冒険家ーーなどでは、ない。
私はバックパッカーのような格好をしているけれど、
もし誰かが私の心を除いたとしたら、彼は弱虫を見るだろう。
ええ、そうです。家庭から、逃げてきたのだ。
なんて馬鹿な。逃げても社会は追ってくる。家内が、失踪届けを出す。
警察が、私を見つける。私は連れ戻される。そして、余計家庭が嫌になる。
わかってる。そんなことは。私は、それでも家庭から逃げずにはいられなかった。
はっきり言って、私には生きて行く自信が微塵もないのである。
森を抜けると城の廃墟があった。
川端康成の、トンネルを抜けると雪国だった、とでもいうような心地で、私は
この城跡に何かの予感を感じ取った。
予感。
無論、あてにならぬ。気のせいかもしれない。とにかく、私はこの城跡の中へ入ったのである。
蜘蛛の巣が顔にかかって、ピンチの猫みたいに、私は自分の顔をめくらめっぽうに引っ掻いた。
ああ、風呂に入りたい。
誰もいないはずの城なのに、暖かい湯の匂いがする。
その方へ行って見ると、風呂場で、電気もついており、しかも暖かい湯がたぷたぷ沸いていた。
私は感動して、「わにわにのおふろ」でもあるかのように、勢いよく服を脱いで、浴槽に飛び込み、
歌った。
さっぱりして上がると、お腹がギュウッと鳴った。