先輩と私と

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1:☆QUARTZ☆:2017/03/11(土) 21:21

恋する思春期のごくごく普通の女子高生、志津子と
変わり者で何を考えているのか分からないが志津子が憧れる先輩、芳賀との
日常をちぎって取って集めたような恋物語です。

※亀更新です。

2:☆QUARTZ☆:2017/03/11(土) 21:37

帰りのチャイムがなって私、志津子は心を踊らせていた。
今日はテストが終わり、部活動再開。文芸部の私は久々に文が書ける事に喜びを感じていた。
踊るように、急ぐように、心を足で表現しながら4階の図書室の隣にある小さい部室へ向かう。
このまま廊下で一人舞踏会を始めてしまいそうな気分である。
部室まで着いて、部室の扉を開くともうすでに一人の部員、唯一の部活仲間がパイプ椅子に腰掛けていた。
「ずいぶん機嫌が良いんだね。」
察しの良い彼は読んでいた本を机に置き、私を見てそう言った。
「久しぶりの部活動ですから。芳賀先輩も部活動再開嬉しいでしょう?」
「まあね。何もない日よかずっと楽しいからね。」
私は先輩が喋っているのを聞きながら、地べたに鞄を置いて先輩の向かいのパイプ椅子に座った。

3:☆QUARTZ☆:2017/03/11(土) 21:56

先輩と私のパイプ椅子を挟む机は会議用の長机一本だから向かい合わせになるといっても多少ずれて座ったりはするのだが、
顔を上げると先輩の顔が目に入る。
その度に私は何故かどきどきと心が熱くなって、顔もつられて熱くなって、私はろくに冷静にものを考えられなくなる。そしてそのせいでろくな文が書けない。
部活動再開は嬉しかったがこのどきどきだけは厄介だった。
それを考えるとまた熱くなって夏だけのせいではない汗が出てしまった。
そのまま先輩の近くに居るのが辛いかったから図書室の廃本やらを詰めた段ボールが上に積まれた家庭用の(それでも私の背よりは高い。)本棚の方へ行って本を探すフリをする。

4:☆QUARTZ☆:2017/03/12(日) 00:23

廃本は大概読んだことのある近代文学ばかりであったが、たまに最近の作家の本があったり、古い児童書があったりしたので本を探すのは好きだった。
だが、今はそれどころでなかった。だから探すような仕草をするだけで探しはせず、気持ちを落ち着けようとするだけ。

適当に、棚にある本を背表紙も見ずに取ってみた。
強い力でないと本棚から引き抜けなかったその本はかの有名な大正の作家の全集で何度も読んだことがある。
私はまた本棚が揺れそうなほど強い力で本を元の場所に戻した。
その時だった。
本棚が傾いて、倒れてくる。それはスローモーションで目に映った。

5:☆QUARTZ☆:2017/03/12(日) 00:35

私がいつの間にか瞑っていた目を開けると先輩がいた。
私は床に仰向けに倒れていて、その上に重なるように先輩がうつ伏せでいる。
その状況を把握した私は顔がまた熱くなった。
「先輩が助けてくれたんですか?」
「ああ、そうだよ。」
と先輩は立ち上がって私に手を伸ばした。
先輩は本を読んでいたはずなのに、わざわざ私のことを助けてくれたのだろうか。
ますます顔が熱い。
「本棚、片付けなくちゃね。」
先輩の声に私ははっと現実に引き戻される。
そしてその日は本棚を片付けるのに時間がかかって文章を書く時間が無くなってしまった。

6:☆QUARTZ☆:2017/03/12(日) 00:45

「先輩、なんでさっきは助けてくれたんですか?下手したら先輩が怪我したかも知れないじゃないですか。」
帰り道で転がっていた小石を蹴りながら訊いた。
「なんでって......別に怪我とかはどうでもよかったし、何より君には怪我して欲しく無かったんだよ。君は女性だしさ。」
私はどきどきした。先輩はきっと無意識だ。でも怪我して欲しく無い、だなんて言葉が私にはとても甘く聞こえた。

7:☆QUARTZ☆:2017/03/12(日) 00:47

"だなんて言葉が"を"という言葉が"に訂正します脳内で補完してください。

8:☆QUARTZ☆:2017/03/12(日) 03:16

夏休みに入ってからのある日、私は先輩と夏祭りに来ていた。
私は祖母のお下がりの紺の浴衣を来て御粧しをして着ていたが先輩は何度見たか知れない、いつもの長袖のシャツを着ていて、なんだか私だけが張り切っているようだった。
それで、待ち合わせ場所に着いた時にも先輩は微笑をたたえながら、いつも通りの無意識で綺麗だとかなんとか褒めて、私はまたどきどきした思いで先輩の隣を歩いている。

9:☆QUARTZ☆:2017/03/13(月) 13:57

「夏祭りってこんなに人が居るんだね。予想外だった。」
夏祭りが行われる寺に着くと先輩は辺りを見回してそう言った。
私は好機は今しか無いと思って、寺を歩き始めた先輩の左手を握る。
優しい先輩は白くて私より大きな手で強く握り返してくれると思っていたが、先輩は私が力を入れなければ離れて仕舞いそうなほど弱く握り返した。
そして先輩は同時に立ち止まって少し驚いて私の方を見ていた。
「何故、いきなり手なんて繋いだんだ。」
先輩は少しの間の後、そう言った。
「こうしなくちゃはぐれて仕舞います。」
私はそう返して、更に手に力を込めた。勿論、先輩が痛くない程度に。
先輩はそれを聞いて何故か少し悲しそうな顔で前へ視線を戻した。


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