輪廻。

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1:銀狐◆Lv36:2014/11/06(木) 14:23 ID:bhI

単なる趣味の小説です。
とりあえず完結目指していきたいです。
趣旨としては、主人公が死んでしまうと、自分の生きてきた道をリセットされる青年、鴉間 鷲(からすま しゅう)とそのことを知らない主人公、蒼瀬 結廻(あおせ ゆいかい)が織り成す、世界の始まりと終わりのお話です。
一応何でもありなので気が向いたら日本の妖怪、西洋の妖怪、精霊やドラゴン、悪魔や天使など壮大なスケールとして取り入れたいです。

コメント、いただければ幸いです。

駄作なので面白くないとは思いますが、よろしければ覗いていってください。

2:銀狐◆Lv36:2014/11/06(木) 14:28 ID:bhI

魔法使い。

この言葉こそ彼の悩みであり、苦しみであり。秘密だった。
人間とはかくも愚かで不可解な生き物だ。一人に悪い噂が漏れてしまえばそれは植物が土の中に無数の根をはるように瞬く間に広がり、中々その噂は消えない。
そうして幾百もの数少ない特別な力を持った者達が理不尽な理由で何の力も持たない人間達によってことごとくその命を散らされた。

異界の力を持った者達はこの世に不幸をもたらす。
そう語り、言い聞かせられた人間達は己の身にも何か良くない事が起きるのだと何かしら勘違いして残虐な方法で「処刑」という名の処分を下す。
彼も勿論例外ではなかった。何度人に怪しまれ何度人生の窮地に立たされただろう。数えればきりがない。
最も、異形の力を持ってこの世に産み落とされたその瞬間既に、死と隣り合わせの道のりを宿命付けられていたのだが。
だが不幸か幸いか。彼の家柄は誰にも相手にされず見向きもされない程低い奴隷よりも更に下にある決して裕福とは言えない身分だった。
貧しくはあるが不便はない暮らしに少なくとも彼は満足していた。と、言うのも高貴な身分と位の低い身分とではそれこそ貧富の差が分かるような構造に国は作られていたのだ。
階段状に家々が並び上に行くに連れて身分が高い者達が。下に行くに連れて身分の低い者達が。
身分の低い者達は貴族達に奴隷として飼われ、働く代わりに一緒に生活する事を強いられる。
それもあってか、貴族達は時々下層に降りてきては品物を物色するかのように下の階に住んでいる者達の家々を回って歩く事もあった。
だが彼の階にはよほどの事がない限り貴族達は降りては来ない。
「何だかなァ……」
それでも不満は溜まってしまうのだと言わんばかりにぼやけば読んでいた辞書程もある分厚い本を片手で閉じる。
本から生じた古くさい小さな突風が鼻孔をついた。
あらゆる魔術が乗せらたこの分厚い本は、自分と同じ力を持った親の形見でありもう一つの自分の秘密でもあった。
彼はそっと目をつむり瞼の奥で幼い頃の出来事に思いを馳せた。

赤い、赤い。真っ赤な炎が視界を覆い尽くしていた。
焼け、朽ちていく親が入った木箱にはそれが本当に人の声なのかと思ってしまうほどの歪な悲鳴が上がっていた。
逃げ出そうとガタガタと揺れ、暴れる箱があまりにも恐ろしくて。
まだ小さな彼は何も出来ずそれを見るばかりで。
周りにはそれを嘲笑う人間が一人、二人、三人……いや、もっと。
大勢で、異なる種族の体を押さえつけて灯油を浴びせ、そのあげく箱に詰める。火が灯った木の棒を投げ入れた後逃げ出さぬよう鍵を掛ける様はまさに……地獄だった。
それが「この国の処刑方法」だ。苦しんで死んでいったものは数知れず。抑制の結界が貼ってあるから魔法も使えない。
その中で、彼は奇跡的に逃れられたのだった。体が小さいおかげで僅かな結界の隙間から惨劇の舞台から姿を消すことに成功。
そして何年か月日が経ち、今に至る。
今でもその地獄の光景は脳裏に映像として焼き付けられ鮮明に覚えている。

不意に聞こえたノックの音で、彼の感傷は断ち切られる。まぶたを開け、二つ返事で部屋に入るように促すと、軋んだ音を奏でながら木の扉がゆっくりと開いた。
……おそらくは貴族かそこらへんの人たちだろう。
結廻は無自覚に思っていた。
案の定、入ってきたのはいかにも身分が高そうな服を纏った背の高い男が姿を覗かせていた。

3:銀狐◆Lv36:2014/11/06(木) 15:35 ID:bhI


年は結廻より少し上ぐらい。まだ若くもあるのにどこか威厳のある雰囲気が感じとられる。
淡い赤い髪のおくからこちらを覗く水色の瞳はとても澄んでいて、まさに青空をそのまま瞳にしたかのようだ。
「お前が蒼瀬結廻か?」
求められた答えに、結廻は警戒をあらわに黙ってうなずいてみせる。
すると男はポケットから小さな手帳を取り出すと、片手で開き目を通す。しばらくして、鋭利さを感じさせる青の瞳がこちらに向けられた後。
「どうやら間違いは無いようだな」
言いながらさりげない仕草で手帳を元の場所へとしまいながら男はややけだるげな口調で言う。

奴隷買いか。

彼は思った。
ここの貴族たちは国から手帳ほどの大きさの本が配られる。その本は大きささえ小さいもののとても分厚い。中身はもちろん奴隷達の顔写真ばかり。そして、奴隷を買う際、手帳の人物と目の前にいる人物を照らし合わせて確認を取り、ともに生活を送るために契約を交わすのが掟だった。
最も、奴隷の選択はイェスの一つだけ。結局はどんな奴隷でも強制的に持ち帰れるのだ。
「俺と契約しろ」
あまりにも予想的中の言葉。単純でわかりやすい。それでいて彼にとってはとても不快な言葉だ。
だが、結廻にも考えがあった。奴隷を買うのが貴族自身ならその買う買わないを選ぶのも貴族自身だ。それならとことん失望感を煽ってあきらめさせてやる。
今までもそうやってほかの貴族たちの契約を交わしていたんだ。きっとできる。と

4:ミケ:2014/11/10(月) 15:42 ID:Neg

どうも、ミケです。

銀狐さんが小説書いてると聞き飛んできましたw

面白い話ですね。文章も上手いですし、

頑張って下さい!

5:銀狐◆Lv36:2014/11/10(月) 15:49 ID:bhI

「俺、働きませんよ」
自然と作った笑みから意地の悪い言葉が口を突いて出る。
たいていの貴族たちはこの言葉で諦めて帰っていくはずだ。…だが。
「構わん」
予想外の言葉に結廻の余裕が一つ崩れる。
それでも諦めるにはまだ早すぎる。負けじと言わんばかりに握っていた拳に力をこめた。
「三食きっちり取らせてもらいますよ?」
「わかった」
「ベッドは高級なものにして下さい」
「そうか」
「休みはどっか連れてって下さい」
「それもいいな」
…何者なんだこいつは。
奴隷にしてはあまりにも贅沢な暮らしを要求しているのにこの男は怯むどころか新たな考えとして受け取っているかのようだ。
結廻はしばらく真意を見定めるように男の澄んだ空色の瞳をじ、と見つめた。同じように男のほうもまたこちらを見つめてくる。
カーテンで締め切られた薄暗い部屋に重たい沈黙が流れる。
彼は今までありとあらゆる貴族たちを相手にしていた。皆、一番最初の条件をつけると文句をたれるか怒鳴り散らすかして帰っていく。
だが彼はどうだ。何もかもを受け入れ、快く承諾してくれる。その器の大きさに彼、結廻はただただ驚かされるばかりだった。

彼は本気なのだろう。

少し開いた窓の隙間からやさしい風が流れ込んできて二人の頬を撫でて行く。
結廻は彼の瞳を真っ直ぐ見たまま決心したように口を開いた。
そして。
「仰せのままに、ご主人様」
二人の関係は爽やかな風とともに始まった。

6:銀狐◆Lv36:2014/11/10(月) 15:51 ID:bhI

わざわざありがとうございます(*´`)
とりあえず、完結目指しつつがんばります
>>4

7:銀狐◆Lv36:2014/11/13(木) 15:25 ID:bhI

主人は結廻の条件通り、高級なベッド、朝、昼、晩の食事、さらには条件に入れていない自分の部屋まで用意してくれた。
主人が休みの日には必ず海や山など自然あふれる景色を見に連れて行ってくれるし、働かない、とまではいかなくても皿洗いや選択、部屋の掃除など仕事内容はものすごく簡単なものばかりで逆に働かないほうが罪悪感を感じさせてくれる。
家の者達も笑顔で彼を受け入れ、無茶なこともさせずそれよりも無理をするなと体を気遣ってくれたりもした。
温かい家だ。
充実した毎日が彼を満たしてくれる。日々気付かなかった事や気に留めていなかったものに新しい発見があるごとに喜んだりもした。

そんなある日のこと。
「学校…?」
聴きなれない言葉を主人、双緋(そうひ)から告げられた結廻は首を傾ける。
「そうだ。学校だ。奴隷であるにしても多少の勉学は必要だろう?お前にはこれから学校へ通ってもらう」
もう決めてあるとでもいうように双緋は懐から一枚の紙切れを取り出すと結廻に手渡す。
渡された紙に目を通すとありとあらゆる結廻自身の情報がその紙に記されていた。
生年月日や奴隷のこと。現在の住所や年齢、性別。その他。
……幸い、魔法使いだということは載せられていなかった。
一体どこでこんな情報を、と上げた顔はただただ混乱していた。それを見て双緋は少しおかしそうに笑いをこぼして。
「驚いたか。まぁ無理もない。これだけの情報を紙切れ一枚に載せられたんだからな」
笑うたびに美しい紅色の髪が柔らかに揺れる。
「どこでこんな…」
「明日からその学校に通ってもらう。手続きはこちらで済ませておいたから、お前は通うだけでいい。何、心配は要らない。学校は歩いて五分もすれば着く」
あからさまに話をそらされたこと結廻は少し不満げな顔をした。だがそれも二人の間に挟まれたテーブルの上のコップに手を伸ばし、その不満を流し込むようにしてかれは中身を飲み干した。その後、渋々学校へ行くことに同意した。
どこか胸がざわつくような妙な感じを覚えながら。

8:銀狐◆Lv36:2014/11/17(月) 15:59 ID:bhI


そして朝が来る。
この日ばかりはとても憂鬱だった。きっと他の人達はこの日を待ちわびたといわんばかりに心躍らせることだろう。
楽しみで楽しみで仕方なく、夜も眠れなかったという人もいるかもしれない。
だが彼、結廻はそんな能天気なもの達とはまるで違った。
魔法を使えるという最大の秘密を抱える彼にとって知らない人たちと一緒に、それも大勢の人間達と共に過ごすのは神経をすり減らされるような気分だ。
夜も眠れなかったほどだ。もちろん、楽しさや嬉しさなどではない。眠りを妨げたのは得体の知れない息が詰まりそうなほどの緊張と朝になるにつれて積もっていく不安感だった。
結局、十分な睡眠も取れないまま上体を起こし柔らかな朝日に体を晒す。
毛布の暖かなぬくもりが彼をベッドに縫いとめる。
出たくない……。いきたくない……。
わだかまる思いが募るばかりで、でもどうしてもそうしなくてはならなくて。
煩わしい。変えたいのに変えられない。行きたくないのに行かなければならない。
ようやく気だるい体を引きずるようにベッドから這い出させると、壁にかかっているハンガーに手を伸ばし、そこからぶら下がっていた制服をつかんだ。
白い無地のシャツに太ももまで覆う肩から垂れ下がるマント。灰色のズボンにベルトを通すと魔導師らしさが伺える。
白い手袋をはめ、感触を確かめるように手を開き、そして閉じる。布はそれにしたがって伸び縮みを繰り返した。
不意にノックの音が聞こえ、彼は二つ返事で部屋に入るように促す。
いつだったか。前にも奴隷を雇いに双緋が入ってきた。
扉がスムーズに開く。入ってきたのはあの時と同じ赤くきれいな髪をした人。双緋だった。彼は結廻を目にするや否やその目を見開き、そして嬉しそうに笑う。
「よく似合っているじゃないか、結廻。とても様になっているぞ」
白い顔に浮かぶ笑顔は本当にわが子を思う父親のようで。
あまりにも期待のこもった輝いた顔に行きたくないなんていえなくて。
結廻は作り笑いでうなずくことしかできなかった。

9:康:2014/11/17(月) 18:50 ID:Pl6

初めまして!

康と申します!

銀狐さんの小説がとてもおもしろいので

楽しく読ませていただきました!

話がよくて読み入ってしまって時間を

忘れてしまいます…ww

これからも頑張ってください!!

10:◆7M:2014/11/17(月) 19:13 ID:MOE

表現自体はいいけど、一文が必要以上に冗長でクドい

11:HP1の廃人ヾ(゚Д`;≡;´Д゚)ノ゙:2014/11/17(月) 22:31 ID:PPs

面白いですね^ ^続きが気になります。
ただ個人的には冒頭からここまで、主人公の容姿に関する描写が一切無かったのが少々気になりました。
敢えて主人公像を曖昧にボカして各々、好きに想像して下さいという夢小説的な趣旨なのでしょうか?
個人的には主人公の容姿がボヤけている状態なので場面場面での描写を想像しにくいのがちょっとだけ辛いですね。
世界観や場面場面の描写はとても丁寧で情景が目に浮かぶようなので、あとは人物に関する描写をもう少し増やせば、さらに読む人が場面場面での描写を想像し易くなり、引き込まれる小説になると思います。

12:銀狐◆Lv36:2014/11/27(木) 13:54 ID:bhI

ありがとうございます。こんなもので喜んでいてくださる方がいて本当によかった(*´`)
これからもがんばりますね。
>>9


ノートに書いているものを多少変えながらもほとんどそのまま乗せているので未熟な文章も多々目立つところがあるかと思います。
改善しているところはすでに話が進んでしまっているので、しばらくはくどい文章が続くかと思いますが何卒長い目で見てくだされば幸いです。
>>10


いえ、夢小説は書かない性分なので…。容姿を書くのを忘れただけです。
こちらも話が進んでしまった時に書いているので、お待ちいただければ幸いです。
アドバイス、ありがとうございます。少し時間はかかってしまいますが指摘されたところを直すよう心がけていきます

13:銀狐◆Lv36:2014/11/27(木) 13:57 ID:bhI

>>12の最後のぶんしょうは>>13の方宛にです。

14:銀狐◆Lv36:2014/11/27(木) 15:25 ID:bhI

家を出て双緋とともに学校へ続く道を歩いていた。
双緋の歩みは学校に近づくにつれて軽やかになっていくようだ。それとうって変わって結廻の方は徐々に足が重くなるばかりであった。
転入生として新しい環境に投げ込まれる自分の体に一体どれだけの人間がたかりに来るだろう。奴隷のことがばれて因縁をつけられるかもしれない。
考えれば考えるほど足が枷につながれたように重くなる。
朝日はそんな結廻の悩みなどお構いなしに祝福するような日差しを浴びせてくる。それもうっとおしいほどに。光に照らされた美しい町並みも、足元にきれいに敷き詰められたレンガも彼の目には全て灰色のつまらない世界となり重々しく現実を語ってくる
自然とため息がこぼれたその時。ふと前方から気配がした。
一瞬双緋かとも思ったがどこか違う。思わず足を止め敷き詰められたレンガをたどって顔を上げてみる。建物の緩やかな曲がり角のそこには…。
そこにはひどく不気味にたたずむ人がいた。
いや、違う。
結廻は本能にも近い思考の中で訂正する。

あるものはそれを静寂と呼ぶだろう。
あるものはそれを闇と呼ぶだろう。
あるものはそれを邪神と呼ぶだろう。
結廻はそれを鴉と呼んだ。

朝日の中でも目立つほどその髪は夜空のように黒く、身の丈ほどもある黒いコートを羽織っている姿はまさに鴉と呼ぶにふさわしい。
流れる時の中で、まるでその人の周りだけが夜のまま時間が止まっているようにも見えた。
黒髪の奥でこちらを見つめる赤い真紅の瞳は禍々しく、神秘的である。きっと前髪で隠された左目も同じ赤い目をしているのだろう。
よく見るとその人は青年だった。ビスクドールのように滑らかな白磁の肌が陽光に照らされて透き通るような美しさを放っている。
何よりも目を引いたのはうなじから伸びているであろう二束の地上に付きそうな長い髪だった。
突如現れた彼の姿に、灰色だった世界が彼の立っている場所だけ全て白と黒に分かれた別空間のように色づいていた。

15:銀狐◆Lv36:2014/12/11(木) 15:54 ID:bhI

風が吹き、特徴的な二本の黒髪が滑らかに波打つ。
自分たちとの間に虚無的な空間が出来上がっているのを結廻は肌で感じていた。
無駄な雑音は一切遮断され、まるで宇宙を漂っているかのようだ。そんな錯覚をしてしまうほど静かな感覚が彼を捉えて離さない。
それまで疎ましく思っていた陽の光も今ではやわらかく暖かく。心地のよいものになっていた。白黒の景色も本来ある美しさより遥かに壮麗に目に映る。
景色と空間と彼に見惚れ、結廻が一歩足を前に踏み出した。瞬間。
突如強い風が吹き、どこからともなく散らされた黒い羽が彼の視界を覆いつくした。思わず腕で目をかばい、足を踏ん張った。風が結廻の髪を、シャツを、体を巻き込み巻き上げて…。
ようやく風が止んだとき。腕を下ろすと先ほどまでいた青年が町の角から姿を消していた。緩やかな日差しとともに何ごともなかったかのように朝の陽光をきらめかせているその場をぼうっと見つめていると。
「結廻?どうしたそんなところに突っ立って?」
「あ、ん?何ですか?」
急に戻ってきた現実に考える暇も与えられず結廻は声の主のほうを見た。
「何ですか?じゃないだろう?どうしたんだ?急にボーっとして」
「いえ…何でもありません」
とても今のことをしゃべる気にはなれなかった。というより、話てはいけないような気がした。そうひは不思議そうに首を傾げて見せた後「そうか」と軽い一言を返す。そして結廻とともに再びレンガの道をたどって目的地の学校へと向かった

16:銀狐◆Lv36:2014/12/11(木) 16:48 ID:bhI

あの青年はまるで幻のように忽然と姿を消してしまった。いったい誰なんだろう。
思い当たる人物を頭の中でめぐらせるもあんな男には見覚えがない。それに、結廻が知っている人物の中で黒髪で赤い瞳を持つものは誰一人いなかった。
双緋と別れ、教師と呼ばれる人と肩を並べて廊下を歩きながらもなお、さっきの出来事が頭の中を埋め尽くしていた。
「で、ここが貴方の教室ですよ」
もちろん。話している内容も上の空だった。あわてて顔を上げ結廻は初めて教師の顔を見た。
細身のふちに薄いフレームをはめ込んだ黒縁メガネ。その奥からのぞくやさしげな深い緑色の瞳がこちらを見下ろしている。
彼は結廻のクラスを任せられている担任。優木 広夢(ゆうき ひろむ)。
今年新しく新任してきた少し気の弱そうな教師だった。困ったように下がった眉、人のよさそうな柔らかな微笑み。人当たりのよい性格を持っていた彼は、生徒たちにもいじりがいのある教師、と言う意味では好かれていた。
「は、はい…」
結廻は気まずそうに広夢が抱えていた資料に視線を落とす。自身のなさそうな彼を見て広夢は、彼だからこそ似合う困ったような甘い微笑を向けた。
「不安ですよね。いきなり知らない世界に飛び込むのは…」

17:銀狐◆Lv36:2014/12/15(月) 15:56 ID:bhI

物腰柔らかな口調が幾分か結廻の気分を楽にさせた。緊張の糸が緩められ、自然と口から息がこぼれ落ちる。
結廻は再度顔を上げると小さく笑んだ。
「でも、楽しいこともあると思うんです」
少なからずそうだろう。今はそうであることを願いたかった。

18:銀狐◆Lv36:2015/01/02(金) 22:30 ID:jbs

教室の扉を開けると、音につられて数人の生徒がこちらを振り向いた。音の主が教師だと分かると他の席に座っていたものたちは速やかに自分の席へ戻り、同時に机に背を向けていたものたちは体を前に向けて自分の机と向きあう形になった。
それまでおもちゃ箱をひっくり返したかのような騒がしさが一人の教師の存在により一瞬で整頓される様を、ひどく客観的に廊下に立ちながら結廻は見ていた。
「き、今日は新しく入るお友達を紹介します」
必死さだけは伝わる頼りない声で広夢が言う。
「新しく入るお友達」の言葉に反応した生徒達は好奇心に満ちた目でチラチラと廊下の方をみる。

19:銀狐◆Lv36:2015/01/19(月) 15:44 ID:bhI

「入ってきてください」
教師が呼ぶと、廊下に立っていた彼は従い扉を開けた。その場にいる全員が好奇心と興味津々な目を向けてくる。
結廻は緊張のせいで少しうつむいた状態で広夢の隣にたった。先ほど緩んだはずの糸に再び電流のような緊張が張り巡らされる。
顔を上げて前を見ることさえ難しかった。
目の前にいる大勢の人々が怖かったのだ。
「蒼瀬 結廻さんです。皆さん、仲良くしてくださいね」
「はーい」
「よろしくな!」
返事の後。広夢の言葉を快く受け入れた生徒たちは次々と目の前にいる自分に暖かい声をかけてくれた。かけられる明るい声にほのかな安心がともり、顔をほんの少しだけあげた。

瞬間

瞬く間に彼の表情は凍りついた。再び訪れた緊張のせいではない。それとは違ったまた別の、違和感に近い感覚だった。
教室の一番窓側の最後の席。そこに見覚えのある一人の人物がいた。
闇のように黒い髪。紅い宝玉をはめ込んだような真紅の目。冷たく透き通る白磁の肌に首の付け根から伸びる二束の長い髪。
身にまとっている服こそ違うものの、彼は間違いなくあの不気味な、そして結廻が鴉と呼んだその人だった。
ここから見ただけでも彼の異質さは十分に伝わる。

20:銀狐◆Lv36:2015/01/22(木) 15:58 ID:bhI

あの時感じた感覚と似たような者を感じた。彼の周りだけが、そこだけ冷たい色へと変わっていく。無機質にも近いような色だ。まるであの青年の前ではすべてが無に等しい、ただ在るだけの存在物質と化しているようにも見えた。
凍てついた雰囲気といい、身にまとう禍々しい空気といい、不気味だ。だがその不気味さとは裏腹にどこか惹かれる者を感じる。
それが何なのかは分からないが。彼の中には儚すぎる何かが在るような気がした。触れるだけで壊れてしまいそうな、例えるならそう。ひび割れた硝子か鏡。指の先で触れてしまえば悲しいほどあっけなく壊れてしまうような気がした。
そんな彼の前にたたずむ机には、花が添えられた花瓶が一つ。ひっそりと慎ましやかに置かれていた。

恐らく、いじめだろう。直感だが分かる。結廻が双緋に仕える前に、こういう光景を見たことが在る。もちろん、窓の外からこっそりとだが。集団行動で一人を疎外するひどく醜悪な行いである、と結廻も認識していた。人間がいかに汚いか痛いほど分かる。
いぶかしげに眉をひそめる彼に気づき、広夢はその視線をたどり。声を上げる。
「ちょっ!誰ですか!!鷲さんの机に花瓶なんて置いた人は!!」
慌てて並んだ机をかき分け、鷲と呼ばれた彼の前に急ぐ。


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