嘘つきシンデレラ

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1:こもな:2015/08/23(日) 19:15 ID:ZRo

シンデレラは、ガラスの靴が脱げてしまいました。

なぜ、脱げてしまったのかというと、シンデレラが嘘つきだったから。

そして、この世界にもシンデレラはいます。

自分を隠して、いい子でふるまっている嘘つきなシンデレラが―。

2:こもな:2015/08/23(日) 20:16 ID:ZRo

第一章「当たり前の日々」

冷たい雪が降り続ける中を黒塗りの車が一台走っていた。
スモークガラス越しに見える曇り空は、実際よりもどんよりとしていて、それは、吹雪奏楽の目にも写っていた。
「寒いね……」
後部座席で静かに呟く彼女を見て、運転手の金沢修一は答える。
「そうですね。今日は温かくしていてくださいね」
「うん……」
「そういえば、吹雪さんの名前って変わっていますよね」
いきなり話題を変える金沢を、奏楽はチラリとみて返事をする。
「何で?」
「だって、奏でるに楽と書いて『そら』と読むのはあなただけだと思いますよ」
「そうかなぁ……」
「そうですよ」
ぼすっと横になる奏楽を横目で見ながら、金沢はため息をつく。
「ほら、吹雪さん。もうちょっとで家なんですから、頑張ってください」
「はぁい……」
身体を起こし、少し茶色がかったさらさらのロングヘアを左手でなでながら奏楽は思い出したように口を開いた。
「っていうかさ、いい加減『吹雪さん』じゃなくて、『奏楽ちゃん』ってよ……」
「嫌です」
間髪入れずに返答をする金沢に奏楽は少し口をとがらせる。
「えー!?何でよ」
もう3年間も奏楽のマネージャーを務めてきているのだ。
それぐらいいいじゃないと、奏楽が思うのも無理はない。
吹雪奏楽は現在高校2年生の17歳活動歴は中二の14歳からで、この3年間に天才子役と言われるまでに上り詰めた。
いや、もうすでに「子役」ではなくて「女優」だ。
「だって、マネージャーの分際で『奏楽ちゃん』なんてなれなれしすぎじゃないですか?」
「んー……じゃあさ、せめて『奏楽さん』って呼んでよ。それならいいでしょ?」
「分かりました」
奏楽は小さくガッツポーズをする。
「奏楽さん、家に着きましたよ」
金沢の言葉に奏楽は外を見る。
すると、確かに自分の家の白い外壁がそこにはあった。
「ホントだ。ありがと、修ちゃん」
修ちゃんというのは金沢のあだ名だ。
というのも、奏楽一人が勝手にそう呼んでいるだけにすぎないのだが。
でも、金沢自身もそれが結構気に入っている。
「はい。では、また明日」
金沢の車を見送り、奏楽は家に入った……。
と思ったが、ドアノブをつかんだまま、何やら静止している。
すると、くるりと振り返り、スマートフォンをカバンから取り出すと、母親に電話をかけた。
3コールの後、母親は出る。
『……はい』
「あ、ママ?奏楽だけど」
『うん、どした?』
「あのさ、今日ちょっと帰れないかも」
思いがけない奏楽の言葉に母親は驚いたように声を上げる。
『何で?確かに明日は土曜で学校休みだけど……』
「……うん、ちょっと友達の家でレポート書きたいなって……」
『うーん……。じゃあ、気を付けてね』
「ありがとう。じゃあね」
奏楽は電話を切ると、ため息をつく。
友達の家でレポートなんて嘘だ。大嘘だ。
別に友達がいないわけではないが、一緒に遊ぶまでの仲ではないし、有名な芸能人なため、クラスでも皆から敬遠されてしまっている。
唯一話す一部の人たちも、上辺だけの付き合いだ。
もちろん家族ともぎくしゃくとした関係になってしまっている。
でも、たった一人、奏楽には心を許せる人がいた。
それは―。

3:こもな:2015/08/23(日) 20:27 ID:ZRo

雪道を走っているうちに、その人はいた。
私服で、凍りついた川を土手で眺めている人。
「雄太!」
奏楽は反射的にその名前を呼んでいた。
振り返るその顔に、夜道を一人で走っていた奏楽は少し安心する。
「ごめん、待った?」
「ううん。全然。てか、お前こんな時間に外で歩いて大丈夫なのかよ」
「平気よ。親にはちゃんと言ってきたし、今まで誰とも合わなかったから」
「そうか」
それだけ答えると、松井雄太は歩き出した。
雄太と奏楽は3つの年齢差があり、彼は現在大学1年生だ。
周りから見ればカップルに見えるかもしれないが、奏楽にはそのような感情は一切ない。
「ねぇ、今日はさ、何するの?」
「俺の家で……。何すっかな」
「まだ決めてないんかい」
自然と笑いがこぼれる。
本当に、彼と居ると安心する。
1年前の、あの日から―。

4:こもな:2015/08/24(月) 13:12 ID:ZRo

奏楽は、セミが鳴き続ける中、今はもうやっていないビルの屋上へと来ていた。
一歩一歩階段を上っていくたびに、自分の命が削られているかのように感じる。
でも、実際そうなのだ。
錆びたドアは簡単に開いた。
低い鉄柵を握りしめると、本当は太陽の熱で暑くなっているはずなのに、なぜだか氷のように冷たく感じる。
そのままそれを飛び越え、ギリギリ端まで進む。
下を見ると、見るだけでめまいを起こしそうな高さだった。
でも、もう限界なのだ。
奏楽の親は、奏楽が中3の頃離婚し、奏楽は母親の方へと引き取られた。
そして、いつだったかは忘れたが、母親は再婚し、新たな男性と人生を歩みだした。
そのころから奏楽は芸能界で有名になり始めていた。
それが気に入らなかったのだろう。
再婚相手からの、度重なる暴力。
かばってくれない卑怯な母親。
辛い時にこそ助けてくれない友人たち。
少し血のついている床に倒れこんだ奏楽は、うつろな目でそっとそこにいる「悪魔」を見上げた。
そして、そっと母親に視線を移すと、何事もなかったかのようにテレビを見ている。
卑怯者、裏切者。
いくら言葉を並べても足りない。
「悪魔」が去って行ったあと、奏楽は物音ひとつ立てずに外へ出た。
汚い外壁のビルが視界に入り、その方向へと足を伸ばす。
そして、あのころに至る。

5:こもな:2015/08/24(月) 13:24 ID:ZRo

奏楽は、もう何も考えられなかった。
頭の中にある唯一の疑問。
ここから飛び降りたら……本当に、楽になるのかなぁ……?
でも、もう迷いはなかった。
風が吹きにける。
そこで、吹雪奏楽は、短い人生のページを閉じた……。
はずだったんだ。
いきなり引っ張られる腕。顔を上げると、見知らぬ人が驚いた表情でそこにいた。
「何してんだ!?」
興奮しているようだが、奏楽の耳には何も入ってこない。
「おい、大丈夫か?」
奏楽は、それには答えず、ゆっくりと立ち上がると視線を反対方向に移した。
「もう……ダメなの……」
「何が?」
「ダメなの、限界なの……。私、私こんな……」
そう言い、崩れ落ち泣き続ける奏楽に、その人は困った表情を見せたが、特に何も言わずずっと奏楽のそばにいてくれた。
「なぁ、何があったんだ……?」
奏楽が泣き止むのを待ち、その人は尋ねた。
そして、奏楽の顔を見ると少し首をかしげる。
「なぁ、今言う事じゃないけど……お前、芸人の吹雪奏楽に似てねぇか?」
奏楽はこくんと頷く。
「私ね、吹雪奏楽なの……」
その言葉に、男は目を見開く。
でも、特に何も聞かず、
「そっか」
とだけ言うと優しく頭を撫でてくれた。
「あ、俺、松井雄太。よろしくな」
これが、奏楽と雄太の出会い。
「自殺」が呼び起こした奇跡の出会いなのだ。


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