商店街の日陰をセーラー服の少女が歩いていく。
彼女が通った後には、ほんのり甘いにおいが残っていた。
すると、少女は突然立ち止まり、手に持っていた白い日傘をさす。
それは、本当に似合っていた。
ふんわりとした黒髪のショートボブの髪型。
膝下まである、制服のロングスカート。
雪のように白い肌に、白い靴下に黒いローファー。
それから、小さな手に持った茶色い学生鞄。
それに加え、顔だちもとてもきれいだった。
何でもないように歩いていた彼女だったが、ある店で足を止めた。
そこは、商店街の本当の隅っこ……。
路地裏をいくつも通り抜け、やっと見つけられるほどの、目立たない、古いお店だった。
「ごめんくださーい」
少女はドアを開け、顔をのぞかせた。
しばらくして、聞きなれたおじさんの声が聞こえてくる。
「いらっしゃい……。おや?」
レコードを出したりしまったりしていたおじさんは、少女の顔を見ると、その手を止めた。
「こんにちは」
少女は笑顔で挨拶をする。
「ひなたちゃんじゃないか……」
「あはっ……マスター、見つかった?」
短い髪の毛をいじりながら、『ひなた』と呼ばれたその少女は慣れているように店の奥へを進む。
そんな彼女のほわん、とした笑顔に『マスター』は答える。
「ああ、見つかったよ。これじゃないかな?ひなたちゃんが探してたもの」
そう言うと、マスターは木製のテーブルの上にコロン、と一つの石を置いた。
ひなたはその石を手にとってまじまじと見つめると、やがて少しがっかりしたように首を振る。
「違うみたい」
「そうか……」
マスターはレコードをしまい終えると、ひなたを椅子に座らせ、ミルクティーを差し出した。
「飲みなさい」
「ありがとう」
ひなたはティーカップを口に運ぶ。
そんなひなたを見て、マスターは口を開いた。
「ひなたちゃんが見た石はどんなヤツだったのかな?」
「……それがさ、よくわからないんだよね」
ひなたはティーカップをコースターの上に置く。
「そうか……その石が、ひなたちゃんにとっていい思い出なのか、悪い思い出なのかはわからない……。でも、いつかきっと見つけ出せる日が来ると、私は信じているよ」
そんなマスターの言葉にひなたはにっこりとほほ笑んだ。
「ありがとう」
それから、ひなたはミルクティーを飲み干して店を出た。
相変わらず白い日傘をさしていたが、店を出る前とは違う思いが宿っているように見えた。