そして夏は終わる

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1:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/27(日) 22:55 ID:3uI

彼女は不思議だった。

追いかければ消えるし、追いかけずにいたらやって来る。
あたしは彼女の名前を知らない。だから、あたしは彼女をこう呼ぶ。
『夏』と___

2:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/27(日) 23:10 ID:3uI

津田峰子、15の夏。
周りが進路を次々に決めていくのを見て、不安を覚えていた頃だった。

みんなあたしを置いて、未来へ視線を固定する。
ろくに勉強もしてこないで、楽々と過ごしていたあたしは、「もう成績は取り返せない」と諦めていた。
あたしだけが進路を決めない。両親でさえ、あたしの進路を諦めかけていたとき。


あぁ。

……思い出せる。今、鮮明に。

久しぶりに、祖母の家に行った夏。
騒がしいその家に、祖母はいなかった。もう死んでいた。
祖母のお葬式だったのだ。

来ているのは近所の人とあたしたち家族だけ。
泣いている人は居なかった。
そりゃあそうだ。だって、近所と言っても、山の麓の村の人達なんだから。
祖母は山の中に住んでいて、ほとんど『近所』の人達と交流はなかった。

母も、父も、泣いていなかった。
祖母は母の母なんだから、泣いてもいいはずと思ったが、まず、母と祖母は縁を切っていたのだった。数年前に。
こうして葬式をあげたのは、きっと世間体を気にしてだと思う。
大人はめんどうだから。

あたし自身、祖母のことなどほとんど知らなかった。だから泣かなかった。
泣けなかった。
会ったのなんて、片手で数えきれる。
けど、どうしてだろう。
どうしてか、悲しくなった。
ぽっかりと穴があいた。穴から、少ない祖母との思い出が逃げていく。
あたしはそれを掴むことすら諦めてしまって、どうしようもない状態で、ふらりと家の外へ出た。

家の外は、家の中と違って暑かった。

3:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/27(日) 23:28 ID:3uI

ふらりふらりと、歩く。
木が日光を遮ってくれるけど、やっぱり暑い。あたしは汗を拭った。

でこぼこしている山道。
たまに狸の死骸を見かけた。可哀想に。暑かったのかな。
『死』というものが、やけに軽く感じた。

歩いていると、川が見えた。
大きな岩が構えている、浅い川。水が綺麗だ。地面の色で、透明な茶色に見える川。
あたしは、右足の靴を脱いで、その川に足を浸けてみた。

「つめたっ……!?」

反射的に足を引っ込めてしまう。
なんて冷たいんだろう。
ボーッとしていた頭がようやく正常に戻る。
そこからはもう簡単。もう片方の靴を脱いで、両足を川に入れて、ビチャバチャと遊んだ。
冷たくて、気持ちよくて。
祖母や、なにより進路のことについて忘れられた。
こんな軽い気持ちになったのはいつぶりだろう?
多分、15歳になる前はずっとこんな感じだった。15歳になってからだ。あんなに暗くなったのは。

「アッハハハ」

思わず笑ってしまう。
あたしの笑いにつられたように、どこからかあたしの声じゃない笑い声が聞こえた。

あたしは幻聴かと思って、無視しようと思った。けど、やっぱり気になって、周りを見回した。
そしたら、いつの間にかあたしの後ろに女の子がいた。
白いワンピースに長い髪。明らかに幽霊を連想させるその姿に、あたしは叫んでしまった。
女の子は「ちょっとちょっとぉ」と、また笑った。

「悲鳴なんてあげないでよぉ。もお、失礼しちゃうなぁ」

声は若干低い。見た目はあたしより少し上のようだった。
言葉はどこか丸くて、女の子って感じだった。声は低い方だけど。

「あ、あの、あなた、誰……?」

とりあえず、気になる質問。
怪しい人とは正直喋りたくなかった。けど、年齢が近そうだったから、なんとなく……そう、なんとなく聞いてみたのだ。
女の子は「うーん」と少し考えたからまた笑って答えた。

「自分で考えてみて?」

あぁ、この子とは絶対気が合わない。
あたしは女の子から遠ざかるように川に一歩入った。

4:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/27(日) 23:57 ID:3uI

「なんで遠ざかるのー、失礼だよう」

「自分の胸に聞いてみたら?」という言葉を無理矢理飲み込んで、また一歩下がった。川にまた一歩と入った。

「酷いなぁ〜。あ、ねぇ、名前なんていうの?」
「それであなたは教えてくれる?」

また一歩下がる。
少し、ぬめっとした感触がある気がするけど、気にしない。
女の子は「えぇ……」と困ったような顔をした。
が、すぐにいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「んー、あなたが転ばなかったら教えてあげるー」
「転ばなかったらって何そ……れっ!?」

体全体に冷たい水が染み渡る。遅めにやってくる痛み。鼻に水が入る感覚。
あたしは川で転んだ。体はずぶ濡れ。
でも、夏だしすぐ乾くかな。ああ、良かった良かった。

女の子の笑い声が聞こえる。
その笑い声が近づいてきて、女の子のちょっと日に焼けた腕が伸びてくる。
「ほらぁ、掴みなよ」と言って。
あたしは伸ばされた腕をグッと掴んで、引いた。

「おわっ……ッ!?」

バッシャーンという音。
女の子は、川に落ちたのだ。あたしと同じように。
あたしは素早く立ち上がり、川から出た。服が水を吸っていて重い。
川辺に寝っころがり、深呼吸をする。

「ちょっと〜、さっきから酷いってばぁ」

女の子は川から這い出てきた。本当に、文字通り。
髪が貞子のように顔の前にきている。
本当に幽霊に見えてきた。
女の子は立ち上がり、髪を元に戻した。

「もお、酷いよね、峰子ちゃんって」
「名前知ってるじゃないですか」
「え?……んー、まぁ、ね」

女の子は笑って誤魔化した。

「あ、私の名前は秘密ね。あなた、転んだから」

やられた。
あたしは上半身を起こして、そう思った。
女の子はその場でターンをして、水滴を飛ばしていた。

「好きに呼べばいいよ。あ、できれば冬がいいかな。私、冬って大好きなの」
「夏って呼びます」

冬とは正反対の季節にしてやった。
女の子はターンをするのをやめ、あたしに近づいてきて、そして、隣に腰を下ろした。
あたしは動く気力がなく、離れなかった。本当は離れたかったが。

女の子は「夏、ね」と呟いた。

「まぁいいよ。今夏だしねぇ。それに、夏の方が人の名前っぽいしさー」
「そうですか」
「あ、敬語禁止ね。何歳?そんな変わらないと思うけど。私は16歳だよ」

あたしは、一瞬羨ましいと思ってしまった。この15歳という鎖から解き放たれた16歳の女の子__夏が。
でも、こんな変人はゴメンだから、あたしはその気持ちを掻き消した。

「15」
「うん、悩む年だねぇ」

夏は何かを思い出すように目を閉じた。
15歳の頃でも思い出しているのだろうか。きっと、ろくでもないことをしてたんだろう、というのはただの偏見だ。

「そお、15歳ね。中三?私は高一なんだぁ。学校楽しい?」
「まぁ、普通には」

なに普通に話してるんだろう。
そろそろ戻らないと、両親が心配する。
そんなあたしの思いなど知らない夏は、色々な言葉をその口から出した。

「高校生って結構楽だよ。大学受験しないからそう思うだけだと思うけど。受験って大変だよね。峰子ちゃん、頑張ってね」
「うん」

どうしよう。祖母に線香の一つもあげていない。
お葬式、まだやっているだろうか。
一応、今日は祖母の家に一日だけ泊まって帰ることになっているし、少し遅く帰っても大丈夫だろうが。
でもやはり、心配だ。不安だ。

「ねぇ峰子ちゃん」
「ん?なに?」

夏があたしの顔を覗きこんできた。

「さっきから、お葬式のことでも考えてるの?」

どうして、知っているんだろう。
いや、あたしの名前も知ったし、お葬式のことくらい……ううん。そもそも可笑しいんだ。
そもそも、どうしてこの子はあたしの名前を知っていたんだろう。
この辺の子だったとしても、あたしは会ったことも喋ったこともないし、近所の人とも交流をしなかった祖母が言うわけもないし。

恐怖が心を埋め尽くした。

「峰子ちゃん?どおしたのー?」

どうしたもこうしたもない。
あたしは、この夏と呼ぶことにした女の子に、恐怖していた。

5:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/28(月) 00:26 ID:3uI

恐怖、か。あたしの口からは、乾いた笑いが出た。

「んー?」

首をかしげる夏。
夏を無視して、あたしは立ち上がった。そして、震える足を叩いて、走り出した。目指すは祖母の家。

「ちょっと〜、峰子ちゃ〜ん?」

遠くから声が聞こえるが、あたしはそれを無視。
きっと、あの子は幽霊。そう、幽霊に違いない。あたしを道連れしようとやって来たんだ。騙されるな、あたし。
あんな子、ほっておきなさい。
それに、幽霊じゃなかったとしても、どうせもう会わないんだし。

走って走って、そしてたどり着くのは祖母の家。
昔なつかし古民家。木の香りのする、涼しい家。大量の線香のにおいが、鼻を掠める。
母がやって来た。

「どうしたの、そんなに焦って。汗もこんなにかいてるし」

こんな涼しい家の中にいた母は、きっと外がとても暑いことに気づいていない。だから、こうも汗をかいていることに不思議がっているのだ。
あたしは「外は暑いから」と言った。

「そうね。そうよね。夏だもの」

___夏。
短い間だけど、夏と呼んだ、あの女の子は、今___

後ろを見た。
開け放たれた玄関の引き戸からは、大量の木しか見えない。鮮やかな緑、たまに青。
女の子は見えない。人は見えない。

「峰子、どうしたの?」
「う、ううん。なんでもないの。ああ、あたしお腹空いちゃったんだけど。お客さんもう帰った?なら、今すぐファミレスにでも……」

はやく、ここから立ち去りたかった。
一日じゃない。あと一時間。そう、せめてあと一時間で、立ち去りたかった。
気味が悪い。ただでさえ、こんな山の中のこんな古民家の祖母のお葬式の日だというのに。

「ええ、いいけど。お父さん、呼んでくるわね」
「うん……」

お母さんが家の奥に小走りで入っていった。
あたしは、玄関に置いてある祖母のものであろう椅子に座る。目を瞑り、息を大きくはきだす。

……疲れた。
もう、何も考えたくない。走りたくない。
そう思っていると、のんきな声が聞こえてきた。しかも間近で。

「わざわざ遠回りして行くなんて。近道あ___」
「うわああ!うわああああ!なに、なに、なに!?なんでいるの!!」

玄関に入ってきた夏の肩を押す。
夏はよろめいた。この子、案外弱い?

あたしは椅子から立ち上がって、武器になりそうなものを探した。
幽霊を倒さなきゃ、幽霊を倒さなきゃ、幽霊を倒さなきゃ、幽霊を、幽霊を、今すぐ、この手で!

「峰子ー!?」
「どうしたッ!?」

両親が走ってやって来る。
それに怯みもせず、夏は「ごきげんよう」と言った。

「私は、夏といいます。峰子ちゃんの友達でして」

ニコリと笑う顔に邪気は感じられないが、そういう見せかけだ。
さあ、この子を退治しなきゃ___

あいさつをされ、どうしていいか分からない両親に向かって、夏は続けて言う。

「今日はフク子さんのお葬式なので、お線香をあげにと、お伺いしました」

フク子……祖母の名前だ。
夏は「入ってもいいですか?」と尋ねた。
父はそれを許し、簡単に家の中へと夏を入れてしまった。

「私、フク子さんには本当に良くしてもらいまして……峰子ちゃんのことは、フク子さんに教えてもらったんですよ」
「……えっ」

あたしの名前は、祖母に……?
あの、祖母が他人にあたしの名前を……?
そもそも、この子と交流を……?

三重の驚き。あたしはピシッと固まってしまった。
母は、「あらまあ」と驚いたように手で口を覆った。

「母……いえ、祖母が?」
「ええ」

あたしは祖母の眠る棺桶を見た。
30分後には、火葬をしなければならない棺桶。
その棺桶に眠る祖母は、いったいどんな顔をしているのだろう。

6:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/28(月) 12:12 ID:3uI

夏はお線香をあげ、そしてすぐに帰ってしまった。
罪悪感がわいてくる。
幽霊だのなんだのと勝手に思ってしまったことに、今さら後悔。
あの子は、ちょっと変わった子だけど、幽霊なんかではない。
どこまで『死』を軽く見ていたのだろう……。

と、あたしは車に揺られながら思った。
山のふもとのファミレス……ではなく、個人経営の食堂を目指している父の車。
窓から見える景色には、もう飽きた。
全て同じにしか見えない。
同じ木。同じ空。また同じ木。同じ狸の死骸。同じ鳥が飛びたつ。
ほぼ緑の景色に、白が混ざっていた気がした。
あたしは夏かと思ってその白を食い入るように見た。
けど、それは川が反射して白く輝いているだけだった。

「あの人の家、どうしようかしら」
「売り払うんだろ?少し綺麗にすればそれなりに売れるんじゃないか?」
「田舎に住んで、農業したい若者が多くなっているとしても、あんな山の中に住みたがる人なんていないわよ」

山からおりて、田舎の村に入る。
祖母の家に似た古民家が集合している村。その古民家を囲むたくさんの畑と田んぼ。そこに、古民家を改装した食堂があった。
食堂前の、二台しか停められないような駐車場に車を停めた。あたしは車から降りて、父と母が車から出てくるのを待った。

車から降りて、改めてこの村を見て、あたしは自分が異質な存在のように感じた。
着ている服の色も、髪型も、なにもかもが浮いている。
本でよく見る、別の時代にタイムスリップした主人公ってこんな気持ちなんだろうか。

お世辞にも綺麗とは言えない食堂の入り口を見て、「あ、昭和」と呟く。
なんか、昭和っぽい。
父と母が車から降りてきて、あたしに母が手招きをする。あたしは二人に近づく。

「ここも久しぶりねー」

食堂に入る。
油の臭いが漂っていて、たまに焼き焦げたような臭いがする。
母は懐かしいのか、近くにあった木の椅子を触った。

「へー、らっしゃあー!」

店の奥から元気のいいお爺さんの声が聞こえた。
あたしたちは店の隅の席につき、メニュー表を見た。

「峰子は何にするの?」
「……えーと」

特に食べたいものがない。
父と母はもう決まったようだった。
視線をその料理の写真に目を向け、固定している。あたしは色んなところを見ていて、視線が固定できていない。

あたしだけ、決まっていない。
不安や焦りが生まれてくる。
あたしは、こんな小さなことですら、決まっていない。

すると、店の人だろうか。誰かが寄ってきて、声をかけてきた。

「迷ってるのー?それなら、このたらこパスタがいいと思うよう」

あまりにも聞き覚えのある声に、あたしは立てていた肘をガクンと滑らせてしまった。

「っ、あんた……」
「やっほー、峰子ちゃん」

ニコニコしながら手をふるのは夏だった。
あたしからは、先ほどの不安や焦りは消えていて、ただ驚きがそこに居座っていた。

「で、このたらこパスタがいいと思うなあ」
「た、たらこパスタ?別にいいけどさ。……なんで、あんたがここにいんの?」
「んー?」

これまたニコニコしながら首をかしげる夏に、次は呆れがあたしの心にやって来た。

夏は、「うーんとねー」と宙を見ながら悩み、そして言った。

「たらこパスタを2つ頼んでくれたら教えてあげてもいいよ?」

無言で夏の頭に空手チョップをお見舞いする。
父は慌てたけど、逆に母は何が面白いのか、声をあげて笑っていた。

「う、うそうそ。教えるってぇ。痛いなあ、もお」
「あっそう」
「その反応酷いよう。……えっとね、私、この食堂の子なの」
「ふーん。だから、たらこパスタ2つって言ったんだね。それに、たらこパスタは他よりも高いようだし?」
「でも、案外安いよ?580円だもん」
「峰子、たらこパスタにしちゃいなさい」
「お母さんまで……!?」

頭が痛くなってきた気がする。
なんだこいつら……。

あたしははっきり言って、たらこパスタを食べるんだったら、横に書いてあるオムライスの方がいいのだが、母と夏に押しきられ、そのままたらこパスタを頼んでしまった。

7:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/28(月) 13:02 ID:3uI

たらこ、少ない。麺、これって絶対パスタじゃなくてうどんの麺………。
目の前に出された、たらこパスタ。
それを一口食べればあら不思議。これはパスタじゃなくて、うどんだった。

隣でニコニコしている、この食堂の娘だという夏は、「美味しいね」という言葉を待っているようだった。

まぁ確かに、美味しい。けど、たらこパスタとしては0点の料理。
なんて言えばいいのだろうか。

お客さんはあまり来ないのか、それともみんな来て帰ったあとなのか、店内にはあたしたち以外誰もいなく、静かだった。
店先にある風鈴が、たまにチリンチリンと音を鳴らした。けど、風は入ってこず、あたしの首筋にはうっすらと汗が浮かんでいるのが感じられた。

「どお?美味しい?」
「うん、美味しい」

美味しいけど、これ、パスタって言わないよ。

父と母の料理はとても美味しそうだった。父はオムライス、母はそうめん。
料理名どうりの料理だった。あたしの料理とは違って。

とにかく、美味しいのは美味しいし、これは普通のうどんだと思って最後まで食べてあげた。
これは、たらこうどんだ。美味しい美味しいたらこうどん。パスタ、なんて嘘なんだ。さぁ、最後までいっきに食べよう___

「ごちそうさまでした」
「はい、ありがとうございました〜」

夏が「またねー」と、手をふる。
お会計を済ませ、あたしたちは外に出た。
外は蒸し暑く、陽炎があたしたちを取り囲んでいた。
水は、どこにもない。

車に乗って、山の中の祖母の家に向かう。
こんな暑くて乾いた場所から逃げ出すように、あたしは窓から目を背けた。

「遺産なんて、残ってないわよねー……」
「だろうなぁ。遺物もほとんど無かったしなぁ……」
「そういえば、写真があったわね」
「ああ、アルバムか」
「わたしのじゃなかったようだけど。誰のアルバムかしら」
「さぁなぁ……」

山の天気は変わりやすい。そう聞いていたけど、ずっと同じ天気だ。
あたしは涼しくなってきた車内で目を瞑って、そして寝た。
祖母の家までは、まだ道のりはある。

8:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/28(月) 16:56 ID:3uI

祖母の家に帰ると、ちょうど棺桶を運ぼうとしている最中だった。

母は「ごくろう様です」とその人たちに言い、麦茶を入れに家の奥に入っていった。
あたしは特にすることもなく、玄関に置いてある椅子に座っていた。
すると、業者の子なのか、あたしと同じくらいの女の子が話しかけてきた。

「あんた何歳?」
「15」
「同じじゃん。私はあや子。あんたは?」
「峰子」
「んじゃ峰ちゃん、よろしくね」

言葉がよくなまる子だ。
あたしはその子に連れられて、外に出た。

「暇でしょ?んなら、私と散歩でもしよ」
「別にいいよ」

あや子は楽しそうに笑った。

「内緒だけど、結構な、友達と山にきてんだわ。本当は大人と一緒じゃなきゃダメなんだけど」

それは、山が危険だから、ということでいいのだろうか。
見た目活発、中身も活発なあや子は、「探検っつーよりも案内すっぞー」と叫んで走り出した。

「うわ、ちょっと待ってよ!」
「峰ちゃん遅いわー。ほら、速くけぇーよ」

走って走って走って。
あや子に連れられて、あたしはまた、あの川にやって来た。
夏に初めて会ったあの川だ。
さわさわさわ、と音が聞こえる。

さすがにあや子も疲れたのか、歩いている。

「んなー、知ってるー?」
「何が?」

あや子は「ふっふっふっー」と笑って川を指差した。

「あの川にはな、呪い子が来んの。呪い子っつーのは、まぁ、なに。村八分寸前のやつ」

村八分って、まだ残ってんのか。
あたしは田舎ってこういうものなの、と疑問に思った。

「その呪い子だけ村八分寸前なの?その親とか、家族は違うの?」
「んー、違うな。その家族はいいんよ。だって、その呪い子って拾われ者だし。呪い子、ここの川辺に捨てられてたって」
「へぇー。村八分ってことは、なんか悪いことしたの?」

すると、あや子は指を折って、なにかを数え始めた。
その呪い子がやった悪いことを数えているのだろうか。

そして、あや子は指を折るのをやめた。

「たーっくさんしとるね。例えば畑荒らしに、隣の家のりっちゃんを泣かせたり、三軒先の宮部のじっちゃぁを転ばせたりな」

ただの悪ガキの気がする。

「あー、あと一番酷いのが、作物祭りのときに、神社に供えた作物を、皆の前で落として踏んづけて、死ぬがええって叫んだんだっけな」
「あー、それは酷いね」
「んじゃろ?だからすっげー酷いっつうから村八分しようかしまいか検討中。あ、でも子供の中ではもう村八分しちょるけど」

大事な祭りのときに、そんなことをしたら、そりゃあ村八分になるだろう。
あたしもここの村の住人だったら、きっと村八分にするだろう。

遠くから声が聞こえる。たくさんの声が。子供の声だろうか。
村の子供が遊んでいるんだろうか。

「峰ちゃんはいつ帰んの?」
「んーとね、明日の午後」
「なら、明日の午前中に、村の広場に来てみ。私の友達とたくさん遊ぼ」

あや子といると、喋っていると、夏と一緒のときのように、焦りや不安が吹き飛ぶ。
だから、あたしは心地よいものだなと思った。明日もまた会えるなら、その広場に行こうとも思った。

たくさんの子供の声が大きくなる。
あや子もそれに気づいたのか、少し歩きが速くなった。

「なんか可笑しいわー」
「どうして?」

普通に楽しそうな声だけど。

「だって、普通に遊んじょるときは、みんなもっと騒がしいもん。まぁいい。ちょっと走ろー」
「え、あ、うん!」

あや子についていく。
あや子はたくさんの木がある場所に入っていった。
入るのは少し躊躇ったが、おいてかれることに不安を感じ、あたしは意を決してそこに飛び込んだ。
たくさんの木がある。
けど、誰かが何回か通ったのか、道なるものが出来ていた。
走っていると、ふいに森が開け、広場のようなところに出た。

そこには、大きな木と、数人の子供たちがいた。
大きな木の上には板が置いてあり、秘密基地っぽくなっていた。
その木の下で、幼かったり大きかったりする五人の子供たちが何かをしていた。

「ちょー、何してんのー?」
「おー、あや子ー」

同じくらいの男の子が、あや子に手をふる。それに、あや子も手をふる。

「そっちは?」

そして、あたしを見た。あたしが口を開こうとしたら、すぐ近くで悲鳴が聞こえた。

9:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/28(月) 17:40 ID:3uI

悲鳴は数人の子供たちによって消えた。

さっきから何をしているんだろうと、子供たちを見る。

「たっちゃん、この子フク子さんちの子」
「ああ、フク子さんちの。あれ教えたんけ?」
「うん」

後ろで、あや子と男の子の声がする。
あたしは子供たちに近寄って、『それ』を見た。
幼かったり大きかったりする子供たちは、『それ』を蹴っていた。
それはもう楽しそうに声をあげながら。

「…………な、ななな、な、なな、夏……ッ」

夏を、あの夏を蹴っていた。
子供たちは、夏を蹴っていた。
白いワンピースが土の色になってきている。長い髪も、土の色に___

「なにしてんの、あんたたち!」

あたしは叫んだ。
子供たちは「ハァ?」と不思議そうにあたしを見た。
あたしよりも少し低めの……多分、小6くらいの男の子が、後ろにいたあや子と喋っている男の子に聞いた。

「たっちゃぁん、この子、誰ぇー?」
「んあー?あー、その子、フク子さんの孫なんだっけってあや子が言ってたわー」

あたしは夏に駆け寄った。
大丈夫って聞いても、返事は返ってこない。
死んだのかと焦ったけど、息はあるらしい。
あたしは、ほっと胸を撫で下ろした。

たっちゃんと呼ばれた男の子と、そしてあや子もやって来た。

「あー!ちょ、その子、あんま知らないんだっけ!教えてやんねぇと……ちょ、離れって!離れないと、峰ちゃん」

そう言って、あや子が焦ったように、あたしと夏を引き剥がした。

「あっ……」

夏があや子に遠ざけられるように、一回蹴られる。
あたしは夏から引き剥がされて、そして、やっと分かった。
けど、それを信じたくなくて、あたしは何も言わず、何も考えたくなかった。

「峰ちゃん、この子、呪い子なんだっけっ!ダメ!触っちゃダメ!この子、悪い子で、神様を汚したん」

その汚したって、作物祭りでどうのこうのってやつだろうか?
みんなの視線が、あたしに集中している。

「あやねぇちゃん、その子どっすんの?」
「さぁなぁ……ただ、呪い子のことはもう教えたし、それはほっといて遊ぼっかー?」
「あぁ、いいねいいね!」
「缶蹴りするー?」
「秘密基地でゆっくりしよ!」
「あー、それ賛成!」

子供たちが夏から離れて、わいわい騒ぐ。
楽しそうに何をするかを考える。

信じられなかった。この子たちは、何してるんだ。
なぜ、夏に暴力を……。
呪い子は、夏なわけないじゃないか。
夏は、確かに変な子だけど、悪い子じゃないし、そんな、みんなが言うような子じゃ___

あたしの手をひいて、あや子が言う。

「あそこ秘密基地なんだ。あそこ行こー」

木の上を指差す。

あたしはあや子の手を振り払って、夏に駆け寄った。
夏が目を開け、そしてあたしを見る。

「……」
「大丈夫ッ!?大丈夫なのッ!?ねぇッ!?」
「……ぁッ!?」

夏が立ち上がって、あたしから離れる。
ちょっと声が高い。

「来ないで来ないで……ッ!!」
「どうしたのッ!?あたしは何もしないから、何もしな___」
「ひいいぃぃいいぃいいいいやああああああああああああ」

夏は悲鳴をあげてあたしから逃げるように走っていった。そして、見えなくなった。

あや子があたしの肩に手を置く。

「何してんの。あんなやつ、放っておきなって」
「だっ、だって、夏……」
「夏?……あの子は明子だよ。夏ってつくのは、あの子の双子の妹の方だよ」
「ふ、双子?」
「そーそ。いい子いい子な女の子。呪い子と一緒に捨てられていたんて。あ、そっちの方と知り合いだったりするん?」
「多分、そうだと思う。夏は、あんな声じゃない。もう少し低いもん」

あたしは、夏の双子だという、呪い子__明子の消えた方を見た。

10:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/28(月) 18:16 ID:3uI

「んー、明子をそんな風にいじめないで欲しいんだけどなあ」

突如、上からふってきた声に、あたしたちは固まった。
最初に動いたのは、たっちゃんと呼ばれていた男の子だった。

「いつ、そこに登ったん!?」

上を見れば、そこには夏がいた。
ちゃんと、夏だ。夏がいる。

夏はするすると木からおりてきて、あたしのもとにやって来た。

「何時間かぶりだねえ、峰子ちゃん」
「あんた、え……な、なん__」
「にしても嬉しいなあ。明子に対してあんな風にしてくれるなんて。村八分じゃなくて、あんなの暴力のいじめだもん」

すると、一番幼い子供が「ごめんなさい」と謝った。

「んー?別に大丈夫。それは明子に言って。確かに、神様に対して酷いことしたり、他にも悪いことした明子も悪いよう?でもね」

暴力しか奮わないあなたたちも悪いよ?

にこりと笑う夏から、あや子が一歩下がる。
あや子の顔は真っ青で、血が通ってないみたいだった。

「知ってるよう?こんなこと教えたの、あや子ちゃんでしょお?」
「そうだっけかー?わわ、私知らんけえ__」
「村八分にしてもいいよ。別に構わない。あの子には私がいるから大丈夫。けどね、勝手にこういうことされたらさぁ___怒っちゃうよう?」

声がいつもよりも低くなって、最後には地を這うような声になっていた。
あや子は泣きべそをかきながら、ごめんなさいを繰り返し言っていた。

「あ、ねぇねぇ峰子ちゃん。本当にありがとうねえ。明子、ちょっと怯えちゃってて、あんな反応しちゃったけど、嬉しかったと思うよう」

あれが嬉しそう?
あたしは疑問に思ったが、とりあえず笑っておいた。

「ほら、どうしたの、みんな。秘密基地で遊ぶんでしょお?ああ、大丈夫。あや子ちゃん、もう私怒ってないから」

そう言って、また大きな木を登り、秘密基地に向かう夏。
それに続くように子供たちが登り、そしてたっちゃんがあや子の背を押して、木に登るように促した。

あたしも木に登る。

二本の太い枝の上に板を置いて、そこを秘密基地にしているようだった。
昔憧れた秘密基地そっくりだったことに少しビックリ。
夏が、夏の隣の空いているスペースを叩いて、「座りなよ」と言った。
あたしはそこに座った。

「うーん、風が気持ちいいねえ」

風吹いてないけどね。

11:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/28(月) 22:34 ID:3uI

幼い子供はそこで寝たり、あたしと同じくらいの子供はふざけたり。
そうして時は流れていった。
時おり生温い風が吹いて、あたしの髪を弄んでいった。

そのときに、あたしは夏から話を聞いていた。
夏の双子の明子の話。
夏は楽しそうに話した。内容はとても酷い話だというのに、まるで喜劇でも語っているような口調。
だからか、そこまで暗い気分にはならなかった。

「明子って、結構やんちゃで。畑を荒らすのは、まぁ……村の男子も結構やってたりしたんだよう?けどね、明子はやり過ぎちゃったの。作物祭りのときに、神社にお供えした作物を地面に落としてなんて言ったと思う?みんな死になさい、なんて言ったの。あはは、可笑しいよね。命令口調なの!」

あたしは、夏にどうとも思わないのか、と聞いた。
そしたら夏は、にこりと笑って、

「怒るに決まってるでしょお?」

と首をかしげて言った。
とても怖くて、背後に黒いオーラが見え、周りの温度が下がり、夏だというのに、冷たく鋭い風が吹いた気がした。
あや子の悲鳴のような声が聞こえるが、自業自得だろう。

「でも私、村八分、絶対決まらないと思うけどね」
「どうして?」
「だって、子供たちがここまでやっちゃったんだもん」

ドスンという音が聞こえる。

「あやねぇちゃーん?」
「あや子、大丈夫けー?」

あや子が落ちたのだろう。
そこまで高いわけじゃないし、大きな怪我はないだろう。
それに、自業自得なのだ。実際、もっと酷い目にあってもいいと思う。
あや子は泣きながら秘密基地に戻ってきた。

「それに、村八分になっても大丈夫。明子には私がいるから。私しか、いなくなっちゃうから」

欲が詰まったような顔。

「ふーん」
「峰子ちゃん、酷いよう、その反応。私、真面目なんだけどなあ」
「はいはい」



陽射しが少しずつ赤くなって、空がオレンジ色になってきた。
みんなに別れを告げ、あたしは祖母の家へと戻った。
祖母の家の中は、すっかり暗くなっていた。

「おかえり」
「ただいま、お母さん、お父さん」

それから、今日だけあたしに分け与えられた部屋に行き、布団を敷いて、そこにダイブした。
特に柔らかくもなんともない、薄っぺらの布団。だけど、押し入れの匂いがして、なんだか心地よかった。
押し入れを見る。
襖は開けられていて、そこから小さな箱が覗く。

あたしそこまで行き、そして、その箱を出した。
箱にはアルバムが二冊入っていて、あたしは紺色のアルバムを開いた。

よく似た女の子二人の写真がはってある。
川で遊んでいる写真、木登りしている写真、スイカを頬張っている写真。
どれもこれもが楽しそうな場面をとらえていて、女の子たちは笑顔だった。
あたしは一瞬誰だろうと思った。
その女の子の笑顔が、今日あたしに向けた笑顔とはまったく違っていて、雰囲気が違っていて、誰だか分からなかった。
けど、その顔に見覚えがあって、あたしは誰だか気づくと、心底驚いてしまった。

それは夏だった。

夏と明子。二人は同じような服、同じような顔で笑っていた。

けど、どうして夏が二人のどっちかか分かったかというと、やはり___どこか欲の詰まったような顔をしているから、だろうか。

12:太もも@七氏のムクロ氏:2016/03/29(火) 16:53 ID:3uI

夜のこと。
蚊がうるさくて、寝れなかったあたしは縁側に座っていた。

自分の家がある地元とは違って、結構星も見えるし月も綺麗に見える。
虫の音楽が聞こえ、風は気持ちよく、ひっそりとしている。
祖母の家は、案外いい場所だった。
あたしは、もう来れないのであろう祖母の家に、まだいたいと思った。
何回も来たかった。このままここに住んでしまいたかった。
不安なんて感じない、この場所に。

……あぁ、そうだ。将来、ここに住んで自給自足で生きていくのもいいかもしれない。
生憎、そういう技術はないので、高校は農業高校とかに進学して、そして、ここに戻ってくる。
うん、いいんじゃないかな。こういうのも。

けど、周りはあたしを、バカにしたりしないだろうか。

そんな生活なんてと、嘲笑わないだろうか。

ううん、大丈夫。ここにいれば、周りの声など聞こえないのだから。
それに、農業高校なら、こんなあたしだって入れる学力だろうし。
………それは失礼だろうか。


ボーっとしながら空を見る。
特に考えることもなくなって、眠くなるまで空を見る。
どこまでも続くと思われていた空は、案外狭い。
空は黒い雲に占領されそうになっていた。

風が少し冷たくなって、あたしはそろそろ部屋に戻ろうかと立ち上がった。
そしたら、たくさんの木と木の間に、なにか別の色が見えた。
白だったり黄色だったり赤だったり。
少し眠くなってきたから、多分幻覚かなんかでも見ているんだろうと、あたしは放っておいた。

空はもう、黒い雲に占領されてしまっていた。

13:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/01(金) 21:59 ID:3uI

雨が降っていた。
あたしは水色の傘を父の車から取りだし、麓の村へ出掛けた。

昨日の帰り際、夏に言われたのだ。
また一緒に遊ぼうって。
周りの子供たちにも言われた。
たっちゃんと呼ばれた男の子___本名はタツヤ___にも言われた。
あの、あや子にも言われた。

もし雨がふっていたら、集会所、晴れていたら村の広場に集合。
今日は雨が降っていたから、集会所だろう。
あたしはぬかるみに足をとられないよう、気を付けながら歩いた。

確か、祖母の家から村までは、歩きで一時間近くかかるはず。
家を出たのは9時だから……まぁ、お昼ごろにつくということはないだろう。

村につく頃には、雨は少し強くなっていて、でこぼこした地面には、水溜まりがたくさんできていた。
その水溜まりが小さな川をつくり、小さな三角州をつくった。そして川は氾濫し、三角州は取り込まれてしまった。

村に着くと、どこか可笑しかった。
村を包む雰囲気が違う。雨のせいだろうか。
いや違う。これは雰囲気なんかじゃない。違和感だ。
どこか、なにかが、一部が可笑しい。

あたしは『集会所→』と書かれた小さな看板の通りに進んだ。

進むたび、違和感が存在を増してくる。
ほら見てよ。僕はここにいるよ。……そう言うみたいに。

進んで進んで、昨日来た場所に来る。
昭和にタイムスリップしたみたいに思えてくる場所。古民家が特に集中している場所。
確か、あそこら辺。あそこに夏がいた食堂があったはず____

懐かしさを覚え、その『食堂』を見たとき、違和感は嬉々として叫んだ。
そうだよ!ようやく見つけられたね!……って。

「ぁ、嘘、ぇ、え?」

プチトマトを丸ごと飲み込んで、喉が詰まった感覚。
咳をしてもしても、全然異物感がとれなくて、苦しくなる。
目の前がぐにゃりと歪む。濁った水面をのぞきこんだみたいに。
鼻先がツンとしてきた。
ぐにゃりぐにゃりとした世界は、あたしの思考さえも飲み込んで、混乱させた。

なんで、どうして、どうしてこうなったの……!?やだ、やだ、やだやだやだッ!!怖い怖いこれは何ッ!?
あたしは何も見てない、なら、これは幻覚なの!?そう!!これは幻覚!!幻!!全部全部悪い夢!!

だからだから、これが嘘だって言ってよッ……!!

周りの音がやけにハッキリと聞こえる。
ハッキリとした周りの音のせいで、孤独感が増す。

「……あ」

異物感が無くなる。
ぐにゃりとした世界も、消えた。
思考もぐにゃりとした世界から解き放たれ、やっとあたしは冷静になる。
全ての感覚が、現実に引き戻された。

「何、してるの」

戻されたキッカケは、肩を叩かれたことだった。
後ろを向くと、白い傘に白い服の昨日とまったく同じ姿の夏がいた。

「……夏?」
「私以外に、誰がいるの?……うん、明子が……いるね」

柔らかくない言葉。ところどころにトゲがある。
なのに、声は少し高くて、柔らかく感じる。
不思議な感じだ。声は柔らかいのに、口調はトゲトゲしい。

「夏、どうしたの?……これ」

夏がいたことに、安堵している。
あたしは今、夏の存在を確認できて安堵している。
変人だとか言ってたくせに、こんなにも安堵してる。

「……あぁ、これ?……うん、なんか、ね。あったのよ」
「そんな風に言えるものじゃないでしょッ!?何これ!?ねぇ、どうしたの!?」

夏は傘をくるくると回した。傘から弾き飛ばされた水滴が、あたしの顔にかかった。
それを拭おうとせず、あたしは夏に問いかける。
傘がなければ、つかみかかる勢いだ。

「そう、そうだ、明子は!?無事なの、ねぇッ!?」

夏は明子の名を聞くと、「あぁ」と笑った。

「明子は居なくなっちゃったよ」

居ナクナッチャッタヨ。

「それがどうしたの?」とでもいいたげだ。
可笑しい。夏はこんな子だったっけ。
夏は、明子に関しては、まるで病むほど恋した少女のようだったのに。
欲がつまった目で見るほど、愛してるような感じだったのに。

こんな、こんな子じゃ……。

安堵は違和感へと姿を変えた。
やあ、さっきぶり。と、違和感が嘲り笑う。

「ああ、そうそう。あや子ちゃんたち、どこにいるかな?」

違和感という川が氾濫して、あたしの思考を飲み込んだ。

14:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/01(金) 22:17 ID:3uI

「ぁ、あんた……」

誰___?

唇が震える。寒いのか、歯がガチガチいう。
また世界がぐにゃりとなる。
濁った水が、あたしを取り囲んだみたいだ。雨が全て、涙のようだ。

夏がくすくすと笑う。

「えぇえ?」

くすくすくす……。

夏が白い傘をくるくるくる……と回す。
どこか楽しんでいるみたいに。

「夏ぅ?うん、それが私だよ。何を言ってるの?私は私だよ」
「可笑しい、可笑しい。夏は、そんなこと言う子じゃ___」
「昨日会ったばかりのあなたが、それを言えるの?」

くすくすくすくすくすくすくす。
バカにしたように笑う。
お腹をさすりながら笑って、バカにしてますよ、とアピールする。

「ねぇ、あや子ちゃん、どこかな?」

言っちゃダメ。言ったらきっと後悔する。だから言うな、峰子。言ったら、お前は終わりだ。

「聞いてる?聞いてない?……まぁいいや。きっといつもの場所だね。集会所かな?そうなんだね?……ふふ。あぁ、楽しみ楽しみ。きっと今ごろ、この夏がくるのを待ってる。待ってるんだ。さぁあ、どうしてあげようかな。どう遊んでくれよう」

言わなくても言っても同じ。
あたしは、集会所に向かおうとする夏に傘をぶつけた。
傘は、水が伝うふくらはぎに、ガサッという音をたてて当たった。

夏が不機嫌そうに振り返って傘を見る。そして、その傘を見ると、怒った顔をしてあたしを見た。

「なに、あなた。まだ何か用?」
「あなたあなたってうるさいよ。あたしの名前、なんで呼ばないの」
「はぁあ?」

あたしはうつ向いて、地面を見る。
また川が出来ている。ああほら、どんどん川は大きくなる。上からふってくる、大きな水滴によって。

……これは、ただの願い。
もう会えない。なら会わなくてもいい。
あんな変なやつ、勘弁。生きてればいい。
だから、生きてることを証明して。そのために、名前を呼んで。
あたしが名乗らなくても知っていた、名前を呼んでよ。

「名前?どうしてよ?私に名前を呼んでほしいの?……なんで?」

お願いだから。

「あたしの名前、呼んで」

存在がまだあることを、証明して。
そしたらあたし、きっと前を向けるから。

けど、いつもよりなぜか高めで、トゲのある声は、名前を呼んでくれなかった。

「私、あなたの名前なんて、忘れちゃったけど?」

パリンって音がした。
何が割れたのだろう?
……そうだ。願いが割られた。
あたしの小さな願いが、目の前にいる人に割られてしまった。

「ぅううううぅぅぅうううぅううううううぅぅうううう…………ッ!!」

15:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/01(金) 22:57 ID:3uI

久しぶりに泣いた。
祖母のお葬式でも泣かなかったのに、泣いた。
息をするのも忘れて泣いた。

いつからか、声を張り上げて泣くことができなくなって、声を押す殺すように泣くことしか出来なくなった。
そんなあたしが、声を押し殺しながら、けど、その中でも一番大きな声を上げながら泣いた。

「ちょっと、うるさいんだけど。まぁいいや。じゃあね」

あたしはそいつに掴みかかった。

「ぅううううううぅううぅううぅぅぅうううう…………ッ!!」
「うるさいッ!!離れてよ!!」

夏じゃない。こいつは夏じゃない!!夏はこんなこと言わない!!
こんな、冷たい人間なんかではないっ!!

「あ、んたはっ……誰なのっ、ねぇ、あんた……っ誰!?」
「だから、あなたが夏夏言う夏だってば!!」
「違う違うぅぅっ!!あんたは、夏じゃ、ない……っ!!……夏はどこっ、どこ、なのおぉ……っ!!」

そいつはあたしの足を蹴った。
痛みに気をとられて、肩をつかんでいた手に力がいかなくなった。
そのおかげで、手が振り払われ、そいつがあたしから離れることができた。

そいつは傘をくるっと一回回した。

「ッハハハ!ああ面白いわ!あんた。これでも私手加減してるんだよ?だって、昨日私を助けようとしてくれたからねっ!」

やっぱりそうだった!
こいつは、夏ではなく、夏に愛されていた双子の片割れで、あや子たちに呪い子と言われていた明子だったのだ!!

「はぁい?昨日と違う私で驚いたぁ?……ふふ。そりゃそうよ。だってもう、私の足枷はなくなったもんねぇ!!」

明子が、食堂の焼きあとを見た。

「子供以外の村人のほとんどは出払ってる。だって、死者が三人も出たんだしね?……これでようやく私も自由になれるわ!ほら、喜んでくれるでしょう?私の恩人さん?」

くすくすくすくすくすくす……!!

あたしは絶望した。
こいつ、今なんと言っただろうか?
……死者が三人?
それって、誰?誰を指している?
そこに夏は入ってないよね?

喉にまた異物感。
濁った水があたしの体に入り込み、脳をかき乱す。気持ち悪い。
そうだ。前にも、こんな気持ち悪さを味わったことがある。
三者面談のときだ。先生に現実をつきつけられて、言葉という鋭利な刃物で八つ裂きにされた。
それと同じ。
未来を潰された。
あたしは今、再び未来を潰されたのだ。

あたしの、未来の痛みを和らげてくれるだろう、夏を!!

「あのねあのね、私、ずっと嫌だったの。いつも私を叩くおじさんに、いつも私にいじわるするおばさん。そして、私を掴んではなそうとしてくれなかったあの子!!そう、あなたが夏と呼んだ子!!もう限界だった。私はボロボロ。暴走したら、村八分とか言って子供たちがいじめてきた……。でも、もう終わり!!足枷が無くなった今!!私は自由!!私はもう明子ではない。私は、あなたの言う夏となったのよ」

とりつかれたようにその場をくるくると回る。ターンをする。
それが、昨日の川で出会った夏と同じで……あたしは、「嫌っ!」と叫んだ。

「あらなぁにぃ〜?私があの女に似てるから嫌なのぉ?夏と私を同じにしないで。……ん?でもどうして夏と呼ぶの?あの子、夏って名前じゃないわ。逆に、あの子は夏という季節が嫌いだし。でも、名前になつは入ってるわね。でも、なつと繋がってるわけじゃ___」

音が聞こえなくなる。どんどん遠くなる。
車で高い山を登ってるときのように、耳が遠くなる。
いや、今、音がくぐもってきた。
本格的に水の中にいるみたいになってきた。
きっと、綺麗な水ではないのだろう。
あたしはまた泣いた。

16:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/01(金) 23:17 ID:3uI

瞑っていた目を開ける。

懐かしい。そして、はらわたが煮え返るようにムカつく。
夏を奪ったあの女が、ムカつく。

あいつのはらわたを取り出して、挽き肉状態にしてやりたい。残った体にハチミツを塗り、動物だらけの山に放り出したい。
そして、夏の復讐をとげたい。

夏の名前すら分からないまま、あたしはここまで生きてきた。
夏に二度と会えない、という苦しみは、ここまであたしを強くした。そして、辛い人生を味あわせた。

だから、今。

あの女に復讐する。明子という、今、夏と名乗っていけしゃあしゃあと生き続けている、あの女を、苦しい目にあわせてやる!!

どうしてくれよう、どう遊んでくれようッ!!

……そう思っていたら。
ほら、やっぱり来た。
調査していた通り、この時間、この場所に明子は来た。

チリンチリンと音がして、カフェのドアが開かれる。
コーヒーをいれていたマスターが、いらっしゃいませと言う。

女が、共に来た男と楽しそうに話している。

「久しぶりねえ、タツヤくん」
「ほんと、久しぶりだね。……あ、ココアで」
「んー。私はケーキとこの店限定のジュースをお願い」
「かしこまりました」

二人の穏やかな会話は続く。

「そうだ。あのときのあれは、もう大丈夫なのか?」
「ええ、まあね。今じゃあすっかり元通りよう。凄いでしょお?」

ふふ、と口元を隠して笑う。
完璧に夏を演じていて、ムカつく。
あたしは持っていたフォークで、目の前のパンケーキをぐちゃりと刺した。

「あのときの話はよしましょお?……あ、そうそう。このあとあや子ちゃんも来るのよね?」
「いいや、あや子と会うのはここじゃないよ。ほら、あの遊園地で」
「修学旅行で行ったところだね?楽しみい……!!」

その楽しさ、あたしが潰してあげる。
あんたの未来を潰してあげるわ。
タツヤやあや子には悪いけど、これも夏のため。そしてそれは、騙されている二人のためでもあるの。
だから、目の前で潰してもいいでしょう?

ケーキとジュースのココアが運ばれてきて、二人の前に置かれる。
マスターは二人を恋人同士かと思ったのか、一緒に運ばれたフォークやスプーンがハートの飾りをつけている。

あたしはパンケーキを乱暴に口にした。
美味しさは、あのたらこうどん以降、まったく感じていなかった。

「ふふ。タツヤくんもかっこよくなったねえ。なっちゃんと付き合ってるんだっけえ?」
「もう別れたよ。情報遅いなあ」
「えー?別れちゃったのう?あんなにラブラブだったのにー。もったいないなあ」
「よく言われるよ。特に、じいちゃんたちに」

あたしは、また乱暴にぐちゃりとパンケーキの形を潰した。

17:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/01(金) 23:33 ID:3uI

二人が食べ終わって、また少し会話したあと、店を出た。
あたしもそれを追うように店を出た。

二人は、人通りの多い交差点を歩く。
途中、信号につかまって歩みを止める。
こんなに人がいるんだもの。気づかないでしょう?
それに、人々は手元のスマホに夢中だ。


あの頃から、あたしは変わった。


明子の背に両手を伸ばす。
道路では、車がたくさん通っている。


考えも、口調も、見た目も、何もかも。


手が、明子の背に当たった。
車の川は海まで続く。それはもう、長い長い川。途切れることをしらない。


特に未来が変わった。復讐のために選んだ未来。
先生にだって、褒められた。
成績も、素行も、良くなった。
どんな復讐をしようとしても、実行できるような未来を掴むために。
けど、結局は___


手が、思いっきり明子の背を押した。
明子は、荒れ狂う川に飲み込まれた。
人々の悲鳴が聞こえる。
誰もあたしを指差さない。ただ見るのは明子というボロボロな布切れだけ。
布切れは赤に染まり、そして沈んだ。


___結局は、こんな簡単な復讐なんだ。


「嘘だろ、おい、おい……おいおいッ!!なんだよこれ!!……いつな!!いつなぁ……っ!!」
「いやああああああああっ」
「救急車!誰か救急車!」
「嘘だ、お、俺が引いたのか、ぁ、ああぁ……あああああああああああああああああ」

いつな?それが夏の本名だったのかな。
あたしは笑う。くすくすくす。
誰も気づかない。あたしが笑っていることに。

ほら、あのときのあんたみたいに笑ってあげるよ。
くすくすくすくすくすくすくす……!!

「ど、どう……あぁ!なんだよ!なんなんだよ!久しぶりに会わせてやろうとしてたのに……会わせてやりたかったのに……ッ!!」

タツヤが布切れと化した明子を揺する。
その手が赤く染まろうと、気にせず。

「なぁ、起きろよいつな。お前、あんなに気にしてたじゃないか。会いたいって言ってただろっ!?……だから、今日会わせてやろうとしたんだぞ……?なのに、死んでどうすんだよ、いつな!!」

ねぇ、夏!!ううん、いつな!!ようやく復讐できたよ!!
あんたの恨み、あたしが晴らしたよ!!
だからさ、あたしがいつかそっちに行ったら、もう一度、名前呼んでね!!
あたしの願いを叶えて!!

「明子に会いたいって言ってただろ、いつな!!」

……。
………今、なんて?

18:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/01(金) 23:53 ID:3uI

「明子だって、お前に会いたいって言ってたぞ!?あの頃のこと、謝りたいって。だから、死んじゃダメなんだ……!!」

すっかりなまりが抜けたタツヤ。
だから、なまりで聞き間違えたなんてことはない。
明子に会う?誰が?明子が?
明子が明子に会う?そんなの無理でしょ?
じゃあ、その会うはずだった明子は夏__いつななの?
あれ、どっちがどっちなの?

あたしは、あたしは、誰をコロしたの?
コロす?何を?この子を?
うん、この子を。だって、この子は夏だもん。


目の前が、あのときと同じようにぐにゃりと歪む。
そして、喉にプチトマトを丸ごと飲み込んだような異物感がわき出てくる。

陽炎が揺らめいているのか?それとも、これは涙で?
ぐにゃりぐにゃりとした世界であたしは駆け出す。
しゃがんでいるタツヤの肩を揺すって、問う。

「その子、明子でしょ……?」
「何いってんだよ。こいつは、こいつは……いつなだ。明子は、今、あや子と一緒にいるんだよ……っ。ああああああああああ、いつな、いつな、起きろよ、な?な?なぁ?なああぁッ!?」

あたしが弾き飛ばされる。
救急車がやって来ていて、その車に乗っていた看護師に突き飛ばされたのだ。

「どいて!」

と言われながら。
タツヤは付き添いで救急車に乗せてもらい、救急車は早々と走り去って行った。
それを見ながら、あたしは腰をついた。
腰が抜けたのだ。

場はまだ騒がしい。
誰かがあたしを指差している。そして何かを叫ぶ。
ああ、ばれてたの。でも、どうでもいいの。

本当の本当に、あの子は死んだ。
本当の本当に、あたしの手によって。
そう、あたしは、かつて夏と呼んで愛していた女性をこの手で突き飛ばし、荒れ狂う川と化した道路に落とした。
あの子は、明子ではなく、いつな。
あの子は、明子なんかではなく、夏だった。

あたしはあたしは、なんてことをしたのだろう?

遠くから、嫌でも耳に残るうるさいサイレンが聞こえてくる。
誰かが呼んだのだろう。

あたしはそのサイレンが聞こえる方向を見る。
ああ、凄い、凄いや。車がどんどん道を退けてる。
これであたしの未来も終わりだね。積み上げたキャリアも倒された。でもそんなのいい。
あたしは、してはならないことを、したくなかったことをした。
神が許そうとも、あたしが許せない罪。

かつて夏と呼んだいつな。
その子の命は確実に亡いだろう。

あたしは絶叫する。
いつの間にか出来なくなっていたはずの泣き方をする。
三歳の幼児みたいに、泣いて泣いて絶叫して、あたしをパトカーに押し込もうとする警察さえをも怯ませるほど叫んで、そして笑った。
自嘲。自嘲。自嘲。

ぐにゃりとした世界に取り残されたあたしは、二度と現実に戻ってこないと誓った。
現実に戻ったらきっと、あたしは取り返しがつかないほど壊れてしまう。

それはもう、明子を愛しすぎた夏よりも、夏たちを消そうとした明子よりも、明子をいじめたあや子たちよりも、壊れ壊れてそして行き着く先は__________

19:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/02(土) 00:09 ID:3uI

『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!!
夏、夏、夏ッ!!あんたを失いたいくないッ!!あんたと一緒にいたいッ!!ずっと永遠に永久に一緒にいたいッ!!
嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よッ!!あたしは認めない、信じない、絶対に戻らないッ!!あんたを失うのはもう散々ッ!!
ここではあんたがいるから、あたしは正気を保ってられるッ!!
あたしと夏の時間を邪魔するやつは許さないッ!!あたしが明子にしようと思っていたようにしてやるッ!!
ねぇ夏。あんたもそう思うでしょう?
ねぇ?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ?
……そう?そうだよね?そう思うよね?ふふ。
あんたって本当に優しい。うんいいよ。しょうがないから、邪魔しようとするやつは、少し刑を和らげてあげるよ。
え?本当?大好き?うん、あたしもだぁい好き。へへ。
そうねえ。そうねえ。これが現実だもんねえ?
あぁそうだ。また川ではしゃごうよ。そのあとは、あのたらこうどん食べよう?え?うん、そうだった。たらこパスタだったね。ごめんごめん。
うん、そう、そうなの、今日もとても疲れたの。でも夏がいるから平気。
あの医者どうかしてる。あたしを鉄格子の病室に入れようとするの。可笑しいよね可笑しいよね、ね、ね、ね』


「これが、峰子さんの状態ですか」
「ええ。ですから、今すぐにでも、病棟に入れた方がいいかと」
「ですな。あんなの、見てるだけで頭が可笑しくなりそうですよ」
「そうそう。……で、話に出てきた明子さん、あなたはどうお思いで?」

部屋にいた中年の男女が、一人の若い女性を見る。
その女性は、怯えながら言った。

「……私は、峰子に元に戻ってほしいです。昔のことも謝りたいですし」

これは、女性の、明子の本当の気持ちだった。
明子は大人になっていた。見た目だけでなく、心も。
だから、双子の片割れであり、自分が起こした火事で生き残った唯一の『家族』であるいつな__峰子は夏と呼ぶ__にも会いたかった。そして謝りたかった。
なのに、こうなってしまった。

明子は、大きな画面に映る峰子を見て、涙を流した。
あのときの、峰子と同じ、大切な者を失った悲しみの涙を。


『ねぇ、夏。あたし、今とっても幸せなんだ』

       END

20:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/02(土) 11:06 ID:3uI

〜あとがき〜

他の人達の小説に比べたら、とても短い小説だった、この『そして夏は終わる』でしたが、楽しんで頂けたでしょうか?
というよりも、読んでくれた方はいるのでしょうか?(;´∀`)

この小説(と言ってもいいのか……)は、地味に百合要素がありますが、地味にヤンデレ要素ありますが、私の趣味ではありません!!
主人公の峰子ちゃんが、勝手に動いてこんな結末にしてしまったのです!!
私は悪くない!!峰子ちゃんが悪い!!
……嘘です。
私の趣味です。すみません。

進路に悩んでいた少女が、復讐のために進路を決めて、そして復讐したと思ったら生きていた夏(いつな)だったって話です。

ちなみに、どうして夏(いつな)が生きていたかというと、火事になったとき、すぐに山に逃げたからです。
ほら、夜中に峰子が白だか赤だか黄色だかの何かを見たって言ってたじゃないですか。
その白いのが、峰子ですよ。
峰子は山に一度逃げたあと、すぐに集会所に行って身を隠してました。明子から。

うわー解説って大変ですね。
ってことで、そろそろ書くことがなくなってきたので、この辺で。


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