「もしもさ、好きです〜!なんて言ってさ」
正直言って、喋らないで欲しかった。
もっともっと言うと、彼女の口が一ミリでも開いているところを視界に入れたくなかった。
内心そんなことを思っていたって、私が口に出すことはない。
理由は簡単。私は彼女に対してひどく腹を立てているのだ。ゆえに、私は彼女が喋ることに何一つ返事を返さないと心に決めていた。
本来なら買う必要のなかったコーヒー豆乳を一口口に含み、顔をわざとらしくそっぽに向ける。「あなたの話になど興味はない」というのを全力でアピールしているのだ。
彼女はそんな私をちらりと見て、「つれないなぁ」と笑った。品も何もない、酔っ払いの大笑いのようだ、と思った。
ふと、真顔に戻った彼女は続けた。
「それで……それでさ。もし、相手にその気がなかったとしてもさ。」
あれ?そういえばなんの話をしていたっけ?
「このまま死んじゃって、そのせいで相手が悩み続けるっていうのも、なかなか嫌じゃない?」
細かいことは忘れたが、大筋はわかった。文句か。文句が言いたいんだな?
卑屈っぽいな、と我ながら思う。しかし、それを話す彼女の声色は、普段の彼女からは想像もできないほどに、儚すぎた。
(消えてしまいそうだ…)
ふと、そんな考えが現実になりそうな気がしてーー思わず縋るように彼女を向けば、なんでもないような顔をしてこちらを見ていた。
「……」
……なんだ、酔っ払いの戯言か。心配して損した。
「なに?寂しくなっちゃった?」
んなわけあるか。
もう一口、とストローに吸い付くと、底が近いのかズズッという音と共に紙パックが少し凹んだ。
ーーふと視線を外した先にあったのは、大きな憧れ。
焦がれに焦がれ、とうとう先日降り立った場所。
この屋上をぐるりと取り囲む、フェンスの向こう側を仰ぎ見た。