「ねぇ……来年まで生きれるかな?」
「生きれるよ……だから、大丈夫」
病院のベッドの上で寝ころぶ私の隣に座る、男の子。
ずっと昔から一緒で、やっと気持ちが通じあえた人。
「奏……本当に後悔するよ?」
「いいよ。……好きだから」
「……うん」
涙が溢れて、奏が握ってくれた手も震えた。
……私は、まだ死なない。
もう少し生きられるのに……この先にある死が怖くてしょうがなかった。
何回、神様にお願いしたって……届かない願いが、どんどん大きくなっていく。
「……死にたくないなぁ」
「……死なないよ」
神様、お願いします。
もっと、奏と一緒に居たいです。
もっと、生きて……歳をとって、いっぱい笑って……それで、その倍笑って……。
休んだ分、勉強も頑張って……学校もいっぱい行って、それで、それで。
あまりにも、願いが欲張りすぎるのかもしれない。
……欲張りな私を、神様は見捨てたのかな。
止まらない涙が、枕を濡らした。
何度泣いても枯れない涙から、温もりが伝わってくる。
私をギュッと抱きしめた奏の温もりを、きっと私は忘れない。
目を開けると、いつもの景色が目に入る。
いつの間にか眠っていたらしく、隣に奏の姿は見当たらない。
今の時間だから、きっと学校だと思う。
「また夕方まで何もすることないな……」
投与されている薬のせいで、死ぬ前に食べたいものも食べられない。
気持ちの悪さと、憂鬱な気持ちが、私を侵食して行った。
「起きましたか?たくさん寝てましたね」
入って来た看護婦さんが、私に笑いかける。
「あ、はい。いつの間にか寝ちゃってたいみたいで……」
そう言いながら作った笑顔に、看護婦さんも笑った。
私の笑顔に笑ったのか……私の状況を笑ったのか。
一体どっちなんだろうなぁ、なんて醜い考え方を浮かべた。
だんだん衰弱して行っている自分の身体にも、嫌気がさした。
心残りいっぱいあるのになぁ、なんて考えると、目頭が熱くなった。
溢れだしそうに、滲んだ涙を隠すために布団を被った。
自分の匂いがしない、病院の匂いが鼻をついた。
ガラッという扉が開く音で、目覚めた。
いつの間にか、眠ってたんだ。
「……奏?」
ぼんやりとした意識のまま、扉の方を見ると、奏が立っていた。
「あ、ごめん。寝てた?」
「うん……でも、大丈夫」
「そっか。……プリン買ってきた。食べられる?」
「やった!生クリーム、乗ってる?」
「乗ってる乗ってる」
笑いながら差し出してきた袋の中に、プリンが2つ。
一個を机の上に置いて、もう1個は奏に渡した。
「いや、全部食っていいよ」
「一緒に食べた方が美味しいでしょ」
そう言って、無理矢理押しつけた。
本当は、もう2個も食べられないことは、口に出さなかった。
「うーん……美味しい、甘い」
「甘すぎじゃない?これ」
「いや、私もっと甘くてもいける」
「胸やけしそうだな」
生クリームが乗ったプリンが甘くて、つい笑顔になった。
このプリンは、きっと幸せの味。