忘れないで。   

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1:明蘭◆U.PIL.eLKb48.:2017/04/29(土) 16:01


   「ねえ、忘れないで。

   貴方は此処に居るんだって事。
   貴方は一人じゃないんだって事___...」

   私が貴方に言った言葉。

   貴方は覚えていますか___?

2:明蘭◆U.PIL.eLKb48.:2017/04/29(土) 16:29


   1.シンゴニューム



   眩しい、皆が。

   ___この全てが...



   *     *     *



   学校の門を潜った。
   もう、此れで此の学校に来ることはない。
   
   此の学校は眩しすぎたんだ___

   一年前、私は此の学校に入学した。
   
   あの時は、きっと一年後、自分がこうなっているとは考えもしていないだろう___

   「許斐さん、同じ班だよね?
   私、紅麗儛凪。
   よろしくね。」

   折角同じ班になった紅麗...えっと...儛凪って人が話し掛けてくれたのに、何も言えなかった。

   分かってる___分かってるんだよ___

   言いたい事、喉まで出てきてるのに、明るい此の空気に触れることを嫌がる。

   「大丈夫?
   私の事は儛凪で良いよ。」

   ___ありがとう、儛凪。

   心の中でそう何回もシュミレーションをして、準備万端なのに...
   肝心な所で出てこない。

   「あ...ありが...とう...」
   やっと言えた言葉は、殆ど聞こえない程小さかった。
   
   儛凪は笑って、私に話しかけてくれた。

   私は殆ど返事をすることが出来なかったが。

   「許斐さんは、シンドニュームって知ってる?」

   ___儛凪が言った『しんどにゅーむ』。
   私は静かに首を横に振った。

   「許斐さんは、シンドニュームみたい。」

   『しんどにゅーむ』を私は知らなかったから誉め言葉なのか分からなかった。
   儛凪はにこりとも笑わず、唯じっと私の向こうの空を見据えていた___

3:明蘭◆U.PIL.eLKb48.:2017/04/29(土) 16:51


   >>2の文中に間違いがあった為、訂正のお知らせ。
   『シンドニューム、しんどにゅーむ』とありました。
   ですが正しくは、『シンゴニューム、しんごにゅーむ』です。

4:明蘭◆U.PIL.eLKb48.:2017/04/29(土) 17:19


   「儛...凪...どうしたの?」

   やっと言えた言葉は儛凪に吸い込まれるように消えていった。
   ___儛凪が此の言葉を聞いたかは分からない...

   今思えば、此の時に気付くべきだったと思う。
   しかし、其れは無謀な話でしかなかった。

   「ご、ごめん。
   ちょっと考え事してたみたい。
   ...綾羽って呼んでいいかな?」

   あの時の私は、儛凪がさり気無く話題を変えた事に気付かなかった___...

   「う、うん。
   あの...『しんごにゅーむ』って...」

   聞こうとした私の声を遮って儛凪はこう言った。
   「ごめん、さっきの言葉、忘れてくれていいよ。」

   儛凪はそう言ったけど、その瞳は『忘れないで』と言っているかのようだった。



   *     *     *



   儛凪に出会って一週間後、私達はすっかり仲良くなった。
   普通に返事も出来るようになった。

   あと...

   「綾羽、おはよう。」

   鳳城耀と言う新しい友達も出来た。
   今回は...学校生活が上手くいきそうな気がした。

   耀と儛凪は中学校が同じだったらしい。
   だからなのか、仲が良い。

   羨ましいと思った。

   違う。
   こんなに綺麗な感情じゃなかった。

   モヤモヤとした煙に巻かれ、『嫉妬』と言う黒い渦に自分自身が巻き込まれてしまった。
   自分を見失ってしまった___

   「綾羽?
   どうしたの?」

   「ひ、耀...大丈夫だよ。」
   元気なのを装って、黒い渦を隠す。

   分からないんだよ___
   仕方ないじゃん___

   「ま...儛凪は?」
   咄嗟に話題を変えた。

   「儛凪は今日休みだよ。」

   驚いた。
   儛凪はいつも元気で、休むなんて想像がつかなかった。
   儛凪は年々皆勤賞の賞状が増えていっているくらいだろうと勝手に想像していたのだから...

   「体調不良?」

   耀は少し考えてから言った。
   「体調不良なのかな?
   検査だよ、検査。」

   「え...なんの?」

   口が勝手に動いて話していた。
   
   「...綾羽、聞いてない?
   あの事。」

   あの事?

   何も分からなかった。
   そんな話、聞いたこともなかった。

   「知らない。」

   私はそう答えた。
   
   「じゃあ、私が勝手に話すことはできない。
   ごめん。」

   耀は頭を下げたが、私は何かが沸々と湧いて出てくる気を感じた。
   
   友達なのに...教えてくれないの?
   どういうことなの?

   聞きたかったけど、聞けなかった___

5:明蘭◆U.PIL.eLKb48.:2017/04/29(土) 17:30


   今更でごめんなさい。
   登場人物紹介をしておきます。

   『許斐 綾羽(このみあやは)』
   人見知りをする。
   高校生。

   『紅麗 儛凪(くれいまな)』
   誰とでもすぐに仲良くなれる。
   高校生。

   『鳳城 耀(ほうじょうひかり)』
   活発で運動神経抜群。
   高校生。

   雑ですがこんな感じです。
   他にも色んな重要人物を出していくつもりです。

6:明蘭◆U.PIL.eLKb48.:2017/04/29(土) 17:58


   翌日、其の日も儛凪は学校に来ていなかった。
   
   「耀...儛凪はどういう状態なの?
   教えて...」

   耀は暫く黙っていた。
   其の儘耀は何も話さず、私の前から姿を消した。

   気になって仕方がなかった。



   *     *     *



   『しんごにゅーむ』と、スマホの検索アプリにそう打ち込んだのは儛凪が休んでから三日経った頃だ。
   
   何があったのか分からない。
   でも、『何か』の手掛かりになるのは、『しんごにゅーむ』だと私の頼りない第六感が疼く。

   『シンゴニューム』、其れは植物だった。

   日陰でも育ち、過酷な環境下でも育つ...私に全然似てなかった。
   儛凪は私の何処を見て、『シンゴニューム』だと思ったのだろう...
   
   儛凪が学校に来なくなって、一週間が過ぎた。
   
   儛凪とそれほど親しくなかったクラスメイトさえも、ザワザワしている。
   だが、先生や耀が儛凪の事情を話す気配は全くなかった。

   もう、どうだっていいや___

   半ば諦めていた。



   *     *     *



   そして、週末を挟んだ月曜日___...



   *     *     *



   ___教室に儛凪の席はなかった...   


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