中二の冬。
あたし、手島姫子は病院へと急いでいた。
病院の廊下を速足で進みながら205号室の扉を開ける。
「瞬」
あたしが呼ぶと、彼は嬉しそうな顔をする。
「姫子。寒かった?」
「ううん、今日はそうでもなかったよ」
答えながら、あたしはビニール袋に入ったりんごを彼に手渡す。
彼はそれを受け取り、ありがとうと言った。
「瞬。具合はどう……?」
あたしは、そっと聞く。
彼は笑いながら平気、と答えた。
彼……三宮瞬は1年前から重い病気でずっと入院している。
病気があるとわかって以来、瞬は、この病室からはほとんどでなくなった。
「急性リンパ性白血病」
これが、瞬を苦しめている病気。
生存率は65%から85%と言われている。
あたしは、初めてこれを聞いたときは何も感じられなかった。
一瞬えっ?と思った。
その次はまるで夢でも見ているような感覚に襲われていて。
どうやって家に帰ったかもわからなかった。
今は生存率の85%になるように祈るだけ。
「姫子」
名前を呼ばれ、あたしは顔を上げる。
目があった。
「……ねぇ、姫子。僕さ、最近体調良いから遊園地いかない?」
それは、突然の誘いだった。
「えっ?でも、大丈夫なの?」
あたしが少しだけ戸惑いを見せると、彼はまた笑った。