第一話「転校生」
6月某日、商店街―……。
私は、「あの、超大人気アイドル初のライブ出演決定!!!」と大きな文字で書かれたカラフルなポスターを横目で見て、登校中の足を速めた。
そして、スマホに繋がれた白と水色のヘッドフォンを耳に当て、最近お気に入りのボカロを流す。
「雪村恵梨」
それが、私の名前だ。ごく普通の高校1年生。
特徴なんてものは別に無いが、強いて言うなら夜行性という事だろう。
……まぁ、私の妹に特徴があり過ぎるのだけれど。
私はチラリと時間をチェックした。
7時47分。うちの学校は8時で生徒玄関にカギをかけられるから、ちょっと急がなくちゃならない。
軽く舌打ちをすると、私はセミロングの茶髪を靡かせながら学校へと急いだ。
1年4組のプレートが掲げられた教室の扉を開けると、丁度ホームルームが終わったところみたいだった。
結局、私はあの後走ったのにも関わらず、普段の運動不足と身体能力の欠如があだとなり、事務員さんにカギを開けてもらった後、たまたま通りかかった学年主任に遅刻のし過ぎだと説教をくらうことになった。
しかし、今月5回目の遅刻になるのだから、主任の怒りも頷ける。
「あっ、恵梨ちゃん!」
いかにもJKだと思わせるような明るい声色に私の意識は呼び戻された。
顔を上げると、若干垂れ目の瞳を更に垂れさせて笑う友人の姿が視界に入った。
その垂れ目の友人「富川加奈」の後ろに置かれている自席に座る。
「おはよ、加奈」
「おっはよぅ!」
語尾に「☆」が付きそうな口調で言うと、加奈はホームルームで使ったであろうプリントを私に見せてくれた。
「……何これ??」
そのプリントを見て、私はもっともな疑問を口にした。
「転校生サプライズ!!」
というやけに大きい見出しがB4サイズのプリントの3分の2位を陣取ってしまっている。
いや、そんな検証はどうでもいい。
本題、この「転校生」とは誰の事なのだ!?
「ね、ねぇ……。この、転校生って何?」
加奈は茶色の瞳を大きく見開いた。
「えっ、知らないのぉ!?……あ、そっか。恵梨ちゃん最近遅刻三昧だもんね」
加奈は勝手に自己完結したようで一人で頷いていた。
いやいや、一人で納得するんじゃない!
加奈は私の視線に気づいたらしく、小首をかしげてこちらを見てきた。
「ん?あーはいはい、転校生の事ね。すっごい要約しちゃうけど、今日の5時間目に転校生を迎える会をやるんだって。だから、私達は昼休みのうちに最終確認をするから、体育館に行かなくちゃいけないってわけ」