夢のパルプ

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1:匿名:2017/07/20(木) 11:35

 人間、夢というものを毎晩見ますが、残念ながら起きたらすぐ忘れてしまう、というのが、
ほとんどの場合でごぜえやす。
 中には、覚えている夢もありますが、それも結局は夢の一部にすぎません。
 しかし、もし、夢の全てを覚えることができたとしたらどうなるでしょう?
 現実よりも、夢の時間の方が多い、ということになりはしまいか?
 すると、私たちが普段、目が覚めて夢を忘れるように、その人は、
夢の世界に行くたびに、現実の方を忘れてしまうことになるでしょうな。
 これじゃ、夢が現実、現実が夢、何がなんだかわかりません。
 しかし、こんな、何がなんだかわからない男が、現実にいるんだから、驚きですなア。
 その男、名前はケントと言いまして、その男の話を、私はそのいとこから聞きました。それを
今からお話しましょう。
 どうぞ、ごゆっくり、楽にして。なアに、たいした話じゃございません。

2:匿名:2017/07/20(木) 11:43

 その男、生まれたのは北海道の寒いところ。雪の降る晩に生まれた彼は、
まあ寒さに強い。
 外ではしゃげるくらいになると、裸ん坊になって、雪の中を、飼い犬と一緒に駆け回る。
 おませな近所の女の子、梅子が、顔を手で隠して、
「まあケントさん。それしまってくださらない?」
 いや、まあ、まだ梅子も子供ですから、大人の真似だけで、本気で恥ずかしがっているわけではない。
「ええ、だって、服なんか、暑苦しくて、着てられねえよ!」
とケントはあっかんべえ。
「まあケントさん!」
 梅子は雪を丸めて、ケントに投げる。頭にベシャっ。
「やったな!」
「きゃあっ!」
「あはは」
「うふふ」
と、まあとっても仲が良いお二人でござんす。羨ましい限りですなア。

3:匿名:2017/07/20(木) 11:53

 しかし、二人が中学校に行く頃になると、お互い目を合わせるのも恥ずかしくなり、
ケントはサッカー部で日々鍛錬。梅子はピアノのお稽古と塾でお勉強、という具合に、
二人の距離はいつのまにか遠くなってしまったのでごぜえやす。 
 二人はお互いのことを意識している。しかし素直になれない。
 朝、登校中にばったりであっても、ぎこちない歩き方と、妙な距離感。
 ケントは、そんな梅子を見て、梅子はそんなケントを見て、
ひょっとしたら自分は嫌われているんじゃないかと思い、余計に絶望する。
 さて、梅子はケントじゃない、別の男と付き合うことになった。梅子にとって、その男は、ケントほど
好きではなかったのだけれども、ケントはどうやら、自分のことが好きでないようだから、
ちょっとこの男と遊んでみよう、というつもりで。
 それを影で見ていたケント、元気がなくなり、食べる量も減り、サッカーも途端に下手になり、
みじめみじめのスパイラル。
 ついに部屋から出てこなくなった。

4:匿名:2017/07/20(木) 20:58

 ケントは一日中ぼーっとしているだけで、何をするわけでもない。
 ただ、部屋に閉じこもってから、ケントは毎晩、なぜかいい夢ばかり見るようになった。
 とても楽しい楽しい夢で、そこでは、梅子と結婚して、毎日毎日遊んで暮らしている、という具合で。
「これじゃあ、現実を捨てて、夢に逃げた方がいいぞ」
ということで、ケントはいつまでも眠るようになった。
 親が心配して入ってきて、いくらケントを揺さぶっても、目を覚まさない。
こりゃ、大変だ、とご両親は病院に連れていく。
 医者が言うには、
「身体に異常は何もございません。精神的なものでしょう。こうなっては、ケントくん本人が意思で目をさます気になるのを、
待つしかありません」

5:匿名:2017/07/20(木) 21:05

 しかし、考えようによっては、ケントは最新型の人間である、
と言うこともできるのではありますまいか。
 人間の歴史を考えて見ると、
結局人間の努力とは、夢、ただそれだけのためにあるものではないですかな。
 ディズニーランドだって、そうでしょう。最近のヴァーチャルリアリティだって、
結局夢に引きこもりたいだけではないですか。マトリックスという映画がありますが、
このままいくと、人間はマトリックスを発明しそうな勢いじゃありませんか。
 それでは、ケントはこのまま永遠に目をさます必要がない、と言う結論になるかと
思えば、そうではない。
 梅子と付き合っていた男が、本当に猿みたいな男で、性欲のことしか頭になかった。
 嫌気がさした梅子は、その男を振った。そして、ケントに自分の思いを打ち明けよう、という時に、
ケントの病を知った、というわけで。


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