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初めてでした。
こんなに誰かを好きになったのも。
こんなに誰かを想って泣いたのも。
こんなに未練が残って忘れられないのも。
キミは今、誰を想っていますか??
キミは今、誰と笑っていますか??
私は、今でもキミのことが大好きです。
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佐野 晴奈。
春、高校1年生。
新しい学校生活のスタートに緊張しつつ正門へと歩く。
入学前に切り揃えた顎した茶髪のショートボブ。
灰色の生地に黒、白と地味なチェックの膝上の短めのスカートが春風に揺れる。
友達できるかな??
青春できるかな??
…恋したいな。
そんなことを考えながら、事前に配られた新入生案内のプリントを手に、指定された教室へと向かった。
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教室に入ると、もうすでにだいぶ打ち解けて会話をしている人がポツポツいた。
…出遅れたかなぁ-??
周りをキョロキョロしながら指定された席へ着く。
窓際の前から3番目。
良くもなく、悪くもない場所。
座って外を眺める。
いっぱいいろんな生徒が登校しているのを観察する。
緊張してる人、友達と笑顔で会話している人、音楽を聞いてる人。
いろんな人がいるんだな-なんて考えながら眺めているとふと、1人の男の子に目がいった。
無造作にセットされた明るい茶色の髪。
程よく着崩された制服。
第2ボタンまで空いている白のきれいなワイシャツ。
私には、たくさんの人の中で1人その男の子が目立って見えた。
ボーっとその男の子を眺めていた時だった。
「ねえねぇ??」
「はいっ??!!」
いきなりトントンと肩を触れられてビックリして声が裏返ってしまう。
「…ぷっ、驚かせたかな、ごめんね」
「ううん、全然です!」
声をかけてきた女の子は胸の辺りまで伸びた黒髪をサイドで1つに束ねてて、すごく大人っぽい雰囲気。
「1人で外見てたから何してるのかなって気になって声かけてみた」
無邪気に笑いながら話す彼女はとても可愛い。
「そうなんだ、ただ外見てただけだよ」
「そっか、良かったら友達にならない??」
「もっ、もちろん!」
私が答えると彼女は嬉しそうに微笑んで言った。
「角田 知恵です、よろしくね」
「佐野 晴奈」
角田 知恵ちゃん。
名前の通り知恵が優れてて頭良さそう…。
「晴奈ちゃんね、了解!」
「うん、晴奈でいいよ」
「ならうちも知恵でいいよ」
こうして私は高校1人目の友達ができた。
知恵。
もっと仲良くなれるといいな。
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「晴奈、お昼食べよ??」
「あ、ちょっと私職員室行かなきゃいけない用あるから先食べてて!!」
「分かった、渚ちゃん達と食べてるね」
入学してから1ヶ月ほどが過ぎ、知恵以外にも友達ができて、仲良しグループができた。
知恵、渚ちゃん、架純、私の4人グループ。
「失礼します、ノートを提出しに来ました。」
職員室に入って提出期限の来ている教科のノートを提出して教室に戻る。
みんなを待たせているから渡り廊下を早歩きで歩いていると、ふと中庭のベンチが気になった。
白の可愛らしい感じのベンチとテーブル。
その横にはレンガの花壇に大きな桜。
ロココな感じと咲くの和風な感じが混ざってて不思議で可愛い。
中庭を見てよそ見をしながら早歩きで歩いていた時だった。
「あっぶない!」
前から来る人に気付かずにぶつかって突き飛ばされてしまった。
「大丈夫??!!」
「いたい…けど大丈夫…あ!」
「…ん??」
ぶつかった人物が、私が入学した時教室の窓から眺めていたあの男の子だった。
今日は髪がセットされてなくてとてもフワフワした感じのヘア。
…てゆうか、思わずあ、とか言っちゃったし!!
「すみませんでしたっ!!」
「は??!!」
突然恥ずかしくなって、私は走って教室へと向かった。
まだ、男の子とぶつかった時にほのかに香ってきたコロンの優しい香りが鼻に残る。
…あの人きっと先輩だろうな。
雰囲気すごい大人っぽいし、身長高そうだったし。
カッコ良かったな…。
その日から彼のことを校舎内で探してしまう私。
…なにやってんだろ。
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あの人何組なのかな…。
3年生かな??
なんのコロン付けてんのかな…。
「それでねぇ-。ってか晴奈聞いてる??」
「え、あ、ごめん、なに??」
「晴奈最近ずっとボーとしてない?? ねえ、知恵??」
渚ちゃんが知恵に問いかけると、知恵は私を見ながら言った。
「晴奈、なんかあった??」
「え、別になにもないよ?」
「あ!晴奈もしかして…」
「な、なに?」
架純がいきなり声を張って言った。
「恋でもしてるの??」
…こっ、恋??!!
「ケホッケホッ」
飲もうとしていた麦茶が器官に入りむせていると、
「え、晴奈恋してるの??」
「…知恵、まって私恋してないから!」
なんて会話から女の子お決まりの恋バナが始まる。
「晴奈は好きな人ほんといないの?」
「…好きな人」
ボーと考えているとふと浮かんできたあの男の子。
…違う違う!
話したこともないのに好きになんかなりませんっ!
「…いないかな-」
「え-、つまんないの-!できたら報告してよ-!!」
その後も恋バナに花を咲かせた。
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季節が過ぎていくのはすごく早くて、気付けば卒業式の季節だった。
「今日で3年生卒業しちゃうね」
「晴奈、3年生に知り合いでもいるの??」
「ううん、いないよ」
あの人、もしも3年生なら卒業しちゃうのか。
…もう、会えないのか。
いつもの仲良しグループで会話するのも最後。
クラス替えだからな。
そんなことを考えながらふと外を見ると見覚えのあるシルエットが見えた。
…あ、あの人だ!
3人の会話を聞きながらそ-と窓を開けて様子を伺う。
チェックのマフラーを口のあたりまで巻いて、寒そうにベンチに座って音楽を聞いていた。
…メガネかけてる。
あの人メガネなんだ。
息をするたびに白い煙と、メガネが曇る様子を微笑ましく見ていた。
この時間帯にあそこで座ってるってことは3年生じゃないんだ。
なら、2年生かな??
でも、卒業しないから良かった。
まだ会えるんだ。
なんて考えていた時だった。
「晴奈寒いっ!窓閉めて??!!」
知恵と架純と渚ちゃんに大声で言われて慌てて窓をバンっと閉めた時だった。
「あっ!」
━━━ バンッ
勢いよく窓を閉めすぎて窓が外れて落下。
幸い怪我もなく、丁度下が植木だから窓も割れずに済んだんだけど…
「佐野っ!!」
「とっ、取ってきます!!」
先生に怒鳴られる前にダッシュで外へ駆け出して落ちた窓を取りに行く。
…え、待てよ。
あの人、見てたよね??
窓が落ちたのってベンチの前の植木だよね??
…やばい、恥ずかしすぎる。
ぶつかったあげく、窓を壊したところを見られるなんて印象最悪じゃん…。
そんなことを考えながらも中庭まで来て、落ちた窓を回収。
「…大丈夫ですか?」
━━━ ビクッ
声の持ち主はあの人。
「だっ、大丈夫ですっ!」
「…ぷぷっ、窓…」
わっ、笑われた??!!
目も合わせず下を向いて答え、ダッシュで教室へ戻った。
あ-、緊張した!!
…絶対変な子って思われたよね、最悪。
笑われたし、もう印象最悪じゃん。
そのあと教室に戻ると案の定堪忍袋の緒が切れた先生にこっぴどく怒られた。
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長かった春休みも終わり、新学期を迎えた。
…クラス替え。
緊張するな…。
せめて知恵とは同じクラスがいいな。
私の学科は3クラスある。
いつめんが4人だから同じクラスになれる確率は高くも低くもない。
…お願いしますっ!
張り出された新しいクラス表を見る。
自分の名前を探す。
「佐野 晴奈」
見慣れた自分の名前が書かれているのは1組。
必死にいつめんの名前を探したら、私以外3人共3組。
…なんで私だけ外れてるの先生!!
仕方なく1人で教室へ向かった。
新しい友達、できるといいな。
緊張しつつ教室に入る。
そして指定された席に座った。
今年は窓際の1番後ろの席だった。
私は去年の今頃と同じようにまた、外を眺めていた。
…あの人いるかな?
そんな期待を胸にひっそりと込めて。