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1:ミルフィーユ:2016/04/03(日) 16:32 ID:eQ2

幼馴染がハイスペックすぎた女の子のお話

2:ミルフィーユ:2016/04/03(日) 17:22 ID:eQ2


「おいブス」

幼馴染。
かれこれ6年に渡る付き合いの所為か、プライバシーだのモラルだのはもう無いにも等しい私とこの男の関係を表す一言。それが、幼馴染。
晴れ渡る青空と小鳥のさえずりの下、目を覚ました私の元にやってきた突然の来訪者に、開口一番で言われたのが上記のセリフだ。

「そりゃないよセニョール…」

なにが悲しくて、朝っぱらから暴言振るわれなきゃいけないんだよ……
せっかく気持ち良い寝覚めだと思ったのに。早朝の玄関先で、私は早速項垂れた。

「誰がてめえの旦那だ」

ケッと吐き捨てるように言われ、少し傷つく。
いやいやいや、幾ら何でも久しぶりに会った幼馴染に対する言動じゃない。と思ったので、あなたをそんな子に育てた覚えはありませんよ、と優しく諭そうとすると、「てめえに育てられた覚えはねーよ」と睨まれた。いとこわし。

「あーもー、昔はこんな悪い子じゃなかったのになぁ……」
「うるせーブス」
「……」

もうやだこの子。反抗期かしら?

溜息を吐けばふと、脳裏に昨日の出来事が蘇る。

「そういえば、直哉くんも雲生高校受かったらしいわね」

突如、母の口から飛び出したこの言葉を聞いた時、私はうっかり口に運ぼうとしていたカレーを無残に取り落とすほどには吃驚していた。電流が身体中の血管を一気に駆け巡り、冷や汗がブワッと背中に広がる感覚を知った。それほどに、ショックを受けていたのだ。

なんで、なんでまたこいつと同じ学校に通わなきゃいけないんだ!!!

勉強だの部活だの恋だので忙しい現役女子中学生を謳歌する私にとっては、この男の存在は煩わしいものでもあった。
だって、勉強もさることながら運動までできてさ、おまけにイケメンぞ?モテモテぞ?
こんなハイスペック野郎と幼馴染だなんて知られたら、一軍girl'sになにをされるか分かったもんじゃない。

中学時代はなんとか隠し通し続けたが、高校まで一緒となるとさすがに危ない。
ので、高校受験を機にわざと家から遠く、志望する生徒も少ない学校を受けた……のに!!

「なんでー?なんで雲生受けたの〜?」
「俺の勝手だろ。お前にどうのこうの言われる筋合いはねえよ」

……あーもーやだーーーー
なに?一軍girl's舐めてるの?こんなの知られたら『グループで取り囲んでネチネチ嫌味攻撃』受けちゃうよ?主に私が。
一軍girl's……爪先から頭のてっぺんまで全身装備で固められた彼女たちの我が幼馴染を見る目は、さながら獲物を狩る野獣のようだった。あ、思い出したら寒気してきた……。
私が背筋をブルリと震わせていると、この口の悪い幼馴染の人差し指の先が軽く私の額をこずいた。あ、優しい。

「気持ち悪いぞブス。とっとと俺ん家行くぞ」
「うん……
ってちょっと待ちたまえチミ!そりゃどーいうこっちゃ!?」
「はあ?お前おばさんから聞いてないのかよ」

母さんから?
……あ、そういえば昨日なんか言ってた気がする……

「確か……写真撮影?」
「分かってんなら行くぞ。とっとと準備しろ」
「ウス」

それでわざわざ家まで迎えに来てくれたんだね。なんだかんだ言って、優しいじゃないか。
慌てて踵を返すと、その後ろで大きなため息が聞こえた。
聞こえないふり聞こえないふり。

「…あった!!」

ドアの淵にかけてあった真新しい制服を取り暫く眺めた後、手に取る。シワひとつない、デザインもそこそこ可愛い制服だ。何気なく気に入っていたりする。
服は……このままでいいや。髪は軽く整えて、あっちで母さんに結って貰おう。

「すまそ。待たせたね」
「ったりめーだ。行くぞ」

チッ、と舌打ちひとつして、私が靴を履いたのを確認してから歩きだす。
この幼馴染と歩けば大層私が見劣りするに違いないから、私としては大変ありがたい。
……あ、彼はそういうところも考慮して先を歩いてくれているのだろうか。だとしたら嬉しいけどちょっと悲しいな。

「ちょちょ!歩くのはっや!!まって!」
「うるせー鈍足!ちゃきちゃき歩け!!」

緩やかな日差しを浴びたアスファルトの上を、私は彼の背中目掛けてまっすぐ走った。

3:ミルフィーユ:2016/04/05(火) 15:20 ID:eQ2


すみません
直哉くんと主人公ちゃんの幼馴染歴は、かれこれ10年以上…ですね。
やっべえ!なっげえ!

4:ミルフィーユ:2016/05/01(日) 18:37 ID:eQ2



「そりゃあとんだ災難だったな、お前。」
「ホンマにな!!ホンマにな!!
この程度のプレゼントぐらい自分で渡せよバーロォー!!そんぐらいの度胸持てよ!根性持てよ!!ハゲろ!!」
「最後関係なくね?」

高校に入ってから何故だかとても馬のあった友人と向かい合って、静かなカフェでティータイムを営む。然し反して、私の内心は第二次世界大戦ばりに荒れている。理由はこの、私の左手の中で今にも潰れそうになっているプレゼントボックスだ。

よくあるだろう。幼馴染だの同じクラスだのと言ったよしみで「⚫︎⚫︎クンにこれを……」とプレゼントを渡されるやつだ。間違っても、私に渡されたものではないのだ。
まあ仕方ない。高校生活一週間目にして、早くも我がハイスペック幼馴染はその名を学年全体に轟かせるほどの有名人になっていたのだから。優良物件を狙う女子の格好の餌食な訳だ。

後一歩、歯止めが聞かなければ荒れ狂う野獣となった私に粉微塵にされていただろうこの箱は、如何にも女の子らしいリボンと包装紙にラッピングされて数分前まで隣のクラスの女子の腕にあった。
つまり何が言いたいかというと、そうだ。リア充爆発しろ。
この幼馴染のせいで小、中学校と何年もその役を担ってきた私だが、未だにこの『橋渡し役』はいけ好かない。腹わたが煮え繰り返りそうになる。

「おい箱ミシミシいってんぞ。」
「あ、いけない……またやっちゃうところだった」
「『また』っておいお前……」

「まさか常習犯……」と呟く友人を無視して、再度箱を一瞥する。少し凹みかけ、リボンも歪んでしまったその箱は、私の手の中であまりにも儚くその存在を主張していた。

高校になってからは公言していない為、この友人以外には誰一人としても私と直哉の関係を知るものはいない。然し、ごく稀なボケをやらかした幼馴染が教科書やら辞典やらを借りに来たり、なんでもないことを話しかけたりするので、一部の人には「直哉くんと仲の良い生意気な女子」として認識されかけている部分もある。なんと理不尽な。私は何もしていないというのに。

「……」

小さく溜息をついて、箱を鞄の中に押し込んでやる。もう怒りすぎて、怒る気力もなかった。
一応渡しておいてやるが、自分にとってどうでもいいものを大事に持っていてやる程私の面倒見は良くない。それが癪に触るやつだったら尚更だ。

「ドンマイ苦労人」と苦笑を浮かべる友人を軽く睨みながら、私は溶けた氷で薄くなったアイスティーを一気に飲み干した。

5:ミルフィーユ:2016/05/01(日) 20:16 ID:eQ2



「なあなあ」
「あ?んだよブス」

勉強中だったのか、イヤホンを片耳だけ外し振り返った幼馴染は本日も絶好調のイケメン。
その御顔を盛大に歪ませながら「忙しいんだけど」と舌打ち付きで言われるが、もうほとんど日常茶飯事なのでめげない。
私は不機嫌そうにこちらを睨みつける幼馴染に、今日貰った可愛らしい箱を押し付けた。

「はいこれ」
「え?……な、ちょっ」

突然渡されたそれに目を丸くした幼馴染は何故か言葉を失い、数秒後に顔を真っ赤にした。それほど見た目が悪かったのだろうか。
確かに私の握力と教科書たちの間に揉まれたそれは些か初見の輝きを失ってはいるが、それでも私が今まで『橋渡し役』として預かってきた物の中ではまだましな生き残り方だと思う。下手すりゃ粉微塵かゴミと一体化だからね。うん、本当にマシな方だと思うよ。

「君と同じクラスの川崎さんから……ごめん。ちょっと汚くなっちゃったけど。」
「…ああ、そ。んじゃ、いつも通りで。」
「はいはい」

再び、というかさっきより不機嫌な顔になった幼馴染に疑問を抱きつつも、プレゼントの包装を解く。その間にすっかり定位置の机に向き直った彼の後ろ姿を見ながら、ふとやれやれとため息をつく。
こういうのは、相手の気持ちも考えて本人が開けるべきなんだけどなあ……彼は中身も見ずに捨ててしまうから、もしラブレターとかが入っていたら……ということも考えて、私が開封して仕分けをする。
中は、やはりケーキやクッキーなどといったお菓子の類だった。

「じゃあ、ありがたく頂きます。」
「どーぞ」

私が無理やり渡す女の子達からのラブレター以外、彼は一切受け取らない。特に甘いものなんか、嫌いでもないのに捨てようとするからこうやってよく私が貰うようにしている。罪悪感はあるけど、捨てたらもっと勿体無いからね……一応、貰う時は毎回許可をとるようにしている。美味しいお菓子なんかが多いから、この人の幼馴染になって良かったことと言えば、このぐらいかな。あ、でも手作りは例外。たまに髪の毛とか入ってるし、罪悪感半端ないし、ね……

彼にご執心な女の子達からは、時にはペアリングやネックレスなんて大胆なものを贈る人もいて、然し彼はそれさえも受け取ろうとしなかった。私が「せめて捨てないで有効活用しようよ!売るとかさ!」などと冗談めかして言った次の日には受け取ったネックレス等を全て貴金属店に売ったと言うのだから、こいつにあまり迂闊なことは口にできないなと実感した。あの時はさすがに血の気が引いた。いくら私が口煩いからって、売るか?普通。
結局そういう貴金属も含めてすべての贈り物の仕分けも、私がする事になった。だってやらないとこの人、全部捨てちゃうからね……面倒だけど、仕方がない。

深いため息をつくと、突然後ろから頭を叩かれた。

「ボケボケしてねーでさっさと帰れ」

はっとした時にはもう夕暮れ時で、そろそろご飯という時間だった。早く帰らないと……とは言っても、急いで帰るほどの距離でもない。
私はもらった洋菓子を丁寧に鞄に入れて、直哉の部屋を出た。

「じゃあね」
「帰れ帰れ」

振り向きもせずにヒラヒラと手を振る彼に少し腹が立って、見られていないのをいいことに舌を出してやった。

6:ミルフィーユ:2016/05/01(日) 21:40 ID:eQ2



「ねえ、貴方って高瀬くんの何なの?」
「何って……」

そりゃ、幼馴染ですけど。
なんて口に出せるわけないですよねー………

時は放課後、所は教室。
呼び出された私を待っていたのは、ロマンティックな告白でもなんでもなくて、綺麗な女の子からの眼力光線でしたまる
いや〜……美形に睨まれると迫力ありますね。はい、ありますね。怖いです。

「ちょっと、聞いてるの!?」
「あ、すみません」

ヒステリックに怒鳴られて、慌てて最良の回答を探す。……えーと、

「同じ中学だっただけですけど……それが何か…?」

よし、満点!!

「同じ中学だった!?ただそれだけで高瀬くんがあんたみたいな地味女に話かける!?
嘘よ!!あんたが高瀬くんを脅して、無理やりキープさせようとしてんでしょ!?」

……な訳ないねーー!!!
というか、脅すだのキープだのって…どうやったらそんなぶっ飛んだ思考にたどり着くんですか。寧ろ私はあんまりあの人に関わりたくないんですけど!
そして少女よ、地味女だなんて結構はっきり言うね〜。てか、さっきから等の直哉は全く責められてないじゃないか!!人種差別だ!!ブサメン差別だ!!ブスで悪かったなーーー!

心の中でキャンキャン叫ぶこの女生徒に悪態を吐きまくる。あーもー…耳が痛い。

適当に相槌を打ちながら彼女の話を右耳から左耳へと聞き流していると、大きな破裂音のようなものとともに、気づけば頬に焼けるような痛みが走っていた。
一瞬何が起きたのか分からなくて、呆然と痛む頬を抑えた。暫くして、気付いた。叩かれたんだと。

正直、今まで何度か直哉関連のことで呼び出されて、難癖つけられたことは何回かある。でも、暴力を振るわれたのはこれが初めてだった。
信じられなくて、思わず彼女の顔を見据えると、勝ち誇ったような、嘲るような笑みを浮かべていた。

「今まであんたのことが死ぬほどうざかったのよ!!ブスのくせに高瀬くんにベタベタベタベタして!!消えろ消えろ消えろ!!」

それだけ言うと、彼女は乱暴に扉を開けて去っていった。

「………ああ」

消えろ、だなんて。
自分の存在を否定されるようなこと、私は何かしたっけ?

私はずっと、床にへたり込みんで未だに痛む頬を抑えていた。


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