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1:バッキンガム馬琴:2017/07/16(日) 14:08

   
 前座

 昔、どこかにセザンヌの絵が好きな男がいて、大変な愛妻家だった。
 その妻という人は、一般的にさほど美人と言えるような女ではなかったそうであるが、
どこかしらスザンヌの描くような女に似ていたそうである。
 オスカー・ワイルドは、「自然は芸術を模倣する」と、プラトーンと逆のことを言ったが、
まさにセザンヌの発見した美を、男はその妻に見出して、ついに結婚しているのだから、
この言葉も間違っていないようである。

2:バッキンガム馬琴:2017/07/16(日) 14:26


  沼

 僕の国は廃墟になった。
 この爆弾は、戦争用に作られた、特別な爆弾である。
 
 どういう原理か知らないが、物はいくらでも壊すが、人は一切傷つけない爆弾なのである。

 そんなわけだから、相手国は遠慮なくポンポン爆弾を落として来て、
 僕の国は廃墟。戦争に負けた。
 誰ひとり傷つくこともなく。

 負けてみるとあっけない。
 あんな爆弾を作るくらいだから、相手国は紳士的に出て来た。
 別段、植民地になれ、みたいなことは言ってこなかった。
 ただ、これを機に反省して、良い国になれ、とだけ言って来た。
 僕の国も、今度の戦争で、力の差を見せつけられたので、大人しくなった。
 親と子みたいなものだ。

 そんなわけで、僕は兵役から解放されて、
 高校生活を再開することになった。

 校舎は無くなっていた。
「青空教室」というと、聞こえはいいが、つまりは何もないのである。
 茶色土に、白線が引いてあるだけ。その内側が教室である。
 雨の日は休み。
 ある晴れた日に、早く行ってみると、教室の真ん中に、巨大な
 蜘蛛みたいな、銀色のロボットがいて、キュイーンという音を立てながら暴れていた。
 僕は一瞬恐れたが、どうやら白線よりも外側に出ることはできないらしい。

 白線さえなければ、すぐにもこちらに襲いかかってくる風情。

3:バッキンガム馬琴:2017/07/16(日) 14:36

 先生が来て、
「あれまあ」
 
 あれまあ、で済む話なのか、と僕は思ったて少し安心した。
 と思っていたら、結構まずいらしい。
「ああ!地下の工場で密かに生産していた、殺戮ロボットが、逃げ出したんだ!」
 と先生は言った。
 
「幸い、プログラムの関係上、白線を超えることができないようだけど、
もし、外にあんなのがいたら、本当に危険だ。しかし、どうやって、あそこに殺戮ロボットが
入ることができたのだろう?」
 確かに、それは奇妙だった。白線から出ることができないのなら、どうして、殺戮ロボットが、
白線の内側にいるのか。とにかくその日は休校で、次の日、全校生徒に、白線を引く道具一式が供給された。
「他にも、何機か、地下工場から、脱走したという連絡が
入って来ている。いざという時はこれで身を守りなさい」
ということだ。


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