希望の朝がきた

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1:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/02(土) 22:55 ID:3uI

奥行きのある綺麗な青空。
たくさんの青で塗られた空に、私は目だけではなく、心さえも奪われる。

足下の雑音だらけのラジオからは、音楽が聞こえた。

『ザザザ希望の朝ザザ喜びザザ胸をザザザザザザアアア……__』

____希望の朝。
そうだ。今、私は希望の朝を迎えている。
窓をを開けて、私は叫んだ。

「おはよう、皆!」




感想くれたら、嬉しいです(*´∀`)
今回は平凡でほのぼのしたお話です!

ぜひ、見ていって下さい!

2:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/02(土) 23:37 ID:3uI

ああ、綺麗な桜……。

白にほんのちょっとピンクを混ぜたような綺麗な桜は、まるで胸元で揺れるスカーフのよう。
スカーフを揺れさせて……いや、弾ませて、私は走る。
道の先には大好きな大好きな私の友達がいる。

「はーやーくぅ!遅いよ、めぐみ!」

桜の花びらがついているショートカットの髪の彼女は美奈。
小学校からの友達で、家も近所。
最近の悩みは体重が3kg増えたことだとか。

「ごめんごめんーっ!」

ようやく美奈に追い付き、二人並んで歩き出す。
桜の雨はやまず、私達を、その花びらで隠そうとしているようだった。
そんなことを考えて、私はくすっと笑う。
そんなこと、あるわけないのにね!

むしろ、黒い制服が引き立つだけだしね!

「あ、そうだそうだ、聞いてよめぐみ!」
「ん?どうしたの?」

美奈は、口元を手で隠しながら、ぐふふっと笑う。

また噂話かな?美奈はとっても噂話が好きだから、よくこういう切り出しで噂話を話してくる。
その噂話は面白いものばかりで、私はいつも楽しんでそれを聞いている。

今日はどんな噂話かな〜?

美奈はまたぐふふっと笑った。

「あのねぇ、うちの学校のことなんだけどぉ〜!」
「うちの学校?七不思議なら、全部教えてもらったよ?」

たしか、花子さんに、校長先生の肖像画に……___。

七不思議を数えていると、美奈がそれを遮るように首をふった。

「違う違う!違うって!七不思議じゃなくて、うちの学校の裏話みたいな」
「裏話ぃ〜?なぁに、それ?」

美奈は周りを見渡し、近くに人がいないか確認する。
あまり人がいないのを、たっぷり30秒かけて確認すると、ようやく私に話始めた。

「三組の青川さん、いるでしょ?あの子、魔女なんだって」

そして、私もたっぷり30秒かけて固まる。

今まで美奈はたくさんの噂話を私に教えてくれた。
それこそ、身近なことから私の手が届かないような芸能界、政治界のことだって、なんでも。
けど、次はこれ?魔女だのなんだのの噂も確かに前聞いたことはあった。
けど、それが三組の子のこととなると、私はこう反応せざる終えない。

「はあ〜?」

何それ。意味不明ですわ。

と、反応せざる終えない。

青川さんと言えば、成績優秀でとても美人、学校の高嶺の花。
薔薇のように佇みながら、話せばまるで百合のように柔らか。
けど、やっぱり彼女と話すと緊張しちゃう、近寄れない、という声が相次ぐ人だ。

その人が魔女。
なるほど。
面白くない!

「何の冗談?」
「もう、違うよ!冗談なわけないじゃん!……あのねぇ、青川さんが魔法使ってるの見たっていう人が多いんだよ!」
「えー、嘘っぽ〜い」
「嘘じゃないよ!本当だよ!だって、青川さんの___」

トタッという、誰かがすぐ隣を歩く音。
学校指定の白いスニーカーが、花びらの水溜まりに入る。
白に生えるは地毛だという焦げ茶色の髪。

私のすぐ隣を歩いていたのは、今絶賛噂中の青川さん、その人だった。

3:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/02(土) 23:54 ID:3uI

青川さんは、ふふっと私を見て笑った。
彼女と同性の私でも真っ赤になりそうな微笑み。それを目の前で見て、私は息が止まった。

美奈の息を飲む音が聞こえる。ヒュッという音。
私も現にそうなのかな。

青川さんは気にした様子も見せず、清んだ声で挨拶をした。

「おはよう、美奈さん、めぐみさん」

名前も共に呼ばれ、私はようやく息をするのを再開した。
そして、挨拶を返さなければないことも同時に思い出す。
見惚れている場合じゃない!

「お、おはようゴざいマス……っ!」
「オハヨーゴゼーマスー……」

二人して片言になる。
特に美奈なんかは酷い。

私達の挨拶にまた笑う青川さん。

「もう、そんな堅くならないで?噂話をするなら、周りをよく見ることが大事よ?」

ごめんなさい。私は悪くないです。全て隣にいる美奈が悪いんです。だから許して下さいな。

心の中で早口で謝り、私は「ははっ」と苦笑いをした。

「ふふ。私、ちょっと急いでいるから、また学校で会いましょう?じゃあね」
「う、うん。じゃあね〜……」
「またね〜……」

二人して、ロボットみたいな動きで青川さんに手をふる。
青川さんの姿が、桜の雨によって消えるのを見て、私達は安堵とは言えないような、いっきにビールを飲んだ叔父さんのような下品な息を吐いた。
青川さんの吐く息とはきっと正反対の息だと思う。

「もおー、いるの教えてくれたっていいじゃん〜」
「いやいや、私も知らなかったし!」

気配なんて、分からなかった。
むしろ、突然隣に現れたような感じ。

まさか、本当に青川さんって魔女?

美奈は「あーあー」と頭をかいた。
不満げな顔で、前を見ている。

「もう、噂話する気分じゃなくなっちゃったぁ〜。あたしたちも走ろ?早く学校行こうよ」
「はいはい」

タッタッタッと軽やかに走る美奈は、やっぱり運動部。
それに比べて、ダッダッダッと重々しく走る私はやっぱり文化部。運動なんて大嫌い。
走るスピードは違えど、私達は同じように未来に進んでいく。それは誰にも止められないこと。
そう、時は止められない。

空は青空で、気候もいい感じ。
麗らかな春の日。
今日はいつもよりも、スタートが変わっていた一日だった。

4:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/03(日) 00:17 ID:3uI

ざわざわざわ……。
いつもと同じ、騒がしい教室。
でも、それがいい!

「おはよー!」

そう言えば、仲がいい子をはじめ、色んな人がおはようって返してくれる。
今日はスタートが変わっていたけど、でもやっぱり、ここは同じ。
挨拶を返されるのって、とっても気持ちいい!

カバンを机に下ろして、カバンを開ける。そこから教科書たちを出して、机の中に入れる。
机の中はひんやりとしていて、気持ちがいい。
美奈はもう朝の準備を終えたのか、私の席に来て、そして机をバンッと叩いた。
そのバンッという音は、周りの音にかき消され、私達以外、誰も聞いていない。

「青川さんのことなんだけどッ……!」
「うん?」
「絶対魔女だね……!」
「うん。……え?……えっ!?」

まだ言ってたの……?
それに、噂話する気が失せたんじゃあ……。

そんな私の疑問はお構い無し。美奈は魔女だ魔女だと連呼した。

「そうよ!だって魔女に決まってる!隣にくるまで気づかないなんて!」
「話してたから気づかなかったんじゃないの?」
「違う、違うわよめぐみ!きっと瞬間移動だよ!それか気配を消す魔法なんかを……こう、パパッとさ!」
「ありえないよっ!」
「ありえるかもよ!」

美奈はなぜか息を切らしていて、肩で息をしていた。
どこにそんな息を切らす要素があった……?

教室は相変わらず騒がしく、そんな美奈の様子は気づかれない。
むしろ、皆の注目は男子の取っ組み合いに向いているようだった。危ないなあ。

「……とにかく!魔女なんだよ!」
「そ、そうなの……?」
「うん!……よし、これで満足!そろそろ時間だからじゃあね!」
「あ、うん」

嵐のように去っていった。
美奈はよく、嵐だの台風だのと言われている。言いたいことが言えたら、そく去っていく。
私は思う。美奈は台風の目じゃないか、と。

美奈の言った通り、時間がきてチャイムが鳴る。同時に先生が入ってきて、ホームルームが始まる。
先生が出席簿を開き、出欠とるぞーと言った。

学校が始まった。

5:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/03(日) 00:35 ID:3uI

学校は楽しい。これは万国共通だと私は思ってる。
だって、色んな知識を身につけられるし、自分の得意なものは増えてくし、知り合いも増えていくし、イベントも多いし……とにかく楽しいことだらけ!
そんな学校が始まる……それだけで私の心はうきうきして、今からラスボスを倒すんだってときみたいに体に力が入る。

ああ、きっと今日も楽しいんだろうな!

……でも。

___人は、私をリア充という。
でも、逆に私は思う。
どうしてリアルが充実してないの?って。
その疑問はたくさんの反感を得た。
反感は槍を持って私に向かってきて、そして私の身をひと突きする。
それは痛い。とてもとても痛い。
私は本当のことを言ったのに、どうして攻撃されるの?可笑しいよ……。
その言葉を発したら、また突かれる。

だから、楽しいなんて、大々的に言えない。
控えめに、楽しいと思うしかない。

これは、身を持って体験してるからよく分かる。
人間社会は、ちょっと汚いから。

でも、窓から見える景色はとっても素敵。
青空に雲一つもない。
純粋な青空だけがそこにあって、私達を見ている。
この青空は、絶対誰も攻撃したりしない。むしろ、包み込んで守ってくれる。
だから、私は青空が大好き!
ほら見て。雀が青空を横切って飛んでいく。
とっても可愛い。

私は幸せな気分に浸りながら、学校にいられる時間を過ごした。

暖かな日だまりは、少しずつ、山にその光を当てはじめていた。

6:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/03(日) 01:25 ID:3uI

そして、光は山の方へと落ちようとしていた。
空は青空じゃなくなっていて、どこか孤独を思わせる朱色へと変わっていた。

部活も終わり、あとは帰るだけ。
私は後輩や先輩に「さよなら」と言って、部室から出た。

手を見ると、手のひらに青い絵の具がついていた。
うーん。さっき筆落としそうになったし、そのときに、だよね……。
ハァと息を吐いて、長い廊下を歩いた。

廊下を歩き、歩き、そして歩き、また歩き………___

「……あれ?」

可笑しいな。疲れてるのかな。

絵の具のついていない方の手で目を擦る。瞬きもする。
けど、景色は変わらない。
ずっとずっと、同じ景色。つまり、歩いても歩いても廊下は終わらない。
歩くたび、床が私の向かう方向とは逆の方向に動いているみたいに、まったく景色が変わらない。

歩いている。それは分かる。
動いているのも分かる。
まるで、廊下が伸びて………いや、本当に伸びてる!?

焦る。私は焦る!

試しに走る。けど、走った分だけ廊下も伸びる。
何コレとしか言いようがない!

どうなってるの……?

目の前が水面をのぞきこんだみたいに、揺れる。
目に、水の膜が張っている。
これは恐怖から?

膝が震え、肩も震えだす。

私はついに膝をついた。

「なに、なに……なに……なになになにッ!?」

これはどういうことなのッ!?

水の膜が集まり、水滴となって床に落ちる。
一回落ちたらもう止まらない。
ポタポタポタ……。
水滴は床に染み込まず、そこにまだあった。

ポタポタポタ……。

涙が止まらない。怖くて怖くて怖くて……。
ひとりぼっちでお化け屋敷に置き去りにされたよう。廊下の先にある、遠くの窓から見える朱色の空が、余計に恐怖を私の心に埋め込む。

助けて、誰でもいいから、ねぇ!

こんな気持ちは、とても久しぶりだった。

「あれ、貴女……」

後ろから、聞いたことのある声が聞こえた。
けど、その声は私を安心させるどころか、恐怖を増させた。

___青川さんは魔女。

そんな噂を思い出してしまったから。
恐怖で体が固まるのが、嫌でも分かった。

7:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/03(日) 01:42 ID:3uI

動けないでいる私に、足音が近づく。
それは恐怖の足音?ううん、魔女と噂される青川さんの足音。

「ねぇ、貴女?」

肩にポンッと手を置かれる。
ビクッと体が反応して、また涙が床に落ちた。
床には、私の涙でできた小さな水溜まりがあった。

怖い怖い!どうして私に近寄ったの!?やめて、来ないで手を放して!

そんな悲痛な叫びは青川さんには聞こえない。
青川さんが、私の前にやって来た。しゃがみこんで、私と目をあわせようとしている。

目をあわせたら、きっと呪われるんだ……!

「めぐみさん、貴女、やっぱりめぐみさんね!……どうしてここにいるの?」

ド ウ シ テ コ コ ニ イ ル ノ ?

最後は声が低く、背中に何かが這ったようにゾッとした。

「あ、あの、えと……ッ!」

声は震えていて、連続音みたい。

顔を上げようとせず、私は床ばかりを見ていた。
涙が止まらない。どうしよう。
誰でもいいから助けてとは思ったけど、青川さんはダメ……!
……そうだ、美奈!美奈助けて!

青川さんが、「ああ」と言う。
何か納得したみたいに。

「やっぱり迷いこんじゃったんだ?」

迷いこむとか意味分からないです。
だから、私を解放して!

息苦しくなって、咳き込む。
口から出たのは唾液ではない、水だった。
水はどんどん口から溢れ出す。それとともに、目から落ちる涙も止まらない。
体が干からびるのを感じる。

溢れる水を見て、私は声が出なかった。
いや、もう声が出なくなるほど、水が出ているのか……。

すると、突然私の周りが歪んだ。
体全体に何か、冷たいものが触れているのを感じた。
何これと、反射的に手のひらを見た。
そこには、青い絵の具がついていたはずだった。けど、その青い絵の具は薄れはじめていた。
そこで気づく。私を取り囲んでいるのは水だと。

水を認識すると、突然苦しくなる。
ああ、酸素が足りない!足りないよ!
もがいてもがいて、気づいたら、ようやく水から解放されていた。

私は立ち上がって、周りを見渡す。
どこにも、水の痕跡などない。

それに、口から水も出てこない。涙もそう。

「大丈夫?」

その声にハッとする。
声の主を見れば、制服姿の青川さんが目の前にいた。
あ、そうだった。いたんだ……。

「どう?わたしの魔法で治った?」

8:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/03(日) 02:15 ID:3uI

___青川さんは魔女。

その噂を思い出す。まさか、としか思えない。

ううん、きっと、朝の美奈との会話を聞いて、それをネタにからかってるだけなんだ。
きっと、さっきのも全て幻覚。
でも、それにしてはリアルだった。白昼夢かな〜?

人間の脳は、なかなか現実を受け止めないように作られているらしい。
私はその作りに従って、現実を受け止めず、逃げ道を探していた。
けど、その逃げ道は青川さんの言葉の魔法によって封鎖された。

「噂通り、わたしは魔女。信じられないのかな、やっぱり」

そこでようやく、私は青川さんの顔をちゃんと見た。
学校のほとんどの人が絶賛するほど、整えられた顔。
その顔が、寂しそうに歪んでいる。

どこか人形っぽく、人間味を感じられず、高嶺の花と化している彼女。
……それが、魔女ゆえにだったのなら。
なんとなく、納得がいくようないかないような……。

「ねえ、めぐみさん」

顔をマジマジと……それはもう、目で人を攻撃できるなら、青川さんをズタボロにしてしまうほど見ていたから、突然話しかけられて、私はびっくりした。
肩がビクッとなる。

「あのね、貴女は____」

ビッシャアアアアアアアアン

大量の水が一気に落ちる音がする。
その音が、青川さんの言葉を止めた。
青川さんは顔に似合わない舌打ちをして、私を庇うように、私の後ろにたち、仁王立ちになった。

なに、なんだ。さっきの音と、関係あるの……?

私の心の中は疑問だらけ。
恐怖は少し無くなったとはいえ、完全には無くなっていない。
それに、青川さんのことだって、心から信用しているわけではないし。

水の音がした私の後方に、私も向く。
そこには、一人の女の子がいた。
私と同じくらいの女の子。制服は見たことのないもので、市内の学校の子じゃないと分かる。

じゃあ、なぜ、市外の子がここにいるのか。そして、どうしてこんな『異空間』にいるのか。
新たな恐怖の芽生え。
それは、私の心に蔦を巻き、離そうとしなかった。

「ちょっといいかしら?ここ、わたしの学校なんだけど」

青川さんが、女の子に問いかける。
女の子は高い声でそれに応えた。

「うっはははは!もう、そんな怒んないでよ。私はちょっと魔法を使っただけだよー?」

ほら、と女の子が手をつき出す。
すると、その手の平から、たくさんの水が出てきた。
私は驚きで言葉が出なかった。
ありえない、という言葉が全身を駆け巡る。

魔法?これが?……いや、そんなわけない。魔法だなんて、魔女なんて、いるわけない!
だって、この科学文明で、あってはならないものだから!
だからだから、それが示すのはつまり!これが全て幻だということ!

そんな心の中の声は、すぐに黙った。
女の子が、一歩近づいて来たのだ。

「私は水が得意なの!」
「そうね、貴女は水の魔法を得意としていたわ。さっきのは……__」
「うっはは!お分かりかなぁ?まぁいいけどね!さっさと私は終わらせたいし!」
「ええいいわ。終わらせてあげる」

青川さんが、女の子に近づいていった。
ゆっくりゆっくり一歩一歩。

勝てないよ、なんて声をかけれない。
青川さんからは、威圧感が出ていた。
生徒指導の先生や、怒っているお父さんとは比べものにならないほど、凄い威圧感が。

9:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/03(日) 11:37 ID:3uI

「じゃあ、めぐみさん。ちょっと下がっててくれる?」

青川さんが、こちらを見ずに言う。
私はそれの言う通りにし、何が起こるのかと両者を交互に見た。

恐怖は変わらずそこにいる。
けれど、その恐怖は、夏によくやる怖い番組を見ているときと同じ恐怖だった。
恐怖というツボの蓋を開けると、わくわくとした好奇心が待っている。そいう気持ちで私はここにいた。

何が起こるんだろう……!

女の子の周りに、たくさんの水のかたまりが浮き出す。
その水のかたまりは、はたから見ても分かるほど急速に凍っていき、そして出来上がった氷は青川さんに飛んできた!

低いビュンッという音がなる。
青川さんは飛んでくる氷を、避けようともしなかった。
ううん、避ける必要がないんだ……。
氷は、いきなり床から生えてきた髪の毛のようなたくさんの蔦に捕らえられていた。
蔦によって氷が割れる音が銃声のようにたくさんなり出す。

次に行動に出たのは青川さんだった。
たくさんの蔦を絡ませて足場を作ると、その足場を強く踏んで、高く飛び上がった!
廊下の天井にダンッと手をつき、急降下する。
向かう先はもちろん、あの女の子。
女の子はまたしても氷を作り、自分を守るように氷を盾にした。
けど、青川さんはそんなのお構い無しに氷に蹴りを喰らわした。
すると、氷がパリンッと割れ、割れるのを確認すると、青川さんはまた床から蔦を生やして、その蔦で女の子を締めあげた。

すぐに終わったその勝負に、どう反応していいか分からなくて……というより、動くことができなくて、私はその場に立ち尽くした。

「貴女、水の魔法が得意だからって、努力してこなかったでしょ?火の魔法さえ使えれば、この場は簡単に逃げれるはずだけど?」

女の子は悔しそうに顔を歪ませた。

「うっさいなぁ!分かってるよ!……ほら、勝負はあんたが勝った。さっさとやれば?」
「あら、貴女はそこまでバカだったかしら。一般人がいるのに、やれるとでも?」
「……はいはい分かったよ!勝負に負けたのは変わらない。だから私は逃げないよ。ほら、安心してその子をここから出しなよ」

女の子が私を見る。
それにつられて、青川さんも私を見る。

青川さんは少し考え込むと、「そうね」と言い、私のところに駆け寄って来た。
青川さんは疲れてる様子など微塵もなくて、圧倒的勝者であることが分かった。

私はドキドキと音を速める心臓を押さえるように息を吸い込んだ。

「あ、あの、さっきの……」
「説明はここを出てから。さ、行きましょう?」

青川さんに手を握られ、私はまた水に包まれた。
その水はあの女の子が出したものではなく、青川さんが出したものだとすぐ分かった。

目が痛くなり、目を瞑った。そして次に目を開けると、そこは部室の前の真っ暗な廊下だった。
部室に人気は無く、時計を見ると、部室を出た時間よりも一時間も過ぎていた。

「えっと、あの……!」

心臓がまだドキドキいっている。興奮ゆえにからなのか。

青川さんは、にっこりと笑顔になると、私にさっきの子のこと、そして、魔女のことなどを教えてくれた。

「さっきの子はわたしの知り合い。魔女友達だと思ってね。そしてさっきの空間は、魔女たちが自由に魔法を使える場所。わたし達はフィールドって簡単に呼んでるの。実際、現実でわたしたちが使える魔法なんて、そのフィードに瞬間移動することだけよ」

そのフィールドに、私はなぜか迷いこんでしまった。
普通の一般人なら迷いこむことはないという。迷い込んでしまうのは、ごく一部の選ばれた人間だけ……。
それを聞いて、私はまさか……と思った。

私には、魔女の素質がある……!?

けど、青川さんは言いづらそうに下を向いた。

「そのね……ごく一部の人たちって言うのは〜……」

青川さんは意を決したのか、私の目を見て口を開いた。

「ごく一部の人たちっていうのは、魔女の餌となるひとたちのことなの」

10:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/03(日) 13:19 ID:3uI

「魔女の餌……?」
「そう、魔女の餌。つまり、」

……食べ物。

「貴女は、わたし達、魔女の食べ物になってしまう」

ぐわんぐわんと音がする。頭に色んな音が響いて、思考をぐちゃぐちゃにする。
体の中が少しずつ真空に近づいていってるような、感覚になり、私は空気をあわてて吸った。
けど、それは意味を成さなかった。
余計息苦しくなるばかりで、まだ水の中にいるのかと錯覚してしまったくらいだ。

「わたし達は、何も食べなくても生きていける。けど、その餌となる人達を食べることによって、魔法の力……いわゆる魔力が増すのよ。だから、努力をしようとしない、さっきのような魔女たちがやって来て、捕って食べようとするの」
「わ、私、食べられちゃうの……?」

青川さんは、そうじゃなくて、と訂正した。

「食べるって言うか、エネルギーを吸いとる感じかしら。さっき、めぐみさんは、水をたくさん体から出していたでしょう?あれは、水の魔法を得意とする彼女が、エネルギーを水に変えて取ろうとしてたのよ」

私はその時のことを思いだし、体が震えた。
体の中で、水が外に出ようと暴れて、その反動で震えているみたい。

青川さんは、私の背中を擦って落ち着かせようとしてくれた。
けど、体の震えは止まらない。

「わたしは貴女を食べようとは思っていない。けど、思っている魔女はたくさんいるわ。……だから、わたしが貴女を守る」

守るって、私を?どうやって?

「餌となる人たちは、幸福な人たちばかりなの。不幸になれ、なんて言わないわ。ねぇ、わたしと一緒に行動しましょう?そしたら、危険な目には合わないと思う」

ねぇ、守らせてくれる?

青川さんが私の両手を握って、私に問いかけた。
私はその場の空気、そして何を答えていいか分からなかったから、私は頷いてしまった。
でも、よく考えたら悪いことじゃない。
私は守られて、楽々と生きていける。危険なんてない。

__けど、これでいいんだっけ?

私は、そんな薄情でズルい人間なんだっけ……?
こんなことで、いいんだっけ……?

「そう、なら良かった。貴女はわたしが守るわ、めぐみさん」

青川さんは嬉しそうに笑う。
それはもう、桜が咲いているのを見たときと同じように、こちらも嬉しくなる笑顔。
だから、私はこれでいいんだと思った。
守られることに慣れてないけれど、彼女が喜んでくれるのなら、と。


「あぁ、そうだ。わたし、ちょっと彼女のところにいかなきゃ」
「さっきの子?」
「ええ、そうよ。すぐ終わるから、ちょっと待っててね」

そういえば、女の子と何か話していたっけ。
やるだのやらないだの、と。
蔦を取るってことなのかな……?

青川さんは、その場でジャンプした。
すると、不思議なことに、体が宙に浮いた瞬間に消えた。

あれが、瞬間移動……?
なんか凄いなあ、と私はその場で思った。

廊下の先にある窓には、夜になりつつある空が見えた。

11:太もも@七氏のムクロ氏:2016/04/04(月) 19:58 ID:3uI

家に帰って、パソコンを開く。
魔女と打って、検索をクリックする。
出てくるのは恐ろしい画像たち。
火炙りにかけられている女の人の絵。
吊り上げられている女の人の絵。
どれもこれも、魔女裁判という題名だった。

「魔女裁判って……」

とってもグロテスク。
私はそっとブラウザを閉じた。

時代が時代なら、青川さんは裁判に欠けられて、死刑になってたのかなあ……。

……そういえば、魔女ってどうやってなるんだろう?
親が魔女とか?何か儀式をするとか?それとも悪魔と契約?
青川さんは、どうやって魔女になったんだろう……?

好奇心はいきすぎると、死をもたらす。
けれど、好奇心は尽きなくて、明日青川さんに会うのが楽しみになってきた。
会って聞きたい。どうやって魔女なったの?どうして魔女になったの?魔女って何をするの?親も魔女?それとも人間で、魔女のことは知ってるの?魔法ってどんなものがあるの?箒で空は飛べるの?実は百年以上生きてたりするの?黒猫はいるの?……___

たくさんの質問が湧き出てきて、どれを先に質問しようか悩む。

毎日は楽しい。それは、今までも、これからもそう。
けど、これからの毎日はただ楽しいだけじゃない。
未知の世界に進んで行くの。オカルトめいた世界に。

……そういえば。

心を落ち着かせれば、思い出したくないことが頭に浮かんでくる。
青川さんは、私は魔女の餌になる人だと言った。
確かに毎日はより楽しくなるかもしれない。けど、それには危険が伴う。
エネルギーをとるとも言っていたっけ。
それって、命に関わるのかなぁ……。

……でも。
大丈夫、だよね?青川さんがいるもん。
あの女の子を楽々と倒したし、余裕そうだった。強かった。
その強い青川さんが、私を守ってくれるって言ってた。
だから、大丈夫。大丈夫なんだ。
危険はある。けど、私は生きていける。命に危険は及ばない。

あの青川さんだよ?
成績優秀。性格良し。そして今日のことで分かったけど、運動能力抜群。そして、魔法がある。
信用していい子だ。だって、うちの学校の子だし。

体が暖かくなる。ぽかぽかしてて、なんだか幸せ。
きっと、これを安心感と言うのだと思う。

私はパソコンを閉じて、フッと息を吐いた。
肩の力を抜いて、笑顔になったら、もう大丈夫。
皆の言う、リア充そのもの。

「よしっ」

さて、宿題でもしよう。

12:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/04(月) 21:59 ID:3uI

美奈の前で、目の前の敵から庇うように仁王立ちになる。
そして、私は魔法のステッキを構え、こう叫ぶ。

「遅くなって、ごめんねッ!」

目の前の敵から出される黒い光線を、ステッキから出した盾で防ぎ、私は敵に近づいていく。

まるで、獲物を見つけたライオンみたい。
丸々と太った鶏型の敵は、とっても美味しそう。
首を取って倒したら、救った美奈と一緒に料理をするのもいい。そしたら大きな鶏料理で、青川さんも呼んで皆でパーティ!
さぁ、パーティーのテーブルに並ぶため、あなたはさっさと私に倒されなさい!悪の化身め!

「たあああああッ!」

バシュンッと音がする。
それは敵の首が、丸々な胴から放れた音。

美奈が私の手を取って、私を褒める。
気づいたらたくさんの人がいて、私のところに取材に来た人がやってくる。
カメラから放たれる、私を褒め称える光を浴びながら、私は言う。

「えぇ!私、魔女なんです!」


パッと目を開ける。痛々しい夢を見たからか、やけに気分が悪い。
もちろん、体調的な気分ではなく、精神的な気分。
あれは、魔女じゃなくて、魔法少女だ。なんて……なんて痛々しいの……?
そもそも、なんでパーティー?
あんな紫色の鶏もどきなんて食べたくないよ……。

ベッドから出て、制服に着替える。
最後にスカーフを結んで、よしっと気合いを入れる。
笑顔になったら、もう大丈夫。悪い気分は飛んでいって、最高の気分になる。

今日も楽しい一日になることが、カーテンから覗く青空で分かる。
私は青空が大好き。
青空がある限り、私はリア充。
皆が羨むリア充。

ふふっと笑い声を上げて、リビングに向かう。
今日こそは、美奈よりも早く集合場所に行って、一緒にゆっくり登校するんだ!

リビングのドアを開けると、パンの焼けた香ばしい匂いがする。
私のお腹は鼻に届いた匂いに返事でもするかのように音を鳴らす。
愉快な愉快な音。

目の前に出されたパンにいちごジャムを塗って、パクリと一口。
うん、今日も美味しいと、一言。
そこからは早い早い。
パンを食べ終えると、出されたのは烏龍茶。そして、その烏龍茶を飲み干した。
烏龍茶がなきゃ、喉がさっぱりしない!……少なくとも私はね。

あとは歯を磨いて、顔を洗って、カバンを持って、靴をはいて、玄関のドアを押して……。

「行ってきます!」

痛々しかった夢を忘れ、私は一歩踏み出す。
柔らかな風が吹いて、私の髪で遊んでいった。

13:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/05(火) 11:36 ID:3uI

美奈との待ち合わせ場所には、すでに美奈がいた。
今日こそは美奈より先に来たと思ったんだけどなぁ……。

美奈のところに走って行って、二人して歩き出す。
美奈は「お、今日は早い」と言って私の頭を撫でた。嬉しいけど、子供扱いされてる見たいでちょっと不服。

昨日あんなに桜の豪雨が降っていたのに、まだ桜は生きていた。
桜並木の下を二人で歩きながら、談笑する。
やっぱり美奈は美奈で、昨日聞いたという噂話を話してくれて、とても面白かった。
なん組の誰が誰に告白して振られたとか、なん組のあの人がどこでどうしていたとか。
そう話していると、突然隣から声が聞こえた。

「あら、おはよう」

この声に驚いたのは美奈だけで、私は普通にその挨拶を受け入れ、挨拶を返した。

「おはよう、青川さん」

美奈の私を見る視線が微妙に痛い。
あ、痛いといえば……いや、思い出しちゃいけない。思い出すな。

美奈はおどおどとした声で挨拶を返す。

「お、おは、よー……」
「美奈さん、どうしたの?そんなに汗をかいて」
「うえ……!?……あ、いえ。ちょっと昨日は暑いかなーなんてぇー。ははははっ」

美奈はそっーと視線を空に向けた。
私と青川さんは、それにくすりと笑う。

青川さんと一緒にまた談笑して、学校に向かう。
青川さんと少し話すと、美奈も慣れたのか、おどおどすることも無くなった。

そしてまた、噂話を美奈が始めると、青川さんがニコニコしながら言った。

「そういえば、わたしが魔女だって噂あったじゃない?」

お、きた。
私は特に驚くこともなく、「ああ、あったねー」と返す。
美奈はまたおどおどしだしている。

「どうして魔女って噂が出たのかしら?」

そういえば、詳しく聞いてない気がするなあ……。

青川さんは「ねぇどうして?」と、なかなか答えない美奈に問う。
その美奈といえば、肩が震えていて、とうとう歩みまで止めてしまった。
さすがに可笑しい。
私は美奈の背中を擦ってやった。
昨日、私が青川さんにしてもらったように、落ち着かせるようにゆっくり擦る。

青川さんは美奈の前に立って、頭からつま先を舐めるように見ている。どこか気になるところでもあるのか。

「……じ、実は別の学校の女の子から……」

美奈はようやく口を開く。が、その口から出た言葉に、青川さんは全ての動作を一瞬停止した。
次に動いたときには、昨日の威圧感を纏いながら、美奈にまた問いかけていた。

「その女の子、どんな子だった?」

威圧感を纏った様は、まるで女王様。
女王様が処刑される罪人に、どうして罪を犯したか聞くようで、何でも答えなきゃいけない気分になる。
むしろ、答えなきゃ殺される。
だから、言わなきゃいけない。罪を洗いざらい話さなければいけない。
美奈もそう思ったんだろう。
ヒッ……という声を洩らしたあと、また時間をかけて口を開いた。

「……東中の制服を着てて、高飛車な感じの子っていうか……偉そうな子だった……」

東中というのは、市内にある中学校の略称で、本当の名前は東宮森中学校という。
東中は結構頭がいいと評判で、私の学校では「気取っててきらーい」って人が多い。
私は特に何も思わないけれど、美奈はどうなんだろう。
さっきの言い方からするに、いい印象は持っていないと思うけど……。

美奈は恐る恐ると青川さんを見た。
私もつられて青川さんを見る。
青川さんは、威圧感ではなく、殺気を纏っていた。
殺気というものを知らない私が、殺気だと分かるような恐ろしさ。
美奈はもう半泣き。
私は恐くて動けない。

「……あいつ……まだ生きてたのね……」

青川さんの口から出た言葉とその低さに、私と美奈は一瞬に震えた。

14:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/05(火) 20:28 ID:3uI

「……あら、ごめんなさい。空気を悪くしちゃったわね」

青川さんが、震えている私たちを見て、おどけたように笑ってみせた。

「ふふ。美奈さんが会ったというその人、私とちょっと仲が悪くて……ごめんなさいね?」

ふふ、ふふふ………。

先ほどより……とは言わないけど、今の笑いもとても怖い。
けど、美奈は「東中の生徒ですもんね〜」と笑った。
確かにうちの学校には東中の生徒を嫌っている人が多いとはいえ、ここまで嫌っている人はいないって、普通。そのことに気づいてよ美奈……。
私は美奈のお馬鹿さに少し呆れながら、同時に安堵していた。

美奈が変に感づかなくて良かった……。

もしかしたら、青川さんが魔女だって知られてたかも。
美奈は、口が緩くて、何でも話しちゃうから……。

もちろん、私はその東中の生徒が魔女だということに気づいた。
青川さんのあの様子からするに、そう気づかないほうが可笑しいと思う。
でも、あんなに殺気立つなんて……なにか、あったのかな……喧嘩、とか?
ううん、さすがに喧嘩であそこまではいかないよね……。

「さあ、行きましょう?遅刻、したくないものね」
「うん!」「う、うん!」

青川さんは、もう怖い笑いも雰囲気もなく、穏やかないつもの青川さんに戻っていた。
けど、その急変が余計青川さんを恐ろしく見させた。ただ、恐ろしくても、信頼出来て、嫌いにはならない。

青川さんはいつものように穏やかに笑う。
一般的な魔女とは違うその姿に、私は面くらいにながらも、青川さんに友情的な好意を着々と持っていった。

15:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/05(火) 20:40 ID:3uI

感想とかくれてもいいのよ(チラチラチラッ
こんなコテハンだから読まないとかないよね(チラチラチラッ

16:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/07(木) 22:03 ID:3uI

「そういえばさ、青川さんが魔法を使っているのを見たって人が何人かいるって話したよね?」

ふとおもいだし、そのことを美奈に聞くと美奈はブルッと震えた。

ご、ごめんね、美奈……だって、気になっちゃってさ〜ぁ……。

私は心の中で謝罪した。

「あら、それは本当?」

青川さんが、穏やかな声で美奈に聞く。
美奈は黙ってコクコクと頷いた。
いや、コクコクというよりは、カクカクといった表現の方が正しいのかもしれない。

美奈は、歩きながらポツリポツリと話始めた。

「あの、ね。その、東中の生徒が私に青川さんが魔女だって教えたのは話したよね?……それで、その教えてもらったとき、聞いたの。それは本当なんですかぁーって。そしたらその人、見た人は大勢いるって言うの。で、実はその人の他に、周りに東中の男女がいたんだけど……その人達が見たって言うから〜……ご、ごめんなさい……」
「別にいいわ。……そう、やっぱりわたしの知ってる子のようね」
「嘘じゃないの?その人達の言ってること」
「……だ、だって!」

美奈が興奮したように言った。

「だって、その魔女のこと話してくれた東中の子、青川さんの親戚だって言うんだもん!」

青川さんがまた殺気を放った。
美奈は「す、すみませぇ〜ん」と情けない声を上げながら一歩後退した。
青川さんといえば、凄い殺気を放ちながら笑っている。
ドMな人でも逃げていっちゃうくらいに怖い。

風が吹いて、青川さんのこめかみに、血管がうき出ているのが見えた。

青川さんが、そんなに……。

「なるほど……死んだと思っていたのにね……」
「お、落ち着いてよ青川さん!その子、どうしたっていうの!?」

私は青川さんの前に立ち、数分してなんとか宥めた。

「美奈さん、確かにその子は親戚のようなものだわ。だから言える。あんな子に関わらないことよ」

美奈はいきなり名指しされビクついたが、それが自分のための忠告だと分かると、強ばらせていた顔を緩めて、はいっと元気よく返事をした。

青川さんはそれに満足したように頷く。

「もちろん、めぐみさんもね」
「あ、はい!」

どんな容姿かは分からないけどね……。
東中の生徒にはなるべく近づかないようにすれば大丈夫かな?

美奈に気づかれないように、こっそりと青川さんが私に耳打ちをしてきた。

「学校に着いたら、ちょっと話したいことがあるの」

17:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/07(木) 22:48 ID:3uI

学校に着いて、さっさと朝の準備を終わらせると、私は美奈が準備をしている間に三組に行った。

三組の教室の入り口の近くにいた子に、青川さんを呼んでもらう。
その子は驚いたように私をしばらく見ると、分かったと言って青川さんのもとへと走って行った。

やっぱり、あの青川さんだもんなぁ……。
話しかけづらいし、こんな私が青川さんを呼ぶとなると……うーん、青川さんとの付き合いは何かと大変だなあ。

そう思っていると、青川さんが私のところにやって来た。
遠巻きに私達を見ているのが嫌でも分かる。
ギラギラとした、羨望と好奇心、そしてたまに入るのは嫉妬の視線。
もちろん、嫉妬の視線を浴びるのは私。

あからさまに私は嫌な顔をしていたのであろう。青川さんは、私の手を引いて、物置や特別教室ばかりの人があまりいないフロアに移動した。
もちろん、移動する際には怪しまれないように、

「ちょっと手伝ってもらいたいから、いい?」

と言って。

人がいないフロアはフロアでも、もっと人が来なさそうな奥へと進む。

あまり使われていないような水道前に来ると、青川さんは息を吐いた。

「ごめんなさい、わたしのせいよね。嫌でも分かるわ」

あの視線のこと、だよね。

「いいえ、大丈夫です!……あ、それで話って……?」
「……あの子のこと。貴女も気づいていると思うけど、わたしを魔女だとバラしたあの子、魔女なの」
「それって、東中の生徒の……」
「そう。美奈さんが言ってたでしょう?」

やっぱり東中の子って、魔女だったんだ……。

少しずつ、『魔女』という世界が私に近づいてきている感覚があった。
『魔女』という世界は、私を飲み込もうと近づいている。

……私は、未だに信じられていないのだろうか、魔女を。

私は信じられていないのに、『魔女』の世界を認識している。
なんか、中途半端だなあ……。

「めぐみさん?どうしたの?」
「……いや、未だに魔女って信じられないなーって思って……」

青川さんは「そうね……」と目を瞑った。

「確かに、信じられないと思う。けどね、わたしは信じてほしい。そうした方が、守りやすいところもあるからね。いざというときに発狂してもらっても困るもの」

目を開けると、青川さんは悪戯っ子のような顔で笑った。
いや、これは魔法をかける前の魔女の顔だよね。

「そうだよね、なるべくはやく信じられるよう___」

この感じをなんて言えばいいだろう。
頭の奥で何かが弾ける感覚。耳がキーンとなる。けど、すぐ近くから聞こえるのに、けど遠くから聞こえるような感じ。
すると、視界が歪み始めた。ぐにゃりぐにゃりと歪み、気づくと、体ががっしりと誰かに抱えられていた。

18:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/07(木) 23:15 ID:3uI

抱えられていた……?いや、これは抱えられているんじゃなくて、担がれているんだ!

私は誰かの肩に担がれていた。
頭を動かすと、何メートルも前に青川さんが立っていて、ここからでも分かるくらい、目を見開いていた。

「青川さん……ッ!」

私は青川さんの名前を呼んだが、青川さんは何も反応せず、ただ驚いたように私を見ていて、やっと青川さんが反応を見せ、一歩を踏み出すと、そこに新たな人物がやって来た。

「ハァ〜イ。お久しぶり〜?」

鼻にかかったような声。
その声は私の後ろから聞こえた。
靴の音が後ろから、私の前へと移動する。
私の前には、茶色い髪の女の子がいた。
その女の子の制服が東中の制服だということに気づくと、私は背中が凍るのを感じた。
しかも、私を担いでいるのも、東中の制服を着ている。
血の気が引いた。

青川さんは私からその子に視線を移すと、低く唸った。まるで獣。威嚇している。

「あんれ?あれれ?どうしたの?そんなに唸っちゃって。……ふふ。かぁいいわあ」

余裕そうな声に、私もだんだんイラついてくる。

青川さんは、唸るのをやめ、すっと息を吸った。
そして、ダンッという音がしたとおもうと、青川さんがいつの間にか女の子の目の前に来ていた。
そして、ヒュッと音をたてながら回し蹴りを女の子の頭めがけて___いや、それは避けられた。ヒットすることはなかった。
女の子は本当にいつの間にか私の横に来ていて、ゆったりとそこに佇んでいた。
まるで、最初からそこに居たように。

「そんなに怖がらないで?マリアは交渉に来たのよ?」
「……あんた、生きてたのね」
「ええ!マリアは生きてるよ。貴女が勘違いしただけじゃない。……マリアが死んだって」
「死んでれば良かったのよ!」
「ふふ。そう声をあげないの。じゃないと食べちゃうわよ?」

青川さんが一歩下がる。

「……交渉って、なによ?」

青川さんが、手に魔法で炎を出現させながら言う。
女の子___マリアさんは、ふふっと笑う。

「この子、めぐみだっけ?……を、渡してほしいの」
「無理ね」
「そう言うと思った。だから、用意してきたのよ」

私は床にドンッと落とされる。
痛みが全身に走る。
青川さんが炎をマリアに投げた。が、それもすぐに避けられてしまう。

私は何か蔦の檻のようなものに閉じ込められた。
多分、マリアの魔法だ。

マリアが指を鳴らすと、青川さんの周りに、東中の生徒が三人現れた。

「この子たちはマリアのペット。マリアの言うことをよく聞く子たち」

生徒たち三人と、私を担いでいたであろう生徒一人の姿が変形する。
まず、頭の形がゴキゴキといいながら変わり、背骨が曲がり、体が大きくなっていく。
ゴキゴキという音がやんだころには、生徒たち四人は大きなトカゲに変わっていた。

「ねぇ、ちょっとマリアの体の一部になる前に、遊びましょうよ?」
「ええ、いいわ。貴女を負かせてこの世から消してやる!」

19:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/08(金) 17:52 ID:3uI

青川さんは、炎で大きなトカゲを散らすと、大きくジャンプして、よりトカゲたちから離れた。

ビビッという音がして、竜のような青い稲妻がマリアさんに巻きついた。
マリアさんがその稲妻を触ると、稲妻はフッと消え、代わりに種が現れた。
その種が床に落ちると、床からニョキニョキと茎が生える。先端には大きな花の蕾が。

その間に青川さんは炎を大きく大きくしていて、蕾が外側に動き出すと、その蕾に向かって大きな炎を投げた。
けど、その炎は何を燃やせなかった。

蕾が一気に開いて、その炎を食べたのだ。

「なっ……!?」

花は目に痛い紫色をしていた。実に毒々しい。
青川さんは炎、水、植物、稲妻……と、色々な魔法で花を攻撃した。
けれど、どれもこれも花に食べられてしまった。
その間、マリアさんは優雅に紅茶を飲んでいた。

私はそれを蔦でできた檻の中から見ていた。
マリアさんは、「美味しいわあ」と言いながら笑っている。

マリアさんは、大きな花とその茎を青川さんとの壁にしていて、青川さんを見ようともしていなかった。
ただどこからか新しいティーカップを出しては、美味しい美味しい言いながら飲む。それ以外何もしていない。

こんなの、青川さんだけが体力を削られていくだけじゃない……!

私は大きな花の真横にいた。
だから、何も障害にならず、二人の様子を見ていられる。
ほら、今だって、青川さんの後ろには大きなトカゲが___

「青川さあああんッ!!」
「分かってる、大丈夫よ!」

青川さんが、花に攻撃するのをやめ、後ろのトカゲに蹴りをくらわした。
そして、床から細くも数は多い蔦を出し、トカゲたちを拘束した。

「本当は、見せたくないんだけど……めぐみさん!目を瞑ってた方がいいわよ!」

なんのことだか分からず、「え?え?」と言って目を開いていると、トカゲに巻き付いていた蔦がトカゲの皮膚に食い込み、ついにはトカゲは肉片になって散ってしまった。
赤い液体が顔にかかる。
叫んでいる暇はなかった。そんな余裕なんてなかった。

次々とトカゲは散っていき、青川さんは恐ろしい姿で微笑んでいた。
けど、恐ろしい姿は恐ろしい姿でも、それはこの戦いを知らない人だけがそう思うだけ。
私からしてみれば、それはとてもカッコいい姿で、私を守ってくれているからか、ヒーローのように感じた。

こんなに強いヒーローが、私の味方!
それがどれだけ心を支えただろう。
こんなありえない状況で、自分の命もきっとかかっている。だって私は餌なんだもん。
けど、大丈夫。青川さんがいるから!

「ごめんなさい、めぐみさん!今はまだ助けることはできないの!」
「大丈夫!はやくマリアさんを倒して!」

青川さんはニコリと笑うと、また大きくジャンブした。
花を越え、マリアさんの目の前に降り立つ。
それはまるで、天使のよう。
空を駆ける天使。

天使は悪魔に、天の裁きを下す。

青川さんは床から蔦を急速に生やし、その蔦がマリアさんに巻き付いた。
マリアさんが、ティーカップを落としてしまう。
パリンッという甲高い音。その音が無くなると、辺りはシンと静まり返った。

20:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/08(金) 18:18 ID:3uI

「あんら?あらら?捕まっちゃったの?」

マリアさんが楽しそうに笑う。

「なぁに?これだけなの?」
「じゃあ、もっと酷い目に合わせてあげようかしら?」

青川さんが不敵に笑う。
もう、貴女は負けよ、とでも言うように。
マリアさんはそれにまた楽しそうに笑うと、これまた楽しそうに言った。

「そうねえ。こういう状況になって、もしマリアが貴女の立場にあったとしたら___」

蔦が水となり、床にビシャリと落ちる。
マリアさんは動けるようになり、そしてすぐに青川さんに抱きついた。
というより抱いた。

「ちょ、何ッ……!?」

青川さんが動揺する。

「マリアはこうするかなあ」

バキッという音。
青川さんの口からヨダレがみっともなく滴り落ちる。
青川さんの手はピクピクと動き、そして、マリアさんに投げられると、その動きを止めた。

マリアさんは離れたところに転がる青川さんのもとに軽いジャンプで行くと、青川さんの小さな手を踏み潰した!
青川さんがうめく。

「まぁだ生きてる。まあ、中途半端でも魔女だものね。当たり前か。さすがマリアの子!」

ドスッドスッドスッと手を踏んで踏んで踏みまくる。

「飽きた」

そういうと、次は細くも数の多い蔦を床から生やすと、その蔦で青川さんを拘束した。
青川さんがマリアさんにしたように。

「マリアのかぁいい子たちにしたようにする?あ、でもそれじゃあマリアが満足しないよね?じゃあどうしようかしら?」

___マリア。
私の知っている、聖母マリアと同じ名前。
けれど、このマリアは聖母なんかじゃなかった。
狂ったような言動をし、なに者よりも残虐だった。
聖母マリアとは確実に正反対。

青川さんの体が、淡い黄色の光に包まれる。
マリアさんは、それを黙って見ていた。

光がすうっと消えると、青川さんを拘束していた蔦は消えた。

「ほら、治してあげたわよ。貴女の体。大丈夫?背骨折ってごめんね?」
「ご、ごめんで済まないよ……ッ!」

ハッとして、口を手で隠す。
何やってるの私。マリアさんの矛先が私に向いたらどうなるか……___!

マリアさんは「へぇ」と驚いたように声をあげた。

「貴女、喋れるのね」

何コイツ。そりゃあ喋れるよ。人間だし。

フツフツとした怒りがわいてくる。
青川さんにしたこと、さっきの言動。全ての言動が私に怒りを与える。
怒りは増幅し、体の中だけではおさまらない。
怒りはぶつける場所を探し、そして見つけたのは目の前のマリアさん。
マリアさんは敵。それは認識していた。
けど、マリアさんは青川さんを殺そうとしていると認識した途端、怒りと恐怖と混乱が身を結び、爆発した。

私は叫び声をあげた。声、とは形容しがたい音が出た。
マリアさんは面白そうに笑った。
声とは言えない音と下品な笑い声が混じりあった。

21:匿名:2016/04/08(金) 20:24 ID:2kc

本当はこういったものは、読み終わってから書くべきだとは思いますが・・・ムクロ様のお言葉(>>15)に甘んじて頂き参上しました。

まずムクロ様の前作も拝読していました。それ故か、だからか、この本作は平凡な家に生まれた平凡な女の子が主人公として描かれ、美人だが恐ろしい噂があるクラスメイトと通じあっていく・・・というお話で前作とは全く違う物語で、ほのぼのと銘打っているのにも関わらず「これも闇の百合なのかな」と予感がソワソワとしています、早いでしょうか(笑)
今は修羅場ということでまだ先でしょうが・・・それにしても、失礼ながらこれはほのぼのでしょうか・・・急に不穏な感じになってしまって・・・密かに青川さんと主人公ちゃんの、爽やかできらめき青春を心待ちにしていたので・・・とても・・・辛いがそれもよいです・・・

また恐縮ですが、ヤンデレ小説をお書きになられておりましたか? あの時もそうでしたが、私はムクロ様の描く独特な空気や雰囲気が好きです。
その時のシーンが暗いか明るいかはどうであれ、その場にありそうな、だけどどこかふわふわとしている情景描写が好きです。
酷く曖昧とか大雑把と言うのではなく・・・ただふわふわとしているんです。
綿飴みたいなもので、すごく美味しいのにフワッとしてて色も可愛いのに、どこか儚くてすぐに飛んでいってしまいそうな・・・感じが・・・申し訳ございません、自分でも知しっちゃかめっちゃかなこと言ってること承知なのですが、そう言った感じです。

「希望の朝が来た」はそれも兼ねて、日常から非日常からの移動が起こりましたが、それのおかげかまたあの描写が濃くなりました。
ウーロン茶を飲むシーンとかそうでした。朝食を食べるシーンは鮮やかに描かれたリアルな現実そのものですが、今のファンタジックな世界は、ドスグロさはあるのですがどこか透明感がありました。

何度もファンタジック世界で「水滴」の語句を多用しているせいかともありますが、それでも、それにしたってどこか青川さんやマリアちゃんは、残酷と恐怖の印象を通り越してどこか消えてしまいそうな感じがします。
いや今そうじゃないのは理解しております、むしろ青川さんの退場が強いのですが・・・そう言った雰囲気の描写でした。

私も何処かで小説を書いているものですが、この感想文同様、一々キッチリと書かないと済まない性分故、こういった文は読んでいて楽しみを得ると同時に感服の意を覚えます!

そして最後ですが・・・僭越ではございますが、ムクロ様はコテハンの通り太ももが・・・太もも何ですよね・・・太ももでもニーハイソックスからはみ出した肉や、
小学生男子のまだ幼く細いが柔らかい太もも、
そして女子大生のひとり部屋のような香りがかすかにするそのまま耳かきしていたい、なんだか眠くなる太もも、
アブノーマルにワンポイントにタトゥーが飾られた淫靡な太ももなど
それは多岐に渡りますが、ムクロ様の思うベストな太ももとはなんですか?

改めましてムクロさまの作品、毎日楽しみに拝読しております! これからも頑張ってください! この場にて私の感想を述べさせる機会を頂いたこと、心から感謝いたします!

かなり感情的に書いてしまい、おかしな文が多々見受けられるかと思われますがご了承ください、長々と失礼いたしました!
素敵なものありがとうございます!

22:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/08(金) 22:15 ID:3uI

>>21
読んだ瞬間、本当に涙が出そうになりました。
長々としていて、こんなに具体的な感想を貰ったことなんて本当に無くて、これからも頑張ろうってなりました。
もう、なんとお返ししたらいいのか……とにかく感謝することしかできません。ありがとうございます!

そして、私の思うベストな太ももというのは、やはりムッチムチな太ももでしょうか。
けど、だからといって手入れがいき届いている太ももというわけではなくて、健康的かつ自然なムッチムチの太ももがいいのです。
ニーソからはみ出た太ももにそれはもう心が動かされて……。

と、こんな風に太ももを語ってしまう、コテハンがコテハンである私の小説を毎日楽しみに読まれているとのことですが、これからも読んでくださると嬉しいです!

そのどこかで書いているという小説の方、頑張って下さい!
ご感想ありがとうございました!

23:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/08(金) 22:57 ID:3uI

「ほらほらほら!もっと力を出しなさい、下劣な人間!その力をマリアは食べて、より強くなるのだから!」

叫べば叫ぶほど、力が抜けていく。
けど、叫びをやめることはできない。
自分で自分の行動を制御できない。コントロールできない。

これはマリアさんが魔法を使っているの……?
それとも、ただ私が壊れているだけ?

目の前が少しずつモザイクがかかったように歪んでくる。
まるで、視力が低下しているようだった。
ポトポトと手に生暖かいものが落ちる。

「キャハハハハハハハハッッ!そうそう!泣けば?叫べば?どんどん力が無くなっていくのが分かるでしょう?……ねぇ?聞こえてる〜?」

マリアさんの手が私に伸びてくる。
マリアさんの手は青く光っていて、ああ、あの手に触れられれば死ぬんだなと分かった。
死ぬのはいや。死ぬことなんてしたくない。死んだら、全て無駄になる!

___視界の端で何かが動いた。

「ハアアッ!!!!」

気合いを入れた力強い声は、間違えなく青川さんのものだった。
視界が明晰になり、視力が戻る。
さっきのは、涙だったのかとその時に分かった。
私の口から出ていた音が消えた。

ブオオッという音がして、マリアさんを包んだ。マリアさんの声とはいえない音が、私の音の代わりに聞こえる。

ドス黒い炎だった。
その炎はすぐに私のところにまでやって来て、蔦の檻は炎の檻へと変わった。

「……あ、青川さっ……」
「大丈夫よ、めぐみさん」

気づくと、私の体は檻の外に出ていて、青川さんの隣に座っていた。

「あ、あれ……?」

青川さんには、傷などなく、むしろいつもより元気という感じだった。

……そうだ。青川さん、マリアさんに傷とか治されてた。
あれ?でも、どうして治したんだろう……。

「本当、マリアはバカだわ。もっとわたしを痛めつけるために治したんだろうけれど、残念ながら……わたしにとっては最高なことに、自分自身を滅ぼすことになったわ」
「……マリアさんは、自業自得だよね」

さすがに援護することなどできない。

数メートル先では黒い炎が踊っていた。声は、音はもう無い。
形あるものを壊そうと破壊し続けるあの炎に、もし顔があるのなら、今きっと笑顔だと思う。それほど、炎は大きな動きをしていた。

「……さすがに疲れたわ。……めぐみさん、そろそろ戻りましょう」

青川さんが、私に手を差し出す。
私は、私の手よりも小さなその手を取って、頷いた。

「うん」

このまま二人で、炎と共に踊り出しそうなほど体は軽かった。
目の前で、重い荷物を全て下ろしたようにスッキリとした表情をしている青川さんも、きっと私と同じように体が軽いはず!

私達は一緒にジャンプをして、魔女が魔法を使えるようになるフィールドから飛び出した。
周りの景色は歪み、歪みが無くなると、あの人気のない廊下に出た。
すぐ横には水道がある。

「……っはぁ〜疲れたわ〜」

青川さんが、あまり使われていないであろう水道で水を飲み出した。
青川さんの綺麗に整った顎に水が伝う。
青川さんはとても元気。私も元気。
疲れているけど、気分は爽快。

ようやく現実に戻ってこれたのが分かった。

24:匿名:2016/04/08(金) 23:21 ID:2kc


>>22
いえいえ! 小説は娯楽なので、楽しく読ませて頂いた時点で恩恵を得ているようなものです! お返しだなんてとんでもない

私もこのような物語がまだ途中の時に、いきなり投稿するのはどうなのか・・・とやや恐れ多かったのでしたが、そのような言葉誠に幸甚に存じ上げます! ありがとうございます!

あああやはりニーソからはみ出る肉というモノは良いですよね!
あの部分は肉だ邪魔だとは言う方もおりますが、あの微妙な歪みにはロマンが詰まってます!
健康的・・・そうですね、バリバリ体育会系のガチガチのモノではなく、ちょっとプヨっとしたようなものでしょうか。
陸上部に入りたての女子のような、ムッチムチは鑑賞にも良し触っても良しですね・・・

重ね重ね有難うございます! 私も頑張ります!

25:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/09(土) 21:05 ID:3uI

___日常は変わった。

楽しくて、楽しくて、毎日が楽しい。
それはいつもと同じ。
けど、変わったのは常識。

この世界は私の知らないことで溢れてる。
その知らないことは、ファンタジーやオカルト要素がつまったものもある。
私は、その要素に満たされた日常を受け入れていた。
毎日毎日、色んな魔女に餌さとして狙われたりしているけど、青川さんが助けてくれる。魔女と戦う青川さんはかっこよかった。
魔女と戦って勝ったあと、私を先にフィールドから出して、魔女に何かしているみたい。青川さんは、お説教という名の処罰を下してるって、笑って教えてくれた。
きっと怖い処罰なんだろうなあ……と思う。

そんな、かっこよくて、ちょっぴり怖い青川さんだけど、彼女だって可愛いところもある。

例えば昨日。美奈と青川さんと私で隣町に遊びに行ったとき。
ゲームセンターで、ゾンビを銃で撃って倒すゲームで美奈と対戦していたんだけど、あまりゲームをやったことないからか、青川さんは簡単に負けてしまった。
そしたら、青川さんは半泣き状態になって、「もう一回するわよっ!」とコインを取り出していた。
いつもの青川さんと雰囲気が違うから、少し驚いたけど、可愛かった。
その時の青川さんは、いつも戦っている魔女ではなく、普通の年相応の女の子に見えた。

……そうそう!
あのマリアさんと戦った日から少し後に、私は驚きの真実を知った。
なんと、青川さんは五百年近く生きているらしい。
容姿は昔から変わらないんだとか。
羨ましい限りだ。

「青川さんって凄いよね」

そう言ったら、青川さんは照れ笑いを浮かべた。
頬と耳を朱に染めて、口角を上げて、眉を八の字にして、

「中途半端でも、魔女だから」

と言った。
中途半端の意味は分からなかったけど、私はそれから凄い凄いと褒めた。
だって、本当に凄いんだもん。

___そして今日も。

「餌を渡してくれるよねえ?」
「嫌よ。……ほら、脇があいてるわ」

ズバッと音がして、目の前の魔女に稲妻が巻き付く。
呆気に取られ、動けないでいる魔女の顎を蹴り上げて、床に倒した。

「ふう……めぐみさん、先に戻っててね」

青川さんが、私に手をかざすと、私はいつの間にかいつもの通学路にいた。
少しすると、青川さんが隣に姿を現す。

「お疲れ様、青川さん」
「貴女を守るためだもの。当たり前よ」
「ありがとう」
「こちらこそ、守らせてくれて、ありがとう」

一緒に歩き出して、美奈を迎えに行く。
青川さんのおかげで美奈よりも早く集合場所に来ることもできるようになって、今では美奈の家まで迎えに行っている。
もしかしたら、これが一番日常で変わったことかもしれない。

26:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/10(日) 17:12 ID:3uI

奥行きのある青空は大好き。だから、夏は本当に大好き。

ミンミンミンって蝉が鳴いて、ギラギラした太陽の光を体いっぱいに浴びて、そして陽炎揺らめく校庭で走る。
汗が飛んで、どこかへ消えた。蒸発したのかもしれないし、普通に地面に吸い込まれただけかもしれない。
暑さでだらけた風が、私の汗をどんどん後ろへ飛ばしていく。

「あと一周〜」

無理無理。本当に無理。

隣で平気な顔をして走ってる青川さんは、ジョキングを楽しんでいるようだった。

私は暑さと疲労から、言葉を発することを諦めた。青川さんと話すのを諦めた。
それに、口は忙しく酸素を求めてパクパクと忙しそうだ。話す余裕は、口にもないようだ。

「めぐみさん、ほら頑張って頑張って」
「………」
「あ、ああ、なるほどね。ごめんね、疲れてるのよね」

無言で頷く。

それから無言で、本当に無言で走って走って、やっと体育の授業は終わった。
さすがに疲れた。

けど、その疲れを感じていないように、私は授業が終わると、すぐ近くの水道に走って水を飲んだ。

少し生温く、けど喉が欲していたその水に、私は「フオオオオ」と叫びたくなった。
ごくり、と飲み込む。
ゆっくりと水のかたまりは私の喉を通り、胃袋へと落ちた。

後ろに人がたくさんいるのが分かり、早々と水をまた飲むと、私は水道を他の人に譲った。

下駄箱に行くと、青川さんがいた。
他に人は居ない。多分、水道に向かっているんだと思う。

「どう?元気になった?」

汗一つかいていない。

「うん、まあ。……ハハ。さすが青川さん。元気そうだね」
「まぁね。一応魔女だもの」

何が面白いのか、クスクスと笑う。

光が多い分、影も多く、そして濃くなる。
青川さんの顔には影が差していて、魔女っぽさが出ていた。
涼しげにも見える。

「さ、行きましょうよ。早めに授業が終わったとはいえ、さすがにそろそろ休み時間になるわよ?」

青川さんは靴を脱いで、下駄箱に入れた。そこから学校指定のシューズを取り出して、さっさと履いた。
私もそれと同じように靴を脱ぎ、シューズを履く。

二人並んで教室に向かう。
と言っても、青川さんとは違うクラスだから、途中で別れることになるけど。

階段を登っているときに気づく。
美奈を忘れていたことに。

「うわ、どうしよ……」
「どうしたの、めぐみさん」

突然立ち止まった私を不思議そうに見る。
私は半笑いで言った。

「美奈を忘れてたよ……」

すると、青川さんは考えこんだ。
どうしたのかな。何か考えることあったかな……。

「……私、美奈さんを授業が始まってから見てないわ」

どこか焦った表情。
どうしてそこまで焦るんだろう。

こんなに暑い日に、あんなに走ったんだから、もしかしたら美奈は体調を悪くして保健室に行ったかもしれない。
だから、授業中見ていなくても、しょうがないと思うけど……。
いや、でも美奈は運動部。こういうのには慣れっこのはず。
……でも、人間だもの。こういうことはあるはず……。

なんだか不安になってきた。
頭にちらつく魔女という字。

「もしかして、青川さんが考えているのって……」
「貴女と同じだったら、可能性はあるかもしれないわ」

後ろから、たくさんの女子生徒たちの声が聞こえてきた。
その子たちを見る。
青川さんは、「あぁ……」と声をもらした。

いつもより高く聞こえる、キンコンカンコンというチャイム鳴る。
グワァングワァンとエコーがかかったように聞こえる。
どこからか、笑い声が聞こえてくる。
その声がどんどん近づいてきて、ついには私の真後ろにやってきた。

女子生徒たちが私達を通りすぎ、各自教室へと去っていく。
その女子生徒たちは私達を見ていない。だから、今、私達がここから一瞬で姿を消しても分からないだろう。

「めぐみさん!」

青川さんが私の手を引き、階段から下りる。
たくさん教室から出ているはずの生徒は一人も居らず、ただ笑い声が聞こえていた。

その笑い声には、聞き覚えがあった。

27:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/10(日) 21:29 ID:3uI

鼻にかかった声が、笑っている。階段を降りて、上を見ると、踊り場に同じくらいの女の子立っていた。
制服はこの学校のものじゃない。
嫌でも覚えている、東中の制服を着た女の子は茶髪。
どこからどう見ても、あのとき死んだはずだったマリアさんだった。

青川さんが私を庇うように前に出た。
マリアさんは笑い声を止め、私をゾッとするような冷たい目で見てきた。

最初は、自分を殺した青川さんを見ているのかと思った。けど、明らかに私を見ている。
目線だけで人を殺せるのなら、私は一瞬で殺されている。凍死してる。

背中にヌメヌメとした何かが這ったように、鳥肌がたつ。
先ほどまで暑かったのが、いつの間にか寒くなっていた。

「何か御用かしら?」

青川さんの語尾が震えている。
青川さんも怖いのだ。そして、驚いている。
確かに目の前で燃えたはず。あの黒い炎によって、死んだはず。
けど、マリアさんは今、ここにいて、ちゃんと生きている。

幽霊?生き返った?……そんなのどうでもいい。
ただ一つ知りたいのは、マリアさんが私を殺そうとしているのか否かだ。
けど、どうやらそれも前者が正解のよう。

私の足に、違和感が生まれた。
見てみると、私の足をたくさんの黒い小さな手が掴んでいる。
その手は床からのびていて、他にもたくさんの手が出ている。
私の足は、もう黒かった。

「いやああああああああああッ!!!!」

離してあっち行って消えていなくなって私が何をしたのやめてよ死んでしまえ、………消えろ、消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろッ!!!!

掴まれている足を動かすけれど、手は離れない!
むしろ、手が私の足に染みている!
手が溶けて、私の足の中に入っている!

「めぐみさんッ!?」

気持ち悪い!気持ち悪い!
足が黒に染まる!焼き焦げたみたいに!

焼き焦げた……そう思ったとたん、足に焼けるような痛みが走った。
周りが焦げ臭い。

「焼け、焼ける!焼けるううううううううううッ!!!!」
「落ち着いてめぐみさん!今治すから、だから____」
「いやあああ!いや、いや、いやああああああああ!痛いよおおおお痛いんだよおおおおおおおおおお」

立っていられなくなって、床にドテッと座る。尻餅をつく。
すると、黒い手が私の腰、腹にも巻き付き、溶けて、染み込んでいく。
どんどん私の体が黒くなり、焼けるような痛みが___否、焼かれたときの痛みが体中に走る。
焦げ臭さも増していく!

青川さんが、私に魔法を使ってくれるけど、全然良くならない!
マリアさんはまた笑い出す。笑って笑って、

「ざまぁみなさいいぃ?この人間があ!人間のくせしてマリアに歯向かうからよおお?」

キャハハハハハハハハハハハハッ!!!!
息をするのを忘れたように笑い続ける。
私も同じように、息をするのを忘れたように泣き叫ぶ。

「貴女!何を__!?」
「ふぅっふぅっふぅっ!知りたいのう?知りたいのかしらあ?ッハハハハハハハハハハ!ええ、いいわ!教えてあげる!今とても気分がいいものおお!」

マリアさんがどこからかティーカップを出して、その中に入っているものを飲む。
それはもう優雅に。ムカつくほど優雅に!

「マリアはねえ、禁断の魔法だって使うことが出来るの。だから、不老不死にもなった。だから、生きている。そしてその禁断の魔法をたっくさん使って、リアルな幻覚をも作り出したの!」

マリアさんが両手を上にかざす。

「ああ、魔女マリアなる我が生み出し子らよ!さあ、元あるべき場所にお帰りなさいな!」

28:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/11(月) 15:22 ID:3uI

周りの景色が変わり、気づくと校庭に立っていた。
もちろん、フィールドの中の校庭だ。

今体はたくさんの細い針で体を貫かれたみたいに痛い。
……いや、ちょっと待って!
本当に細い針が、私の体に刺さってる!どんどん中に入ってくる!貫こうとしてる!

「ダメよ、めぐみさんッ!何も考えないでッ!この魔法は、考えたことが本当になるのッ!」

青川さんが私の抱き締める。

「いい?こう言って。わたしには火傷なんてない」
「……わ、私、には、や、けど、なんてない……っ」

体から黒が抜け、焼けるような痛みも引く。

「わたしには、針など刺さっていない」
「私には、針なん、て、刺さって、ない……!」

針が消える。
フッと全ての痛みが消える。
すると、私の体から煙のようなものが出ていった。

マリアさんの魔法が、解かれたのだ。

マリアさんを見ると、つまらなそうな顔をしていた。

「……いつまで抱き合ってるのよ」

不機嫌なのかつまらないのか、分からなくなってきた。

私の体から青川さんの温もりが離れる。
私は立ち上がると、気配がする後ろを見た。
後ろには、10人ほどの女の子たちがいた。

その子たちは不安げにマリアさんを見ていて、そのうちの一人が、マリアさんに問う。

「マリア、私たちはなぜここに?」

眉を下げて恐る恐る聞く彼女は、借りてきた猫のようだった。

「もちろん、貴女たちをこのマリアが呼び出したのよ。……ふふっ。そろそろ戻ってもらわなきゃねぇ……?」

ざわざわっと騒ぎだす。
戻る、とは意味が分からない。
青川さんを見ると、青川さんは顔を真っ青にして、私の手を握ってきた。

突如、一人の女の子が悲鳴をあげる。

「あ、あ、あたしの、あたしの体があああっ!」

その女の子の体は透けていて、もうすぐ消えようとしていた。
周りの女の子たちの体も徐々に透けていく。そして、消えていった。
聞いていて悲しくなる、最後の悲鳴をあげて消えていった。

……それは、青川さんも同じだった。

手を繋ぐ青川さんの体は少しずつ消えていった。
青川さんは叫ぼうとせず、どれだけ顔が真っ青でも、どうどうとしていた。

「あら?……貴方は泣かないのね?」
「姉妹の頂点にたつ者として、当然でしょう?」
「……そうね。貴女はマリアが初めて生み出した子だもの。当然だわ」

___生み出した子。

私は驚愕せざる終えなかった。

「生み出したって、どういうことっ!?」

マリアさんが、また冷たい目で私を見る。

「あら、何も教えてもらえなかったの?この子はマリアの魔力で生み出した、中途半端な魔女たちの長女なのよ」

だから、他の魔女よりも強かったの?

青川さんを見ると、もう消える寸前だった。
青川さんは、「知られたくなかった」と呟き、そして、私が知る限りでは初めて涙を流した。

その涙も、地面に落ちる前に消えた。
私はその涙を拭うこともできず、ただ彼女が消えるのを見ていた。
繋いでいた手からはもう、温もりを感じない。

「めぐみさん、全てを話せなくてごめんなさい。私、私は……___」

最後に青川さんが私を抱き締めてくれるけど、青川さんの手は私の体を通り抜けていた。形だけの抱き締めに、私も涙が出てくる。

「わたしは、貴女に___」
「言わせないわよお?さあ、マリアのもとに戻りなさいッ!」

マリアさんが煙をかき消すように手を振る。

「……い、いやあああ!消えたくない!消えたくないのおお!お願いめぐみさん、わたしを助けっ___」

青川さんは消えた。

青川さんと繋いでいた手を、青川さんがいた空間に手を伸ばしたけれど、手は空を切った。


まるでそこに居なかったように。
まるでそこに存在していなかったように。
まるで青川さんなんて『人間』は存在していないと言ってるように。

29:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/11(月) 16:16 ID:3uI

マリアさんがふふっと笑った。
その笑い声が大きくなり、とうとう下品な笑い声になった。

「ッヒャアッハハハハハハハアアアアアアアッ!!!!面白いわねえ、面白いわあ!!!!貴女のその顔おお!!!!その顔よ、その顔おおおッ!!!!ざまあないわねぇ、ざまぁみなさいよねえええええッ!!!!」

マリアさんがくるくるとその場で回ると、その隣に、青川さんが授業中見ていなかった美奈が現れた。

けど、私は青川さんが消えたショックから立ち直ることができずにいて、そのことに素直に喜べなかった。
もしかしたら、美奈がここに現れなければ、青川さんは、せめて青川さんだけは消えなかったんじゃないかって思ってしまう。

「ふふふふうっ!さあ美奈。貴女は私の餌となるのよお?貴女のその悲しい悲しい体を食べさせなさい?この子の前でねえ!」

美奈は地面に倒れた。
学校指定の白いジャージが茶色に汚れる。

その美奈に、マリアさんが突然出した杖を突き刺す。
体の、ちょうど心臓がある辺りに、なんの躊躇もなしにブツリと突き刺す。
真っ赤な液体が盛り上がり、盛り上がり、そして形を崩し、周りに広がった。

「う、あ……え?」

汚れた白いジャージは、赤黒くなり、異臭が漂い始めた。
その異臭が鼻をつき、ツンとなると、涙がポロポロとまた出てきた。

青川さんが消える前に泣いたときにできた、涙の後はもう乾いていた。そこにまた涙が流れるものだから、頬が痒くなった。

「み、美奈ぁ……」

杖でぐちゃぐちゃとかきまわす。
杖を引き抜くと、杖の先端には、理科の時間に見た心臓が刺さっていた。

「あーら美味しそう!思っていたよりも悲しい感情が詰まっているわね〜」

心臓を手でつかんで、それをリンゴをかじるみたいにかじる。
果汁の代わりに血が出て、本当に果実を食べているように笑顔のマリアさんの顔は血で染まっている。

二口だけ食べると、残りを地面に捨てた。
心臓は美奈の横にベチョっと落ちた。

マリアさんは魔法でも使ったのか、その顔にもう血で染まってなく、笑顔だった。

「ああ、ああ!いいわ、これよこれ!あの子たちには幸福な者は美味しいって言ったけど、やっぱり不幸な者が一番美味しいわね!……ふふ。貴女も今とても美味しそうねぇ?」

杖を消し、私を見る。

「さあ、貴女にはたぁっくさん教えてあげなきゃね?そうじゃないと、貴女はもっと美味しくならないもの」

私を蔦で拘束し、動くのを防ぐ。
もう、動く気なんてないのに……。

涙が地面に消える。
美奈を見る。美奈は動かない。最後の最後の瞬間も、何も言葉を発せず、動かなかった。
せめて、最後に声だけでも聞きたかったのに……。

友達二人を一気に失って、私は生きる気力でも無くしたのか、マリアさんの魔法に抵抗しなかった。

「マリアはね、暇だったから、このたくさんの魔力で同じ魔女を作ろうとしたのよ。でも、同じ魔女は作れなかった。できたのは中途半端な魔女。そのとき、最初に生まれたのが、あの子。青川えりと名乗っていたようだけど、本当の名前はエリーって言うのよ。マリアの大事な大事な子の一人」

それを……ッ!

マリアさんの魔法で、蔦は長く伸び、私は宙にさらされた。

「貴女はたぶらかし、エリーに魔法を使わせた!マリアを殺す魔法を使わせた!あの子は知らない、みんな知らない。マリアが不老不死だと言うことを。だから良かったけど、もしマリアが不老不死じゃなかったら……そう考えるとゾッとするわ!」

蔦が私を締め付ける力が強くなった。

「エリーをたぶらかした貴女は死ぬのよ!マリアの手によって!」

私の周りで黒い火が踊った。

30:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/11(月) 22:34 ID:3uI

……これは、嫉妬?

燃える炎を見ながら、私は考えた。

マリアさんの魔力で生まれた青川さんは、不老不死のマリアさんからしたら、苦しみを分かち合える大事な人だったはず。
それ以前に、大事な子供だったはず。
その子供が、自分を殺そうとした。
どれだけ憎まれようが、良かったのかもしれない。その目が自分を捉えてくれるのなら、自分に興味を向けてくれるのなら。
けど、私のせいでそうではなくなった。
マリアさんは悲しかったはず。
自惚れじゃないけど、青川さんは私にくっついていた。私も青川さんにくっついていた。___依存していた。
悲しみは嫉妬へと変わり、その矛先は私に向いた。

マリアさんは、不老不死の魔女。
けれど、中身はどうだろう。
どれだけ強くても、どれだけ長く生きていても、結局はまだ子供なんだ。
見た目と同じ、子供。
感情を上手く伝えられない、不器用な子なのかも。

私は自然と、同情の目をマリアさんに向けていた。
マリアさんは当然それに気付き、怒った。

「何よ、その目は。マリアをそんな目で見るなんてね。……よほど死にたいと見えるわ」

声が低くなる。
けれど、それも一瞬のことで、すぐキヒヒと笑った。

「そんな貴女はここで死ぬ。さあ、泣きなさい!泣いてマリアの靴をお嘗めになったら許さなくもないわ。……あっ、無理かあ。宙ぶらりんなんだものね!!……さあ、愚かな人間に魔女の裁きをッ!!」

ビュウッと音がして、私の胸に槍が刺さる。
肉と肉の間を縫って、私をこの世から引き裂こうとする。
口から血が出た。

最初、冷たいものが体の中に入ったと思った。痛みも最初は無かった。
けど、少ししたら体が熱くなり痛みが爆発した。
痛みは私の体を支配した!

「ひぃ……ぐうっ……」
「あらあらまあ。まるで豚ね。……いい?これはエリーをたぶらかした罰」

次は左の脇腹に槍がささる。
蔦を貫き、私の体に突き刺さる。

血がどんどん私から逃げていく。
頭がぼうっとしてきて、貧血状態なのかと疑った。

「これはマリアに反抗した罰」

次は右の脇腹。
私はあまりにも酷い痛みと大量出血から気絶した。

もう死ぬ……死んじゃう……。

お腹の中で、たくさんの針ネズミが暴れてるみたいだった。針ネズミのトゲが私の肉に刺さり、それを抜こうと針ネズミが躍起になり、また痛みが走る。
絶えることのない痛み。
ただ、走馬灯は見えなかったから、まだ死ぬわけじゃないんだと思う。

私は気絶をして、暗闇に置いて行かれた。
目を覚ましたとき、どうか自分の部屋のベッドの上にいますように……。

31:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/11(月) 23:02 ID:3uI

___マリアは魔女。
この世界で唯一の本物の魔女。
悪魔と契約し、大量の魔力を手に入れた、不老不死の魔女。


マリアは魔女となる前はただの人間だった。
無力なただの人間。愚かな人間。大嫌いな人間。同情しかできない人間。
つまらないことで争いを起こす人間には飽きていた。
幼かったマリアでも許せるようなことを許せないという人間は、争い、仲間を自ら死なせては、それを悪魔のせいにした。


おお神よ、そう言っておけばもう安心。神様が助けてくれる。
……神様も可哀想にね。
マリアは同情し、鼻で笑った。


両親が死んだ。そしたら、マリアが神様にしたように、周りの人間たちは同情してきた。
ムカついた。誰が両親をここまでおいやった?誰が両親をここまで痛めつけた?お前ら、人間だ。生き物と呼びたくない人間め。今ここで、死になさい。


マリアは悪魔に会った。強い悪魔。その悪魔と契約して、マリアは魔女となり、同情してきた人間を罰した。
罪を重ねた人間よ、さあお逝き。
人間たちは泣いていた。ざまあみなさいって思った。


禁断の魔法で不老不死となったマリアは暇だった。呆れるほど暇だった。
フィールドという結界の中で過ごしていたマリアは、久しぶりに外に出て、そして孤独を味わった。
世界は変わっていて、王族が着るようなドレスを人間たちが着てた。民族衣装を着ているマリアは、独りぼっちだった。
暇と孤独。それに耐えかねたマリアは仲間を作った。同じ魔女を作った。
けど失敗。たくさん魔力を籠めたのに、中途半端な魔女ができた。
名前が無いのは可哀想だからエリーと名付けた。
エリーが自立するまで約1年かかった。


「貴女たち姉妹は、フィールドで出会ったら、戦いなさい。そして、勝った方が負けた方の心臓を食べなさい。一口だけでもいいわ」


「貴女たち、マリアを殺そうとでも?……マリアは母親なのよ?無理よ」


「……言ったじゃない、無理って。……ほら、マリアの中に戻りなさいな」


たくさんの時間は、マリアを苦痛の日々へと落とした。
皆マリアを殺そうとする。なら、マリアが貴女たちを食べて、マリアの中に戻してあげる。ねえ?苦しまないから安心してね?


……ねぇ、エリー。どうしたのかしら?
貴女、前とはずいぶん雰囲気が違うわね。どうしてかしら?
……その子?……その子が原因?
……ねぇ、マリアのこと覚えてる?どうしてそんなに嫌うの?


「青川さんっているでしょう?あの子、魔女なのよ」

貴女の居場所はマリアたちの家でしょう?……ううん、もう「たち」ではないけれど、貴女が生まれた家に戻りましょう?
貴女は中途半端でも魔女なの。
ここは居場所じゃない。貴女には合わない。

ねぇ、貴女もマリアを殺そうとするの?最初に言った言葉はマリア。愛してると言ってくれたでしょう?そのマリアを殺すの?


__マリアは貴女の母親なのに__?


貴女が罪悪感を感じないよう、悪者を演じるのがとても辛かった。
ねえ、今貴女はマリアの中にいる。
この気持ちは届いてるかしら?

「……よほど死にたいと見えるわ」

同情から全ては始まった。
だから、最後は同情で終わらせてあげる。

32:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/15(金) 19:55 ID:3uI

なんだったんだろう、さっきのは。

目を開けて、空を見上げる。
今の私は宙ぶらりん。蔦で宙に吊るされていて、その蔦は心臓のように波打っていた。

___マリアさんは。

私はマリアさんを見て、そして、さっきのことを思い出した。
私は気絶した。けれど、夢を見ていた。気絶とは言えないかもしれないけれど、夢を見ていた。
誰か別の人の夢。その夢は長くて、一人の人生だった。

その夢は、マリアさんの今までの人生だった。
悲しかったり、楽しかったり、たくさんの出来事があった人生。
けれど、それは時がたつにつれ、酷く悲しい、独りぼっちな人生になっていった。
ただの夢とは思えない。

私は、開けた目を伏せた。

「……そんなに、青川さんが好きなら、どうして飲み込んじゃったの……?」

マリアさんが飛んできて、私の前にやって来る。
気絶する前に持っていた杖は、もう無かった。

「魔力を蓄えるためよ。じゃないと、貴女を苦しめられないもの」

クスクスクスと笑って、私から少し離れた。
私の周りに水のかたまりが現れて、その水が私の体にできた傷口に入り込む。

「……ッい!?」

傷口にしみて痛い。
ぜんぜん治まることのないその痛みは、どんどん私の体に侵食していった。

その水は私の体の中で暴れまわり、私がうめくたび、マリアさんは笑った。
魔女。彼女はどこまでも魔女だった。
だからこそ、私は彼女を憎めなくなっていた。

彼女は……魔女は、独りぼっち。
やっとできた仲間に罪悪感を感じさせないように、悪役を演じる。魔女を演じる。
まだ彼女の半分も生きられていなくて、いつも幸せを感じていた私では、どれだけ辛いのか分からない。

マリアさんは笑って笑って、また笑う。
辛くない?大丈夫?泣いてもいいんだよ?
そう言いたくても言えない。
私が言ったところで無駄。むしろ逆効果。

胸が苦しくなって、喉に異物感があらわれる。鼻も次第にツンとしてきて、目の前が霞みだした。

彼女に、助けが現れれば……。

けど、その助けとなれるであろう人は、もう彼女の中にいる。
きっと、自我はもうない。

「……知ったような顔をしているわねえ?……まあいいわ。さっさと貴女を食べて、マリアはもっと強くなるの!そうしたら、毎日を楽しい気分でいられるわ!」

周りにまた水のかたまりが出てくる。
けど、さっきのよりも圧倒的に多い!
水は私をまるごと飲み込んだ。
息ができない。それ以上に、骨がミシミシ言う!

関節が、インフルエンザのとき以上に痛くなる。古い木を揺らすようにミシミシいって、今にも折れそうだということが分かる。
肺が押し潰されているのも分かる。
誰かが上に乗ってるとか、そんなレベルじゃない。
そう、これは全部水圧のせい……水圧で、私は死のうとしている!
もう息も限界、体も限界。

「ふっふっふっ……ふっ、ふ……ひゃ、ひゃはははははははは!カエルのように哀れな姿となり、死になさいなぁ!」

水の中だと言うのに、声がよく聞こえる。
目の前が真っ暗。手足の感覚がない。息をしているかしていなかさえも分からない。何も分からない。

……あ、耳も聞こえなくなっちゃった。

33:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/15(金) 20:25 ID:3uI

……あららぁ?

マリアは目の前で潰されて小さくなっためぐみを見て鼻で笑った。
人とは思えない醜い姿で、水の中に漂う。蔦を消えさせれば、体はプカリと水の上に浮いた。

私はその蔦に絡めたあの子の気持ちから生まれたエネルギーをぱくりと口に入れる。
深い海の底のような群青色の光は、とても甘くて蕩けてしまいそう。
綿あめみたいにふわふわ。けど、どこか水っぽくて、果汁のような甘さが口の中に広がる。
水水しい、負の感情。
この世のものとは思えないこの美味しさ!中途半端な魔女には得られないもの!

全てを終わらせたことによって込み上げてくるこの気持ちは達成感。
消したい相手を消せた。復讐を果たした。
体があつくなって、頬が紅潮する。体が震えて、その震えを抑えようと自分で自分の体を抱き締める。
うずくまっているような形で宙に浮かんでいるマリアは、今までにないくらいの笑い声をあげた。

「ひゃははははははははきゃはははははははははああああ!ざまあ、ざまあ、ざ、ざ、ざまあみな、みな、みなさいよおおおお!ぎゃはははははは!きひ、きひひひひ、ふふふ、うふふふ、ひはははははははは!ひゃは、ひゃははははあああ!あのねえ、あのねえ、人間があ、魔女にぃ、マリアにぃ……ふふ、勝てるわけぇないじゃないの、の、の、の……あはっ!あっはっ!あはははっ!」

目の前がぐるぐるして、気持ち悪いはずなのに気分は爽快!

さあさあ、次は何をしようかしら!
そうね、あの子の死体をフィールドの外に置いてきてあげましょう!教室のド真ん中にぃ!
その隣には、あの子の友達の美奈も置いてあげるぅ!
マリアって、すっごい優しい!優しい優しいね!
死んでも友達と一緒なんて、なんて幸せなのかしら?
……でも、死んでるから幸せかなんて感じられないかあ?

「ひふふ、ふふふふふふうう……あんらあら、珍しいお客さんね……?」

人外の、けれどマリアとはまた別のキラキラした気配がして、顔を上げれば、いつの間にか天使がいた。
背よりも長い金色の波打つ髪と丈の長い白い服、そして金色のその髪よりも眩しい銀色の翼を広げる天使は、何も知らない人間共が見たら、天使ではなく『神』と思うような容姿を持っていた。
けどこれは仮の姿。
本当の天使の姿はとても醜い。悪魔の方はとても綺麗なのに、こいつらときたら本当の姿はとても醜い。

「魂の回収かしらぁ?」

マリアが聞くと、天使は「そうです」と頷いた。

「貴女の結界内で生きとし生けるものを死に至らせるのは止めてもらえませんか?迷惑なのです。こちらも死んだことを感知しにくいので」

何一つ変わらない顔で言う。
その顔とは対称的に、マリアはフンッと笑った。

「いいじゃないの。マリアは、天界とは逆の場所にいる者。それが、どうして天界の天使のために動かなきゃいけないのかしら?」

天使は相変わらず顔を変えない。
こいつらはいつもそう。そもそも、どの個体も同じ顔、同じ声、同じ背丈……とにかく全て同じ。
神に作られた、完璧な存在。さすがにその存在ですらこのマリアをたしなめることは出来なさそうだ。
まあ、マリアはこいつらとは逆の場所にいるのだから、当然よね。
……じゃあ、完璧とは言えないんじゃないかしら?……どうでもいいけれど。

「そうですか。それはとても残念です。では、この方たちをお導きさせていただきますので」

異論はありませんね?

マリアは笑って、天使を攻撃した。

34:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/15(金) 21:02 ID:3uI

天使は攻撃を避けることもなく、光のバリアを張って、攻撃から身を守った。

「わあぁおぅ。さすが天使ねぇ」
「邪魔しないでください。わたくしめは、魂をお導きしにきただけなのですが」
「魂奪われちゃったら、遊べないじゃないの。バカね」
「バカは貴女の方ですよ、魔女マリア・エルリア。神の名をお持ちの貴女が、何をしているのです。貴女もそろそろ天界へ導かれる頃でしょうに」

銀の翼を動かして、マリアに近寄る天使。
その手は光っていて、マリアの魂を抜き取るつもりだと分かる。
マリアは不老不死だから、こんなことしても無駄なのに。
天使がそれを知らないはずはないし……。

「貴女は不老不死という、禁じられた術で生きている。けれど、わたくしめは、その術を消すことができますよ」
「あ〜ら、そお?どうでもいいわ」
「悪魔と契約するべきではなかったのです。魔女にならなければ、貴女はすぐ天に導かれたのに。さあ、天に行きましょう」

マリアに手をさしのべる。その手をペチンと叩いて落とした。

「やはり、魔女なのですね」

天使は顔色変えず、マリアを見た。

クスクスクス……笑って、マリアはまた攻撃した。もちろん、その攻撃はバリアによって、天使に届かないけれど、楽しければいいの。

「魔女マリア・エルリア。貴女の家系を思い出すべきです」

マリアの家系……?

おっかしい!もの凄く可笑しい!
腹を抱えて笑ってあげるわ!なにその冗談!

「マリアに家系なんていないわぁ。だって、唯一の魔女だもの!」

親はいた。けど、その親は実家に縁を切られていた。勘当されていた。
だから、マリアの家に『家系』なんて全然ない!

「貴女は神に仕える者たちの家系を持つ。その家系のもとに生まれた貴女が、何をしているのです。さあ、天界へ」
「嫌よ!そんなの嫌よ、嫌!マリアはねぇ?天界なんてだいっきらい!貴女こそ、天界へ帰りなさいな、この醜い天使が!」

めぐみと美奈の体をマリアの近くに移動させる。
その体から2つ、光るものを取り出す。
感情から生まれるエネルギーとはまた違った色を放つ光に、天使は手を伸ばす。
その手をマリアは切った。
けどすぐ再生する。その前に、マリアは魂を手に取った。

「これが欲しい?」

天使の姿が歪んだ。
美しい姿から離れ、醜い姿になる。
金色の毛並み、銀色の翼、剥き出しの歯に充血した目、骨格が可笑しい体。
首が異様に太くて、目がギラギラ光ってる。

「ええ、渡してもらいますよ」
「へぇ……」

魔法で、新たな人型の体を作る。魂の入っていない、空っぽの体。
マリアは魂をその体に入れた。
それは、一瞬の出来事。

天使が声にならない音を出した。

「この愚か者めが!神に逆らうなど、言語道断!行き場を無くした魂は我ら天より使わされしものが__」

魂の入った2つの体が動く。
背中からは真っ黒なコウモリの翼が生える。
彼女たちは生き返った。新たな体、新たな寿命、新たな術によって!

「さあ、めぐみ、美奈。なんでも願いを叶えてあげる代わりに、あいつを倒しなさいな」

不安に揺れる瞳。その瞳が細められると、彼女たちは動き出した。
音のような速さで!

35:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/17(日) 00:56 ID:3uI

めぐみは天使に蹴りを喰らわせた。
天使の張った光のバリアは、正反対の性質を持つ悪魔となっためぐみの蹴りによって壊され、そのまま蹴りが天使に決まった。
そしたら次は美奈が天使の翼をもぎとった。一緒に肉や血管も取れちゃって、もう大変!
マリアは笑いを堪えるのに精一杯だった。

天使は形容しがたい奇声を発していて、もはや化け物。より醜くなった姿は、もう天使とは呼べなくなっていた。

マリアは天使の目の前に飛んで行った。
天使は鬼のようにとマリアを睨んだ。
眉間と思われる場所には、たくさんの筋が入っていて、口からは血が出ている。
鼻息も荒く、肩で息をしているようだった。

「なんということをしたのだ、愚かな魔女よ!死に至った人間を、しかも悪魔として復活させるなど、天界と地上の理を乱させるつもりか!!」

あら、まだまだ元気そう?

マリアは天使の背中に空いた__翼があった場所に空いた傷に、火の粉をたくさん入れてみた。
そしたら、天使の姿が、どんどん小さくなっていく。天使がこの世から消えようとしているのだ。
つまり、死ぬということ。
でも、天使は生きている者たち__人間や動植物、魔女、妖怪など__とは違い天界には行けない。
生きている者たちは、いくら悪いことをしても天界には行ける。だが、天使は悪い良いなど関係無しに、みんな無に帰る。

つまり、コイツは寂しく無になる!
おい、とても煩わしい天使!どう?負けた気分は?
愚か者はどっちだ天使!
さあ、消え失せろ!

上がる口角。唇と唇の隙間から、ぐふふと笑い声が零れる。

「必ず、神の天罰が下るだろう……!!」
「あ〜ら、そう?神なんて、いないも同然だわ」

天使がどんどん小さくなる。

「なんということを……!! ……いいか、覚えておけ、魔女マリア・エルリアよ。お前は魔女であるばかりに、大切なものを失うであろう。そして絶望するのだ……ざまあみ___」
「口だけは達者ねぇ。防御力だけ高くて、攻撃力、体力は全然ない。さすが天使ねえ?」

天使の顔が分からなくなるほど小さくなる。
きっと、憎しみに顔を歪ませているはず。そのことを考えると、優越感がマリアの心に染み渡った。

そして___天使はついに消える……と言うとき、膨大なエネルギーを発した。
金色の光が辺りを攻撃し、フィールド内に多くの傷跡を残す。
学校は壊れ、校庭に巨大な穴は開き……。

マリアはめぐみと美奈を抱えてフィールドから出た。
フィールドの外はもう夕方だった。
夕方……というよりは、夏だからもちろん空は青い。
けど、空は青でも、昼の青とはまた違った青で、すぐ夕方と呼ばれる時間だと分かった。

吹く風は生暖かく、容赦なく照りつける太陽はマリアの体から水分を取ろうとしていた。

「……あ、れ。私は……」

めぐみが自分に生えたコウモリの翼とマリアを交互に見た。
目玉は翼、マリア、翼、マリアと動いていて忙しそう。
美奈はただ呆然と立ったまま。

さあ、どうしてくれようかな。

36:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/17(日) 01:21 ID:3uI

「なんで、私、生きて……」

手を見つめて、めぐみはそう呟いた。
その手は震えていて、生きていることへの喜びと、無知からくる不安が混じっているのだ、と勝手にマリアは推測した。

マリアは適当にその辺に浮きながら、教えてあげた。そして、どうして貴女たちを生き返らせたかも、全部。

「貴女たちは、この魔女マリアが生み出した小悪魔よ。悪魔の中でもレベルの低い悪魔ね。マリアの使い魔となってもらうわよ」
「あ、悪魔ぁ……!?」
「そうよ、悪魔よ。人間の貴女たちには死んでもらう必要があったから、一度殺したわ。もちろん、めぐみには私事で死んでもらいたかったのだけれど」

魔法でティーカップを出す。中身は冷たいミルクティー。
それをゴクリと飲み込んで、息を吐く。
やっぱり飲み物は甘い方が美味しい。
頭をすっきりさせ、マリアは美奈を見た。

「貴女の方がより混乱しているでしょうね。教えてあげるから、揚げ足はとらないでね?」
「う、え、はい!」

怯えながら返事をする。
畏敬……ってことにしておこう。

「貴女たちは使い魔として、マリアの奴隷となってもらう。貴女たちはマリアに少しずつ負のエネルギーを与えながら、マリアの子たちのために色々してもらうわよ」
「子たち……?」
「ええ、そうよ。またマリアは魔力でエリーたちを作るわ。貴女たちがマリアにエネルギーを与えてくれれば、あの子たちが自立するのに三ヶ月程度かしら?……まあ、食料と似たようなものになりなさいってこと。死にはしないけれどね」

またミルクティーを一口飲む。
甘さが喉に広まり、暑さで乾いていた喉も潤いを取り戻す。
口に残ったミルクティーの匂いは鼻に届き、鼻孔をくすぐった。

「何それ……自分勝手に消しといて、また生み出すなんて……!!」

めぐみが怒りだすけどどうでもいい。どうせ、あの子はマリアに逆らえない。
認めたくないけれど、めぐみの友達である青川えり___エリーの命はこちらが預かっているのだから。
エリーが生き返るかはマリア次第なのだから。

「人間は、使えないからね。だから悪魔にしたのよ。貴女たちのエネルギーは特に美味しかったから、生き返らせたのよ。感謝しなさい。……あ、あとめんどくさい天使を倒すためにも生き返らせたけれど」

紅茶を飲み終えて、ティーカップを消した。
めぐみはマリアに牙を向いている。が、そんなの気にしない。

「そういうことだから、よろしくね」
「よろしくねじゃない!何よそれ!最低最悪じゃん!美奈、行こ?こんな魔女ほっとこうよ!!」

めぐみが美奈の手を引く。

「え、でも、これ夢でしょ___」
「夢じゃないわ。それに、貴女は死んでいるじゃないの」

美奈がその時のことを思い出したのか、ぶるりと震えた。
やっぱり、あのとき意識はあったのかしら?

「青川さんを勝手に飲み込んだくせに……ッ!!」

めぐみが声を荒く上げた。

「あのとき、マリアは貴女をより苦しめるために、復讐するためにあの子たちを飲み込んだのよ。復讐は終わった。だから新たに生み出すの。どこがダメなの?」
「全部よ、全部ッ!!」

マリアには理解できない。
魔女だからか、それとも___

37:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/18(月) 20:25 ID:3uI

めぐみが美奈の腕を掴んだ。
その形相は般若のようだった。

「もう行こ、美奈!説明は私がするから!」

慣れたように翼を動かし、まだ上手く飛べていない美奈を引っ張ってどこかへ行ってしまった。
外の世界で飛んでるところを見られたら、大変なのに、どうしようっていうのかしら?
マリアは少し遠い目になりながらも、またフィールド内に戻って行った。

フィールド内にはマリア以外に誰もいない。
もう、あの子たちを飲み込んでしまったのだから、しょうがないこと。
でも少し寂しくて、さっさと準備に取りかかる。
準備といっても特に道具もなく、ただ魔力を高めればいいだけなんだけれど……。

ある程度魔力が高まってきたら、それを目の前に放出し、それを人型にする。
そして、それを望む通りの容姿にして、どんな子になるのかを想像する。
これが少しでもぶれたら想像通りにならないし、中途半端な子になってしまうので、とにかく集中集中……___。

パンッと、風船が割れるような音がした。それは完成したことを意味する。
飲み込んだのをまた放出した程度だし、自我を持って喋り出すのにそう時間も掛からないだろう。

マリアはその子の髪を撫でた。
見た目はあのときのまま。少し違うのは制服ではなく、地味なドレスを着ている程度かしら?

目を薄く開け、ボッーとしているその子に、マリアは名前を授けた。
今度こそ、この子には___この子たちには、悪いことはさせない。

「貴女はエリー。マリアと同じ魔女よ」

目の前の……エリーは反応しないけれど、最初はこんなもの。
……さあ、次の子に取りかかりましょうか。
何十人もいるから、少し疲れそうだわ。


新たに生命を生み出すという術を一旦止めた。
そして、マリアはあのときのことを、ふと思い出した。
初めてエリーが喋った日のことを。

「マ、リア……?」

自分の声以外の他の声を聞くのは久しぶりで、最初声とは認識出来なかった。物音かと思った。きっと、エリーが何かを落としでもしたんだろう……。

けど、違った。今度はちゃんと声として認識出来て、発した単語も理解できた。

「……マリア……っ?」

エリーが初めて喋った。最初に言った言葉は、名前はマリア。
大事な子。マリアの、大事な大事な仲間であり、我が子。
ずっと一緒にいた大事なエリー。
そのエリーが、他の魔女__自分の姉妹___と戦うようになってから、マリアを憎むようになっているのは分かっていた。
けど、それでも自分を見てくれているから良かった。

……なのに___!!

あの飛んで行っためぐみは!!あの子をそそのかして、とうとうエリーにマリアを殺させようとした!!

生き返らせた?……ええ、そう。憎んでいためぐみを生き返らせたのは、客観的に見て可笑しいと思うわよね、普通。
けど、復讐はまだまだ始まったばかり。復讐の序章となる部分が終わっただけに過ぎない。

あの子は翼の生えた異形な姿になり、あの子の友人もその姿となった。二人で傷を舐め合い、依存し合いなさい。
そしたら、美奈を殺して、もっと絶望を味あわせるの!!
依存していた相手が目の前で無惨に殺されるのは辛いわよねぇ……残酷よねぇ……ふふ。
もちろん、そのあとは酷い扱いをしてやるわ。酷使して酷使してやる。
なんて言ったって、マリアの使い魔なんだものッ!!

「ふふっ、ふふふ……今のうちに舐め合い、依存し合い、楽しんで生きていなさい……すぐ死にたいと思いたくなるから……楽しみにしてなさい、めぐみ?」

38:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/18(月) 20:52 ID:3uI

どうしよう……とにかく上昇しないと……!!

美奈の手を掴んで雲の上までくる。
さすがにもう、この雲の下には行きたくない。まさか、あんなに目立つなんて思いもしなくて……。

私はさっきのたくさんのフラッシュを思い出してぶるりと身震いした。

とりあえず、美奈にはある程度のことは話した。
青川さん、マリア(もうさん付けしたくない)、他の魔女たちのこと__。
美奈は上手く理解できてしないっぽいけどしょうがないよね。私だって、こんなこと唐突に言われたら……うん、無理かな。

私は美奈の腕から手を離した。美奈はようやく上手く飛べるようになり、一人で周りを飛び始めた。
空を飛ぶ__それは、普通の人間ならできないことだ。
けど、今の私達はそれができる。
美奈は海を泳ぐイルカのように、それはもう綺麗に飛んだ。時おり宙返りをしてはキャッキャッとはしゃいでいる。

一通り飛び終わると、美奈は今にも泣き出しそうな顔になった。

「頭がすっきりして、ようやく分かった」

そう言って、私の頭をポンポンと叩いた。

「あたし……やっぱり死んだんだね……?」

語尾を上げてはいるけれど、それは確信を持って言っているのだとすぐに分かった。
私は「私もだよ」と言った。
二人して顔を見合わせ、泣き出しそうな顔で無理をして笑った。

「マリアは、きっと私達を追ってくる。けど、今の私達ならあいつを倒せる。……だって、一回死んだ悪魔だもん!」

コウモリみたいな翼は、悪魔の翼みたいだった。

……そうだよ。私達は悪魔。魔女と同じ__ううん、それ以上の強い力を持った生き物。
だから、あんな魔女、どうってことない。

「そうだよね。あたしたちは悪魔だもんね。……よーっし!そうと決まれば、さっさとあの魔女のところに乗り込んで__」
「その前に、作戦考えないと。あっちは魔法を使うからね」
「だね」

仲間が増えたことにより、勝てるという自信がわき出てくる。
その仲間が、長年連れ添ってきた友達ならなおさら。

美奈は『人間』だった頃よりも、嬉しそうに笑っていた。
美奈は青川さんに会う前よりも、楽しそうに笑っていた。

「じゃあ、どうする?どんな魔法使うの?」
「えっとね〜……私がかけられたやつだと……考えたことを現実にする魔法とか、炎とか植物……これは蔦系ね。あとは水に雷……うん?これは青川さんのだよね。でも、あいつも使えるだろうし……あとは___」
「あんた、どんだけひどい目に会ってんの」

美奈のツッコミはごもっとも。
私は力なく笑った。

魔法で聞いてるかもしれないからと、作戦はこそこそ話で話し合う。

これならきっと、マリアを倒せるよねっ!
雲一つない青空を見て、どこの誰とも分からない相手にそう心の中で言った。
神様が聞いていたのなら、私達は余裕で勝てるはず!

息を吸って吐いて。
肩の力を抜いたらもう大丈夫。
私は、皆の言うリア充そのもの。さあ、悪い魔女を倒しに行くぞおっ!

39:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/18(月) 21:29 ID:3uI

「悪い魔女は恐ろしい怪物に姿を変えると、王子を襲いました。王子は魔女に剣で向かい、そして倒しました」

はい、今日はもうおしまいとお母さんが絵本を閉じる。
子供の手からしたら、とても大きなその絵本を小さな手で取って、最後のページを開いて、お母さんに聞いた。

「ママ、どうして悪い魔女ばっかりなの?」

人指し指を、恐ろしい怪物に変わった魔女に向ける。
すると、お母さんは笑って言った。

「そうじゃないと、王子様が倒しづらいでしょ?」

子供に言うことかな、それ。
けど、当時の私は特に疑問に思うこともなく、へぇそうなんだと言った。



あのとき見たマリアの過去の夢が本当なら、マリアはあの絵本の魔女と同じ存在なのかな?
___全ての魔女と同じなのかな?

なら、マリアはとても可哀想。けど、自業自得でもあるよね。

マリア、貴女のために、躊躇なんてしないで堂々と倒してあげる。
そうじゃないと失礼だから。
悪役の魔女には悪役の魔女らしい最後じゃなきゃいけない。
青川さんのためにも、マリアのためにも、ね___。


「めぐみ、あれッ!!」
「……え?」

飛行中の美奈の興奮した声は、辺りに響きわたった。
前方を見ると、マリアが遠くの方で浮かんでいる。
その周りには、たくさんの女の子たち……。もしかしてって思った。
もしかしたら、青川さんを蘇らせたんじゃって。
けど、青川さんの姿は見えない。奥にいるのかな?
ううん、もしかしたら蘇らせてないのかもしれない。
それなら、少しは戦いやすくなって___

突然、その女の子たちが私達を囲んだ。
その手には鋭い槍が……。

「ッうえ!?」「ヒョエッ!?」

二人して5メートルくらい飛び上がる。
目に光のない、どこかぼうっとした女の子たちも、同じように飛び上がってきた。

「作戦通りにいかないんだけど〜!?」
「知らないよ〜!!」

とりあえず、うわあああと叫んだ。
けど、その声は思っていたよりも大きく、甲高かった。
ビュッと女の子たちの耳から血が出る。

「え、な、何ッ!?」

数人の女の子が下に落ちていく。
もしかして、死んだ……?

美奈と顔を見合せ、ああ、と二人して声を上げる。
そしたらニッと笑って二人で叫び始める。

作戦なんていらない!!本能の赴くままに戦って……いや、叫んでやる!!

「ちょっとロノア、シャルテ、リロン!?貴女たち、さっさと戦いなさいッ!!」

耳から血を流して固まっている女の子たちの中から、三人の女の子が私達に槍を再び向けてきた。
私達はさっきよりも大きく叫んだけど、全然効かない!?どうして!?

頭が真っ白になって、どうすればいいか分からない!
目の前が黒くなったり赤くなったりして気持ち悪い!景色が歪んだり霞んだり何もなかったり……何なの一体!?
もうやだ怖い。やっぱり帰りたい!!
けど、けどけどけど、倒さないと、倒さないと倒さないと倒さないと!!

マリアが私達の声以上に大きな声をあげた。

「生まれたての使い魔が調子に乗らないことねッ!!さあマリアの子たちの中でも、特に従順な二女、三女、四女よ!!あの子を刺して!!」

槍は私を貫くのではなく、美奈を貫いた。
隣で嫌な音が聞こえる。
赤い血が、私の服に飛びつく。
また、あの時と同じだ……。


___形勢逆転だ。

40:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/18(月) 22:54 ID:3uI

!!グロ注意!!








……グチャッ……ネチャッ……

「さぁさぁ、傷口から蔦よお入り!」

……ブチュ、ブチュ、グチゥュッ……

「お花も咲かせてあげるわ!」

……ミシ、ギシ、ブチャッ……

「次は〜……ああ、忘れていたわ!ほら、めぐみ。ちゃんと横を見ないとねぇ?___……キャあああっははははははははははははハハハハアアアァッ!!!!」

女の子に顎を掴まれ、横を向けさせられる。
マリアの高い笑い声が頭に響いて、その次に、声は胸にまできて響いた。
胸が、心臓が圧迫される感覚。

……けれど、この感じは前までのとは違う。
悲しかったり、憎かったり、そういう感情じゃなくて、これは___

理解しちゃいけない。頭ではそう分かっているのに、体は言うことを聞かなくて、心臓は高鳴り、よだれがたくさん出てきて、よだれはとうとう口から溢れ出した。


___欲しい、食べたい……ッ!!


食欲が手を振りながらやって来た。
やあ元気ぃ?って言いながら。

……ううん、元気じゃないよ。お腹空いてて元気じゃない。

それなら、目の前にあるものを食べればいいよ。君と同じ悪魔。きっと美味しいだろうね。

……そういうものなの?

ああ、そうとも。そういうものさ。


真っ赤な血はケチャップソース。
溢れ出る肉は出来たてのハンバーグ。
細い血管はナポリタン。
咲き乱れる花たちは水水しい野菜。

どれもこれも、美味しそう……ッ!

「あらあらまあまあ!これは面白い!使い魔風情が本物の悪魔になるつもり?」

手がハンバーグに伸びた。
大好きなハンバーグ。ケチャップソースをたっぷりとつけてから、口元に近づける。
鼻をつつく強烈な匂い。焼きたての匂いだ。

「ふふふふふ……!!さぁ、そのまま食べなさい?そうすれば、貴女は罪悪感に潰されてしまうのだから」

ケチャップソースが垂れて、飛び散って、私の服につく。
豪快な食べ方で、飛び散ってしまう肉の破片。
目をこれでもかと言うほど大きく開いて、目の前のハンバーグをたくさん食べる。

……ああ、どうしよう。

「……めぐみ?さすがに、やり過ぎじゃないかしら?」

___今までのどのハンバーグよりも美味しい!

次はナポリタンかな?ううん、その前に烏龍茶が飲みたいな!
烏龍茶は何処だろう?……ああ、ここにあるじゃん!……あれ?茶色じゃなくない?……まあいいや!

あ、デザートはどれだろう?……これかな?プチプチしてそう!それにとっても大きいや!

……あれ?これは……またデザートかな?ぷにぷにしてておもしろーい!

「……予想以上だわ、何よこれ」

美味しい美味しい美味しい……ッ!!

「こんなの、化け物じゃないの……」

美味しいよ美味しいよ美味しいよおぅッ!!

「あ、あ、エ、エリーィ!?出てきて、エリーィッ!!!!」

41:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/18(月) 23:23 ID:3uI

目を開けたら、とっても怖くなった。
どうして貴女がここにいるのって聞きたくなった。
そして、どうしてって問いただしたかった。

けど、今の貴女には、聞こえないんでしょうね___



「あ、あ、エ、エリーィ!?出てきて、エリーィッ!!!!」
「ここに居るわよ」

ちょっと不機嫌な顔をして出てくれば、マリアは安心したように表情を和らげた。

「……あれのことでしょう?」

聞くと、マリアは頷いた。
どれだけ怯えていようとも、彼女はいつも傲慢で、高飛車で、高潔であろうとしている。
もっと、怯えてもいいのにと、感情を表に出してもいいのにと思うけど、彼女はそれを望んでいない。
だから、わたしは何も言わない。

……ただ、思う。
わたしもマリアと同じなんだと。
どれだけ目の前の光景が怖くとも、わたしは冷静であろうとしていた。
本当なら、叫んでめぐみのもとへ飛んで行って、無理矢理にでも魔法でその悪魔化を阻止してしまいたかった。

けど、それももう無理。

目の前で行われるカニバリズム。
めぐみはもう、悪魔だった。
かつて皆に言われていたリア充とはほど遠く、青空が好きだと言っていた彼女からかけ離れている。

悪魔になってるなんて知らなかった。
わたしが守るって言ったのに、守れなかった。
守るなんてちっぽけな約束だった。
結局わたしは吸収されて、そしてまた新たに体を貰ってここにいる。
自我を取り戻すのに小一時間。
自我を取り戻してから、凄く辛かった。

「マリア」
「あら、どうしたの、エリー?」

本名は好き。けど、わたしはやっぱり、めぐみに呼ばれる青川さんって響きの方が好き。

わたしはそっと前に出た。

「わたし、ちょっと行ってくるわ」

マリアの息を飲む音が聞こえる。

「な、なんで……!?」
「そのために呼び出したんじゃないの?___まあいいわ。とにかく行くから」
「まっ、待ちなさい、エリーッ!!エリイイイイッ!?」

全て覚えてる。
生まれたその時も、姉妹の魔女と戦ったことも、めぐみを初めて見たときも、めぐみに話しかけたときも、救ったときも、遊んだときも、マリアと戦ったときも、何もかも、全部。
飲み込まれたときのことは思い出したくないけれど、最後の瞬間まで覚えてる。
わたしの第一の人生は長かった。何百年も生きた。その十分一にも満たないのに、まだまだ足りないのに、めぐみと過ごした時間はとても色鮮やかだった。
宝石みたいにキラキラしてて、楽しかった。
それはもう、できないのかな、めぐみ。

めぐみに持ち上げられている美奈さんを奪い取って、フィールド内の安全な場所に移した。
めぐみは真っ暗な目でわたしを見た。
何も映すことのない瞳。冷たさも暖かさもなかった。

「めぐみさん、貴女は人間。そうでしょう?」

答えに反応してくれなかった。
ボウッとしたままわたしを見ている。
わたしの出方を伺ってるのかしら……。

「貴女、どうしてそんな風になっちゃったの?……無理しなくていいの。戻りましょうよ」

貴女の世界はそこじゃないでしょう?

反応しない。まったくの無反応。
だんだん悲しくなってくる。
反応がないって、こんなに悲しいことだったかしら?

何度も何度も問いかけた。けど、やっぱり反応はなくて……___

「貴女は明るい場所で過ごしてればいいの。ここは空の上よ?地上に戻りましょうよ」

そして、何度目か分からない問いかけで、ようやく返事が返ってきた。

「……私は、悪魔……悪魔を喰らい、魂を奪う悪魔なり……地上は私の支配下になる……」

わたしはめぐみのほっぺたを叩いた。

「何を言ってるのッ!?貴女は人間。これはただの夢よッ!!厨二病なの?そうなんでしょう!?お家に帰りなさいッ!!」

42:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/19(火) 21:36 ID:3uI

あげ


この小説(なのか?)は、あと5スレで終わります。
もしかしたら、3スレ……いや、早くて2スレで終わります。
読んでくれた方々、ありがとうございました!

あと、>>1で嘘ついちゃってごめんなさい!
平凡でほのぼのとか、最初から考えていませんでした!すみません!ただの>>1詐欺です!
嘘をついてしまいましたが、許してもらえるのなら、どうか最後までお付き合い下さい!m(_ _)m ペコリンチョ

43:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/22(金) 16:59 ID:3uI

めぐみの翼がバサッと横に広がった。
めぐみの体よりも大きい翼に、わたしは悪感を覚えた。

___一度だけ、わたしは悪魔を見たことがある。
その悪魔は結構強い悪魔のようで、体だけでなく、翼もとても大きかった。
コウモリみたいな真っ黒な翼は、今のめぐみに生えている翼とまったく同じ。

……確か、あの悪魔は、マリアに食べられたはずだ。
気に入らないだかなんだか言って、マリアが悪魔を倒して、その力と心臓を喰らったはず。

もしかして……___
そう思うと、背筋が凍った。
あるわけないと思うけど、いや、もしかしたらあるかも……ううん、そんなわけ、いやあるでしょう、違う、そんなことない、そう、違う違う違う!!
今のめぐみの体に、マリアが喰らった悪魔の魔力が入っているわけがない!

わたしはヨロヨロと後ろに下がった。

そんなわけ、ない。
そう呟いて、焦点の定まらない目を開いたり閉じたりした。

目の前のめぐみが、感情のない瞳でわたしを見る。
感情があるのとないのでは、こんなに違うなんて、長い間生きてきたのに、分からなかった。

「話はそれだけか、半端の魔女」

目の前の生き物は、もはや、めぐみでは無い。そのことを実感できたのは、目の前の生き物の手のひらに、炎が現れたからだ。
わたしたち魔女がよく使う炎の魔法。
それを、人間のめぐみが使えるはずない……!

わたしはめぐみと目の前の生き物は違うものだと認識し、混乱していた頭をもとに戻し、戦闘体勢になった。

生き物……いや、悪魔が、わたしに炎を投げつけてきた。
わたしはそれを、まるで踊るようにヒラリと避けると、催眠術を使った。
効くものと効かないものがいる、めんどくさい術。
コイツに効くか分からないけど、とにかくやってみるしかない!

「催眠の術か」

けど、悪魔は少しよろめいただけで、後は何もないようだった。
つまり、効いていないということ。

どうしようかしら。
ああ、そうだ。最近使ってなかった魔法があったはず。

わたしは聖水で悪魔の周りを囲んだ。
悪魔は聖水は苦手。基本的な情報だ。

「さあ、貴方はここから出られないわよ」

悪魔は少し悩むと、聖水に手を突っ込んだ。
自滅でもするつもりなの?なんてバカな___

「……ッな、なんですって……!?」

聖水が、いっきに蒸発して消えてしまった。
可笑しい。悪魔は聖水が苦手なはずなのに……!

悪魔は嘲笑した。

「愚かなことよ。 私は破壊の悪魔なり。 全てを破壊できる悪魔なり。 全てのものを破壊することが我の力であり、また生き甲斐! 悪魔を喰らいて魂を奪うのは破壊の悪魔だけが許されたことなり! 愚かな魔女よ、死ぬがよいッ!!」

ボキッと音がして、わたしの足が折れた。
骨が次々に砕かれていく。
もちろん、誰もわたしの足に触ってはいない。これは悪魔だけが___破壊の悪魔だけが成せる魔法。

足から腹へ、そして胸へ、頭へと、痛みが伝わり、わたしは絶叫する。
遠くでマリアの絶叫も聞こえる。

二つの声と言葉が混じって、何を言っているか分からない。
悪魔がこちらにすっと寄ってきた。

「お前の足は消えた。次は手だ。その次は腹、首、そして頭。頭が無くなるまでお前は死ぬことができない」

それに、マリアが反応する。

「やめてやめてやめて!!エリー、エリー、逃げなさい、エリーッ!!だから言ったじゃないの、行くなってッ!!!!!」

それに次は悪魔が反応をした。

「黙れマリア!!貴様、よくも私を喰ったな!?……まあいい。そのおかげで、より多くの力を手に入れることができた。お前の魔力の一部となった私が、どれだけ苦しんでいたことか!……が、その魔力で作ったこの体はなかなか居心地がいい。この体なら、この世界を破壊し、新たな世界を作ることも可能であろうなあッ!!」

マリアが急に黙って、しくしくと泣き出した。
わたしはとりあえず逃げるようにマリアのもとに向かった。
気休めにしかならない痛みを止める魔法を使って。

マリアは空にぽつんと一人で浮かんで泣いていた。
涙は、土に染みることなく、空中で消えてしまうのだろう。

44:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/22(金) 17:28 ID:3uI

マリアが泣いているのを見たのは、これが初めて。だから、わたしは焦った。
不安が心に広まる。

マリアがわたしに気づくと、謝ってきた。

「ああ、ごめんなさい、ごめんなさいね、エリー。マリアがアイツを喰らったから、こんなことになってしまった……。貴女の足も!ごめんなさい。ごめんなさい、エリー」

マリアは、幼い見た目だ。
一応、最近では中学生として過ごしていたけれど、やっぱり中学生というよりも小学生っぽい見た目。
彼女が魔女になったのが、それほどの歳だったからだとは思う。
魔女になると、成長が止まるらしい。
それは、精神の成長も同じかもしれない。

マリアはようやく、年相応の表情で泣いた。
生意気な小学生よろしく威張っていたマリアが涙を流す。
滑稽に見えなかったのが不思議だった。

「アイツはきっと世界を破壊するわ。そしたら、フィールドも危ない。貴女も、マリアも、皆死んでしまうのよ。……いいえ、マリアは死なない。死ぬことはできない。一生アイツに苦しめられるの……!」

どうすればいいかは、もう分かっている。
わたしはマリアの頭を叩いた。
マリアが驚いた顔をしてわたしを見た。
あほみたいな顔をしているマリアに、わたしは何も言わずに、ただその目を見つめた。

「……貴女、何を……」

わたしは何も言わず、ただマリアの目を見る。
マリアは幾分か冷静さを取り戻し、そうね、と言った。

「何をしているのかしら、マリアは。さあて、世界唯一の魔女として、さっさとあの悪魔を倒さなきゃいけないわね」

涙を拭いて、魔法でどこからか分厚い本を取り出す。
グリモワール……ああ、これは魔導書なのね。
マリアはそのグリモワールを開き、あるページを見つけると、そこに目を通しながら言った。

「……エリー、貴女、大丈夫なの?」
「ええ、もちろん。大丈夫よ。そもそも、わたしに足なんていらないもの」
「魔法でなんとかなると思っているのかしら?」
「もちろんよ」

マリアはクスクスクスと笑った。

「あらあら、そうなの。さすがマリアの子ね。それじゃあ、もう大丈夫な貴女にとっておきの魔法をかけてあげましょうか」

マリアがそのページに書かれてある言葉を口にする。
魔法の呪文。普通の魔法を使うときはいらないけれど、とても高度な魔法を使うときは言わなきゃいけない。
それでも、マリアは魔力が多く強いから、呪文はいらないはずだけれど……そう、そのマリアでも難しい魔法なのね。

マリアが呪文を唱え終わると、わたしの足がニョキニョキと生えた。
ちょっと気持ち悪い感触だけど、気にしない。
すっかり元通りになった足を見て、わたしもマリアも満足だった。

「この本のこと、忘れていたわ。最初から慌てずに、このことを思い出しておけば良かったわ」
「そうね。マリアはバカだから」
「あらそう?貴女もバカよ。あんな悪魔にやられちゃうんですもの」
「それなら、その悪魔に泣かされた貴女もバカね」

軽口を叩いて、わたしたちは悪魔を見やった。
悪魔はどこからか取ってきた魂を、ゆったらと食べている。

通りで、邪魔もなにもしてこなかったはずだ。
私はこめかみに血管を浮き立たせながら、そいつを睨んだ。

「めぐみ……」

必ず貴女を取り戻してみせるから。
貴女もあの悪魔の中で頑張って、自我を保っていて。

マリアの小さな体を囲むように大きな魔法陣が現れる。
金色に光る魔法陣から、さきほど落ちていったわたしの姉妹たちが出てくる。
皆元気な姿で、ちゃんと自我も持っている。

「グリモワールっていいわね。初めて知ったけど、魔力を増幅してくれるもの」

姉妹の魔女たちが、キヒヒと笑って悪魔を見た。

「あの悪魔ですね」
「ちゃちゃ〜っと片付けてお茶会しようかねぇ?」
「さんせぇ〜。アタシは緑茶ねん〜」

マリアが片腕を上げた。
また新たな大きな魔法陣が上空に現れる。
その魔法陣は、悪魔の頭上にあった。

「さあ、その体、返してもらうわよッ!!」

45:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/23(土) 18:56 ID:3uI

形容し難い音が飛び交う。
雲の上。周りは青空。本当なら平穏なこの場所は、今や戦場と化していた。
悪魔と魔女たちの戦い。

禁断の魔法でさえも、呪文無しで使えるマリアの魔力。それでできた体をのっとった悪魔はとても強く、どれだけ魔法で攻撃しても倒れたりなどしなかった。

けど、諦めるわけにはいかない。

あの体は、大事な友達__めぐみの新しい体。
本当のめぐみの体ではないけれど、大事な大事な体。
本当のめぐみの体とそっくり、だけどコウモリの翼が生えている体。その翼を見るたび、わたしの頭に声が響く。

___私を守るって言ったでしょ?

めぐみは今、大丈夫なのかしら……。
なるべくめぐみの体に傷はつけたくない。でも、傷をつけないと悪魔は倒せない。

さて、どうすれば……___

「聞いてないっつーの!エリー、こいつめちゃくちゃ強いじゃん!」
「うるさい!とにかく倒しなさいよ、死なない程度に!」

目眩ましのために、強い光を放つ。
光が無くなったときには、悪魔の体に___めぐみの体に___数えようと思うだけでも気が狂いそうなほどの、たくさんのネズミがくっついていた。

そのネズミたちが、何やら紫色の唾を吐く。
悪魔の体から、少しずつ黒い煙が出てきた。

「あれは……毒ネズミ!?」

隣にいた魔女が、魔法陣を空中に描く手を止めて、悪魔の体にくっつき、唾を吐いているネズミを見た。

わたしは「そうよ」と頷いた。

「なるべく、これは使いたくない……というより、何もしたくはないけれど……とにかく、悪魔を倒さなくちゃならないしね……」
「だからって、あれを、あの数だけ召喚するのは___」

ヴァンッという音が辺りに響く。
熱風が押し寄せてきて、わたしは咄嗟に水のバリアを張った。
その水のバリアに、毒ネズミ数匹がぶつかり、地上に落下していった。

「おのれ、おのれ、おのれええええ!地獄のネズミだと?私をこけにしよってえええええ!」

悪魔がわたしの方に、迷わず飛んでくる。
さっきの熱風は、悪魔が起こしたらしい。

わたしは水を、効かないと分かっていても聖水に変えた。

悪魔は思った通り、水から聖水となったバリアをやすやすと通り抜け、わたしの首を片手で掴んだ。
バリアが消える。

「お前か、お前か、お前か、お前なのかッ!?約束した通り、次は腹を砕くとしようじゃないかッ!!!!」

そう叫ぶ悪魔の顔は、まさしく悪魔。
顔にはたくさんの血管が浮き上がり、顔を赤くし、鼻息が荒く___いや、そんなもんじゃないわね。
なんて表現すればいいのかしらね?

わたしは悪魔の後ろにいるものを見て、ふふっと笑った。

「何が可笑し___グエ"ッ」

悪魔の体を、青い光が包む。

「こ、れ……はあぁ……ヒギャアアアアアアアアア」

低くしゃがれた声になり、そしてその叫び声は、悲鳴は、すうっと煙のように消えた。

悪魔だったものの後ろにいるマリアは、ニヤニヤ笑いながら、ソフトボールくらいの大きさになった青い光を掴み取り、それを黒い炎で包んだ。

フラッとよろめき、落ちそうになる『めぐみ』の体をお姫様抱っこし、

「ありがとう、マリア」

そうお礼を言うと、マリアはニヤニヤしながら返事をした。

「あら、お礼を言うのなら、代わりに足を舐めなさいな。……嘘よ、嘘。なに勘違いしてるの?クスクスクス」

他の魔女たちが周りに集まってきて、何があったのか聞いてきた。
その代わりに、マリアがあることを教えた。

「いい?魔女の端くれたち、教えたはずよね?悪魔は精神をのっとるものなのよ?」

そこから軽い講義になった。

悪魔は、人間の体をのっとる。
けど、正しくは精神をのっとる、である。
精神をのっとられると、体までも操られてしまう___

そんな基本的なこと、忘れていたの?
そう笑ってマリアはわたしたちを見回した。

46:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/23(土) 19:20 ID:3uI

「え、あ、いや、ほら、それって三百年も前のことだし〜?」
「正確には、416年前なのです」
「覚えているわけないですね」
「ほらほら、アタシって超バカだから〜」

口々に言い訳を始める。
わたしは特に言い訳をするわけでもなく、気を失っているめぐみを見た。
めぐみの体に、結構多くの傷がある。
その傷は、わたしたちがやっとの思いでつけた傷。
その傷が、とっても痛々しい。
そしてなにより、そんな傷を作らなくとも、めぐみを救えたということに、悲しくなる。

「まあ、マリアのグリモワールのページをチラッと捲るまで忘れていたけれどね」

はぁ〜!?という、魔女たちの声が揃う。
さすが姉妹。さすが同じ魔力でできた魔女。
みんな気が合うことで。

その大きな声のおかげなのか、それかタイミングが一緒なだけか……めぐみの睫毛がふるりと震えた。

「めぐみ?」

周りの魔女たちが、マリアに数々の攻撃を仕掛け、それをマリアが笑いながら避けて逃げていく。
周りに誰も居なくなり、わたしとめぐみだけになった。

めぐみの瞼が持ち上がる。

めぐみはキョロキョロと目玉を動かし、わたしの目に焦点を定めると、パチパチと瞬きをした。

「うぇえええええええええッ!?あ、青川、青川さ、さささ、んんんんッ!?ど、どうして、え、うそ、なんでッ!?ひえ、え?え!?ええええええぇッ!?」

明るい叫び声だこと……と、わたしはクスクスと、先ほどのマリアのように笑った。

めぐみはわたしにお姫様抱っこされていることに気づいたのか、顔を赤くして、ブルブルと震えた。

生まれたての小鹿みたいねぇ……。

「なななな、なん……えッ!?私、どうしたの!?どうして!?青川さん、どうしてこうなったの!?……ちょ、空ぁ!?空の上ええええッ!?」

軽くジャンプをして、わたしはフィールドの中に入った。
フィールドの中には、起きたばかりなのか、寝ぼけている美奈がいた。

フィールドの中は学校の校庭。
校庭の土を服につけた美奈は、わたしたちに気づくと、「ああああっ」と声をあげた。

「めぐみいいいい!!青川さああああああん!!」

走り寄って来て、本物だ本物だと喜んだ。

「み、美奈ぁ!!___う、うわあああん!良かった良かったよおおおお生きてるよおおおお!!」

わたしの手から降りて、めぐみが美奈と抱き締め合った。
お互い生きていること、こうして会えたことに喜んでいるようだ。

わたしも、生き返ったも同然なんだけどなぁ……ちょっと複雑ねぇ。

二人は喜んで喜んで、そしてようやく、わたしに目を向けた。

「青川さん、一体どうして……!?」
「私達に、何があったんですか!?それに、どうして青川さんが……!?」

二人の背中に生えていた翼が、薄くなり始めた。消えるのだと思う。もう、彼女たちには必要ないから。
そして、マリアにも必要無くなったんだろう。
___マリアにはもう、使い魔なんて要らないから。

「教えあげるから、ちょっと待って」

今思えば、わたしは嬉しかったのかもしれない。
あのとき、めぐみが魔女に食べられようとしているところに来て、そして助けられて。
嬉しかった。とっても嬉しかった。
めぐみが魔女の餌となる人間だったからこそ、こうして今、生きていることに喜びを感じられる。

見たところ、めぐみは美奈を食べたことを覚えていないらしい。
けど、それでいいのだ。
めぐみが食べたんじゃない。悪魔が食べたんだから。

「実はね___」

全ては教えない。それが、この幸せを保っていくための、最善の行動だから。

47:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/23(土) 19:42 ID:3uI

ちょっと涼しい朝。
目の前にいる町内会長さんと同じく古いのか、音楽が流れるラジオは雑音ばっかりだ。
そのラジオの掴んだ町内会長さん。

「おい、君たち。体操しなさい」

私たちは、まんまと町内会長さんに掴まり、集会所の中にいると言うちびっこたちの前で、ラジオ体操することになった。

近くの集会所の中に連れていかれる。
扇風機が一つしかなくて、いくら涼しい朝と言えど暑い。

私達は町内会長さんにちびっこたちの前に連れていかれた。
私たちがお手本となるらしい。
ちょうど足下に古ぼけたラジオが置かれ、雑音が足を通って脳みそにやってくる。

「朝から張り切り過ぎたね」
「そうね。でもいいじゃない。電車の時間までには終わるでしょうし」
「ですけどね、青川さん。結構疲れるんですよ、これ」

美奈が嫌々と首をふる。

「んー、まあ、朝から体動かすのは悪くないしさ!」
「そーだけどー」

青川さんが、私達のやり取りを見て笑う。
笑われて少し恥ずかしくなった私は、青空を見た。

奥行きのある綺麗な空。
たくさんの青で塗られた空に、私は目だけではなく、心さえも奪われる。

足下の雑音だらけのラジオからは音楽が聞こえた。

『ザザザ希望の朝ザザ喜びザザ胸をザザザザザザアアア……__』

__希望の朝。
そうだ。今、私は希望の朝を迎えている。

この夏休みを迎えるまで、たくさんのことがあった。
魔女に食べられそうになったり、青川さんと友達になったり、マリアと出会ったり、戦ったり、悪魔にのっとられたり___
それを乗り越えて、今がある。
この幸せは、数々の苦しみや辛さがあったからこそ、なのだ。

ねぇ、私、今凄い楽しい。嬉しい。
リアル充実してるよ、本当に。

肩の力を抜いて、笑顔になって。

近くの窓を開けて、私は叫んだ。

「おはよう、皆!」

ほらほら、楽しいラジオ体操の時間だよ〜!!

私の隣で、青川さんが笑った。

「暑いのに、本当に元気ね、めぐみさんは」

それに同意した美奈が、「そうそう!」と頷いた。

私はエヘヘと笑った。

「だって、私ってリア充だからさ!」

涼しい風が集会所に入ってきた。

48:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/23(土) 19:49 ID:3uI

〜あとがき〜

後味が良い感じの最後になりました〜!!
パチパチ。

上げて落として上げてのお話でした〜。パチパチ。
ちなみに、青川さんは復活する予定ありませんでした〜。パチパチ。
最後は悪魔にのっとられたままのめぐみが、世界破壊する……の、つもりでした〜。パチパチ。
けど!『青川さんがいなきゃ物語が進みづらいじゃない!』ってなったので、青川さんを復活させたらハッピーエンドになりましたよ〜!!良かったねッ!!クソッ!!パチパチッ!!



えー、色んな人に感想をもらったりしながら、頑張ってここまで来ました!
感想くれた方々、読んで下さった皆様方!
ありがとうございました!

拙い文ですが、向上させるべく、これからも前進していきます!
次の小説スレで、またお会い致しましょう!

49:♪Risa♪:2016/04/23(土) 22:30 ID:YJE

お疲れ様でした!!じっくり読ませていただきましたよ。途中までのブラックさで、一度は読むのを断念しようかなと思っていましたが、今思うと、断念しなくて本当に良かったです…。でなきゃ、このようなスカッとした気持ちは味わえなかった。本当にありがとうございます!次の小説も楽しみにしていますよ。頑張ってください

50:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/23(土) 22:34 ID:3uI

>>49
そうですよね、やっぱりブラック過ぎましたよね……(苦笑)
でも、それでも最後まで読んでくれて嬉しいです!
ありがとうございました!
次も頑張ります!


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