No.000:プロローグ
__閉鎖空間。
光も差し込まず風も入らない、温度も感じない。
そんな閉鎖された空間に僕は立っていた。
箱の中に閉じ込められているようなそんな感じがした。
呆然とする僕をよそに急に警報音が鳴り、
赤いライトが部屋を染める。
机に何故かあるラジオに電源が入り、音が聞こえた。
「君らには命をかけて、生き延びてもらうよ」
何も感情もこもっていない、性別さえ
判定できない機械音声がとても耳に残る。
僕は、この言葉の意味が分からなかった。
____あの時までは。
No.001:人生ゲーム
最近同じ夢をよく見る。どこか現実味があって朝起きたら
汗で背中が湿っぽいことがある。
目が覚める時間も決まっていて、その夢を見た日は
朝の四時丁度に目が覚める。
ぼんやりと天井を眺めていると下からベッドを軽く叩かれた。
「透太、起きてる? 」
二段ベットの下からひょいと双子の弟が顔を出す。
「ああ、起きてるけど朝弱い渚が
この時間に珍しいね」
弟は数秒程僕から目を逸らし、僕のベッドによじ登った。
「透太。変な夢見るんだ俺」
お互い胡座をかいて、向き合って話をした。
「僕もだよ」
僕がそういうと、弟の顔はどんどん青ざめていく。
「ずっと同じ夢なんだ。ずっと。
同じ声で同じ場所で箱みたいなのに
閉じ込められていて現実味があるんだ」
凄く弟は切迫しているようで話しているときも
大して暑くない筈の部屋なのに汗を服で拭っていた。
取り敢えず落ち着かせようと、一緒に下へ行こうと言うと
ああ、と頷きベッドから降りて薄暗い廊下を歩いた。
ひたひたと足の裏にフローリングが吸いつく感じがする。
ただ僕らは無言で、階段を下り居間のドアを開けた。
「……まだ星が見えるよ」
弟はカーテンを開けて窓に手を当て明け方の空を眺めていた。
「渚、麦茶飲む?」
僕がそう聞くと、弟は飲むとだけ答え
力が抜けたようにソファに座った。
コップに麦茶を注ぎ、差し出すと弟は一気に飲み干した。
「あれって夢なんだよな」
「……ああ。夢だよ」
そう言うと弟は、そうだよなと少し笑った。
それからただぼんやりと僕と弟は時計を眺めていた。
何かを奪われてしまったような喪失感があった。
何も喋らないまま、時は過ぎていく。
「人生ってなんだと思う」
どこか遠い目で弟はそう言う。
「渚、まだ十四年しか生きていないんだ
一生かけて理解するんじゃないかな」
僕は弟の質問に分からないなりに答えてみた。
僕にはきっと一生かけても人生を語れる気がしない、そんな気がした。
時折聞こえる車の音や、夫婦喧嘩の声、鳥の囀り、
いつも通りな筈なのにこの日僕は違和感を感じていた。
弟は徐ろに立ち上がると、台所に立った。
「朝、何食べる?」
冷蔵庫を漁る弟に僕は、渚に合わせると答え温い麦茶を飲み干した。
「透太、言っておくけど俺あんま料理上手くないからね」
「それは僕も同じだよ」
弟は少し元気が戻ったような表情を浮かべて、朝食作りに入った。
僕はそんな弟をよそに、テレビをつけて適当にチャンネルを回す。
よくある朝の情報番組で僕はリモコンを
机に置きぼんやりと見ることにした。
アナウンサーの緊張感のある声でニュースが読み上げられる。
「……本日午前四時頃、意識不明による
通報が同時に七件入りました。
意識不明者は十三歳から十九歳の男女十二人で__」
何故か異様なまでにその内容が脳の中にこびり付く。
そのニュースだけ脳にインプットされたような、
あるいは誰かに脳を操られているようなそんな錯覚さえした。
弟は包丁を動かす手を止めて、僕に言う。
「今のニュース……なんて言えばいいか分かんないけどさ。
不気味っていうのかな。他人事に思えない。
もしかして俺たちも…………」
弟の言っていることが本当になるとは僕はその時思いもしなかった。
事件の夜からは夢を見なくなり、以前のように普通の生活になった。
「あれってなんだったんだろうね」
三日ほど経って互いに触れなくなったのだが登校中
信号待ちのとき弟はそっと呟いた。
僕ははっきりいって思い出したくもなかった。
「……双子だし偶然同じ不気味な夢見ただけだって」
そう軽く答えた。
信号が変わり渡ろうとすると向かい側の人の顔が青ざめていた。
「透太____!!」
タイヤと道路の擦れ合う音とガツン、とした衝撃。そして
止まった思考とは逆に弾かれる自分の体。
そして僕の体を揺さぶる車の運転手と
ぐしゃぐしゃに泣く弟の姿を僕は瞼に焼き付けた。
死に方が淡々としたものだなと僕は薄れる意識の中でそう思った。
「……ニッタトウタ、ニッタナギサ。
ジンセイゲームスタートシマシタ」
No.001:人生ゲーム
No.002:白き部屋
意識が戻り、目を開ける。
真っ白な天井と、壁にはバレエ教室のような大きな鏡があり
部屋全体の作りが分かる。
真ん中には真っ白な椅子と真っ白な机があった。
だが一つだけ色が統一されていない。
それは、机の上に置いてある
____真っ赤なラジオ。
ズキズキと痛む頭を押さえ上半身を起こし、辺りを見渡す。
「……何だ…………これ」
窓もなく、ドアもない箱のような部屋。
疑問しか浮かばない。
ベットもなかったので僕は床で寝ていたらしく、
事故で痛む頭以外にも背中や腰が痛かった。
取り敢えず、目立つラジオのある机を中心に探ってみる。
二段の引き出しがあったので引き出しを調べることにした。
この時、氷で背中をなぞられているような嫌な感覚がした。
「……『武器を支給しますので生き延びてください。
生き延びた人には報酬があります』?」
一段目の引き出しの中に貼られていた紙に書いてある文を読み上げる。
ますます背中が凍てついていく。
引き出しの二段目に目を落とす。
意に反して引き出しに指をかけている自分がいた。
引き出しをゆっくりと開ける。
そのスピードと同じ位の速さで血の気が引いていった。
中にはサバイバルナイフと、スタンガン、そして銃が一丁。
武器を入れるためのウエストバッグが入っていた。
武器の下には一段目と同じように紙に文が書いてあった。
僕は一旦、武器を机の上に置き紙の内容に目を通す。
「……武器は持ちましたか? カウントダウンを開始します」
赤いラジオに電源が入り、急にカウントダウンが始まった。
カウントダウンが始まると同時に壁がスライドして
廊下らしきところに繋がる。
部屋は警報音と赤いライトで先程までの静けさは無かった。
「…………3、2、1______0」
僕は武器を急いでバッグに押し込んで全速力で廊下へ逃げる。
何処へ行くかすらもう考えていなかった。
ただ後ろから聞こえるゼロと爆発音から逃げていた。
番外編:自己紹介とか忘れてた。
素敵な青空を君に
http://ha10.net/test/read.cgi/novel/1425733856/l50
↑の作者です。コテとトリ変わってるけど本人です。
恋愛物続かないし飽きたなーって思ったんで
昔、閉鎖空間。と似たジャンル書いてたんで久々に
書こうと思って書かせて頂いております。
閉鎖空間。は多分ダークファンタジー系です。
多分。
感想とか書いてもらえると本当嬉しいです。
男の子の主人公書くの初めてです。
私自身女だからか全然男心わかってないです。
切迫した雰囲気出したいのに全然出てないです。
至らないところだらけですが読んでくれると有難いです。
✄--------------- キ リ ト リ ---------------✄
めちゃくちゃ文才力ありますね!とても面白いです!
続き期待して待っています^^
>>7:コメントくるとは思いませんでしたっ
有難うございます。
引き続き読んでくれると幸いです。
無我夢中で真っ直ぐに伸びる廊下を出て
吹き抜けになっているホールの一階へ着いた。
シャンデリアがこの空間全体を照らしていて明るく、むしろ眩しい。
シャンデリアの下へ行くと急に電波音が耳を劈いた。
「ヨウコソ。ナンバーイチ、ニッタトウタサン」
脳内に直接語りかけられているような、そんな感覚がした。
「君らはティーンエイジャーの十四歳の枠に見事選ばれました」
「……君ら? 」
僕が呟くとクスっと笑い、話を続ける。
「弟のナギサさんも選ばれましたよ」
この場所のどこかに弟がいる、ただ生きているか
死んでいるかすら分からない。
考えれば考えるほど頭が痛くなる。
「君らを含む十四人のティーンエイジャー。
おやおや、もうすでに全員集まってるみたいですよ」
思わずその言葉にはっとする。
シャンデリアの下には僕を含む十四人の少年少女がいた。
僕はその場へへたり込む。
「……皆さん。人生ゲームの始まり、ですよ?」
機械音声は高らかに笑い、そしてシャンデリアの眩い光は消えた。
「ルールを説明しましょう。
単純です。生き延びれば良いんですよ。
ただし僕からのミッションに耐えて、ですがね」
スポットライトが目の前の一点を照らしている。
そこにふっとピエロのホログラムが投影されていた。
僕の周りにいる“ティーンエイジャー”達は、
目を奪われているようで、中には膝から崩れ落ちている者もいた。
不気味なほど現実味がなくて、夢なら醒めてほしかった。
「……私たちを帰す方法はありますか」
沈黙をやぶった小柄な少女は涙を流しながら聞く。
少し深く息を吸うような動作をして、ピエロは一気に笑い出す。
にんまりとした笑顔が気味悪く、胸につっかかった。
「僕の本体を見つけて、殺すことですよ。
ただしミッションに耐えて生き延びれれば、の話ですがね」
そう言うとふと、そこには何もなかったかのように
スポットライトもホログラムも全て消えていた。
僕らはただ暗いホールに立っていることで、現状を飲み込もうとしていた。
「なあ。うちらって生きられるの」
化粧っ気のある睫毛や頬、唇が印象的な女子高生と思われる
女が俯きながら呟く。
それに答えたのは髪を丸刈りにした少年だった。
「……こんな状況に置かれて死ねるかよ。
生き伸びてやるよ」
「でも!」
うるせえ黙れ、と荒々しい声が響く。
「……何もできないからとりあえず協力するしかないんだよ」
僕は言葉を漏らす。その後僕だって何も分からない、
そう加えることで狂いそうな自分を抑えつけた。
何分だろうか。長い間の沈黙が再び少女によって破かれた。
「ここに立って黙ってても何も出来ないし
場所も把握できてないんだから
今後について話そうよ」
しーんと辺りが重い空気で埋まる。
「……そうだね。とりあえず立ちっぱなしも疲れるし座ろう」
僕はそう答え、全員が座った。
十三歳から十九歳までを世間一般にティーンエイジャーと呼んでいる。
そしてここに集められて、今座っている人はその範囲内で
それぞれ二人ずついる。勿論僕を含めてだ。
世間からすれば、十代の少年少女十四人消えたことになる。
「今わかることは、俺達は一斉にここへ導かれていて
夢ではない現実であること。
そして奴の言うミッションを全てクリアするか
本体を抹消するかで俺達の人生が変わること」
僕の向かい側にいる弟は、先程まで黙りこくっていたのに
急に喋り出した。
きっと焦っているんだろうか。
そう僕が判断できるのは、焦ると早口で喋る癖を知っているからだ。
「……うちわかんないよ。何で? 何で?
普通に朝起きて、普通におはようって挨拶して制服を着て
学校で友達と喋ったり…………そう昨日まで思ってたんだよ?」
「……それは昨日までの話だよ。
今は今。僕たちは今を生きるしかないんだよ。
生きればいつも通りの日常に戻れるんだから、頑張ろう」
女子高生は今にも泣きそうな勢いで叫び出す。
僕は冷静に、焦りを見せないようにして彼女を慰めた。
僕だって内心焦っている。
もし死んだら、もしこの中で脱落者がいたら、弟が消えたら。
「俺もコイツの言う通りだと思う」
丸刈りの少年は手を組み、俯きながら呟いた。
他の皆はただ黙って頷いていた。
そうするしか、生き延びれない。
重い空気に飲み込まれながらも分かっていたんだろう。
沈黙が流れる中、赤いライトと警報音が耳を劈く。
「____ミッションを開始します武器を構えてください」
人生をかけたゲームが今、始まった。
なんだか話が進んでいくにつれて緊張しますね。ドキドキします。
続き期待してます!!、
>>12:またいらしてくださったんですね。
有難うございます。
テスト期間で小説の内容が上手く構成できずに
更新が遅くなりました。
これからもよろしくお願いします。
No.003:覚醒者
____ミッションを開始します。
その言葉を聞いて皆はどんな心境だっただろうか。
焦りか、恐怖か、はたまた両方か。
あるいは無心か。
「鬼ごっこをして下さい。僕の手下が鬼ですよ」
その二言しか放送は入らなかった。放送のあとに
カチカチと針の進む音ともにカウントダウンが始まる。
幼い時にやるあんな可愛いゲームじゃない。
大群の蜂に追われているような、そんな感覚だった。
ホールの吹き抜け部分へと繋がる階段を駆け上る。
そして廊下へと一気に走り、どこへ着くか分からない
扉を開けては走り、閉めてを繰り返す。
そしてついにカウントダウンが三十秒を切る。
跳び箱らしきものを動かし、ドアの前へと置き塞いだ。
そしてその跳び箱の前に僕は三角座りで身を潜めた。
薄暗い密室に埃や湿気が混じり今にも気分が悪くなりそうだった。
「ねえ」
上の方から女の声が聞こえる。
見上げると天井の通気口の扉が空いていて、そこから
少女が飛び降り、着地した。
幸いにも着地点がマットレスで大きな物音はせず、
手下に気づかれるなんていうことはなかった。
少女は服についた埃を手で払い、僕の横に同じように三角座りで座った。
「疲れたわ」
彼女はそう言うとふぅっとため息をついた。
僕らが居る場所は狭いが、体育倉庫のような物置だった。
息を殺し、時折流れるゲームの経過時間に耳を澄ます。
隣にいる彼女は、唇に指を当て何やら考えているようだった。
「今なら行ける」
彼女はその青色の目を見開いたあとに
力強く僕の右手首を掴み立ち上がった。
物という物を踏み台にし、彼女は先ほどの通気口の蓋を外す。
「そこにある跳び箱四段くらいここに運んで」
彼女が指さす跳び箱を指示通り通気口の真下へ段を積み上げる。
積み上げたと同時に彼女は勢い良く壁を蹴り上げ
通気口の上へと移動した。
十代の少女にしては俊敏すぎる動きで、驚きのあまり僕は固まる。
「ほら。あんたも早くしないと奴らが来るわよ。
あと跳び箱蹴って時間稼ぎしてから蓋をしめて」
「えっ? 僕もかい? というか跳び箱の意味は……」
彼女は僕に蓋をよこせというように手を招く。
彼女に蓋を渡し、僕は跳び箱に足をかけた
「……分かった」
運動神経が悪い僕の為なのか、割と容易に彼女の方へ行ける。
跳び箱をぶら下げた片足で最後に蹴って這い上がった。
吐きそうなくらい嫌な臭いが漂う。
通気口内は匍匐前進で進めば何とかなる程度の広さと高さはあった。
彼女は黙々と進み、僕はそれについていった。