恋してみた。

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1: ゴミボ◆gk:2015/01/19(月) 16:52 ID:W92




酔ってはダメですか?



※架空の人物ではあるものの、歌い手との恋愛表現注意

2: ゴミボ◆gk:2015/01/19(月) 17:35 ID:W92



「 バカじゃないの、素人が素人の歌でギャーギャー騒いでさ 」

 まだ包装フィルムも取っていない、新品ピカピカのCDを両手で抱えてギャーギャーと騒ぐ友人に思った通りの感想を告げると、彼女は不服気な表情を此方へ寄越した。そしてつまらなさそうに頬杖を付く私の肘をこつりと弾く。バカ、地味に痛いぞ。

「 またあんたはそうやって否定から入る!いつかハゲるよ!? 」

「 現実的って言ってよ、それにハゲる訳が無い 」

「 あ、ああ言えばこういう…ほ、ほらでも、あんたもイケボは好きでしょ? 」

「 かっこいい声は嫌いじゃない。でも歌い手ってピッチとか調整してるんでしょ。そんなのかっこよくて当たり前 」

 正直ピッチがどうのこうのはよく知らないが、言ってしまったので仕方無い。自分でも嫌味な奴だとは思うけれど、私を嫌な奴と言うなら、目の前のバカな友人はバカと呼ぶべきだ。

「 チコ…ちょっとは夢見ようよ 」

「 無理 」

 バッサリと切った私に、友人はやれやれと言ったように溜息を吐いた。ここまで言っても尚、激情したり絶交を言い渡したりしないところは、バカである友人の良い部分だとは思う。そういえば彼女からだけは、私の悪口も耳にした事が無い。
 まあ逆を言えば、彼女以外からの私の評価というものはかなりのもので。

 自覚はしている。私は性格が悪い。思った事はオブラートに包めずに言ってしまうから、友人もバカの彼女一人くらいしかいない。自分でも直そうとしてるんだけれど、どうも嘘くさくなってしまうのだ。
 それに加えて、物事は悪い方面から考える癖がある。彼女に歌い手のCDを買うのに着いて来てくれと言われた後、はじめにグーグル先生で調べたワードは「 歌い手 アンチ 」だった。

 だから私は、世の中の半分くらいを嫌っている。でも私を見る周りの目だって同じくらい冷ややかだろう。

 私は皆が嫌い。皆は私が嫌い。
 イコールで結ばれた関係。これが良い事ではないというのは、分かっている。


 カラン、とコップの中で氷が溶ける音。途中で胸焼けしそうになった、ゲロ甘いマンゴーラッシーのクリーム色と混ざった。さあ、もうそろそろこのいかにもオサレなカフェを出て帰るとしよう。CDショップから此処まで、興味も無い事に付き合わされてもうこりごりだ。

3: ゴミボ◆ik:2015/01/19(月) 20:29 ID:W92



 家に帰る。両親はまだ帰って来ていない。兄妹は元々居ない。そんな訳で私は一人だ。薄暗い廊下に「 ただいま 」なんて言っても寒いだけだから、黙って電気を付けた。

 現在午後六時半。夕飯時ではあるものの、お腹は減っていない。あのクソみたいなマンゴーラッシーのせいだ。もう一生飲まない。とはいえもう少し経てば空くかもしれないから、冷蔵庫を漁ってみた。出てくるのは冷凍食品の数々。冷たいパッケージには国産だとか少し聞いたことのある産地を謳ったものがでかでかと書いてあるが、正直どこで生まれ育とうが所詮冷凍食品なんてそこまで変わらないと思う。それに、この前産地偽装がどうとかって見たし。
 色々考えていたら、少しだけあった食欲も消えてしまった。それに寒い。結局何も見つける事無いまま冷蔵庫を閉めた。

 暇だ。学校からの課題は既に終わらせたし、この時間のテレビはニュースばかりでつまらない。
 ごろんとソファに転がってスマホをいじる。LINE、誰からも音沙汰無し。Twitter、特に変わり無し。尤も、LINEもTwitterも登録しただけでずっと放置していたのだけれど。だって面倒臭いから。

「 歌い手… 」

 グーグル先生の履歴は嫌な言葉の羅列ばかり。悪いけれど、さっき彼女がホクホクして買ったCDの歌い手とやらの悪口も出てきた。女性問題、生歌がヘタ、その他諸々。
 けれど何故か、私は歌い手の事が気になって仕方なかった。どうしてだろうか、あのバカな友人に、もしかしたら感化されてしまっていたのだろうか。

 震える指先で動画サイトを開く。もっと震える指先で、検索を掛ける。三回ほど打ち間違えた。

4: ゴミボ◆ik:2015/01/20(火) 22:26 ID:W92



 検索結果はずらりと出てきた。しかし数が多い。聞いた事も無いような曲名ばかりで、再生数も多いものからお粗末様なものまで様々だ。スクロールを何度やってもキリがなく、何を見れば良いのか全く分からない。途中、アンチで見た名前を幾つか見つけたが、再生数は中々に凄いものだった。ふうん、人気とアンチは比例するとは本当の事なのか。
 正直どれでも良かった。それよりも、時々動きの止まるこのスマホの性能の悪さに苛立ちを覚えた。

 人気なのは動作が重いかもしれない。そこで私はなるべく再生数もコメントも寂しいものを探した。どうせ何を聴いたって同じだろう、加工だの何だのしてあるんだから。

 そうして、なるべく投稿日時の早いものや、コメント数の少ないものを探していると、たった今投稿されたらしい動画を見つけた。観覧数9、コメント数2。うん、妥当だろう。そうして私は知りもしない名前が歌った、知りもしない歌の動画をタップした。


 曲調は落ち着いて流れるバラード。音楽のジャンルについてはあまり分からないが、瞳を閉じた女の子のイラストがぼやぼやと映っているので、きっとバラードで良いのだろう。
 投稿者のコメントを見てみる。どうやら初投稿らしい、顔文字付きでの紹介。これは初々しいとカテゴライズされるのか、音程が初見で分かるレベルでズレていたりと、学生のカラオケレベルだ。
 だけれど。

「 すごい…… 」

 ズレた音程のその先の低音は、甘く優しく、まるで全てを包み込んでくれるかの様だった。薄っぺらい歌詞の筈が、スッと心に馴染んだ。
 そして、氷を溶かすように胸にじわじわと熱いものが込み上げてくる慣れない感覚に見舞われた。

  嘘でしょ、そんな。まさか私、こんな簡単に魅了されてしまったのかもしれない。

5: ゴミボ◆ik:2015/01/21(水) 21:15 ID:W92



 もう数える事も出来ないくらい、私は繰り返しその動画に酔いしれた。この感覚は、電撃が走ったというよりも、まるで背中から白い羽根が生えて、ふわりと雲の上を飛んでいるようだった。
 もしかしたら特殊なナントカ波が流れているのかもしれないけど、加工もほとんどされていないであろうに、そのような事が出来るとは思えなかった。

 その日はイヤホンを着けて、寢る間際まで同じ曲をずっと聴いていた。

 はじめて、何かにキライという感情以外の興味が湧いた。




「 ね、ねね!聞いてチコ、昨日さっそくあのCD聴いたんだけど、もう…もう!ホンット良かった!興奮した! 」

 翌日。教室に入るや否や、昨日CDショップに着いて行った友人、もといバカが私の元へ息を荒くしてかけて来た。ああもう、そんな大声出さないで。目立ちたくない。
 だけど彼女のお陰であの動画に巡り会えたと言っても良いので、聞いてやってもいいだろう。うるさいと制し鞄から荷物を出しながらも、私は彼女の惚気の様な話に付き合った。
 それに、かくゆう私も彼女をバカにする立場では無くなった、かもしれないから。

「 もうほんとに、歌い手さん大好き! 」

 彼女が興奮気味にそう言ったところで、始業のベルが鳴った。私のそうかもしれない、という相槌は、入ってきた担任のおはようございますに変わった。


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