神です。
なんか、最近人間たちが信仰してくれなくなりました。
神です。
人間が都合の良いときだけ神頼みしてくるようになりました。
神です。
私は世界を手放すことを決めました。
神です。
手放してみたら暇になったので、世界を見に行ってみました。
神です。
お金がなくなりました。
>>>>>>>>
前書いていた小説を放置して失踪したムクロです。すみませんでした。
前書いていた小説のことが書いてあるメモ張を無くした……ってのはただの言い訳ですよね、すみません。
この小説は頑張って完結させます。失踪しません、絶対。
ですので、こんな私が書く小説ですが、どうか見守ってやって下さい!
神です。
そう言ってみても、誰も信じてくれないだろう。それどころか、意味分からないと思う。
そこで、この寛大な私が説明してあげようと思う。
私は神だ。けれど、私はこの世界を作った神ではない。
この世界を作ったのは、私の兄だ。私はその妹。この世界を構成する、いわゆる魔法といわゆる科学の素を作ったのはこの偉大なる私である。
この世界は、魔法と科学の素がちゃんと備わっているというのに、愚かな人間たちは科学をとり、世界を破滅へと導いている。
そんな人間たちと、その人間が主導権を握り始めた世界に、私は絶望した。
兄は放任主義だった。兄がもっとちゃんとしていれば、まだマシな世界になっただろうに……と、何度思ったことか!
しかも、それに追い討ちをかけるように、人間たちは都合の良いときだけ私達に頼ってきた。
兄はそんなのに取り合わず、私が取り合うことになった。
なんてこと!なんて愚かな!
私は世界に絶望し、そして手放した。けれど、世界にも、そして実の妹である私にも放任主義な兄といるのは暇だった。
手放して仕事はなくなった。けれど暇。じゃあどうするか。答えは簡単だ。
「そうだ、旅に出よう」
「おー、行ってこい行ってこい」
旅は最初のうちは順調だった。
紛争を避け、犯罪現場を避け、くだらない世界の比較的平和な国を渡り歩いた。
けれど、どこも面白くなかった。
渡り歩いた国は平和だった。旅は順調だった。
けれど、面白くなかった。
暇ではない。仕事の疲れもない。でも、面白いことがない。
私は面白いことが起きればいいのに、と思って、持っていた金を全部高いところからばらまいてみた。
それでも、面白いことは起きなかった。
あー、面白くない。
この世界は手放すことが正しかったのだ。
つまらなく、愚かな者が蔓延り、破滅へと向かっている、こんな世界。
しょうがないから、兄のいる神殿に帰ろうか。
「ちょっと君」
そう思いながら歩いていたら、ふと肩を掴まれた。
あぁ、そうだ。私は回想している間、この町の賑やかな通りを歩いていたんだった。
で、裏路地に向かっていたんだ。
私は肩を掴んでいる手に手をおき、そして、その甲をつねった。
「いってぇ〜!?」
男だった。年の頃は15くらいか。
まだまだ若い少年か。
私は後ろを振り向き、手の甲を擦る男を見た。
そこら辺の者が着ているのと似たデザインの服。目の色は青。髪は……おぉ、ここら辺では珍しい漆黒ではないか。
ハーフなのだろうか。ふむふむ。興味はない。
「なんだ」
「なんだ、とはなんだよ!こっちは良心で呼び止めてやったのに」
「呼び止めて……?肩に手を置いたのに?」
それは……悪かったと思って……と、ぶつぶつと少年が言う。
ハッキリものを言えばいいのに。うざったいな。
私は「で?」と話をするよう促した。
「……き、君が入ろうとしていたの、裏路地だぞ?裏路地には悪魔が潜んでいるんだ!君のような女の子が入っちゃ……」
「悪魔などこの世界には居ないが」
「大神官様がそう言っていたんだ!」
「知らぬな」
大神官……昔はちゃんと私達神の言葉を聞いていたが、最近では自分に有利になるように言葉を偽り、それを民に広めているやつだ。
実は、旅の途中に大神官が住まうという屋敷に言ってみた。
「神にお聞きしたいことが」と嘘をついて。
金を多く取られたが、会うことには成功した。それで、天罰を下してやった。
多分、そのときだけ面白いって思ったと思う。
神ながら情けないことをしたと思う。
けど、大神官も大神官なので私は悪くないと思う。
「何が知らないと言うんだ!……ハッ!?も、もしかして、君は悪魔を信仰しているという組織の者かい?な、なんておぞま___」
「この世界に存在しないものをどう信仰しろと言うのだ。いいか!よく聞け!私は大神官の言葉をなど信用していない!」
少年にそれだけ言うと、私は少年の横をすり抜けて賑やかな町の中心部の方へ歩いて行った。
まったく。あの少年もご熱心なことだ!
そんなに神より大神官の方が良いか!
あぁ、そうか!そりゃあそうだろうな!
なんていったって、この世界を正すべき神は放任主義なのだからな!
私は久しぶりに感じた怒りに身を任せた。
旅の途中、面白いと思うこともなければ怒るということさえなかった私。
怒らなかった……というより、無意識のうちに心に溜め込んでいたのだろう。
それがあんな些細なことで爆発してしまった。
神が怒りはじめたのだ。いきなり空は暗くなり、雷鳴が轟いた。
風は吹き荒れ、子供が持っていた何かを吹き飛ばされ泣き始めた。
「あぁ、いきなりどうして!?」
「悪魔よ!きっと悪魔に違いないわ!」
「魔王の降臨かもしれん!」
「そうだな、大神官様がそう言っていたからな!」
おぉ、神よ!
口々に人間たちが言う。
私はとうとう「うるさい!」と口に出してしまった。
近くにいた老夫婦が私を見る。
「おぉ、おぉ、悪魔、悪魔じゃあぁ……」
「神を呼ばれて怒り狂っておるのじゃ……」
おぉ、神よ!この悪魔に天罰を!
「だあぁかあぁらあぁ……悪魔などこの世界には居ないのだあぁ!愚かな人間共めえええええぇ!!」
天罰!?天罰だって!?天罰なんてものはなぁ……お前たち人間に下るものなのだよ!
愚かな人間共め、今さら神を真剣に信仰し始めても遅いのだ!
「我の名はイヴ!神よ神よと真剣に祈るものならば、知っているはずだ!さぁ、愚かな人間共よ!今、天罰を貴様らに下してやろうぞ!」
手に現れる私が愛用する白の杖。杖の先端を天に向けると、天が避け、そこからたくさんの槍が降ってきた。
その槍が人間たちを貫く。
さきほど私を悪魔と言った老夫婦が槍に貫かれる。
さきほど裏路地に入ろうとした私を止めた少年が近くにやって来ていて、そして槍に貫かれるのをこの目で見た。
「兄よ、見ているだろう!?この世界の人間は私達を真剣に信仰していない!都合のよいときだけ信じ祈りはじめる……やはり人間が科学をとったのが間違いだったのだ!」
「科学をとった人間により、世界は破滅へ導かれた!その破滅が早まったまでのこと!こんな世界、いらぬわ!私のようなものが治めるのには愚か過ぎる世界だった!」
こんな世界、本当の本当に手放してやる!
槍は全てを貫いた。その槍は神の槍だった。
この槍を逃れたものはいなかった。無機物有機物問わず、誰も、どれも、助かりなどしなかった。
私はイヴ。前の世界で禁断の果実を口にしてしまったが故に罰を受けた元人間。
罰は終わったかと思っていた。けれど、こんな罰が残っていたとは!
「私は神!この世界の神!けれどその世界ももう終わり!私は罰を逃れるのだ!」
世界を治めるのが罰。ならば、その世界を消し去ってくれよう。
この世界で私のようなものが現れないように、注意を払ったのが間違いだった。
そのせいで、昔、世界を愛してしまった。罰のことなど忘れてしまっていた。
愚かだった。私が愚かだった!
罰から逃れるために、もっとはやく、怒りを爆発させるまえに、この世界を消せばよかった!
降っていた槍が勢いをなくす。
それは、貫けばならぬものが無くなってきたから。
とうとう一本の槍だけになった。
その槍は、まっすぐ私へと向かってきていた。
私はそれに気づけなくて、また、死んだ。
罪をおかした女としてじゃなく、今度は世界を壊した神として、罰せられたのだ。
意識が飛ぶ。
次に目を開けたとき、私は小さな赤ん坊だった。
「あら大人しい子ねぇ」
「女の子ですよ、お母さん!」
ケホケホと口から空気と水が出た。
そうか。私はまた罰を受けるのだ。
人類最初の女ではなく、世界を作った神の片割れではなく、次は人間の女としての罰を。
「名前はなんと?」
「イヴです、イヴ」
「あぁ、お父さんは外国人ですか?」
「いいえ、その父が外国人で。お父様が決めて下さったんです」
「クォーターなんですか!」
「えぇ」
幸せそうな会話だ。
そして、またイヴなのか。
私は赤ん坊らしくない笑みを浮かべた。
「イヴ〜イヴ〜」
母が声をかけてくる。
いい加減、子離れしてくれないだろうか。私はもう13。中学生になるというのに。
「ほら笑って笑って〜!!ちょっとヒロユキさん、カメラ変わってよ!!」
「僕まだイヴと一緒にとってもらってないけど……」
「つべこべ言わないの!……ごめんねイヴ〜。はい、チーズ」
カシャッ。
昇降口の前。入学式と掛かれた板の横に立たされ、写真を撮られる。
「あーもう、かーわーいーいー!!イヴったら本当に可愛い!!」
「親バカ」
「ヒロユキさん!?聞かなかったことにしてあげるから、はやくカメラ変わって!!」
「え、えぇ〜……じゃなくて、ハイ!!」
バカな両親だ。
私は心の中で呆れた。けど、こういうバカらしいのもちょっと楽しいかもしれない。
前の人生……いや神生?では感じられなかった楽しさと面白さに少し戸惑った。
母が私の隣にやって来て、ピースをした。年のわりに見た目が若々しいせいか、ピースが似合う。痛々しくない。
父が「ハイチーズ」と棒読みで言う。
写真を撮り終え、入学式も終わったことだし、と、家族三人で車に乗り、レストランに向かった。
この世界で、私は本当に罰せられるのだろうか。
今日まで本当に幸せで、友もいて、幸せな家庭があって、悪いところなど全然なかった。
本当の本当に、罰せられるのだろうか?
いや、もしかしたら、もう罰から逃れられているのかもしれない。
車を運転する父が、「あっ」と声を上げた。
「そういえば、アダムはお昼……」
「ヒロユキさん、忘れたのー?アダちゃんは今日学校で給食出るのよ?」
「あっ、そっか。アイツは早くないのかー」
「父さん忘れんぼー」
年に合うような言葉使いで話す。
二人は知らない。私の今の兄も知らない。
いつか私が罰せられることを話さなければならないのだろうか。
私が『本当のイヴ』だということを言わないといけないのだろうか。
……罰せられて、家族は悲しむだろうか。
「イヴ」
夢の中。真っ暗な夢。その夢の中で、私は呼ばれた。
しかも、この生を受けてからは聞いたことのない声。
懐かしいその声に、目を見開く。
暗闇の満ちていた夢の中は、光に溢れだし、覚えのある部屋に変わった。
「あ、兄?」
「おぉ、イヴ。覚えてたか」
この部屋は神だった前世に使っていた、仕事部屋だ。
人間たちを見下ろし、その願いを聞いてやっていた部屋。
部屋にある私のものだったイスに座るのは私の元 兄。
「姿は変わるが、中身は変わるよな。やはり」
「兄よ。どうしてアナタが夢に出てくる」
聞くと、兄は「ハッハッハッ」と笑った。
「出たっていいだろう。ありがたいと思わないか、イヴ。神がわざわざ夢に出てやったんだからなぁ」
「そうか。で、なんだ。用がないのなら帰るがいい」
「用はある。大事なことだ」
「ほお……あの放任主義がわざわざ大事なことを?」
「そうだ」
真剣な面持ちの兄を睨む。
コイツがわざわざ大事なことを?そもそもこの世界の神ではないだろうに。
大事なこと?罰のことだろうか?
「俺この世界の神になることにしたから」
……はあ?
言葉がよく理解出来ず、私は固まった。
「この世界の神さ、もう、とうの昔にこの世界手放してたの。んで、俺の世界はお前に壊されたし、どうすっかなーって悩んでたら、ちょうどこの世界の神にこの世界の譲ってもらうことになってさ」
「……つまり、お前は私の上にたつと……?」
「ん、そういうこと」
今度はちゃんと世界運営するからな。
そう言う元 兄を殴りたくなった。
なぜこの男が!なぜこの神が!私の上にたつ!?なぜ私の住む世界を運営するんだ!?
あぁ、もしかしたらこれが今回の罰なのかもしれない……。
私の意識が少しずつ遠くなる。
「あ、お前のことは贔屓しねぇからな。いや、本当。元 妹だけど、今まで仕事変わってもらってたけど、色々してもらったけど、贔屓とかしねぇからなー」
あぁ、夢から覚める。
面白い。
末長く読み続けたい。
神です。
最近この世界の神になりました。
神です。
面倒臭くなりました。
神です。
元 妹のために頑張ってるけど面倒臭いです。
神です。
ちょっと休暇とります。
神です。
ちょっと世界を旅してみようと思います。
神です。
旅とか面倒なので、元 妹の守護神としてやってみようと思います。
神です。
元 妹に殴られました。
「なぁ、イヴ〜」
うるさい。やはりこれが今回の罰なのか。
最初の罰は死ぬまで子を産み続けること。
その次の罰は愚かな世界を治めること。
そしてその次が、前世で兄だった神を守護神とすることが罰なのか。
なんということ!なんて悲しいことだ!地味に苦しい罰だ!
「イヴイヴ〜」
(うるさい!!)
「えー」
(今学校案内の途中だ!黙っていられないのか、この愚兄!)
「酷いぞ、元妹よ」
酷いのはどちらだ!
自己紹介のとき噛んでしまって言葉が変になり、それだけでも恥ずかしかったというのに、コイツときたら、笑いおってえええぇ!!
私はとりあえず、誰も見ていないのを確認して、元 兄を殴った。
今回はやけに地味な罰だな……。
私は今が授業中だというのを忘れて、そう思った。
思考は半ば上の空。目線は一応教科書と黒板を行き来しているけれど、内容がよく分からない。
そもそもどうして私はこんな記憶を持ち続けながら罰せられているんだっけ……?
……ああ、そうだ。そうだった。私は罪をおかしたのだった。
人類初の女として生をこの世にうけ、愛するあの人と一緒に生活をしていたんだ。
ある日のこと、神に「あの果実は食べてはいけないよ」と言われたのにも関わらず、その果実を二人で盗んで食べてしまって。
あれ?結局、あの果実は何だったのだろう。
それほど大事なものだったのだろうか?
例えば『世界にもたらされるはずだった何か』とか。その『何か』がなんだかは分からないけれど、怒りくるった神の様子から察するに、とても大事なものに違いないだろう。
「イヴ、どうした?」
元 兄の守護神が話しかけてくる。
それを無視し、私は黒板を見る。
よく分からない記号が白い粉で描かれている。なんだろう。あれは一体、なんていうものだろう?
周りの人間たちは何をしているのだろう?細い棒を持って、手を動かして……___。
……ハァ?
私は今、何を考えていた?
今、何か可笑しな感覚だったような……とにかく、なんだか酷く懐かしい感覚。
……いやいや、ただ寝ぼけていただけだろう。ああ、そうだ。そうに違いない。
授業中に沸き上がったあの懐かしい感覚は、可笑しな感覚は、家に帰ってからもおこった。
「あら、お帰り〜」
イヴ。
そう呼ばれて「どうして?」と叫んだ。そして、我にかえる。
今の言葉は、私が人類初の女だったころに使っていた言葉だったはずだ。
そして、それを言った時に心に沸き上がってきた数々の言葉。
「ここはどこ」「この人間は誰」「どうして名前を知っている」
その言葉も、昔使っていた言葉だった。
「イ、イヴ?今、なんて……」
「なんでもないよ〜!ちょっとした脅かしだよ、脅かし!!」
「な、なぁーんだ!ただの脅かしなの?もー、趣味悪いわねっ!」
自分の部屋に行く。
ドアを閉め、その場にしゃがみこむ。
茶色の冷たいドアに背を預ける。
私の顔を心配そうに見てくる最悪な守護神。
私は恐ろしくなっていた。
私の中の『イヴ』が目覚める。『今の私』が消される。のっとられる!
『私』が『イヴ』に戻ってしまう!
「さっきのは___」
(何も言わないでッ!!)
悲痛な心の叫びを感じとってか、守護神が私から離れた。
初代イヴ。前世の神だったイヴ。そして今のイヴ。
どのイヴも私だった。そのはずだった。
けれど、初代イヴが私から離れ始めた。
__多重人格__。ふいにその言葉が頭をよぎる。
そうか。多重人格か。私は多重人格になってしまうのか。怖い?うん、怖い。
初めてかもしれない。こんな恐怖は。
私が『私』であったからこそ、恐怖なんてなかった。
恐怖よりも、つまらなさが勝っていたから、どんな罰を受けても耐えていたのに。
「私は、この生活を手放すことになる」
ボソリと呟かれた自分の言葉に泣きそうになった。
もし、この体の主導権を初代イヴが握ったら、そのとき私は___。
「おーい、いるんだろー」
ドンドンドンッと、ドアが乱暴に叩かれる。
百歩譲ってもノックとは言えないその荒々しさに、私はハッとした。
乱暴に叩かれるドアを開け、ドアを叩いていた人物を睨み付けた。
「おお、こわ」
今の私の兄、アダムだった。
初代イヴが愛し、私が今でも愛している『彼』と同じ名前の血を分けた実の兄。
祖父の血が色濃く出たのか、目が青い。ちなみに髪は黒だ。
一つ年上のアダムは、私に対して乱暴な兄だ。けれど、いざというときには頼りになるので、前世に兄だった現 守護神よりはマシなのかもしれない。
放任主義ではないし。
アダムがズカズカと私の部屋に入ってきて、ベッドに腰をおろす。
勝手に入って来ないでほしいのだが。
「まぁ、適当に座れよ」
「ここは私の部屋なんだが」
「その偉そうな口調、よく大人たちの前でしないよな」
「なんだ。文句があるのか?」
「へーへー、ありゃあせんよ、ありませんとも。イヴさんやー。ハッハッハッ!」
(なぁ、守護神だろう?今すぐコイツをここから叩き出してくれ!)
「えー」
私はどうやら兄に恵まれないらしい。いつの時代も。
「で、なんだ」
机の前にあったイスに腰掛けて聞いた。
「ん?あ、実はさ。母さんに聞いたんだけど、お前、変な言葉叫んだって?」
「ああ、あれはただの脅かしだ。ハルカにやってみろと言われてな」
ハルカ、というのは私の小学校からの友達だ。
腹黒く、何を考えているか分からないお調子者。けれど、なぜか信頼してしまう人物だ。
「あー、お前は昔からハルちゃんの言うことだ・け・は、しんじっからなぁー」
「悪いか」
「ぶぇっつにぃー?ただ、弱味握ったと思ったのになぁー。残念残念!」
「ウザイから出てけ」
私の神経を逆撫でするために使っているような言葉使いに、やはりイライラしてしまい、兄に蹴りを喰らわせて部屋から追い出す。
あとはドアを閉めるだけ。勢いよく閉めようとしたら、アダムが「そーいや」と口を開いた。
「イヴさ、昔も変な言葉で叫んだことあったよな」
勢いよくドアを閉める。
「ちょ、おい、あーたく、これだから思春期のお子さまはー」と聞こえてくるが、そんなの無視だ。
「ふーん。イヴは昔も……」
(黙れ。今、そのことを思い出す。邪魔するな)
「おーぉ、こわ〜い」
……昔にもあった。
さきほどアダムはそう言った。
つまり、初代イヴが私の表面に出てきてしまったことがある。
……まさか、兆候だったとか……?
「そんなこと、あったか……?」
「あったんじゃないか?よく思い出してみろ。お前は記憶力だけは良いんだからな」
記憶力 “ だけ ” ?聞かなかったことにしよう。
「昔だぞ、昔」
昔……。昔って、いつのことだ……。
目を瞑り、過去を遡っていく。
今の生を受け、生きてきた中で一番古い記憶は母のお腹から出てきたとき。
それから少しずつ記憶を紐解いていった。
すると、小学生のときの記憶に違和感を感じた。
アダムと二人。家で留守番。私はテレビを見ていて、アダムは本を読んでいる。
アダムが何かを言った。何を言ったかは覚えてない。
アダムに何かを言った直後の記憶に霧がかかり始めた。
こんなこと、全然なかったのに。
どうして霧がかかり始めるのか。それに、どうしてアダムの言葉さえ忘れているのか。
「思い出せ」と言われたら、時間はかかっても、普通の者よりも覚えているし、そのときの天気から時間と何から何まで細かく言えるのに。
どうしてここだけ……。
__イヴさ、昔も変な言葉で叫んだことあったよな__
__変な言葉で叫ぶ。
私はアダムに何かを言われた直後、あの言葉で叫んだのだろうか。初代イヴだったあの頃に使っていた、古代の言葉を。
「叫ぶ……」
「なにか思い出したか?」
私は首を横にふった。
「可笑しい。なぜあそこだけ思い出せないのか」
そう私が言うと、守護神が首をかしげた。
「どうした?」
「……え?イヴ、お前は何の言葉を……」
「言葉?なんだ、いつも通りの言葉のはずだが」
「声も違う。それに、目の色が__」
目の前が一瞬黒に染まる。視界が元に戻ったとき、私は悲鳴をあげそうになった。
また。まただ。またわけのわからない所にいる。
目の前のこいつは誰?周りに溢れる物は何?空気が汚い。上手く息が吸えない。頭が痛い。割れそう。頭が二つに割れそう!
「あ、ああ、あ、あああ、あ、あ、あ、あ」
「イヴ?……イヴ!?」
「あ、あ、な、なんで……なま、え、しって、う、あ、あ」
頭が痛い。割れる。とっても痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛いぃいい!
ああ、神が私を罰したときのように頭が痛い!違うのはお腹は痛くないってだけ。
痛いの。とっても痛い!アダム!アダム!手を握っていて!
「アダ、ム、いない?……いないの?」
右手がアダムの手を求めて宙をさ迷う。
「イヴ、お前また……!!」
わけの分からない言葉。
私は無我夢中に、いるはずのないアダムの手を求める。
その手を目の前の人が掴んだ。人とは思えないような冷たい手に、私は悲鳴を今度こそあげてしまった。
目の前の人はぶつぶつとまた私が分からない言葉を呟いている。
「離して!離してえぇ!」
手を上下に振り回す。
頭の痛みが増していく。ああ、私、死ぬのね。この人は死の神よ。そうに違いない。
死の神が口を開いた。また分からない言葉が飛び出すのかと思いきや、そうではなかった。
「俺は神だ。お前はここにいてはならないんだ。さぁ、体を持ち主に返すんだ」
「体?そんなことより、神よ、私を助けて!頭が、頭が!……っ」
また叫んだからだろうか。
一気に痛みが増し、私は意識を手放した。
上の階から悲鳴が聞こえる。幽霊でも出たのか?とバカみたいなことを思う。
「イヴ……?イヴ、どうしちゃったのかしら?ちょっと見てくるわね」
母さんが皿洗いを一旦止め、リビングのドアを開いた。
その背中に向かって言う。
「いや、イヴは大丈夫でしょ。最近イヴ、ハルちゃんの言うこと聞いて変なことしてんだよなー。今日の脅かしの件についてもそうみたいだし」
思春期って色々あるからなー。うん、そうだ。そうに違いない。
どうせこれも悪ふざけに過ぎないだろう。
「ハルカちゃんの?そうなの?……でも、心配だわ。母さん、見てくるわね」
「え、ちょ、水出しっぱなしだって!……ちょ、母さん!待てって!」
リビングから飛び出す母さんを追って、俺もリビングを出た。
これでも兄だ。妹の悲鳴を聞いたのに不安にならなかった、なんて嘘だ。
目を開く。重い瞼を頑張って開けば、そこは自室ではなく、リビングだということが分かった。
「私は、自室で……」
「「「イヴ!」」」
複数の私を呼ぶ声に、不覚にも驚いてしまった。
「母さんと、アダム……」
(と、守護神……)
「何が……」
あったの。
そう言おうとしたら、守護神に「あれを見ろ」と言われた。
守護神は私が寝ているソファとテーブルを挟んで対極の位置にあるもうひとつのソファを指差した。
そこには人間が一人寝ている。
「あれは……」
「よく分からないの。悲鳴を聞いてイヴの部屋に行ったら、あの子とイヴがいてね……。あの子、誰?」
……知らない。
私はそう言った。母は「そう」と言ってその子の側に寄っていった。
代わりというように、アダムが私の側に寄ってくる。
「あいつ、お前にすげぇそっくりでさ。俺も母さんもすげぇビックリしたんだぜ?で、何あいつ」
「知らなって言ったでしょ、お兄ちゃん!」
語尾に星をつけるような言い方をし、アダムを挑発してみた。アダムは「うぜー」と言って、その子のところに行った。
(で、あんたは知ってるんでしょ?)
守護神に問いかける。
「ああ、もちろん。お前はまた、変な言葉を言い始めたんだ。俺は動揺したが、神の力を使い、そいつに体をお前に返すように言ったんだ。そしたら、あいつ、いきなり倒れてな……」
(倒れて、何?)
「体が光って、2つに別れた。ひとつの体が、2つに避けたんだ」
光がおさまる。お前らは瓜二つの顔で倒れていた。
そう棒読みで言う元兄の守護神。
私はソファに寝ている、双子のように、私と同じ顔をしている人間を見た。
「まさか」と思える、ある考えが頭をよぎった。
……その人間が、初代イヴだなんて、ないよな?
いや、ないだろう。まさか、そんな。
けど、それ以外に何も心当たりはない。
私は未だ眠り続ける人間を見つめた。
夕方から夜へ。赤い空が黒に染まった。時計を見れば、七時。そろそろ父が帰ってくる時間だ。
ソファに座り、目をあちらこちらに向けては怯えた様子をしている、私そっくりの人間は、先ほどからこの時代の、この世界の言葉ではない言葉を口に出していた。
けれど、私にはその言葉が理解出来た。
なぜなら、彼女は私から出てきた別人格であり、誰でもない私自身のことだからである。
実際は、私の前世の前世の初代イヴとしての記憶が人格を持ち、それが私と分離して外に出てきてしまったのだが。
また、記憶が人格を持って出てきたと言っても、コピーなのか、それともなにか細工があるのか、その初代イヴのときの記憶は今も私の中にあった。
分離して数時間。
今から約30分前だろうか。彼女、初代イヴが目覚めたのは。
『ここは!?ここはなんなの!?あ、あ、あああ、アダ、アダム!アダム!?』
『落ち着け!お前の言うアダムはここには居ない!それに、お前は……』
『いない!?アダムが?……アダム、いないの?ねぇアナタ、ここはどこなの!?私は罰から逃れられたの!?全然お腹が痛くないのよ!先ほどまでは頭も痛くて……それが、もうないの。ああ、あの神はどこ!?』
思い出しただけで、彼女のキンキンとした黄色い声で頭が痛くなる。
神、神、と叫びながら守護神を探し、私の後ろに縮こまっていたのを見つけた。その時の彼女と言ったら、とても恐ろしかった。
たくさんの質問を投げつけ、彼女の言葉が理解できない兄のアダム__もちろん、彼女の言っていたアダムではない__に止めに入られるまで、雨のように質問を浴びせていた。
私の元兄である守護神は疲れきっていた。
この場にいる母とアダムに見えない守護神を除いて、彼女の言葉を理解できるのは私だけだからか、やけに二人に頼られた。
彼女はなんと言っているか、そもそもどうしてお前は言葉が分かり、しかも話せるのか。後者の問いに答えることはしなかった。というより出来ないからだ。
話せるわけがない。可笑しくなったと思われるだろう。前世や罰のことを話始めたら。
……でも、話しておいた方が後々良いだろうしな……。
私は実際悩んでいた。
もちろん、可笑しいと思われることにより、この幸せな家庭を壊すなどしたくない。けれど、説明をしないと怪しまれる。
「言った方が良いと思うけどな」
(……よく分からない。今のところは言わないつもりだ)
私は彼女のもとへ向かい、隣に座った。
「……ねえ?ここは、あなたの言った通り、未来の世界なの?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ、アダムはいないの?」
「苦しみから解放され、今は安らかに眠っているよ」
「……なら、いいわ。寂しいけれど」
彼女は私を見て、にこりと微笑んだ。
鏡の前で微笑んだことなどなかったので、自分の顔がどのように微笑むのか分からなかったが「こういう風に微笑むのか」と実に感心した。
__私にも、こういう風に笑うことは出来るのだと。
「そういえば、アナタのこと、聞いてなかったわね」
微笑みをたたえながら、彼女は言った。
「名前すら聞いていないもの。ああ、私はイヴよ。よろしくね」
やけに柔らかな物腰だ。私はこんな感じだっただろうか。
神の頃、つまり一番最近の前世での馴染みからかこんな口調になっているが__基本、人と喋るときは年相応の喋りかただが__彼女は何も思わないのだろうか。不思議に思わないのだろうか。
そういえば、前世よりも口調が雄々しくなった。
世代が変わることで口調が多少変化するのだろう。きっと、そうだ。だから、彼女の口調は柔らかなのだ。
私とは違うのだから。違う世代なのだから。
私は彼女に応えるべく、簡単な自己紹介を、彼女の知る言語で話した。
「私は、アナタと同じ名前で、イヴ。この家の者だ。……あぁ、あそこにいる男は私の兄で、アナタの思い人のアダムと同じ名前だ。その隣にいるのは母だ。親子共々よろしく。あ、そこにいるのは私の守護神で、私とアナタにしか見えないからな」
イヴは「ええよろしく。……あなた、守護神だったのね」と言った。
微笑みが消え、神妙な面持ちになり、彼女は囁くように言った。
「私ね、本当はすごく怖いのよ。知らないものばかりだし、しかも未来の世界なのでしょう?言葉が通じるのはアナタと守護神だけ。どうして私がここにいるかも分からない」
「その気持ちは察する。さぞ心細いことだろう」
彼女の声は少しずつか細くなっていく。
「……私の罰ことはどうなったのかしら……罰は死ぬまで続けられると神は言っていた。罰は……どうなっているのかしら……」
せめて、彼女だけには言うべきだろうか?……いいや。彼女はパニック障害ぽかった。彼女のためにも言わないでおこう。
前世のことや罰のことなど、言わない方が良い。
私は「ちょっと待ってて」と言い、少し離れたところで呆然と立っている母とアダムに駆け寄った。
「あぁ、イヴ、イヴ。あの子はなんて?」
「あの子は私と同じ名前のイヴ。今状況があまり出来ていないみたいなんだ。そっとしておいてあげて、ねっ、母さん?」
「けど……イヴと同じ名前で同じ顔。声はあのこの方が高いけど、双子みたいなんだもの。他人事とは思えなくて、心配なのよ」
母性本能なのだろうか。その母に、昔テレビで見た『マリア様』と呼ばれる女神だかなんだかを思い出させた。
母の瞳には、まるで女神のような慈しみを持っていた。
前世、本物の女神だった私が言うのだから間違いない。
「なんでお前、あんな言葉喋れんの?英語?ドイツ?フランス?中国?昔のや今日の “ 脅 か し ” に関係あんのか?」
後ろに佇む守護神が「言った方がいいんじゃないのか?」と言った。
そろそろ父が帰宅する時間だ。
父へのこの状況の説明をするついでに、前世のことも罰のことも、全て話してしまおうか____。
私は父の帰宅と共に訪れるであろう試練の壁を実際に見た気がして、少しの頭痛を感じた。
母がようやく夕飯の支度に取りかかり、部屋にいい匂いが漂い始めたころだった。
外で車が停まる音が聞こえ、次に人の話し声が聞こえてきた。
声が近づいてくる。そして___
ガチャと音がした。
「ええ、よろしくお願いしま__」
携帯を持って登場したのは父だった。
私は初代イヴの近くに寄り、安心させるため、手を握ってやった。
父は彼女を見て固まっている。が、携帯越しに何か言われたのだろう。
「……あ、はい!……それでは、失礼いたします」
携帯の電源を切ると、私と彼女の顔を交互に見比べた。
「……ただいま」
「おかえりなさ〜い、ヒロユキさん」
「「おかえり」」
未だ震える初代イヴの耳元に口を寄せ、父を紹介した。
「彼は私の父だ。これで家族全員だ」
「……そ、そうなの。驚いてしまったわ……。えっと、どうして一人で喋っていたのかしら?」
「それは後で説明しよう。難しいからな」
彼女はコクリと頷いた。それから父に、ニコリと笑ってみせた。
父は笑顔を返した。
「……なぁ、あの子は誰なんだ?イヴにやけにそっくりじゃないか?」
「イヴの部屋で、イヴと一緒に倒れてたのよ。私たちだって、あまりよく分かってなくて……イヴがよく知ってるようだけど。あ、そういえば、あの子もイヴって名前だってイヴが」
「ややこしいな。両方イヴなんて」
初代イヴが不安そうに顔を歪めた。
自分のことを言われているのが分かったのだろう。私は彼女の手を握る力を強くした。
彼女の不安が爆発して、またあのパニックを起こしたら堪ったもんじゃない。耳が痛くなる。
私は「大丈夫だ」と言った。
「言葉も通じないのよ」
「けど、イヴだけ分かるんだぜ?凄くね?フランス語かな?英語っぽくなかったしよ〜」
……私が通訳しなければならないのだろうか。
「イヴ、どうすんだ」
(そんなこと言われてもな。せめて彼女と言葉が通じればな……)
「だろうな」
(お前は神だろう。なにかできないのか?)
守護神は少しの間唸り声をあげた。
初代イヴは、それを興味深そうに見ている。
「ああ、できるとも。俺は神だからな。言葉を通じさせることなんて、容易いものだ。時間を要するがな」
初代イヴは意味が分かったのだろう。やったと喜びそうになり……そして私の言葉を思い出した。
この守護神は他のもの__父や母、兄のアダム__には見えないのだということを。
__きっと、自分が喜び始めたら、他のものに変な目で見られる。
複雑そうな顔をし、そして、にっこりと笑った。
口は「ありがとう」と形を作った。
「ねぇ、アナタ。言葉さえ通じれば、少しはよくなるのでしょう?この状況が」
「まぁな」
「そうなったら、少し大変ね。私とアナタは名前が同じで大変なことになるでしょう?ねぇ、区別をつけるために呼び方を変えない?」
なるほど。私の中では「初代イヴ」「彼女」で呼んでいたのだが……少し寂しい呼び方だ。
この際だから、もっと良い呼び方を……。
「イヴとイヴ。そうね……名前がもう少し長くて、略しやすかったらよかったのかもしれないけれど……あぁ、イヴとイブでは?どうかしら?」
それだと、日本人は区別が難しくなる。「イヴ」と「イブ」は日本人には少し区別しづらい。
そのことを教えると、彼女はケラケラと笑った。滑舌が悪いのね、と。
「ならどうしましょうか」
守護神が少し考えてから言葉を発した。
「これはどうだろう。イヴとイフ。イフというのは、この世界の、ここではない国の言葉で、もしも〜という意味だ。また、この国は1、2、3、をひ、ふ、みと言う。その2を表した “ ふ ” の意味もある。二人目のイヴという意味だ。どうだろう?」
すると彼女は「イフ」という名を気に入り、私にイフと呼ぶように言った。
母さんが、「どうぞ〜」と言って、イブのそっくりさんの目の前にご飯と箸を置いた。念のために、スプーンとフォークも添えて。
父さんは、挙動不審になって、あちこちに目を向けている。
父さんはどうやら人見知りらしい。
俺は隣に座るイヴを見た。
平然とイスに座り、目の前で固まっているそっくりさんに話しかけている。
話しかけられているイヴのそっくりさんは、運ばれてきた物を見て、「これはなんだろう?」という顔をしている。
そして、口を開き、食器や料理を指差し、イヴに何かを言っている。
日本語でもなく、英語でもないため、何て言っているか分からない。
が、イヴはそれに、ペラペラスラスラと答え、時折笑って話している。
ふと、イヴが『俺の妹じゃないイヴ』のように感じた。
「はーい、それでは食べましょうか〜!!」
母さんがイヴのそっくりさんの隣__つまり、俺の前__に座り、手をあわせる。
「えーと、いただきますって、分かるかしら?えっと……イヴちゃん?」
「※◆\△□★□仝▽¢‰ゞ〆∀?」
「……えっと〜」
意味不明な言葉に戸惑う母さん。ちなみに俺も戸惑っていたりする。
英語も生で聞くとスゴい怖いが、英語よりも馴染みのない……いや、そもそも聞いたことすらない言語で、言葉で話されているためか、英語を生で聞いたときよりも、幽霊の話を聞いたときよりも、怖い。
イヴはその意味不明な言葉に、同じように意味不明な言葉で返し、何回か会話を重ねたあと、安心できる日本語で母さんに話しかけた。
「母さん、この子、イフって呼んでだって」
「そ、そう?」
イフ……?if……?
英語はあまり得意ではないが、確か、『もし……ならば』だった気がする。
合ってなかったらちょっと恥ずかしい。
「で、いただきますは……?」
今まで挙動不審だった父さんがイヴに聞く。
「あぁ、うん。分からないらしいから、教えてあげた」
「そうか……うん、じゃあ食べるか」
「そうね」
「腹減ったー」
皆で手を合わる。それに少し遅れてイフが手を合わせ、それを見て、
「「「「いただきます」」」」
「……いた、だ、きます……?」
それぞれ箸を取り、おかずに手を伸ばす。
イヴは箸のことやスプーン、フォークのことをイフに教える。
イフは戸惑いながらも、箸を手にし、幼い子供がするように箸を握りしめ、おかずの肉じゃがのじゃがいもを刺した。
うん。言葉からして外国人だろうし、これでも良いんじゃね?
俺は肉じゃがのじゃがいもを、綺麗に取って、一口で食べた。
今日、我が家は、我が家の長女のそっくりさんを食卓に向かい入れた。
>>>>>
今気づいた。なんと、脱字誤字が多すぎる!ということに。
えーと……そこのところは脳内変換でスルーしちゃって下さい。
そして、ミルフィーユさん。返信遅くなってすみません!
感想ありがとうございます!頑張ります!
「えっと〜。……イヴ〜?その……イフちゃん、家は〜?」
母はチラッとイフを見た。
イフはアダムと守護神と一緒にテレビを見てる。
テレビから流れてくる言葉は分からないだろうが、それでも、とても楽しそうだ。
「倒れてたいたんだろう?……この時間になってもここに居るんだし……どうするんだ?」
「そうなのよね〜。ねぇ、イヴ?どうすればいいの?」
なぜ私に頼ってくるのだろう。……なんて。頼ってくる理由は分かるけども。
私だけ、イフの言葉が分かるからな。早く皆に言葉が通じるように、元兄の守護神にしてもらわねば。
……さて、この状況をどうするか。
イフは、私の部屋で大丈夫だろう。
だが、明日どうする?
私は明日学校がある。まだ入学して3日だ。休むわけにはいかないだろう。
何より、休むと大事な勉強についていけなくなるだろう。それだけは避けたい。
これからイフをどうすればいいんだ……。
イフが知っている、存在していた、生活していた世界は、時代はもう過ぎてしまった。なくなってしまった。
時をさかのぼることはできない。帰す場所すらない。
と、なると、我が家で過ごすこととなるだろう。
家の者にはなんとか説明できるだろうが、周りの家の者には説明できまい。
外にイフを出さない、ということもできないだろう。
イフは……過去の私は、外で駆け回るのが好きだったからだ。言葉使いのように穏やかな行動はしなかった。
……あぁ、そうだ。学校はどうしようか。
学校に行ってもらわねば、今後色々と大変だ。この時代で生活するには、職が必要だ。
そして、その職に就くためには、学校に行かなければならない。
あぁ、問題が山積みだ……。
まぁ、とりあえず。
「私の部屋で寝てもらうよ」
そう言うと、母と父は不安そうに顔を歪めた。
「今日はそれでいいかもしれないがなー」
「明日とかどうするの?……あの子、何なの?」
説明をするのなら、今か。
けど、まだ話したくない。怖い。
私は「イフ」と呼んだ。
イフは私の隣にやって来た。アダムも遅れてやって来る。
守護神はソファに座って、苦い顔をしている。彼は分かったのだろう。私がしようとしていることに。
前世の私でさえ、彼には__兄には話さなかった、あのことを、私がとうとう言う、と。
「とりあえず、長くなるから座ろうか」
口調が、母や父、周りの人間に話しているときの年相応の話し方ではなく、年に合わない口調になっていた。
あの雰囲気はどこへいったのだろう?
先ほどまで、暖かい雰囲気だった居間は、もうどこにもなかった。
「私は、私の前世を知っている」
その言葉に、母と父は驚き、現 兄のアダムはどこか納得したような顔をしていた。
「その前の前世の記憶も持っている。前世、私は神だった。こことは違う世界の神。そこで生きていた私も、イヴという名前の女の神だった」
父は「何て言う馬鹿げたことを……」と、頭を押さえた。
人間は、自分の考えを超えた現実から逃げてしまう。今の父も、逃げているのだ。
母とアダムは、お伽噺でも聞いているような顔をしていた。
こちらも、現実から逃げている。
「そして、神として生まれる前。つまり、前世の前世。その時も、私はイヴという名前だった」
ふと、昔のことを思い出してみる。
現代よりも自然があり、というより、自然しかなく。
美しい空と大地と海に恵まれた動物たちに囲まれて、私は最愛の彼と一緒に過ごしていた。幸せだった。
その幸せは、すぐ崩れ去った。あるとき、禁断の果実の存在を知り、好奇心に負けてその果実を食べてしまったから。
「初代のイヴは、とある罪を犯した。その罪はとても大きく、当時の神は、私__つまりイヴと、そして一緒に罪を犯した男に罰を与えた」
それはとても酷いものだった。毎時辛かった。
私がそう言えば、苦い顔をしていた守護神は、どこか懐かしむような顔をした。
「ああ、そうだった。お前はいつも辛そうだった。あのときもまだ、罰せられていたのだな」
懐かしむ要素などないハズなのにな。
私は笑いそうになった。
上がりそうだった口角に力を入れ、真面目な顔を保って、彼らに話を続けた。
「その罰は、生を終えた時点で、終わるものだと思っていた。そう信じて疑わなかった。けれど、その罰は終わらなかった。前世の記憶を全て持って、私はまた新たに生まれ変わった。兄妹神の妹として、最高位の神に産み出された」
最高位の神は、かつて私を罰した神だった。
元は一人しかいなかった神。暇をもて余して、その全知全能の力の一部を小さな神に変えた。
そのたくさん産み出された小さな神の一人が、前世の私だった。
「私は神に言われた。全てを忘れ生きなさいと。だから罰は終わったのだと思った。けれど」
私はまた、こうして前世の記憶を持っている。
この言葉が意味すること。それを察したのか、父母とアダムは固い表情に変わった。
三人の顔は、先ほどまでの逃げていた顔ではなく、どこか理解しはじめていた顔だった。
「私は、あんな世界を治めなければならなかった。それこそが、生きていることが罰だったのだと知ったとき、私は、私自身が落とした無数の神の槍の一本に貫かれていた」