着陸させた。
 機体の動きが止まり、昌がシートベルトを外して扉を開けると、先ほどの三人が、待ってましたと言わんばかりの笑顔で出迎えた。

「久しぶりだな、昌。大分変わったな」

「もうあれから一年だからね。駆、照秋、千鶴も元気そうで――」

「ああ、この通りな」

 昌が言い終える前に、黒尾見は腕をぐるぐる振り回して自分の状態をアピールした。
 黒尾見に続くように、側にいた二人も腕を回しだす。

「それで、亮は運転席か」

 昌は機内を確認したが、すでに亮はアイマスクをつけてしまっていた。
「うん。でももう寝てるよ」

「ハハ、相変わらず嫌われてるな、俺」

「嫌ってはない……と、思うよ」

 昌は苦笑いして、いびきを立てる亮を見る。どうやら、本気で寝たままでいるつもりのようだった。
 微妙な笑みを浮かべた黒尾見は、ふと昌の後ろに目をやる。

「それで、その後ろにまとわりついてる子は?」

「ああ、この子はルビー。砂漠で一人歩いてたところを保護して……」

 黒尾見はそれを聞いて一瞬、鋭い眼光でルビーを睨みつけた。それに反応したルビーがぞくっと体を震わせる。
 突然向けられた殺気に、本能的に反応してしまったのだ。
 黒尾見はすぐに元の表情に戻ると、ルビーににこりと笑いかける。

「まあ、取りあえず降りてきたらどうだ?」

「う、うん……」

 昌は僅かに感じた嫌な空気に違和感を感じつつ、一歩踏み出した。


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