『シナリオ恋心』

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1:天音◆mU:2016/04/01(金) 16:44 ID:KzY



今日も愛しの彼は昨日と同じ甘い言葉をかけてくれる…。

私の好きな彼は、
乙女ゲームのツンデレイケメンキャラ「奏君」。


ある日屋上で1人、乙女ゲームを楽しんでいたとき、1人の男子と目が合って…。

二次元に恋する残念美人×チョコより甘い爽やか王子

「君が好きなのは、『奏君』に似た俺の顔だけなの…?」

2:天音◆mU:2016/04/01(金) 17:05 ID:KzY


『…ッ、何だよ!
俺だって…、お前の事好きなんだからなッ!』

ゲーム機から聞こえるイケメンボイスなイケメンセリフ。

「何回聞いても飽きないなぁ…。
やっぱり、奏君はベストオブツンデレだよね。」

うんうん、と誰もいないのに1人悲しく頷く私は白浜 美都。
いわゆるリア充…、じゃない方。
そう、非リア充。

友達なんていないに等しいし、彼氏なんて存在するわけもない。
家族と、この『奏君』のために毎日を生きている女子高校生なのです。

「みーとーちゃーん!ゲームしてないで、学校行ってみたらー?」

1階から聞こえてくるお母さんの声に、ハッとして時計を見る。

[8:20]

遅刻寸前のこの時間に私は目を疑いつつ、スクバを乱暴に持ってから急いで階段をかけ降りる。

「お母さん、行ってきます!」

「行ってらっしゃーい!」

お母さんは天然な方だと思ってる。
さっきだって、学校行ってみたらって…何かのお試しじゃないんだから。

足の速さには自信があるものの、片道30分以上はかかるこの道を、10分で行けるかどうかなんて目に見えた話。

__今日も慌ただしく1日が始まった。

3:天音◆mU:2016/04/01(金) 18:29 ID:KzY


2年生の教室の場所は2階。
階段をダダダッとかけ上がり、2-5のプレートがかかるドアの前で深呼吸。

そのまま、静かにドアを開けてコツコツと教室へと入っていく。

窓際の後ろから2番目の席に腰をかけると、私はため息を1つ溢しながら頬杖をつく。

「…白浜、どうして遅刻した?」

クラスメートに向けられる視線の中、そう担任に問いかけられた。

「…いえ、別に…。」

特に深くは理由を言わない。
それでも私が許されてしまうのは、
『クールで物静か』だから。

実際に、私がそんなキャラを求めていたわけじゃない。

ただ、奏君が大好きで現実の人間なんて興味がわかないから、塩対応で毎日を過ごしてた…それだけなの。

でも、案外このキャラは良い事ばかり。
奏君の事で頭がいっぱいになっている時、受け答えをしなくても『クールだから』と済まされる。
そんな事がいくつもある。

どんな時でも重宝するこのキャラを貫けば、高校生活なんてあっという間に終われるんだろうな。

ぼー、っと空を眺めていると、周りの騒がしさが途端に静かになる。

あー…、1時間目が始まったのかな。

私は何も言わずにガタッと机を立つと、ふらっと教室を出ていく。
そんな私の様子を見ても、誰も注意すらしない。

成績さえ良ければ、注意はされない。
いつでも奏君に浸れるように、成績はいつも上位。

少しずつ暑くなってるのを感じる6月の今、テストは来月。

奏君のためなら絶対頑張れるや、と思いながら屋上のドアをギィ…と押して開ける。

今日も眩しい太陽が照りつける屋上の唯一の日陰である物陰に隠れ、ゲーム機をそっと取り出す。

『バーカ、こっち見んなよ。は、恥ずかしいだろ…?』

うん、やっぱり。

「やっぱり、奏君は最高だなぁ…」

普段学校では口に出せない事だけど、この場所には誰も来る事がないし、今は授業中。
絶対に、大丈夫な場所。

…そう余裕でいた私は、背後で微笑む彼に気づいていなかった。

「かっこいい〜、何でこんなにかっこいいんだろう!」

「…その人、僕とよく似てるね。」

背後から甘く呟かれたその言葉に、私はただ固まることしかできなかった。

ゆっくり、ゆっくりと後ろを振り向いてそこにいたのは…

「な、んで…、奏君が…?」

奏君にそっくりな、いわゆるイケメンな男子が微笑んでいた。

「僕は奏君じゃないよ、美都ちゃん。」

私の名前を呼ばれ、心臓がどくんと波打つ。

彼は妖しげに口角をあげ、私の耳元へと唇を寄せて言う。

「真鍋 新。覚えてね、美都ちゃん。
…奏君を大好きな、美都ちゃん。」
甘く、少し掠れた声で言われると、背筋がぞくっとする。

それと同時に、とてつもない不安に襲われる。
どうしよう、どうしよう。
…他人にバレてしまった。

私は勢い良く振り向くと、彼を見つめながら真剣に、

「お願い、何でもするから。
これだけは、皆に言わないで…!」

必死に、必死に投げ掛ける。

こんな変な趣味、他の人にバレたら…!

彼は目を丸くしてから、ゆっくりと…、ふわり、微笑んでこう言った。

「良いよ。言わないであげるね。
その代わり…、 」

彼に言われた言葉は、1週間パシリな。…とか、そんな言葉じゃない。

”奏君に飽きるくらい、僕と一緒にいてよ”

ろくに人間と接してこなかった私には分からない。
…彼が、何を考えているのか…。

4:天音◆mU:2016/04/02(土) 15:03 ID:KzY


少しの沈黙の後、声を絞り出したのは私。

「わ、分かった…。
貴方と一緒に行動さえすれば良いんでしょ?…だから絶対に、私がこういう人って、周りにバラさないで…」

すがりつくように、私は彼へと頼み込んだ。バラされるより、よっぽどこっちの方がマシだ…

彼を見上げながら、返事がない事に違和感を覚える。

「な、なに。返事してよ!」

私が強めにそう言えば、彼は私へと視線を戻し、目を細めて笑った。

「勿論。でも…、僕の事ちゃーんと名前で呼んでくれなきゃバラしちゃうかもしれない。」

悪戯っぽくそんな事を言う彼に、「え」と間抜けな声が漏れる。何で名前…?

「別に、名前じゃなくても…「そっか、美都ちゃんはそんなにバラされたいんだね」

私の言葉をも遮り、ニコニコと脅してくる彼。
その手を使われちゃ勝ち目ないに決まってる…。
しぶしぶ名前で呼ぶ事にした私。
でも、ただ呼ぶだけじゃ負けたみたいでちょっと嫌だ。うーん…。
…あ、そうだ。仕返ししちゃえ。
私はふふ、と少し笑う。

ゆっくり深呼吸をしてから、そっと彼の肩に手を置きつつ、最大級の背伸びをして…

「…新、バラさないでね?」

新にされたように、耳元へ唇を寄せそう呟いた。

その瞬間彼は耳まで真っ赤に染めて、口元を手で覆った。
目を真ん丸にしている様子から、相当驚いたのだろう。

「新、照れてるね。交渉成立、仕返し完了。次の授業遅れないようにねー!」

私はニヤニヤ笑いながら、固まる新に手を振りながら屋上を出ていった。
あー、奏君を照れさせたみたいで何だか嬉しい気分。

あ、あれ、そういえば新って何年の何組なんだろう…?まぁ、また今度聞けばいっか。


「何、あれ。反則すぎんだろ、俺が照れるとか、らしくねーのに…。」

5:天音◆mU:2016/04/02(土) 15:51 ID:KzY


教室に戻ってみると、誰もおらずただただ静かだった。
今の時間は3時間目の終わりくらい。今日の3時間目といえば移動教室だから、誰もいないのも当たり前だよね。

私は自分の席へ座ると、机に突っ伏して眠る”ような”体制をとる。さっきは無駄に神経使っちゃったからね。

私は目を閉じると眠る…、わけじゃない。もちろん、妄想。
奏君の妄想をしまくって、幸せに浸るのが至福の一時。周りがいくら煩かろうと、奏君を考えている時は関係ないの。

あぁ、もし奏君が本当にいたら…、私がこうして眠る(仮)と、構ってもらえない寂しさから、
『おい…、何で寝てんだよ。
…早く起きろよ…、ばか。』

そんな事を言いながら、私を揺さぶって…。

えへ、にやけちゃう。

「…えー、本当にー?」
「うそー、ありえないんですけどー」

…あ、皆教室に帰ってきてるっぽい。
だんだん騒がしくなってるし、あの独特な喋り方の女子の会話もちらほら聞こえてくる。

よし、精神統一。奏君統一。
妄想の世界へまたまた飛んじゃおう。

「うそー、新がぁー?」
「ほんとだってばー」

…。
「新」。
その言葉が聞こえて、思わず耳を澄ませてしまう。

妄想すらやめた。何故だか…、たったさっき話した彼の微笑みが、頭から離れてないからかもしれない。

「だってー、新が授業サボるなんてこれまでなかったじゃーん?」
「確かにー。」
「私達にも素っ気なくなったしー、絶対さー、

 好きな人出来たって事でしょー」

新に、好きな人…?
いや、うん。そっかそっか。私も奏君好きだし、そういうのってあるよね。

…、あの話に出てきてる「新」と、屋上の「新」は同一人物なのかな…?

あー、もう。理由も分かんないのに、混乱してきた。
別に、新が誰だってどうだってなんでも良いのに。
新なんて、他人なんて、私には関係ない。

私に必要なのは、家族と奏君。これまでもずっと、たったそれだけなはず。

ましてや、数分前会ったばかりの人間を…、
気になったりするなんて…有り得ない。

6:天音◆mU:2016/04/02(土) 16:33 ID:KzY


気を取り直して引き続き妄想、妄想。

妄想、妄想、奏君の妄想を…。
「ショックー!新取られたら、もう男子良い奴いないー!」
「皆の新がぁ…」

…新…、あ、違う違う。
奏君の妄想を…、って、何でこんなに頑張って妄想しようとしてるんだろ。

いつもなら、周りの声も雑音も耳に入ってこないくらいなのに。

もう、本当におかしい。

少し前に戻ってきたはずの教室から、また出ていこうと席を立った。

教室を出た瞬間、

「きゃあっ!」
「うわ!ごめん、本当ごめん、大丈夫?」

ちょうど教室に入ろうとしていた男子とぶつかってしまった。その男子は私を気遣って謝ってくれている。
その男子は、黒ぶち眼鏡をかけた優しそうな人だった。

「全然大丈夫です。ごめんなさい。」

そう言って、その場を立ち去ろうとしたけれど、彼に呼び掛けられ、立ち止まる。

「白浜さんはさ、どうしてそんなに人と関わらないの?」

彼の真剣な質問に、戸惑うこともなく、私はこれまでと同じ答えを返す。

「1人が楽なんです。」

そう言い、足早に彼から離れ、廊下をスタスタと歩いていく。

どうせ、彼に本当の理由を話したところで意味のないこと。
一番つきやすいウソをつくのが一番簡単。


「へーぇ、アイツが好きになった人も、なかなか嘘つきなんだね…。」

私は知らない。
このウソの真実がバレている事を…。

7:天音◆mU:2016/04/02(土) 17:30 ID:KzY


んー、屋上に行こうか。あ、でも屋上はさっき行ったばかりだし、何か気分が乗らない。

中庭にでもいこう。ゲームはしなくても、ただぼーっとするだけでいいや。

私は階段を降りて、中庭へと踏み入れた。
下は土とかじゃなく、芝生が敷き詰められているから土足じゃなくても大丈夫。
ベンチに腰掛けて、空を見上げながらゆっくり過ごす。

空…、空良…。

あぁ…。
あの日も、こんな澄みきった空だったよね。太陽もきらきらしてて気持ちも明るくて、幸せで…。


そう、1番の幸せを味わって、1番の絶望を味わったあの日。

空良は今、幸せ?
私はね、空良のせいで沢山のものを失ったんだよ。

もう、私の望んでいた幸せを手に入れる事は出来なくなったんだよ。

いつの間にか、あの日枯れたはずの涙が頬を伝い始めた。
どれだけ悲しみの海に溺れようと、変わるはずのない今。
頭では理解しているんだ。
泣いたところで、無意味な事なんだって。

それでも涙を流す以外、私には逃げ道が無いんだ。

空は輝いているのに、心も、涙も、全部全部どしゃ降り。

「…ふ、……うっ………」

どうして、急に涙を流したのかは分からない。
どうして、今なのか、ここなのかは分からない。

それでも私は…、

「美都ちゃん、……大丈夫。」

この人は温もりをくれるんだと、心の片隅で勝手に信じていたから、涙を止められなくなってしまったんだ。

「あ、らた…。新…」

8:天音◆mU:2016/04/02(土) 18:54 ID:KzY


新は、まるで壊れ物を扱うかのように私をゆっくりと抱き締めた。
長い腕で背中を優しく、とん…とん…と叩かれると、私は落ち着き始める。

「だいじょうぶだよ。」

少し低い、落ち着く声色でそう言われると、不思議と本当に大丈夫な気がしてくる。

「…あ、りがとう、ごめん、ありがとう…。」

私が何度も何度も新に向かってそう呟けば、新はふふっ、と綺麗に笑って、
「僕がしたくてしたんだから。
そんなに謝らないで、お礼は嬉しいんだけどね。」

9:空◆mU:2016/04/02(土) 22:29 ID:KzY


私はまだ涙目なんだろう。
その証拠に、まだ視界がぐらぐら揺れ続けているから。
そんな時でも新は、
優しく笑ってるんだって、
綺麗に笑ってるんだって分かっちゃうの。

今日会ったばかりの新をここまで頼ってしまうのは何でだろう。
理由なんて分からないけれど、ただ新の側は安心出来るのだと知ってしまったから…

「…あ、のね、あらた…。
あ、新は、私を嫌いにならないでいてくれる…?」

ぎゅっと新にしがみついたまま、私はそんな質問を投げ掛ける。
重たい質問だと、自分でも思う。だけど…、新だけには嫌われたくないと思う私がいる。

新の胸に頭を沈め、彼の答えを静かに待つ。

聞こえてきたのは満足そうな笑い声。
新は私の頭をふわり、ふわりと撫でながら、

「何言ってるの、美都ちゃん。
嫌いになって、って言われてもね、僕には難しいんだから。」

彼は手を止めると、私と目線を合わせてくる。
彼の瞳は、色素の薄い茶色がかったダークブラウン。

その瞳に吸い込まれそうになるのを感じながら、彼をジッと見つめ返す。

新は絶対的なオーラを纏いながら、私の身も心も囲われるように、全てを捕らえて離さない。

「”あの事”はバラさない。
美都ちゃんの事も嫌いになんない。

アイツより側にいてやれるし、アイツより俺は優しいよ。

だから…、お願い。
俺と一緒にいて。俺を早く…、」


……好きになってよ

その言葉が脳裏に響いたと思えば、唇に何かが触れたのを感じる。
たった触れただけのそれ。

それでも何故か、全てが満たされていくのを感じた。

優しく、甘く言ってくれたはずなのに、切なさの隠る声だった気がするのは何で?

一人称も変わるほど素に戻った彼の言うアイツが、奏君を指していたのか、それとも…。

切なそうに私を見つめる新を安心させたくて、新にそっと抱きついた。
新の手を取り、そっと繋ぐ。

「いいよ。
新なら、好きになれる。自信なんてないのかもしれないけど。

…新は、もしかして知ってるの?」

「…あぁ。
奏君を好きな限り、まだ想ってるんだって分かる。どうしようもなく、嫌でたまんねー…。

美都ちゃんの中には、アイツがまだ残ってる。」

私がずっと隠し続けてきたこと。
これまでみたいにずっと、隠し続けていくんだと思ってた。

10:空◆mU:2016/04/03(日) 08:10 ID:KzY


ずっとずっと、1人ぼっちで。
ぐるぐる渦巻く黒い感情を押し殺して、何にも無かったかのように振る舞うのは容易い事だった。

それに、誰も気づかない。
友達だなんて、親友だなんて、彼氏だなんて上辺でしかないんだと、私は知っていた。

きっと、どこかで期待してたのにね。

新は何故だか安心してしまう。
まるで、ずっと寄り添ってきたかのように。

「…新になら、言えるかもしれない。
今じゃない、いつか。」

決心したように、それでも消え入りそうな声でぼそっと呟いた。

「いいよ、いつでも。
言えなくったっていい。」

私を気遣う言葉が聞こえて、ほっとする。焦らせないでいてくれるのは、気持ち的にも余裕が出来る。

新からゆっくり離れる。その瞬間、石鹸の優しい香りが鼻を掠めた。

私が新の隣に腰かけると同時に、チャイムの音がなり響く。

11:空ラビ◆mU:2016/04/03(日) 11:21 ID:KzY


バタバタと足音が聞こえ出した事から、どうやら皆売店めがけてまっしぐらな様子。

「皆大変だね、そんなに急がないとご飯にありつけないんだ。」

私が可哀想に…、と冗談に嫌味ったらしく言って笑ってみると、新も声を出して「ははっ」と笑った。

「美都ちゃんは、お弁当持ってきてるの?」

新は首をかしげて、瞬きをパチパチしながらそう聞いてくる。
…奏君フェイスでそんなことして、私を萌え殺す気なのかな。

頭を撫でたい衝動に駆られるけれど、そこはしっかり踏ん張って、

「うん、お母さんが作ってくれてるから。お母さんのが一番美味しいし。」

お母さんは私の大好きなもの、いっぱいつめてくれるからね、大好き。

「そうなんだ。美都ちゃんは作ったりしないの?」

新にそう聞かれ、ウッ、と答えに困ってしまう。
盛大に目を泳がしまくる私を見て、新は何とか察してくれた。

「あー…、あまりお上手でいらっしゃらない?」

妙な敬語で、私の反応を気にかけながら聞いてくる新に、私はへらっと笑って、

「ええ、女子力は何処かに置いてきましたから。」

と、私に合わない敬語で返してみせた。
今時、裁縫も料理も上手に出来ない女子高校生がどこにいる。
ここにいますよーっと。これだけは、どんなに練習しても無理だったんだよなぁ…。
どうしたら器用になれるか教えてほしいよ、全くもう。

まぁ、普通だったら、なんだコイツ、と引く場面なんだと思う。
それなのに新は、「そっか。」とだけ言って優しく笑った。

「…ありがと。
あー!お腹空いたな、私教室戻るね。お昼休みがすぐ終わっちゃうー」

感謝なんていってしまうと、無理にでも照れ隠ししないといけなくなるじゃんか。
やけに声のボリュームを上げて、余裕そうに見せかけ…れてるか分からないけど。

ベンチをヒョイッと立って、んーっと背伸びをしてから、新の方を見ずに
「ばいばーい。」と言いながら、ふらふら手を振る。

…だってこれ、余裕そうな感じでかっこいいんだもん。

中庭を出れば、私は『クール』。
誰とも話さない、物静かな女子。

そんな私を演じてみながら廊下を歩き、私が考えること。

あれ、今日は奏君を考えるのがやけに少ないな…。

12:空◆mU:2016/04/03(日) 21:48 ID:KzY



「…ん、べんと、…うま。」

この美味しさは声に出す以外、どうしたら良いって話ね。
無論、周りの騒がしさでこんな声は聞こえないほどなんだけど。

私は窓側にぴったりくっついてもぐもぐもぐもぐ。左肩から隙間の無いほどくっつき壁さん。
そして、唐揚げを口いっぱいに頬張るのは仕方ない事。

そうして、お昼の時間を存分に楽しんでいると、急に私の前に机がやってきた。
あれ、机って全自動だったっけ、とか何とかいらない冗談は置いておいて。

ギギギ、と音が鳴るように上へ顔を上げれば、……

「…何ですか、真鍋さん。
ここは2-5ですよ。」

新がにんまり笑って立っていたから、勿論サラッと流しておく。

『クール』なんだからね、あ、卵焼きも美味美味。

13:空ラビ◆mU:2016/04/07(木) 15:39 ID:KzY


私が新から目を背け、黙々とお弁当を食べ続けていても、彼は何もアクションを起こさない。
てっきり、少しくらい怒ると思ってたのにな。

そう思いながら、ブロッコリーを口に放り投げちらっと前を盗み見れば、眩しいくらいの笑顔を保つ彼がいた。
眩しすぎて何かもう…ッ、

怖いです。

私はごくん、とブロッコリーを飲み込む。

14:ユリ◆e.:2016/04/07(木) 20:49 ID:3zQ

はじめまして!ユリです♪
最初から読んだんですけど、面白いです!!
続き楽しみにしてます\(>ω<)/

15:天音◆mU:2016/04/09(土) 09:34 ID:KzY


>>14

ありがとうございます!

16:天音◆mU:2016/04/09(土) 09:44 ID:KzY


周りをぐるりと見渡せば、何故だか新にお目々ハートマークな人が大量発生していた。あれ、何で皆注意しないの?
口に出そうとして、さっきも言ったなとデジャヴに思うけど、もう一回言っておこう。

「ここ2-5ですけど。」

私が冷たく言い放つと、新は1mmも笑みを崩さないまま、

「僕も2-5ですけど。」

……は?
え、ちょっと待ってよ。意味分かんないって。
僕も2-5って事は、イコール…。

「新、2-5?」

「言った通りなのに質問してきたね、そうだよ、2-5の真鍋新だよ。」

その言葉に全身凍り付く。
これまでもずっと同じ教室で授業受けてきてたってこと?
新と同じ空気吸って、吐いてたってこと?

新って、もしかして…

「影薄いの?」

私は、最大級に真面目なトーンでそう聞いた。

17:ユリ◆e.:2016/04/09(土) 12:45 ID:3zQ

新、同クラだったの!?
影薄すぎww

18:空羽◆mU:2016/04/09(土) 13:29 ID:KzY


この上無い程真面目に聞いたはずなのに、新は声を出しておかしそうに笑い出した。
「おもしろいね、美都ちゃん…ッ、ははッ」

いや、ちょっと待ってよ、何にもおかしい事言ってないよね?
みんな思うはずでしょ、私新のこと気づいてなかったんだし…!

困惑しまくりな私は、更に困惑する羽目になる。

「し、白浜さんって、新君とは話せるんだね!」

「新に気づいてないって、逆に凄くねー?」

…まさかの、高校生になって初めての
「私が注目を浴びてしまう」状態が起こってしまった。

大人しそうな女子も、うるさそうな男子も話しかけてきてしまい、私はどうすることも出来ない。

…新のせいで『クール』が崩れちゃったじゃん…!
今も尚笑い続ける新をキッと睨んでから、私は目一杯足を伸ばして新の足を…

「い、痛いよ、ごめんって!」

思いっきり踏んづけてあげた。
奏君顔の新の足を踏んづけるのは勇気が必要だったけど、まぁ良いでしょ。

「一応許す。
だけど、新。私が新の事知らないって余程の事なの?」

さっきのうるさい男子、うる男(名付けた)が言ってた事が本当なら、気づいてないほうがおかしいってことだよね?

19:ユリ◆e.:2016/04/09(土) 16:40 ID:3zQ

ユリもリアルで男の子の足ふんだことあるww


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