未練師

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1:おかゆ:2016/10/15(土) 20:41


───人は死ぬ。人の命とは時間と一緒に流れてゆくモノだから。最後には人が行き着くのは死。そう考えると少し、泣きたくなってしまう。だって、生きている意味が、自分の存在理由が全てわからなくなってしまうから。命がある限り精一杯足掻いて生きていくしかない人間の背負った運命、それが時間とともに命をすり減らし、ゆっくりと死へと流れゆくことだ。
今を生きている私たちには、死のその先はわからないけれど、それを想像して長い長い人生紀行をしていこう。

2:おかゆ:2016/10/15(土) 21:31

───未練師───

「貴方がフレアの…ぱあとなぁなの?」
しんと静まり返る神聖な教会のパイプオルガンの前に、崩れたかのように座り込んでいる瞳を開かない少女の真っ白な頭髪と肌をステンドグラスから差す光が照らす。
「パートナーだ。それよりも気分は悪くないか?」
そんな少女に淡々と言葉を並べる青年。彼もまた、少女と同じようにステンドグラスの光に照らされている。
「気分、悪くない。ぱあとなぁ、貴方の名前はなーに?」
「俺は、陽炎[ようえん]そう呼ばれている。好きに呼べ。」
「よーえん…?ようえん…?陽炎?貴方は、陽炎。」
次第に幼い声は大人のように美しく耳の鼓膜を打ちはじめた。
「ああ。名前、聞いただろ?かたくるしい契約、さっさと済ませようぜ。」
「では。陽炎、今日よりフレア(flare)は未練師の契約に従い貴方に同行することを誓います。陽炎、手を。」
艶やかに咲くフレアの声は少女らしからぬ声の色であり、そんな声とともに滑らかに差し出された両の手。青年、陽炎は静かに少女の細く小さな両の手を両の手で握り返した。
「俺は、今日より未練師としてこの世に存在し、フレア(flare)の同行を認めます。そしてこの両の手を契約の証とし、今再びこの世へフレアの魂を呼び戻す。」
青年が告げ終わると少女の細い身体は紅の光に包まれ、フレアの光に細く透き通る髪はほんの少し毛先が赤味を増した。閉じられていた瞳は潤いを取り戻し、今一度開かれた。真っ赤に燃え盛るような紅の瞳は陽炎を見ていた。
「ああ、戻ってきた…の?」
フレアは新しく陽炎との契約によって発生した紅の光によって作り変えられた身体を流すように眺めてから呟いた。
「フレア、気分はどうだ?」
優しい陽炎の言葉にフレアは鼻でくすっと笑った。
「最っ高。またこの世界に戻る日が来るとは死んでから思っていなかったから…。」
フレアは潤んだ瞳をさらに潤ませ、涙を流した。
「フレア、泣くなよ…。」
「だって、だって…!まだ私ちゃんと死んでなかったんだなって。」
フレアの姿が12歳程度だからだろうか。言葉がこんなに突き刺さるのは。幼き少女の死とは言葉ひとつでこんなに悲しいものなのか。陽炎は心でそう感じた。

3:おかゆ:2016/10/16(日) 14:40

───未練師───

未練師、それはこの世に未練を残してしまった死んだ人間を天界へ導く人間のことを示す。未練を残してしまった人間を導くと言っても彼らもまた、人間。弱い生き物なのだ。
未練師には、ランクというものが存在する。
一番上級のランクが未練師ランクSSS。
そして未練師ランクSS、未練師ランクS、未練師ランクA、未練師ランクB、未練師ランクC、未練師ランクゼロ、{SSS>SS>S>A>B>C>ゼロ>一般人}式にしてみると、こういう事になる。
俺、陽炎とフレアは今日の契約により、一般人から未練師ランクゼロに昇格した。未練師ランクゼロに昇格すると、フレアのような5年〜18年の間しか生きていない幼い魂、若く熟れきっていない魂をパートナーとして同行させることができる。5年〜18年と制限があるのは長く生きているとたくさんの記憶や思い出が脳や心に残っているため、思い出が邪悪化して、地縛霊や悪霊とかするからだ。まだ記憶や思い出の多くない5年〜18年の子供がパートナーとして選ばれる理由はそれだけだ。そして一般人は、魔力をそう多く持たない者たちのことを示す。なかには魔力を多く持っている者もいるが、ほとんどが魔力を持たない者である。その中から有望な未練師として選ばれた者のみが未練師ランクゼロに昇格できる。
「母さん、今日はフレアを契約で解放したよ。」
陽炎の母のお墓にて、手を合わせて報告する陽炎。その横でひどく悲しそうな顔をしたフレアが突っ立っていた。
「私は、フレア。陽炎のお母さん、私は陽炎を守ると誓うわ。私は陽炎のパートナーだもの。」
「母さん、そういうことだから天界で見守っていてよ。じゃあ、また今度ね。」
陽炎は立ち上がり、ふっと息をついた。
「ねえ、陽炎…あの。」
フレアは陽炎の右の服の裾を引く。
「なんだ?」
「陽炎ってなんだか、呼びにくいし一文字とって、陽と書いて陽[ひなた]って呼んでいい…かな?」
そんなフレアの可愛い頼みに陽炎は、少し口元を緩ませた。
「なんだ、そんなことか。あはは、最初に言ったろ?好きに呼べって。」
「陽!改めて、よろしくね!」
これ以上にないほどの明るい笑顔でフレアは陽炎こと陽の名前を呼んだ。

4:おかゆ:2016/10/16(日) 19:21

───未練師───

陽の母親の墓まいりの帰り道、とても大きいデパートに寄り道をしてアイスを買い、デパート内のベンチで食べていた陽とフレア。陽は周りの人の目に気がついた。耳を傾けると、あの女の子可愛いのにあんな服じゃかわいそう…。などという声であった。
「なあフレア、お前はその…服は、もっと可愛いやつきた方がいいと思うんだけど。」
陽も気にはなっていたが、女の子の気持ちなど分からない陽は、放置していたのだ。だが、周りの目や声からすると、放っておいていいことではないと気づいたらしい。なにせフレアは白い布っきれのような飾りの一つも見当たらないワンピース一枚しか見に纏っていないのだ。
「陽…その、私これ以外に服とかってない、かも。」
「へ、はあああああっ!?まま、マジで?」
「うん。本当。」
少女はほんの数時間前にこの世に舞い戻ってきたのだ。服がないというのは仕方のないことなのかもしれない。
「俺は服とか見立ててやれねえし…。フレアは服とか欲しいのあるか?」
「私は別に…。このワンピースで十分。」
「…気は向かないけど、リリコ先輩に来てもらうか…。」
「リリコ先輩?」
「ああ、俺の中学の先輩であり幼馴染であり未練師ランクSの大先輩でもある…つまり先輩だ。今からちょっと電話するから待っててな、フレア。」
「陽の命令なら受け入れるしかないっていうのが私の立場だからねー。いい子にして待っておくよ。」
少し離れた自動ドアから外に出て電話をする陽をフレアはただ見つめていた…。はずだったのだが。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
どうしたのか、と問いかけてくる制服姿の腰のあたりで揺れる黒髪の女子学生によって陽への視線は遮られた。
「へ?どうも…ない、けど。」
「でも、涙が…。」
フレアはとっさに手で確かめるようにして頬に触れると、手には水分が、涙が付着していた。
「お嬢ちゃん、お父さんとお母さ…」
黒髪の少女の言葉はそこで馬鹿でかい声のせいでフレアには聞こえなかった。聞こえたのは陽の声だった。
「フレアー、ごめんごめんリリコ先輩のやつ電話にでなくってさー。あいつ何やってんだよ。」
「お嬢ちゃん、フレアって言うの?」
即座に確かめる黒髪の少女の顔からはほんの少し怒りが感じられた。
「あ、うん。」
フレアは正直に答えた。黒髪の少女はふーん、と一瞬黒い笑みを見せると、フレアにありがとね。と伝えた。
「お前、私のことリリコ先輩のやつ…って言っただろ!!ブッ飛ばすぞ、あ”ぁ?」
優しい黒髪の少女は一変して激しく艶やかな黒髪を揺らし、陽を蹴り飛ばした。拍手でもしたくなるような美しい蹴りだった。
「ひ、陽!?大丈夫!?」
騒いだ三人にはデパート中にいた、たくさんの人の視線が浴びせられていたのだった。

5:おかゆ:2016/10/16(日) 21:55

───未練師───

「痛え…。」
陽は右頬をさすりながら呟いた。それを逃すまいと黒髪の美しい少女こと、リリコ先輩は言葉を挟む。
「ど、こ、が、痛いの?」
リリコ先輩の手はすでに握り締められて今にも殴り出しそうなほどであった。
「まあ、それはさておきフレアに服を見立ててやって欲しいと思うんだけど…時間ある?」
「フレアちゃんにこんな布っきれ一枚なんて可哀想すぎるでしょうが!お母さんも大事だけれど、先に服を買ってあげるべきだった!本当に馬鹿でアホでどうしようもないわね。まあ、服くらい見立ててあげるわよ。」
一通りの陽達の事情を聞いたリリコ先輩はダラダラと文句を言いながらも頼みを聞いてくれた。
「ありがとうございます、リリコ先輩。」
「じゃあフレアちゃん少し連れ回すけど、ついてくる?」
「一応、な。役立たずだけれども。」
「陽、リリコ先輩のこと私何て呼べばいい?」
「リリコでいいよ、フレアちゃん。漢字にすると、梨々子。梨梨子って書くよ。梨、そんなに好きじゃないんだけどね。」
と陽が一言も発することなく呼び方は決まった。
「じゃあ服もちゃちゃっと選んじゃおうかな。」
とリリコ先輩は歩き出した。フレアの手を握り、楽しそうに。
そしてそれから2時間の時が過ぎた。全くちゃちゃっとは選べていない。
「よしっ!これでいいかな?」
フレアは黒いフリルやリボンが多くついたワンピース、赤色のパーカーを羽織っており、そして右肩からは可愛いイチゴの形をしたポシェットのようなものがかけられていた。髪留めは赤いシンプルな花のものが留められていた。
「これ、リリコ先輩が選んだの?」
「何か文句ある!?本当は私の趣味に合わせて制服風にしたかったけど、私の可愛いパートナーとかぶっちゃうからやめたの。こんな趣味…バラしたりしたらただじゃおかないからね!」
とリリコ先輩は満足気に言い張り、陽を脅した。…陽はひと言も趣味の話をしていない。まあ、こうして見ればなかなか可愛い女の子なのになぜもこんなに暴力的なのだろうか、しかもほぼヤンキーと陽だけに。陽はヤンキーではない…。いたって健全な中学生未練師見習いだ。
「…リリコお姉ちゃん、このデパート内に追っていた奴がいるのです!気をつけてなのです…!ついでにそばにいるお方達も。」
リリコ先輩の後ろから突然ひょこっと7歳ほどの女の子が顔を出した。服装はもちろんのこと制服風。白いブラウスとプリーツスカートがよく似合っている子だ。
「ありがとうね、リリア。」
「リリコとリリアか。名前に二人ともリが多いんだな。」
「リリコとリリア…今まで気づかなかったわ…!嬉しい…っ!」
ふふ、と嬉し気に笑いハッとしたように陽達の方を向き直した。
「…ここのデパート、私たちが最近追っている少し厄介な未練を残している霊がいるの。気をつけて欲しい。じゃあ私たちはこれで。あなた達のおかげで時間もないからね…!バイバイ!」
そう忠告と文句をぐちゃぐちゃにして挙げ句の果てにはバイバイのみでこちらの返答すら待たずに走り去って行った。全く可愛い幼馴染の先輩だ、そう陽は思ったのだった。

6:おかゆ:2016/10/17(月) 14:37

───未練師───

リリコ先輩、リリアの二人と別れてから20分ほどしか経っていない。そんな中、事は起きたのだ。
「陽っ…これは、悪霊の気配なのよ!こんな人が大勢…!リリコは…リリコとリリアは何処へ行って…。しかもこの気配はとても大きい!デパート自体を自分の身体として悪霊化したのね。」
陽とフレアがほんの少しも話をしないうちにデパートに爆発音が響いた。
「…フレア!万が一、リリコ先輩達がもうここから出ていないとしても、俺たちで抑えるぞ!このデパートの悪霊を。」
そんな爆発の中でも未練を残しているものを天界へ導くのが未練師。陽は未練師の見習いだ。抑えることなんて不可能に近いのだ。
「フレアは、私は、陽について行くんだから!やりたいように指示して!全力で最善を尽くすわ。」
フレアのそんな言葉は陽の心を強く打った。手だって震えて、頭の中もぐちゃぐちゃである中でも、フレアの声は陽の心に届いたのだ。
「陽ーーー!フレアーーー!」
「…遠回しに逃げろと言ったつもりでいたのです。言うことを聞いて下さいです!逃げろって、さっさと逃げてしまえと言っているのですよーーー!」
そんな声とともにデパート1階へ4階から飛び降りて落下してくるリリコ先輩とリリア。馬鹿か。
「お前危ねえだろ!!アホかっ!」
「んな…!失礼ね。あとからぶっ飛ばしてやるんだから。Sランクの私たちをなめてもらっちゃ困るわ。」
リリコ先輩とリリアは、くるっと一回転し、着地した。
「フレアお姉ちゃん!そのバカな顔をしたお兄ちゃんをどうにかして下さいです!邪魔なのですよ!」
「リリアーーー!お前覚えとけよおおお!今の言葉絶対忘れてやらねえからな!このチビロリ制服!ロリコンの餌食になれ!」
そんな言い合いもつかの間。デパートのあちらこちらから色とりどりの攻撃が仕掛けられる。
「陽!」
名前を呼ばれて気づく。時間さえあれば何処からでも飛んでくる無数の剣の舞に。数字ではない、無限に視界に広がる剣の雨。フレアがつかさず口から吹く炎で全ての剣をとろとろの鉄の塊に戻す。
「ふ、フレアすげえ。」
「そんなこと言っている場合です!?ロリに助けてもらう男主人公なんて格好悪いだけなのですよ!」
リリアは自らの手の中で作り上げた鋭い魔法で作り出された氷で攻撃を防ぐ。その中にはそのままの軌道で行けば陽に向かうものもあった。
「ロリほど頼りになる存在はいねえな。頼りすぎて申し訳ない。」
「陽炎、あんた邪魔!」
「もう散々だな。」
デパートの悪霊は陽は相手にもならず、放っておいて良いと考えたのか、陽以外の人物に的を絞り始め、陽は邪魔な障害物となった。
「陽、私は大丈夫だけれど、リリコ先輩達が苦戦しているみたいなの。」
1秒も隙を与えないような攻撃の時間の合間にフレアは陽に声をかけた。
「Sランクのリリコ先輩が…?」
「Sランクと言っても相手が相手だから、これはSSSランクの未練師で手こずる人もいる程だと思う…。」
そしてそんなフレアの陽への語りかけも無視して無数の剣の雨が降ってくる。その剣の雨にリリコ先輩は剣の数だけの傷を負っていた。軽い傷がほとんどではあるが、深い傷だって少ないようには見えない状況である。
「そこまでだ!それ以上の狼藉を働くことは許さない!」
剣の雨がやみ、デパートは光に包まれた。リリコ先輩が声の主を呼ぶ。
「アルフレッドさん!」
そこに立っていたのはアルフレッドという名の希望だった。


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